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So & Sato

昨年7月6日に働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)が交付されたことにより、本年4月1日より、労働基準法を含む労働関係法が大幅に改正されることとなりました。

これは、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、労働者のニーズ多様化」などの状況に直面した我が国において、長時間労働の是正や柔軟な働き方がしやすい環境整備を目指すことが理由です。

当該改正により特に大きな影響がある点について簡単に解説したいと思います。

本稿では、本年4月1日改正後の労働基準法を「改正労働基準法」といいます。

1. 時間外労働の上限規制(改正労働基準法 36 条)

現行法では、36 協定で定めることのできる時間外労働時間の上限については、時間外労働の限度に関する基準(平成 10 年労働省告示第 154 号)において、法的拘束力のない告示があるにすぎませんでした。しかしながら、改正労働基準法では、36 協定で定めることのできる時間外労働の限度時間の上限が月 45 時間、年 360 時間に定められることとなりました(改正労働基準法 36 条 4 項)。

また、特別条項による場合(特別の事情に基づいて限度時間を超えて労働させる場合)等であっても、時間外労働時間が年間 720 時間以内、単月の時間外労働時間(法定休日労働時間も含みます。)が 100 時間未満、かつ 2 ヶ月間から 6 ヶ月間の各平均時間外労働時間(法定休日労働時間も含みます。)が 80 時間未満でなければなりません。さらに、月 45 時間の時間外労働時間を上回る月は、年間で 6 ヶ月以内でなければなりません(同条 5 項)。

当該改正は 2019 年 4 月 1 日から施行されますが、同日からすべての労働者に対して適用されるわけではありません。中小事業主には、2020 年 3 月 31 日まで上記規制の適用が猶予されます。中小事業主とは、資本金の額又は出資の額が 3 億円(小売業又はサービス業は 5,000 万円、卸売業は1億円)以下である事業主及び常時使用する労働者の数が 300 人(小売業は 50 人、卸売業又はサービス業は 100人)以下である事業主をいいます。

他にも、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務には上記規制の適用除外が認められているほか(同法 36 条 11 項)、工作物等の建設の事業、自動車の運転の業務、医業に従事する医師等には、2024 年 3 月 31 日まで猶予期間が設けられています(同法139 条以下)。

なお、施行日(中小企業は 2020 年 3 月 31 日まで適用を猶予されます。)の前日を有効期間に含む 36 協定については、改正法施行日以降も、当該協定に定める期間の初日から起算して 1 年を経過する日までの間は効力を有することとなります(附則 2 条)。

上記規制に違反した使用者は、労働基準監督官による臨検、是正勧告及び改善指導の他、違反した労働者一人当たり 30 万円以下の罰金に処される可能性があります(同法120 条)。

2. フレックスタイム制の清算期間延長(同法 32 条の 3)

現行の労基法では、フレックスタイム制を設ける場合には、清算期間として、1 ヶ月を上限とする期間の総労働時間をあらかじめ定め、当該期間中の実労働時間が定められた総労働時間を超える場合には、当該超過部分について時間外割増賃金を支払う必要があります。

今回の改正では、清算期間の上限が従来の 1 ヶ月から 3 ヶ月に拡張されます(同法32 条の 3 第 1 項 2 号)。その結果、例えば夏休み中の子供と過ごす時間を増やすため、親である従業員が 8 月の労働時間を短縮し、その前後の月の労働時間を増やして調整するといったことが可能になります。

フレックスタイム制の導入に関する労使協定は締結のみで足り、届出は原則として不要ですが、清算期間が 1 ヶ月を超える場合には労使協定の届出が義務化されます。また、1 ヶ月あたりの労働時間の上限を設定(清算期間を1ヶ月ごとに区分した各期間において1週平均 50 時間を超えない範囲内)し、当該上限を超えた時間外労働については、清算期間の経過を待つことなく割増賃金を支払う必要があります(同条 4項)。

例として、以下のように労働時間を調整することが考えられます(計算を簡便にするため、すべての月が 4 週 28 日、法定労働時間 160 時間としています。)。

(1) 1 ヶ月当たりの労働時間及び 3 ヶ月当たりの労働時間の上限を超えない場合

1 月2 月3 月
実総労働時間200 時間80 時間200 時間

上記の場合、従前であれば 1 月及び 3 月に各月 40 時間分の時間外労働が発生することから、合計 80 時間分の時間外割増賃金を支払う必要がありました。もっとも、清算期間を 3 ヶ月とするフレックスタイムを導入した場合、上記の例では 3 ヶ月間の実総労働時間が 480 時間であり、法定労働時間の枠を超えていないため、時間外割増賃金を支払う必要がないということとなります。

(2) 1 ヶ月当たりの労働時間の上限を超える場合

1 月2 月3 月
実総労働時間210 時間210 時間80 時間

上記の例では、1 月及び 2 月に週平均 50 時間を超える時間外労働が発生しているため、1 月及び 2 月に 10 時間分ずつの割増賃金を支払う必要があります。

(3) 3 ヶ月当たりの労働時間の上限を超える場合

1 月2 月3 月
実総労働時間200 時間200 時間150 時間

上記の例では、1 月及び 2 月は週平均 50 時間の時間外労働時間の発生にとどまるため、1 月及び 2 月分の労働に対しては時間外割増賃金を支払う必要はありません。他方、3 月の実総労働時間も週平均 50 時間以内ではありますが、3 ヶ月の実総労働時間が 550時間であるため、480 時間を超える 70 時間分について時間外割増賃金を支払う必要があります。

なお、この場合は 3 月に 60 時間を超える時間外労働をさせたものと考えられますから、60 時間分については 2 割 5 分以上の時間外割増賃金を、10 時間分については 5割以上の時間外割増賃金を支払う必要があります。

3. 年休を取得させる義務の発生(同法 39 条)

改正労働基準法では、使用者は、1 年に 10 日以上の年次有給休暇が付与される労働者1に対し、毎年 5 日以上、時季を指定して年休を与えなければならなくなります(同条 7 項)。ただし、労働者が時季を指定した日数及び労使協定による計画的付与(例えば、暦の関係で飛び石連休となっている場合に、祝日の間の所定労働日を休日とする場合等)により取得された日数については、5 日から差し引くことができます(同条 8 項)。現行法上は労働者による時季指定がない限り、年休を付与しなくとも違法ではありません。しかし、改正法施行後は事業主に、労働者に年休を取得させる義務が生じます。仮に従業員に年 5 日以上の年次有給休暇を取得させなかった場合、使用者は労働基準監督官による臨検、是正勧告及び改善指導の他、労働者一人当たり 30 万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法 120 条)。

4. 高度プロフェッショナル制度の創設(同法 41 条の 2)

改正労働基準法では、労働の評価の対象を時間ではなく成果とすることを目的として、高度プロフェッショナル制度(いわゆる「高プロ」)が導入されます。高度プロフェッショナル制度とは、高度な職業能力を必要とする特定高度専門業務に従事する労働者について、労働時間規制の対象から除外する制度を意味します。これらの労働者には労働時間に関する規定は適用されず、また、時間外・休日・深夜労働に対する手当の支払義務もありません。

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、①金融商品の開発業務、②証券会社のディーラーといったディーリング業務、③市場や株式などのアナリストの業務、④コンサルタントの業務、⑤医薬品などの研究開発業務の 5 つです。ただし、上記業務に従事する者の全てが本制度の対象となるわけではなく、そのうち高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務のみに限定されることにご注意ください(労働基準法第 41 条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るため の指針案(https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000456690.pdf)参照)。本制度の対象となる者の年収は 1075 万円以上でなければなりません。当該年収には、固定給のほか、固定で支給される手当等を含みますが、成果報酬や賞与のうち、実績等に応じて変動する額は含みません。つまり、最低でも年間 1075 万円以上の支給がなされる者のみが対象となります。

高度プロフェッショナル制度を導入するためには、以下の手続きが必要となります。

①労使委員会(委員の半数については、過半数労働組合がある場合には過半数労働組合が、過半数労働組合がない場合には過半数代表者が任期を定めて指名すること)の設置
②労使委員会における、委員の 5 分の 4 以上の多数による以下の事項の決議

  1. 対象業務
  2. 対象労働者(入社年数や見込賃金額の下限等を定めるものであり、個別の労働者を対象とするものではありません。)
  3. 使用者が対象労働者の事業場内に所在した時間と事業場外で業務に従事した場合における労働時間との合計の時間(健康管理時間)を把握するための措置
  4. 対象者に対して、1 年間を通じて 104 日以上の休日、4 週間を通じて 4 日以上の休日を与えること
  5. ①インターバル措置(11 時間)と深夜業の回数(月 4 回以内)の制限、②1 ヶ月または 3 ヶ月の健康管理時間の上限措置(1 週間当たりの健康管理時間が 40時間を超える時間数がそれぞれ 100 時間、240 時間を超えないこと)、③2 週間連続の休日を年に 1 回以上(本人が希望する場合には 1 週間連続の休日を年 2回以上)与えること、④臨時の健康診断のいずれかの措置を行うこと
  6. 有休休暇の付与、健康診断の実施などの省令の定める事項のうち、労働者の健康管理時間の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置として実施するもの
  7. 対象労働者の同意の撤回の手続き
  8. 対象労働者からの苦情についての処理に関する措置
  9. 対象労働者が同意をしない場合に、不利益な取り扱いをしないこと
  10. 決議の有効期間等

③決議の労働基準監督署への届出
④対象労働者の書面又は電磁的方法による同意の取得

5. 勤務間インターバル制度の創設の努力義務(労働時間等設定改善法 2 条)

長時間労働による健康被害を鑑み、事業主には、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務が課されます。例えば、始業時刻 9 時、終業時刻 18 時の会社において、前日深夜 0 時まで残業した場合に、翌日の始業時刻を 11 時に繰り下げるといった運用が考えられます。ただし、あくまで当該制度の導入は努力義務に過ぎず、事業主に制度導入義務はありません。

6. 同一労働同一賃金(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律 9 条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 30 条の3)

改正労働法の下では、雇用形態にかかわらず、同一の貢献をした場合は同じ給与・賃金を支給しなければなりません。なお、改正法の施行は、大企業は 2020 年 4 月 1日、中小企業は 2021 年 4 月 1 日とされています(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律附則 1 条 2 号、11 条)。

当該制度の下では、例えば以下の点が考慮されます(厚生労働省告示第 430 号参照)。

  1. 基本給が、労働の実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給がされているか
  2. 昇給が、同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給がされているか
  3. 賞与について、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給がされているか
  4. パートタイム労働者や有期雇用労働者に対して、福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用住宅の利用、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、年次有給休暇の保障について違いがないか

7. 月 60 時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(労働基準法138 条の廃止)

現行法の下では、時間外労働に対する割増賃金率は原則として 25%ですが、1 ヶ月について 60 時間を超える時間外労働時間に対する割増賃金率については 50%とされていますが、中小事業主の事業については、後者の割増賃金率は適用を猶予されていました。改正労働基準法によりかかる猶予期間を定めた労働基準法 138 条が廃止され、2023年 4 月 1 日からは中小事業主の事業についても当該割増賃金率が適用されることとなります。

本稿は、議論用に纏めたものに過ぎず、具体的な法的助言ではありません。また当職らの現状の見解に過ぎず、当職らの見解に変更が生じる可能性があります。具体的な案件については、当該案件の個別状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。

2020年4月末のセミナーに使用した暗号資産法改正の概説のレジュメです。日本語版と英語版。取引所、カストディー、デリバティブ、STO。概略を短時間で知りたい人向けです。

日本語版 Crypto_Law_Amendment(JP)_200427

英語版  Crypto_Law_Amendment(EN)_200424

定時株主総会開催方法について

2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条に基づき緊急事態宣言がなされた中、本年の株主総会をどう開催するかは、総会実務者としては関心があるところだと思います。会社法上、いわゆる完全なバーチャル株主総会[1]の開催に関しては否定的な意見もあり[2]ハードルが高い中、会社法の規定に従い、いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会(詳細は後述)[3]を開催するのか、延期するのか又は継続会(会社法第317条参照)をするのか等本年の定時株主総会をどのように行うのか、判断が迫られています。

そのような中、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」による「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」では、「法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすることは可能であること。」とされています[4]。この点、多くの株式会社(上場非上場問わず)では、定時株主総会において議決権等の権利を行使できる株主は「毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することのできる株主とする。」などの規定を定款で定めており、かかる定款の規定を無視して基準日を定め(会社法第124条第2項)、当該基準日時点での株主に権利行使させる形で延期した例も見られるところです[5]。このような例があるとはいえ、当初の日程で決議する議題があるなど6月末に定時株主総会を開催する必要があり、にもかかわらず企業決算・監査が間に合わない場合に備えて、対応方法として前述の連絡協議会は以下の方法を掲げています[6]

資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。

  1. 当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。
  2. 企業及び監査法人においては、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。
  3. 継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。

