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ステーキングに関して検討すべき法的論点は、トークンの概要、行おうとするビジネスにより異なりうる。

本稿では、下記Ⅰで結論の纏め、下記Ⅱで主要な POS トークンの概要を紹介、Ⅲで法的論点を整理し、Ⅳで税務について参考までに記載する。

Ⅰ 法的整理の結論の纏め

1.自己保有 POS コインで自分でステーキングすること法律上の問題はない

2.業者が第三者(ユーザー)のためにステーキングをすること
2-1.業者がユーザーからデリゲートを受けるのみで秘密鍵を預からない場合
金融規制はない

2-2.業者が秘密鍵を預かる場合
法律構成が、預託、出資、貸付なのかで規制が異なる。
① 預託:カストディーとして暗号資産交換業
② 出資:ファンド規制(二種金融商品取引業)
③ 貸付:金融規制なし

カストディー、ファンド、貸付のいずれかは、契約上の構成と実質を踏まえて検討。
例えば下記のようになると思われる。

(1) 業者からユーザーへのリワードの支払額が予め決まっており、スラッシングリスクをユーザーが負担しない場合 → カストディー
(2) 業者からユーザーへのリワード支払額が業者が獲得するステーキング報酬と連動、スラッシングリスクの一部をユーザーが負担 → ファンド
(3) 暗号資産の貸付契約として契約し、実態としても要求払い等でなく、貸付と見られる場合 → 規制なし

3.既に存在する暗号資産交換業者が預託コインを用いてステーキング業務を行う場合
(1) カストディー業務として行う場合、既に登録があるので可能
(2) ファンドの場合、別途、二種金融商品取引業の登録が必要
(3) なお、カストディーの場合、コールドウォレット規制などに留意する必要性

Ⅱ ステーキングの仕組み・分類

1. Proof of Stake とは

Proof of Stake(POS、ステーキング)とは、コインについて一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるもの

Proof of Work(POW)と異なりコンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができるのがメリットとされる

2. 各コインとステーキング

(1) TEZOS

ステーキング相当の行為を Tezos ではベイキング(=パンを焼く)と呼ぶ

ベイキング

デリゲート

  https://stir.network/tezos/及び Tezos Japan からの情報参照

(2) ETH2.0

  https://lab.stir.network/2019/04/22/ethereum2-serenity-overview-and-roadmap/ 参照

(3) COSMOS

  https://coinpost.jp/?post_type=column&p=113117 参照

(4) LISK

  Lisk Japan による Coinpost への寄稿 https://coinpost.jp/?p=126507
  Coinchek 社発表 https://corporate.coincheck.com/2020/01/09/85.html 参照

3. 法規制検討のための分類

ステーキングの法規制といっても、各コインのステーキングの仕組みや Validator の仕組みなどによって考えられる問題点は異なる。例えば以下のような事実を整理する必要

① 秘密鍵をユーザー自身が管理しているか(秘密鍵を渡すことなくステーキングをデリゲートすることができるか)/業者が管理をしているか
② リワード(報酬)を業者が受け取った後にユーザーに分配されるか/ユーザーに直接分配されるか
③ リワードを業者が受け取った後に分配される場合、リワードの分配は固定分配か収益連動か
④ Slashing などの罰金が有る場合の負担は業者かユーザーか?

Ⅲ 法的論点の検討

1. ユーザーの自己保有 POS コインの自身によるステーキング

ユーザー自身が保有している POS コインにつき、自分がステーキングしてリワードを得ること
→ 問題は思いつかない

2. 他人の POS コインを業者がステーキングする場合

業者が他人の POS コインを使って業務としてステーキングを行う場合、暗号資産交換業(カストディー業)、ファンド業のいずれか、又は両方が適用されないか検討する必要がある

暗号資産交換業(資金決済法 2 条 5 項、法改正後)

1 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
2 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
3 その行う前 2 号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理を行うこと
4 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)

暗号資産交換業ガイドライン I-1-2-2(改正後)

③ 法第 2 条第 7 項第 4 号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者の関与なく、単独又は委託先と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

ファンド(金商法 2 条 2 項5号、法改正後)

