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イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法

2020.07.31

現在、世界中でDecentralized Finance(DeFi、分散型金融)が勃興しつつあり、その一分野であるイールドファーミング/リクイディティマイニングも注目を集めている。

イールドファーミング/リクイディティマイニングの安全性はまだ確認されていないが、今後、より発展する可能性もあると考え、その一つであるCompoundの仕組みを紹介し、日本法上での取り扱いを検討する。

I 本稿のまとめ

1 用語

 用語解説
1DeFi証券、保険、デリバティブ、レンディングなど金融分野において、ブロックチェーンを活用したアプリケーションによって構成される金融システムを指す。中央集権の管理者を必要とせず、分散型ネットワークによる自律したエコシステムで、誰でもアクセス可能かつ透明性の高い金融システムやプロジェクトを総称する。
2イールドファーミング暗号資産やステーブルコインをDeFiのレンディングなどで運用し、利息収入などの受動的な収入を得ること。
3リクイディティマイニングDeFiプラットフォームに流動性を提供することによって、利息以外の何らかの報酬を得ること。

2 Compoundと日本法

現時点の公表資料等を分析する限り、下記のように整理され本邦の規制対象外と考えられるのではと思われる。但し、事実関係により結論は異なりうる等、本稿末尾の留保事項をご参照頂きたい。

 項目結論
1cTokenの性質  電子記録移転権利ではなく暗号資産となると考えられる。 なお、レンディングに対しリワードが与えられるが、これは収益の分配ではないと考えられ、よってcTokenは集団投資スキームや投資信託の権利を表すものではないと考えられる。
2CompTokenの性質暗号資産となる。
3レンディングと貸金業法等の規制レンディングは日本法上の解釈としては消費貸借又は消費寄託になると思われる。暗号資産の消費貸借及び消費寄託、ステーブルコインの消費貸借及び消費寄託のいずれに対しても、貸金業法や銀行法、出資法などの規制は適用されない。
4スマートコントラクトへのロックとカストディ規制ステーブルコインのスマートコントラクトへのロックには規制はない。 暗号資産のスマートコントラクトへのロックは消費寄託と考えられる可能性があるが、その場合でも、秘密鍵を管理して暗号資産を移動できる権限を有する管理者が存在しない場合、カストディ規制の適用はない。
5ボロウィングと貸金業法等の規制ボロウィングには、貸金業法等の規制は適用されない。  
6cTokenの発行レンディングに対して、それを証するものとしてcTokenが発行されるが、これは暗号資産の売買や交換には該当せず、暗号資産交換業には該当しない。
7COMPTokenの発行貸手・借手にガバナンストークンであるCOMPTokenが配布されるが、これは暗号資産の売買や交換ではなく、暗号資産交換業には該当しない。

II 事実関係の整理

1 イールドファーミング/リクイディティマイニングとは何か

イールドファーミング(直訳すると利回り農業)とは、暗号資産やステーブルコインをDecentralized Financeのレンディングなどで運用することにより、利息収入などの受動的な収入を得ることをいう。

イールドファーミングとよく同時に行われる行為として、リクイディティマイニング(直訳すると流動性採掘)がある。DeFiに流動性を提供することにより利息や配当以外の何らかの報酬を得ることをいい、例えば、Compoundでは流動性提供者にCOMPTokenというガバナンストークンが提供される。

2 Compoundの仕組み

Compoundは、Ethereumのメインネット上で稼働する分散型の暗号資産の銀行/マネーマーケットであり、イールドファーミング/リクイディティマイニングの最大手プラットフォームの一つである。

ユーザーは自己保有のトークンをコントラクトに貸し付けて収益を得ることができる。また、ユーザーはコントラクトに担保を提供することにより、コントラクトからトークンを借り入れることをできる。

Compoundは分散的、自律的に運営されており、特定の中央集権の管理者が存在しない銀行/マネーマーケットを目指しているようだ。具体的な貸出や借入の仕組みは以下のとおりと思われる。

