Monthly Archives: 2021年9月

本稿では、Non Fungible Token(NFT)のスカラーシップ(奨学金)及びYield Guild Games(YGG)に関する法規制を検討します。
なお、NFTスカラーシップ及びYGGは主として海外法準拠で海外を中心に運営されていると思われ、日本居住者が関与しない限り日本法は無関係です。本稿では、仮に類似の仕組みを日本で導入する場合、どのような法律が適用されるか、という観点から、NFTスカラーシップ及びYGGを分析するものです。

参考:当事務所では別途、NFTや暗号資産ファンド等に関連する以下の記事を掲載しておりますので、ご関心ある方はあわせてご参照下さい。

(1) 「ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討」(2021年9月2日付)
https://innovationlaw.jp/play-to-earn-2/

(2) 「コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について」(2021年6月29日付)
https://innovationlaw.jp/issue-multiple-nft/

(3) 「NFT:日本のマーケット状況、各団体のガイドライン、日本の規制」(2021年4月27日付)
https://innovationlaw.jp/nft-market-and-guidelines/

(4) 「NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン」(2021年3月31日付)
https://innovationlaw.jp/nft-buyer-beware-jp-2/

(5) 「イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法」(2020年7月31日付)
https://innovationlaw.jp/yield-farming-and-liquidity-mining-in-japan/

(6) 「日本のファンド(集団投資スキーム)規制」(2020年6月30日付)
https://innovationlaw.jp/funds-regulation-japan/

(7) 「仮想通貨ファンドについて」 (2018年6月1日付)
https://innovationlaw.jp/virtual-currency-funds/

I NFTスカラーシップ

(1) 概要

NFTスカラーシップ(奨学金)とは、play-to-earn(ゲームで稼ぐ)可能なブロックチェーンゲームにおいて、NFT保有者(マネージャー)がプレイヤー(スカラー)にNFTを貸し出し、当該NFTを利用してゲームプレイで得た利益をマネージャーとスカラーでシェアする仕組みを意味します。デジタルペットNFTの育成バトルゲーム『Axie Infinity』で主に利用されている仕組みであり、その他トレーディングカードNFTのバトルゲームである『Job Tribes』においてもスカラーシップシステムの実装計画が発表されています1。NFTスカラーシップにより、マネージャーが複数のスカラーにNFTを貸し出す等して、自らゲームプレイすることなく効率的に稼ぐことが可能となり、NFTを自ら獲得できない者にとってもスカラーになることでplay-to-earnができるようになるという相互協力的な収益モデルを実現しています。

(2) Axie Infinityのスカラーシップ

Axie Infinityを始めるには先ずデジタルペットNFTであるAxieを3体購入する必要があり、購入には2021年8月現在で1000ドル以上のコストが必要です。このようなエントリーハードルが高いゲームにも関わらず、プレイヤー数が急増している要因に、スカラーシップの存在があります。Axie Infinityのスカラーシップでは、スカラーがAxie Infinityをプレイすることにより、ゲーム内通貨であるSmooth Love Potion(SLP)というトークンを稼ぎ、それをマネージャーとの間で分配します。

Axie Infinityにおけるスカラーシップの方法
① マネージャーがスカラーに貸し出すアカウントとAxieを用意。
② コミュニケーションアプリDiscord等でスカラー候補を見つける。
③ スカラー候補との間でスカラーシップを実施する内容の契約を締結。
④ スカラーにAxie Infinityをプレイさせて、マネージャーがSLPを獲得。マネージャーは獲得したSLPを分配。
⑤ なお、スカラーが有する情報ではスカラーはゲームのプレイは出来るものの、Axieの売却処分等はできないことが通常のよう。
画像出典: CT Analysis NFT『Axie Infinityの概要と動向の調査レポート』p7(https://crypto-times.jp/ctanalysis-nft-1/)

(3) YGGによるスカラーシップ仲介制度

複数のNFTゲームのコミュニティ(ギルド)を束ねるYield Guild Games(YGG)と呼ばれるプロジェクトは、Axie Infinityのマネージャーとスカラーとの仲介サービスを提供し、報酬としてSLPを獲得します。以下、IIでYGGの概要を紹介します。