① 組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利のうち、
② 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(改正法施行後は暗号資産も含まれる)
③ を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利で
④ 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがない場合
ハ (以下省略)

(1) 秘密鍵を預からずデリゲートを受けるのみ/報酬は直接ユーザーに払われる

秘密鍵の管理をしておらず、カストディー業に該当しない
出資をしているとは考えにくく、ファンドに該当しない
→ 法的な整理としては「無償で」事務の委任を受けているという考え方?
→ 別途フィーをとると有償の委任

(2) 秘密鍵を預からずデリゲートを受けるのみ/報酬は事業者に入り一部がユーザーに払われる

秘密鍵の管理をしておらず、カストディーに該当しない
出資をしているとは考えにくく、ファンドに該当しない
→ 法的な整理としては「有償で」事務の委任を受けているという考え方?

(3) 秘密鍵を預かる/報酬はユーザーに直接支払われる

そういうビジネスモデルはおそらく存在しない
仮にそういうビジネスがあれば法的にはカストディー業。ファンドではない。

(4) 秘密鍵を預かる/報酬は事業者に入りうち一部がユーザーに支払われる

原則として、カストディー業かファンド業のいずれかに該当すると考えざるを得ないのでは(但し、貸付として構成可能な可能性について後述)

カストディー = 他人のために預かる。考え方としては寄託(消費寄託含む)に類似する?以下、単に「預託」と記述

ファンド = 資金を拠出してもらってそれを運用して、収益を分配。以下、単に「出資」と記載

カストディーかファンドかの差異は典型的な場合には判りやすいが、非典型的な場合には悩ましい場合もあり、(4-A)以下で検討する。

なお、カストディーとファンドの両方には該当しないと言うことで良いかも理論的には問題となるが、銀行預金でもありファンドでもある、という事例が存在しないと思われることとの対比からは預かりであり出資でもある、ということはないという整理で良いのでは、と思われる。

(4A) 出資か預託か – 「収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる」の要件

一般的には、収益の分配が有る場合には出資であり、収益の分配ではない場合には預託である。

下記①は典型的な預託、下記②は典型的な出資と思われるが、下記③や④のような中間的な形態の場合には悩ましい

① 移転を受けた暗号資産の 100%の返還義務+非収益連動利率(例えば固定利息やLibor など一定の指数に連動の利率)のリワード → 預託
② POS で損失が発生した場合の損失はユーザーが負担+収益に応じたリワード →通常の出資
③ 100%の返還義務+収益連動のリワード → 収益連動の利息付の預託?出資であるが Slashing については Validator のミスであるとして補填している出資契約?収益連動社債との対比からすると前者?金銭についてであるが出資法では元本補填特約付きの出資を禁止していることとの比較すると後者?
④ POS で損失が発生した場合の負担はユーザー+非収益連動利率のリワード → 出資?預託?リワードに上限が付されている出資と考えることのが妥当?

まとめ

  非収益連動利率の報酬 収益連動の報酬
元本保証 ①典型的な預託(カストディ) ③収益連動の利息付の預託?元本補填特約付き出資?
元本保証なし
(Slashing損失をユーザーが負担)
④報酬上限付き出資? ②典型的な出資(ファンド)

(4B) 出資か預託か – 「充てて」の論点

一般的には、ファンドは出資を受けた金銭を運用する。例えば金銭で有価証券を売買して利益を出す。

法改正後は金銭ではなく、「出資を受けた暗号資産を充てて」の場合にもファンド規制に該当する

ステーキングの場合、受け取った暗号資産を通常の意味での運用には出さずに、しかしながら収益が得られる場合がある。

例えば①第三者から秘密鍵の管理の委託を受ける、②当該暗号資産はコールドウォレットでずっと保管し、但し、Voting によるデリゲートは行う、③デリゲートで得た収益を収益連動でユーザーに分配する、というような場合である。

