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 先日、European Commissionから“Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on Markets in Crypto-Assets(MiCA)”が出されましたが1、この頁9~13が規制の概要を説明した部分ですので、当該部分を仮訳しました。
 自分が今後、研究検討を行うために仮訳したものにすぎませんので、詳細は原文をお当たり下さい。なお、原文では太字化はされていませんが、判りやすさの観点から一部太字化しています。

(以下仮訳)
プロポーザルの具体的な規定の詳細な説明
このプロポーザルは、EUの既存の金融サービス法でカバーされていない暗号資産(Crypto-Assets)の法的確実性を提供し、EUレベルで暗号資産サービス提供者と発行者の統一的な規則を確立しようとする。

この規制案は、EUの既存の金融サービス法ではカバーされていない暗号資産に適用される既存の国家的枠組みに取って代わるものであり、また、電子マネーを含めて「ステーブルコイン」のための具体的な規則を制定する。

提案されるレギュレーションは7つの部に分けられる。

第I部は、対象、対象範囲、定義を定める。
第1条は、この規則が暗号資産サービス提供者と発行者に適用され、暗号資産サービス提供者の発行、運用、組織、ガバナンスに関連して透明性と開示に関する統一的な要件を定めるとともに、消費者保護ルールや市場の濫用を防止する措置を定めていると規定している。

第2条は、規制の範囲をEUの金融サービス法の下で金融商品、預金または仕組み預金に該当しない暗号資産に限定している。

第3条は、「暗号資産」、「暗号資産の発行者」、「資産参照トークン」(「ステーブルコイン」と呼ばれることが多い)、「重要な資産参照トークン」、「電子マネートークン」(「ステーブルコイン」と呼ばれることが多い)、「重要な電子マネートークン」、「暗号資産サービス提供者」、「ユーティリティートークン」その他を含む、本規則の目的のために使用される用語および定義を規定している。第3条はまた、さまざまな暗号資産サービスを定義している。
重要なこととして、委員会は、定義の技術的要素を特定し、当該定義を市場や技術の進捗に適応させるため、委任を受けた法律を採択することがある。

第II部では、暗号資産の一般への提供とマーケティングを規定している。
第4条は、発行者は、第5条の要件(法人の形態で確立される義務など)に従って、暗号資産を連合内で一般に提供する権限を有するか、暗号資産の取引プラットフォームでの取引の許可を求めなければならないことを示す。発行者は、第6条に基づきホワイトペーパーを作成し、所管官庁に通知するものとする。
第4条には、暗号資産の小額募集(12ヶ月以内に100万ユーロ未満)や目論見書規則(規則EU 2017/1129)で定義されている適格投資家を対象とした募集など、いくつかの免除規定も含まれている。

プロポーザルの第6条及び付属書I条は、暗号資産の発行に伴うホワイトペーパーに関する情報要件を規定しているが、第7条は暗号資産の発行者が作成するマーケティング資料に関連する一定の要件を課している。
ホワイトペーパーは、国内の権限のある当局による事前承認の手続き(第8条)の対象とはならない。ホワイトペーパーは当該暗号資産が金融商品指令(指令2014/65/EU)に基づく金融商品なのか、または指令2009/110/EUに基づく電子マネーなのかを査定する責任を負う国の所轄当局に通知される。
ホワイトペーパーの通知後、所管官庁は、提供を停止または禁止する権限、追加情報をホワイトペーパーに含めることを要求する権限、または発行者が本規則を遵守していないという事実を公表する権限を有する(第8条)。

第II部には、また、当初のホワイトペーパーの修正(第10条)、暗号資産のオファリングのキャンセル(第11条)、およびホワイトペーパーに付随する発行者責任(第11条)に関する規定も含まれる。

第III部の第1章では、資産参照トークン(「安定コイン」と呼ばれることが多い)の発行者に対する要件を規定している。
第13条は、その発行者が連合で承認されておらず、その所管当局によって承認されたホワイトペーパーを発行していない場合には、発行者は連合内では資産参照トークンを一般に提供することはできず、または、暗号資産の取引プラットフォームで取引を許可されていないことを規定している。
第13条には、小規模な資産参照トークン、および適格投資家が販売、配布、独占的に保有する資産参照トークンの免除も含まれている。
連合内で活動する権限を付与されるために、資産参照トークンの発行者は、EU内に設立された法人の形態で設立され、誠実、公正かつ専門的に行動しなければならない(第14条)。
また、資本要件(第16条)、ガバナンス要件(第17条)、利益相反に関する規則(第18条)、資産参照トークンを裏付けとする資産の安定化メカニズムおよび資産準備金に関する規則(第19条)および準備金資産の保管要件(第20条)など、その他の要件も順守するものとする。
第21条では、発行体は、準備預金資産を、安全でリスクの低い資産(電子マネー指令で記述されている)で、かつ、自己資本規制規則(規制EU 575/2013)に基づく高品質の流動資産の定義を満たす資産にのみ投資することを規定している。

第 22 条はまた、資産参照トークンの発行者に対して、発行者に対する直接的な請求権や資産積立金に対する請求権を含む、資産参照トークンに付随する権利を開示することを義務づけている。資産参照トークンの発行者が、発行者又はその予備資産に対する直接的な償還権又は請求権を提供しない場合、第 22 条は、資産参照トークンの保有者に最低限の権利を提供するものである。

また、第23条は、資産参照トークンの発行者および暗号資産サービス提供者が、資産参照トークンの保有者に何らかの利害関係を付与することを禁止している。

規則案の第25条及び附属書2は、資産参照トークン発行体がそのホワイトペーパーに含めることを要求される追加開示を規定している(第25条)。資産参照トークンの発行者も、また、期中の情報義務の対象となる(第26条)。
発行者は、苦情処理手続きを定め(第27条)、秩序ある廃止のための手続きを整備すること(第28条)を求められている。

第Ⅲ部第1章(第15条)では、また、資産参照トークンと重要な資産参照トークンを区別している。
委員会は、資産参照トークンの発行者が重大であるとみなされる状況とその上限を特定するために、委任法を採用する権限が与えられる。
このような重要な資産参照トークンの発行者は、資本要件(第16条)、相互運用性(第24条)及び流動性管理方針(第19条)の観点から、追加的な要件の対象となる。
電子マネー指令における電子マネー発行者の地位と資産参照トークンの重要な発行者の地位との間で規制上の裁定が行われることを避けるため、本提案では、資産参照トークンの発行者を定義する条件・基準を満たす電子マネー発行者は、本規則に定める一定の要件の対象となることを示している(第 15 条 6 項)。

第Ⅲ部第2章では、資産参照トークン発行者の認可手続きと、各国の管轄当局によるホワイトペーパーの承認について説明する(第29条)。
各国の所管当局は、資産参照トークン発行者の監督を担当し(第31条)、許可を取り消すことができる(第32条)。
しかしながら、重要な資産参照トークンの発行者の監督は、EBA (第33条)に委ねられている。
重要性の基準(第15条)を満たす電子マネーの発行者もまた、EBAの監督(第33条)の対象となる。

第Ⅳ部第1章では、電子マネートークン(「ステーブルコイン」と呼ばれることが多い)の発行者に対する要件を示している。
第37条は、発行者が指令2009/110/ECの第2条(1)の意味における信用機関または「電子マネー機関」として認可されていない限り、電子マネートークンは連合内で一般に提供されてはならず、暗号資産取引プラットフォームで取引が許可されてはならないと規定している。
また、37条は、「電子マネートークン」を電子マネーとみなすと述べる。
第38条には、電子マネートークンの保有者が発行者に対してどのような請求権を与えられるかが記載されている。電子マネー・トークンは額面で、資金の受領時に発行され、電子マネー・トークンの保有者の要求があれば、発行者はいつでも額面で償還しなければならない。

第40条は、電子マネートークンの発行に付随するホワイトペーパーの要件を規定している。例えば、発行者の主要な特徴の説明、発行者のプロジェクトの詳細な説明、電子マネートークンの一般への提供に関するものか、取引プラットフォームへのアクセスを認めるものかの表示、さらには電子マネー発行者、電子マネートークン、潜在的なプロジェクトの実施に関するリスクに関する情報などである。

第IV部第2章では、電子マネートークン発行者の認可と監督の手続きについて述べる。
電子マネーの発行者の監督は、国内の管轄当局が行う(第43条)が、第15条に基づいて重要と見なされた場合、当該電子マネートークンの発行者の監督は、EBAに委ねられる。

第44条では、電子マネートークンの重要性判定後30日以内に設置しなければならないカレッジの構成を規定している。カレッジは、重要な電子マネートークンの発行者が認可されている加盟国の管轄当局、EBA、ESMA、最も関連性の高い決済機関、取引プラットフォーム及び重要な電子マネートークンに関連してサービスを提供するカストディアンの監督を担当する管轄当局、重要な電子マネートークンがユーロを参照している場合はECB、重要な電子マネートークンがユーロ以外のEU通貨を参照している場合は各国の中央銀行、などから構成される。カレッジに属さない関係当局は、その監督義務を遂行するために関連するすべての情報をカレッジに要求することができる。

第44条はまた、ESMA及び欧州中央銀行制度と協力しつつ、EBAが、最も適切な決済機関、取引プラットフォーム及びカストディアン、並びに同カレッジの実務上の取決めの詳細を決定するための規制基準草案を作成しなければならないことを規定している。
これらの規制基準は、施行から12ヶ月後に欧州委員会に提出されなければならない。

第45条では、拘束力のない意見書を発行する権限がカレッジに与えられている。
これらの意見は、発行者がより多くの自己資金を保有すること、ホワイトペーパーの修正、認可の取り消しの想定、第三国の監督当局との情報交換の合意の想定、などに関連している。

重要な電子マネートークンの発行者の権限ある当局またはEBAは、カレッジの意見を適切に検討するものとする。カレッジの意見、提案を含む、に同意しない場合、最終決定には、意見または勧告から重大な逸脱があったことについての説明を含めるものとする。

第V部は、暗号資産サービス提供者の認可と運用条件に関する規定を規定している。
第IV部第1章(訳注:第V部の間違いと思われる)では、プルデンシャルセーフガード(第47条、付属書III)、組織要件(第48条)、顧客資金の保護に関する規則(第51条)、顧客に提供される情報に関する規則(第52条)、苦情処理手順の確立義務(第53条)、利益相反に関する規則(第54条)など、すべての暗号資産サービス提供者に要件を課している。

第V部第2章は、特定のサービスに対する要件を規定している。
すなわち、暗号資産の保管(第56条)、暗号資産の取引プラットフォーム(第57条)、通貨その他の暗号資産のための暗号資産の交換(第58条)、注文の執行(第59条)、暗号資産の発行(第60条)、受注・発注(第61条)、助言(第62条)。
資産参照トークンが支払い手段として使用できるため、資産参照トークンの支払い取引も、支払いサービス指令II (指令2015/2366)(第63条)の規定を参照して規制される。

第V部第3章では、暗号資産サービス提供者の認可と監督に関する規定を定義する。
これらの要件は、申請書の要求される内容(第64条)、EUパスポートを含む認可の範囲(第65条)、および権限のある当局に認可を撤回する権利(第67条)を強調している。
また、このタイトルには、すべての暗号資産サービス提供者(第66 条)の登録をESMA に義務付けることも含まれており、これには、所轄官庁から通知されたホワイトぺーパーに関する情報も含まれることになる。
暗号資産サービスの国境を越えた提供のために、第68条は、暗号資産の国境を越えた活動に関する詳細と情報が、母国の権限ある当局からホスト加盟国の権限ある当局に伝達されるべき方法を定めている。

第Ⅵ部は、暗号資産を含む市場の濫用を防止するための禁止と要件を定めている。
第69条は、市場乱用規則の範囲を定義している。第70条は、内部情報の概念を定義し、暗号資産が暗号資産の取引プラットフォームで取引することを許可されている発行者が内部情報を開示することを示している。
その他の内部者取引禁止規定(第71条)、内部情報の不正開示(第72条)、市場操作(第73条)

第VII部では、各国の所轄官庁、ESMA、EBAの権限について詳しく述べている。
第VII部第1章は、加盟国に対し、この規則の適用上、1つまたは複数の所轄官庁(1つの所轄官庁として指定された1つの所轄官庁を含む)を指定する義務を課している(第74条)。
第1章はまた、国内の権限ある当局の権限(第75条)、権限ある当局間の協力(第76条)、ESMAおよびEBAとの協力(第77条)、ホスト加盟国の国内の権限ある当局がとることのできる予防措置(第82条)に関する詳細な規定を定めている。

第VII部第2章では、所管官庁が課すことのできる行政上の措置と制裁(第85条)、決定の公表(第88条)、ESMAとEBAへの罰則の報告(第89条)について詳述する。