画像出典: NFTnavi「世界No.1NFTゲーム「Axie Infinity」の人気の秘密に迫る!急成長を支える仕組みとは?」https://nftnavi.net/no1-nftaxie-infinity/

II YGG

(1) NFTの取得・運用のDAO

YGGは、投資家等から出資を募り、NFTを取得・運用することで、利益を獲得する自律分散型組織(DAO)です。

YGGは、『Axie Infinity』におけるスカラーシップ仲介の他、『The Sandbox』、『League of Kingdoms』などのメタバースやゲーム内でアイテムとして用いられるNFTの売買や、レンディング等でplay-to-earnにより利益を獲得しており、それを投資家等に分配しています。今後、投資対象を他のブロックチェーンゲームにも拡大する方針を掲げています。

(2) 組織運営

YGGの組織運営は、DAOの仕組みが採られており、YGGトークン保有者の提案と投票により意思決定がなされ、これに基づきスマートコントラクトで自動執行がなされています。また、特定のゲームタイトルや、YGGの特定の活動に焦点を絞って組成されたSubDAOが存在し、SubDAOのトークンの一部がYGGのメインギルドに提供されるなど、重層的な組織により運営がなされています。

出資者らに配られるYGGトークンは、UniswapSushiSwapHuobi等で他の暗号資産と交換可能であることに加え、YGGトークン保有者は、YGGが提供するVaultにYGGトークンをステークすることで報酬トークンを得ることもできます。

III スカラーシップ、YGGの法的検討のまとめ

NFTスカラーシップを実施する場合にはスカラーとマネージャーとの間で適切な契約を締結する必要があります。また、NFTに投資するファンドを組み合わせる場合には、金融商品取引法等の法規制の検討を必要とする場合があります。以下そのまとめです。

[スカラーシップについて]

  • NFTのスカラーシップには、NFTの使用料をスカラーから獲得する貸借型、スカラーから役務の提供を受ける役務型、マネージャーとスカラーがplay-to-earnの共同事業を行うファンド型などのタイプが考えられる。現在のスカラーシップ2は、NFTの使用権を貸借した上、一定の時間のゲームプレイや一定程度のSLPの取得ノルマを課すといった貸借型と役務型の複合的な契約のように思われる。
  • NFTは金銭でも暗号資産でもなく、貸借型、役務型、ファンド型、いずれによってもNFTスカラーシップの規制はないと考える。
  • NFTスカラーシップの仲介行為は、NFTが金銭にも暗号資産にも該当しないため、業規制の対象にはならないと考えられる。

[YGGによるNFT投資について]

  • 投資家の出資金をNFTに投資するようなビジネスモデルは、集団投資スキーム持分の取得勧誘行為として第二種金融商品取引業や適格機関投資家等特例業務の規制の対象となる可能性がある。また投資家の権利をトークン化して販売する場合には、電子記録移転権利となり開示規制については第一種金商業の、取得勧誘行為については第二種金商業の規制にそれぞれ服する可能性がある。
  • (現在は必ずしもそのような体制ではないと思われるが)上記が完全にDAOにより実行される場合には金融商品取引業等を行う「者」が存在しないとして、規制の対象外となる可能性がある。
  • NFTに投資して運用する行為は、「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」には該当しないため投資運用業等の規制の適用はなく、また、投資目的でのNFTの売買も暗号資産交換業の規制の適用はない。

IV 各法規制の具体的な検討

1 NFTスカラーシップの法的性質

NFTスカラーシップはDiscord等を使用して、個別に口約束等で行われており、法的構成も準拠法も明らかではない場合が多いと思われます。この点、NFTスカラーシップを日本で導入する場合や、日本法で解釈する場合、以下のような構成が考えられます。

