Photo by Ashwin Vaswani on Unsplash

NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン

2021.03.31

本書は当事務所のSo Saito、Joerg Schmidt “Buyer Beware – Digital Art and Non-Fungible Tokens (NFT) Legal considerations“を和訳したものです。英語版をご覧になりたい方はリンク先をご参照下さい。

ノンファンジブルトークン(NFT)は、最近になってますます人気が高まっています。2017年のCrypto Kittiesのような小さなブロックチェーンゲームを皮切りに、NBA Top Shotクリスティーズのオークションでデジタルアート作品に7,000万米ドルを集めたことで、一般にも知られるようになりました。

NFTに関する最近の実績と主要メディアの関心の高まりを考えると、NFTの仕組みと法的分類を詳しく見直す時期に来ていると思います。多くの場合、NFTが法的に何を表しているのかは依然として不明確であり、技術的な実装が不十分な場合には、買い手が何百万ドルも費やしたにもかかわらずNFTが無価値になってしまう可能性があります。

定義

NFTは、一般的に固有なものを表していると言われています。そのため、NFTで表現されたコンテンツが、誰でもダウンロードでき、自由に複製できることは意外と知られていません。先日クリスティーズのオークションに出品された「Everydays: The First 5000 Days」を例にとると、この高解像度の画像は、クリスティーズのウェブサイトから直接ダウンロードすることはできないものの、IPFS(Inter Planetary File System)に記録されており、誰でもアクセスしてダウンロードすることができます。IPFSに保存されているファイルは、デジタルアート作品の購入者が最終的に受け取るファイルと同じものなのです。

Beeple (b. 1981), Everydays: The First 5000 Days : クリスティーズで69,346,250米ドルで落札

この高解像度ファイルはIPFSに記録されており、誰でもアクセスしてダウンロードすることができます。ファイルサイズは326MBです。そのため、ダウンロードに時間がかかる場合があります。

では、コンテンツが固有のものでないとしたら、それはいったい何なのでしょうか?実は、それはトークンそのものなのです。NFTは、他のトークンとは異なり、交換可能なものではありません。それぞれのNFTには独自の特徴があり、その特徴に応じて経済的価値も異なります。ERC-20トークン10枚を、同じ種類のERC-20トークン10枚と簡単に交換することができますが、NFTの場合は、それぞれ特徴や経済的価値が異なるので、このようなことはできません。
適切に実装されたNFTは、それが表現するコンテンツと密接に結びついています。実装するデザインによっては、デジタル所有権やその他の権利を表し、複製が容易であるコンテンツを希少なものにすることができます。

一般的な使用例

NFTの一般的な使用例としては、デジタルアート、デジタルコレクション、ゲーム内のアイテムやワールド、ドメイン名、イベントチケット、ファントークンなどがあります。この記事では、デジタルアートに焦点を当てます。

NFTの詳細な分析と関連問題

NFTを扱う際には、なぜNFTが固有のものといえるのかを理解することが重要ですが、より重要なのは、NFTがそれによって表現されるコンテンツとどのようにリンクしているのか、そしてそのコンテンツがどこに保存されているのかということです。

イーサリアム上では、ERC-721とERC-1155という異なるNFTのトークン規格があります。ERC-721の場合、NFTには固有の識別子のマッピングが含まれており、各識別子は1つのアセット/コンテンツを表しています。また、NFTは、トークンの所有者を容易に追跡することができ、所有者の証跡や履歴が公開されます。ERC-1155の場合、識別子は単一のアセットではなく、アセットのグループを表しています。単一のトークンの出所を追跡することは、ERC-721supersetが実装されている場合にのみ可能です。出所を追跡する可能性があることから、デジタルアートでは一般的にERC-721規格が使用されています。

トークンを固有のものにするメタデータは、オンチェーンまたはオフチェーンのいずれかに保存されます。オンチェーンで何かを保存するにはコストがかかるため、通常当該何かはオフチェーンで保存されます。このような場合、NFTには外部ソースへのポインタ(通常はURL)しか含まれていません。