第VII部第3章は、重要な資産参照トークンの発行者の監督、および重要な電子マネートークンの発行者の監督に関連するEBAの権限および能力に関する詳細な規定を定めている。
これには、法的特権(第91条)、情報要請(第92条)、一般調査(第93条)、立入検査(第94条)、情報交換(第95条)、職業上の秘密(第99条)、およびEBAによる監督措置(第100条)が含まれる。
行政制裁その他の措置、特に罰金については、第101条に詳述されており、その結果、定期的な違約金の支払い(第102条)、罰金の開示、性質、執行(第103条)、それに対応する監督措置を講じ、罰金を科すための手続規則(第104条)が規定されている。
第105条及び第106条は、それぞれ、関係者の聴聞に関する要件及びEBAの決定に対する司法裁判所の無制限の管轄権を規定している。
第107条に従い、EBAは、本規則に基づき採択された委任法に基づき、重要な資産参照トークンおよび重要な電子マネートークンの発行者に手数料を請求することができるべきである。

第VIII部では、委員会の委任された行為を採択する目的での委任の行使が扱われている。
規則の提案には、規則(第109条)に定める特定の詳細、要件及び取決めを明記した委任された行為を委員会が採択する権限が含まれる。

第IX部には、規制の影響を評価する報告書を作成する義務(第110条)を含め、経過規定および最終規定が含まれる。
経過措置には、資産参照トークンと電子マネートークンを除き、本規則の施行前に発行された暗号資産の経過措置条項が含まれます。
第114条は、本規則がその効力発生の18ヶ月後に適用されることを示している。ただし、本規則の効力発生日に適用される電子マネートークンに関する規定は除く。

以 上


9月9日に開催した「フィンテックエンジニア養成勉強会#10」の動画です。

以下、セミナーで使用した「DEFIと日本法」
の資料となります。

DeFi Japanese_law_200909 from So Saito

 当所は、Decentralized Finance(DeFi、分散型金融)について研究を行っており、DeFiのレンディングスキームであるCompoundについてのBlog[1]、またMaker DAOを含むステーブルコイン規制のBlog[2]などを記載し、DeFiのセミナー[3]などを行っています。
 本稿では、DeFiのうち暗号資産デリバティブ取引と暗号資産信用取引の仕組みと法規制を検討します。

目次
Ⅰ     DeFiデリバティブ取引/信用取引の仕組み
 1 dYdX
 2 Synthetix
Ⅱ     結論のまとめ
 1 暗号資産デリバディブ取引
 2 暗号資産信用取引
Ⅲ     中央集権型の暗号資産デリバティブ取引への金商法や資金決済法の適用関係
 1 暗号資産の店頭デリバティブ取引が金商法改正により規制対象となった
 2 暗号資産デリバティブ取引と市場規制
 3 暗号資産デリバティブ取引とPTS
 4 金融商品取引業者と担保の保管規制
 5 暗号資産カストディ業務に関する規制
 6 海外のデリバティブ取引所
Ⅳ 中央集権型の暗号資産信用取引への資金決済法の適用関係
 1 暗号資産信用取引に関する法規制
 2 暗号資産交換業者の担保の保管規制
 3 海外の取引所による信用取引
Ⅴ DeFiデリバティブ取引と日本法
 1 DeFiでの暗号資産デリバティブ取引所の運営
 2 dYdXにおけるオフチェーンでのマッチング業務
 3 DeFiデリバティブ取引プラットフォームを利用する一般ユーザーについての法規制
 4 DeFiデリバティブ取引のブロックチェーンでのマージン(担保)のロック
Ⅵ DeFi信用取引と日本法
 1 DeFiでの暗号資産信用取引所の運営
 2 dYdXにおけるオフチェーンでのマッチング業務
 3 DeFi信用取引プラットフォームを利用する一般ユーザーについての法規制
 4 DeFi信用取引のブロックチェーンでのマージン(担保)のロック

I DeFiデリバティブ取引/信用取引の仕組み

1 dYdX

 DeFiのプラットフォームであるdYdXでは、Ethereumブロックチェーンを用いてスマートコントラクトで実行される複数のプロトコルを提供している。dYdXでは、ETH-DAI、ETH-USDC、DAI-USDCの現物取引、信用取引、貸出、借入及びBTC-USD、ETH-USD、LINK-USDのパーペチュアル・スワップ取引をすることができる。

 dYdXのユーザーは、トークンをブロックチェーン上のスマートコントラクトにロックし、リレイヤーであるDEX (Decentralized Exchange:分散型取引所)にてトークンの交換等を実現する。dYdXでは0xプロトコルが使用され、取引注文を管理するオーダーブックをリレイヤーがオフチェーンで管理し、決済をオンチェーンで行うというハイブリッドアプローチが利用されることにより、ユーザーの手数料を抑え、処理スピードの向上を図っている。

dYdXにおける取引の具体的な仕組みは以下の通り

① リレイヤーがオファーを希望するユーザー(メイカー)に対して取引手数料額と取引手数料を受け取るためのアドレスを提示。なお、リレイヤーの提示する取引手数料額はリレイヤーが自由に設定でき、リレイヤー間での競争を促進し、取引手数料額の低価格化が図られている。
② ユーザー(メイカー)は提示されたアドレスに取引手数料をセットし、秘密鍵で署名した購入オファーや売却オファー、ローンオファーをリレイヤーに送信。
③ リレイヤーはオファーを受け取り、それが有効であること、必要な取引手数料が提供されていることを確認し、有効なオファーをオフチェーンで管理されるオーダーブックに書き込む。
④ 他のユーザー(テイカ―)は、オーダーブック上でテイクを希望するオファーがある場合、秘密鍵で署名をしてテイク、ブロックチェーン上での決済を行う。

 dYdXでの信用取引では、ETH-DAI、ETH-USDC、DAI-USDCの各ペアの取扱いがあり、現在、ロングポジションの場合はレバレッジ2~5倍、ショートポジションの場合は1~4倍まで設定可能である。トークンの貸与を受けたユーザーがトークンの決済を行った場合のほか、貸し手がクローズを要求した場合や、ポジションの一定の割合(担保率115%)を担保が下回りポジションが自動的に清算されることで、ポジションが解消される。

 dYdXでのパーペチュアル・スワップ取引では、現在、BTC-USD、ETH-USD、LINK-USDの各ペアの取扱いがあり、初期マージン要件は10%、メンテナンスマージン要件は7.5%に設定され、最大10倍レバレッジの設定が可能となっている。パーペチュアル・スワップ取引は先物取引と類似しているものの、決済期限がないため、必要に応じてポジションを継続的に保持することができる点に特徴がある。取扱うトークンの種類に応じてETH やUSDCが担保としてスマートコントラクトにロックされる。

2 Synthetix

 Synthetixは、Ethereum上に構築された合成資産(Synth)の発⾏を実施するためのDeFiプラットフォームである。Synthetixでは、USドル・ユーロ・日本円・オーストラリアドル・シンガポールドル、カナディアンドル、ロシアンルーブル、インディアンルピーなどの主要通貨、金などのコモディティ、暗号資産、株式インデックスなどと連動したSynthが提供され、取引されている。SynthetixのユーザーはSNXトークン(the Synthetix Network Token)をSynthetixのスマートコントラクトにロックすることでSynthの発行を受ける。P2Pではなく担保プールを介してP2C(Peer-to-Contract)で取引することが可能なため、カウンターパーティーが不要となる。また、Synthetix Exchangeが提供され、合成資産をP2Cで取引することが可能である。

 Synthetixは合成先物(コールオプションとプットオプションを組み合わせて構成した擬似的な先物ポジション)やバイナリーオプションなどの暗号資産デリバティブ取引の提供を計画している。

II 結論のまとめ

1 暗号資産デリバティブ取引

① 業としてデリバティブ取引のカウンターパーティーとなり(例:ショートとロングのプライスを出し、プライスに同意するユーザーとデリバティブ取引をなす)、又は業としてデリバティブ取引の媒介をなす場合(例:デリバティブ取引の板を作成・運営する)には、原則として第一種金融商品取引業の登録が必要である。
② 完全に非中央集権であり、スマートコントラクトのみで動いているDeFiデリバティブ取引プラットフォームの場合、業を行う「者」ではなく、登録は必要ないと思われる。但し、実際に「運営者」等がいないかは慎重な判断を要する。
③ dYdXの場合、デリバティブ取引のマッチング自体はオフチェーンで行われる。オフチェーンのマッチングシステムを提供する者は、日本居住者を顧客とする場合、第一種金融商品業の登録義務を負う。
④ 規制されていないDeFiデリバティブ取引プラットフォームを単に一般ユーザーとして利用する者には規制はないと思われる。
⑤ 規制されていないDeFiデリバティブ取引プラットフォームが暗号資産をマージン(担保)としてロックしてスマートコントラクトで管理する場合には、暗号資産のカストディ規制は適用されないと思われる。
⑥ 規制されていないDeFiデリバティブ取引プラットフォームがTetherなどのステーブルコインをマージンとしてロックしてスマートコントラクトで管理する場合には、日本法上は暗号資産カストディ規制や出資法による規制などの預り金規制は適用されないと思われる。

2 暗号資産信用取引

① 暗号資産の信用取引(レンディング+売買や交換)についてはデリバティブ取引と別途の規制が適用される。レンディングには規制がなく、業として行う売買や交換やそれらの媒介には暗号資産交換業の規制がある。
② 完全な非中央集権型で運営者がいないと認められる場合には業を行う「者」がおらず登録は必要ないと思われること、但し、運営者の有無は慎重に判断する必要があること、DeFi信用取引プラットフォームの単なる一般ユーザーであれば規制はないと思われること、スマートコントラクトでのロック自体にはカストディ規制等の適用がないと思われることなど、デリバティブ取引と同様である

III 中央集権型の暗号資産デリバティブ取引への金商法や資金決済法の適用関係

 DeFiデリバティブ取引の法規制を検討する前提として、中央集権型の取引所を念頭に、暗号資産デリバティブ取引への金商法等の規制の概要を若干述べる。既にご承知の方はⅤにお進み下さい。

 なお、本邦では、デリバティブ取引と信用取引とは別途の規制が適用される。概要、暗号資産信用取引とは、①事業者等がユーザーに暗号資産や金銭を貸し付け(レンディング)+②貸し付けを受けたユーザーが当該資金も加えて暗号資産の売買、交換を行うレバレッジ取引であり、暗号資産デリバティブ取引は概要、それ以外の暗号資産レバレッジ取引、暗号資産オプション取引等である。

 暗号資産デリバティブ取引については本IIIと下記V、暗号資産信用取引は下記IVとVIで検討する。

1 暗号資産の店頭デリバティブ取引が金商法改正により規制対象となった

 金商法は、2条8項各号で金融商品取引業に該当する行為を列挙し、これらを行う場合には原則として内閣総理大臣の登録を義務付けている(金商法29条)。

 「店頭デリバティブ取引又はその媒介」を業として行うことは第一種金融商品取引業に該当する(金商法2条8項4号、金商法28条1項2号)。店頭デリバティブ取引とは、金融商品又は金融指標を対象として行われる一定のデリバティブ取引のうち、金融商品市場以外で行われるものである(金商法2条22項)。また、2020年の法改正で、金融商品に暗号資産が含まれることとなり(金商法2条24項3号の2)、暗号資産の価格や利率等が金融指標に含まれることとなった(金商法2条25項1号)。「業として」とは、対公衆性及び反復継続性をもって行われる行為をいう[4]。取引の媒介とは、いわゆる周旋のことで、他人の間に立って、他人を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為をいう[5]。

 以上の法改正の結果、業として暗号資産デリバティブ取引のカウンターパーティーとなり(例:ショートとロングのプライスを出し、プライスに同意するユーザーとデリバティブ取引をなす)、又は業としてデリバティブ取引の媒介をなす場合(例:デリバティブ取引の板を作成・運営する)には、原則として第一種金融商品取引業の登録が必要となる。現在、レバレッジ取引を提供する日本の暗号資産交換業者は第一種金融商品取引業の登録を取得し、又は取得しようとしているところである。

2 暗号資産デリバティブ取引と市場規制

 金商法では、有価証券の市場取引(例えば東証の板取引)を行うためには、市場認可が必要である(金商法2条14項)。同条項では市場デリバティブ取引を行う際にも金融商品取引市場の認可が必要とされているため、板取引を提供する暗号資産交換所につき市場免許が必要とならないか議論があった。

 しかしながら、パブリックコメント[6]では、「現状、暗号資産関連デリバティブ取引は、我が国の経済活動において重要な役割を果たしているわけではなく、(中略)直ちに金融商品取引所としての規制を課す必要性があるとまではいえないと考えられることから、当面の間、店頭デリバティブ取引等に該当するものとして、第一種金融商品取引業の登録を求める」として、当面の間は市場免許は必要ないとされた。

3 暗号資産デリバティブ取引とPTS

 なお、有価証券の板取引を提供する方法には、市場免許の他にもPTS(私設取引システム)の認可がある。しかし、PTSの規定は「有価証券」にのみ適用されるものであり(金商法2条8項10号)、デリバティブ取引には適用されない。