(1) 貸借型
マネージャーがスカラーに対してAxieを使用及び収益させることを約束し、その使用料として一定の金額を支払うことと、契約終了後にAxieを返還することを約束する場合には、賃貸借(民法601条)類似の無名契約3が成立しているものと考えることができます。
当該契約に賃貸借の規定が類推適用される場合には、スカラーによる第三者へのAxieの転貸禁止(民法612条1項)などが生じ、契約期間を定めなかった場合には解約の申し入れから1日経過後に契約終了することになると思われますが(民法617条1項3号)、無名契約である以上、民法のいずれの規定が適用されるかは不明確であるため、可能な限り契約においてルールの明確化を図る必要が特にあるように思われます。
更に、Axieの使用には著作権法上の「利用」4のような権利者保護のための制約がなされているわけではないので、契約中で使用方法(例えば、提供するAxieのパラメータの内容、第三者への譲渡禁止、Axieの交配禁止 等)についても適切な制限を加える必要があります。

(2) 役務型
マネージャーがスカラーに対して、Axie Infinityの1ヵ月の最低プレイ時間を指定したり、毎日のデイリークエストやログインボーナス取得を指示したり、ブリーディングにより特定の数値を上回るパラメータのAxieを作成する指示をしたり、アドベンチャーモードやアリーナプレイの実施回数を指定したりと、特定の業務の履行を求める場合があり得ます。または、特定の期間に一定の数量のSLPを稼ぐことを求める場合もあり得ます。
このように、特定の事務の処理や仕事の完成をすることをスカラーが約し、これに対してマネージャーが報酬を支払うことを約する場合には、準委任契約(民法656条)又は請負契約(民法632条)が成立することが考えられます。これらの場合、スカラーにはSLPの引渡義務(民法632条、646条)が生じ、マネージャーはスカラーに仕事の完成を求めることができること等(民法559条・562条)が考えられます。
現在、行われているAxieのスカラーシップでは、サブアカウントを設定し、そのサブアカウントで一定の時間のゲームプレイや一定程度の収益を上げることを求める契約にもとづき、一旦スカラーに入った収益のSLPがマネージャーに渡り、マネージャーが報酬をスカラーに渡す、という仕組みと思われます。これは、イメージとしては、農地を小作人に貸して/耕させて収益を上げる契約とも比較することができ、利用権の貸借と労働力の提供契約の中間的な契約と考えることができるのではと思われます。

(3) ファンド型
マネージャーがAxieを現物出資し、スカラーがplay-to-earnを実施する形で労務を提供することを約したうえ、利益を両者で分配するという仕組みを取ることにより、スカラーシップ契約を任意組合(民法667条)や匿名組合(商法535条)として構成することもあり得るものと思われます。
例えば任意組合の場合、マネージャーがAxieを出資し、スカラーを業務執行者(民法670条2項)と定めてplay-to-earnをさせる場合等が想定されます。この場合、マネージャーは業務執行権を失うものの、スカラーの業務の状況を検査する権利を有します(民法673条)。
なお、任意組合では、当事者の債務不履行を理由として契約を解除することができないため(民法667条の2第1項)、スカラーがplay-to-earnを適切に行わないような場合には、組合の解散請求(民法683条)等を行うことになります。その他、業務執行組合員となったスカラーは、正当な事由が無ければ辞任することができない(民法672条1項)などの規定の適用があります。

  マネージャーの権利・義務 スカラーの権利・義務 その他
貸借型
  • 一定の使用料の支払請求権
  • Axieを使用収益させる義務
  • Axieが契約で定めた内容に適合しない場合の代替物の送付義務 等
  • 契約終了時のAxie返還義務
  • 善良な管理者の注意によるAxieの保存義務
  • Axieの転貸禁止
  • 使用料の減額請求権 等
  • 存続期間を定めた場合にはその満了により契約終了し、存続期間の定めのない場合には、当事者による解約申し入れ後1日の経過をもって終了する 等
役務型
  • 報酬の支払義務
  • Axieを使用させる義務
  • スカラーの義務の未履行に関する追完請求権、報酬減額請求権 等
  • 特定の事務の処理や仕事の完成をする義務
  • 取得したSLPの引渡義務
  • 履行不能時の既履行部分の報酬支払請求権 等
  • 存続期間を定めた場合にはその満了により終了

    (請負の場合)