一度発行されたトークンのデータは不変であり、変更することはできません1。もっとも、外部コンテンツの保存方法によっては、同じことがコンテンツにも当てはまるとは限りません。NFTのポインタが、中央のエンティティやアーティスト自身が管理しているURLを指している場合、アーティストはそのURLに保存されている画像を交換したり、完全に削除したりすることができます。また、リンク自体が削除され、NFTが404のサイトを指すことになるかもしれません。

このような場合、NFTの所有者は、デジタルアートが元々保存されていたURLを指し示すNFTをまだ所有しているものの、最終的に非常に不利な立場に置かれることになります。最近、この問題に注目を集めるために、neothconfirmは自身のデジタルアートを絨毯の写真に置き換えました

このような事態を回避し、データを永遠に残すために、クリスティーズのBeepleのアート作品をはじめとする最近のプロジェクトでは、IPFSを採用しています。IPFSは、URLとは異なり、IPFSに保存されているファイルに固有のURLを非中央集権的な方法によって作成します。ファイルが変更されると、新しいURLが生成されます。つまり、オリジナルのファイルは常にNFTで参照されるURLに置かれていることになります。言い換えれば、コンテンツとトークンは密接に結びついているということです。

法的問題

技術的な実装と同様に重要なのが、NFTが法的に何を表すかという問題です。これは、アート作品の制作者や購入者のできることが制限される可能性があるため重要であり、一次販売と二次販売の両方で価格に影響します。また、資金決済法や金融商品取引法におけるNFTの法的分類、カストディや消費者保護に関する法律などの問題もあります。

著作権と所有権

アートは一般的に、所有権と著作権を中心とした複雑な問題を含んでいます。アート作品を制作する場合、一般的には制作者が最初の著作権者となります。著作権オフィスでの登録は必須ではありませんが、場合によっては著作権の記録を残すことが望ましいこともあります。デジタルアート作品の場合は、写真にデジタル署名をし、対応するNFTをブロックチェーンに記録し、高解像度ファイルをIPFSに保存することで、同じ結果を得ることができます。

しかし、いったいNFTは何を表しているのでしょうか?デジタル所有権2?著作権?それともその両方でしょうか?

これは、アーティストや、アーティストが作品を販売する際に使用するプラットフォームによって異なります。NFTは、少なくともデジタル所有権を表すものです。デジタルアート作品の所有権は、NFT自体を譲渡する際に移転します。ただし、著作権は、明示的に別段の合意がない限り、創作者に帰属します。

原著作権者であるアーティストは、コピーの作成、コピーの販売および配布、著作権で保護されたアート作品に基づく二次的著作物の作成、およびアート作品の公開に関する独占的権利を有しています。なお、Beepleの「Everydays: The First 5000 Days」の写真の中には、以前に他のオークションで落札されたものがあるにもかかわらず、今回の作品にそのまま掲載されていることを疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。これがその理由です。

著作権は、創作者に以下のような権利・保護を与えています。

 - 著作者人格権
 - 複製権
 - 二次的著作物の利用に関する権利
 - 頒布権、譲渡権および貸与権等
 - 公衆送信権等

著作権に比べて所有権はかなり限定されており、大まかに言えば非商業的な使用に限定されています。

創作者が商業目的(商品化、展示など)でアート作品を使用する権利を所有者に与えたい場合は、著作権を譲渡するか、アート作品を商業的に使用するライセンスを所有者に与えることができます。

なお、プラットフォームの中には、創作者に対して、商用・非商用を問わず作品を使用するためのライセンスを与えることを求めているものがあります。例えばOpen Seaの場合、創作者はプラットフォームに対し、アップロードされたアート作品を非商用および商用目的で使用するための世界的、非独占的、無償のライセンスを付与しています。