この場合、論点としては「出資を受けた金銭を充てて」の「充てて」の要件が問題となりうる。

「充てて」に該当しない考え方

「充てて」に該当する考え方

現時点の当職の考え

(4C) 出資でも預託でもない形態 – 貸しコインについて

秘密鍵の管理を任されつつ預託でも出資でもないという方法はないか
→ 法的構成を変えて、暗号資産の貸付であるというスキームにすれば、出資でも預託でもないと言えそう。ただ、貸付か預託かについては差が難しい(貸金か預金かは差が難しい)。
→ 例えば預かりであれば預託者の側から返せ、と言えばすぐに返してもらえるのが原則だが(要求払い、但し定期預金のような例外)、貸付の場合には要求払いではなく、借り手に期限の利益があることが通常
→ 脱法的な場合は預託と見られる。下記ガンドライン参照

暗号資産交換業ガイドライン I-1-2-2 注(改正後)

(注)内閣府令第 23 条第1項第 8 号に規定する暗号資産の借入れは、法第 2 条第 7 項第 4 号に規定する暗号資産の管理には該当しないが、利用者がその請求によっていつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど、暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。

→ なお、貸金業法上、規制対象は原則として「金銭」の貸付とされている(貸金業法第2 条)。暗号資産の貸付は金銭の貸付ではなく、脱法的な場合を除き、貸金業法の適用はない。金銭の消費貸借に適用される利息制限法も暗号資産貸付には適用はない。但し暴利行為など民法の一般的条項は適用され得る。

3. 暗号資産交換業者がユーザーから預託を受けたコインでステーキングを行う場合

(1) カストディー業

暗号資産交換業との関係でユーザーから預託を受けているコインに関し、上記 2 で「預託」と見られるような形で暗号資産交換業者がステーキングに参加する場合
→ 既に暗号資産交換業者登録を得ており、カストディー業とされてもそれ自体は問題ない。

(2) ファンド業

他方、ファンドと見られた場合には追加のファンド規制(兼業)。カストディーなのかファンドなのかの区別がどこにあるのかが重要
→ 上記 2 で検討したように、典型的なファンドは判りやすいが中間的な形態にする場合には悩ましい

(3) 暗号資産交換業者(カストディー業者)がステーキングを行う場合の論点

① 交換業者自身が預託コインを使ってステーキングをする場合、当該コインをコールドウォレットに保管したままステーキングできるか?
→ 技術的な問題点。仮にできないとすると交換業者は同額のコインを自己資産から準備する必要あり。
→ Tezos については可能なよう(米 Coinbase 社はコールドウォレット管理と発表3)。例えば、自己保有の Tezos を 1、預託コインを 9 準備し、前者はホットウォレットに入れて Validator Node となる、後者をコールドウォレットに入れ、Validator Node にデリゲート等の仕組みが考えられる。
→ ETH2.0 など、ステーキングにハッキングリスクがあると書かれているコインもあるよう。コールドウォレット保管ではない?そうすると交換業者としてはステーキング困難か?
→ 預託であってもユーザーから同意を得てステーキングしたものはコールドウォレット管理から外すことが法令上、許されるのか(困難そうか?)
② 交換業者が預託コインの秘密鍵を他の第三者に渡して第三者にステーキングして貰うことはできるか
→ 預託資産の再預託となり様々な問題が生じそう
③ 秘密鍵を交換業者自身が保管したまま、第三者にデリゲートしてステーキングして貰うことは問題ないか
→ 業務の外部委託?ただ、暗号資産交換業の委託ではないのではないか
→ これでハッキングの可能性が増加しないかなど監督官庁への説明が必要に?ただ通常はハッキングリスクは増加しないのでは
④ ユーザーに何らかの損失を負担させること
→ ファンドとなる可能性
→ ファンドでなくても、このようにユーザーに損失負担させることにつき監督官庁に何らかの説明が必要?
⑤ 交換業者が自分の保有のコインでステーキングすること
→ 単なる運用であり他業と考える必要はないのでは

Ⅳ ステーキングと税務 (参考)