  • マネージャーはスカラーの損害を賠償する等していつでも契約解除可能

    (準委任の場合)

  • 各当事者は原則としていつでも契約解除可能 等
ファンド型
  • Axieの現物出資義務
  • 業務の状況を検査する権利
  • 利益分配請求権
  • 組合解散請求権 等
  • 労務の出資義務
  • 特定の事業を行う義務 等
  • 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能、存続期間の満了その他契約で定めた解散事由の発生により解散
  • 清算による残余財産については、各組合員の出資の価額に応じて分割 等

2 NFTスカラーシップに関する業規制

スカラーシップに関する業規制としては、主に、貸借型については貸金業の規制が、ファンド型については金商業の規制が、それぞれ検討対象になるものと思われます。
なお、現在、スカラーシップとして主に用いられていると思われる役務型については、特段問題となるような業規制はありません。

(1) 貸金業規制

①概要
貸金業とは「金銭の貸付又は金銭の貸付の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又は当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む。)」を意味し(貸金業法2条1項)、貸金業を行うためには登録を受ける必要があります(貸金業法3条1項)。

②NFTスカラーシップについて
ゲームプレイヤーへのNFTの貸付が貸金業に該当しないかが問題となりますが、NFTは、金銭にも通貨建資産にも該当しないデジタルデータであるため、これを業として貸付けても「貸金業」には該当しないと考えられます。

(2) 金商業規制

①概要
金商法では、金融商品取引に関する広範な行為(金商法2条8項)を金融商品取引業と捉えて、その事業を行うための包括的な登録制度(金商法29条)を採用しています。そのため、例えば、いわゆる集団投資スキーム持分である「出資した金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む)を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利」(金商法2条2項5号)の取得勧誘をする場合には、第二種金商業(金商法28条)の登録が求められます。

②NFTスカラーシップについて
マネージャーがその保有するNFTをスカラーに出資する場合にも金商業としての規制が適用されるかについては、NFTが「金銭(これに類するものとして政令で定めるもの)」(金商法2条2項5号、金商法施行令1条の3、金商定義府令5条)には該当しないため、NFTを出資しても集団投資スキーム持分には該当せず、金商業としての規制は適用されないことになります。

3 YGGモデルに関する業規制

(1) YGGによるスカラーシップの仲介について
YGGは、マネージャーとスカラーとのスカラーシップに関する仲介サービスを提供しています。これについては、上記IV 2のとおりNFTスカラーシップが貸金業にも金商業にも該当しないことから、これを仲介するビジネスを提供したとしても特段の規制は及ばないものと思われます。

(2) YGGによる出資の勧誘について
YGGは、2021年8月19日の公式ブログにて大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)等から、460万ドルの資金調達を実施したことを公表するなど、複数の投資家から資金調達を行ったうえ、NFTに投資を行い、その収益を投資家に対して分配しているようです。日本で取得勧誘を行った場合には、このようなビジネスにより投資家が取得することとなる権利は集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)に該当することがあるものと思われます。そして、集団投資スキーム持分の取得勧誘を行う場合には、第二種金融商品取引業の登録(金商法28条2項1号・2条8項7号、29条)や適格機関投資家等特例業務の届出(金商法63条)が必要になります。また、この権利がトークン化して販売されている場合には、電子記録移転権利(金商法2条3項)として、第一項有価証券としての開示規制が課せられることになりますが(金商法3条3号ロ)、その取得勧誘行為については、引き続き第二種金商業の登録が必要となります。
もっとも、(今現在は必ずしもそのような状況ではないのではとも思われますが)集団投資スキーム持分の取得勧誘が、完全にDAOにより実施され、中央集権的な管理者がいない場合には、金融商品取引業等を行う「者」が存在せず、業規制の対象外となる可能性があるように思われます。そのため、NFTへの投資ビジネスを実施の際には、集団投資スキーム持分の取得勧誘行為についての運営者がいないかを慎重に検討する必要があります。
なお、専らNFTを投資対象とするファンドについては、主として有価証券に投資するファンドではないため、開示義務(金商法4条等)は課されません。