4 金融商品取引業者の担保の保管規制

 金融商品取引業者は、暗号資産店頭デリバティブ取引に関して担保として預託を受けた金銭その他の保証金につき、自己の固有財産と分別して管理しなければならず、投資者への返還を確実なものとするため、信託会社又は信託業務を営む金融機関への金銭信託とすることが義務付けられている(金商法43条の3第1項及び第2項等)。

 また、委託証拠金その他の保証金の全部又は一部として暗号資産を代用する場合、「顧客から当該暗号資産の預託を受ける行為は、金商法の証拠金規制等の趣旨に照らすと、事業者が専ら自己の権利利益の保全のために担保として暗号資産の預託を受けているとはいえ」ないとされており、基本的には、次項に記載する暗号資産カストディ業務に該当し、暗号資産交換業の登録が必要となり得る[7]。

 もっとも、次項で述べるとおり、暗号資産の預託を受ける場合であっても、秘密鍵の預託を受けない場合には、カストディ業務に該当しない。

5 暗号資産カストディ業務に関する規制

 資金決済法では、暗号資産を他人のために管理する行為(カストディ業務)を暗号資産交換業に含め(資金決済法2条7項4号)、暗号資産のカストディ業務を行うには内閣総理大臣の登録が必要となる(資金決済法63条の2)。

 暗号資産カストディ業務を行う暗号資産交換業者は、利用者から暗号資産の預託を受ける場合には、原則として、当該暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理し、かかる管理の状況について、定期に、公認会計士又は監査法人の監査を受ける必要があり(資金決済法63条の11等)、また、履行保証暗号資産の保有(資金決済法63条の11の2)等の義務が課される。

 なお、暗号資産の保管をする場合であっても、事業者がユーザーの暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないため、基本的には、「他人のために暗号資産を管理すること」には該当しないものと考えられている[8]。

6 海外のデリバティブ取引所

 海外のデリバティブ取引所から海外で業務を営む限り、日本の法令を気にする必要はない等の主張がされることがある。本邦では、デリバティブ取引の当事者のいずれかが日本国内にいる場合には金商法が適用される可能性があり、例え取引所が海外でも日本居住者相手に取引を行っている場合には、金商法が適用される可能性がある。

 他方、デリバティブ取引が完全に日本国外で行われる場合には、原則として、金商法の適用はない。

Ⅳ 中央集権型の暗号資産信用取引への資金決済法の適用関係

 続けて、中央集権型の取引所を念頭に、暗号資産信用取引への資金決済法等の規制の概要を述べる。既にご承知の方は本IVはスキップされたい。

1 暗号資産信用取引に関する法規制

 暗号資産信用取引は、①事業者等によるユーザーへの暗号資産や金銭のレンディング+②レンディングを受けたユーザーによる暗号資産の売買、交換に分解できる。

 ①については、業としてユーザーへ金銭をレンディングする場合には貸金業の登録を受ける必要がある(貸金業法3条1項)。他方、暗号資産のレンディングは「金銭の貸付(貸金業法2条1項)」ではないため、それ自体への規制はない。もっとも、暗号資産交換業者が、その利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合(暗号資産交換業府令1条2項6号)には、暗号資産信用取引に係る契約の内容についての情報の提供その他の当該暗号資産信用取引に係る業務の利用者の保護を図り、当該業務の適正かつ確実な遂行を確保するための措置等を講ずる必要がある(資金決済法63条の10第1項等)。

 ②の暗号資産の売買、交換、それらの媒介については、業として行う場合、暗号資産交換業(資金決済法2条7項1号及び2号)に該当し、内閣総理大臣の登録を要する(資金決済法63条の2)。

2 暗号資産交換業者の担保の保管規制

 暗号資産交換業者は、信用取引に関し利用者から預託を受けた保証金を、資金決済法63 条の11並びに暗号資産交換業府令26条及び27条の規定に基づく分別管理の対象に含め、ガイドライン[9]Ⅱ-2-2-3にしたがって分別管理に係る適切な取扱いを行う必要がある。

 なお、暗号資産信用取引によって利用者が取得した金銭又は暗号資産であって、当該暗号資産信用取引の信用供与に係る債務の担保に供されているものについては、資金決済法63条の11第1項及び第2項に規定する方法による管理を要しない、とされている(ガイドラインⅡ-2-2-2-2 (2))。

3 海外の取引所による信用取引

 海外の取引所から海外で業務を営むことについて、信用取引の当事者のいずれかが日本国内にいる場合には資金決済法が適用される可能性があることは、暗号資産デリバティブ取引で述べた金商法の議論と同様である。

V DeFiデリバティブ取引と日本法

1 DeFiでの暗号資産デリバティブ取引所の運営

 前述した中央集権型の暗号資産取引所の規制に対し、DeFiの場合、スマートコントラクト上で行われ、管理者がいない場合がある、という特徴がある。その場合、金融商品取引業の登録等の規制は適用されない可能性がある。

 すなわち、金融商品取引業は内閣総理大臣の登録を受けた「者」でなければ営めないのに対し、スマートコントラクトは「者」ではない。また、Governance Tokenで投票等が行われていても、そのTokenの所有者が完全に分散化されて単に投票のみを行っている場合、このような者は「営む」「者」とはいえず、規制対象外と考えて良いのではないかと思われる。

 但し、運営者がいないかについては慎重な検討が必要であり、仕組みによっては開発組織や販売組織、その他何らかの組織が実質的には運営者と認められる場合もありえ、また、Governance Tokenの過半数等多くを保有する組織が実質的な運営と認められる場合もありえる。

 なお、Synthetixの場合、計画に従い2020年7月末よりSynthetix Foundationを解散し、Synthetixの運営を完全に分散型に移行する、と宣言しており[10]、その実現が実際に可能であれば、同様の仕組みを日本居住者相手に行っても規制対象外になるのではないかと思われる。

2 dYdXにおけるオフチェーンでのマッチング業務

 dYdXでは、ユーザーが暗号資産を売買する際、取引注文を管理するオーダーブック(板)をリレイヤーがオフチェーンで管理してオーダーのマッチングを行い、決済のみをオンチェーンで行う処理を行っているようだ。オーダーブックの運営は、他人を当事者とする暗号資産デリバティブ取引の成立に尽力する事実行為といえ、リレイヤーがこれを中央集権型で業として行う場合には、第一種金融商品取引業者としての登録が必要になると思われる。

3 DeFiデリバティブ取引プラットフォームを利用する一般ユーザーについての法規制

 DeFiデリバティブ取引プラットフォームを利用する一般ユーザーが、単に自己のポートフォリオの改善ために行う投資目的でのDeFiデリバティブ取引を行う場合には、通常、取引が対公衆性をもつものではないため、「業として」(金商法2条8項)に該当せず、一般ユーザーには金融商品取引業者としての規制の適用はないと考えられる。

4 DeFiデリバティブ取引のブロックチェーンでのマージン(担保)のロック

(1)暗号資産のロックについて
 DeFiデリバティブ取引では暗号資産がマージン(担保)としてスマートコントラクトにロックされる。
 デリバティブ取引の担保のための暗号資産の保管は中央集権型取引所の場合には上記Ⅲ5記載のように原則としてカストディ規制が適用される。
 他方、本邦での暗号資産のカストディ規制の「他人のために暗号資産の管理をすること」につき、例えば「スマートコントラクト内に保管されている利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵にアクセスする権限を有しておらず、当該スマートコントラクトによる暗号資産の移転先を指定し、又は変更し得る権限を有していないなど、当該事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にない場合には、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます」[11] とされており、DeFiでスマートコントラクトに保管する場合、カストディ業務には該当しない可能性がある。

(2) Tetherなどのステーブルコインのロックについて
 DeFiデリバティブ取引でマージンとしてロックされる資産がTetherなど法定通貨にペッグしたステーブルコインである場合、それは通貨建資産(資金決済法2条6項)に該当し、暗号資産の定義から除外されているため(資金決済法2条5項1号)、資金決済法上のカストディ規制の適用はない。
 また、出資法の預り金規制(出資法2条)についても、出資法上の預り金は、預金、貯金又は定期積金の受入れ、又はこれらと同様の経済的性質を有するものとして、元金の返還を約する金銭の受入れで、価値ないし価額の保管をもって主として預け人の便宜のために行われるものを意味することからすると[12]、ステーブルコインは金銭ではなく、預り金には該当しないように思われる。またユーザーの損失の担保としてロックされるものであり元本保証がなされていないこと等からも預金等と同様の経済的性質を有するものとはいえない。

Ⅵ DeFi信用取引と日本法

1 DeFiでの暗号資産信用取引所の運営

 DeFi上での信用取引についても、スマートコントラクト上で行われ、管理者がいない場合がある、という特徴がある。業として暗号資産の売買や交換を行う「者」が存在しない場合、規制対象外となる可能性があること、ただし、運営者がいないかについて慎重な検討が必要であることは、上記V1に記載したDeFiデリバティブ取引のケースと同様である。

2 dYdXにおけるオフチェーンでのマッチング業務

 dYdXではリレイヤーによるオーダーのマッチング業務が行われており、リレイヤーは暗号資産の交換の媒介を行う者として、本邦での暗号資産交換業の登録が必要となる可能性がある[13]。

3 DeFi信用取引プラットフォームを利用する一般ユーザーについての法規制

 DeFi信用取引プラットフォームを利用する一般ユーザーについては、上記Ⅴ3のDeFiデリバティブ取引プラットフォームを利用する一般ユーザーの議論と同様、「業として」(資金決済法2条7項)に該当せず、資金決済法の規制の適用はないものと考えられる。

4 DeFi信用取引のブロックチェーンでのマージン(担保)のロック

 DeFi信用取引でのマージンのロックについては、上記Ⅴ4に記載したDeFiデリバティブ取引の議論がそのまま妥当するものと思われる。

留保事項

本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
事実関係はWhitepaper等の公表資料を分析したものであり、事実関係により結論は異なりえます。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、DeFi(dYdX/ Synthetix)などの利用を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

参考条文

金商法
第29条(登録)
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。

第2条(定義)
8 この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為(その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるもの及び銀行、優先出資法第二条第一項に規定する協同組織金融機関(以下「協同組織金融機関」という。)その他政令で定める金融機関が行う第十二号、第十四号、第十五号又は第二十八条第八項各号に掲げるものを除く。)のいずれかを業として行うことをいう。
四 店頭デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)若しくは代理(以下「店頭デリバティブ取引等」という。)
十 有価証券の売買又はその媒介、取次ぎ若しくは代理であつて、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として次に掲げる売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行うもの(取り扱う有価証券の種類等に照らして取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場(第六十七条第二項に規定する店頭売買有価証券市場をいう。)以外において行うことが投資者保護のため適当でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)

14 この法律において「金融商品市場」とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう。

22 この法律において「店頭デリバティブ取引」とは、金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う次に掲げる取引(その内容等を勘案し、公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)をいう。
一 売買の当事者が将来の一定の時期において金融商品(第二十四項第三号の三及び第五号に掲げるものを除く。第三号及び第六号において同じ。)及びその対価の授受を約する売買であって、当該売買の目的となっている金融商品の売戻し又は買戻しその他政令で定める行為をしたときは差金の授受によって決済することができる取引
二 約定数値(第二十四項第三号の三又は第五号に掲げる金融商品に係る金融指標の数値を除く。)と現実数値(これらの号に掲げる金融商品に係る金融指標の数値を除く。)の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引又はこれに類似する取引
三 当事者の一方の意思表示により当事者間において次に掲げる取引を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引又はこれに類似する取引
 イ 金融商品の売買(第一号に掲げる取引を除く。)
 ロ 前二号及び第五号から第七号までに掲げる取引
四 当事者の一方の意思表示により当事者間において当該意思表示を行う場合の金融指標(第二十四項第三号の三又は第五号に掲げる金融商品に係るものを除く。)としてあらかじめ約定する数値と現に当該意思表示を行った時期における現実の当該金融指標の数値の差に基づいて算出される金銭を授受することとなる取引を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引又はこれに類似する取引
五 当事者が元本として定めた金額について当事者の一方が相手方と取り決めた金融商品(第二十四項第三号、第三号の三及び第五号に掲げるものを除く。)の利率等若しくは金融指標の約定した期間における変化率に基づいて金銭を支払い、相手方が当事者の一方と取り決めた金融商品(これらの号に掲げるものを除く。)の利率等若しくは金融指標の約定した期間における変化率に基づいて金銭を支払うことを相互に約する取引(これらの金銭の支払とあわせて当該元本として定めた金額に相当する金銭又は金融商品(同項第三号の三及び第五号に掲げるものを除く。)を授受することを約するものを含む。)又はこれに類似する取引
六 当事者の一方が金銭を支払い、これに対して当事者があらかじめ定めた次に掲げるいずれかの事由が発生した場合において相手方が金銭を支払うことを約する取引(当該事由が発生した場合において、当事者の一方が金融商品、金融商品に係る権利又は金銭債権(金融商品であるもの及び金融商品に係る権利であるものを除く。)を移転することを約するものを含み、第二号から前号までに掲げるものを除く。)又はこれに類似する取引
 イ 法人の信用状態に係る事由その他これに類似するものとして政令で定めるもの
 ロ 当事者がその発生に影響を及ぼすことが不可能又は著しく困難な事由であって、当該当事者その他の事業者の事業活動に重大な影響を与えるものとして政令で定めるもの(イに掲げるものを除く。)
七 前各号に掲げるもののほか、これらと同様の経済的性質を有する取引であって、公益又は投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定める取引

