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本稿では2025年に入り急激に盛り上がりを見せるAIエージェントについて、(1)AIエージェントとは何か、(2)特にその中でもWeb3 AIエージェントとは何か、を紹介した上で、(3)AIエージェントに関連する法的論点を記載します。

AIエージェントはあらゆる業務に代替し得るため、AIエージェントと法律の関係を考える場合、本来は、AIエージェントが行うあらゆる業務について法的問題点を検討する必要があります。しかし、blogでそれを網羅することは難しいため、本稿では、AIエージェントの法的問題点を検討する際の基本的な考え方を紹介した後に、規制との関係では特に金融規制を中心に議論しています。ただ、この金融規制に関する考え方は他のAIエージェントに関する法的論点を検討する際にも、一定程度参考になると考えています。

I AIエージェントの概要

1 AIエージェントとは何か

AIエージェント(AI Agent)は、一般に「特定のタスクを自律的に遂行する人工知能システム」を指します。人間が指示を出さなくても、環境からデータを処理し、必要に応じて学習や意思決定を行い、タスクを実行することが可能です。
一般にAIエージェントは、以下の要素を備えています。

①認識: 外部環境や入力データを処理し、現在の状況を理解。
②意思決定: データに基づき、タスクを遂行するための行動を計画。
③行動: 計画に基づいて環境に変化を与えるアクションを実行。
④フィードバック: 実行結果を学習に活用し、次回の行動を改善。

これにより、AIエージェントは人間の代わりに反復作業を行ったり、複雑な判断をしたりすることが可能です。
現在、AIエージェントは、私たちの生活やビジネスを変革する存在として、非常に注目を集めています。
AIエージェントは例えば下記のような用途で使用されることが期待されています。

AIエージェントの使用例
(1) ジェネレーティブAIを活用した創造性の支援
文章や画像、動画、音楽の生成など、クリエイティブ分野での活用。メディア、広告、ゲーム業界では、制作の効率化や新たな価値創出が期待されます。
(2) パーソナルアシスタント
ライフコーチ、教育支援、ビジネスアシスタントなど、個人のニーズに応じた支援が可能。スケジュール管理や健康アドバイスなど、日常生活をより効率的にする用途が注目されます。
(3) 金融分野での自律的な活用
資産運用や家計管理を支援するAIエージェントは、データを活用して最適な投資戦略や節約方法を提案します。分散型金融(DeFi)でも、自動化された取引や資産管理が進んでいます。
(4) 業務プロセスの自動化
人事や財務、顧客対応などの反復的なタスクを自動化することで、企業の生産性向上に寄与します。また、データ解析や意思決定支援も、AIエージェントの得意分野です。
(5) ヘルスケア
AIエージェントは、健康管理や遠隔医療、疾患予測などに活用されます。特に、症状の解析やメンタルヘルスのサポートなど、個人に寄り添ったサービスが期待されます。
(6)自律型システム
倉庫管理や物流、災害対応などにおけるロボットの自律化、自動運転やドローン操作など、物理的なタスクを担うAIエージェントの活躍が期待されます。

AIエージェントは、個別化と自律性を強みに、私たちの生活をより豊かに、ビジネスをより効率的にする可能性を秘めています。これらの用途は、今後さらなる進化が期待される分野です。

2 AIエージェントの具体的な例

AIエージェントの国内外での具体的な活用事例として、以下のようなものが挙げられます。

サービス名 提供者 特徴
Fujitsu Kozuchi AI Agent 富士通株式会社 人と協調して自律的に高度な業務を推進するAIエージェント。例えば、会議エージェントとしてAIが自ら会議に参加して情報共有や施策の提案をしたり、現場支援エージェントとして製造や物流の現場でカメラ映像を分析して改善提案をしたり作業レポートを作成します。
Agentforce Salesforce, Inc. 自律型のAIアシスタント。例えば、Agentforceの一つであるService Agentは、従来のチャットボットを自律型AIに置き換え、事前にシナリオをプログラムしなくても、24時間365日顧客と正確で流暢な会話を行います。
Operator OpenAI, Inc. AIがユーザーに代わってウェブブラウザを操作し、日常的なタスクを自動化。ユーザーの指示に従って独自のブラウザを使用してウェブページを閲覧し、入力、クリック、スクロールなどの操作を実施。それにより、例えば、レストランの予約やオンラインショッピングなどを自動化。
Pactum AI Pactum AI, Inc, Walmartでは、自律型交渉AIであるPactum AIを導入し、10万社超のサプライヤーとの交渉を自動化。サプライヤーからの要求に対し、あらかじめ指示された予算額と優先事項に従って自動で提案を行い、Walmartとサプライヤーの双方にとって最適な取引条件を導きます。
Waymo Foundation Model Waymo LLC 自動運転タクシーを運営するWaymoは、独自開発のWaymo Foundation Modelと呼ばれるAIモデルを用いて、周囲の状況理解から運転計画の生成まで、高度な判断を可能にしています。

3 Web3 AIエージェント

AIエージェントはWeb3とも親和的と言われています。Web3とAIエージェントの統合は、以下のような新しい可能性を生み出すと考えられます。

Web3 AIエージェントの使用例
(1)分散型AIエージェント
スマートコントラクトとの統合:
AIエージェントがブロックチェーン上のスマートコントラクトを操作し、自律的にトランザクションを実行。例えば、不動産取引や金融取引を仲介者なしで完了。
自律分散型組織(DAO)の一部として活動:
AIエージェントがDAO内で意思決定プロセスに参加し、提案や投票を実施。

(2)ユーザー主権の強化
プライバシー保護:
AIエージェントがユーザーのデータをローカルで処理し、個人情報を分散型ストレージ(例:IPFS)に安全に保存。
自己所有データ(Self-Sovereign Identity, SSI):
AIエージェントがユーザーのSSIを活用して、Web3サービスへのアクセスや認証を簡素化。

(3)トークンエコノミーの自動化
トークン取引の自動化:
AIエージェントが分散型取引所(DEX)でユーザーの代わりに資産を管理・取引。
報酬の分配:
AIエージェントがWeb3プラットフォーム上で生成した価値に応じてトークンを受け取り、再分配。

(4)メタバースとAIエージェント
・メタバース内でAIエージェントがバーチャルアシスタントとして活動。例えば、ユーザーのために土地を管理したり、NFTを取引。

(5)ゼロ知識証明(ZKP)の活用
・AIエージェントがZKPを用いることで、プライバシーを守りつつWeb3アプリケーション上で信頼を提供。

なお、Web3 AIエージェントが世界的に大きく話題になった例としてAI16Z(ai16z)があります。ai16zは、Solanaブロックチェーン上に構築された分散型AI投資ファンドであり、AIエージェントを活用して自律的に投資活動を行うプロジェクトです。

プロジェクト名: ai16z
基盤: Solanaブロックチェーン
特徴:
・AIが市場情報を収集・分析し、コミュニティのコンセンサスを考慮して自動的にトークン取引を実行。
・投資家がトークンを通じてプロジェクトの運営や意思決定に参加可能できる分散型ガバナンスを採用。
・ブロックチェーン技術により、投資活動の透明性と信頼性を確保。
AIエージェント「Eliza」:
・投資戦略の立案や実行を担当するAIエージェント。
・オープンソースとして公開されており、第三者による展開も可能。

ai16zという名称は、シリコンバレーの著名VCであるAndreessen Horowitz(a16z)をもじって命名されたものですが、ai16zとa16zは無関係です。

しかし、2024年10月27日にa16z創業者の一人であるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)がX(旧Twitter)で「GAUNTLET THROWN(挑戦状)」と投稿したり、ai16zのメインアバターが来ているTシャツについて言及したりしたことにより、ai16zの名は一気に拡散しました1

更に、 2024年1月初めには、ai16zの時価総額は一時3000億円を超え3か月で100倍以上の成長を遂げました。そのような事情もあり、2025年1月初頭時点では世界的に大きな話題になり、日本のX(旧twitter)でもAIエージェントの中心的な話題となっていました。

ただし、期待が大きすぎた等の理由によるのかもしれませんが、その後、価格が大幅に下落し、時価総額が500億円程度まで下がるなど、極めて投機的な値動きを見せている状況です。

II 本稿の法律パートの纏め

1 AIエージェントと法規制(考え方の基本)
(1)AIエージェントの「エージェント」は日本語に翻訳すると「代理人」となります。AIエージェントと呼ばれるサービスが、法的に厳密な意味で「代理人」に該当しない場合でも、特定のタスクを人間の「代わりに」実行する存在を指すことが通常です。
 
(2)AIエージェントに適用がある規制を考える場合、①類似行為を人間が行っていればどういう規制等が課されるかを検討し、②その上で、そのような行為をユーザーがAIを利用して行う場合にユーザーに何か規制等が課されるか、③事業者が当該AIをユーザーに提供している場合、事業者には何か規制等が課されるか、を考えます。
 
(3)なお、DAO等で仮にAIエージェントが、完全に自律的に動いている、人間が関与していない等と言える場合には、そもそも法規制の適用がないと考える余地もあります。しかし、完全に規制対象となる運営者がいないといえるかは不明確なことが多いため慎重に検討する必要があると考えます。
 
2 AIエージェントとユーザーの関係、AIエージェント提供者とユーザーの関係
(1)業務の一部を人間に委ねる場合、①業務委託(準委任・請負)、②労働者派遣、③雇用、等の形態がとられますが、業務の一部をAIエージェントに委ねる場合、AIエージェントとユーザーの関係において契約関係は生じず、単に人間がAIエージェントを事実上使っている、ということになります。
 
(2)AIエージェントの提供者とユーザーの関係は、AIエージェントの利用に際して、SaaS等のサービス利用契約や、AIエージェントのシステム開発契約等の契約関係により規律されます。
 
3 AIエージェントのミスと責任
(1)提供者に対する責任追及の議論
AIエージェントの提供者とユーザーとの間の関係は、契約や規約により規律され、AIエージェントに不具合があればAIエージェントを提供するサービス提供者には債務不履行責任などの問題が生じます。
 
(2)AIエージェントによる発注ミス(無断発注や無権代理)
①ユーザー自らが管理しているAIエージェントが間違って発注をした場合、基本的には発注の効果がユーザーに帰属することになります。AIエージェントに対する指示内容やAIエージェントの動作、設定・管理状況等によっては理論的には錯誤による発注の取消しを検討する余地がありますが、取引の安全性の観点からはこのような主張は極めて限定的な場合にしか認められないように思われます。
②他人が管理しているAIエージェントについては、AIエージェントの提供者による無権代理行為の有無が問題となります。表見代理の成否については、例えばAIエージェントにパスワードや発注権限が与えられており、その発注権限を越えて取引をした場合、相手方としては正当な取引があったと考えるしかなく、基本的には表見代理が成立するように思われます。
③例えば、暗号資産交換業者や証券会社等の金融機関が提供するAIエージェントが誤作動を起こして、誤発注が起こった、という場合には、ユーザーから当該金融機関に対する損害賠償請求や、ユーザーによる錯誤取消の主張が認められるケースがあると考えます。そのため、利便性が落ちることになりますが、最終的な発注内容の人間(ユーザー)自身の確認を必須とする等の措置を取ることが、誤発注リスクへの対策という観点では有効であると思われます。
 
(3)AIエージェント利用で他者に損害が生じた場合の責任
例えば、自動運転のAIエージェントの利用で他者に損害が生じた場合に、誰が責任を負うかについては、①自ら保有する自動運転車両の運転者等には自賠法や民法に基づく損害賠償責任が生じる可能性があり、②自動車メーカーには製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償責任が生じる可能性があり、③AIエージェントを提供するソフトウェア業者には民法に基づく損害賠償責任が生じる可能性があります。
 
4 Web3 AIエージェントと金融規制
(1)AIエージェントが、DEXで本人に代わって暗号資産やステーブルコインの売買を行う場合、AIエージェントの提供者について暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制が適用されるか検討が必要となります。ユーザーに対する単なる補助であれば規制対象外ですが、AIエージェントが媒介等を行っているとされる場合、規制対象となりえます。
 
(2)暗号資産・ステーブルコインの現物取引への投資助言・運用サービスは現在金商法の規制対象外であるため、AIエージェントが行う場合でも基本的には金商法の規制は適用されません。他方、暗号資産・ステーブルコインの「デリバティブ取引」への投資助言・運用サービスについては金商法の規制対象であり、AIエージェントが行う場合にも、その提供者に金融商品取引業の規制が適用される可能性があります。
 
(3)GK-TKスキームなどでGKがファンド運用業務を行う際にAIエージェントを自ら使用して暗号資産やステーブルコインの現物を取引する場合には、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制は適用されないと考えられます。他方で、GKから別の会社が投資一任を受けてAIエージェントを使用してそれらを行う場合には、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制が適用される可能性があります。
 
5 その他の法律
(1)AIエージェントが接客をする場合、個人情報保護委員会がAIに関して示している注意喚起を念頭に対策をする必要があり、消費者保護法4条との関係ではハルシネーションを抑制する策を講じる必要があります。

III AIエージェントと法律の基本的な考え方

1 規制の検討の際には類似行為を人が行った場合にどう考えられるかをまず検討

AIエージェントの「エージェント」は、日本語では「代理人」と訳されます。そして、AIエージェントと呼ばれるサービスは、法的に厳密な意味で「代理人」には該当しない場合でも、特定のタスクを人間の「代わりに」実行する存在を指すことが通常です。

AIエージェントに適用がある規制等を考える場合、以下の手順で検討します。

①類似の行為を人間が行った場合、どのような法的問題が生じるのかを検討。
②その上で、そのような行為をユーザーがAIを利用して行う場合にユーザーに何らかの規制等が課されるかを検討。
③当該AIを事業者がユーザーに提供している場合、事業者に何らかの規制等が課されるかを検討。

2 規制の対象は人や法人であり、AIエージェント自体ではない

前述のとおり、AIエージェントは「代理人」と訳されることがありますが、当然、人でも法人でもないため、現行法上は、AIエージェント自体が規制対象になるわけではありません。それを利用し、又は提供する自然人や法人が規制対象になります。