(3) NFTへの投資運用に関する法規制
YGGのように投資対象が、専らメタバースやゲーム内でアイテムとして用いられるNFTである場合には、「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」(金商法2条8項12号ロ)には該当しないため、投資運用業(金商法28条4項1号)の規制の適用はないと思われます。
また、NFTに投資をする行為が暗号資産交換業(資金決済法2条7項)に該当しないかについても、NFTが通常暗号資産ではないことや5、暗号資産について投資目的で売買を行う行為は「業として」売買を行っているとは一般的に考えられないので6、NFTへの投資行為は暗号資産交換業にも該当しないものと思われます。

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
NFTスカラーシップやAxie Infinity、YGGに関する情報は、Axie Infinity公式ホワイトペーパーYGG公式ホワイトペーパー、各種記事の内容を参考に記載したものであり、内容の正確性は保証できず、実際の事実関係により分析結論は異なりえます。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、NFTスカラーシップ、Axie Infinity、YGGその他のブロックチェーン関連サービスの利用を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


本稿では、Axie Infinityをはじめとする、ユーザーが報酬を「稼ぐ」(”play-to-earn”)ことを想定したブロックチェーンゲームについて、日本法上の問題点を検討します。

参考:当事務所は2018年初めからブロックチェーンゲームに関する助言を行っており、一般的なブロックチェーンゲームやNFTに関しては下記の記事も掲載しておりますので、合わせてご参照下さい。

① ブロックチェーンゲームと日本法(2018年11月)
https://innovationlaw.jp/blockchain-games-under-japanese-laws/

② NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン(2021年3月31日)
https://innovationlaw.jp/nft-buyer-beware-jp-2/

③ NFT:日本のマーケット状況、各団体のガイドライン、日本の規制(2021年4月27日)
https://innovationlaw.jp/nft-market-and-guidelines/

④ コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について(2021年6月29日)
https://innovationlaw.jp/issue-multiple-nft/

I ブロックチェーンゲームとplay-to-earn

ブロックチェーンゲームは、ブロックチェーン技術を利用したゲームであり、多くの場合、ゲームアイテムがブロックチェーン上のトークンとして発行され、当該ゲームアイテムがブロックチェーン上で移転可能とされています。
最近では、ブロックチェーンゲームの特質を用いて、ゲームのプレイを通じて暗号資産や法定通貨と交換可能なトークンを提供することで、ユーザーがリアルマネーを稼ぐことができる”play-to-earn”という新しいゲームモデルが話題となっています。
とりわけ、ベトナムのSky Mavis社が運営するAxie Infinityでは、その公式Twitterが、2021年8月6日に、1日あたりのアクティブユーザー数が100万人を超えたと報告しています。また、DappRadarのデータによれば、同年9月2日時点において、Axie InfinityのNFT(ゲームアイテム)の取引総額は11.7億ドルを超えています。Axie Infinityユーザーの国籍は、フィリピンやインドネシアなどの賃金の安い発展途上国が多く、ゲーム自体の面白さやキャラクターデザインの魅力などに加え、このplay-to-earnモデルで「稼げる」ことで話題となり、ユーザー数を伸ばしたことが推測されます。

なお、Axie Infinityは日本語に対応しておらず、主に日本国外の居住者に向けて提供されています。このように、外国企業が外国居住者に対してゲームを提供する場合、日本法規制の適用はありません。実際には日本居住者もプレイしていることから理論的には日本法も適用され得ますが、日本プレイヤーが多数存在する等でなければ実務上は日本では大きな問題にはならないとは思われます。そのようには考えられるものの、本稿では、日本居住者を主たるターゲットとしてplay-to-earnのゲームが提供された場合に、日本ではどのような法律が適用されるか、という観点からAxie Infinityを例として検討することで、play-to-earnのブロックチェーンゲームにおける種々の法的問題点を概観します。

公式ホワイトペーパーより引用(https://whitepaper.axieinfinity.com/)