(1) 貸出の仕組み

  1. ユーザーは、利息を得るため、スマートコントラクトに暗号資産やステーブルコインをロックする。現在の対象資産としては、DAI、USD Coin、Ether、0x、Augur、Wrapped BTC、Basic Attention Token、SAIの8種類がある。
  2. ロックをした場合、事前に設定された為替レートでcTokenがユーザーに交付される。例えばEtherをロックした場合、cEtherが発行される。
  3. ユーザーはcTokenを保有することにより利息を獲得できる。具体的には、cTokenはロックされた資産の引き出し時に償還されるが、cTokenの価値がロック資産に対して時間の経過とともに増加するものとされる。例えば、年利1.09%で100DAIをSupplyした場合、1年後にcDAIを償還すると101.09DAIの返還を受けられる。
  4. なお、この収益は、後述する借手によって支払われる金利に経済的に依存している。利率については、貸出と借入の需要と供給に踏まえて決定されているようであり、日々変動している。
  5. 上記の金利に加え、貸手はCOMPTokenを受け取ることができる。COMPTokenは、保有者がプロトコルの変更を提案したり、投票することを可能にする、いわゆるGovernance Tokenの役割を果たしている。COMPTokenは、海外の取引所で上場されている。

Compoundの取扱通貨と利率[1]

(2) 借入の仕組み

  1. cTokenを保有するユーザーはCompoundを利用して暗号資産やステーブルコインを借りいれることができる。
  2. 借入に際してユーザーはcTokenを担保として預けいれる。ユーザーが借り入れることができる最大額は、預託された資産に担保係数を乗じて計算される。
  3. 担保係数はCOMPTokenの保有者によって設定される。担保係数は一般的に、市場時価総額が高い/流動性が高い資産ほど高く、流動性の低い市場時価総額が低い/流動性が低い資産ほど低くなる。
  4. 例えばETHの担保係数は現在0.7に設定されており、プロトコルにETH 100を貸し出ししているユーザーは、Compoundを介して70ETH相当の資産を借りることが可能となる。なお、EtherをロックしてDAIを借り入れる、DAIをロックしてEtherを借り入れるなども可能である。
  5. ユーザーの借入残高が、未払いの利息の増大、担保価値の低下、借入資産の価格の上昇などにより借入能力を超えた場合、提供された担保はその時点市場価値から割引を行った上で清算される。
  6. 上記の支払義務はあるのもの、借手はCompoundプラットフォームを利用することによりCOMPTokenを報酬として受け取ることができる。なお、毎日、約2,880個のCOMPが分配されており、そのうち50%が貸主に、50%が借手に分配されている。

III 日本法の分析(各トークンの性質)

1 cTokenの性質 – レンディング(Supply)の性質

(1) 初めに

日本法上の規制の検討の前提として、各トークンの性質について検討する。

まず、cTokenが暗号資産となるのか、電子記録移転権利等として有価証券となるのかが問題となる。

Compoundのレンディングでは、ユーザーがコントラクトに対して暗号資産やステーブルコインを貸し付け、それに対して利息を得られる。他方、コントラクトはユーザーに暗号資産等を貸し出すことにより利息を得る。Compoundと同等の経済的仕組みは、中央集権型金融では、銀行業として行われる場合もあり、また証券会社のMRF/MMFとして行われる場合もある。更に日本のクラウドレンディングはファンド型のスキームで行われている。 日本法で評価した場合に、Compoundのレンディングが貸付や預託になるのか、ファンド(集団投資スキーム)やMMF(外国投資信託)に該当するのかにより、cTokenの法的評価が異なってくることから、レンディングの法的性質を検討する必要がある

(2) 集団投資スキーム

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となる。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員兼、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。) (B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利 (C) 次のいずれにも該当しないもの イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利 ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略)

外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされている。ただ、法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえよう。しかしながら、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり[2]、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとする。

 また、上記(B)のうち、「事業に充てて」という点も広く解釈されており、例えば、スマートコントラクトが出資を受けた暗号資産等の貸付を行う、という行為も事業と考えられる。