この「自然人や法人が規制対象となる」ということに関連し、特にDAOの文脈において、仮にAIエージェントが完全に自律的に動作し、人間が関与していない等と言える場合には、そもそも法規制の適用がないと考えられないかが問題となります。しかし、完全に規制対象となる運営者がいないといえるかは不明確なことが多いため、慎重に検討する必要があると考えます[\efn_note] 例えばDeFi(分散型金融)に関する議論においては、開発チーム、管理権限保有者、等の「トラストポイント(利用者が無条件に信頼せざるを得ない中央集権的要素)」の存在が指摘されており、これらの者が規制対象になる可能性があります(2022年6月20日金融庁の事務局説明資料「DeFiのトラストポイントに関する分析」https://www.fsa.go.jp/singi/digital/siryou/20220620/jimukyoku2.pdf)。[/efn_note]

3 AIエージェント一般を規制する法律は現在存在していない

現在、AIエージェントの提供や利用を一般的に禁止する法律はないため、個別の行為ごとに自然人や法人を対象とする現行規制の適用の有無を考えることになります。

4 AI自体が権利義務の帰属主体になる訳ではない

上記2に関連し、エージェントを「代理人」と訳したとしても、AIは自然人でも法人でもなく、AI自体は権利や義務の帰属主体になりえません。
そのため、例えばAIエージェントがミスをした場合の責任に関し、AI自体は責任の対象とならず、ユーザー又はAIエージェント提供者が責任の主体になります。

IV AIエージェントとユーザーとの関係、AIエージェント提供者とユーザーとの関係

1 AIエージェントとユーザーとの関係

AIエージェントでは様々な業務の自動化がなされています。
先ず、人が業務の一部を他者に委ねる場合には、以下のような形態の契約が結ばれます。

人と人との関係
(i)業務委託(準委任・請負)
●一般的には短期的な業務を外部に依頼する場合に適している。
●特定の成果物や業務の完成を求める場合は請負(民法632条)、特定の業務遂行を求める場合は準委任(同法656条)。
●主な関連法令:下請法、独占禁止法、フリーランス法など
(ii)労働者派遣
●一般的には自社の人員を一時的に補う場合に適している。
●労働者は派遣元企業に雇用され、派遣先企業で業務を行う。
●主な関連法令:労働者派遣法など
(iii)雇用(同法623条)
●一般的には継続的な業務に関する安定した労働力を確保する場合に適している。
●主な関連法令:労働基準法などの労働関連法令。

他方、人間(ユーザー)とAIエージェントとの関係は、現行法上は、あくまで人間と(AIエージェントを構築する)ソフトウェア・ハードウェアの関係であり、契約関係ではなく、単に人間がAIエージェントを事実上使っているという関係にとどまります。

2 AIエージェント提供者とユーザーとの関係

AIエージェントの開発は、一般に企業によってなされ、多くのユーザーが当該企業から、既製品のAIエージェントの提供を受け、又は企業にAIエージェントの開発を委託します。
この関係は以下のように整理できます。

(i)SaaS等のサービス利用
企業が提供するAIエージェントの使用許諾を受け、利用規約を遵守しながら利用する。
(ii)システム開発により自社に導入
企業が自社向けのAIエージェントシステムの開発をし、導入・運用する

V AIエージェントの不具合と責任

1 AIエージェントのユーザーに生じた損害

AIエージェントの不具合によってユーザーに損害が発生した場合、以下のような責任追及、及び防御がなされることが考えられます。

ユーザー側の主張
●SLA(サービスレベルアグリーメント)などの内容に基づき、サービス提供者に対し損害賠償請求(民法415条)や契約解除(同法541条、542条)
 
サービス提供者側の考えられる主張
●利用規約に基づく免責・責任制限があること
●サービス提供者の帰責性の不存在(同法415条1項ただし書)
●ユーザー側にも過失があったこと(過失相殺、同法418条)

2 AIエージェントの発注ミス(無断発注や無権代理)

(1) 人間による無権代理の問題

仮に、ある人が他者にビットコインの購入を依頼して代理権を与えたにもかかわらず、代理人がイーサリウムを購入してしまった場合、これは無権代理行為となり、原則として契約の効果は本人に帰属しません。
無権代理が発生した場合の主な法的問題は以下のとおりです。

●無権代理行為の追認(民法113条、116条)
●無権代理人の履行又は損害賠償責任(同法117条)
●表見代理(同法110条)の適用
➡ 取引相手が、代理権があると信じる「正当な理由」がある場合、契約の効果が本人に帰属することがあります。例えば、代理人に代理権を証明する手段(実印・委任状の所持など)がある場合です。
しかし、以下のようなケースにおいて、相手方が代理権の存在について適当な調査・確認を行わない場合、「正当な理由」がないと判断されて表見代理が成立しない可能性があります。
✓委任状に改ざんの跡がある場合
✓委任状の印が三文判である場合
✓本人にとって不利益な取引である場合

(2) AIエージェントによる無断発注や無権代理
(i) ユーザーが管理するAIエージェントの場合

AIエージェントはユーザーの指示に基づいて動作するプログラムであることから、一般的に、AIエージェントの発注はユーザーの意思表示とされ、その効果もユーザーに帰属するものと考えられます。
しかし、AIエージェントがユーザーの真意とは異なる発注をしてしまうケースも想定され、この場合にも発注の効果がユーザーに帰属するかが問題となります。
この点については、「錯誤」(民法95条)としてユーザーが意思表示を取り消すことができるかを検討することが考えられます。錯誤には以下の2つのケースがあります。

①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(同条1項1号)
錯誤が重要な事項に関する場合、原則として取消し可能。
②法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤(同項2号)
錯誤が重要な事項に関するものであり、その事情が相手方に示されていた場合に限り、原則として取消し可能。

(a)ユーザーの指示と発注結果が一致する場合
例えば、ユーザーが「AIエージェントの判断で暗号資産を購入する」という意思を持ち、そのような指示を出した結果、想定外の種類・数量の暗号資産の購入がなされた場合、ユーザーの「AIエージェントの判断で暗号資産を購入する」という意思と結果が一致する以上、意思表示(AIエージェントの発注)に対応するユーザーの意思は存在するといえ、「ユーザーの想定内でAIエージェントが動作すると考えていた」という事情が相手に表示されなければ、錯誤による取消しは難しいと思われます(同条2項)。

(b)ユーザーの指示と発注結果が一致しない場合
一方で、ユーザーが種類・数量を指定した具体的な指示を出し、AIエージェントが異なる種類・数量の発注を行った場合、意思表示(AIエージェントの発注)に対応するユーザーの意思を欠くとして、錯誤による取消しを理論的には主張できるように思われます。

もっとも、このような取消が容易に認められるとすれば取引の安全性を大きく害すると思われます。そこで、民法95条3項では、ユーザーに「重大な過失」がある場合には取消しをすることができないと定めています。 例えば、AIエージェントの設定ミスや管理不備があれば、ユーザーに「重大な過失」があるとして取消しが否定され得ますし、企業による発注の場合、そもそもAIエージェントを使用した後に自身で具体的な発注内容を確認していないことが「重大な過失」になる場合もあるのではないかと思われます

(c)電子消費者契約の特例
消費者がAIエージェントを利用して発注する場合には、電子消費者契約法(電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律)第3条が適用されると思われます。この法律は、インターネット取引の場合には発注のミスが多いことから、以下のような場合に原則として取消しを認めるものです。

①誤クリックによる注文(例:「購入する」ボタンを誤って押した)
②誤った入力による注文(例:購入数量を間違えた)
③自動入力や誤操作による意思と異なる注文

AIエージェントを利用する場合にも、事業者がコンピュータの映像面に表示する手続に従って消費者がコンピュータを用いて取引を行えば、それは電子消費者契約(同法2条1項)に該当することとなり、AIエージェントを利用した取引にも本条の適用があると考えられます。

ただし、以下のように事業者が消費者の意思確認を求める措置を講じた場合には、この特例の適用を受けることはできません。

①「購入を確定しますか?」と最終確認のポップアップを表示した場合
②ワンクリック購入ではなく、カートを経由して確認画面を設けた場合
③二段階認証のような仕組みで購入意思を確認している場合

また、消費者がAIエージェントを利用して、これらの確認を求める措置における確認を省いて取引を行った場合、同条の「消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合」に該当し、特例の適用がなくなる場合があります。この場合、原則として錯誤による取消は認められないと考えられます。

(ii) 他者が提供するAIエージェントの場合

他者が提供するAIエージェントを利用したところ、AIエージェントがユーザーの意図せぬ取引を行ってしまったような場合には、AIエージェントの提供者による無権代理行為の問題が生じ得ます。
AIエージェントの提供者が無権代理人となる場合、表見代理の成否については特に以下のような問題が生じます。

●通常の代理関係では、代理人が実印や委任状などを持っているかどうかが、取引相手について代理権の存在を信じる「正当な理由」を認めるポイント。
●AIエージェントの場合、取引はデジタル化されており、実印の使用や委任状の提示がないのが一般的。

そのため、取引相手にとって何が「正当な理由」となるかが問題になりますが、当該AIエージェントが、例えばパスワードや発注権限を与えられ、それを使用して発注した場合、基本的には相手方は正当な取引がなされたと信じるしかなく、表見代理が成立するように思われます。

コラム
暗号資産交換業者や証券会社などの金融機関が提供し、当該金融機関のサービス内で利用できるAIエージェントの誤発注の場合
例えば、暗号資産交換業者や証券会社などの金融機関が、自社のサービス内で利用できるAIエージェントを提供している場合を考えます(規制については下記VI以下で検討)。このAIエージェントが誤作動を起こし、その結果、誤発注が起こった場合については、以下のように整理することができます。

1.取引相手が第三者である場合
AIエージェントの誤作動により発生した誤発注の取引相手方が第三者である場合、第三者は表見代理等によって保護されるケースが多いと思われます。
他方、この取引が表見代理により有効に成立してしまった場合、AIエージェントの提供者である金融機関は、ユーザー本人から損害賠償請求(民法415条、709条)を受けるリスクがあります。
 
2. 取引相手が金融機関自身である場合
AIエージェントによる誤発注の取引相手が第三者ではなく金融機関自身である場合、そもそもユーザーには誤発注に対応する意思表示がないとされる可能性があります。また、仮に誤発注に対応する意思表示があるとしても、誤発注についてユーザーには重過失がないとして、ユーザーの錯誤取消の主張は認められやすいのではないかと思われます。
また、ユーザーの誤入力によって金融機関との間で契約が成立してしまったような場合には、電子消費者契約法第3条の適用があり、金融機関がユーザーの重過失を主張できないケースも考えられます。
 
3.リスク回避策としてのユーザー確認の導入
上記を踏まえたAIエージェントの誤作動による金融機関のリスクをユーザーに転嫁する方法としては、最終的な発注時には常に人間(ユーザー)の確認を必要とする仕組みを導入することが考えられます。この場合、誤発注が発生したとしても、それは人間(ユーザー)の責任である、と言いやすくなります。
この仕組みを導入した場合、完全自動化とはならず利便性は落ちることになりますが、誤発注リスクの対策という観点では有効な措置になるのではないかと思われます。

3 AIエージェントの利用により他者に損害が生じた場合について(例:自動車の自動運転)

AIエージェントの不具合に関連して他者が損害を被った場合、AIエージェントの提供者やAIエージェントのユーザーが損害賠償責任を負う可能性があります。

この点、AIエージェントの活用事例として特に注目されており、AIエージェントの利用により他者に損害が発生し得る典型的なユースケースとして、自動運転が考えられます。

自動運転では、AIエージェントが自動車の運転を担うことになりますが、人間が運転する場合とAIが運転する場合では、事故が発生した際の法的責任が異なる可能性があります。

(1) 人間が運転していた場合
①人身事故の場合

人身事故を起こした場合、車の保有者などの運行供用者(自動車を自己のために運行する者)は、民法の不法行為(709条)のほか、自動車賠償責任保障法(自賠法)3条に基づく責任を負うことになります。自賠法3条に基づき損害賠償請求をする場合、被害者は、運転者の過失を立証する必要がありません。運行供用者は、自賠法3条に基づき、以下の3つの免責要件をすべて満たした場合には責任を免れることができます。

(a)自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
(b)被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
(c)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

②物損事故の場合

物損事故では自賠法が適用されないため、被害者は民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことになります。この場合、被害者としては、運転者の故意又は過失を自ら立証しなければなりません。

(2) AIエージェントが運転していた場合(社会的に認められたAIエージェントを想定)
①人身事故の場合

AIエージェントの自動運転により人身事故が生じた場合でも、基本的には自賠法の適用があると考えられています2。完全自動運転のAIエージェントのシステムに障害があった場合には、上記の免責要件のうち(c)の要件を満たさないとして、被害者から運行供用者に対して自賠法に基づく損害賠償請求権が認められる可能性があります。

AIエージェントのシステム障害に起因して賠償金を支払った運行供用者や保険金を支払った保険会社等は、自動車メーカーやAIシステムのソフトウェア業者などに求償を行うことになると考えます。

②物損事故の場合

物損事故の場合には自賠法3条が適用されないため、運転者等に不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことになりますが、完全自動運転であれば、運転者の操作ミス等がなくなるため、運転者の故意又は過失を問うことが難しくなり、運転者の損害賠償責任が認められにくくなる可能性があります。

この場合、被害者としては、AIエージェントのシステムに障害があれば、それを提供する自動車メーカーやソフトウェア開発業者などに対して以下のとおり責任追及をすることが考えられます。

③自動車メーカーに対する請求

被害者は、自動車メーカーに対して、製造物責任法(PL法)3条に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。
PL法は、製造物の欠陥が原因で生命、身体又は財産に損害を与えた場合、製造業者等に無過失責任を課す法律です。ただし、以下のような課題もあります。