II Axie Infinityにおけるplay-to-earn

Axie Infinityは、主にAxieというキャラクターを育成し、相手と戦わせるゲームです(以下、ゲーム名と区別するために、当該キャラクターを片仮名で「アクシー」と表記します。)。ユーザーは、ゲームをプレイするために、まず3体のアクシーを購入する必要がありますが、アクシーは見た目や能力が異なるNFTとして構成されているため、いくつかのマーケットプレイス1で自由に取引をすることができます。
ユーザーは、デイリークエストクリア報酬、アドベンチャーモード(PvE2)の攻略、アリーナ(PvP3)の攻略、シーズンのランキング報酬などによって報酬を獲得することができます。そのほか、アクシーをブリーディングして新しいアクシーを生み出して販売したり、スカラーシップという制度で他人にアクシーを貸し出して報酬の一部を受け取ったりすることができます。さらに、LANDという仮想空間上の土地を購入し、その土地で産出された資源やトークンの一部を獲得する機能の実装も予定されているようです。
アドベンチャーモードやアリーナをプレイするためにはエナジーが必要であり、エナジーは、保有するアクシーが多いほど時間当たりの回復量が多くなるよう設定されています。また、ブリーディングで新しいアクシーを生み出す際には、一定のSLPというトークンの消費を伴います。


公式ホワイトペーパーより引用(https://whitepaper.axieinfinity.com/)

III play-to-earnモデルで検討すべき法律とそのまとめ

play-to-earnモデルのブロックチェーンゲームを提供する場合、景品表示法の景品規制や刑法の賭博罪、その他特定商取引法など、様々な法律上の問題点を検討する必要があります。以下はそのまとめで、それぞれIVにて詳述します。

まとめ

[景品表示法]

  • (a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができる場合、基本的に、報酬部分は景品規制の対象となる。ただし、ゲームデザイン次第では、報酬はおまけ(景品類)ではなく、景表法の適用がないと考え得る場合がある。
  • 景品規制の対象となる場合、デイリークエスト、ログイン、ランキング報酬などの提供方法は、景表法上の「一般懸賞」として、提供するおまけ(景品類)の上限は、取引価額の20倍、10万円となる。
  • 取引価額がいくらであるか、複数のNFTを組み合わせて報酬を獲得する場合に報酬上限をどのように考えるのかなど、具体的な場面では計算に困難が生じる。実際にplay-to-earnのゲームを運営する場合には、一定のグレーゾーンの中で行うか、もしくは景表法を意識した報酬スキームを構築する必要があると思われる。


[賭博罪]

  • NFTの販売にガチャのようなランダム性がない場合、販売自体は賭博罪に該当しないと考えられる。
  • デイリークエスト、ログイン、ランキング報酬などで稼ぐことに関して、例えばデイリークエストをプレイすることに何らかの費用が必要、ランキング戦に参加するために一定の費用が必要、等でなければ、賭博罪に該当しないと考えられる。
  • ブリーディングで稼ぐことに関しては、ブリーディングに一定の費用が必要となり、ランダム性があることから、賭博罪に該当する可能性が高い。


[特定商取引法]


誘引の仕方によってはいわゆる内職商法として規制される場合がありえ、勧誘方法に留意する必要がある。

IV 各法的論点の検討

1 景品規制

(1) 「景品類」該当性
「景品類」とは、顧客を誘引する手段として、事業者が、自己の供給する物品又は役務の取引に付随して提供する、物品その他経済上の利益をいいます。
このうち、play-to-earnモデルのブロックチェーンゲームにおいては、主に取引付随性の要件を満たすかどうかが問題となります45

この点、取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合のように、取引と経済上の利益の提供が直結しているケースは、典型的な取引付随性が認められる場合です。また、取引を条件としているとはいえない場合であっても、商品を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合には、取引付随性が認められます。

Axie Infinityにおいて、アドベンチャーモード(PvE)攻略によって獲得できるトークンは、ユーザーがアクシーを購入した上でゲームをプレイすることによってはじめて提供を受けることが可能になるので、基本的には取引付随性が認められると思われます。