よって上記(C)に関し、Compoundでレンダーが得る収入が日本法上、利息なのか収益配当なのかが問題となる。この点、利息と収益配当の限界事例は判然としないが、通常の利息の場合には予め定められた利率(固定利率の場合もあれば変動利率の場合もある)で支払いがなされ、収益の場合には事業で実際に得られた収入を踏まえて事後的に分配額が決定される。また、利息の場合、元本全額の償還が予定されるが、収益の場合、事業が失敗した場合には損失が分配されることもある、という差があると思われる。

Compoundの利息はマーケットの需要と供給に応じて日々変動はするものの、オラクルが需要と供給を見ながら予め定められた利率が適用されるものと思われ、かつ損失の配分も予定されていないように思われる。そうすると、日本法上も、収益配当ではなく利息の支払いと考えられよう。

以上のように考えると、Compoundのレンディングは集団投資スキームではないと議論可能と考えられる。

(3) MMF(外国投資信託)

なお、経済的にはMMFにも類似することから外国投資信託への該当性も問題となる。この点は、形式的に信託ではないことや、金銭を信託するものではなく暗号資産を移転するものであること、集団投資スキームでの議論と同様に、収益配当ではなく利息と考えられることから、外国投資信託には該当しないと考えられる。

(4) 消費寄託又は消費貸借の場合のcToken

以上のように、Compoundは集団投資スキームでも投資信託でもない。そうだとするとレンディングの法的性質は消費貸借又は消費寄託のいずれかに該当する(このいずれに該当するかは下記IVの2で議論する)。そして、cTokenは消費貸借又は消費寄託に対して発行されるトークンであり、ERC-20規格によって発行されることから、外部で他の暗号資産と交換可能と思われる。従ってcTokenは資金決済法上の暗号資産に該当すると考えられる。

2 COMPTokenの性質

COMPTokenはガバナンストークンであり、配当等を得られるものではない。また、ERC-20規格によるトークンであり上場されていることから、外部の取引所等で他の暗号資産と交換可能である。COMPTokenは日本法上の暗号資産に該当すると考えられる。

IV 日本法の分析(各行為に対する規制)

1 レンディング(Supply)と貸金業法等

暗号資産の消費貸借及び消費寄託、ステーブルコインの消費貸借及び消費寄託のいずれにも、貸金業法や銀行法、出資法などの規制は適用されない。

2 レンディングによるデポジットと資金決済法

レンディングの結果、ステーブルコインや暗号資産がスマートコントラクトにロックされる。

まず、ステーブルコインのロックには規制はない。
他方、暗号資産については、消費貸借であれば規制はなく、カストディ(寄託)であれば暗号資産交換業規制が適用される可能性がある。

(1)消費寄託と消費貸借

民法上、「消費寄託は、目的物(の価値)を寄託者が自ら保管する危険を回避しようとするものであって、寄託の利益が寄託者にあるのに対し、消費貸借は、借主がその目的物を利用するためのものであり、ここに消費寄託と消費貸借の違いがある」[3]とされる。そのように考えると、Compoundでは、スマートコントラクトが運用を行うことに主眼があり、消費貸借と考えることができる。

他方、寄託と貸付の差異につき、暗号資産交換業者のガイドラインでは下記のようにされている。

ガイドライン Ⅰ-1-2-2③ 内閣府令第23条第1項第8号に規定する暗号資産の借入れは、法第2条第7項第 4号に規定する暗号資産の管理には該当しないが、利用者がその請求によっていつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど、暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

Compoundにおけるレンディングは、いつでも返還を求めることが出来るようであり、上記ガイドラインとの関係では、寄託と考えられる可能性がある。

ただ、オーバーナイトのローンが存在し、他方、定期預金も存在するなど、上記のガイドラインの「いつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど」はあくまで例を示すものであり決定的なものではなく、「暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合」となるかが重要と思われる。