●ソフトウェア自体は動産ではないため、PL法の「製造物」に該当しない。ただし、ソフトウェアが組み込まれた車両に欠陥があると評価されれば、PL法に基づき自動車メーカーが製造物責任を負う可能性がある3
●AIによる自動運転システムは高度で複雑なため、被害者が「欠陥」と「因果関係」を立証するのが困難である可能性がある。
●製造物責任は、製造業者等による引き渡し時に存在した欠陥に基づき認められる責任であるため、車両の引渡し後の遠隔で行われたソフトウェアのアップデートにより欠陥が生じたような場合には、製造物責任が認められない可能性がある。

④ソフトウェア業者に対する請求

被害者は、AIエージェントを提供するソフトウェア業者に対し、AIエージェントの欠陥を理由として損害賠償請求をすることが考えられます。この場合、ソフトウェアは無体物であるため製造物責任の適用がないことから、民法709条に基づく不法行為責任等を追及することになります。

この場合、被害者がソフトウェア開発者の故意・過失を立証する必要があることから、上記の自賠法3条に基づく損害賠償請求のケースや、PL法3条に基づく損害賠償請求のケースよりも、賠償請求のハードルが高くなることが考えられます。

VI Web3 AIエージェントと金融規制

本項目では、上記IIIの考えに従い、Web3のAIエージェントに対してどのように金融規制が適用されるかを検討します。なお、Web3の文脈で検討しますが、類似の考え方が、株式投資のAIエージェントなど、金融系のAIエージェントにも当てはまります。

(1) 暗号資産やステーブルコインなどの売買とAIエージェント

AIエージェントが分散型取引所(DEX)でユーザーの代わりに暗号資産やステーブルコインの取引を行うことが考えられます。このような仕組みを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

●リアルタイム市場分析による迅速な取引
●人間の感情に左右されないデータドリブンな意思決定

一方で、このような売買を行う場合、暗号資産交換業等の規制がないか検討が必要となります。

①人間が取引する場合

暗号資産の売買やステーブルコイン(法定通貨の価値と連動し、額面で償還されるもの)の売買については、暗号資産交換業(資金決済法2条15項)や電子決済手段等取引業(同法2条10項2号)に関する規制の適用を考える必要があります。

同法では、単なる投資家として暗号資産等を売買する場合は、「業として」に該当せず、規制対象ではありません4
他方、広く公衆に対して売買する場合や、公衆に対して売買の代理を行う場合には規制の対象となります。

②AIエージェントが取引する場合

AIエージェントがユーザーの代わりに暗号資産やステーブルコインを売買する場合であっても、自分自身の投資目的でAIエージェントを使う場合、ユーザー自身には特に規制はかかりません。
また、売買の発注をするAIエージェントを提供する会社があっても、それが単にユーザーの売買手続の事務を助ける、というだけの場合には、規制はないと思われます。

他方、AIエージェントが、例えばユーザーをDEXに容易に繋ぐといった媒介等5
と言われる範囲の動作を行っており、そのAIエージェントをユーザー以外の者が管理運用している、とみられるような場合、当該AIエージェントの提供者に、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制(媒介規制)が課される可能性があります。

(2) 投資サービスとAIエージェント

Web3分野では、AIエージェントが投資戦略を立案し、暗号資産・ステーブルコインの現物取引、暗号資産・ステーブルコインのデリバティブ取引に関する投資助言や資産運用を行うサービスが考えられます。
本パートでは、AIエージェントがこのような投資サービスを提供する際に検討すべき主要な法的問題について、人間が行う場合と比較しながら説明します。

①人間が行う場合

投資助言・運用サービスを提供する場合、それぞれ異なる法的規制が適用されます。

(i) 投資助言サービス

投資助言サービスとは、投資助言をして報酬を受け取る契約(投資顧問契約)を締結し、有価証券やデリバティブ取引に関する投資判断について助言を行う業務を指します。
規制のポイントは以下のとおりです。

●投資助言・代理業として金融商品取引法に基づく登録を要する(金商法2条8項11号、3項1号、28条、29条)。ただし、無償の助言は規制対象外。
●暗号資産やステーブルコインの現物取引に関する助言は規制対象外。
●暗号資産や(電子決済手段に該当する)ステーブルコインのデリバティブ取引に関する助言は規制対象。
●助言の対象が現物取引かデリバティブ取引かを意識する必要がある。

(ii) 投資運用サービス

投資運用サービスは、主に、(a)ファンド持分を有する者からの出資金を主に有価証券やデリバティブ取引に投資する業務(ファンド運用業務) 、(b)顧客から投資判断と資産運用の権限を一任されて、有価証券やデリバティブ取引に投資運用する業務(投資一任業務)、が考えられます。
規制のポイントは以下のとおりです。

●投資運用業の登録を要する(金商法2条8項12号ロ、2条8項15号、28条4項、29条)。無償で提供する場合でも「業」に該当する場合は規制対象。
●(a)ファンド運用業務については、自己募集には原則、第二種金融商品取引業の登録が必要(同法2条8項7号へ、28条2項1号)。ただし、適格機関投資家等特例業務(同法63条)などの例外あり。
●(b)投資一任業務により顧客資産を預かる場合、第一種金融商品取引業の登録も必要(同法28条5項・1項5号、29条、42条の5)。
●暗号資産・ステーブルコインの現物取引を投資対象とする場合((a)ファンド運用業務の場合は「主として」投資対象とする場合)は、投資運用業に該当しない。他方、暗号資産・(電子決済手段に該当する)ステーブルコインのデリバティブ取引を投資対象とする場合は投資運用業の規制対象。
●GK-TKスキーム6では、匿名組合員による出資はすべてGK(営業者)の財産に帰属し(商法536条1項)、GKが自己の名をもって事業を行うため、(a)GKがファンド運用業務に基づき、暗号資産の現物の売買を行う場合、自己投資目的で行う取引であるとして一般的には「業」には当たらず、暗号資産交換業の登録を要しないと考えられ7、投資対象がステーブルコインの現物である場合もパラレルに考えれば、電子決済手段等取引業に該当しないと考えられる。
●(b)GK-TKスキームなどでGKが別の会社に投資業務を一任し、当該別会社が暗号資産やステーブルコインの売買等まで行う場合、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制を受ける可能性がある8

②AIエージェントが行う場合

AIエージェントが投資助言・運用サービスを行う場合、その業務が金融規制の適用を受けるかどうかが問題となります。通常、AIエージェントを提供する者について規制の適用を検討することになると考えます。
規制のポイントは人間が行う場合と概ね同じですが、特にAIエージェントの場合には以下の点がポイントになります。

●投資一任業務で顧客資金を預かる場合でも、AIエージェントの提供者が運用していないスマートコントラクトで顧客資金の預託を受ける場合には第一種金融商品取引業の登録が不要となる可能性がある。
●AIエージェントの提供後、特に開発者が運用に関わらず、AIエージェントが完全にDAOとして自律的に動き、投資運用についてもスマートコントラクトにより自動執行される等の場合には規制の対象外となる可能性がある。

VII その他の法律

(1) 個人情報保護法、消費者契約法

AIエージェントがバーチャルアシスタントとして、サービスの販売支援や問い合わせ対応を行うことが考えられます。例えば、メタバース内で商品やサービスを販売する場合にも、AIエージェントが搭載されたアバターが自動接客を行うことが想定されます。

本パートでは、AIエージェントが接客サービスを提供する際の主要な法的問題について、従来の人間による業務と比較しながら説明します。

①人間が顧客対応する場合

人間が顧客対応を行う場合、例えば以下のような観点から法規制を遵守する必要があります。

(i) 個人情報の取扱い

顧客対応の際に個人情報を取得・利用する場合は、個人情報保護法の以下のルールなどを遵守する必要があります。

●利用目的をできるだけ明確に特定すること(個人情報保護法17条1項)
●特定した目的の範囲を超えて個人情報を利用しないこと(同法18条1項)
●利用目的を本人に通知又は公表すること(同法21条1項)

(ii) 消費者保護に関する規制

消費者に対してサービスの説明や情報提供を行う際には、消費者契約法4条に基づく以下の規制などを遵守する必要があります。

●重要事項について虚偽の説明をしないこと
●将来の不確実な事項について断定的な判断を提供しないこと
●消費者に不利益となる事実を故意又は重過失により伝えないことを回避すること

これらの違反があった場合、消費者は契約を取り消す権利を持つため、正確かつ十分な情報を提供することが重要です。

②AIエージェントが顧客対応する場合
(i) 個人情報の取扱い

AIエージェントが顧客対応を行う際にも、個人情報の取扱いには慎重な対応が求められます。

個人情報保護委員会は、OpenAIのサービス提供者に対し、「利用者及び利用者以外の者を本人とする個人情報の利用目的について、日本語を用いて、利用者及び利用者以外の個人の双方に対して通知し又は公表すること。」ということや、本人の同意なしに、要配慮個人情報を取得しないことなどの注意喚起を行っています9。 また、生成AIを利用して個人情報を取り扱う事業者に対しては、「個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」などの注意喚起を行っています10
AIエージェントにより個人情報を取り扱う場合には、これらの注意喚起を念頭に置いて対応する必要があります。

(ii) AIエージェントによる誤情報(ハルシネーション)の問題

消費者契約法4条などを遵守する観点では、AIエージェントが不十分な学習データや古い情報をもとに不十分な情報提供や誤った回答をする「ハルシネーション」のリスクが問題となります。
この問題を防ぐために以下のような対策をとることが考えられます。

●最新かつ正確な学習データを用いて、AIエージェントを継続的にトレーニングすること
●消費者が誤情報を報告できるフィードバック機能を実装すること
●運営者がAIエージェントの回答を適宜チェックし、必要に応じて修正を行うこと

留保事項
・本稿の内容は関係当局の確認を受けたものではなく、法令上合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本稿に記載された内容は筆者らの現時点での見解にすぎず、今後変更がありえます。
・本稿はAIエージェントやWeb3 AIエージェントの利用を推奨するものではありません。
・本稿はAIエージェントに関する一般的な考え方を記載したものに過ぎず、具体的な案件に関する法務アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的助言が必要な場合は、各自、弁護士にご相談下さい。

I. 初めに

暗号資産の価格上昇に伴い、ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。
南米やアフリカでは金融インフラが不十分な地域を中心に、ビットコインやステーブルコインが日常決済で急速に普及しています。例えば、エルサルバドルではビットコインが法定通貨として採用され、納税や個人間送金にも活用されています。先進国アメリカでも、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスでCrypto決済を導入する企業が増えています。

一方、日本では2017年にビックカメラがビットコイン決済を導入したことが大きなニュースになったものの、その後のCrypto決済の普及は限定的だと思われます。その主な原因として、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きな課題です。ただし、値動きが少ないステーブルコインが普及すれば、日本でもCrypto決済が広がる可能性があります。

本稿では、Crypto決済の仕組みを解説し、日本で導入する際の法律上の論点について述べます。
本稿の「Crypto決済」とは、暗号資産決済やステーブルコイン決済を含む幅広い概念として扱いますが、法律議論は主に暗号資産を中心として議論します。ステーブルコインの売買や管理に関する規制は概ね暗号資産規制と同様であり、適宜、読み替えてお読み下さい。

II. 世界のCrypto決済の例

Cypto決済の例は、大きく分けて二つのカテゴリーに分けられます。一つはCryptoを直接決済に使用する例、もう一つはクレジットカードやデビットカードを使用した例です。下記では、海外で行われている例の一部を紹介します。

1. Cryptoを直接決済に用いる例

〇アメリカ

〇エルサルバドル

〇シンガポールや韓国

〇スイス

2. Crypto決済にカードを用いる例

〇クレジットカード11/デビットカード型

〇デビットカード型

〇プリペイドカード型

III. Crypto決済と日本法

1. 法律のまとめ

  暗号資産法 割賦法、貸金業法、前払式支払手段規制 外為法
自社店舗によるCrypto決済の受入れ なし なし 非居住者との3000万円以上の決済の場合には外為法の報告
決済代行業者を利用したCrypto決済 決済代行業者に売買規制の適用可能性 なし 同上
クレジットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 割賦法(ショッピング)及び貸金業法(キャッシング)の適用可能性 同上
デビットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 なし 同上
プリペイドカード型 なし 自家型又は第三者型として前払式支払手段規制の適用 同上

2. 自社店舗によるCrypto決済

自社の実店舗やオンライン店舗でCryptoを決済に収受する場合の規制を解説します。
日本では、暗号資産の売買、その媒介や他人のためにする管理は、暗号資産交換業として規制されています。しかし、自社の店舗でCryptoを決済として受け取ること自体については規制が存在しません。
また、受け取ったCryptoを自社で保有したり、暗号資産交換業者を利用して金銭に交換することにも規制はありません。
ただし、非居住者との間で、3000万円以上の決済を行う場合は、原則として外為法上の報告義務が発生します(外為法55条)。この報告義務は、3000万円相当のCryptoでの決済場合も同様であり、居住者による報告が必要となります。この外為法上の報告義務は、2以下の場合でも同様に当てはまります。

3. 決済代行業者を利用したCrypto決済

日本の会社の中には、自社で暗号資産を保有したり管理したりすることに抗拒感を持つ会社が存在します。これは、価格変動やハッキングなどのセキュリティリスク、会計や税務上の問題などが原因として挙げられます。
このような会社は、第三者である決済代行業者(以下「決済代行者」といいます。)を利用し、決済代行者が暗号資産を収受し、これを日本円に変換して店舗などの会社に渡すスキームが取られることがあります。

このスキームは、下記の行為の組み合わせとなります。
①暗号資産を他人のために収受する。
②収受した暗号資産を他人のために日本円に変換する。
③変換した日本円を会社に渡す。

しかし、この中の「②暗号資産を日本円に変換する」行為は、決済代行者が暗号資産交換業を営んでいるとみなされ、原則として暗号資産交換業の登録が必要と考えられます。
この点について、日本ではコンビニエンスストアや宅配便業者による収納代行が特に規制なく行われていることとの比較が問題となります。決済代行者が行う行為も収納代行であり規制は存在しないと考えられないか、以下のような整理ができないか問題となります。