24 この法律において「金融商品」とは、次に掲げるものをいう。
三の二 暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第五項に規定する暗号資産をいう。以下同じ。)

25 この法律において「金融指標」とは、次に掲げるものをいう。
一 金融商品の価格又は金融商品(前項第三号及び第三号の三に掲げるものを除く。)の利率等

第28条(金融商品取引業者等)
1 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
二 第2条第8項第4号に掲げる行為又は店頭デリバティブ取引についての同項第五号に掲げる行為

第43条の3
1 金融商品取引業者等は、その行うデリバティブ取引等(有価証券関連デリバティブ取引等又は商品関連市場デリバティブ取引若しくは商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等に該当するものを除く。次項において同じ。)に関し、第百十九条の規定により顧客から預託を受けた金銭又は有価証券その他の保証金又は有価証券については、内閣府令で定めるところにより、自己の固有財産と区分して管理しなければならない。


2 金融商品取引業者等は、その行うデリバティブ取引等に関し、顧客の計算に属する金銭及び金融商品の価額に相当する財産については、内閣府令で定めるところにより、管理しなければならない。

資金決済法
第2条(定義)
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

6 この法律において「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。

7 この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

8 この法律において「暗号資産交換業者」とは、第六十三条の二の登録を受けた者をいう。

第63条の2(暗号資産交換業者の登録)
暗号資産交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。

第63条の10(利用者の保護等に関する措置)
1 暗号資産交換業者は、内閣府令で定めるところにより、暗号資産の性質に関する説明、手数料その他の暗号資産交換業に係る契約の内容についての情報の提供その他の暗号資産交換業の利用者の保護を図り、及び暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。

2 暗号資産交換業者は、暗号資産交換業の利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、前項に規定する措置のほか、内閣府令で定めるところにより、当該暗号資産の交換等に係る契約の内容についての情報の提供その他の当該暗号資産の交換等に係る業務の利用者の保護を図り、及び当該業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない

第63条の11(利用者財産の管理)
1 暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して、暗号資産交換業の利用者の金銭を、自己の金銭と分別して管理し、内閣府令で定めるところにより、信託会社等に信託しなければならない。

2 暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して、内閣府令で定めるところにより、暗号資産交換業の利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。この場合において、当該暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産(利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件に該当するものを除く。)を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理しなければならない。

3 暗号資産交換業者は、前二項の規定による管理の状況について、内閣府令で定めるところにより、定期に、公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士を含む。第六十三条の十四第三項において同じ。)又は監査法人の監査を受けなければならない。

第63条の11の2(履行保証暗号資産)
1 暗号資産交換業者は、前条第二項に規定する内閣府令で定める要件に該当する暗号資産と同じ種類及び数量の暗号資産(以下この項、第六十三条の十九の二第一項及び第百八条第三号において「履行保証暗号資産」という。)を自己の暗号資産として保有し、内閣府令で定めるところにより、履行保証暗号資産以外の自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。この場合において、当該暗号資産交換業者は、履行保証暗号資産を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理しなければならない。

2 前条第三項の規定は、前項の規定による管理の状況について準用する。

暗号資産交換業府令
第1条(定義)
2 この府令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
六 暗号資産信用取引 暗号資産交換業の利用者に信用を供与して行う暗号資産の交換等をいう。

出資法
第2条(預り金の禁止)
1 業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。

2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
一 預金、貯金又は定期積金の受入れ
二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの

貸金業法
第2条(定義)
1 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

第3条(登録)
1 貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては内閣総理大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。

以 上


[1] https://innovationlaw.jp/yield-farming-and-liquidity-mining-in-japan/

[2] https://innovationlaw.jp/stable-coins-under-japanese-law/

[3] https://www.slideshare.net/SoSaito1/defi-japaneselaw200909?fbclid=IwAR05FLc6hiPUGi_MpUk5mmdNKlwrECre9lZB_7SGhGxgadNa5GNlwyNrqxg

[4] 金融庁パブコメ回答35頁3番等[平19.7.31]

[5] 松尾直彦「金融商品取引法第5版」335頁

[6] 金融庁パブコメ回答33頁126番等[令2.4.3]

[7] 金融庁パブコメ回答7頁20番等[令2.4.3]、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針IV-3-3-1- (3)暗号資産関連店頭デリバティブ取引等業者の区分管理に係る留意事項(注2)

[8] 金融庁パブコメ回答4頁9番等[令2.4.3]

[9] 金融庁事務ガイドライン第三分冊金融会社関係16暗号資産交換業者関係
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf

[10]  https://blog.synthetix.io/synthetix-foundation-decommissioned/

[11] 金融庁パブコメ回答7頁17,18番[令2.4.3]

[12] 田宮重男「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律の解説」金融法務事情29号3頁

[13] なお、dYdXでは、現状、ETH-DAI、ETH-USDC、DAI-USDCの信用取引が実装されている。ETHとDAIは暗号資産であるが、USDCは法定通貨担保型ステーブルコインであり、本邦では暗号資産ではない。暗号資産と法定通貨担保型ステーブルコインとの交換を実行する場合、法律の文言上は暗号資産の売買にも暗号資産の交換にも当てはまらないように思われる。リレイヤーが、暗号資産と法定通貨担保型ステーブルコインとの交換のみを媒介する場合、日本法上どのように扱われるかは不明である。

丸の内支店設立のお知らせ

今般の世界規模での新型コロナウイルスの感染拡大が、皆さまの日々の生活に大きな影響を与えている状況が長く続いており、一日も早い終息を心より願うばかりでございます。

さて、このたび弊事務所は、現在の赤坂オフィスに加え、支店として丸の内オフィスを設置することとなりました。

丸の内オフィスの連絡先は以下のとおりです。

創・佐藤法律事務所 丸の内オフィス※
新住所 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル9階937区


電話 03-6275-6080
FAX 03-6275-6081

※創・佐藤法律事務所丸の内オフィスは、創・佐藤法律事務所を主たる事務所とする弁護士法人創・佐藤法律事務所の支店となります。

なお、赤坂オフィスの連絡先に変更はございません。

これを機にさらに業務の充実を図り、皆様のご期待に添えますよう、所員一同、一層の努力を重ねてまいる所存です。今後とも倍旧のご支援ご指導を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

New Office in Marunouchi

We are pleased to announce that business is going so well that on August 3rd, we are opening a new office in Marunouchi, Tokyo, a central financial city of Japan, in addition to our current Akasaka office.

The address and telephone number of our Marunouchi office are as follows:

937 Shin-Kokusai Building, 3-4-1, Marunouchi
Chiyoda-ku, Tokyo, 100-0005 Japan

Tel : +81-3- 6275-6080
Fax : +81-3-6275-6081

Until August 16, please contact us at 81-3-5545-1830, our original phone.

Sorry for the inconvenience.

In this unprecedented situation due to covid-19, the most important thing is to make sure we conduct business in a safe environment. We are carefully monitoring the situation and will continue to follow guidance from the government authorities regarding further developments.

We are looking forward to assisting you in your M&A, private equity, and corporate transactions and are going to work with you online and offline from our new location in accordance with the social distancing rules in place.

Please feel free to contact us with any questions.

We look forward to seeing you.

yield_farming

現在、世界中でDecentralized Finance(DeFi、分散型金融)が勃興しつつあり、その一分野であるイールドファーミング/リクイディティマイニングも注目を集めている。

イールドファーミング/リクイディティマイニングの安全性はまだ確認されていないが、今後、より発展する可能性もあると考え、その一つであるCompoundの仕組みを紹介し、日本法上での取り扱いを検討する。

I 本稿のまとめ

1 用語

  用語 解説
1 DeFi 証券、保険、デリバティブ、レンディングなど金融分野において、ブロックチェーンを活用したアプリケーションによって構成される金融システムを指す。中央集権の管理者を必要とせず、分散型ネットワークによる自律したエコシステムで、誰でもアクセス可能かつ透明性の高い金融システムやプロジェクトを総称する。
2 イールドファーミング 暗号資産やステーブルコインをDeFiのレンディングなどで運用し、利息収入などの受動的な収入を得ること。
3 リクイディティマイニング DeFiプラットフォームに流動性を提供することによって、利息以外の何らかの報酬を得ること。

2 Compoundと日本法

現時点の公表資料等を分析する限り、下記のように整理され本邦の規制対象外と考えられるのではと思われる。但し、事実関係により結論は異なりうる等、本稿末尾の留保事項をご参照頂きたい。

  項目 結論
1 cTokenの性質 電子記録移転権利ではなく暗号資産となると考えられる。なお、レンディングに対しリワードが与えられるが、これは収益の分配ではないと考えられ、よってcTokenは集団投資スキームや投資信託の権利を表すものではないと考えられる。
2 CompTokenの性質 暗号資産となる。
3 レンディングと貸金業法等の規制 レンディングは日本法上の解釈としては消費貸借又は消費寄託になると思われる。暗号資産の消費貸借及び消費寄託、ステーブルコインの消費貸借及び消費寄託のいずれに対しても、貸金業法や銀行法、出資法などの規制は適用されない。
4 スマートコントラクトへのロックとカストディ規制 ステーブルコインのスマートコントラクトへのロックには規制はない。暗号資産のスマートコントラクトへのロックは消費寄託と考えられる可能性があるが、その場合でも、秘密鍵を管理して暗号資産を移動できる権限を有する管理者が存在しない場合、カストディ規制の適用はない。
5 ボロウィングと貸金業法等の規制 ボロウィングには、貸金業法等の規制は適用されない。
6 cTokenの発行 レンディングに対して、それを証するものとしてcTokenが発行されるが、これは暗号資産の売買や交換には該当せず、暗号資産交換業には該当しない。
7 COMPTokenの発行 貸手・借手にガバナンストークンであるCOMPTokenが配布されるが、これは暗号資産の売買や交換ではなく、暗号資産交換業には該当しない。

II 事実関係の整理

1 イールドファーミング/リクイディティマイニングとは何か

イールドファーミング(直訳すると利回り農業)とは、暗号資産やステーブルコインをDecentralized Financeのレンディングなどで運用することにより、利息収入などの受動的な収入を得ることをいう。

イールドファーミングとよく同時に行われる行為として、リクイディティマイニング(直訳すると流動性採掘)がある。DeFiに流動性を提供することにより利息や配当以外の何らかの報酬を得ることをいい、例えば、Compoundでは流動性提供者にCOMPTokenというガバナンストークンが提供される。

2 Compoundの仕組み

Compoundは、Ethereumのメインネット上で稼働する分散型の暗号資産の銀行/マネーマーケットであり、イールドファーミング/リクイディティマイニングの最大手プラットフォームの一つである。

ユーザーは自己保有のトークンをコントラクトに貸し付けて収益を得ることができる。また、ユーザーはコントラクトに担保を提供することにより、コントラクトからトークンを借り入れることをできる。

Compoundは分散的、自律的に運営されており、特定の中央集権の管理者が存在しない銀行/マネーマーケットを目指しているようだ。具体的な貸出や借入の仕組みは以下のとおりと思われる。

(1) 貸出の仕組み

  1. ユーザーは、利息を得るため、スマートコントラクトに暗号資産やステーブルコインをロックする。現在の対象資産としては、DAI、USD Coin、Ether、0x、Augur、Wrapped BTC、Basic Attention Token、SAIの8種類がある。
  2. ロックをした場合、事前に設定された為替レートでcTokenがユーザーに交付される。例えばEtherをロックした場合、cEtherが発行される。
  3. ユーザーはcTokenを保有することにより利息を獲得できる。具体的には、cTokenはロックされた資産の引き出し時に償還されるが、cTokenの価値がロック資産に対して時間の経過とともに増加するものとされる。例えば、年利1.09%で100DAIをSupplyした場合、1年後にcDAIを償還すると101.09DAIの返還を受けられる。
  4. なお、この収益は、後述する借手によって支払われる金利に経済的に依存している。利率については、貸出と借入の需要と供給に踏まえて決定されているようであり、日々変動している。
  5. 上記の金利に加え、貸手はCOMPTokenを受け取ることができる。COMPTokenは、保有者がプロトコルの変更を提案したり、投票することを可能にする、いわゆるGovernance Tokenの役割を果たしている。COMPTokenは、海外の取引所で上場されている。