“本サービス上で、または本サービスを通じて、コンテンツを提出、投稿、または表示することにより、お客様は、当社に対し、(現在知られているまたは将来開発される)あらゆるメディアまたは配布方法で、当該コンテンツを使用、コピー、複製、加工、適応、修正、出版、送信、表示、および配布するための世界的、非独占的、かつ無償のライセンス(サブライセンス権を含む)を付与するものとします。このライセンスは、当社がお客様のコンテンツを世界中に公開すること、および他者に同じことをさせることを許可するものです。お客様は、このライセンスには、Open Seaが本サービスを提供、促進、改善する権利、および本サービスに提出された、または本サービスを通じて提出されたコンテンツを、他のメディアやサービスで配布、促進、または公開するために他の企業、組織、または個人が利用できるようにする権利が含まれていることに同意するものとします。Open Seaまたは他の企業、組織、個人によるこのような追加利用は、お客様が本サービスを通じて提出、投稿、送信、またはその他の方法で利用可能にしたコンテンツに関して、お客様に報酬を支払うことなく行われる場合があります。”

Open Sea、利用規約第9節

デジタルアート作品をユーザーに販売する際には、潜在的な紛争を回避するために、創作者は、どの権利をすでにプラットフォームに付与しているかを考慮する必要があります。創作者がプラットフォームに対し、作品を商業目的で使用する非独占的ライセンスを与えている場合、購入者に独占的ライセンスを与えることはできません。

Hashmasksは、所有権と著作権を明確に区別しています。Hashmasksはその利用規約の中で、NFTの購入者は作品の所有者になるだけでなく、購入した美術品を使用、複製、展示するための無制限の世界的な独占ライセンスが与えられると述べています。

“買い手はNFTを所有することになります。各Hashmaskはイーサリアムブロックチェーン上のNFTです。NFTを購入すると、基礎となるHashmask(アート作品)を完全に所有することになります。NFTの所有権は、スマートコントラクトとイーサリアムネットワークによって完全に取り次がれます。”

Hashmasks、利用規約第3条A.i.

“当社は、お客様が本規約を継続して遵守することを条件に、購入したアート作品を、それに基づく二次的著作物を作成する目的で、使用、複製、展示するための無制限、全世界的、独占的なライセンスをお客様に許諾します(以下「商用利用」といいます)。このような商用利用の例としては、アート作品のコピーを表示した商品(Tシャツなど)を製造・販売するためにアート作品を使用することなどが挙げられます。”

Hashmask、利用規約第3条A.iii.

創作者と購入者が著作権の譲渡やライセンスの付与について明示的に合意している場合でも、トークンには必ずしも正確な条件が反映されているわけではありません。自然言語で書かれているため、条件がコードの一部になることはありません。すべての関係者がNFTによって表される権利を常に完全に認識するためには、NFTがそれぞれの規約を指し示し、その規約をIPFS上に保存することが望ましいです。この場合、NFTは、所有権の追跡記録として機能するだけでなく、NFTによって表される権利に関する事項がより明確になります。

暗号資産規制とカストディ

日本の金融庁(FSA)によると、NFTは一般的には有価証券や暗号資産とはみなされません3。そのため、取引、取引の媒介サービス、保管サービスの提供は規制されておらず、ライセンスなしで行うことができます。

プラットフォームがBTCやETHなどの暗号資産を支払いに受け入れ、アーティストに代わって資金を管理する場合、プラットフォームは規制対象となる活動(保管サービスの提供など)に従事することになるため、FSAに暗号資産交換業者として登録する必要があります。

決済にはBTC、ETHなどが使用できます。法律や規制による制限はありません。

消費者保護

消費者保護に関する法律は、アーティストがビジネスとして作品を販売している場合にのみ適用され得ますが、ケースバイケースで検討することが必要です。一般的に、作品がプラットフォーム上で販売されている場合には、消費者保護に関する法律が適用される可能性があります。

AML/CFT規制

アートディーラーは規制されていないので、AML/CFT規制を遵守する必要はありません。

税金

NFTの売却益は、日本の税法上、雑所得に分類されます。そのため、最大45%の累進課税と10%の住民税が課せられます。


  1. スマートコントラクトのメタデータを変更することは多くの場合まだ可能です。そのため、各スマートコントラクトを慎重に分析する必要があります。
  2. なお、一般に民法上「所有権」は有体物についてのみ認められるとされており(民法206条以下)、デジタル所有権は通常の所有権とは異なるものです。本書ではデジタル所有権を単に所有権と呼ぶことがあります。
  3. 正確には通常のNFTは、解釈によって有価証券ではないことに、FSAのパブリックコメント回答等によって暗号資産ではないことになります。