①店舗から決済代行者が収納代行の権限を与えられる。
②決済代行者は暗号資産を自分のものとして収受する。
③その委任事務の処理の一環として日本円を渡す。
④これは変換行為ではなく、委任事務の処理上の支払い方法にすぎない。

このような考え方は理論上は可能かもしれませんが、筆者の経験では、実際の運用では当局との議論が厳しくなる可能性が高いと考えられます。そのため、実務上は暗号資産交換業の登録が必要な可能性が高いと考えておくのが安全でしょう。
ただし、他の業務や委任された事務に付随する形で行われる場合、その具体的な内容によっては許容される可能性もあります。この点については、ケースごとに慎重な検討が必要です。

4. クレジットカードタイプ

(1)仕組み

クレジットカードタイプのCrypto決済として考えられる典型的な例は、次のような仕組みになります12

①暗号資産交換業者またはその連携会社がクレジットカードを発行。
②ユーザーが円立てやドル立てで商品を購入。
③通常のクレジットカードとは違い、決済はユーザーの暗号資産交換業者のアカウントからビットコインなどが引き落とされる。

(2)割賦販売法

日本において、クレジットカードの発行には、「2ヶ月を超える分割支払い」「リボルビング支払い」「ボーナス一括支払い」などの機能を提供する場合に割賦販売法が適用されます。
一方、「翌月1回払い」のみのカードは割賦販売法の対象外であり、規制を受けずに発行可能です(割賦販売法2条の定義参照)。ただし、このようなカードは便利性が限られるため、実際にはほとんど発行されていません。
暗号資産にリンクするクレジットカードでも、この規制が適用されます。

(3)貸金業法

クレジットカードのキャッシング機能は、商品やサービスの購入ではなく、借入であるため、割賦販売法ではなく貸金業法の規制対象となります。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、キャッシングを円や外貨で行える場合には貸金業が適用されます。ただし、暗号資産でキャッシングできる場合は、暗号資産レンディングには貸金業法が適用されないため規制対象外です(貸金業法2条の定義参照)。

(4)暗号資産法

暗号資産にリンクしたクレジットカードの場合、この暗号資産の保管には暗号資産交換業が適用されます。
さらに、決済の過程で暗号資産の売買行為に該当することがあります。

この場合、上記行為は暗号資産の売買であり、暗号資産交換業の登録が必要になると思われます。
なお、クレジットカードの決済は原則として金銭で行うが、ユーザーが事後的に暗号資産での代物弁済を選択できる、といったスキームである場合、これは代物弁済にすぎず、暗号資産交換業は適用されないと思われます。

5. デビットカードタイプ

(1)仕組み

デビットカードタイプのCrypto決済の典型的な例は次のような仕組みです。
①暗号資産交換業者またはその連携会社がデビットカードを発行。
②ユーザーが暗号資産交換業者にビットコインなどを預託。
③ユーザーは預託した暗号資産の範囲で、円立てやドル立てで商品を購入可能。
④商品購入時に、ビットコインが自動的に円転される。

(2)デビットカード発行に関する規制

日本では、デビットカードの発行自体には特別な規制はありません。しかし、例えば普通のデビットカードは預金を組み合わせて発行されるため、銀行法の適用対象となります。
一方、暗号資産を連携したデビットカードの発行には銀行法は適用されず、以下の論点が生じる可能性があります。

(3)暗号資産法

他人の暗号資産を業として管理する場合は、暗号資産交換業者としての登録が必要となります。また、売買規制が適用される可能性もあります。

6. プリペイドカードタイプ

(1)仕組み

前払式支払手段とは、図書券やAppleギフトカード、Amazonギフトカードのように、事前に対価を支払い、その対価に応じた、残高などが付与され、残高で決済ができる仕組みをいいます

前払式支払手段型のCrypto決済は、次のような流れになります。
①発行会社がプリペイドカードを発行。
②ユーザーが発行会社にビットコインなどを送付。
③送付されたビットコインの時価に従ったチャージが行われる。例:0.001BTCであれば1.5万円相当。
④ユーザーがカードを使用した際に、チャージ残高から減額される。

(2)前払式支払手段の発行規制

日本における前払式支払手段の発行は、「自家型」と「第三者型」に分けられます。

自家型の場合には届出、第三者型の場合には登録が必要となり、いずれの場合も未使用残高の半分の供託などの規制がかかります。

ただし、次の場合は規制が適用されません。

(3)暗号資産法の適用

プリペイドカードは、クレジットカードやデビットカードと異なり、原則として暗号資産交換業の規制は適用されないと考えられます。この理由は下記のとおりです。
①発行会社は暗号資産を保管しているわけではない。
②チャージで、暗号資産の金額に応じたチャージがなされるが、これは金銭と暗号資産の交換ではない。あくまで前払式支払手段の発行行為にすぎない。
③暗号資産同士の交換にも該当しない。

ただし、チャージした暗号資産を、再度暗号資産に戻すこと(払い戻し)が可能なスキームの場合、実質的には暗号資産の預託とみなされ、暗号資産交換業におけるカストディ規制が適用される可能性があります。

IV. 法律以外の問題

1. Crypto決済と税務

(1)Crypto決済時の利益確定について

Crypto決済は、決済を行った時点で利益が確定したとされ、この利益に税が課されます。たとえば、1万円で取得した暗号資産が5万円に値上がりし、その暗号資産を使用して決済を行った場合、4万円の利益が発生します。この利益は、個人の場合「雑所得」に分類され、他の所得と合算した総合課税にて、最大55%の税率が適用されます。

(2)少額決済の記録と確定申告の手間

Crypto決済を行った場合には、上記のような課税がなされるため、原則として確定申告が必要になります。雑所得が20万円以下であり、かつ1か所から給与を受け取らない給与所得者である等の場合には確定申告の義務がありません。
しかし、雑所得が20万円を超える場合や、雑所得が20万円以下でも自営業者、フリーランス、副業がある等でそもそも確定申告の義務がある場合、Crypto決済での利益についても1円単位で申告する必要があります。
たとえば、日常的な買い物で暗号資産を使用した場合、各取引時点の暗号資産の時価を記録し、その利益を合算して申告することが求められます。この記録と計算の手間は非常に煩雑であり、特に少額決済を頻繁に行う場合、実務上大きな負担となります。
なお、この問題は、本来は、海外旅行で余った外貨を後日使用した場合にも適用されます。例えば1ドル120円の時に入手した10ドルを、何年後かの海外旅行で1ドル150円で使用した場合には、差額の30円×10ドル=300円について雑所得として課税され、確定申告が必要となります。

(3)Crypto決済への海外での課税

海外では暗号資産に関するキャピタルゲイン課税がない国や、ある場合にも少額の場合や長期保有の場合に課税対象外とする、という国があります。

(各国の税制=Chat GPT等調べ)

1 個人の暗号資産取引についてキャピタルゲイン課税がない国 シンガポール、ポルトガル、スイス、マレーシア、UAE、エルサルバドル
2 個人が長期で保有した場合、キャピタルゲイン課税がない国 ドイツ(1年以上保有した場合には非課税)
3 一定の限度額の範囲でキャピタルゲイン課税がない国 イギリス(年間6000ポンド=約120万円まで)
イタリア(年間2000ユーロ=約32万円まで)
韓国(年間2500万ウォン=約250万円まで)
ブラジル(月額35,000ブラジルレアル=約90万円まで)
4 少額決済には非課税の国 オーストラリア(1取引が10,000豪ドル=約90万円以下の「個人的利用目的(Personal Use Asset)と見なされる場合、非課税)
5 少額決済への非課税化を現在議論中の国 アメリカ(現在は短期保有か1年以上保有の長期保有かに分けて課税。1回あたり200ドルまで利益の少額決済については課税しない議論が進行中)
6 少額決済でも基本的に課税される国 日本(但し、確定申告義務ない人の場合には20万円までの雑所得は非課税)、フランス、カナダ、アルゼンチン

日本で暗号資産のキャピタルゲインを課税しない議論は極めて難しいと思われます。また、G7でも米国、フランス、カナダが課税の現状下、少額決済に課税しないとの議論を当局に説得的に要望することは難しいかもしれません。
しかしながら、各国がWeb3の進展を図る中、特に米国で少額決済の非課税化が通った場合には、日本でも競争政策上少額決済の利益には課税しない等の制度を導入することが必要なのではと思われます。

2. カード発行と国際ブランドとの接続

暗号資産リンク型のカードを発行する際には、多くの場合、国際ブランド(VISA、MasterCard、Amex、JCB、Dinersなど)と契約し、その決済ネットワークを利用します。この際、国際ブランドは、自身が規制を受けているため、カード発行体に対して以下のような審査を行うことが通例です:

さらに、国際ブランドと直接契約する代わりに、既に国際ブランドと強固な関係を持つ日本のクレジットカード会社を通じて提携カードとして発行する方法もあります。この場合、カード発行プロセスの一部が簡素化される可能性がありますが、それでも一定の規制対応やコストが発生する点には注意が必要です。

V. 今後の発展の可能性、課題

本邦ではCrypto決済は必ずしも普及していないと思われます。これは規制というよりも、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きいのではと思われます。
ステーブルコインが普及した場合、相当程度の問題は解決される可能性があるものの、現時点では日本でステーブルコインがどの程度普及するかは未知数です。
今後、Web3分野での国際競争の観点からも、Crypto決済の税務面が改善されることが期待されます。

留保事項

本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に注目を集めるEigenLayer(アイゲンレイヤー)の仕組み、日本法の考察を記載します。

なお、EigenLayerを理解するためには、前提知識としてProof of Stake(以下「POS」)の仕組みとリキッドステーキングについても理解することが必要なため、それらについても若干触れます。また、関連する範囲でリキッドリステーキングやポイントサービスについても触れます。

(参考) EigenLayerについて特に詳しい資料
やさしいDeFi「EigenLayerの可能性とリスクを考えよう」
DeFi Japan「EigenLayerをエイゲンレイヤーって読んでいるお前、ガチで危機感を持ったほうがいいと思う」(上記資料の解説YouTube)
・Turingum「基礎からわかるEingenLayer」(閲覧にはメアド等の入力が必要)

→    本書での仕組みの概要の解説は上記の資料に多くを拠っています。上記の資料の方が更に詳細で判りやすいので、更にご関心のある方は上記の資料もご覧になることをお勧めします。

(参考)ステーキングに関する当事務所の以前のArticle
ステーキングに関する法的論点の整理(2020.3.17)
DeFiと法律 – LIDOやリキッドステーキングの仕組みと日本法(2023.10.17)

I. 纏め

法律整理の纏め

EigenLayrerなどリステーキング
 (1) EigenLayerなどリステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼ぶ)のカストディ規制、②金商法のファンド規制、③景表法の規制、の適用の有無を考える必要がある。
(2) EigenLayerにETH等がデポジットされる行為が、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、EigenLayer、AVS、オペレーター等が技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。
(3) EigenLayerがETH等のデポジットを受け、オペレーターがAVSを選択し、その結果、AVSから報酬を受け取る、ユーザーに対して報酬の一部の分配を行う、またユーザーはスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、デポジットされたETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング等のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。
(4) EigenLayerなどリステーキングでは、利用の報酬としてポイントが付与されることがある。また、そのポイントの量に応じて将来的にAirDropがなされることがある。これらについては景表法の適用可能性の検討が必要となる。この点、ユーザーはこうしたポイントまで含めてリステーキングに伴う報酬として認識し、その利回りの高さゆえにEigenLayerでのリステーキングを行っていると考えられる。そうすると、EigenLayerポイントは取引の本来の内容であり、取引に付随して提供される「景品」ではないという見方ができると思われる。

リキッドリステーキング
(5) 外部業者であるリキッドリステーキング業者には様々な仕組みがあると思われるが、主として①暗号資産法のカストディ規制、②同法の売買規制、③金商法のファンド規制、④景表法の規制、の適用の有無を考える必要がある。
(6) リキッドリステーキングに関し、ETHをデポジットする行為がカストディではないかという点については、秘密鍵の管理の点が問題となるが、基本的には問題ないように思われる。
(7) ETHをデポジットしてLiquid Restaking Tokenを発行する行為が暗号資産の交換にならないか、という問題がある。法的にはデポジットの証拠としてトークンが出されるということであれば暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。
(8) リキッドリステーキング業者についてもファンド規制を検討する必要がある。秘密鍵の管理がどのようになっているか等、検討する必要があると思われるが、スマートコントラクトによりあくまで担保のためにしか使用できないようになっている場合、ファンドには該当しないのではないか、と思われる。他方、スマートコントラクトが適切に設定されず、業者が秘密鍵を流用できるような形で運営がなされている場合、ファンド規制に服する可能性がある。