Compoundの取扱通貨と利率1

(2) 借入の仕組み

  1. cTokenを保有するユーザーはCompoundを利用して暗号資産やステーブルコインを借りいれることができる。
  2. 借入に際してユーザーはcTokenを担保として預けいれる。ユーザーが借り入れることができる最大額は、預託された資産に担保係数を乗じて計算される。
  3. 担保係数はCOMPTokenの保有者によって設定される。担保係数は一般的に、市場時価総額が高い/流動性が高い資産ほど高く、流動性の低い市場時価総額が低い/流動性が低い資産ほど低くなる。
  4. 例えばETHの担保係数は現在0.7に設定されており、プロトコルにETH 100を貸し出ししているユーザーは、Compoundを介して70ETH相当の資産を借りることが可能となる。なお、EtherをロックしてDAIを借り入れる、DAIをロックしてEtherを借り入れるなども可能である。
  5. ユーザーの借入残高が、未払いの利息の増大、担保価値の低下、借入資産の価格の上昇などにより借入能力を超えた場合、提供された担保はその時点市場価値から割引を行った上で清算される。
  6. 上記の支払義務はあるのもの、借手はCompoundプラットフォームを利用することによりCOMPTokenを報酬として受け取ることができる。なお、毎日、約2,880個のCOMPが分配されており、そのうち50%が貸主に、50%が借手に分配されている。

III 日本法の分析(各トークンの性質)

1 cTokenの性質 – レンディング(Supply)の性質

(1) 初めに

日本法上の規制の検討の前提として、各トークンの性質について検討する。

まず、cTokenが暗号資産となるのか、電子記録移転権利等として有価証券となるのかが問題となる。

Compoundのレンディングでは、ユーザーがコントラクトに対して暗号資産やステーブルコインを貸し付け、それに対して利息を得られる。他方、コントラクトはユーザーに暗号資産等を貸し出すことにより利息を得る。Compoundと同等の経済的仕組みは、中央集権型金融では、銀行業として行われる場合もあり、また証券会社のMRF/MMFとして行われる場合もある。更に日本のクラウドレンディングはファンド型のスキームで行われている。 日本法で評価した場合に、Compoundのレンディングが貸付や預託になるのか、ファンド(集団投資スキーム)やMMF(外国投資信託)に該当するのかにより、cTokenの法的評価が異なってくることから、レンディングの法的性質を検討する必要がある

(2) 集団投資スキーム

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となる。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員兼、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。) (B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利 (C) 次のいずれにも該当しないもの イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利 ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略)

外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされている。ただ、法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえよう。しかしながら、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり2、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとする。

 また、上記(B)のうち、「事業に充てて」という点も広く解釈されており、例えば、スマートコントラクトが出資を受けた暗号資産等の貸付を行う、という行為も事業と考えられる。

よって上記(C)に関し、Compoundでレンダーが得る収入が日本法上、利息なのか収益配当なのかが問題となる。この点、利息と収益配当の限界事例は判然としないが、通常の利息の場合には予め定められた利率(固定利率の場合もあれば変動利率の場合もある)で支払いがなされ、収益の場合には事業で実際に得られた収入を踏まえて事後的に分配額が決定される。また、利息の場合、元本全額の償還が予定されるが、収益の場合、事業が失敗した場合には損失が分配されることもある、という差があると思われる。

Compoundの利息はマーケットの需要と供給に応じて日々変動はするものの、オラクルが需要と供給を見ながら予め定められた利率が適用されるものと思われ、かつ損失の配分も予定されていないように思われる。そうすると、日本法上も、収益配当ではなく利息の支払いと考えられよう。

以上のように考えると、Compoundのレンディングは集団投資スキームではないと議論可能と考えられる。

(3) MMF(外国投資信託)

なお、経済的にはMMFにも類似することから外国投資信託への該当性も問題となる。この点は、形式的に信託ではないことや、金銭を信託するものではなく暗号資産を移転するものであること、集団投資スキームでの議論と同様に、収益配当ではなく利息と考えられることから、外国投資信託には該当しないと考えられる。

(4) 消費寄託又は消費貸借の場合のcToken

以上のように、Compoundは集団投資スキームでも投資信託でもない。そうだとするとレンディングの法的性質は消費貸借又は消費寄託のいずれかに該当する(このいずれに該当するかは下記IVの2で議論する)。そして、cTokenは消費貸借又は消費寄託に対して発行されるトークンであり、ERC-20規格によって発行されることから、外部で他の暗号資産と交換可能と思われる。従ってcTokenは資金決済法上の暗号資産に該当すると考えられる。

2 COMPTokenの性質

COMPTokenはガバナンストークンであり、配当等を得られるものではない。また、ERC-20規格によるトークンであり上場されていることから、外部の取引所等で他の暗号資産と交換可能である。COMPTokenは日本法上の暗号資産に該当すると考えられる。

IV 日本法の分析(各行為に対する規制)

1 レンディング(Supply)と貸金業法等

暗号資産の消費貸借及び消費寄託、ステーブルコインの消費貸借及び消費寄託のいずれにも、貸金業法や銀行法、出資法などの規制は適用されない。

2 レンディングによるデポジットと資金決済法

レンディングの結果、ステーブルコインや暗号資産がスマートコントラクトにロックされる。

まず、ステーブルコインのロックには規制はない。
他方、暗号資産については、消費貸借であれば規制はなく、カストディ(寄託)であれば暗号資産交換業規制が適用される可能性がある。

(1)消費寄託と消費貸借

民法上、「消費寄託は、目的物(の価値)を寄託者が自ら保管する危険を回避しようとするものであって、寄託の利益が寄託者にあるのに対し、消費貸借は、借主がその目的物を利用するためのものであり、ここに消費寄託と消費貸借の違いがある」3とされる。そのように考えると、Compoundでは、スマートコントラクトが運用を行うことに主眼があり、消費貸借と考えることができる。

他方、寄託と貸付の差異につき、暗号資産交換業者のガイドラインでは下記のようにされている。

ガイドライン Ⅰ-1-2-2③ 内閣府令第23条第1項第8号に規定する暗号資産の借入れは、法第2条第7項第 4号に規定する暗号資産の管理には該当しないが、利用者がその請求によっていつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど、暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

Compoundにおけるレンディングは、いつでも返還を求めることが出来るようであり、上記ガイドラインとの関係では、寄託と考えられる可能性がある。

ただ、オーバーナイトのローンが存在し、他方、定期預金も存在するなど、上記のガイドラインの「いつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど」はあくまで例を示すものであり決定的なものではなく、「暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合」となるかが重要と思われる。

(2)スマートコントラクトに対する寄託

Compoundのレンディングは消費貸借であると考えて良いのでは、と思われるが、仮に寄託と考えられても、Compoundでは、スマートコントラクトに対する寄託であり、管理者は存在しない。Compoundでは秘密鍵を管理する事業者はおらず、コントラクトからの引き出しは(a)発行されたcTokenを返却すること、(b) cTokenを担保に提供して借入をすること、によってのみ可能なようだ。Codeに従わずに引き出しできる者がいない点で、通常の取引所やカストディアンとは異なる。

本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一 切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、Compoundで秘密鍵を管理する事業者がいない場合、仮に消費寄託類似の行為とされたとしても、カストディ規制には服さないと考えられる。

3 ボロウィングと貸金業法

CompoundはユーザーからcTokenを担保に受け取り、暗号資産を貸し出す。この性質は消費貸借となると思われるが、暗号資産の消費貸借には特に規制はない。

4 cTokenの発行と暗号資産交換業

レンディングに対して、それを証するものとして暗号資産であるcTokenが発行されるが、これは暗号資産の売買や交換には該当せず、暗号資産交換業には該当しないと議論可能と考える。

暗号資産交換業では、「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」(資金決済法2条7項1号)を交換業として規制する。一般に売買とは「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生」じ(民法555条)、交換は「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる」(民法586条)。この売買や交換と消費貸借(民法587条)や消費寄託(民法566条)とは区別されている。

Compoundでは、cTokenを返還すればロックした暗号資産を取り戻せる等の仕組みがあり、このような消費貸借又は消費寄託の場合、ユーザーからコントラクトに暗号資産の財産権が移転した訳ではない、と考えられよう45
その場合、レンディングを証するものとしてcTokenを発行すること自体には規制はない。

5 COMPTokenの発行と暗号資産交換業

現在、Compoundではレンディングを行ったユーザー、ボロウィングを行ったユーザーに対して、COMPTokenの発行がなされる。COMPTokenの発行は、Compoundを利用したことによる報酬、一種のおまけ的なものと考えられ、そうだとすれば暗号資産の売買等には該当せず、規制はない。

Ⅴ 留保事項

以 上


本年5月1日施行の金商法の改正により「暗号資産」が「金融商品」に含まれることになりました。その関係もあり、幾人かから暗号資産の投資助言について尋ねられましたので、整理しておきます[1]

Ⅰ. 結論

結論としては以下のようになると思われます。

① 暗号資産の現物取引に関する助言は、投資助言業の登録は不要
② 暗号資産デリバティブ取引に関する助言は、投資助言業の登録が必要
③ 同一の暗号資産に関し、現物取引とデリバティブ取引が行われている場合がある。この場合の助言は、いずれに対する助言なのか不明瞭。助言の内容、同一の板か違う板か、対象とする取引の商品性なども踏まえて、慎重な検討を要する。
④ 暗号資産の信用取引に関する助言は、投資助言業の対象外。但し、信用取引に対する助言なのかデリバティブ取引に対する助言なのか慎重な検討を要する。

II. 検討

1. 投資助言・代理業及び暗号資産デリバティブの投資助言

金商法上、投資助言・代理業を行うためには金融商品取引業者としての登録が必要です(金商法28条、29条)

金商法2条8項11号により、金融商品に関する投資助言とは、①金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。)に関し、②口頭、文書(一定の物を除く)その他の方法により助言をすることを約し、③相手方が報酬を支払うことを約束する、という要件になります。

本年5月1日施行の金商法の改正により「暗号資産」が「金融商品」に含まれることになりました(金商法2条24項3号の2)。そのため、暗号資産デリバティブ取引の投資判断に関して助言を行うには投資助言・代理業の登録が必要です。なお、具体的商品の推奨のほか、暗号資産デリバティブ取引のシグナル配信、コピートレードサービスの提供、なども場合により投資助言に該当すると思われますので、留意が必要です。

2. 暗号資産現物に対する投資助言

これに対し、暗号資産は金融商品ですが、通常は上記1の下線に記載される有価証券でもなくデリバティブ取引でもありません。
従って、暗号資産現物に限定して行う助言は、金商法の文言上は、投資助言には該当しません。

3. 暗号資産現物とデリバティブがある商品に関する投資助言

上記2に関わらず、ビットコインなどの暗号資産については、同一の暗号資産に対して、世の中では現物取引とデリバティブ取引の両者が行われています。この場合、具体的商品に対する助言が、規制されない現物取引の助言となるのか規制されるデリバティブ取引に対する助言になるのか検討することが必要です。

例えば、取引所の同一の板でビットコイン現物とビットコインデリバティブの取引が行われている場合、自らの助言が現物に関する助言に過ぎないと主張しても併せてデリバティブ取引に対して助言しているという方向で議論されると思われます。

 他方、取引所で現物取引とデリバティブ取引の板は別のものとして設定される場合もあります。デリバティブ取引の価格はできるだけ現物の価格と近似するよう設計はされているものの、必ずしも現物の価格と一致するものではなく、相当に乖離する場合もあるようです。この場合、現物に対する助言とデリバティブに対する助言は区別して議論できるのではないかと思われますが、助言の内容、対象となる取引の商品性なども踏まえて慎重な検討が必要です。

4. 暗号資産の信用取引に関する助言

暗号資産のレバレッジ取引には、金商法で規制される暗号資産デリバティブ取引に該当する取引と、資金決済法で規制される信用取引に該当する取引があります。

金商法の投資助言規制は有価証券や金融商品デリバティブ取引に関する規制であり、信用取引に対する助言は文言上は金商法の規制対象外となります。

ただし、具体的な商品が信用取引なのかデリバティブ取引なのかは、必ずしも明確ではない場合もあります。特に他社が取り扱うレバレッジ取引に助言する場合には、そもそもレバレッジ取引の法的構成が外部からは不明確な場合も多いため、慎重に検討する必要があります。

5. 参考 – 暗号資産の信用取引とデリバティブ取引とは?