他方で、宝くじの賞金やパチンコの景品などは、正常な商慣習に照らして、「宝くじを買う」「パチンコをする」といった取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益であり、取引付随性がないと考えられています6
アクシーを購入するという取引に、購入したアクシーを使ってゲームをプレイすることでトークンを獲得する、ということが正常な商慣習に照らして含まれているといえるような場合、例えば、アクシーを購入するほぼすべてのユーザーが、報酬の獲得を当然の目的としてアクシーを購入していると言えるような場合には、取引付随性が認められない=景表法は無関係、と考えることもできるようには思えます。実態としてはこのように考えても良いようには思われますが、他方、パチンコや宝くじと比較すると、なおアクシー購入と報酬獲得の関係は遠いように思われ、景表法が無関係である、ということには躊躇を覚えます。

なお、Axie Infinityとは異なるゲームとして、仮に「報酬の提供が取引の本来の内容をなす」ゲームデザインを採用することで景表法の規制を避けることが考えられますが、賭博罪や特定商取引法との関係ではより規制を受けやすくなり得るように思われる点、留意が必要です。

本稿では、景表法の適用がありうる前提で以下検討を行います。

(2) 景品類の上限
提供する経済的利益が「景品類」に該当する場合、その提供方法に応じて、その最高額または総額について規制がかかります。ブロックチェーンゲームとの関係で問題となるのは「一般懸賞」と「総付景品」という方法であり、その規制内容は以下のとおりです。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること

NFT保有者全員にプレゼント
ログインのみで得られるボーナス

取引価額が1000円未満:景品類上限は200円
取引価額が1000円以上:景品類上限は取引価額の10分の2

一般懸賞 商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること

店舗での抽選
クイズ大会
eスポーツ大会
ランキング報酬

取引価額が5000円未満:取引価額の20倍
取引価額が5000円以上:10万円
いずれも総額上限として売上予定総額の2%

このように規制があるものの、Axie Infinityのように日本の景表法規制を念頭に置いていないゲームでの適用関係を考える場合、下記のように各種の難しい点があります。

① アクシー3体の組み合わせで報酬を得ること
Axie Infinityでは、アクシーを3体組み合わせてプレイするため、最低でもアクシー3体を購入しないと報酬を得ることはできず、報酬の上限がどのようにかかるのかが問題となります。
この点、一つのゲームに対する課金取引であると考えれば、アクシーを何体購入しようとも上限は10万円であると考えるのが素直だと思われます。
ただし、アクシーは個別に売られているため別個の取引として考え得る点や、初期購入時とは別のアクシー3体の構成で報酬を獲得できる点、強くなるためには継続的にアクシーの購入をすることが考えられ、その場合追加で1体ずつ購入する点など、理論的に検討しようとすると難しい点があります。

② 複数回の報酬があることと期間
Axie Infinityの報酬は、アドベンチャーモードやアリーナモードをプレイすることで、時間経過で回復するエナジーを消費するものの、毎日獲得することができます。このような場合、1日の報酬上限が10万円ということはなく、景品類の上限額は累計で10万円と考えるのが素直で保守的です。

ただ、例えば格闘技ゲームなどのe-sportsの賞金大会で、ゲームの販売促進のための大会であるとみられる場合には報酬は10万円が上限である(ゲームソフトが5000円の場合)、という議論がありました。この考え方は現在は取られておらず高額賞金のe-sportsも現在では認められているようですが、このような従前の考えでも同じプレイヤーが複数回、賞金を獲得することについては問題視されていなかったように思われます。

あまりに短期間で複数回の報酬を与えることは、景品規制の潜脱では、と考えられますが、他方、ユーザーにゲームを継続的にプレイしてもらえることを期待し、かつ継続的にプレイしてもらうことによってゲーム会社にも各種の追加の売り上げが入ることを期待している、と考えれば、例えば、一定の期間で区切ることで上限金額までのリワードを付与しても良いようにも思われます。

(3) 規制に違反した場合
景品表示法に違反する行為が行われている疑いがある場合、規制当局による調査を経て、行政指導や措置命令がなされる場合があります。措置命令は、事案の必要性に応じて、違反行為の差止め、再発防止策を講じること、これらの一般消費者への周知などを内容とします。この措置命令に従わなかった場合には、事業者に対して3億円以下の罰金などの罰則規定が定められています。
措置命令のほか、不当表示規制の違反に対しては、売上額に3%を乗じた課徴金の納付命令がなされることがあります。