ハイブリット「参加型」バーチャル株主総会と
ハイブリッド「出席型」バーチャル株主総会

株主総会の開催方法としては、新型コロナウイルス感染症拡大防止という観点からも、ハイブリッド型バーチャル株主総会が注目を浴びています。

経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます。)2頁では、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とハイブリッド出席型バーチャル株主総会という二つのハイブリッド型バーチャル株主総会の開催方法が挙げられています。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会(以下「参加型」といいます。)とは、リアル株主総会(「物理的に存在する会場において、取締役や監査役等と株主が一堂に会する形態で行われている」ものとされています。)の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいいます。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会(以下「出席型」といいます。)とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいいます。

参加型と出席型のいずれも、会社法上特にこれを禁止する規定はなく、適法に開催することができます。以下、株主の参加場面における注意点について、実施ガイドの内容を基に概説します。

(1)質疑応答

参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、あくまでもオブザーバーとして参加することになるので、会社法上、株主総会において株主に認められている質問(会社法第314条)を行うことができません(実施ガイド9頁参照)。

他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、質問は可能であるものの、インターネット等からの出席という特殊性から、音声ではなくテキストによる質問ということが考えられ、出席者一人が提出できる質問回数や文字数、送信期限(通信に要する時間や、事務局の処理時間を考慮すると、リアル株主総会の会場の質疑終了予定の時刻より一定程度早く設定する必要があるでしょう。)などの事務処理上の制約や、質問を取り上げる際の考え方、個人情報が含まれる場合や個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げないといった、リアルの場での質問ではあまり問題となっていなかった事柄についても、その処理方法について予め運営ルールとして定め、招集通知やウェブ上で通知することが考えられます(実施ガイド21頁参照)。

(2)議決権行使

参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、一般的には当日の決議に参加することができません[7]。そのため、「議決権行使の意思のある株主は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使や、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使を行うことが必要であり、会社は、その旨を事前に招集通知等であらかじめ株主に周知することが望ましい」とされています(実施ガイド9頁)。

他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、審議に参加し、議決権を行使することは可能であるものの、バーチャルでの株主総会に出席した株主が事前に議決権行使を行っていた場合の取り扱いに関しては、リアル株主総会と異なる取扱いをすることが考えられます(実施ガイド18頁)。

(3)動議

参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、あくまでもオブザーバーとして参加することになるので、会社法上、株主総会において株主に認められている動議(会社法第304条参照)を行うことができません(実施ガイド9頁)。

他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、動議は可能であるものと考えられるものの、バーチャル出席者に対しリアル出席者と同等の取り扱いをするために「システム的な体制を整えることは、会社の合理的な努力で対応可能な範囲を超えた困難が生じることが想定され」(実施ガイド22頁)、「株主に対し、事前に招集通知等において、「バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください。」といった案内を記載したうえで、原則として動議についてはリアル出席者からのものを受け付ける」(実施ガイド22頁)ということが考えられます。また、リアル出席者からなされた動議に関しても、バーチャル出席者に採決に参加させることがシステム上困難なことも想定され、「株主に対し、事前に招集通知等において、「当日、会場の出席者から動議提案がなされた場合など、招集通知に記載のない件について採決が必要になった場合には、バーチャル出席者は賛否の表明ができない場合があります。その場合、バーチャル出席者は、事前に書面又は電磁的方法により議決権を行使して当日出席しない株主の取扱いも踏まえ、棄権又は欠席として取扱うことになりますので予めご了承ください」といった」(実施ガイド22頁)案内を記載したうえで、「個別の処理が必要となる動議等の採決にあたっては、バーチャル出席者は、実質的動議に関しては棄権、手続的動議に関しては欠席として扱う」(実施ガイド22頁)ことが考えられます。

バーチャル株主総会と本人確認

ハイブリッド型バーチャル株主総会においては、当日の出席者の本人確認についてリアル出席株主とバーチャル出席株主それぞれに対して行うことが必要であるとした上で、バーチャル出席株主の本人確認にあたっては、事前に株主に送付する議決権行使書面等(議決権行使書面又は議決権行使書面と同封の書類)に、株主毎に固有のIDとパスワード等を記載して送付し、株主がインターネット等の手段でログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法を採用するのが妥当とされています(実施ガイド15頁)。

また、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会における代理人出席に関しての取り扱いに関して記載されており、「代理出席の取り扱に当たっては、代理人の出席はリアル株主総会に限るとすることも、妥当な判断と考えられる。そのような取扱いをする場合、代理人の出席はリアル株主総会に限るという旨について、予め招集通知等において株主に通知しておくことが必要である。」としています(実施ガイド16頁)。①会社法では、株主が議決権を行使する方法として、代理人による議決権行使が認められている(会社法第310条)から代理人がリアル株主総会に出席することを認めなければならないが、これを認めていれば同条には違反しないと言えること、また、②バーチャル出席という態様の特性を考えると、代理人による出席を認める必要性が乏しいが、他方で本人確認等に付随する処理は実務上煩雑であり、事務処理コストが高いことが理由として挙げられています。

リアル株主総会の実務においては、「日本の信頼性の高い郵便事情を背景に、株主名簿上の株主の住所に送付された議決権行使書面を所持している株主は、通常の当該株主と同一人であるという経験則を適用し、本人確認を実施していると理解できる。」(実施ガイド15頁)ことから、実際に代理人がリアル株主総会に出席する場合であっても、出席者が本人なのか代理人なのか確認しない会社が多いかと思われます(特に、法人株主の役職員に関して対応していないケースはよく聞くところです。)。

ハイブリッド型バーチャル株主総会でも、議決権行使書面又は議決権行使書面と同封の書類に記載されたID及びパスワードによってバーチャル出席した場合、リアル株主総会と同様に実際に株主として参加又は出席したものが本人か代理人であるかどうかは実際には不問とするケースもあろうかと思われます。

当職も6月総会をいくつか控えています。今後、ハイブリッド型参加型バーチャル株主総会が取り入れられ、総会実務担当者、証券代行その他関係者間で議論が深まっていくかものと思いますので、またアップデートできればと思います。


[1] 経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf)3頁で定義する、参加者全員がリモートで参加する、バーチャルオンリー型株主総会を意味します。

[2] 商事法務No.2225「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実務対応₋実施ガイドを踏まえて₋」16頁武井一浩先生のコメント参照。会社法第298条第1項第1号等条文上の「場所」という記載は明らかに物理開催を前提としており、実際ネット上での開催のみとするのは難しいと思われます。なお、ドイツでは、2020年3月28日付で2021年12月31日までの時限立法として、完全なバーチャル株主総会が認められました(Gesetz zur Abmilderung der Folgen der COVID-19-Pandemie im Zivil-, Insolvenz- und Strafverfahrensrecht)。要件としては、①株主総会が、音声及びビデオが配信されていること、②株主は議決権を電磁的方法又は事前の書面により行使できること、③電磁的方法により質問を行うことができること、及び④株主総会決議に異議を唱えることができる権利が与えられることとされています。

[3] 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」2頁

[4] https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html

[5] なお、延期の場合は、3月末日の株主は定時株主総会で議決権を行使することができず、改めて基準日を定めて公告する必要があります。株主会社東芝は、本年4月18日付で、定時総会の延期のため基準日設定の公告を行う旨の適時開示を行っています(http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20200418_1.pdf)。

[6] 延期または継続会の場合、一つの案として、上場会社であれば、会社法第459条(剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め)の定めが定款にあることがほとんどだと思いますが、同条及び定款の定めに従い、取締役会において剰余金配当の決議を行い、定時株主総会(継続会)において剰余金配当の決議を行わないといった対応も検討しうるところかと思います(実際、以前から会社法第459条及び定款の定めに従い剰余金配当は取締役会決議のみで行い定時株主総会において当該議案は上程しないという方針の上場会社もあるところではあります。)。

[7] 実施ガイド9頁には、注6として「会社によっては、その置かれている状況により、インターネット等の手段を用いて審議を傍聴した株主が傍聴後に議決権を行使することを可能にするような選択肢を検討することも考えられる。(以下略)」と記載している。

2020年4月3日(金)に①暗号資産 ②そのデリバティブ ③STOの改正法政省令等に関するパブリックコメント(以下「パブコメ」といいます。)の回答及び政省令等の最終版が発表されました。
<金融庁ウェブサイトへのリンク>
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200403/20200403.html?fbclid=IwAR3kH2It0K77yGeYK5meNArPOpen_T9Pj6AOcmrB6ukLlwsT0slHnfkEeFI
今後、各法律事務所やメディアから、より詳細な情報が発表されると思われますが、速報として、①暗号資産及び②暗号資産デリバティブに関し、重要と思われるパブコメ回答を解説します。
なお、本文中の番号はパブコメ回答の番号になります。

1 暗号資産の定義

1.1 暗号資産の定義

<パブコメの結果>
暗号資産の定義から「電子記録移転有価証券表示権利等」を除外(1番~3番)

<背景と解説>
改正法では「暗号資産」の定義から「電子記録移転権利」が明文で除かれています(改正資金決済法2条5項)。
「電子記録移転権利」とは、ファンドなど元々あまり流通性が高くない権利をトークン化して流通性が上がった場合、株式・社債など元々流通性が高い有価証券と同様の規制に服させよう、と今回の金商法改正で定義された用語です。
「電子記録移転権利」は、もし除外規定がなければ「暗号資産」の定義にも該当する場合が多く、暗号資産規制と金商法規制の二重規制を避けるため、除外規定が設けられました。
しかしながら、改正金商法上、①株式・社債のように元々流通性が高い有価証券をトークン化した場合には「電子記録移転権利」には含まれておらず、②またトークン化したファンドでも一定の要件を満たす場合、「電子記録移転権利」の定義から除外されています。
このような「電子記録移転権利」に該当しない権利は、明文上は暗号資産の定義からは除外されないため、場合により暗号資産規制で規制されたり、金商法規制との二重規制になるのではと懸念されていました(注)。
(注) なお、株式・社債等、場合により資金決済法上「通貨建資産」と認められ、暗号資産規制から除外される場合もありますが、詳細は省略します。

これに対して、パブコメ回答では「ICOが投資としての性格を有する場合には、当該トークンは金商法の規制対象となり、資金決済法の規制対象とはならない」、「電子記録移転有価証券表示権利等(解説:電子記録移転権利の他、上記①及び②も含む権利)は、この場合に該当するものと考えられます。」として、解釈で二重規制を排除したものと考えられます。
なお、あらゆる場合に二重規制が適用ないのかは更に検討が必要であり、具体的な商品を取扱う際には、弁護士等にご相談されることをお勧めします。

2 カストディ規制

2.1 カストディ規制の範囲(秘密鍵)

<パブコメ結果>
秘密鍵を保有せず、暗号資産を移転できない場合にはカストディ規制に服さない(9番)

<背景と解説>
改正資金決済法2条7項4号では、「他人のために暗号資産を管理すること」(以下「カストディ」といいます。)を規制しています。
何が「他人のために暗号資産を管理する」に該当するかは、法文上は明確ではありませんでしたが、ガイドラインやパブコメ回答を踏まえると「秘密鍵の管理」、「暗号資産の移転の権限」がポイントとなっています。

2.2 カストディ規制の範囲(マルチシグ等)

<パブコメ結果>
マルチシグのキーを一部のみしか保有していない場合にはカストディ規制の対象外(11番~)
秘密鍵を業者が預かってはいるが当該秘密鍵が暗号化されており、業者が複号・使用できない場合にもカストディ規制の対象外(12番)

<背景・解説>
上記のような場合、「秘密鍵の管理」や「暗号資産の移転の権限」がないとして、規制対象外となります。

2.3 カストディ規制の範囲(クラウドサービス、スマートコントラクト等の場合)

<パブコメ結果>
クラウドサービスに秘密鍵が保管されていても、当該業者が、主体的に利用者の暗号資産を移転できる権限がない場合には「カストディ業務」に該当しない(16番)
スマートコントラクトのエスクローやウォレットでも、主体的に利用者の暗号資産を移転できない場合には同様(17番、18番)

2.4 カストディ規制の範囲(信託会社)

<パブコメ結果>
信託会社が信託契約に基づき、暗号資産交換業者との間で暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を行う場合には、当該信託会社の行為は、基本的には暗号資産交換業に該当しない(19番)

<背景・解説>
資金決済法2条7項4号では「他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く)とされているところ、信託業法をこの「他の法律として認めたもの。
ただし、回答では「暗号資産交換業者との間で」とわざわざ限定がなされているところ、一般人から信託会社がカストディを受ける場合、どう考えられるかは不明です。また、資金決済法の改正法上は「暗号資産の売買や暗号資産同士の交換」を信託会社が行う場合の除外規定はないと思われ、パブコメ回答との関係は要検討と思われます。
なお、別途の規制で、信託銀行や銀行・銀行持株会社の子会社の信託会社は暗号資産の受託は認められないこととなっております(改正兼営法施行規則3条1項6号、銀行法 16 条の2第1項6号、銀行法 52 条の 23 第1項5号)。