用語の纏め
リステーキング関係の用語は非常に複雑なため、概要理解のため、当職らが理解している限りで用語の整理をします。

(1) 主としてETHステーキング関係の用語
POS Proof of Stake。暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせる仕組み
ステーキング POSのブロックチェーンに関し、自身が認証者(バリデーター)になるために、保有トークンを預託等すること。ETHの場合、32ETHをステークすることによりステーキングが可能。ステーキングや認証の対価として、ステーキング報酬を得られる
バリデーター POSにおいて認証を行う者
デリゲータ― POSバリデーターに認証を委託する一般ユーザー
EVM Ethereum Virtual Machine、イーサリアム仮想マシン。イーサリアムブロックチェーン上でスマートコントラクトを実行するソフトウェアによる仮想マシン環境であり、イーサリウムブロックチェーンによるセキュリティーが担保されている
(2) 主としてリキッドステーキング関係の用語
リキッドステーキング 自分自身が32ETHを保有しなくても業者に委託を行いETHのバリデーターに成れる仕組み。かつ、その対価としてLSTが得られ、LSTについてもDeFiで再利用できる、というもの
LIDO リド又はライド。リキッドステーキングサービスの最大手
LST Liquid Staking Token。リキッドステーキングを行ったユーザーに対して提供されるトークン。例えばLIDOではstETHというトークンが出される
(3) 主としてEigenLayerやリステーキング関係の用語
EigenLayer EVM(Ethereum Virtual Machine)以外で動作するプログラムに対してETHを使ってセキュアな実行を担保するための仕組み。ETH等をイーサリウムのみにステークするのではなく、他の無関係なサービス(後述のAVS)に対しても安全性の担保提供を行うことにより、ユーザーは二重三重の収益を得られる特徴がある
リステーキング EigenLayerや類似の仕組みを利用し、イーサリウムへのステークに加え、他のサービスにもステークすることにより、追加報酬を得る行為
ネイティブステーキング/ネイティブリステーキング 自分自身が32ETHを用意し、自分自身がイーサリウムのPOSにおいてバリデーターになるステーキング。この者がリステーキングを行うことをネイティブリステーキングという
EigenPods ユーザーがネイティブステーキングを行った場合に、EigenLayerにおいてリステーキングする際に使用されるスマートコントラクト。ネイティブステーキングの際にクルデンシャル(引出先)としてEigenPodsのアドレスを指定することにより、EigenLayerでのリステーキングが可能となる
LSTリステーキング LIDOなどで出されるLiquid Staking Token(stETHなど)をリステーキングすること
AVS Actively Validated Serviceの略。リステーキングサービス上で、安全性の担保を受けるサービスやアプリケーションのこと
オペレーター EigenLayer上にステークされたETH等を利用してAVSにセキュリティー提供を行うに際し、セキュリティー提供先となるAVSを実際に選定する者。ユーザーはオペレーターを選択し、AVS選定を委託する。ファンドで言うと一種のファンドマネージャーか
セキュリティー 有価証券という趣旨ではなく、安全性の担保、という趣旨
(4) 主としてリステーキング関係の用語
リキッドリステーキング 単独で32ETHを有していないユーザーのETHを取りまとめ、EigenLayerでのリステーキングを可能とするサービス
LRT Liquid Restaking Token。リキッドリステーキングを行ったことの証明として得られるトークン
(5) 主としてポイント関係の用語
EigenLayerポイント ユーザーがEigenLayerでリステーキングすることで得られるポイントであり、EigenLayerによる独自トークン(EIGEN)との交換が可能
Pendle トークンを元本部分のトークン(Principal Token=PT)と利回り部分のトークン(Yield Token=YT)に分割し、それぞれ取引可能とするDeFiプロトコル。Pendle経由でリキッドリステーキングをすることでポイントを何度も取れる等でEigenLayerへの流入が加速した

II. ETHステーキング、リステーキングやEigenLayerの基本概要

1 リステーキング、EigenLayerとは

EigenLayerは、EVM(Etherium Virtual Machine)以外で動作するプログラムに対し、ETHを使ったセキュアな実行を担保するための仕組みです。

例えば、イーサリウムブロックチェーンを利用したDeFiが、EVM部分とEVM以外で動作する部分をそれぞれ有する場合、EVM部分についてはイーサリウムブロックチェーンのセキュリティーが担保されています。しかし、EVM以外で動作する部分についてはイーサリウムブロックチェーンのセキュリティーの担保を受けられず、脆弱性を抱えるという問題があり、EigenLayerはこれに対する解決方法の提供を図るものです。

ユーザーとしては、単純なETHステーキングに比べて、二重三重の報酬を得られる、という点にメリットがあります。

2 リステーキングを理解するための前提知識

(1) Proof of Stakeとステーキング
Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。
ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。

(2) ETHのステーキング
イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH(2024年4月現在の価格で約1600万円)をデポジットすることで バリデーターになれる、②バリデーターがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、バリデーターが意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またバリデーターは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。

(3) リキッドステーキングとLIDO
リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン=Liquid Staking Token=LSTと呼ばれます)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。

自分自身で32ETH(約1600万円)の資産を有していなくてもLIDOに参加することにより少額からステーキング報酬を得られる、といいう特徴があり、爆発的にヒットしています。
その最大手、LIDOの仕組みについては「DeFiと法律 – LIDOやリキッドステーキングの仕組みと日本法」をご覧ください。

3 EigenLayerの提供するセキュリティー

(1) ブロックチェーン上で必要なセキュリティーと問題点
独自のL1チェーンを作成する場合や、ブロックチェーン上で何らかの認証が必要なサービスを作成する場合、その信頼性や安全性を如何に担保するのか、という問題が生じます。

例えば、定期的に多数の暗号資産取引所やDeFiプロトコルを巡回し、そこでトークンの価格情報を収集して、その平均値を出す、といったようなサービスを提供することを考えます。このような情報収集はDeFi上で暗号資産デリバティブ等を自動実行したい場合に必須となりますが、虚偽の情報を提供していないのか等をどう確保するのか問題が生じます。

そのようなセキュリティーを担保するための一つの手段として、①独自トークンを発行、②その独自トークンをロックさせ、③虚偽の情報を提供した者がロックしたトークンは没収(スラッシング)する、④他方、正確な情報を出した者には報酬を出す、というような仕組みが考えられます。情報収集のための巡回を分散化された無関係の多数の者に行わせ、外れ値を出した者のロックトークンを没収する、というような仕組みを構築した場合、情報提供者は虚偽情報を伝えるインセンティブが減少することになります。

このような独自トークンのロックの方法によるセキュリティーも一定程度の効果はありますが、(i)独自トークンの価値が低い場合には機能しにくい、(ii)独自トークンの保有者が分散していない場合(例えば当初開発者が多数のトークンを保有している場合)機能しない、(iii)情報提供者にわざわざ独自トークンを購入させる必要性があるがそのインセンティブが少なく、そうすると情報提供者が増えない、等の問題があります。

(2) EigenLayerが提供するセキュリティー
これに対し、EigenLayerでは、イーサリウムという巨大な仕組みを利用することにより、セキュリティーを確保します。

EigenLayerでは、既にイーサリウム上でステーキングされているETHを再利用してセキュリティーを提供します。上記(1)の価格提供の事例でいうと、①ETHを一定以上ステークしている者のみ価格情報を提供できる、②虚偽情報を提供した場合、ETHをスラッシュする、③正確な情報を提供した場合、何らかの報酬を付与する、という仕組みとなります。

特徴的なのは、イーサリウムの通常のPOSのためにステーキングをして報酬を得た上で、更に別の幾つものプロジェクトのためにも担保として提供可能、としている点です。

イーサリウムは2024年4月現在の時価総額で約60兆円という巨額の資金があり、かつETH保有者も大きく分散しています。また、EigenLayerに対しては2024年4月現在で約15 Bドル(約2.2兆円)もの資金がデポジットされています。

これにより、上記(1)で記載した(i)(ii)(iii)の問題につき、(i)独自トークンと異なりETHの価値は高い、(ii)ETHの保有者は分散している、(iii)情報提供者にはわざわざ独自トークンを買わせる必要はなくETH保有者であれば良い、また、通常のPOSに加えて追加で参加できるので、参加が容易、という解決策を提供する点が、特徴となります。

4 ユーザーがEigenLayerに参加するための具体的な方法

(1) EigenLayer上でのリステーキングの実際のやり方
ユーザーがEigenLayerを利用する方法としては、①ネイティブステーキングでのリステーキング、②LIDOなどリキッドステーキングで出されたLSTに関するリステーキング、③リキッドリステーキングサービスによるリステーキング、など各種方法があります。

① ネイティブステーキングとリステーキング
ネイティブステーキングとは、自分自身が32ETHを用意し、自分自身がイーサリウムのバリデーターになることを指します。

このネイティブステーキングの際にクルデンシャル(引出先)としてEigenLayerが用意するEigenPodsというアドレスを指定することにより、リステーキングが可能となります。

具体的には、イーサリウムのコンセンサスレイヤーであるBeacon Chainにおいて、バリデーターはステーキングする32ETHおよびステーキング報酬として受領するETHの引出先アドレスを指定する必要があります。EigenLayerを利用してリステーキングする場合、ユーザーはこの引出先アドレスをEigenPodsに指定します。これにより、ステーキング情報がEigenLayerに連携され、ETHによるリステーキングが可能となります。

② LSTのリステーキング
EigenLayerでは、LIDOなどで発行されるLiquid Staking Token(LST、stETHなど)をリステーキングすることも可能としています。この場合のEigenLayerでのスラッシング対象はLST (stETHなど)になります。

LIDOを例にとれば、自ら32ETHを用意してバリデーターになることができない(あるいは32ETHは用意できるが自らバリデーターになろうとはしない)ユーザーは、保有するETHをLIDOに送付し、LIDO経由でETHのステーキングを行うことが可能です。この場合、ユーザーはLIDOに送付したETHの代替資産(ステーキング証明トークン)としてstETHを受領します。

EigerLayerを利用すると、ユーザーはETHのステーキング報酬(正確にはLIDOおよびバリデーターの取り分を控除した残額)を受け取り、さらにLIDOから受領したstETHをリステーキングして報酬を獲得することが可能となります。

③ リキッドリステーキング
EigenLayerの外部サービスとしてリキッドリステーキングというサービスも存在します。
リキッドリステーキング業者に預託をすると、当該業者が32ETH集まるごとに、EigenLayerの上記①の方法を利用してリステーキングを行ってくれる、というサービスになります。すなわち、単独では32ETHを用意できないユーザー向けに、リキッドリステーキング業者がETHを取りまとめてETHのネイティブステーキングとEigenLayerでのリステーキングを行うものです。

なお、LSTのリステーキングとリキッドリステーキングとの比較ですが、(a)前者ではEigenLayerへのデポジット対象はstETHなどのLSTであり、スラッシングの対象もLSTなのに対し、後者ではETH自体がスラッシング対象、(b)EigenLayerはリステーキングの受入額に上限を設ける場合があり、LSTのリステーキングの上限額とネイティブステーキングの上限額とは別建てで設定されることがあり、後者では後者の枠を利用できる、(c)前者の場合、EigenLayerのオペレーターは自分で選ぶ(各オペレーターがどのAVSに対してセキュリティー提供しているのかを確認し、ユーザー自らオペレーターを選択)のに対し、後者では、その選択をリキッドリステーキング業者に委託する、という差異があります。

方法の比較(暫定版)

  仕組み イーサリウムでのステーキング EigenLayerでのオペレーターの選定 EigenLayerでの上限枠
ネイティブステーキングのリステーキング イーサリウムでステーク済みの自己保有32ETHをEigenLayerでリステーキング 自分で行う 自分で行う 独自の上限枠
stETHのリステーキング 少額ETHをLIDOに送付し、LIDOから受領したstETHをEigenLayerでリステーキング LIDOが選んだバリデーターが行う 自分で行う ネイティブステーキングとは別枠
リキッドリステーキング 少額ETHをリキッドリステーキング業者にデポジット。業者がEigenLayerでリステーキング リキッドリテーキング業者が選んだバリデーターが行う リキッドリステーキング業者が行う ネイティブステーキングと同枠

5 AVSとオペレーター

(1) AVS
Actively Validated Services (AVS)とは、EigenLayer上に構築され、セキュリティー提供を受ける対象となるサービスやアプリケーションのことを指します。

イーサリウムブロックチェーン上のアプリケーションでは多くの場合セキュリティーが担保されているEVM部分と、EVM以外で動作する部分(イーサリウムブロックチェーンによるセキュリティーが担保されない)で構成され、非EVM部分について脆弱性を抱えています。従来、こうしたアプリケーションが非EVM部分の脆弱性に対応するためには、例えば3(1)で述べたように自ら独自トークンを発行してPOSを行う等により対応する必要がありました。EigenLayerの利用により独自トークン発行の必要性が解消されることになります。

もっとも、セキュリティーを確保するためには、各AVSはEigenLayer経由でなるべく多くのリステーキングを集めてPOSを行う必要があります。そのため、高いリターンを提示することなどにより、セキュリティー提供先を選定するオペレーターに対してアピールを行うことが想定されます。

(2) オペレーター
EigenLayerの仕組みを利用し、どのAVSへセキュリティー提供を行うかは、ユーザーにとってリターンの高低や、スラッシング(AVSへ虚偽情報を提供した場合に、ステーキングしているETH/LSTの一部を没収するペナルティー)リスクの大小に関わる重要な判断となります。もっとも、必ずしも各AVSの内容について精通しているわけではないユーザーにとって、適切なAVSを自ら選定することは困難である可能性があります。このためEigenLayerでは、ユーザーからの委任を受けたオペレーターが、セキュリティー提供先となるAVSを選定するという仕組みが用意されています。

なお、オペレーターはユーザーから委任を受けたETH/LSTを、同時に複数のAVSへのセキュリティー提供のために利用することが可能です。例えばユーザーから100ETH分のセキュリティー提供について委任を受けていた場合に、5つのAVSに対して当該100ETH分のセキュリティー提供を行う、といったイメージです(100ETHの委託を受けながら、合計500ETH分を運用していることとなります)。各AVSからのリターンが得られるため、ユーザーにとっては、セキュリティー提供先であるAVSが増えれば増えるほど利回りは高くなることになります。もっとも、多くのAVSを対象とするほどスラッシングリスクは高まるため、積極的なリスクを取って高い利回りを狙うのか、それとも低リスクで相応の利回りを取るのか、オペレーターごとの戦略が表れる可能性があります。

6 ポイントサービス

(1) EigenLayerポイント
EigenLayerでは「ポイント」が設定されています。具体的には、ユーザーは1ETH(LSTの場合にはETHに換算)を1時間リステーキングすることで1ポイントを獲得できます。そして、1ポイント1トークン換算で、EigenLayerによる独自トークン(EIGEN13)との交換が可能です。2024年4月29日にEigen Foundationが公表14したところによれば、EIGENの総発行トークン数(約16億7364万)のうち15%がAirDropされる予定とのことであり、2024年5月10日から実際にAirDropが開始されます。

こうしたポイントをEigenLayerを用意することのメリットは、EigenLayerでのリステーキング残高を増加させることでセキュリティー提供の実効性を高めることに加え、EIGENトークンを一気に普及させることができる、ということにあると思われます。