暗号資産信用取引とは暗号資産交換業の利用者に信用を供与して行う暗号資産の交換等(暗号資産交換業府令1条2項6号)をいい、例えば、 下記のような取引があります。

信用取引の例 
① 100万円の担保を入れることにより、200万円を借り入れ、当該200万円でBTCを購入
② 100万円を担保に入れることにより、3BTCを借入、当該BTCを売却

これに対し、金商法が定めるデリバティブ取引には下記のものが含まれています。

デリバティブ取引
(1) 原資産を対象とする取引類型
① 金融商品先物取引・金融商品先渡取引(金商法2条21項1号、22項1号)
② 金融商品等オプション取引(同条21項3号・22項3号)
(2) 参照指標を対象とする取引類型
① 金融指標先物取引・金融指標先渡取引(同条21項2号・22項2号)
② 金融商品等オプション取引(同条21項3号・22項3号)
③ 金融指標オプション取引(同条21項3号ロ括弧書・22項4号)
④ スワップ取引(同条21項4号・4号の2・22項5号)
(3) それ以外の取引類型
① クレジット・デリバティブ取引(同条21項5号・22項6号)

金商法や資金決済法の条文と照らしながら具体的商品の該当性を検討していくことが必要となります[2]

留保事項

本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職の現状の考えに過ぎず、当職の考えにも変更がありえます。

本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

参考条文

「投資助言・代理業」
金商法28条3項
この章において「投資助言・代理業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第2条第8項第11号に掲げる行為
二 第2条第8項第13号に掲げる行為

「投資助言」
金商法2条8項
11 当事者の一方が相手方に対して次に掲げるものに関し、口頭、文書(新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。)その他の方法により助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約(以下「投資顧問契約」という。)を締結し、当該投資顧問契約に基づき、助言を行うこと。

イ     有価証券の価値等(有価証券の価値、有価証券関連オプション(金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第28条第8項第3号ハに掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場において行う取引であつて同号ハに掲げる取引と類似の取引に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う同項第4号ハ若しくはニに掲げる取引に係る権利をいう。)の対価の額又は有価証券指標(有価証券の価格若しくは利率その他これに準ずるものとして内閣府令で定めるもの又はこれらに基づいて算出した数値をいう。)の動向をいう。)

ロ     金融商品の価値等(金融商品(第24項第3号の二に掲げるものにあつては、金融商品取引所に上場されているものに限る。)の価値、オプションの対価の額又は金融指標(同号に掲げる金融商品に係るものにあつては、金融商品取引所に上場されているものに限る。)の動向をいう。以下同じ。)の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。以下同じ。)   

「金融商品」
金商法2条24項
 この法律において「金融商品」とは、次に掲げるものをいう。 
 一 有価証券
 二 預金契約に基づく債権その他の権利又は当該権利を表示する証券若しくは
   証書であつて政令で定めるもの(前号に掲げるものを除く。)
 三 通貨
 三の二 暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第五項に規定する暗号資産をいう。以下同じ。)

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針VII-3-1 (2)②c
②投資助言・代理業に該当しない行為
イ. 不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(以下「投資情報等」という。)を提供する行為
例えば、以下aからcまでに掲げる方法により、投資情報等の提供を行う者については、投資助言・代理業の登録を要しない。
ただし、例えば、不特定多数の者を対象にする場合でも、インターネット等の情報通信技術を利用することにより個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や、会員登録等を行わないと投資情報等を購入・利用できない(単発での購入・利用を受け付けない)ような場合には登録が必要となることに十分に留意するものとする。

a. 新聞、雑誌、書籍等の販売
(注)一般の書店、売店等の店頭に陳列され、誰でも、いつでも自由に内容をみて判断して購入できる状態にある場合。一方で、直接業者等に申し込まないと購入できないレポート等の販売等に当たっては、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。

b. 投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売
(注)販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、誰でも、いつでも自由にコンピュータソフトウェアの投資分析アルゴリズム・その他機能等から判断して、当該ソフトウェアを購入できる状態にある場合。一方で、当該ソフトウェアの利用に当たり、販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合には、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。

c. 金融商品の価値等について助言する行為
(注)有価証券以外の金融商品について、単にその価値やオプションの対価の額、指標の動向について助言し、その分析に基づく投資判断についての助言を行っていない場合、又は報酬を支払うことを約する契約を締結していない場合には、当該行為は投資助言業には該当しない。
例えば、単に今年の日本の冬の平均気温について助言するのみでは、投資助言業には該当しない。

以 上


[1] CoinPost「金融庁、ビットコイン等の投資助言行為で警告|該当しないケースは」 https://coinpost.jp/?p=154943、及び、増田雅史弁護士の下記Twitterも参考になりますので合わせてご参照下さい。
https://twitter.com/m_masuda/status/1268382240779583489?s=20

[2] 松尾直彦「金融商品取引法〔第5版〕」73頁を参考に記載

ファンドの種類金商法における有価証券の種類公募における金商業登録の要否開示規制
自己募集募集の取扱い
法人投資法人(国内)1項有価証券実施不可第一種金商業運用資産の50%超を有価証券に対する投資に充てるファンドの場合、開示規制の対象(なお、私募の場合は開示規制の対象外)
投資法人(海外)1項有価証券実施不可第一種金商業
株式会社1項有価証券登録不要第一種金商業
合同会社2項有価証券登録不要第二種金商業
信託投資信託(国内)1項有価証券 第二種金商業第一種金商業
投資信託(海外)1項有価証券第二種金商業第一種金商業
組合民法に基づく任意組合2項有価証券第二種金第二種金
商法に基づく匿名組合2項有価証券第二種金商業第二種金商業
投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合2項有価証券第二種金商業第二種金商業
有限責任事業組合契約に関する法律に基づく有限責任事業組合2項有価証券第二種金商業第二種金商業

ファンド持分が適格機関投資家等(全てが適格機関投資家である場合又は出資者に1名以上の適格機関投資家と適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(特例業務対象投資家)が49人以下の場合)にのみ提供されている場合、ファンドは金融商品取引業者としての登録をする必要はなく、より簡易な手続である適格機関投資家等特例業務の届出を金融庁に行うことで足ります(いわゆる63条特例)。この制度は自己私募と自己運用の場合にのみ利用することができます。そのため、ファンド持分の私募の取扱いをする事業者は、当該制度の対象外であり、第二種金融商品取引事業者として登録する必要があります。

組合型ファンドに関する規制と63条特例の詳細については、日本のファンド規制に関する当事務所の記事をご覧ください。

I はじめに

一般に「ファンド」とは、運用の専門家が複数の出資者から出資を募り、その出資金を用いて投資を行い、投資によって生じた利益を出資者に分配する仕組みをいう。

日本ではファンドに利用可能な法形態として、主に「信託」「会社(法人)」「組合」の3つがある。投資信託は「信託」、JREITは投資法人という「会社(法人)」が使用される一方、少人数の投資家を対象とするベンチャーファンドやPEファンドは「組合」形式が利用されることが殆どである。

本稿では、組合型のファンド(いわゆる集団的投資スキーム)に関する法制度の概要について述べ、更に、2020年5月1日に施行された令和元年改正金融商品取引法の内容を踏まえた暗号資産(仮想通貨)[1]に関するファンドへの法規制の影響についても触れる。

なお、集団投資スキームの投資対象は、有価証券の他、不動産、貴金属・原油等のコモディティー等様々であり、投資対象やスキームにより不動産特定共同事業法や、商品投資に係る事業の規制に関する法律(いわゆる商品ファンド法)などの規制が適用されることもありうるが、本稿では主として有価証券や暗号資産に投資するファンドについて検討する。

II ファンドに関する日本法上の規制

1. 投資ビークルについて

組合型ファンドは、上述の通り一般に少人数の投資家を募る場合に多く用いられており、日本法に基づく組合型ファンドとしては、民法上の組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合、有限責任事業組合契約に基づく有限責任事業組合が投資ビークルとして用いられている。外国投資家の割合(パススルーの有無)、また後述する外国法人の発行する株式等の外国への投資割合においては、英国領ケイマン諸島籍のリミテッドパートナーシップをはじめとした外国籍の組合型ファンドが用いられるが、それについては別の機会に譲ることとする。それぞれの特徴を以下に述べる。

(1) 民法上の組合

民法上の組合は、民法667条に基づき組成される。ファンドとして用いる場合には、組合員の一部を業務執行組合員として業務執行を専属させ(民法670条2項)、その他の者は非業務執行組合員として業務執行を行わせない形とするのが通常である。

投資先について制限はないが、業務執行を行わない組合員を含め組合員全員が無限責任を負うことになる。また、組合内部で各組合員の負担割合を定めることはできるが、これを対外的に主張できない。

(2) 匿名組合

匿名組合契約は、商法535条に基づく契約であり、投資家である匿名組合員と事業主体である営業者との間の1対1の契約である。そのため、「匿名組合」という団体を生じさせるものではない。対外的には、営業者が自己の名で事業を行い、その効果は営業者に帰属し、匿名組合員には帰属しない(商法536条4項)。匿名組合員は、営業者への出資義務を負い営業者から利益の分配を受ける権利を有することになる。匿名組合契約上、匿名組合員は出資の価額を超えて損益の配分を受けない形とされる場合には、匿名組合員の責任は有限責任といえる。なお、営業者による投資先について制限はない。

各匿名組合契約は1対1の契約であることから、営業者は各匿名組合員と個別に契約を締結する必要がある。

(3) 投資事業有限責任組合

投資事業有限責任組合は、投資事業有限責任組合法に基づく組合である(投資事業有限責任組合法2条2項)。投資事業有限責任組合は、無限責任組合員と有限責任組合員から構成される。無限責任組合員が業務執行をし、組合の債務の全部につき無限責任を負う一方、有限責任組合員は業務執行権限を有さず、組合の債務につき出資の価額を限度として弁済する有限責任を負う(同法7条1項、9条1項及び2項)。

投資事業有限責任組合は、その投資可能な対象が限定されており(同法3条1項)、例えば、外国法人の発行する有価証券に対する投資は50%未満に制限されるなどの規制がある。

(4) 有限責任事業組合

有限責任事業組合は、有限責任事業組合契約に関する法律に基づく組合である(有限責任事業組合法2条)。有限責任事業組合の組合員は、全員がその出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負う(有限責任事業組合法15条)。

組合の業務執行を決定するには、原則として総組合員の同意が必要となり、重要な財産の処分及び譲受け並びに多額の借財について総組合員の同意を要する点については契約での排除が制限されている(同法12条)など、全組合員が一定程度主体的にその運用に関与する必要がある。投資対象として特段制限は設けられていないが、投資ビークル自体にLLPが用いられることは多くない(LPSの無限責任組合員としてLLPが用いられることはある)。

(表1 日本の組合型ファンドの概要まとめ)

 民法上の組合匿名組合投資事業有限責任組合有限責任事業組合
構成員無限責任の組合員無限責任の営業者と有限責任の匿名組合員(*1)無限責任組合員と有限責任組合員有限責任組合員
契約形態組合員全員を当事者とする契約営業者と匿名組合の2者間契約組合員全員を当事者とする契約組合員全員を当事者とする契約
登記の要否不要不要
組合財産の帰属総組合員の合有営業者総組合員の合有総組合員の合有
業務執行総組合員 但し、組合契約で業務執行者を定めることができる営業者無限責任組合員総組合員 但し、組合の業務執行の一部を特定の組合員に委任できる
事業の範囲制限なし制限なし株式、各種債券、金銭債権、匿名組合契約の出資持分等の取得・保有など投資事業有限責任組合法3条1項に掲げるものに限る。 外国法人の有価証券は50%未満。暗号資産への投資は不可次の業務以外は制限なし ①性質上組合員の責任の限度を出資の価額とすることが適当でない専門家の業務 ②組合の債権者に不当な損害を与えるおそれがある業務

2. ファンド持分の金商法上の有価証券該当性

このような組合型ファンドが以下の①~③の要件を充たす場合には、その持分は原則として有価証券に該当し(金商法2条2項5号、金商令1条の3)[2]、当該持分の取得勧誘(募集・私募)や出資を受けた金銭の運用につき、金商法上の各種規制がかかる(開示規制(金商法4条1項)、募集・私募や運用に関する業規制(金商法29条、28条2項、2条8項7号、28条4項、2条8項15号) 。

① その持分が民法に基づく組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に基づく権利であること

② 出資者が出資もしくは拠出をした金銭又は有価証券等を充てて事業を行うこと

③ 出資者が、出資額又は拠出額を超えて、上記②の事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができること

3. 各種の規制

(1) 開示に関する規制

株券や社債など流動性が高い一定の有価証券の募集又は売出しが行われる場合には、原則として、有価証券届出書の提出のような発行に関する開示義務が要求される(金商法4条1項)。

他方、投資ファンドの持分は、通常、金商法上は第2項有価証券に該当するとされることから、金商法に基づく開示義務の対象となる場合は限定的である(同法3条3号) [3]