2.5 カストディ業務の法施行前の廃止

<パブコメ結果>
法改正の施行前にカストディ業務を行っていた者が、施行日前にカストディ業務を廃止した場合、返還が完了していなくても、カストディ業務としての登録を受ける必要がない(23番)

<背景・解説>
法改正前にカストディ業務を行っていた会社で、資金決済法の規制の負担の重さから、暗号資産を返還した上で、業務を廃止する会社が存在しています。
このような会社から、返還先のビットコインアドレスの連絡がないユーザーが存在し(少額の預け入れの場合、そのような例が多く見られます)、強制的にビットコインを返還する方法もない、強制的に返還できない場合に預託が継続しているとすると暗号資産交換業の登録を受ける必要があるのか、そのような資金もなく破産せざるを得ない、等の意見が出ておりました。
このような会社の声を受け、法施行日前に廃業を宣言し、返還の手続きを行っていた会社については暗号資産交換業の登録は不要としたものです。

3 利用者の暗号資産の管理

<パブコメ結果>
交換業者、カストディ業者を問わず、ホットウォレット比率の上限は5%(47番、原案維持)

<背景・解説>
暗号資産のエクスチェンジを行っている者と単にカストディを提供している者との間ではビジネスモデルが異なるのでは、としてカストディ業者のホットウォレット比率につき、より柔軟な対応を求めるコメントがなされましたが、不正アクセス防止等を理由に原案が維持されたものです。

4 暗号資産デリバティブ規制

4.1 デリバティブプロ

<パブコメ結果>
暗号資産についてはデリバティブプロとの間の取引に関する規制の適用除外を認めない(60~63番、原案維持)

<背景・解説>
為替等のデリバティブに関し、いわゆるデリバティブプロフェッショナル(10億円以上の有価証券を保有する等のプロ)との間で取引をする場合、金融商品取引業の登録が不要とされています。
この点、暗号資産のデリバティブについても、同様にデリバティブプロフェッショナルの適用除外を認めるよう業界等から要望がありました。
これに対し、①暗号資産デリバティブには積極的な社会的意義を見出しがたい、②現物の暗号資産についても規制があるところデリバティブにも規制を及ぶす必要がある、等の理由で、デリバティブプロの適用除外を認めないとされたものです。

4.2 日本の業者が海外の業者との間で行う暗号資産関連デリバティブ取引

<パブコメ結果>
日本で暗号資産関連デリバティブを行う金商業者が、海外の業者との間で暗号資産関連デリバティブ取引を行う場合、当該海外業者が現地で外国の法令に準拠して暗号資産関連店頭デリバティブ取引を行っている場合、当該海外業者は日本で登録を受ける必要はない(定義府令16条1項4号の2)。この「外国の法令に準拠して暗号資産関連店頭デリバティブ取引を行っている場合」とは、現地の金商法に類似した法律で、金商法に類似した暗号資産関連店頭デリバティブを行っている場合を含むが、それ以外にもケースバイケースで様々な他の業務が含まれうる(66番、67番)。

<背景・解説>
日本の暗号資産交換業者や金商業者は、外国業者とヘッジ目的等で暗号資産取引や暗号資産デリバティブ取引を行っています。このような際に、外国業者が日本で登録を受けなければならないとすれば、日本の業者はヘッジ取引を行うことが著しく困難となります。
定義府令16条1項4号の2は、日本の金商業者が現地の法令で認められた外国業者との間で暗号資産店頭デリバティブ取引を行う場合、当該外国業者は日本での登録をする必要がないとしています。
しかしながら、「外国(現地)の法令に準拠」とする場合、①現地では規制が全くない場合、②簡易の届出で済む場合、③金商業の登録と類似した制度がある場合、等様々な場合があり、日本の業者としてはどのような場合が取引相手方として認められるか不明なため、コメントがなされたものです。回答はケースバイケースだ、とされていますが、広く認められることが望まれます。

4.3 日本の業者が日本の会社と行うヘッジ目的等の暗号資産関連デリバティブ取引

<パブコメ結果>
「業として暗号資産関連デリバティブ取引を行う者を相手方として当該取引を行う者であっても、原則として第一種金融商品取引業の登録を要する」という文言を、「業として暗号資産関連デリバティブ取引を行う者を相手方として業として当該取引を行う者であっても、原則として第一種金融商品取引業の登録を要する」と文言を明確化する(65番)

<背景・解説>
上述の通り、日本の暗号資産交換業者や金商業者が海外業者とヘッジ目的で暗号資産取引や暗号資産デリバティブ取引を行うことがしばしばあります。また、このようなヘッジ取引は、決済や税務の都合上、外国業者の日本子会社との間でなされることも多くあります。
そして、従前の暗号資産業務のプラクティスでは、少なくともヘッジ目的等一定の限定された範囲で日本の業者が日本で未登録の会社と取引を行う場合や、リクイディティプロバイダーと取引を行う場合、当該会社の行為は業(=公衆を相手とし反復継続する行為)ではなく当該会社は未登録で行えると一般に解釈されていたところ、暗号資産デリバティブでもそのように解釈可能な余地はあることを明確化した物と思われます。
ただし、何が業に該当するかはケースバイケースの判断となり慎重な対応が必要ですので、ビジネスとして行う場合、弁護士等にご相談されることをお勧めいたします。

4.4 レバレッジ倍率

<パブコメ結果>
暗号資産の個人向けの信用取引、デリバティブ取引について、レバレッジ比率を2倍とするもの(原案維持、68番~123番)

<背景・解説>
暗号資産のデリバティブ取引については現在、多くの交換業者は上限4倍とされています。
これについて、2018年の「仮想通貨交換業に関する研究会」では、海外の事例等を参考に、2倍を上限とすることが適当だ、とされました。
レバレッジ比率を上限2倍とする改正については、個人投資家等も含め極めて多くの反対があり、パブリックコメントに対しても多数のコメントが出されましたが、①顧客保護、②業者のリスク管理、③過当投機の防止、を理由に原案どおりレバレッジ比率2倍が維持されました。
(意見につき例えば「【仮想通貨メディア共同声明】金融庁施行予定のレバレッジ倍率規制案等における署名支援のお願い」https://coinpost.jp/?p=132139)

4.5 デリバティブの板取引

<パブコメ結果>
デリバティブの板取引については当面の間、市場免許ではなく、第一種金商業の登録のみで行えるものとする(126番~130番)

<背景・解説>
金商法で、有価証券やデリバティブの「市場」の開設については、金融商品市場免許(例えば、東証免許)が必要とされています(金商法2条4項、80条)。
この「市場」が何を指すのかについては金商法上明確な定義はありませんが、PTS(私設市場)の規制なども考えると、少なくとも株式の「板取引」は市場に該当すると解釈されています。
本邦での暗号資産のレバレッジ取引はTwo Way方式と板取引方式が一般に用いられています。暗号資産デリバティブの板取引が市場と見られると、は提供できなくなってしまうのでは、と懸念されていました(日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)の2019年9月6日付「デリバティブ規制に関する提言書」も参照https://cryptocurrency-association.org/news/main-info/20190906-001/)。
この点、パブリックコメント回答では「現状、暗号資産関連デリバティブ取引は、わが国の経済活動において重要な役割を果たしているわけではなく、現状において暗号資産交換業者が行っているような取引については、直ちに金融商品取引所としての規制を課す必要性があるとまではいえないと考えられることから、当面の間、店頭デリバティブ取引とうに該当するものとして、第一種金融商品取引業の登録を求めることとします。」とされたものです。

留保事項
本稿の内容はパブコメ結果から合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職の現状の検討結果に過ぎず、今後、変更がありえます。
本稿はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

ステーキングに関して検討すべき法的論点は、トークンの概要、行おうとするビジネスにより異なりうる。

本稿では、下記Ⅰで結論の纏め、下記Ⅱで主要な POS トークンの概要を紹介、Ⅲで法的論点を整理し、Ⅳで税務について参考までに記載する。

Ⅰ 法的整理の結論の纏め

1.自己保有 POS コインで自分でステーキングすること法律上の問題はない

2.業者が第三者(ユーザー)のためにステーキングをすること
2-1.業者がユーザーからデリゲートを受けるのみで秘密鍵を預からない場合
金融規制はない

2-2.業者が秘密鍵を預かる場合
法律構成が、預託、出資、貸付なのかで規制が異なる。
① 預託:カストディーとして暗号資産交換業
② 出資:ファンド規制(二種金融商品取引業)
③ 貸付:金融規制なし

カストディー、ファンド、貸付のいずれかは、契約上の構成と実質を踏まえて検討。
例えば下記のようになると思われる。

(1) 業者からユーザーへのリワードの支払額が予め決まっており、スラッシングリスクをユーザーが負担しない場合 → カストディー
(2) 業者からユーザーへのリワード支払額が業者が獲得するステーキング報酬と連動、スラッシングリスクの一部をユーザーが負担 → ファンド
(3) 暗号資産の貸付契約として契約し、実態としても要求払い等でなく、貸付と見られる場合 → 規制なし

3.既に存在する暗号資産交換業者が預託コインを用いてステーキング業務を行う場合
(1) カストディー業務として行う場合、既に登録があるので可能
(2) ファンドの場合、別途、二種金融商品取引業の登録が必要
(3) なお、カストディーの場合、コールドウォレット規制などに留意する必要性

Ⅱ ステーキングの仕組み・分類

1. Proof of Stake とは

Proof of Stake(POS、ステーキング)とは、コインについて一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるもの

Proof of Work(POW)と異なりコンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができるのがメリットとされる

2. 各コインとステーキング

(1) TEZOS

ステーキング相当の行為を Tezos ではベイキング(=パンを焼く)と呼ぶ

ベイキング

デリゲート

  https://stir.network/tezos/及び Tezos Japan からの情報参照

(2) ETH2.0

  https://lab.stir.network/2019/04/22/ethereum2-serenity-overview-and-roadmap/ 参照

(3) COSMOS

  https://coinpost.jp/?post_type=column&p=113117 参照

(4) LISK

  Lisk Japan による Coinpost への寄稿 https://coinpost.jp/?p=126507
  Coinchek 社発表 https://corporate.coincheck.com/2020/01/09/85.html 参照

3. 法規制検討のための分類

ステーキングの法規制といっても、各コインのステーキングの仕組みや Validator の仕組みなどによって考えられる問題点は異なる。例えば以下のような事実を整理する必要

① 秘密鍵をユーザー自身が管理しているか(秘密鍵を渡すことなくステーキングをデリゲートすることができるか)/業者が管理をしているか
② リワード(報酬)を業者が受け取った後にユーザーに分配されるか/ユーザーに直接分配されるか
③ リワードを業者が受け取った後に分配される場合、リワードの分配は固定分配か収益連動か
④ Slashing などの罰金が有る場合の負担は業者かユーザーか?

Ⅲ 法的論点の検討

1. ユーザーの自己保有 POS コインの自身によるステーキング

ユーザー自身が保有している POS コインにつき、自分がステーキングしてリワードを得ること
→ 問題は思いつかない

2. 他人の POS コインを業者がステーキングする場合

業者が他人の POS コインを使って業務としてステーキングを行う場合、暗号資産交換業(カストディー業)、ファンド業のいずれか、又は両方が適用されないか検討する必要がある

暗号資産交換業(資金決済法 2 条 5 項、法改正後)

1 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
2 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
3 その行う前 2 号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理を行うこと
4 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)

暗号資産交換業ガイドライン I-1-2-2(改正後)

③ 法第 2 条第 7 項第 4 号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者の関与なく、単独又は委託先と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

ファンド(金商法 2 条 2 項5号、法改正後)

① 組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利のうち、
② 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(改正法施行後は暗号資産も含まれる)
③ を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利で
④ 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがない場合
ハ (以下省略)

(1) 秘密鍵を預からずデリゲートを受けるのみ/報酬は直接ユーザーに払われる

秘密鍵の管理をしておらず、カストディー業に該当しない
出資をしているとは考えにくく、ファンドに該当しない
→ 法的な整理としては「無償で」事務の委任を受けているという考え方?
→ 別途フィーをとると有償の委任

(2) 秘密鍵を預からずデリゲートを受けるのみ/報酬は事業者に入り一部がユーザーに払われる

秘密鍵の管理をしておらず、カストディーに該当しない
出資をしているとは考えにくく、ファンドに該当しない
→ 法的な整理としては「有償で」事務の委任を受けているという考え方?