(2) Pendle経由でのリステーキング
EigenLayerの残高の増額と大きく関係するDeFiとしてPendleがあります。
Pendleは元々は金利のつくものを分割して取引する金利売買のDeFiです。具体的にはPendleではトークンを元本部分のトークン(Principal Token=PT)と利回り部分のトークン(Yield Token=YT)に分割して取引することができます。Pendleが各LRTと提携して行う「Pendle Point Party」では、Pendle経由でLRTをStakeすると、通常より多くのポイントがLRTからもらえる、という仕組みを導入し、これにより、EigenLayerへのリステーキングが加速したようです。

例えばETHをPendle経由→LRT経由→EigenLayer、とリキッドリステーキングする場合、YTに「LRTのstake報酬 + LRTのポイント + EigenLayerのポイント」を受け取れる、という仕組みのようです。

III. リステーキングと日本法

EigenLayerのようなリステーキングを提供する場合、暗号資産法のカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。

1 EigenLayerと暗号資産のカストディ規制

EigenLayerに対するETHやLSTのデポジットがEigenLayerに対する暗号資産の寄託と考えられ、EigenLayerに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。
本邦のカストディ規制では下記のパブリックコメント等から、仕組み上、秘密鍵を利用して移転ができるシステムなのかが問題になります。

令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果159番
事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。

この点、EigenLayerが公表しているドキュメントでは、従来の金融業界における「リハイポセケーション」(顧客からの預かり資産を担保に再利用すること)の仕組みとの類似性を否定しつつ、「ステイカーはステイクされたトークンについて 完全なコントロールを有する」ことが示されています16。すなわち、EigenLayer側ではユーザーから受け入れたETH/LSTについて、(スラッシングを除き)勝手に移転できないことが前提となっているものと思われます。この理解が正しい場合、EigenLayer側では秘密鍵の管理は行っていないのでは、と考えられます。

この点について具体的なリステーキングの場面からも確認をすると、まずEigenLayerでのネイティブステーキングでは、ETHのステーキング時の引出先(クルデンシャル)としてEigenPodsを指定することによりリステーキングが行われます。EigenLayerが公表するドキュメントでは、リステーキングの実施及びEigenPodsへの引出しはすべてユーザーの操作によって行われます17。また、EigenPodsに引出後のユーザーのETHについても、EigenLayerのスマートコントラクトにおいてあくまで担保提供目的/スラッシングにのみ利用できるようになっているのでは、と思われます。なお、スラッシングは2024年4月現在では、EigenLayerにおいてまだ実装されておらず、その詳細な仕組みについては確認できません。

次に、LSTのリステーキングの場合、LSTをEigenLayerにロックすることにより、リステーキングが行われるようです。ここでも、LSTのロックや引出しはすべてユーザーによって行われ18、セキュリティー提供のため以外にはロックされた当該LSTを利用できない(=秘密鍵を管理していない)という仕組みのように見受けられます。
このようにETHやLSTの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。

2 EigenLayerと金商法規制

ETH等のデポジットを受け、EigenLayerのオペレーターがそれを運用し、ユーザーに報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、EigenLayerがファンドに該当しないかが問題となります。

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
(B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利
(C) 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(以下略)
 
外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり19、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。

また、上記(C)の例外事由にも該当しません。
問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETH/LSTがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られた報酬(ETH)がユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。

しかしながら、リステーキングの場合、通常のファンドとは以下のような点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。
① 通常のファンドの場合、出資を受けた金銭等は、ファンド運営者に完全に所有権が移転し、ファンド運営者は契約上の縛りはあるものの技術的には様々に使用できるのに対し、リステーキングの場合は、ETH/LSTの拠出はスマートコントラクトに対して行われ、EigenLayerやオペレーターが自由に使えるものではない。ETH等に対するオーナーシップ(所有権類似の権利)はユーザーが常に保有していると考えられる。
② 通常のファンドの場合、受け取った金銭等は株式の購入や事業資金等に使用され形を変えるのに対し、リステーキングでは、スマートコントラクトに送付されたETH/LSTは特に他のものに変えられることはなく、そのまま維持される。
③ ETH/LSTがロックされる理由は、バリデート作業やオラクル作業にあたり不正申告をした場合のスラッシング等を担保するために過ぎない。③ ETH/LSTがロックされる理由は、バリデート作業やオラクル作業にあたり不正申告をした場合のスラッシング等を担保するために過ぎない。
④ 上記①~③を踏まえ、リステーキングの法的性質を従来からの経済行為に例えると、ユーザーは一種の債務不履行責任を担保するための物上保証としてETH等をスマートコントラクトにロックしているに過ぎず、複数の相手方に対して物上保証を提供したことに対する報酬を受け取っているに過ぎない、と考えることができる。そしてこのような物上保証の提供や報酬の受領は、ファンドにいう「出資や拠出」、「充てて行う事業」という要件を満たすものではない。

3 EigenLayerのポイントと景表法規制

前述(II 6)したように、EigenLayerではリステーキングの報酬としてポイントが付与され、そのポイントの量に応じてEIGENトークンのAirDropがなされます。こうしたリステーキングに伴うポイント配布について、日本法上は景表法の適用についての検討が必要となります。

景表法では、過大な景品類の提供が禁止されています。景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。また、経済的利益には(a)物品及び土地、建物その他の工作物、(b)金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券、(c)きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)、(d)便益、労務その他の役務、を幅広く含みます。この点、リステーキングによって得られるポイントは「景品類」に該当するかが問題となります。

EigenLayerポイントは、EigenLayerでのリステーキングへの強力な誘因効果を発揮しているとみられ、①顧客誘引性を当然満たすと思われます。また、③の経済上の利益については、上記(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されています。EigenLayerポイントはEIGENトークンのAirDropに紐づいており、ポイント自体がポイントマーケットプレイス(Whales Marketなど)において取引の対象となっています。このため、③も満たすと思われます。

これに対し、②取引付随性については該当しない可能性があると思われます。消費者庁は「正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供」(例:宝くじの当せん金、パチンコの景品、喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)について、取引付随性を否定しています20。EigenLayerにてリステーキングを行うユーザーは、リステーキングに伴う報酬を目的として取引を行っていると思われます。そして、ユーザーはリステーキングに伴ってAVSから交付されるリターンだけでなく、EigenLayerから交付されるポイントまで含めて、リステーキングに伴う報酬として認識し、その利回りの高さゆえにEigenLayerでのリステーキングを行っていると考えられます。そうだとすると、EigenLayerポイントもまさに取引の本来の内容であり、取引に付随して提供される「景品」ではないという見方ができるのでは、と思われます。

IV. リキッドリステーキングと日本法

なお、リステーキングの外部業者であるリキッドリステーキングについても法的論点を若干検討します。ただ、リキッドリステーキングの仕組みには様々なものがあると思われること、仮にスマートコントラクトを適切に設定している場合、論点としてはEigenLayerと同様になると思われること、から簡単にのみ記載します。

1 リキッドリステーキングと暗号資産の販売規制

リキッドリステーキングサービスでは、それに対してETHを拠出すると、LRTが交付され、逆にLRTをリキッドリステーキングサービスに対して送付すると、ETHが得られる、と言う仕組みがとられます。
この行為が、ETHとLRTとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。
しかしながら、LRTはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなLRTの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。

2 リキッドリステーキングとカストディ規制

リキッドリステーキングにおいても、ETHのデポジット等がカストディ規制に反しないか、という問題がありますが、秘密鍵の利用ができるシステムを検討する必要があります。
通常は秘密鍵を利用できないシステムだと思われ、その場合、暗号資産交換業規制は適用されません。

3 リキッドリステーキングと金商法規制

リキッドリステーキングについても金商法のファンド規制を検討する必要があります。
秘密鍵の管理がどのようになっているか等、検討する必要があると思われるが、スマートコントラクトによりあくまで担保のためにしか使用できないようになっている場合、EigenLayerやLIDO同様、ファンドには該当しないのではないか、と思われます。
ただ、業者が秘密鍵を流用できるような仕組みでETH等を集め、その上でEigenLayerにロックして収益を得ている、というような場合、ファンドに該当する可能性はあると思われます。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、ステーキング、リキッドステーキング、リキッドリステーキング、EigenLayer、LIDO等の利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に拡大を続けるリキッドステーキングとその最大手LIDOの仕組み、日本法の考察を記載します。

I  法的整理の纏め

(1)  リキッドステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼びます)の売買交換規制、②同法のカストディ規制、③金商法のファンド規制、の適用の有無を考える必要がある。
(2)  仕組次第であるが、LIDOが行うETHをステークし、代わりにstETHを受領するような取引は、暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。
(3)  ETH等のステークが、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、プロトコルやノードオペレーターが技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。
(4)  ETH等の拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、ETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング当のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。
(5)  上記のほか、日本法は運営者等の人や法人を対象とする規制のため、プロトコルに運営者がいない場合、当該プロトコルには規制が掛からないという議論がありうる。

II 当事務所のDeFiとステーキングのBlog(参考用)

なお、当事務所はDeFiやステーキングについて下記記載のようなBlogを執筆しています。本稿の他、下記をご参照ください。

ステーキングに関する法的論点の整理(2020.3.17)

イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法(2020.7.31)

DeFiによる暗号資産デリバティブ取引/信用取引と日本法(2020.9.10)

DeFiと日本法(2020.10.21)

Uniswap/DEX/AMMと日本法(2020.10.23)

III リキッドステーキングやETHステーキング、LIDOの基本概要

1 リキッドステーキング

リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。

2 Proof of Stakeとステーキング

Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。

ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。

3 ETHのステーキング

イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH (2023年10月現在の価格で約830万円)をデポジットすることで Validator になれる、②Validatorがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、Validator が意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またValidatorは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。

4 LIDOの仕組み

LIDOとは世界で最大規模を誇るLiquid Stakingを行うためのプロトコルです。現時点でイーサリウムのステーキング量の3割以上をLIDO経由が占めるとされています。 LIDOの仕組みは以下のようになっていると思われます21

出典:公表資料から当事務所が作成

  1. LIDOを使用すると、ユーザーは資産をロックしたり、自らステーキング用のインフラを維持する等することなく、かつ他のDeFiレンディング等にも参加しながら、ETH をステーキングできる。
  2. ユーザーがLIDOを利用してステーキングする場合、ユーザーはLIDOのスマートコントラクトにETHを送付する。これに対し、ユーザーは1:1でstETH というトークンを受領できる。
  3. stETHはLIDOにステーキングのためにETHを預けたことを表章するトークンであり、 stETHをLIDOに対して送付してBurnすると、ETHを受け取ることができる。stETHは自由に売買ができるほか、stETHを受け入れる別のDeFiがある場合、当該DeFiでstETHを利用することにより、二重に報酬を得ることができる(但し、stETHを受け入れるDeFiプロトコルはまだ限定的なようである)。
  4. LIDOはスマートコントラクトで受領したETHを利用し、ステーキングを行う。ステーキングで得られた報酬のうち10%はLIDOが取得し、当該ステーキングの実務を行う者(ノードオペレーター)とLIDO DAOに分配され、残りの90%はユーザーに分配される。なお、ユーザーへの分配はstETHのアドレスにあるstETHの数字が加算される方式で行われ、LIDOが管理するETHの数が常にstETHの数と同じになる方式で行われるようである。
  5. LIDOは複数のノードオペレーターを利用する。ノードオペレーター候補は、LIDOにノードオペレーターになりたい旨、経験や技術力等を申請し、その後、LIDOのガバナンストークンであるLIDOトークンホルダーにより構成されるDAOの投票によりノードオペレーターになれるか決定される。
  6. なお、ETHにはスラッシングリスクやペナルティーがあるが、LIDOは多数のノードオペレーターを利用することにより、当該リスクをヘッジしている。また、一部のETHを別で管理し、保険的に利用することによりスラッシングリスクに備える。
  7. LIDOはオープンソース、ピアツーピアのプロトコルであり、また、その運営の決定はLIDO DAOが行うため、一つの運営者等によって運営されているものではない。

IV リキッドステーキングと日本法

LIDOのようなリキッドステーキングを提供する場合、暗号資産法の売買規制やカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。

1 暗号資産の発行規制

LIDOに対してETHを拠出すると、stETHが交付され、逆にstETHをLIDOに対して送付すると、ETHが得られます。

この行為が、ETHとstETHとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。

しかしながら、stETHはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなstETHの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。

2 暗号資産のカストディ規制

LIDOに対するETHの拠出が、LIDOに対する暗号資産の寄託と考えられ、LIDOに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。

しかしながら、LIDOに対する拠出はスマートコントラクトに対する拠出であり、LIDOはスマートコントラクトの仕組上、ステーキング以外には当該ETHを利用できない(=秘密鍵を管理していない)ように見受けられます。

本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、スマートコントラクトにより、ETHの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。

3 金商法規制

ETHの拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、LIDOやリキッドステーキングがファンドに該当しないかが問題となります。

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
(B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利
(C) 次のいずれにも該当しないもの
 イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略)
 
外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり22、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。 

また、上記(C)の例外事由にも該当しません。 

問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETHがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られたETHがユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。

しかしながら、リキッドステーキングの場合、通常のファンドとは以下のようば点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。

  1. 通常のファンドの場合、出資を受けた金銭等は、ファンド運営者に完全に所有権が移転し、ファンド運営者は契約上の縛りはあるものの技術的には様々に使用できるのに対し、リキッドステーキングの場合は、ETHの拠出はスマートコントラクトに対して行われ、LIDOやノードオペレーターが自由に使えるものではない。ETHに対するオーナーシップ(所有権類似の権利)はユーザーが常に保有していると考えられる、
  2. 通常のファンドの場合、受け取った金銭等は株式の購入や事業資金等に使用され形を変えるのに対し、LIDOステーキングでは、スマートコントラクトに送付されたETHは特に他のものに変えられることはなく、そのまま維持される。
  3. ETHがロックされる理由は、バリデート作業にあたり不正申告をした場合のスラッシングや、ノードがオフラインになった場合のペナルティーを担保するために過ぎない。
  4. 上記①~③を踏まえ、ステーキングの法的性質を従来からの経済行為に例えると、ユーザーは一種の債務不履行責任を担保するための物上保証としてETHをスマートコントラクトにロックしているに過ぎず、物上保証を提供したことに対する報酬を受け取っているに過ぎない、と考えることができる。そしてこのような物上保証の提供や報酬の受領は、ファンドにいう「出資や拠出」、「充てて行う事業」という要件を満たすものではない。