2 賭博罪

(1) 賭博罪の要件
刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。
この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大4年10月16日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

(2) NFTの購入
ゲームアイテムとしてのNFTの購入はマーケットプレイスにおける相対取引として行われ、ガチャの仕組みのようにアクシーの取得の有無やその内容がランダムに決定されて購入者に喪失の危険が生じるものではないため、NFTの購入行為について賭博罪は成立しないものと思われます。

(3) デイリークエストやログインボーナス
デイリークエストクリアで報酬が得られますが、このようなプレイ自体には費用がかからないため、賭博罪は問題にならないと思われます。

(4) ブリーディング
2種類のアクシーを交配させて新しいアクシーを獲得するブリーディングについては、一定のSLPトークンの支払が必要であること、親となるアクシーにつきブリーディングできる回数に限度がありブリーディングごとに使用したアクシーの価値が落ちると思われること、そして排出される新しいアクシーがランダムに決定され、支払ったトークン+使用したアクシーの価値分の価値を下回るアクシーを取得する場合もあると思われるため、賭博罪が成立する可能性が高いと考えられます。

(5) アリーナ(PvP)のプレイ
アリーナ(PvP)のプレイは、特段に費用等がかかる訳ではなく、また、使用したNFTの価値が棄損する等もないため、賭博罪に該当しないと思われます。

3 特定商取引法

業務提供誘引販売取引(特定商取引法第51条、一種の内職商法)とは、①物品の販売または役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をする取引をいいます。業務提供利益とは、業務提供誘引販売取引の相手方を勧誘する際の誘引の要素となる利益で、提供される業務に従事することにより得られる収入のことをいいます。特定負担とは、業務提供誘引販売取引に係る商品の購入若しくは役務の対価の支払い又は取引料の提供をいいます。

例えば、このミシンを買ってくれれば、仕事を発注する、という契約が業務提供誘引販売取引であり、勧誘に先立つ氏名等の明示、広告規制、消費者への書面交付義務などの規制が課せられます。
play-to-earnのゲームであっても、ゲームプレイを業務というかは兎も角、ゲームプレイで利益を得られる、としてユーザーを勧誘した場合、業務提供誘引販売取引と考えられる余地があり、勧誘の仕方に留意をする、又は、念のため、業務提供誘引販売取引の規制を順守する必要があると思われます。

他方で、あくまでゲームのおまけとしてリワードが提供される等であり、収益を得られることが前提になっていない場合、特定商取引法の規制は適用されませんが、前述のとおり景品規制の対象となる可能性が高いと考えられます。いずれにせよ、すべての規制に違反しないplay-to-earnモデルのブロックチェーンゲーム組成は容易ではなく、弁護士と相談するなど慎重な対応が必要となります。

4 外国事業者による日本居住者への提供

(1) 行政規制
外国事業者が日本居住者に対して景表法や特商法に違反する行為を行っている場合には、当該外国事業者はそれぞれ規制対象になります。ただし、いずれについても行政罰の強制執行については主権上の制限があるものと思われ、個別の検討が必要となります。

(2) 犯罪規制
外国事業者が日本居住者に賭博に該当するサービスを提供した場合については、日本の刑法上賭博に関する犯罪に国外犯処罰規定が存在しないため、日本国外における賭博行為について刑事罰を科すことはできません。ただし、事業者の拠点やサーバーが日本国外にあったとしても、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合には賭博罪が成立すると考えられ7、この「一部」が何を指すかは議論あるものの8、少なくとも、例えば日本において勧誘などの行為がなされていれば、賭博罪が成立するのではと思われる点、留意が必要です。

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
Axie Infinityに関する情報は、公式ホワイトペーパーや各種記事の内容を参考に記載したものであり内容の正確性は保証できず、実際の事実関係により分析結果も異なりえます。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、Axie Infinityをはじめとするplay-to-earnモデルのブロックチェーンゲームの利用を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上