(3) 秘密鍵を預かる/報酬はユーザーに直接支払われる

そういうビジネスモデルはおそらく存在しない
仮にそういうビジネスがあれば法的にはカストディー業。ファンドではない。

(4) 秘密鍵を預かる/報酬は事業者に入りうち一部がユーザーに支払われる

原則として、カストディー業かファンド業のいずれかに該当すると考えざるを得ないのでは(但し、貸付として構成可能な可能性について後述)

カストディー = 他人のために預かる。考え方としては寄託(消費寄託含む)に類似する?以下、単に「預託」と記述

ファンド = 資金を拠出してもらってそれを運用して、収益を分配。以下、単に「出資」と記載

カストディーかファンドかの差異は典型的な場合には判りやすいが、非典型的な場合には悩ましい場合もあり、(4-A)以下で検討する。

なお、カストディーとファンドの両方には該当しないと言うことで良いかも理論的には問題となるが、銀行預金でもありファンドでもある、という事例が存在しないと思われることとの対比からは預かりであり出資でもある、ということはないという整理で良いのでは、と思われる。

(4A) 出資か預託か – 「収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる」の要件

一般的には、収益の分配が有る場合には出資であり、収益の分配ではない場合には預託である。

下記①は典型的な預託、下記②は典型的な出資と思われるが、下記③や④のような中間的な形態の場合には悩ましい

① 移転を受けた暗号資産の 100%の返還義務+非収益連動利率(例えば固定利息やLibor など一定の指数に連動の利率)のリワード → 預託
② POS で損失が発生した場合の損失はユーザーが負担+収益に応じたリワード →通常の出資
③ 100%の返還義務+収益連動のリワード → 収益連動の利息付の預託?出資であるが Slashing については Validator のミスであるとして補填している出資契約?収益連動社債との対比からすると前者?金銭についてであるが出資法では元本補填特約付きの出資を禁止していることとの比較すると後者?
④ POS で損失が発生した場合の負担はユーザー+非収益連動利率のリワード → 出資?預託?リワードに上限が付されている出資と考えることのが妥当?

まとめ

  非収益連動利率の報酬 収益連動の報酬
元本保証 ①典型的な預託(カストディ) ③収益連動の利息付の預託?元本補填特約付き出資?
元本保証なし
(Slashing損失をユーザーが負担)
④報酬上限付き出資? ②典型的な出資(ファンド)

(4B) 出資か預託か – 「充てて」の論点

一般的には、ファンドは出資を受けた金銭を運用する。例えば金銭で有価証券を売買して利益を出す。

法改正後は金銭ではなく、「出資を受けた暗号資産を充てて」の場合にもファンド規制に該当する

ステーキングの場合、受け取った暗号資産を通常の意味での運用には出さずに、しかしながら収益が得られる場合がある。

例えば①第三者から秘密鍵の管理の委託を受ける、②当該暗号資産はコールドウォレットでずっと保管し、但し、Voting によるデリゲートは行う、③デリゲートで得た収益を収益連動でユーザーに分配する、というような場合である。

この場合、論点としては「出資を受けた金銭を充てて」の「充てて」の要件が問題となりうる。

「充てて」に該当しない考え方

「充てて」に該当する考え方

現時点の当職の考え

(4C) 出資でも預託でもない形態 – 貸しコインについて

秘密鍵の管理を任されつつ預託でも出資でもないという方法はないか
→ 法的構成を変えて、暗号資産の貸付であるというスキームにすれば、出資でも預託でもないと言えそう。ただ、貸付か預託かについては差が難しい(貸金か預金かは差が難しい)。
→ 例えば預かりであれば預託者の側から返せ、と言えばすぐに返してもらえるのが原則だが(要求払い、但し定期預金のような例外)、貸付の場合には要求払いではなく、借り手に期限の利益があることが通常
→ 脱法的な場合は預託と見られる。下記ガンドライン参照

暗号資産交換業ガイドライン I-1-2-2 注(改正後)

(注)内閣府令第 23 条第1項第 8 号に規定する暗号資産の借入れは、法第 2 条第 7 項第 4 号に規定する暗号資産の管理には該当しないが、利用者がその請求によっていつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど、暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

→ なお、貸金業法上、規制対象は原則として「金銭」の貸付とされている(貸金業法第2 条)。暗号資産の貸付は金銭の貸付ではなく、脱法的な場合を除き、貸金業法の適用はない。金銭の消費貸借に適用される利息制限法も暗号資産貸付には適用はない。但し暴利行為など民法の一般的条項は適用され得る。

3. 暗号資産交換業者がユーザーから預託を受けたコインでステーキングを行う場合

(1) カストディー業

暗号資産交換業との関係でユーザーから預託を受けているコインに関し、上記 2 で「預託」と見られるような形で暗号資産交換業者がステーキングに参加する場合
→ 既に暗号資産交換業者登録を得ており、カストディー業とされてもそれ自体は問題ない。

(2) ファンド業

他方、ファンドと見られた場合には追加のファンド規制(兼業)。カストディーなのかファンドなのかの区別がどこにあるのかが重要
→ 上記 2 で検討したように、典型的なファンドは判りやすいが中間的な形態にする場合には悩ましい

(3) 暗号資産交換業者(カストディー業者)がステーキングを行う場合の論点

① 交換業者自身が預託コインを使ってステーキングをする場合、当該コインをコールドウォレットに保管したままステーキングできるか?
→ 技術的な問題点。仮にできないとすると交換業者は同額のコインを自己資産から準備する必要あり。
→ Tezos については可能なよう(米 Coinbase 社はコールドウォレット管理と発表3)。例えば、自己保有の Tezos を 1、預託コインを 9 準備し、前者はホットウォレットに入れて Validator Node となる、後者をコールドウォレットに入れ、Validator Node にデリゲート等の仕組みが考えられる。
→ ETH2.0 など、ステーキングにハッキングリスクがあると書かれているコインもあるよう。コールドウォレット保管ではない?そうすると交換業者としてはステーキング困難か?
→ 預託であってもユーザーから同意を得てステーキングしたものはコールドウォレット管理から外すことが法令上、許されるのか(困難そうか?)
② 交換業者が預託コインの秘密鍵を他の第三者に渡して第三者にステーキングして貰うことはできるか
→ 預託資産の再預託となり様々な問題が生じそう
③ 秘密鍵を交換業者自身が保管したまま、第三者にデリゲートしてステーキングして貰うことは問題ないか
→ 業務の外部委託?ただ、暗号資産交換業の委託ではないのではないか
→ これでハッキングの可能性が増加しないかなど監督官庁への説明が必要に?ただ通常はハッキングリスクは増加しないのでは
④ ユーザーに何らかの損失を負担させること
→ ファンドとなる可能性
→ ファンドでなくても、このようにユーザーに損失負担させることにつき監督官庁に何らかの説明が必要?
⑤ 交換業者が自分の保有のコインでステーキングすること
→ 単なる運用であり他業と考える必要はないのでは

Ⅳ ステーキングと税務 (参考)

暗号資産取引による課税は利益(又は損失)が発生するタイミングが重要

基本的な発想として、ステーキングによる報酬を受け取った時点の時価で収入があったと考えて収益認識、更に売却等で利益又は損失が出た場合に収益認識とすることが通常か

具体的ケース
① 自分でステーキングして報酬を受け取り
→ 受け取った時点での時価での収入
② Validator にデリゲートして Validator から報酬を受け取り
→ Validator から受け取った時点での時価での収入
③ 暗号資産交換業者にステーキングを委託
→ 受け取った時点での時価での収入。なお、取引所から暗号資産預託口座に報酬が計算上分配された時点でユーザーが受け取ったとして考える
④ ファンド
→ パススルー課税のファンドの場合、ファンドが受け取った時点で各個人にも収入があったとして計算か

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議を記載したものにすぎません。また、当職の現状の考えに過ぎず、当職の考えにも変更がありえます。

本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上

Ⅰ STO とは何か

1. STO の定義

Security Token(以下「ST」という) と呼ばれるトークン(ブロックチェーン上での権利)の発行による資金調達

ただし、何が Security Token に該当するかは国や論者により定義が異なる

例えば Inwara(ICO、STO についてのリサーチ会社)の Report の定義

セキュリティートークン = 実社会の金融資産を表彰する暗号トークン
ユーティリティートークン = 発行体のサービスや製品へのアクセスを付与する。発行会社に対する権限を表す場合

ここでは主として、金銭・仮想通貨・その他財産により、配当又は 100%以上の元本償還が想定されているトークンを Security Token とする
→ 但し、例えば米国では Security Token の範囲が広い等、定義が変わる

日本では株式や社債の ST、ファンドの ST など色々とありうるが、金商法改正との関係ではファンドの ST をまずは考え、適宜、株式や社債の ST についても触れる

2. 国内情勢、海外情勢

海外の状況

海外でもともと大ブームであった ICO が激減
それに対して STO が増加したことにより着目
数自体はまだまだ少ないが、一件あたり金額が増加
<下記の図参照>

仮想通貨に対する規制が全般的に強化されたことにより、規制に合致した STO の発行ニーズが増加?規制コストを鑑みて大規模化?

国内の状況

流通可能な STO の発行事例は知る限り存在しない(後記の規制の問題)
金商法の改正に伴い本年の春から?

ポイント: 規制コストがかかるが STO を選択するメリットがあるのか?

上記資料は、InWara’s Half Yearly Report 2019 H1 から抜粋

Ⅱ 現行法下での STO

1. 仮想通貨法

現行法上、STO は ICO の一種
日本での販売には「仮想通貨交換業の登録」+「コインの届出」が必要

(仮想通貨交換業の登録)
発行体自らが登録、又は、登録業者を通じて販売
登録はハードル高く、自らの登録は現状、現実的ではない
登録業者による販売も現時点では現実的ではない

(コインの届出)
新規コインを取り扱うには FSA への届出と審査
コインチェック事件後、届出審査の厳格化し、現状、新規コインは 2019 年 11 月に Coincheck
が上場させたステラのみ

2017 年 12 月以降、日本では合法な ICO(STO 含む)は発行されていない

2. 金融商品取引法(ファンド規制)、仮想通貨による出資

配当等(配当、収益の分配)がないコイン

金商法の「有価証券」や「デリバティブ」の規定は限定列挙
少なくとも「配当等」がないコインは、現在の金商法の定義上は、金商法規制に服する可能性は低い

配当等が行なわれるコイン

ファンド(集団投資スキーム)として金商法規制の可能性
①他人から金銭を集め、②事業に投資し、③投資家に対して配当等を行う
Bitcoin や Ether で出資を受ける場合、法律の文言上はファンド規制に服さない。脱法的な場合、規制される

Ⅲ STO と金商法改正と概論

1. 法改正概論

スケジュール

① 2019 年 5 月 31 日に仮想通貨法と金商法の改正法が国会で可決
② 2020 年 1 月 14 日に金融庁が仮想通貨法・金商法の下位規定である政省令をドラフトし、パブリックコメント手続中(2020 年 2 月 13 日コメント〆切り)

金融庁サイト:
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200114/20200114.html?fbclid=IwAR00ob7ly
pNqrWZY_OZAg5g6rw-w-R9LbvC8Ih9g3iWW69c7B5ZTXim5vao

今後の想定される予定
① パブコメ回答が 3 月~4 月頃に出る?
② 改正法は公布後 1 年以内に施行。2020 年 5 月 1 日施行?
③ 暗号資産カストディ規制、デリバティブ商品に関する規制などは、法施行後 6 ヶ月間の移行期間

概要

法令の明確化という点では市場にメリット。ただ、政省令案を見る限り、かなり厳格な規制がなされるようであり、どこまでニーズが出るか

2. 金商法の発想と改正法

一項有価証券
株、社債、投資信託など流動性の高い証券
第一種金商業者(証券会社)が取り扱い
発行開示義務・継続開示義務

二項有価証券
ファンド、合同会社の社員権、通常の信託受益権など流動性の低い権利
二種金商業者(ファンド業者)が取り扱い
発行開示・継続開示義務などが原則ない

もともと二項有価証券であったものを ST 化した場合に一項有価証券としての規制を及ぼすのが改正法の基本の発想(但し、自主募集の場合のファンド規制はそのまま適用)

なお、改正法は、株式や社債の ST 化を禁止するものではない

株式・社債 = ST 化してもしなくても一項有価証券。ただ ST 化した場合には場合により追加規制?
ファンド = もとは二項有価証券。ST 化した場合は一項有価証券として厳格な規制

3. STO と民商法

金商法はあくまで規制法。どのような仕組みで ST が発行できるかは民商法の議論
株式の ST 化は可能? → 株主名簿の記録なく株式移転する方法?
不動産の ST 化は? → 不動産登記なく所有権移転可能?
ファンドの ST 化 → 確定日付なく債権譲渡できるか

上記は金商法では記載していない

Ⅳ 改正金商法上の ST の定義

1. Security Token(電子記録移転権利)の定義

<電子記録移転権利の定義>

金商法 2 条 3 項
下記の①~③を満たし、④を除く権利
① 金商法第 2 条第 2 項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権など)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の者に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合を除く