4 運営者が存在しないことから規制対象とならないという議論

なお、DeFiの場合、そもそも運営者が存在せず、規制対象にならない、という議論がありえます。日本法は、運営者などの人や法人を規制する法律体系であり、完全に非中央集権的なファイナンススキームの場合、規制対象とはなりません。しかしながら、DeFiについて本当に運営者がいないのかという点は慎重に検討する必要があります。一般にDeFiでは運営者が不存在なことを目指しますが、とはいえ、多くのDeFiでは本当に完全に運営者がいないかは不明確です23

また、運営者がいない場合でも、仮に運営者がいれば法令上は金融規制に服する場合、当該スキームに媒介を行う者は規制対象となりえ、例えばライセンスのない日本企業が当該DeFiに顧客を送客することが行えなくなります。

そのため、DeFiの法的論点の検討に際しては、(i)仮に運営者がいた場合に法的規制に服するか、という論点と、(ii)運営者が存在するか、という論点の2点を検討する必要があります。

LIDOについて検討するに、LIDOでは中央集権的なエンティティーがなく、スマートコントラクトとLIDO DAOにより運営がなされるとされていますが、LIDO DAOが真に分散しているのかは公表資料からは我々には不明確であったこともあり、本稿では上記(i)を中心に検討しています。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、リキッドステーキングやLIDOの利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

I  初めに

近時、現実の資産(Real World Asset=RWA)の価値や所有権に紐づいたトークン(以下「RWAトークン」といいます。)を日本で発行し、販売することができないか、その場合の規制はどうか、ということを聞かれることがあります。

トークン化される現実資産の種類はアート作品、不動産、ウイスキーなどの酒類、ビンテージカー、国債や株式などの有価証券、ゴールド、など多岐にわたります。

RWAトークンのメリットとして、単独では購入できない資産を分割することにより低額で購入できる、所有の喜びが得られる、値上がり益等を期待できる、流動性が高くなる、などが挙げられます。

II 検討すべき法律の例と纏め

RWAトークンのスキームには様々なものがあり、そのスキームによって検討すべき法律は異なります。検討が必要となる法律の例は以下のとおりです。

1     暗号資産法(資金決済法)
 RWAトークンが暗号資産に該当する場合、その販売等には暗号資産交換業の登録が必要となります。
 概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると考えられており、RWAトークンもそのようにNFTとして組成することが考えられます。
他方、ゴールドをトークン化したジパングコインのように、暗号資産として組成することも考えられます。

2 金商法
 RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売には第1種金商業の登録が必要となります。
 例えば、RWAトークンに配当や100%以上の元本償還があるような場合、集団投資スキーム(ファンド)=有価証券に該当する可能性が高くなります。 
事業者が現実資産を利用して収益を上げ、その収益をトークンホルダーに分配する場合や、事業者が現実資産を売却し、その売却益をトークンホルダーに分配するようなスキームでは、集団投資スキーム該当性について慎重な検討が必要です。

3 預託等取引法
 RWAトークンのスキームにおいて物品や物品に関連する権利の預託を受け、それに関連して、利益の供与を約束したり、物品等の買取を約束する場合、預託等取引法の適用が問題となり、その販売等には内閣総理大臣の事前確認等が必要になることがあります。
 収益配当や元本償還を約束する場合又は類似の仕組みがある場合、金商法若しくは預託等取引法、又はその両者が適用されることがないか、検討する必要があります。

4 前払式支払手段
 現実の資産を取得したり利用したりすることができる権利のトークンを形で発行する場合、前払式支払手段として資金決済法の規制対象となる可能性があります。
 発行者やその密接関係者のみで使用できる自家型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものや、一定の基準日において未使用の残高が1,000万円以下であるものを除き、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。それ以外の第三者型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものを除き、財務局長への登録等が必要になります。

5 古物営業法
 一度使用された物品(鑑賞的美術品を含みます)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。
 但し、分割化した権利として販売している場合には、古物営業法は適用されない可能性があります。

6 その他裏付資産に関連する法律
 例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、物品に関連する法律が適用されることがあります。

7 RWAトークン移転による権利の移転と対抗要件
 RWAトークンでは、トークンの移転に伴いいかなる権利の移転がなされるのか、対抗要件はどのように備えるのか、検討を要します。トークン移転に伴い動産の所有権の移転があり、かつブロックチェーン上の記録で指図による占有移転がある、という考え方や、トークンの移転に伴い利用権や引渡請求権が旧トークンホルダーの元では消滅し新トークンホルダーの元で発生する等の考え方がありえます。

III RWAトークン化の実例とメリット

1  アート作品のRWAトークン化22

RWAトークンの例として、アート作品のトークン化があります。例えば、海外のフリーポート(Freeport)という会社は、アンディ―・ウォーホル等の作品を分割してトークン化して販売しています。

同社が当初販売したアンディ・ウォーホルの作品は4作品であり、「マリリン(Marilyn)」(1967年)、「ダブルミッキー(DoubleMickey)」(1981年)、「ミック・ジャガー(MickJagger)」(1975年)、「理由なき反抗(ジェームス・ディーン)(RebelWithoutaCause[JamesDean])」(1985年)で、各作品は10,000トークンで構成され、1人あたり10トークンから購入可能となり、コレクションのウェブサイトによるとトークン化された各ロットの販売開始価格は、250ドル(約33,271円)~860ドル(約11万4,453円)とのことです。

なお、アート作品の分割化自体は珍しいものではなく、2017年にはマスターワークス(Masterworks)という会社が設立され最低投資額は1万5000ドル(約200万円)でアート権利を販売、2021年12月に元クリスティーズの社員のフィリップ・ガウザーが、ブロックチェーン技術でアート作品の共有所有権を提供するパーティクル(Particle)を設立し、NFTの形でアートの権利をオープンシー(OpenSea)やラリブル(Rarible)で販売しています。

また、トークン化はしていないものの、日本では、ANDARTと言う会社https://and-art.jp/が、ピカソ、バンクシー、ダミアンハースト、ウォーホルなどの作品を分割して販売している例があります。

アート作品をRWAトークン化するメリットですが、著名アーティストの作品を購入したい場合、数千万円~数十億の金額が必要となり、富裕層でないと購入できません。それに対し、絵画を分割して販売することにより、より多くのアートファンが購入を行い、所有の喜び、鑑賞の機会、将来の値上がり益の期待等を得ることができます。

2  アルコールのNFT化

アルコールの樽のトークン化の事例も存在しています。日本の会社であるUniCask社は、ウイスキーの樽を分割した権利をNFT化して販売しています。 ウイスキーはワインと同様に熟成することにより価値が上がります。例えば、著名ウイスキーである山崎やシーバスリーガルの700mlボトルの参考小売価格や希望小売価格で2023年8月現在、以下となっています24

 山崎シーバスリーガル
ノンビンテージ4,500円 
12年10,000円5,126円
18年32,000円10,000円
25年160,000円31,429円

ウイスキーの価格が期間経過により上昇する理由としては、貯蔵の管理コストが必要となること(場所代、人件費、その他管理コスト)、期間中投資資金を回収できないことによるコストに加え、ウイスキーの性質として貯蔵により毎年一定程度の蒸発があること、希少性、などがあると言われます。

大手企業の場合、熟成に要する管理コストや資金コストを負担できる場合もあるものの、小さな醸造所の場合には、このようなコストに耐えられない場合があります。

UniCaskでは事前に樽の権利を分割してNFT化して販売することにより販売する醸造所にとっては早期の資金調達をしながら熟成を行う機会が、ウイスキーの愛飲家にとっては所有の喜び、熟成後まで待って飲む楽しみ、期中の定期的な一部試飲の機会、自分で飲まない場合には転売による値上がり益の期待、などが期待できるとのことです。

UniCaskのスキーム図25

3  高級宿泊施設のRWAトークン化

宿泊施設の利用権のトークン化の事例として、Not A Hotel NFTというものがあります。

NFTではないNOT A HOTELは、所有物件をアプリで手軽に、自宅や別荘、ホテルに切り替えて運用できるサービスであり、ユーザーは1棟まるごと購入するか、もしくはシェア購入(年10日・年30日)によって、物件を保有します。

NOT A HOTELのNFTは、より安い金額でNFTを購入してメンバーシップ会員になることにより、1日単位(例えば年に1泊/2泊/3泊を47年分)でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなります。

当該宿泊施設を47年間利用することができる権利のNFTは、後述のとおり、法的には前払式支払手段として組成されているため、原則払戻しができないものの、NFTとなることにより、NFTをNFTマーケットプレイスで売却したり、友人に贈ったりすることができ、メンバーシップNFTを保有している人限定のイベントに参加できます26。なお、メンバーシップNFTの内訳は宿泊券(前払式支払手段)が80%、登録料が20%との整理がされており、NFTの対価全額を前払式支払手段としていません。

4  ゴールドのトークン化

現実資産に紐づいたトークンが暗号資産として販売された例として、ゴールドのトークン化であるジパングコイン(ZPG)があります。  ZPGは、三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産です。ZPGは、インフレヘッジ機能など金(ゴールド)の特性を備え、デジタル化による利便性と小口化を実現した国内初のデジタルゴールドといえる暗号資産であり、概ね金(ゴールド)価格に連動することを目指す商品です。仕組みとしては下記のとおりとなっています。

スキーム図27

仕組みとしては、①三井物産デジタルコモディティーズ社(以下「発行者」といいます。)がZPGを発行する場合、ZPGの移転と同時に、(利用者に代わってZPGを購入した)デジタルアセットマーケッツ社のために、ZPGの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産社から購入、②当該購入した金現物は、デジタルアセットマーケッツ社へ販売すると同時に、デジタルアセットマーケット社から発行者が消費寄託を受ける、③ZPGは金現物の消費寄託に関する引渡請求権を表象するが、ユーザーはZPGを持っていても現物の金の引渡しを請求できない、④しかし、マーケットメーカーであるデジタルアセットマーケッツ社が金の市場価格に近似した価格でZPGを購入することを約束している(なお、かかる請求権には銀行保証が付される)、⑤デジタルマーケッツ社がZPGを有する場合、発行者にZPGと同数の金現物の引渡しを要求できる、という仕組みで、1ZPGが1単位の金と限りなく近い価格になるように組成されているようです。

参考:ZPGホワイトペーパー
https://www.mitsuidc.com/zpg-whitepaper
本トークンの販売時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを販売する場合、発行者は、本トークンの移転と同時に、(利用者に代わって本トークンを購入した)デジタルアセットマーケッツのために、当該移転したトークンの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産から購入の上、当該購入した金現物について、デジタルアセットマーケッツへ販売すると同時に、同社から消費寄託を受けます。
・発行者は、デジタルアセットマーケッツから消費寄託を受けた金現物を即時に三井物産に対してリースします。
・三井物産は、発行者からリースした金現物を用いて、金市場での運用を行います。

本トークンの買取時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを買い取る場合、発行者は、本トークンの回収と同時に、デジタルアセットマーケッツから寄託された金現物のうち、発行者が回収したトークンの数量と同等の金現物を、デジタルアセットマーケッツへ返還した上で自ら買い取り、買い取った金現物を直ちに三井物産に売却します。
・発行者が三井物産に対して金現物を売却することによって、当該売却された金現物に係る発行者から三井物産へ のリースは当然 に 終了します 。・発行者は、金現物を売却して取得した資金をもって、本トークン(の数量と同等の金現物)の買取代金を支払います。

5  RWAトークン化のメリット

現実資産をトークン化するメリットとしては、スキームにより異なるものの、例えば以下のようなものがあると言われます。

①    低額での購入
単独では購入できないような高額の資産でも分割することにより、低額で購入することができる
②    所有の喜び
例えば、アート作品、ビンテージカー、競走馬、ウイスキー、などの場合、その商品の権利の一部を所有している、という精神的満足感が得られることがある。
③    鑑賞や利用の機会の提供
例えば、アート作品の場合、トークンホルダーが当該作品を鑑賞できる機会を提供したりする等の例がある。また、不動産の場合、当該不動産を利用できる、ウイスキーの場合、試飲するなどの機会が得られることがある。
④    値上がり益の期待
アート作品、ビンテージカー、ウイスキー、不動産など多くの資産では継続保有によって値上がりが起こる場合がある。
⑤    流動性
分割してNFT化することにより流動性が高くなり、転売等が容易になる。

IV RWAトークンと日本法の検討

1  暗号資産法

仮にRWAトークンが資金決済法(そのうちの暗号資産部分を、以下「暗号資産法」といいます)上の暗号資産に該当するとされた場合、RWAトークンを販売する場合、自らが暗号資産交換業の登録を受けるか、既に暗号資産交換業の登録を受けている暗号資産交換業者に販売を委託する必要があります。

暗号資産法上、暗号資産の定義はかなり広く定義されており、従前は、いかなるものが暗号資産であり、いかなるものがNFTか判然としませんでした。

2023年3月に金融庁が暗号資産に関するガイドラインを改正し、かつ関連するパブリックコメント回答を出しています。ここでは、概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであるとしており、RWAトークンでもそのようにNFTとして組成することが考えられます。

参考条文等
暗号資産の定義(資金決済法2条14項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

暗号資産交換業の定義(資金決済法2条15項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

暗号資産交換業者ガイドライン
I-1-1
① 法第2条第14項第1号に規定する暗号資産(以下「1号暗号資産」という。)の該当性に関して、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ.発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ.当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
・最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
・発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること

なお、以上のイ及びロを充足しないことをもって直ちに暗号資産に該当するものではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もあり得ることに留意する。

参考:金融庁2023年3月24日付パブリックコメント回答
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf
19番
トークンの価格については、基本的には当該トークンが提供されているサービスプラットフォームや二次的な流通市場において取引される価格を基準に判断することになります。また、最小取引単位当たりの価格が例えば1000円以上のトークンについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。
20番
一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます。