暗号資産取引による課税は利益(又は損失)が発生するタイミングが重要

基本的な発想として、ステーキングによる報酬を受け取った時点の時価で収入があったと考えて収益認識、更に売却等で利益又は損失が出た場合に収益認識とすることが通常か

具体的ケース
① 自分でステーキングして報酬を受け取り
→ 受け取った時点での時価での収入
② Validator にデリゲートして Validator から報酬を受け取り
→ Validator から受け取った時点での時価での収入
③ 暗号資産交換業者にステーキングを委託
→ 受け取った時点での時価での収入。なお、取引所から暗号資産預託口座に報酬が計算上分配された時点でユーザーが受け取ったとして考える
④ ファンド
→ パススルー課税のファンドの場合、ファンドが受け取った時点で各個人にも収入があったとして計算か

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議を記載したものにすぎません。また、当職の現状の考えに過ぎず、当職の考えにも変更がありえます。

本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上

Ⅰ STO とは何か

1. STO の定義

Security Token(以下「ST」という) と呼ばれるトークン(ブロックチェーン上での権利)の発行による資金調達

ただし、何が Security Token に該当するかは国や論者により定義が異なる

例えば Inwara(ICO、STO についてのリサーチ会社)の Report の定義

セキュリティートークン = 実社会の金融資産を表彰する暗号トークン
ユーティリティートークン = 発行体のサービスや製品へのアクセスを付与する。発行会社に対する権限を表す場合

ここでは主として、金銭・仮想通貨・その他財産により、配当又は 100%以上の元本償還が想定されているトークンを Security Token とする
→ 但し、例えば米国では Security Token の範囲が広い等、定義が変わる

日本では株式や社債の ST、ファンドの ST など色々とありうるが、金商法改正との関係ではファンドの ST をまずは考え、適宜、株式や社債の ST についても触れる

2. 国内情勢、海外情勢

海外の状況

海外でもともと大ブームであった ICO が激減
それに対して STO が増加したことにより着目
数自体はまだまだ少ないが、一件あたり金額が増加
<下記の図参照>

仮想通貨に対する規制が全般的に強化されたことにより、規制に合致した STO の発行ニーズが増加?規制コストを鑑みて大規模化?

国内の状況

流通可能な STO の発行事例は知る限り存在しない(後記の規制の問題)
金商法の改正に伴い本年の春から?

ポイント: 規制コストがかかるが STO を選択するメリットがあるのか?

上記資料は、InWara’s Half Yearly Report 2019 H1 から抜粋

Ⅱ 現行法下での STO

1. 仮想通貨法

現行法上、STO は ICO の一種
日本での販売には「仮想通貨交換業の登録」+「コインの届出」が必要

(仮想通貨交換業の登録)
発行体自らが登録、又は、登録業者を通じて販売
登録はハードル高く、自らの登録は現状、現実的ではない
登録業者による販売も現時点では現実的ではない

(コインの届出)
新規コインを取り扱うには FSA への届出と審査
コインチェック事件後、届出審査の厳格化し、現状、新規コインは 2019 年 11 月に Coincheck
が上場させたステラのみ

2017 年 12 月以降、日本では合法な ICO(STO 含む)は発行されていない

2. 金融商品取引法(ファンド規制)、仮想通貨による出資

配当等(配当、収益の分配)がないコイン

金商法の「有価証券」や「デリバティブ」の規定は限定列挙
少なくとも「配当等」がないコインは、現在の金商法の定義上は、金商法規制に服する可能性は低い

配当等が行なわれるコイン

ファンド(集団投資スキーム)として金商法規制の可能性
①他人から金銭を集め、②事業に投資し、③投資家に対して配当等を行う
Bitcoin や Ether で出資を受ける場合、法律の文言上はファンド規制に服さない。脱法的な場合、規制される

Ⅲ STO と金商法改正と概論

1. 法改正概論

スケジュール

① 2019 年 5 月 31 日に仮想通貨法と金商法の改正法が国会で可決
② 2020 年 1 月 14 日に金融庁が仮想通貨法・金商法の下位規定である政省令をドラフトし、パブリックコメント手続中(2020 年 2 月 13 日コメント〆切り)

金融庁サイト:
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200114/20200114.html?fbclid=IwAR00ob7ly
pNqrWZY_OZAg5g6rw-w-R9LbvC8Ih9g3iWW69c7B5ZTXim5vao