電子記録移転権利に該当する場合には「第一項有価証券」となる
他方、非該当の場合には従前どおり「第二項有価証券」となる

なお、ブロックチェーンの利用方法によっては、そもそも上記②「財産的価値に表示される場合」に該当しないという考えもありうる
→ 例えば、単に、ファンドの権利者が誰であるかをブロックチェーン上で管理するが、権利者は秘密鍵を管理せず、ブロックチェーンの書換えはファンド運営者が行う場合、上記②の「表示される」に該当しないのでは、と思われる。(パブコメで聞く予定)

上記④の除外規定について、電子記録移転権利の要素を有するが、保有者が一定の投資家((ア)適格機関投資家、(イ)資本金 5,000 万円以上の法人、(ウ)証券口座開設1 年以上+取引の状況その他の事情から合理的に判断して、その保有する有価証券や暗号資産の合計額が 1 億円以上であると見込まれる個人等)に制限されており、かつ、権利を表示する財産的価値の譲渡に発行者の承諾が必要な技術的措置が取られている場合とされる

定義府令
9 条の 2
法第 2 条第 3 項に規定する内閣府令で定める場合は、次に掲げる要件の全てに該当する場合とする。
一 当該財産的価値を次のいずれかに該当する者以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
イ 適格機関投資家
ロ 令第 17 条の 12 第 1 項第 1 号から第 11 号まで又は第 13 号に掲げる者(=資本金 5000 万円以上の法人、外国法人など)
ニ 金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 3 項に定める要件に該当する個人(=有価証券や暗号資産を 1 億円以上保有している個人)
ホ 金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 4 項に定める者
二 当該財産的価値の移転は、その都度、当該権利を有する者からの申出及び当該権利の発行者の承諾がなければ、することができないようにする技術的措置がとられていること。
2 前項の規定により同項第 1 号ハからホまでに規定する金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 2 項から第 4 項までの規定を適用する場合には、同条第二項中「第 62 条第2 号イからトまでに掲げるもの」とあるのは、「第 62 条第 2 号イからトまでに掲げるもの及び暗号資産」とする。

2. 「暗号資産」の定義との関係

資金決済法改正案の暗号資産の定義から「電子記録移転権利」は除外されている。

改正資金決済法第 2 条
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和23 年法律第 25 号)第 2 条第 3 項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
6 この法律において「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。

上記 1(1)④の要件により電子記録移転権利に該当しないものは、理論上、金商法の規制に加えて資金決済法の規制が重畳的に適用されうる。他方、上記 1(1)④の要件に該当する場合には、流通性がなく、資金決済法改正案上の暗号資産の定義にもそもそも該当しない、という考え方もありうる。暗号資産の定義の解釈次第と思われる(パブコメで聞く予定)

もともとが一項有価証券である株券や社債をトークン化した場合、暗号資産の定義からは明示には除外されない。どう考えるべきか不明確(パブコメで聞く予定)。
→ 例えば、株式や社債をトークン化した場合、定義上、暗号資産に該当する可能性あり。「通貨建資産」にあたる場合は暗号資産の定義から除外されることから通貨建て資産に該当すれば問題ないものの、無額面株式が通貨建資産に該当するのか
→ なお、更に考えると「電子情報処理組織を用いて移転することができる」と暗号資産の定義にあるが、ほふり等を利用していても電子情報処理組織を用いて移転しているといえる、トークン化しているか否かは問題ではない、という議論もあることはある

Ⅴ 電子記録移転権利の開示規制

1. 第一項有価証券の募集に係る開示規制

現行の金商法上、第一項有価証券の募集に該当する場合、原則、発行開示(例:有価証券届出書1、目論見書等)、継続開示(例:半期報告書、臨時報告書等)等の公衆縦覧型の開示規制が課せられる

電子記録移転権利たる ST の募集に該当する場合に、如何なる情報を開示するかについては、改正内閣府令(特定有価証券等開示府令)に規定されている。
→ 開示書類の作成には、かなりの手間を要するように思われる

他方、第一項有価証券の私募に該当する場合には、公衆縦覧型の開示規制は課せられていない

2. 第一項有価証券の募集・私募の概念

募集(公募2)

新たに発行される有価証券の取得の申し込みの勧誘のうち
(i) 多数(50 名以上3)の者を相手方とする場合
(ii) 私募に該当しない場合

私募

(i) 適格機関投資家のみを相手方とする場合(適格機関投資家私募)
(ii) 特定投資家のみを相手方とする場合(特定投資家私募)
(iii) 少人数(50 名未満)の者を相手方とする場合(少人数私募)

3. 第一項有価証券の「私募」に該当するための要件(転売制限要件)

(1) 適格機関投資家私募

「取得勧誘において適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合」という要件(転売制限要件、金商法第 2 条第 3 項第 2 号イ)を満たす必要がある。転売制限要件は、本来は有価証券の種類によって異なる

ST の場合、適格機関投資家にのみ販売されるよう技術的な制限を課すことが要求される

令 1 条の 7 の 4(株券)
当該株券等に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価値を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

新株引受権、その他の証券
定義府令 13 条の 4(売付け勧誘等における適格機関投資家以外への譲渡に関する制限等)
1 令第 1 条の 7 の 4 第 2 号ニに規定する内閣府令で定める方式は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める要件を満たすものとする。
一当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価値を)適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

2 令第 1 条の 7 の 4 第 3 号ハに規定する内閣府令で定める要件は、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
一 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める要件に該当すること。
イ当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価を適格機関投資家以外の者に移転する技術的措置がとられていること。

適格機関投資家私募の転売制限に違反して適格機関投資家以外の者に転売される場合には、「発行者」に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 2項本文参照)4

(2) 特定投資家私募

特定投資家私募の要件についても転売制限要件が存在し5、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ロ、金商法施行令第 1 条の 5 の 2 第 3 号、定義府令第 12 条)

詳細省略するが、特定投資家以外への譲渡を制限する技術的制限が課されていることが要件

特定投資家私募の転売制限に違反して特定投資家等以外の者に転売される場合には、発行者に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 3 項本文参照)6

(3) 少人数私募

少人数私募についても転売制限要件が存在し、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ハ)

株券や新株予約権の ST については特に今回追加された制限はない

他方、その他の有価証券については①一括譲渡以外の技術的禁止、又は②有価証券の枚数又は単位の総数が 50 未満である場合において、単位未満の当該権利を移転することができない制限の技術的措置が必要となる(金商法施行令第 1 条の 7第 2号ハ、定義府令第 13 条第 3 項等)

改正定義府令 13 条
3 令第一条の七第二号ハ(3)に規定する内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める要件に該当すること。
イ 当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 次に掲げる要件のいずれかに該当すること。
(1) 当該権利を取得し、又は買い付けた者がその取得又は買付けに係る権利を表示する財産的価値を一括して移転する場合以外に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
(2) 当該有価証券の枚数又は単位・・・の総数が五十未満である場合において、単位に満たない当該権利を表示する財産的価値を移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

少人数私募の転売制限に違反して多数の者に転売された場合であっても、有価証券届出書の提出義務は課されない(金商法第 4 条第 2 項、第 3 項参照)7
→ 株券の ST の場合、少人数私募で発行しても、その後に拡散してしまうことは考えられる?
→ 社債型やファンド型の ST の場合、技術的に譲渡制限が課されているため、上記のような場合は基本的には生じないように思われる

(4) 実務上の検討事項・疑問点等

日本では適格機関投資家私募として販売、海外では海外における適格機関投資家に限定して販売することができるか → 技術的に対応すれば可能では?

日本で少人数私募として販売し、海外では人数に含めず販売することはできるか
→ 還流制限を技術的に導入することが可能か。

日本で適格機関投資家私募・少人数私募として販売し、その後に海外の取引所では完全に自由に転売できるとした場合、どうなるか(海外の取引所で日本居住者が売買を行うと、発行体が開示違反になるか)
→ 当初の私募の際に通常は技術的制限が必要なので、日本の居住者については適格機関投資家や少人数以外には転売されないような技術的措置が取られることになる?

Ⅵ 電子記録移転権利の取扱いに関する業規制

1. 電子記録移転権利の募集の取扱

業として電子記録移転権利の売買、売買の媒介等、募集・私募の取扱い等を行う場合には、以下のとおり、第一種金融商品取引業(例:証券会社等と同様の資格)の登録が必要となる

金商法第 28 条
1 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 有価証券(第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項第 2 号及び第 64 条第 1 項第 1 号において同じ)を除く。)についての同条第 8項第 1 号から第 3 号まで、第 5 号、第 8 号又は第 9 号に掲げる行為
一の2 (以下省略)

金商法第 2 条第 8 項 1 号から第 3 号まで、第 5 号・第 8 号・第 9 号
一 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、市場デリバティブ取引(金融商品(第二十四項第三号の二に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係る市場デリバティブ取引(以下「商品関連市場デリバティブ取引」という。)を除く。)又は外国市場デリバティブ取引(有価証券の売買にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
二 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)又は代理(有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
三 次に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理
イ 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
ロ 外国金融商品市場(取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するものをいう。以下同じ。)における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引
五 有価証券等清算取次ぎ
八 有価証券の売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等
九 有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い

→ 第一種金融商品取引業の範囲から金商法第 2 条第 2 項のみなし有価証券に係る各行為が除外されているが、当該除外規定から電子記録移転債権が除かれている(除外の除外)

2. 電子記録移転権利の自己募集・私募

(1) 業規制の概要

現行の金商法上、株式や社債等の自己募集・私募業規制は存在しないが、集団投資スキーム持分(=ファンド)の自己募集・私募については、金商法の業規制が適用される

改正法により、以前から自己募集・私募規制があった証券に加えて、一定の証券(合名、合資、合同会社、類似の外国会社の社員権)につき、自己募集・自己私募に追加で第二種金商業が要求されるようになった

金商法第 28 条
2 この章において「第二種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第 2 条第 8 項第 7 号に掲げる行為
二 (以下省略)

金商法第 2 条 8 項第 7 号
この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為・・・・のいずれかを業として行うことをいう。
七 有価証券(次に掲げるものに限る。)の募集又は私募
ヘ 第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利(=ファンド)
ト イからヘまでに掲げるもののほか、政令で定める有価証券

金商法施行令 1 条の 9 の 2(金融商品取引業となる募集又は私募に係る有価証券)
法第 2 条第 8 項第 7 号トに規定する政令で定める有価証券は、次に掲げるものとする。
2 法第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる権利(同条第 8 項第 7 号ホ及びヘ並びに前号に掲げるものを除き、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合(投資者の保護の必要性を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。)

(金融商品取引業となる募集又は私募に係る有価証券から除かれる場合)
定義府令 16 条の 2
令第 1 条の 9 の 2 第 2 号に規定する内閣府令で定める場合は、法第 2 条第 2項第 3 号及び第 4 号に掲げる権利以外のものである場合とする。

法第 2 条 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
2 項
三 合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権
四 外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの

(2) ファンドの適格機関投資家特例

集団投資スキーム持分の自己募集・私募には、適格機関投資家等特例業務8が認められているが、ST についても同様に認められるか→ 認められるが譲渡制限のための技術的措置を取る必要がある

(適格機関投資家等特例業務)
金商法法第 63 条 次の各号に掲げる行為については、第 29 条及び第 33 条の 2 の規定は、適用しない。
一 適格機関投資家等(適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(その数が政令で定める数以下の場合に限る。)及び適格機関投資家をいう。以下この条において同じ。)で次のいずれにも該当しない者を相手方として行う第 2 条第 2項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利に係る私募(適格機関投資家等(次のいずれにも該当しないものに限る。)以外の者が当該権利を取得するおそれが少ないものとして政令で定めるものに限り、投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものを除く。)
ハ イ又はロに掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者

金商業者府令
(投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの)
第 234 条の 2 法第 63 条第 1 項第 1 号に規定する投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものは、出資対象事業持分に係る私募のうち、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するものとする。

三 当該権利が財産的価値に表示される場合には、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める措置がとられていないこと。
イ 当該権利の取得勧誘(法第 2 条第 3 項に規定する取得勧誘をいう。ロにおいて同じ。)に応ずる取得者が適格機関投資家(法第 63 条第 1 項第 1 号イからハまでのいずれにも該当しないものに限る。以下この号において同じ。)である場合当該財産的価値を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置
ロ当該権利の取得勧誘に応ずる取得者が特例業務対象投資家(令第 17 条の 12第 4 項第 2 号に規定する特例業務対象投資家をいう。以下ロにおいて同じ。)である場合当該権利を取得し又は買い付けた者が当該権利を表示する財産的価値を一括して他の一の適格機関投資家又は特例業務対象投資家に移転する場合以外に移転することができないようにする技術的措置

Ⅶ 電子記録移転権利のセカンダリー取引に関連する規制

ST のセカンダリー取引に関して、当該トークンの売買の媒介を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法第 2 条第 8 項第 2 号、第 28 条第1 号)