(2) 募集・私募に関する業規制

組合型ファンドの持分(金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる同項5号又は6号に掲げる権利)の募集又は私募は、第二種金融商品取引業に該当するため(同法28条2項1号・2条8項7号)、自らが運営者となる組合型ファンドにつきその出資者を募る行為(自己募集)は、第二種金融商品取引業者としての登録を受ける必要がある(同法29条)。登録が申請されると、管轄の財務局による一定の審査がなされ、登録の拒否事由(同法29条の4以下[4])がある場合を除いて、金融商品取引業者登録簿に登録される。

(3) 運用に関する業規制

金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバディブ取引に係る権利に対する投資として、国内の組合型ファンドの持分(金商法2条2項5号)又は海外の組合型ファンドの持分(同項6号)を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うことは、投資運用業に該当する(同法28条4項3号・2条8項15号ハ)。「主として」とは、基本的に、運用財産の50%超を意味すると考えられている[5]。したがって、主として有価証券を投資対象とする組合型ファンドの資産の運用を自らが運営者として行う場合、その運用行為は投資運用業に該当し、金融商品取引業者としての登録を受ける必要がある(同法29条)。登録が申請されると、管轄の財務局による一定の審査がなされ、登録の拒否事由(同法29条の4以下)がある場合を除いて、金融商品登録簿に登録される。

(4) 募集・私募、運用の委託

上記(2)及び(3)の規制は業務を完全に他の業者に委託をした場合には下記の通り適用されない。

①募集・私募の委託

組合型ファンド持分の発行者が、その募集又は私募に関する対外的行為の一切を第三者である第二種金融商品取引業者に委託し、ファンド持分の募集の取扱い又は私募の取扱い(金商法第2条第8項第9号)を行わせる場合には、自ら有価証券の募集又は私募を行っているとは認められず、金融商品取引業に該当しないものと考えられている[6]

②運用の委託

自らが運用者として組合型ファンドを組成した場合であっても、運用行為の概要や受任者に支払う報酬の額等を定めた契約の締結、運用財産の分別管理、事前届出その他、定義府令16条1項10号の要件を充たして運用行為を他の者に一任する場合には投資運用業に該当しない(金商令1条の8の6第1項4号、定義府令16条1項10号)。

(5) 適格機関投資家等特例業務

また、上記(2)及び(3)の規制は、下記の適格機関投資家等特例業務(63条特例)を利用することにより排除され、簡易な届出のみで対応できる[7]。多くのファンドがこの例外を利用している。

適格機関投資家等特例業務における出資者の範囲は、①適格機関投資家1名以上で、②適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(特例業務対象投資家)[8]が49名以下であり、③いずれも不適格機関投資家(金商法63条1項1号イ~ハ、金商業等府令235条)に該当しない者とされる(同法63条1項)。

適格機関投資家等特例業務を実施する者については、金融商品取引業者としての登録義務を課さず、商号や主たる営業所の所在地等の事項についての簡易な届出のみを義務づけている(同法63条2項以下)。

なお、この制度は悪質な業者の利用によって投資被害事例が増加したこと等を理由に、平成 27 年金商法改正で規制が強化された。上記②の49名以下の投資家の範囲は不適格機関投資家に該当しない限り無制限であった(一般の個人投資家も対象に含まれていた)が、同規制強化後は、上場会社、資本金が5000万円以上である法人、保有資産1 億円以上で証券口座開設後1年を経過している個人といった特定の者に限定された。

他方、かかる投資家の限定は過度に過ぎるとしてベンチャーファンドに関しては特例が設けられた。所定の要件[9]を満たすファンドは、投資家の範囲が上場企業の役員・元役員・一定の専門家なども含むよう拡大されている(金商法施行令17条の12第2項、業府令233条の3)[10]

(表2 適格機関投資家等特例業務の49名以下投資家の範囲)

平成27年改正以前同改正以降
全ての組合型ファンド特に制限なく誰でも投資可能通常の組合型ファンド上場会社、資本金が5000万円以上である法人、保有資産1 億円以上で証券口座開設後1年を経過している個人など
ベンチャーファンド特例上記に加え、①上場会社の役員、②過去5年以内に上場会社の役員であった者等

(6) 当局による監督

第二種金融商品取引業者や投資運用業者に対しては、内閣総理大臣(金融庁)による監督がなされ、顧客資産の分別管理(金商法40条の3)等といった金融商品取引業者としての規制を遵守する必要が生じる。これらの規制に違反すると、業務改善命令等の行政処分がなされる(同法51条等)。なお、適格機関投資家等特例業者については、第二種金融商品取引業や投資運用業よりも緩和された規制が適用されることとなる。

(表3 ファンドの販売・運用につき、金商法上、必要な業登録・届出)

 

通常必要な登録

第三者に完全に委託した場合の登録

63条届出利用の可否

販売規制

出資の募集・私募(自己募集)

第二種金商業登録

登録不要

(当該第三者は第二種金商業登録が必要 左下コラム*1参照 )

63条届出で可

出資の募集・私募の取り扱い(他者設定ファンドの販売)

第二種金商業登録(*1)

第三者への完全再委託は考え難い

第二種金商業登録(63条特例の適用なし)

運用規制

50%以上有価証券に投資するファンドの運用(自己運用)

投資運用業登録

登録不要

(当該第三者は投資運用業登録が必要左下コラム*2参照)

63条届出で可

50%以上有価証券に投資するファンドから委託を受けて運用

投資運用業登録 (*2)

投資運用業登録

投資運用業登録(63条特例の適用なし)

それ以外(暗号資産含む)のファンドの運用

登録不要

登録不要

登録不要(なお、63条届出も不要)

III 暗号資産ファンドに対する規制

暗号資産ファンドといった場合、①ファンドの調達手段が暗号資産であるファンド、②ファンドの投資対象が暗号資産であるファンド、③投資家の得る権利がトークン化されているファンドなど、様々なケースを指す場合がある。

これらの暗号資産ファンドに特有の規制について解説する。また、令和元年金商法改正による暗号資産ファンドの法規制への影響について触れる。

1. 暗号資産に投資するファンド

(1) 暗号資産に投資するファンドと第二種金融商品取引業

暗号資産に投資するファンドを組合形式で組成する場合、当該ファンドに対する出資者の権利は集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)となる。その場合、ファンド運営者が出資の募集又は私募をするためには、原則として、第二種金融商品取引業の登録が必要であること(同法28条2項1号、2条8項7号)、適格機関投資家等特例業務の適用がありうること(同法63条)、第三者に募集又は私募に関する対外的行為の一切を委託する場合には金融商品取引業に該当しないことは、有価証券に投資するファンドと同様である。

(2) 暗号資産に投資するファンドと投資運用業

暗号資産投資ファンドの投資対象が、資金決済法上の暗号資産又は前払式支払手段に該当する場合、「有価証券又はデリバティブ取引に係る権利」への投資には当たらず、投資運用業の適用はない。

これに対して、投資対象が第一項有価証券や第二項有価証券に該当するセキュリティートークンの場合、「有価証券」に対する投資に該当することとなる。運用財産の50%を超えて有価証券に投資する場合、原則として投資運用業の登録の必要が生じる(金商法28条4項3号、29条、2条8項15号)。

(3) 暗号資産に投資するファンドと資金決済法

暗号資産交換業(資金決済法2条7項)とは、暗号資産の売買や売買の取次ぎを「業として行うこと」をいう。そこで、暗号資産への投資を行う場合にも暗号資産の売買をすることになり、暗号資産交換業への該当性が問題となるが、一般的には投資目的で行う取引は「業」とは考えられないこと、金商法上の有価証券に対する投資一任運用行為は「投資運用業」に該当し、「有価証券の売買」又はその「代理」として第一種金融商品取引業に該当するとは解されていないこととパラレルに考えると、業として暗号資産の売買をすることとはならず、暗号資産交換業(資金決済法2条第7項)には該当しないものと思われる[11]

2. 暗号資産で募集するファンド

金商法2条2項5号の規定は令和元年金商法改正以前は「金銭(又は政令で指定する金銭類似物)」で募集する場合とされており、暗号資産は金銭でも金銭類似物でもないため、脱法的と見られるような場合を除き、集団投資スキーム規制の対象外であった。

しかしながら、法改正により集団投資スキーム規制との関係では暗号資産が「金銭とみなされる」こととなったため(改正金商法2条の2)、暗号資産で募集するファンドも集団投資スキーム規制の対象となることとなる。

3. ファンドの権利をトークン化した場合の規制

令和元年の改正金商法は、電子記録移転権利という法概念を創設し、以下のとおり定義づけた。

電子記録移転権利とは、以下の①~③を満たし、④を除く権利(金商法2条3項)
① 金商法第2条第2項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権など)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

ファンドの権利をトークン化した場合、通常、上記の電子記録移転権利に該当すると思われる。

電子記録移転権利につき、改正金商法は、かかる権利が事実上多数の者に流通される可能性があることを理由に第一項有価証券と定めた(改正金商法2条3項・8項)。

電子記録移転権利が第一項有価証券に該当することにより、当該権利の募集の取扱い又は私募取扱いを業としてする行為は第一種金融商品取引業(同法28条1項1号、2条8項9号)となる。なお、電子記録移転権利に該当する集団投資スキーム持分について、自己募集・自己私募が第二種金融商品取引業に該当することや、自己私募又は運用につき適格機関投資家等特例業務(同法63条1項)の適用対象となる[12]点について、改正による変更はない。

また、電子記録移転権利が第一項有価証券に該当することで、これを募集(公募)する場合には原則として開示規制の適用を受けることとなり、発行者は有価証券届出書の提出義務(同法4条1項)や、目論見書の作成・交付義務(同法13条1項、15条1項)を負い、また、発行後の有価証券報告書(同法24条)等による継続開示も義務付けられる。もっとも、(ⅰ)適格機関投資家のみを相手方とする場合、(ⅱ)特定投資家のみを相手方とする場合、又は(ⅲ)50名未満の少人数の者を相手方とする場合といった私募に該当するにとどまる場合には、公衆縦覧型の開示規制は課されない。

なお、STOについては、別途、当事務所で各種資料を掲載しているので、当事務所ホームページ等をご参照頂きたい。

(表4 トークン化ファンドの販売・運用につき金商法上、必要な業登録・届出)

 通常必要な登録・届出第三者に完全に委託した場合の登録・届出63条届出の利用の可否
販売規制
出資の募集・私募(自己募集)第二種金商業登録登録不要(当該第三者は第二種金商業登録が必要)63条届出で可
出資の募集・私募の取り扱い(他者設定ファンドの販売)第一種金商業登録(*)第三者への完全再委託は考え難い第一種金商業登録(63条特例の適用なし) (*)
運用規制
50%以上有価証券に投資するファンドの運用 (自己運用)投資運用業登録登録不要(当該第三者は投資運用業登録が必要)63条届出で可
50%以上有価証券に投資するファンドから委託を受けて運用投資運用業登録投資運用業登録投資運用業登録(63条特例の適用なし)
それ以外(暗号資産含む)のファンドの運用登録不要登録不要登録不要(なお63条届出も不要)
  • 表3(トークン化しないファンド)と差がある部分。表3では第二種金商業となる

(表5 開示規制)

募集・私募の区分

募集・私募等の相手方

開示義務

私募

適格機関投資家私募(*1)

適格機関投資家に限定

通常無し

少人数私募(*1)

49名以下に限定

特定投資家私募(*1)

特定投資家に限定

募集

多数

有価証券届出書(*2)

(その他、半期報告書、臨時報告書等の継続開示についても留意する)

 

(*1) 技術的手段で転売先を限定

(*2) 発行価格の総額が1億円未満の募集の場合、有価証券届出書(金商法第4条第1項第5号)の届出義務が免除される

以 上


[1] なお、令和元年資金決済法及び金商法改正により、仮想通貨が暗号資産という法令上の呼称に変更された。これは、国際的にcrypto-assetという表現が用いられていることや、法定通貨との混同を避けるためである。そこで、本稿でも、暗号資産という用語を用いる。

[2] 投資ファンドが①~③の要件を充たす場合であっても、(1)出資対象事業に係る業務執行がすべての出資者の同意を得て行われるものであること、(2)出資者のすべてが、ⅰ出資対象事業に常時従事する、又はⅱ特に専門的な能力であって出資対象事業の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該出資対象事業に従事すること、の両要件を充たした場合(金商法2条2項5号イ、金商令1条の3の2)の他、一定の場合には投資ファンドの持分が有価証券に該当しない場合がある。

[3] ファンド持分が「有価証券投資事業権利等」に該当する場合や改正金商法により定められる「電子記録移転権利」に該当する場合には、開示規制の対象となる(金商法3条3号)。有価証券投資事業権利等とは、原則として、ファンドの出資額の50%を超える額を充てて有価証券に対する投資を行う場合をいう(同号イ、金商令2条の9第1項)。電子記録移転権利については後述のとおり。ただし、その場合もファンド持分を取得する者が500名を超える場合(「募集」金商法2条3項3号、金商令1条の7の2)に限られる。

[4] 金融商品取引業登録取消処分から5年を経過しない者、金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者、金融商品取引業を適確に遂行するための必要な体制が整備されていると認められない者については登録が認められない。