(2)スマートコントラクトに対する寄託

Compoundのレンディングは消費貸借であると考えて良いのでは、と思われるが、仮に寄託と考えられても、Compoundでは、スマートコントラクトに対する寄託であり、管理者は存在しない。Compoundでは秘密鍵を管理する事業者はおらず、コントラクトからの引き出しは(a)発行されたcTokenを返却すること、(b) cTokenを担保に提供して借入をすること、によってのみ可能なようだ。Codeに従わずに引き出しできる者がいない点で、通常の取引所やカストディアンとは異なる。

本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一 切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、Compoundで秘密鍵を管理する事業者がいない場合、仮に消費寄託類似の行為とされたとしても、カストディ規制には服さないと考えられる。

3 ボロウィングと貸金業法

CompoundはユーザーからcTokenを担保に受け取り、暗号資産を貸し出す。この性質は消費貸借となると思われるが、暗号資産の消費貸借には特に規制はない。

4 cTokenの発行と暗号資産交換業

レンディングに対して、それを証するものとして暗号資産であるcTokenが発行されるが、これは暗号資産の売買や交換には該当せず、暗号資産交換業には該当しないと議論可能と考える。

暗号資産交換業では、「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」(資金決済法2条7項1号)を交換業として規制する。一般に売買とは「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生」じ(民法555条)、交換は「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる」(民法586条)。この売買や交換と消費貸借(民法587条)や消費寄託(民法566条)とは区別されている。

Compoundでは、cTokenを返還すればロックした暗号資産を取り戻せる等の仕組みがあり、このような消費貸借又は消費寄託の場合、ユーザーからコントラクトに暗号資産の財産権が移転した訳ではない、と考えられよう[4][5]
その場合、レンディングを証するものとしてcTokenを発行すること自体には規制はない。

5 COMPTokenの発行と暗号資産交換業

現在、Compoundではレンディングを行ったユーザー、ボロウィングを行ったユーザーに対して、COMPTokenの発行がなされる。COMPTokenの発行は、Compoundを利用したことによる報酬、一種のおまけ的なものと考えられ、そうだとすれば暗号資産の売買等には該当せず、規制はない。

Ⅴ 留保事項

  • 本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議を記載したものにすぎません。
  • 事実関係はWhitePaper等の公表資料を分析したものであり、事実関係により結論は異なりえます。また、当職の現状の考えに過ぎず、当職の考えにも変更がありえます。
  • 本稿は、イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundなどの利用を推奨するものではありません。
  • 本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


[1] https://compound.finance/markets

[2] 発行体がいない暗号資産であるビットコインに関して「権利」なのか否かについては議論があり、(a)権利ではないとする説、(b)物権又はこれに準じるものを認める見解、(c)財産権を認める説、(d)プログラム・コードに対する合意(同意)を根拠として権利を認める見解その他所有権類似の権利であるとする説がある(加毛明「仮想通貨の私法上の法的性質――ビットコインのプログラム・コードとその法的評価」16頁から)。なお、このような議論を避けるためか、資金決済法上は暗号資産の定義では「権利」という言葉ではなく、「財産的価値」という言葉が使用されている。

[3]  「民法(債権)関係の改正に関する検討事項 – 法制審議会民法(債権関係)部会資料<詳細版>」659頁より

[4] 理論的には、消費貸借でも財産権が一旦移転している、と考える議論も可能であろうが、そのように考えると、金銭の消費貸借に対して暗号資産を譲渡担保に提供する場合は「売買」ではないので暗号資産交換業ではないが、暗号資産の消費貸借に対して暗号資産を譲渡担保に入れた場合は、「交換」であって暗号資産交換業である、等の不自然な議論になると思われる。

[5] なお、これに対して仮にCompoundや他のイールドファーミング/リクイディティマイニングが集団投資スキームに該当する場合には、cTokenの発行は電子記録移転権利の発行であり、有価証券の発行になると思われる。この場合、cTokenの募集には第一種金融商品取引業が必要であり、また広く公衆から資金を集める場合、公募として有価証券届出書などの作成が必要となる。