ST のセカンダリー取引に関して、「板取引」等の取引所を設置する場合、その態様により、金融商品市場の免許(金商法第 2 条第 14 項、第 80 条第 1 項)、又は私設取引システムに該当するものとして PTS 業務の認可(同法 第 80 条第 2 項、第2条第 8 項第 10 号、第 30 条第 1 項)を受けることが必要になると思われる
→ 現実的には市場免許の取得は極めて困難
→ PTS 認可の取得は容易ではない。また PTS 認可の場合、困難であり、また、PTS 業務については、事実上、板取引(オークション形式)ができないように思われる
→ 当初は、いわゆる OTC 取引にて、金融商品取引業者がビッドプライス・オファープライスを提示して ST を販売する「販売所形式」でのセカンダリー取引になる、と推察される。セカンダリーマーケットの充実も課題

参考 金融商品市場

金商法第 2 条第 14 項
14 この法律において「金融商品市場」とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう。

なお、「市場」の定義はない。

参考 PTS 業務(この部分は今回の改正で変更はなし)

金商法第 2 条第 8 項第 10 号
十 有価証券の売買又はその媒介、取次ぎ若しくは代理であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として次に掲げる売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行うもの(取り扱う有価証券の種類等に照らして取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場(第六十七条第二項に規定する店頭売買有価証券市場をいう。)以外において行うことが投資者保護のため適当でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)
イ 競売買の方法(有価証券の売買高が政令で定める基準を超えない場合に限る。) (=オークション、板取引。取扱い可能金額に制限。取引所や店頭有価証券がないと使えない?)
ロ 金融商品取引所に上場されている有価証券について、当該金融商品取引所が開設する取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を用いる方法(=ST は上場されていないので使えない)
ハ 第 67 条の 11 第 1 項の規定により登録を受けた有価証券(以下「店頭売買有価証券」という。)について、当該登録を行う認可金融商品取引業協会が公表する当該有価証券の売買価格を用いる方法(= 店頭売買有価証券は旧 JASDAC 市場のようなものが想定されている。STO 協会が類似制度を導入する?)
ニ 顧客の間の交渉に基づく価格を用いる方法 (=顧客から買値・売値を出させ、板ではない方式で仲介する?)
ホ イからニまでに掲げるもののほか、内閣府令で定める方法(顧客注文対当方法、売買気配提示方法)

施行令 (競売買の方法による場合の基準)
第 1 条の 10 法第 2 条第 8 項第 10 号イに規定する政令で定める基準は、次に掲げるものとする。
一 毎月末日から起算して過去 6 月間に行われた上場有価証券等(金融商品取引所に上場されている有価証券及び店頭売買有価証券をいう。以下この条において同じ。)の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下この条において同じ。)であつて法第 2 条第 8 項第 10 号イに掲げる売買価格の決定方法により行うものに係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額の、当該 6 月間に行われた上場有価証券等のすべての取引所金融商品市場及び店頭売買有価証券市場における売買に係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額に対する比率が 100 分の 1 であること。
二 毎月末日から起算して過去 6 月間に行われた上場有価証券等の売買であって法第 2 条第 8 項第 10 号イに掲げる売買価格の決定方法により行うものに係る銘柄ごとの総取引高の 1 営業日当たりの平均額の、当該 6 月間に行われた当該銘柄のすべての取引所金融商品市場及び店頭売買有価証券市場における売買に係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額に対する比率が 100 分の 10 であること。

定義府令 (私設取引システム運営業務の売買価格の決定方法)
第 17 条 法第 2 条第 8 項第 10 号ホに規定する内閣府令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 顧客の提示した指値が、取引の相手方となる他の顧客の提示した指値と一致する場合に、当該顧客の提示した指値を用いる方法
二 金融商品取引業者が、同一の銘柄に対し自己又は他の金融商品取引業者等の複数の売付け及び買付けの気配を提示し、当該複数の売付け及び買付けの気配に基づく価格を用いる方法(複数の金融商品取引業者等が恒常的に売付け及び買付けの気配を提示し、かつ当該売付け及び買付けの気配に基づき売買を行う義務を負うものを除く。)

Ⅷ ファンド型 ST の規制纏め

1. 業規制

(1) プライマリー

  募集・私募等の主体 募集・私募等の相手方 必要な登録・届出等
A ST 発行者 適格機関投資家

49 名以下の富裕層に限定*
発行者において適格機関投資家等
特例業務の届出が必要
B ST 発行者 A 以外の場合、自主規制で
一定の投資家に限定すべき
という議論あり
発行者において第二種金商業の登
録が必要
C ST 発行者以外の第三者 同上 当該第三者において第一種金商業
の登録が必要

*限定の方法については要検討

(2) セカンダリー

・業として、ST の売買の媒介を行う場合、第一種金融商品取引業の登録を必要とする

・取引所形式での取引は現実的には困難であり、販売所方式での取引になると思われる

2. 開示規制

  募集・私募の区分 募集・私募等の相手方 開示義務
a 私募 適格機関投資家私募* 適格機関投資家に限定 通常無し
b 少人数私募* 49 名以下に限定
c 特定投資家私募 特定投資家に限定
d 募集 多数 有価証券届出書**
(その他、四半期報告書、臨時報告書等の継続開示についても留意する)

* 限定の方法については要検討
**発行価格の総額が 1 億円未満の募集の場合、有価証券届出書(金商法第 4 条第1 項第 5 号)の届出義務が免除される

3. 考えられる方式

当初は、規制が緩やかな方式として、①発行者自らが、適格機関投資家特例を使用して募集を行う方式(1(1)a‐2b 方式)、又は②発行者が第三者に対し適格機関投資家私募を委託する方式(1(1)c‐2a 方式)が取られ、その後、徐々に、発行者が第三者に委託して ST の募集を多数の者に対し行う方式(1(1)c‐2d 方式)による取引が行われる?

Ⅸ 法改正と STO に関する各種の質問

金商法改正に関連して各種セミナーで例えば、以下のような質問を受けている。なお、今回の改正はあくまで業法の改正であり、ST の私法上の位置づけ、発行手続きその他関連規定に直ちに影響を及ぼす訳ではない。

1. セキュリティトークンの移転の方法と私法上の有効性

匿名組合契約その他ファンド上の地位をトークン化して、トークンの移転によって、匿名組合契約上の地位を自由に移転できるか。
日本の民法上、契約上の地位の移転には、地位の譲渡人及び譲受人の合意と契約の相手方の承諾が必要となる。この点は改正法で何らの変更はなく、トークンの移転によって権利が自動的に移転する、ということが可能かはあくまで今後の解釈による。なお、実務上は何法を準拠法にするか、私法上どのような権利を有するかについては Code is Law として明確には規定しない対応になるのでは、と思われる。

日本の民法上の第三者対抗要件
確定日付ある通知、又は確定日付ある承諾
これがなくトークンの譲渡のみで良い、としてリスクは発生しないか?

2. セキュリティトークンの会社法上の発行手続き

会社法上の ST の発行手続きはどうなるか。
ST は、株式ではなく社債でもなく9、これらに対する会社法の発行手続規制がそのまま当てはまる訳ではない。匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、株主総会の決議は必要ではなく、但し、重要な業務執行であり取締役会の決議(会社法第 362 条第 4 項柱書)を経ることが妥当とは思われるが、今後の解釈による。

3. セキュリティトークンの税務上の取扱い

匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、ファンドと同様の取扱いになるのでは、と思われるが、税務専門家との協議が必要である。

4. 既存株主への説明義務

会社法上、既存株主に対して特段、説明義務等が求められる訳ではない。但し、穏当な経営という観点からは既存のステークホルダーの権利を害さないトークン組成が必要であろう。

5. 上場会社の適時開示

上場会社が ST を発行する場合、金融商品取引所における適時開示についても留意が必要である。いかなる情報を開示すべきかについては、適宜、各金融商品取引所と調整する必要があるだろう。

6. ブロックチェーン

X社がY証券のアレンジでSTOまたは仮想通貨市場ZでSTOを行う場合、X社が発行する証券に相当するブロックチェーンの実態はX,Y,Zのどこに配置されるか?
例えば仮想通貨市場毎に何らかのマルチ・トークン・プラットフォームがあり,そこに追加できるプロトコルがあって(STO-20), そのプロトコルを守る形で自身のトークンを作って登録すると,あとは承認さえおりれば売買可能となるイメージか?

ブロックチェーンについては Ethereum ベースや Tezos ベースのものが多い。その場合、Ethereum や Tezos はどこにあるか、ということになりパブリックチェーンであって全世界にある、ということになるのではないか

Ⅹ アセットクラスごとの STO の可能性

1. 株式 STO

<考えられるスキーム>

現在の株式は株券不発行が原則
株主名簿での管理が必要であり、株主名簿への記載が対抗要件(会社法 130 条)

(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
(株式の譲渡の対抗要件)
第百三十条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする

ブロックチェーン上でトークンを移転した場合に自動的に株主名簿が書き換わるシステムを開発することが良いと思われる。移転があった場合、株主の氏名・住所などを通知してもらえるシステムの開発が必要

なお、会社法 125 条などを踏まえると株主名簿を電磁的記録で作成すること自体は可能

<業者規制>

現在:自己募集・自己私募については業規制なし。株式の募集・私募については一種金商業が必要

改正法:トークン化した場合、自己募集・自己私募については変更なし
募集・私募については原則変更ないが、販売対象に自主規制等で一定の規制が入る可能性

例えば

が想定されるが具体的要件は未定

2. 社債 STO

<考えられるスキーム>

社債について紙を発行した場合、紙の譲渡が権利の取得要件となる

トークン化する場合、社債券を不発行とし、かつ記名式社債として、トークンの譲渡に伴い社債名簿を書き換えする方法により対応か(株式 STO と同様のシステム開発)

(社債券を発行する場合の社債の譲渡)
第 687 条 社債券を発行する旨の定めがある社債の譲渡は、当該社債に係る社債券を交付しなければ、その効力を生じない。
(社債の譲渡の対抗要件)
第 688 条 社債の譲渡は、その社債を取得した者の氏名又は名称及び住所を社債原簿に記載し、又は記録しなければ、社債発行会社その他の第三者に対抗することができない。
2 当該社債について社債券を発行する旨の定めがある場合における前項の規定の適用については、同項中「社債発行会社その他の第三者」とあるのは、「社債発行会社」とする。
3 前二項の規定は、無記名社債については、適用しない。
(権利の推定等)
第 689 条 社債券の占有者は、当該社債券に係る社債についての権利を適法に有するものと推定する。
2 社債券の交付を受けた者は、当該社債券に係る社債についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

なお、会社法 681 条などを踏まえると社債原簿を電磁的記録で作成することは可能

<業者規制>

現在:社債の募集・私募については一種金商業が必要。自己募集・自己私募については業規制なし

改正法:トークン化した場合、自己募集・自己私募については原則変更ない。

募集・私募については原則変更ないが、販売対象に自主規制等で株式の販売と同様の規制が入る可能性があるよう

3. 考えられる不動産 STO の仕組み

不動産自身はトークン化できないため、SPC を設立し、当該 SPC が発行する有価証券をトークン化するという方法が通常と思われる

例えば下記のような方法が考えられる。(これまでの証券化では下記(1)~(3)が多かった印象)

(1) TMK

<基本>
<資産>
<税務>
<その他>

会計監査が必要

<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(2) GK-TK(信託受益権の利用)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(3) 信託受益権そのままのトークン化

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(4) GK-TK(現物不動産、不動産特定共同事業法)

<基本>
<資産>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(5) Operating Company + TK (現物不動産、不動産特定共同事業法)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(6) GK only (現物不動産)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(7) KK only (現物不動産)

上記(6)に関して、GK ではなく KK を使えば二種金商業の規制なく自己募集可能?KKにすることで論点増えるか?

まとめ:不動産 ST 化(要再検討)

    資産 販売の業法 販売先 税務(Tax Transparency) その他の論点
(1) TMK 現物不動産 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし(但し TMKは自己募集できるか?)
自主規制で限定される可能性 90%超配当や適格機関投資家引受など要件満たせば擬似的に Yes 資産流動化計画の作成
会計監査
優先出資の Token 化の方法
(2) GK-TK(信託受益権) 信託受益権 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし
同上 Yes TK トークン譲渡の対抗要件
(3) 信託受益権 通常は現物不動産 同上 同上 Yes 信託銀行が Token 化を認めるか
受益権トークンの対抗要件
(4) GK-TK(不動産特定共同事業法型) 現物不動産 第三者による販売:不特法の登録をした一種金商業?
自己販売:販売は委託必須で自己募集不可
適格機関投資家+3 億円以上の人のみ Yes TK トークン譲渡の対抗要件
(5) 不動産特定共同事業法の運営会社に TK 現物不動産 不動産特定共同事業法の会社が自身で販売 限定なし?(金商法無関係) Yes 国交省は不動産特定共同事業法下のSTについてまだ未検討のよう
倒産隔離ではない
暗号資産規制の適用可能性?
TK トークン譲渡の対抗要件
(6) GK の社員権 現物不動産と信託受益権? 第三者による販売:一種金商業
自己販売:二種金商業
自主規制で限定される可能性 no  
(7) KK の株主権 現物不動産と信託受益権? 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし?
自主規制で限定される可能性 no  

XI 海外の規制の概要

1. 米国法と Howey Test

米国では securities の概念が極めて広範であり、日本とは異なり明確には決まっていない。そのうちの investment contract については、通常、Howey Test という判例基準で決定される。

Howey Test
An investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person [1] invests his money in [2] a common enterprise and its led to [3] expect profits [4] solely from the efforts of the promoter or a third party, [excluded factors] its being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.