2  金商法

RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売を行うには自ら第1種金商業の登録を受けるか、第一種金商業者に販売を委託する必要があります。

RWAトークンの有価証券該当性を検討するにあたっては、主として集団投資スキーム(ファンド)への該当性が問題となります。集団投資スキームの定義の概要は下記の通りであり、概ね、配当や100%以上の元本償還がある場合には集団投資スキームに該当する可能性が高くなります。

金融商品取引法2条2項5号が定義する集団投資スキームの概要
(i) 出資者が金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下「金銭等」という)を出資すること(金銭等出資の要件)
(ii)  (i)の出資により事業が行われること(事業の要件)
(iii) 事業から生じる収益の配当又は事業に係る財産の分配を出資者が受けることができること(収益配当・財産分配可能性の要件) 

この点、単に現実資産を小口化、トークン化して販売するのみであれば有価証券になることはありません。

他方、例えば、①事業者が現実資産を販売する、②事業者や関係会社が販売代金を充てて現実資産を管理する、③事業者が現実資産の賃貸等で収益を上げ、その収益からNFTホルダーに収益を分配する、又は④事業者がトークンホルダーのために現実資産を売却し、その売却代金の利益をトークンホルダーに分配する、といったスキームの場合、集団投資スキームへの該当性が問題となります。

なお、ファンド自体は資金の出資契約を規制するものであり、物品の売買契約を規制するものではないため、上記のようなスキームの全てが集団投資スキームになるものではありません。㋐物の購入者がみずから当該物を管理・利用・処分できる可能性があるか、㋑購入者の取引の目的が物の購入だけで完結しうるか、㋒事業者がどういう勧誘内容を行っていたか、といった点を総合的に考慮して考えられると議論されています28。RWAトークンとの関係では、収益商品、金融商品として宣伝することについては慎重に対応する必要があると考えます。

なお、米国ではSecurityの基準が日本よりも厳しく、冒頭で述べたFreeportのアートRWAトークンはSecurityとして販売されています。

3  預託等取引法

RWAトークンのスキームが「預託等取引」に該当する場合、預託等取引法の規制により、契約締結時書面を交付したり、内閣総理大臣の事前の確認が必要になる可能性があります。

3.1 預託等取引の定義

預託等取引には、物品等の販売を伴うものと伴わないものがあります。預託等取引の基本的な類型は下記の4つとなります。

預託等取引の4つの類型
①    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、その預託に関して、財産上の利益供与を約束すること(物品+利益約束型)
②    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、期間経過後の物品買取を約束すること(物品+買取約束型)
③    当事者の一方が、相手方から、物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利(特定権利)の管理の委託を受け、それに伴って、財産上の利益供与を約束すること(特定権利+利益約束型)
④    当事者の一方が、相手方から、特定権利の管理の委託を受け、期間経過後の権利買取を約束すること(特定権利+買取約束型)

このような預託等取引は財産上の利益の供与や買取りが約された投資取引として消費者を誘引する性質を有する一方で、約束された財産上の利益の消費者に対する支払いや買取りが困難になるリスクがあるものと位置づけられ29、消費者保護のために、書面の交付義務や不当勧誘等の禁止義務が課されます。

さらに、このような預託等取引に関連し、自ら又は密接関係者が行う物品等の売買契約がある場合(販売預託)、更に消費者保護の必要性がある30ため、内閣総理大臣の確認を得る必要があります。なお、本稿執筆時点において、内閣総理大臣の確認を受けた事業者は存在しません。

なお、同法は消費者保護のための法律であるため、営業者が預託を行う取引には同法の保護は適用されません31

参考条文:預託等取引の定義等
(定義)
第二条 この法律において「預託等取引」とは、次に掲げる取引をいう。
一 当事者の一方が相手方に対して、内閣府令で定める期間(筆者注: 3か月(預託等取引に関する法律施行規則1条))以上の期間にわたり物品の預託・・・を受けること・・・及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、又は物品の預託を受けること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該物品を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該物品を預託することを約する取引
二 当事者の一方が相手方に対して、次に掲げる権利(以下「特定権利」という。)を前号の内閣府令で定める期間以上の期間管理すること・・・及び当該管理に関し財産上の利益を供与することを約し、又は特定権利を管理すること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格・・・により当該特定権利を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該特定権利を管理させることを約する取引
イ 施設の利用に関する権利であって政令で定めるもの
ロ 物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利

第一節 預託等取引に関する規制
(書面の交付)
第三条 預託等取引業者は、預託等取引契約を締結しようとするときは、顧客に対し、当該預託等取引契約を締結するまでに、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
(省略)

(不当な勧誘等の禁止)
第四条 預託等取引業者又は勧誘者(以下「預託等取引業者等」という。)は、預託等取引契約の締結若しくは更新について勧誘をするに際し、又は預託等取引契約の解除を妨げるため、預託等取引契約に関する事項及び当該預託等取引契約の対象とする物品又は特定権利の販売に関する事項であって、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
(省略)

(契約の締結等の禁止)
第十四条 預託等取引業者は、第九条第一項の確認及び次項の確認を受けていない種類の物品又は特定権利については、自ら売主となる売買契約の締結及び自己又は密接関係者が販売しようとする当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新についても、同様とする。

(適用除外)
第二十七条 前三章の規定は、預託等取引契約で預託者が営業のために又は営業として締結するものについては、適用しない。

3.2 RWAトークンと預託等取引法

RWAトークンのスキームでは、現実資産や関連する権利がトークン化されることがありますが、その場合でも、現物資産そのものは何らかの会社等がユーザーのために保管され、ユーザーには直接引き渡されないことが通常です。

仮に財産上の利益供与を約束があったり、物品や関連権利の買取約束があった場合には、預託等取引法との関係を検討することが必要となります。

この点、日本でのRWAトークン事例を検討するに、例えばUniCaskの事例では、スキームの詳細は不明であるものの、UniCask社がウイスキーの樽の一部の権利をユーザーに販売し、ウイスキーの樽は蒸留所がユーザーのために保管していると思われます。しかし、UniCask社も蒸留所も、何らの利益供与の約束も買取等の約束をしておらず、預託等取引法の適用はないものと思われます。

また、ZPGの事例では、金の預託、ZPGの預託、ZPGの買取約束、などがあります。しかしながら、金の預託に関しては何らの利益供与の約束や買取約束はなされていません。ZPGの販売、預託、買取約束があることが論点とはなるものの、ZPGの売却が制限される期間などは設定されていないため一定期間の預託を前提としたものではない、あるいは、ZPGについてはデジタルアセットマーケッツ社と発行者との間では金の引渡請求権を表象するものの、ユーザーが保有した場合には金の引渡を請求できないことから特定権利に該当しない、と整理をしているのではないかと思われます(類似の仕組みを採用する場合、自らご判断頂くか、当局等に確認して頂く必要があります)。

他方、当職らがご相談を受ける中には、物品を販売した上で、販売者又は密接関係者が現物資産の3か月以上の預託や特定権利の管理の委託を受け、将来的に利益の分配や物品の買取をしたい等とご相談を受ける事例があります。特に販売が行われる仕組みについては、預託等取引に該当する場合、これまで内閣総理大臣の確認が得られた事例がないことに留意しながら、組成を行う必要があると思われます。

4  前払式支払手段

RWAトークンが資金決済法上の前払式支払手段に該当する場合、同法の規制が適用される可能性があります。

前払式支払手段は、記録される内容によって、金額や度数が記録される場合と、物品やサービスの数量を記録されたものに分けることができます。前者はSuicaや図書券、後者はビール券やカタログギフト券などが該当します。また、前払式支払手段は、利用できる範囲によって、発行者及びその密接関係者のみで使用することができる自家型前払式支払手段と、第三者でも使用できる第三者型前払式支払手段とに分けることができます。
自家型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。ただし、発行から6か月の有効期限があるものや、3月末と9月末の基準日時点において未使用の残高が1,000万円以下であるものは、規制の適用が除外されます。第三者型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への登録等が必要になりますが、発行から6か月の有効期限があるものは、規制の適用が除外されます。

現実の資産の給付を受けることができる権利や、利用することができる権利をNFT化した場合、かかるトークンは前払式支払手段に該当する可能性があります。Not A Hotelの事例では、自己又は密接関連者が管理する宿泊施設を利用することができる権利として、自家型前払式支払手段として組成されています。

参考条文:前払式支払手段の定義(資金決済法)
(定義)
第三条 
1・・・「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下・・・「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。・・・)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。・・・)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
4・・・「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者・・・を含む。・・・)から物品等の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品等の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5・・・「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

 5 古物営業法

一度使用された物品(鑑賞的美術品を含むとされている)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。

新品のウイスキーの樽等を売却するRWAトークンでは新品の売買であることから、古物営業法は無関係です。

他方、アート作品、中古の時計等の場合、小口化(トークン化)された権利の売買が古物営業法に服する可能性があります。

この点、当職らがある案件で警察に確認をしたところ、どこまで当該担当者の回答が正しいのかについては悩ましいものの、トークン化された権利の売買であれば古物営業法の届け出は必要ないと回答を受けています。但し、個別の事案に対する古物営業法の適用の有無については、各自にてご確認頂く必要があります。

6  裏付資産に関連するその他の規制法

例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、各物品に関連する法律が適用されることがあり、検討が必要となります。なお、UniCask社は酒類販売業の免許を取得しているようです。

7 RWAトークンの移転による権利の移転と対抗要件

RWAトークンは、その背後にある実物の資産を表章するデジタルトークンです。トークン自体の移転は、ブロックチェーン上のトランザクションによって行われますが、このトークンの移転が自動的に実物の資産の所有権の移転を意味するわけではありません。

トークンの移転とRWAに関する権利の移転を紐づけるためには、別途法的な手当てや契約が必要です。

7.1 当事者間における権利の移転について

日本では動産や不動産の所有権の移転、その他の権利(債権)の移転は、原則として単に当事者の合意のみで行われます(物権について民法176条)。仕組みとして、トークンに動産や不動産の所有権や何らかの権利が付随する、とした場合、トークンを移転する者同士では、当然に裏付け資産の権利を移転する合意があると思われるため、トークン移転のみにより権利が移転すると解釈することは可能と思われます。

7.2 不動産移転の対抗要件について

上記のように動産や不動産の所有権、債権の当事者間の移転自体は合意のみでできるものの、それを第三者に対抗(主張)することができるか(第三者対抗要件の具備)は問題となります。

例えば、不動産の場合、本邦での所有権移転の対抗要件は、不動産登記の変更になります(民法177条)。例えば、AがBに不動産を売却したが、不動産登記が未了の場合、Aが倒産をしたときに、BはAの破産管財人に自身が不動産所有者であることを対抗できません。また、AがCに不動産を売却し、Cが登記を備えた場合、原則としてCがBに所有者として優先することになります。

不動産の所有権をRWAトークン化したとしても、トークン移転に伴って、不動産登記の移転をすることは通常考えられず、その場合、トークンホルダーが倒産した場合等、問題が生じる可能性があります。

7.3 動産移転の対抗要件について

同様の問題は動産の場合も問題になります。本邦での動産の所有権の移転の対抗要件は、動産の占有権の移転です(民法178条)。そして、動産が第三者に寄託されている場合に占有権を移転させるためには、寄託者が受寄者に対し、「私はその動産をAさんに譲渡したから、以後、Aさんのために預かって欲しい」と通知する指図による占有移転によります(民法184条)。

不動産や債権譲渡の対抗要件の場合と異なり登記や証書による必要がないこと、かつ、動産に紐づいたトークンの移転はブロックチェーン上に記録されることから、ブロックチェーンの記録が動産の占有移転に係る指図であるとして第三者に対抗できる可能性はあります。

特に動産の価額が大きくない場合や、財産隠しではない健全な取引である場合、トークンを用いた動産の譲渡が社会的に受け入れられている場合には、ブロックチェーン上の記録による対抗要件が管財人によって争われる可能性は極めて低いのでは、とも思われますが、リスクがあることは認識しておく必要があるとは思われます。

7.4  債権の移転の対抗要件について

本邦での債権の移転の対抗要件は、確定日付のある証書による承諾です。一般には、内容証明郵便や公正証書などが該当します。トークンの移転とともに内容証明や公正証書を作成することは現実的ではなく、不動産登記の場合と同様の問題が発生します。

7.5 権利の消滅発生構成について

動産や不動産の所有権自体をトークンホルダーに引渡し、かつトークンに伴って所有権が移転する、という構成ではなく、トークンを持っている人に動産や不動産を引き渡すことを約束したり、利用権を付与する、そして、トークンが移転した場合、既存の権利は消滅し、新しい権利が新トークンホルダーの元で発生する、という構成がありえます。

銀行間の振込や電子マネーの移転は、このような考え方によっているのではと思われ、かつ、社会的にも受け入れられています32

RWAトークンと現物資産の紐づけもそのような構成で有効に移転可能であると思われ、明確ではないものの、例えば前払式支払手段であるNot A Hotel NFTの利用権の移転などもこのような考え方によるのでは、と推測されます。

しかしながら、同構成の場合、トークンホルダーにはあくまで利用権や引渡請求権しかなく、所有権移転の対抗要件は具備されていないため、発行者ないし預託者が倒産した場合にはリスクがある点、留意が必要です。

7.6 準拠法について

なお、本6の議論は、動産又は不動産の移転については動産又は不動産が日本に存在する場合、債権の権利については債権の権利の準拠法が日本法である場合を想定しています。

法の適用に関する通則法13条は「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。」と規定し、同法23条は「債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は、譲渡に係る債権について適用すべき法による。」としています。

このため、動産や不動産が海外にある場合等、別途の議論が必要になります。

留保事項

・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、RWAトークンの購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

2023年9月29日改訂

3月に自民党ブロックチェーン推進議連で、DAOと日本法について発表したのですが、その際の資料が役に立つかもと思ったので、掲載しておきます。
なお、その際の議論で気づいた点を踏まえて少し改訂しています。誤字を訂正、及びV番の参考表の部分を主として改訂したもの

DAO and Japanese Law from So Saito