[5] 金融庁パブコメ回答190番等[平19.7.31]

[6] 金融庁パブコメ回答103番等[平19.7.31]

[7] ただし、平成27年金商法改正以降、届出書及び添付書類の拡充(例:適格機関投資家の名称等の記載)、また事業報告書の提出等が義務付けられた。

[8] 金商法施行令17条の12第1項、業府令233条の2に列挙された者。

[9] 金商法施行令17条の12第2項、業府令233条の4、239条の2第1項に定める要件。

[10] ベンチャーファンドに関する特例で特例業務対象投資家に加わる者は、①上場会社の役員、②過去5年以内に上場会社の役員であった者、③通算1年以上の期間、会社の役職員又はアドバイザーとして会社の運営に関する一定の業務に従事し、かつ、最後に従事してから5年以内の者、④経営革新等支援機関として認定されている公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、税理士等である。

[11] 西村あさひ法律事務所編「ファイナンス法大全[全訂版](下)」870 頁、871 頁も参照のこと。

[12] 電子記録移転権利についての自己私募又は運用が適格機関投資家等特例業務に該当するとされるためには、以下の区分に応じた要件を満たす必要がある(改正金商法63条1項1号、改正業府令234条の2第1項3号)

① 適格機関投資家が出資者となる場合

  電子記録移転権利を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

② 特例業務対象投資家が出資者となる場合

  電子記録移転権利の取得者が当該権利を一括して他の一の適格機関投資家又は特例業務対象投資家に移転する場合以外に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

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So & Sato

昨年7月6日に働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)が交付されたことにより、本年4月1日より、労働基準法を含む労働関係法が大幅に改正されることとなりました。

これは、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、労働者のニーズ多様化」などの状況に直面した我が国において、長時間労働の是正や柔軟な働き方がしやすい環境整備を目指すことが理由です。

当該改正により特に大きな影響がある点について簡単に解説したいと思います。

本稿では、本年4月1日改正後の労働基準法を「改正労働基準法」といいます。

1. 時間外労働の上限規制(改正労働基準法 36 条)

現行法では、36 協定で定めることのできる時間外労働時間の上限については、時間外労働の限度に関する基準(平成 10 年労働省告示第 154 号)において、法的拘束力のない告示があるにすぎませんでした。しかしながら、改正労働基準法では、36 協定で定めることのできる時間外労働の限度時間の上限が月 45 時間、年 360 時間に定められることとなりました(改正労働基準法 36 条 4 項)。

また、特別条項による場合(特別の事情に基づいて限度時間を超えて労働させる場合)等であっても、時間外労働時間が年間 720 時間以内、単月の時間外労働時間(法定休日労働時間も含みます。)が 100 時間未満、かつ 2 ヶ月間から 6 ヶ月間の各平均時間外労働時間(法定休日労働時間も含みます。)が 80 時間未満でなければなりません。さらに、月 45 時間の時間外労働時間を上回る月は、年間で 6 ヶ月以内でなければなりません(同条 5 項)。

当該改正は 2019 年 4 月 1 日から施行されますが、同日からすべての労働者に対して適用されるわけではありません。中小事業主には、2020 年 3 月 31 日まで上記規制の適用が猶予されます。中小事業主とは、資本金の額又は出資の額が 3 億円(小売業又はサービス業は 5,000 万円、卸売業は1億円)以下である事業主及び常時使用する労働者の数が 300 人(小売業は 50 人、卸売業又はサービス業は 100人)以下である事業主をいいます。

他にも、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務には上記規制の適用除外が認められているほか(同法 36 条 11 項)、工作物等の建設の事業、自動車の運転の業務、医業に従事する医師等には、2024 年 3 月 31 日まで猶予期間が設けられています(同法139 条以下)。

なお、施行日(中小企業は 2020 年 3 月 31 日まで適用を猶予されます。)の前日を有効期間に含む 36 協定については、改正法施行日以降も、当該協定に定める期間の初日から起算して 1 年を経過する日までの間は効力を有することとなります(附則 2 条)。

上記規制に違反した使用者は、労働基準監督官による臨検、是正勧告及び改善指導の他、違反した労働者一人当たり 30 万円以下の罰金に処される可能性があります(同法120 条)。

2. フレックスタイム制の清算期間延長(同法 32 条の 3)

現行の労基法では、フレックスタイム制を設ける場合には、清算期間として、1 ヶ月を上限とする期間の総労働時間をあらかじめ定め、当該期間中の実労働時間が定められた総労働時間を超える場合には、当該超過部分について時間外割増賃金を支払う必要があります。

今回の改正では、清算期間の上限が従来の 1 ヶ月から 3 ヶ月に拡張されます(同法32 条の 3 第 1 項 2 号)。その結果、例えば夏休み中の子供と過ごす時間を増やすため、親である従業員が 8 月の労働時間を短縮し、その前後の月の労働時間を増やして調整するといったことが可能になります。

フレックスタイム制の導入に関する労使協定は締結のみで足り、届出は原則として不要ですが、清算期間が 1 ヶ月を超える場合には労使協定の届出が義務化されます。また、1 ヶ月あたりの労働時間の上限を設定(清算期間を1ヶ月ごとに区分した各期間において1週平均 50 時間を超えない範囲内)し、当該上限を超えた時間外労働については、清算期間の経過を待つことなく割増賃金を支払う必要があります(同条 4項)。

例として、以下のように労働時間を調整することが考えられます(計算を簡便にするため、すべての月が 4 週 28 日、法定労働時間 160 時間としています。)。

(1) 1 ヶ月当たりの労働時間及び 3 ヶ月当たりの労働時間の上限を超えない場合

1 月2 月3 月
実総労働時間200 時間80 時間200 時間

上記の場合、従前であれば 1 月及び 3 月に各月 40 時間分の時間外労働が発生することから、合計 80 時間分の時間外割増賃金を支払う必要がありました。もっとも、清算期間を 3 ヶ月とするフレックスタイムを導入した場合、上記の例では 3 ヶ月間の実総労働時間が 480 時間であり、法定労働時間の枠を超えていないため、時間外割増賃金を支払う必要がないということとなります。

(2) 1 ヶ月当たりの労働時間の上限を超える場合

1 月2 月3 月
実総労働時間210 時間210 時間80 時間

上記の例では、1 月及び 2 月に週平均 50 時間を超える時間外労働が発生しているため、1 月及び 2 月に 10 時間分ずつの割増賃金を支払う必要があります。

(3) 3 ヶ月当たりの労働時間の上限を超える場合

1 月2 月3 月
実総労働時間200 時間200 時間150 時間

上記の例では、1 月及び 2 月は週平均 50 時間の時間外労働時間の発生にとどまるため、1 月及び 2 月分の労働に対しては時間外割増賃金を支払う必要はありません。他方、3 月の実総労働時間も週平均 50 時間以内ではありますが、3 ヶ月の実総労働時間が 550時間であるため、480 時間を超える 70 時間分について時間外割増賃金を支払う必要があります。

なお、この場合は 3 月に 60 時間を超える時間外労働をさせたものと考えられますから、60 時間分については 2 割 5 分以上の時間外割増賃金を、10 時間分については 5割以上の時間外割増賃金を支払う必要があります。

3. 年休を取得させる義務の発生(同法 39 条)

改正労働基準法では、使用者は、1 年に 10 日以上の年次有給休暇が付与される労働者1に対し、毎年 5 日以上、時季を指定して年休を与えなければならなくなります(同条 7 項)。ただし、労働者が時季を指定した日数及び労使協定による計画的付与(例えば、暦の関係で飛び石連休となっている場合に、祝日の間の所定労働日を休日とする場合等)により取得された日数については、5 日から差し引くことができます(同条 8 項)。現行法上は労働者による時季指定がない限り、年休を付与しなくとも違法ではありません。しかし、改正法施行後は事業主に、労働者に年休を取得させる義務が生じます。仮に従業員に年 5 日以上の年次有給休暇を取得させなかった場合、使用者は労働基準監督官による臨検、是正勧告及び改善指導の他、労働者一人当たり 30 万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法 120 条)。

4. 高度プロフェッショナル制度の創設(同法 41 条の 2)

改正労働基準法では、労働の評価の対象を時間ではなく成果とすることを目的として、高度プロフェッショナル制度(いわゆる「高プロ」)が導入されます。高度プロフェッショナル制度とは、高度な職業能力を必要とする特定高度専門業務に従事する労働者について、労働時間規制の対象から除外する制度を意味します。これらの労働者には労働時間に関する規定は適用されず、また、時間外・休日・深夜労働に対する手当の支払義務もありません。

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、①金融商品の開発業務、②証券会社のディーラーといったディーリング業務、③市場や株式などのアナリストの業務、④コンサルタントの業務、⑤医薬品などの研究開発業務の 5 つです。ただし、上記業務に従事する者の全てが本制度の対象となるわけではなく、そのうち高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務のみに限定されることにご注意ください(労働基準法第 41 条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るため の指針案(https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000456690.pdf)参照)。本制度の対象となる者の年収は 1075 万円以上でなければなりません。当該年収には、固定給のほか、固定で支給される手当等を含みますが、成果報酬や賞与のうち、実績等に応じて変動する額は含みません。つまり、最低でも年間 1075 万円以上の支給がなされる者のみが対象となります。

高度プロフェッショナル制度を導入するためには、以下の手続きが必要となります。

①労使委員会(委員の半数については、過半数労働組合がある場合には過半数労働組合が、過半数労働組合がない場合には過半数代表者が任期を定めて指名すること)の設置
②労使委員会における、委員の 5 分の 4 以上の多数による以下の事項の決議

  1. 対象業務
  2. 対象労働者(入社年数や見込賃金額の下限等を定めるものであり、個別の労働者を対象とするものではありません。)
  3. 使用者が対象労働者の事業場内に所在した時間と事業場外で業務に従事した場合における労働時間との合計の時間(健康管理時間)を把握するための措置
  4. 対象者に対して、1 年間を通じて 104 日以上の休日、4 週間を通じて 4 日以上の休日を与えること
  5. ①インターバル措置(11 時間)と深夜業の回数(月 4 回以内)の制限、②1 ヶ月または 3 ヶ月の健康管理時間の上限措置(1 週間当たりの健康管理時間が 40時間を超える時間数がそれぞれ 100 時間、240 時間を超えないこと)、③2 週間連続の休日を年に 1 回以上(本人が希望する場合には 1 週間連続の休日を年 2回以上)与えること、④臨時の健康診断のいずれかの措置を行うこと
  6. 有休休暇の付与、健康診断の実施などの省令の定める事項のうち、労働者の健康管理時間の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置として実施するもの
  7. 対象労働者の同意の撤回の手続き
  8. 対象労働者からの苦情についての処理に関する措置
  9. 対象労働者が同意をしない場合に、不利益な取り扱いをしないこと
  10. 決議の有効期間等

③決議の労働基準監督署への届出
④対象労働者の書面又は電磁的方法による同意の取得

5. 勤務間インターバル制度の創設の努力義務(労働時間等設定改善法 2 条)

長時間労働による健康被害を鑑み、事業主には、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務が課されます。例えば、始業時刻 9 時、終業時刻 18 時の会社において、前日深夜 0 時まで残業した場合に、翌日の始業時刻を 11 時に繰り下げるといった運用が考えられます。ただし、あくまで当該制度の導入は努力義務に過ぎず、事業主に制度導入義務はありません。

6. 同一労働同一賃金(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律 9 条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 30 条の3)

改正労働法の下では、雇用形態にかかわらず、同一の貢献をした場合は同じ給与・賃金を支給しなければなりません。なお、改正法の施行は、大企業は 2020 年 4 月 1日、中小企業は 2021 年 4 月 1 日とされています(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律附則 1 条 2 号、11 条)。

当該制度の下では、例えば以下の点が考慮されます(厚生労働省告示第 430 号参照)。

  1. 基本給が、労働の実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給がされているか
  2. 昇給が、同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給がされているか
  3. 賞与について、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給がされているか
  4. パートタイム労働者や有期雇用労働者に対して、福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用住宅の利用、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、年次有給休暇の保障について違いがないか

7. 月 60 時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(労働基準法138 条の廃止)

現行法の下では、時間外労働に対する割増賃金率は原則として 25%ですが、1 ヶ月について 60 時間を超える時間外労働時間に対する割増賃金率については 50%とされていますが、中小事業主の事業については、後者の割増賃金率は適用を猶予されていました。改正労働基準法によりかかる猶予期間を定めた労働基準法 138 条が廃止され、2023年 4 月 1 日からは中小事業主の事業についても当該割増賃金率が適用されることとなります。

本稿は、議論用に纏めたものに過ぎず、具体的な法的助言ではありません。また当職らの現状の見解に過ぎず、当職らの見解に変更が生じる可能性があります。具体的な案件については、当該案件の個別状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。