[1]資金の出資、[2]共同事業への出資、[3]収益を期待して、[4]当該収益は専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、[excluded factors] シェアが正式な証書や資産に対する名目的な権利等で表されているかは重要ではない

他国ではユーティリティートークンとして規制対象ではないトークンであっても、米国ではセキュリティーとして規制される場合が多い

2. その他の国の法律

他の殆どの国では、トークンが有価証券に該当するかで規制を考え、かつ有価証券の範囲は①出資、②運用、③配当があるか否かで考えているように思われる(シンガポール、香港、英国、EU など)。その上で、多くの国に適格機関投資家向け販売、少人数向け販売、少額販売などに Exemption があるようである

例えば、EU だと、EUR1M 以下の販売については、目論見書の提出義務が免除され、ただ各国はこの金額を EUR8M にまであげることができ、例えばドイツ(一定の条件あり)、フランス、イタリア、デンマーク、フィンランドなどで 8Mの上限、クロアチア、ベルギー、オーストリアで 5M 上限などとなっている
https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma31-62-
1193_prospectus_thresholds.pdf

以 上


昨年5月、GDPRの施行が開始された(EUデータ保護指令は置き換えられた)。それ以来、GDPRはEUのみならず、日本を含む各国において個人データ保護のための重要な判断基準と考えられている。EU内に所在する企業等の組織は、GDPRに日々精通してきているものの、EU域外の企業等組織では依然遵守状況についてはばらつきが見られる。GDPR施行から1年が経過した今、規制[1][2]の解釈を明確にしていきたい。

本稿では、GDPRにより保護される個人データとはどのようなものかということを踏まえて、GDPRがEU域外の組織にどの程度適用されるか概説する。第3項では、EU域内からEU域外への個人データの移管、特に日本への移管について、より詳しく見ていきたい。

1. 個人データとは?

GDPRは、個人データ(personal data)について、「識別され又は識別可能な自然人に関するあらゆる情報」と広く定義している。識別可能な自然人とは、データから直接的に、又は識別子(氏名、位置データ、オンライン識別子等)を参照することによって間接的に識別され得る自然人のことをいう。自然人がデータから識別できるかどうかを決定するためには、すべての合理的な手段(all reasonable means)を考慮しなければならない。特定の個人へ紐付けされ得ないデータは個人データではないため、GDPRの適用を受けない。[3]

個人データの例には以下のものがある。

2. GDPRはどのような行為に適用されるか?

GDPRは個人データの処理に適用される。処理の定義は非常に幅広く、個人データの収集、記録、編集、構造化、保存、修正、変更、検索、相談、使用、開示、配布、結合、制限、消去及び破棄が含まれる。[4]

処理の例としては、以下が挙げられる。

3. EU域内に実体が無い事業者もGDPRを遵守すべき場合

GDPRの目的は、個人データの処理がEUとの繋がりを有する場合に、高いレベルの保護を確保することである。したがって、GDPRは、当該個人データの処理がEU域内に拠点を持たない組織による場合であっても、下記のいずれかの要件が満たされる場合には適用される。

(a)EU域内に所在する拠点の活動として行われること。

(b)EU域内に所在する個人に対する商品及びサービスの提供、又はEU域内に所在する個人の行動のモニタリングに関連して行われること。

EU域外に拠点を置く組織は、EU域内における現状の配置・展開等が拠点とみなされるかどうか、もしみなされないとしても、個人データが拠点の活動に関連して処理されているかどうかを第一に検討すべきである。例えば、EU域内に販売代理店がいるというだけでは「EU域内に所在する拠点の活動」には該当しないが、以下で述べる要素を有する場合には(a)の要件を満たし、GDPRが適用されうる。

仮に(a)の要件に該当しない場合であっても、組織がEU域内に所在する個人を対象としている場合、(b)の要件に該当するとしてGDPRが適用されうる。

(1) EU域内に所在する拠点の活動として行われること

GDPRは、EU域内に所在する拠点の活動に関連する個人データの処理に適用される。当該処理がEU域内では行われない場合であっても、GDPRの適用対象となる。

① EU域内に所在する拠点

拠点とは、法律上の形式を問わず、安定的な仕組み(stable arrangements)を通じて、実効的かつ現実的な活動を行うものを意味する。したがって、EU非加盟国の組織がEU加盟国のいずれにも支店や子会社を有しないからといって、当該組織がEU域内拠点を有しないとはいえない。従業員が一人、あるいは代理人が一人いる場合には、個々の人員が一定の永続性をもって行動する限り、安定的な仕組みをもっていると認められる場合がある。

なお、EU域内からホームページを閲覧できるという事実だけでは、EU域外の組織がEU域内に拠点を有すると判断される可能性は低いだろう。

② 域内拠点の活動としての処理

GDPRは、域内拠点自体がデータ処理を行うことを要請していない。しかしながら、GDPRが適用されるには、当該域内拠点の活動が、EU域外組織のデータ処理活動と密接に関連していなければならない。そのような関連性が存在するかどうかは、事実と状況を考慮して、ケースバイケースで判断されることとなる。

個人データがEU域外組織のデータ処理活動と密接に関連して処理される場合、GDPRは、当該データの主体である個人がEU域内に所在するか否かにかかわらず適用される。GDPRは、「規則により与えられる保護は、その国籍又は居住地の如何を問わず、自然人の個人データの処理に関して自然人に適用されるべきである。」と明確に述べている。

 例:電子商取引プラットフォームを運営する日本企業が、EU域内でマーケティング・キャンペーンを開始するために欧州事務所を設立した。データ処理業務は、日本所在の事務所が専任で行っている。欧州事務所の活動は、プラットフォーム上で提供されるサービスをより収益性の高いものにすることを意図している。このような場合、欧州事務所の活動は日本の電子商取引プラットフォームによって実行される個人データの処理と密接に関連している。よって、個人データの処理は、GDPRの適用を受ける。

(2) EU域内の個人に対する物品又はサービスの提供及び域内の個人のモニタリング

急速な技術発展と国境を越えた個人情報の流れの増加を考慮して、EU議会はEU域内の個人を対象とする場合にはGDPRが適用される旨を決定した。当該決定により、個人データの処理が以下のいずれかに関連する場合、GDPRが適用されることとなった。

(a)EU域内の個人に対する商品又は役務の提供(支払が必要か否かを問わない。)

(b)EU域内で行われる、個人の行動のモニタリング

① EU域内の個人向け商品・サービスの提供

組織がEU域内の個人に商品や役務を提供しているか判断要素としては、現地語の使用、現地通貨の使用、欧州の顧客への言及、EUへの送料の表示などが挙げられる。商品や役務を提供しているとされる場合、組織がEU域内の個人の個人データを処理する際GDPRが適用される。

 例:日本の事業者が、ウェブサイト上で、自社のWeb開発サービスについて申込みを受け付けている。そのウェブサイトは日本語、英語、スペイン語及びドイツ語で公開されている。報酬の支払いは、日本円、米ドル又はユーロで行うことができる。当該サービスはEU域内の顧客を対象としたサービスであり、ウェブサイトを運営する日本企業のデータ処理はGDPRの適用を受ける。 

② EU域内における個人の行動のモニタリング

個人データの処理は、当該データがEU内の個人のモニタリングに関連する場合、GDPRの適用対象となる。典型的なケースは、クッキー及びトラッキングピクセルによるインターネット上のユーザの追跡、GPSデータの収集及び行動広告である。GDPRが適用されるには、モニタリング対象者はEU域内にいなければならない。EU域内のモニタリングを監視することを意図しておらず、EU内でのモニタリングが偶発的である場合、GDPRは適用されない。

 例:ヨーロッパの空港でストップオーバー中、日本人が日本のプレイストアでのみ提供されるアプリをダウンロードした。アプリは、各人のGPSデータを追跡し、個人情報を収集する。本アプリの開発会社は、EU域内の個人データを収集する意図はないため、GDPRは適用されない。 

4. 個人データの処理及びGDPR違反に対する制裁

GDPRの下では、個人データの処理は適法でなければならない。適法な場合は、大まかに言って、以下のいずれかの場合に限られる。

どのような場合にこれらに該当するかは次稿で検討することとする。

仮に個人データの処理がGDPRに違反していると判断されれば20,000,000ユーロ以下の制裁金、又は侵害者が事業体である場合には、前年度の全世界年間売上高の4%以下の制裁金が課せられることがある。British AirwaysがGDPRに違反し、2017年全世界年間売上高の1.5%である約250億円の記録的な制裁金を課されたほか、ホテルグループのMarriott Internationalに対して約135億円の制裁金が課された事例や、Googleに対して約62億円の制裁金が課された事例などもあり、これに加え、レピュテーションリスクも過小評価されるべきではない。また、個人が違反者に対して損害賠償を請求したり、競争事業者が不正競争として苦情を申し立てたりすることもある。

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図表:英国内における最大級の制裁金一覧(2012年から2019年)[5]

5. EUから日本や他のEU域外諸国にいつ個人データを移すことができるか?

GDPRの下では、個人データは、組織が適切なセーフガードを実施している場合又は適用の免除が適用される場合にのみ、適切なレベルのデータ保護を提供するEU域外諸国に移転することができる。

(1) EUから日本への個人データの移管はできるか?

欧州委員会は、2018年、日本が個人情報について十分な水準の保護(いわゆる十分性認定、adequate level of protection)行っていると認定した。この認定は、日EU経済連携協定(EPA)及び戦略的パートナーシップ協定(SPA)の一環として行われ、2019年1月23日に発効された。日本は現在、EUが十分性認定を行っている13か国の一つである。

以下は、欧州委員会が十分性認定を行っている国のリストである。米国については、Privacy Shield [6]が定めるルールに則って個人データを扱う場合に限り、EU域内にある個人データを米国内に移管することができる。

アンドラアルゼンチンカナダフェロー諸島
ガーンジーイスラエルマン島日本
ジャージー代官管轄区ニュージーランドスイスウルグアイ
米国   

上記の国への個人データの転送には、当該国の法令に従う限り、関係する個人によるなんらの許可を必要とせず、また、なんらのセーフガードも不要である。この点で、データが自由に移転可能なEU域内での個人データの転送に類似している。

我が国が欧州委員会から十分性認定がなされたことにより、(2)で述べるような煩雑な手続きがなされなくとも、EU域内から日本に個人データを移管することができるようになった。疑義を避けるために付言すると、当然のことながら、日本企業は個人データの移転に関する条項以外のGDPRの条項の適用を免れるものではない。これに加えて、日本の個人情報の保護に関する法律とGDPRの齟齬を補完するためのルールである「個人情報の保護に関する法律に係るEU域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」が個人情報保護委員会から2018年9月に公表されており、EU域内から日本に移転されたデータについては、当該ルールを遵守する必要がある。

(2) EUから上記以外の国への個人データの移管は可能か?

欧州委員会による十分性認定がない場合、データは、適切なセーフガードが実施され、又はデータが移管された個人が法的救済を受けることができる場合に限り、EU以外の国に移管することができる。

適切なセーフガードには監督機関からの個別の承認を得る場合のほか、次のものが含まれる。

移転が適切なセーフガードに基づかない場合には、個人データは、適切なセーフガードがないことにより考えられるリスクについて個人が通知を受けた後に、当該個人が移転に明示的に同意した場合に限り、EU域外諸国に移転することができる。

その他移転を行うことができる場合には、次の場合を含む。

6. まとめ

GDPRは、EU域外の組織にも多くの影響を及ぼしており、違反には厳しい罰則が科されうること、GDPRの施行から約1年の間にGDPR違反により多額の制裁金を課された事例が複数出てきていることからすると、日本企業としても、GDPRの適用を受けるか否かを改めて確認し、対応策を検討すべきであろう。

[1] 個人データの取扱いと関連する自然人の保護及び当該データの自由な移動に関する並びに指令95/46/ECを廃止する2016年4月27日の欧州議会及び理事会規則(EU)2016/679

[2] 個人データ取扱いに係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する1995年10月24日の欧州議会及び理事会の指令95/46/EC

[3] GDPR第4条第1項

[4] GDPR第4条(2)。

[5] BBC(2019年7月8日) 「British Airways faces record 183m fine for data breach」 <https://www.bbc.com/news/business-48905907> 2019年7月9日アクセス

[6] EUに所在するデータ主体である自然人の救済手段の強化のため、自然人からの申立てへの45日以内の企業の対応義務などが設けられている。

当事務所が準備したLibraの日本法上の分析についての資料です。仮想通貨交換業、銀行業、資金移動業、金商法など。日本語及び英語版。

ステーブル・コインの支持者によれば、ビットコインやその他の暗号通貨の主流派による採用を妨げる最大の障壁の一つは、その変動性(ボラティリティ)とされている。ステーブル・コインは、正にその障壁を取り除くことを約するもので、因ってクリプトの聖なる恵みと持ち上げられている。執筆時点で、ステーブル・コインは時価総額 40 億ドルに達している。従来型の金融システムに結び付かない分権化された取引所の台頭を踏まえれば、市場規模は増大する可能性が高い。世界的にはステーブル・コインが総じて成功しているにもかかわらず、日本の暗号通貨取引所では未だ大きなプロジェクトは上場されていない。

以下では、様々な種類のステーブル・コインについて説明し、各モデルの規制環境をより詳細に評価する。

Stable Coin Dominance
グラフ 1:ステーブル・コインのドミナンス1

1. ステーブル・コインの種類

「ステーブル・コイン」とは、あらかじめ決められた資産(最も一般的には米ドル)に対して安定している暗号資産を表す包括的な用語である。一般に、ステーブル・コインには、IOU モデル、オン・チェーン担保付モデル、シニョレッジ・モデルの 3 種類がある。2

本書に記した例は、例示目的にのみ使用している。

1.1. IOU モデル

IOU モデルは現在、ステーブル・コイン界を席巻している。これは、モデルの単純さと明確さに起因している可能性が高い。個々の具体的な内容を見ると、設計は大きく異なるが、すべての IOU モデルは、トークン保有者の利益の為、発行者に対し買戻請求が可能な証書を表すトークンを発行する中央主体が存在する点で共通している。トークンの安定性を保証するために、各トークンは、一般に、通貨、もしくは他の実世界資産によって完全に裏付けられている。但し一部のケースでは、発行者がトークンをあらかじめ決められた価格で買い戻すことが保証されているに留まる。

TrueUSD の場合、ユーザーが資金を第三者のエスクロー口座に送金すると、トークンが新たに鋳造され、米ドル償還されたときにトークンをバーンして消滅させる。このメカニズムにより、流通している TrueUSD とエスクロー勘定に保管されている米国ドルの間の均衡が確保される。Libra も同様のメカニズムを展開しており、各トークンは準備金によって裏付けされている。新しいトークンは、認可された再販業者が準備金に資金を注入した場合にのみ、鋳造される。逆に、需要が収縮するとトークンは破壊される。トークンは単一のフィアットカレンシーではなく、フィアットカレンシーのバスケットに裏打ちされているので、外国為替市場の動きの結果として価格が変動することになる。3

テザー(Tether)は、最も成功し、同時に最も物議も醸しているステーブル・コイン・プロジェクトの 1 つであるが、利用者の支払いに拘わらず新しいトークンを鋳造する。しかし、TrueUSD と同様に、プロジェクトはステーブル・コインUSDT と準備金として保有する USD を 1 対 1 比率に維持すると約している。4

日本では、2017 年に JPYZ として知られるプロジェクトが立ち上げられた。日本円との同価値性は、同額の日本円を銀行口座に保管し、各トークンをその上場する取引所で 1 円の価格で発注するという発行体の保証によって維持される。このプロジェクトは依然社会実験とされ、米ドル建ステーブル・コインの一部ほどには扱いは拡大されていない。

トークン:ステーブル・コイン

1.2. オン・チェーン担保付モデル

オン・チェーン担保付モデルでは、コインの安定性を確保・維持するために、複雑なスマート・コントラクト・システム、異なる種類のトークン、オラクルおよび外部アクター(外部の行為者)が必要となる。たとえば、MakerDAO はユーザーに暗号資産をスマート・コントラクト・システムに転送するよう求める。その後、スマート・コントラクトは、ステーブル・コイン(DAI)の形でローンを発行、ローンが返済されるまで、当該暗号資産を担保物としてスマート・コントラクトに有効に固定する。

DAI の目標価格は 1 米ドルに設定され、スマート・コントラクトに固定された担保物の価値決定(値洗い)に使用される。担保価値の変動を考慮し、MakerDAOはすべての貸付につき超過担保状態を維持するよう求めている。担保・債務比率が所定の閾値を下回った場合、自動的にポジションが解消され、担保物は市場で売却される。これにより、DAI は常に米ドルに対して安定的に推移することが保証される。

2 種類目のトークン – Maker Token (MKR) – は、スタビリティ・フィー・「安定」料支払いに使用される。この手数料は、担保物をスマート・コントラクトへの固定から解除するための負債に加えて支払うべきものである。MKR トークンはまた、トークン保有者に議決権(例えば、オラクルの任命およびスタビリティ・フィー料率の決定)を付与することで、メーカー・プラットフォームのガバナンスに中心的な役割を果たしている。

メイントークン:ステーブル・コイン、ハイブリッドガバナンス/ユーティリティトークン

1.3. シニョレッジ・Seigniorage モデル

シニョレッジ・モデルは貨幣数量説に基づいている。トークン価格を基準通貨や他の基準値との対比で安定させる為、トークンの供給は需給に応じて継続的に調整される。インフレ局面では、価格を元の水準に戻すべく、トークン供給は自動的に縮小される。デフレ局面では逆に、トークン供給は増大する。

Basis の場合、ステーブル・コイン(ベーシス)は米ドルにペッグ(連動)された。ペッグを維持するため、ベーシスの供給は追加のトークン(シェア・トークンや債券トークン)を用いて調整された。債券トークンは、供給を縮小しなければならないとき、1 ベーシス未満の価格で競売にかけられた。Basis の供給の拡大が必要と判断されると、債券トークンの保有者は、「先入先出」順で、債券トークン毎に 1 ベーシスを受け取った。債券トークンがトークン供給を拡大するのに十分ではなかった場合、株式トークンの保有者は、システム上有する株式トークンの総数に応じ、新しい Basis の発行に参加した。5

メイントークン:ステーブル・コイン、ボンド・トークン、シェア・トークン

2. 法的分類と結果

以下では、各モデルについてより詳細に分析する。モデルが複数のトークンに該当している場合、典型例以外のトークンについても分析・考察するものとする。

2.1. IOU モデル

IOU モデルでは、単一のトークン(ステーブル・コイン)が発行される。トークンの設計と基礎となるビジネス・モデルによっては、トークンは前払式決済手段、為替、仮想通貨のいずれかに分類されるかもしれない。

2.1.1. 前払式支払手段

資金決済法(「PSA」)は、前払式決済手段を、とりわけ、対価と引き換えに電磁的方法により記録される記号等として定義している。記号等が、発行者から、或いは発行者によって指定された第三者から、商品およびサービスを購入するために使用されるかによって、前払式支払手段は、自家型前払式支払手段または第三者型支払手段として分類される。

多くの場合、ステーブル・コインは、あらかじめ定められた生態系(エコシステム)の中で財やサービスを購入するために発行されるものではないため、前払式決済手段には該当しない。代わりに、発行者との契約関係にかかわらず、誰でも支払いとして受領できる。単に、ステーブル・コインが発行者の顧客認証(KYC)手続きをクリアした利用者にのみ払い戻しされるという事実だけでは、結果に違いはない。

また、IOU モデルで発行されたステーブル・コインは、一般的にフィアットカレンシーに償還することができるという事実は、前払式決済手段としての分類に反するものである。資金決済法によれば、「前払式支払手段の発行者は、資金決済法に規定されている場合を除き、返金してはならない」とされている。典型的なケースは、少額の償還であり、利用者がやむを得ない事由(例えば、発行者の事業の中止)のために前払式支払手段を継続して使用し得ない場合である。

2.1.2. マネーオーダー(小為替)

ステーブル・コインは、フィアットカレンシーと引き換えに発行され、トークン保有者への当該フィアットカレンシーによる払い戻しが可能である場合には、マネーオーダーに分類される可能性が高い。PSA(資金決済法)や銀行法には法律上の定義はないが、マネーオーダーは、一定額の金銭の支払命令として一般的に理解されている。マネーオーダーに記載された金額は、通常、前払いで支払われなければならず、マネーオーダーの受取人として記載された者によってのみ現金化することができる。ただし、IOU モデルの下で発行されるトークンには、受取人の記載は含まれない。代わりに、それらは、それぞれのトークンに対応する秘密鍵を所有する者によって償還されることがある。このようにステーブル・コインは、安全性の向上と流通性の向上により、白紙マネーオーダーに匹敵する。しかしながら、基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更しても、異なる結果につながる可能性がある(下記の項目 2.1.3 を参照)。

マネーオーダーに分類されるトークン自体は規制されていない。しかしながら、トークンの販売、移転または償還に関与する事業体については、法律は、これらの事業体が銀行免許を保有すること、または PSA の下で移転サービス提供者として登録されることを要求することができる。

2.1.3. 仮想通貨

IOU モデルで発行されるステーブル・コインも、仮想通貨となる場合がある。PSA は、第一種と第二種の仮想通貨を区別している。

第一種仮想通貨とは、下記を行うことができる財産的価値をいう。


i. 不特定の者への支払、
ii. 不特定の者からの買取り・売却、
iii. 電磁的方法による移動

第二種仮想通貨とは、不特定の者との間で第一種仮想通貨と相互に交換することができ、かつ、電磁的方法による資金移動等することができるものをいう。

通貨及び通貨建て資産は、第一種及び第二種の仮想通貨から明確に除外されている。

IOU モデルで発行されるステーブル・コインは、通貨建て資産に分類される可能性が高いため、第一種と第二種の仮想通貨に分類することはできない。

しかし、基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更しても、まったく異なる結果をもたらすかもしれない。これは、JPYZ から見ることができる。他の IOU モデルとは異なり、JPYZ トークンは発行体から払い戻されるのではなく、日本円1 円を JPYZ1 とする保証された価格で買い戻される。これにより、金融庁(FSA)は、日本円を PSA 上の仮想通貨として分類するようになった。

仮想通貨を構成するステーブル・コインを発行する主体は、日本における仮想通貨交換業として登録するか、登録済仮想通貨交換業者を通じて販売しなければならない。

2.2. オン・チェーン担保付モデル

オン・チェーン担保付モデルは、典型的には複数のトークンを含む。MakerDAOの場合、これにはステーブル・コインとハイブリッド・ユーティリティー・ガバナンストークンが含まれる。

オン・チェーン担保モデルで発行されるステーブル・コインは、少なくとも第二種 I の仮想通貨に分類される可能性が高い。これは、不特定の者との間で、第一種仮想通貨と相互に交換することができるためである。米ドルやその他のフィアットカレンシーに対するソフト・ペッグが存在するという事実だけでは、ステーブル・コインは通貨建て資産とはならない。ペッグは安定メカニズムとしてのみ機能し、米ドルまたは他のフィアットカレンシーでの払い戻しを約束するものではない。

第一種仮想通貨と相互に交換可能なガバナンス・トークンは、一般的には第二種仮想通貨と考えられている。

2.3. シニョレッジ・Seigniorage モデル

シニョレッジ・モデルで発行されるステーブル・コインは、第二種仮想通貨に分類される可能性が高い。ただし、上記 2.2 の説明を参考されたい。

金融商品取引法(以下「金商法」という。)においては、ステーブル・コイン供給量の調整に必要な社債及び株式のトークンは有価証券に分類されるかもしれない。そのような有価証券のマーケティングは、一般に、金商法上、金融商品取引業の登録を必要とする。

当該債券と株式のトークンを第一種仮想通貨と相互に交換することができる場合には、トークンはさらに第二種仮想通貨とみなされる。

現行の規制では、有価証券を登録された仮想通貨交換所の 1 つに上場することはできない。

3. 結論

本稿は、日本における様々なステーブル・コイン・モデルに対する現在の規制環境の高次の概観を紹介するに留まる。トークン・デザインや基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更するだけで、全く異なる帰結に至る可能性がある。したがって、ステーブル・コインの発行者は、彼らのモデルを慎重に検討すること、そして対象とするステーブル・コインがすでに市場に出ている場合、当該ステーブル・コインを日本で販売し、最終的に上場することが可能か、慎重に評価することが望ましい。

免責条項
本稿に記したステーブル・コインは、例示目的にのみ使用している。本稿形式に鑑み、トークン・デザインやその基礎となるビジネス・モデルの全詳細が考察されていないため、評価結果が規制当局の結論や各プロジェクトのために作成された法律意見書から乖離する可能性がある。本稿の解説は、決して、本稿に言及の有るステーブル・コインについての法的見解と解されるべきものではない。
本稿は、別途、当職らが記載した”STABLE COINS UNDER JAPANESE LAW”と題する英文の論稿を和訳したものである。

以 上