今後の想定される予定
① パブコメ回答が 3 月~4 月頃に出る?
② 改正法は公布後 1 年以内に施行。2020 年 5 月 1 日施行?
③ 暗号資産カストディ規制、デリバティブ商品に関する規制などは、法施行後 6 ヶ月間の移行期間

概要

法令の明確化という点では市場にメリット。ただ、政省令案を見る限り、かなり厳格な規制がなされるようであり、どこまでニーズが出るか

2. 金商法の発想と改正法

一項有価証券
株、社債、投資信託など流動性の高い証券
第一種金商業者(証券会社)が取り扱い
発行開示義務・継続開示義務

二項有価証券
ファンド、合同会社の社員権、通常の信託受益権など流動性の低い権利
二種金商業者(ファンド業者)が取り扱い
発行開示・継続開示義務などが原則ない

もともと二項有価証券であったものを ST 化した場合に一項有価証券としての規制を及ぼすのが改正法の基本の発想(但し、自主募集の場合のファンド規制はそのまま適用)

なお、改正法は、株式や社債の ST 化を禁止するものではない

株式・社債 = ST 化してもしなくても一項有価証券。ただ ST 化した場合には場合により追加規制?
ファンド = もとは二項有価証券。ST 化した場合は一項有価証券として厳格な規制

3. STO と民商法

金商法はあくまで規制法。どのような仕組みで ST が発行できるかは民商法の議論
株式の ST 化は可能? → 株主名簿の記録なく株式移転する方法?
不動産の ST 化は? → 不動産登記なく所有権移転可能?
ファンドの ST 化 → 確定日付なく債権譲渡できるか

上記は金商法では記載していない

Ⅳ 改正金商法上の ST の定義

1. Security Token(電子記録移転権利)の定義

<電子記録移転権利の定義>

金商法 2 条 3 項
下記の①~③を満たし、④を除く権利
① 金商法第 2 条第 2 項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権など)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の者に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合を除く

電子記録移転権利に該当する場合には「第一項有価証券」となる
他方、非該当の場合には従前どおり「第二項有価証券」となる

なお、ブロックチェーンの利用方法によっては、そもそも上記②「財産的価値に表示される場合」に該当しないという考えもありうる
→ 例えば、単に、ファンドの権利者が誰であるかをブロックチェーン上で管理するが、権利者は秘密鍵を管理せず、ブロックチェーンの書換えはファンド運営者が行う場合、上記②の「表示される」に該当しないのでは、と思われる。(パブコメで聞く予定)

上記④の除外規定について、電子記録移転権利の要素を有するが、保有者が一定の投資家((ア)適格機関投資家、(イ)資本金 5,000 万円以上の法人、(ウ)証券口座開設1 年以上+取引の状況その他の事情から合理的に判断して、その保有する有価証券や暗号資産の合計額が 1 億円以上であると見込まれる個人等)に制限されており、かつ、権利を表示する財産的価値の譲渡に発行者の承諾が必要な技術的措置が取られている場合とされる

定義府令
9 条の 2
法第 2 条第 3 項に規定する内閣府令で定める場合は、次に掲げる要件の全てに該当する場合とする。
一 当該財産的価値を次のいずれかに該当する者以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
イ 適格機関投資家
ロ 令第 17 条の 12 第 1 項第 1 号から第 11 号まで又は第 13 号に掲げる者(=資本金 5000 万円以上の法人、外国法人など)
ニ 金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 3 項に定める要件に該当する個人(=有価証券や暗号資産を 1 億円以上保有している個人)
ホ 金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 4 項に定める者
二 当該財産的価値の移転は、その都度、当該権利を有する者からの申出及び当該権利の発行者の承諾がなければ、することができないようにする技術的措置がとられていること。
2 前項の規定により同項第 1 号ハからホまでに規定する金融商品取引業等に関する内閣府令第 233 条の 2 第 2 項から第 4 項までの規定を適用する場合には、同条第二項中「第 62 条第2 号イからトまでに掲げるもの」とあるのは、「第 62 条第 2 号イからトまでに掲げるもの及び暗号資産」とする。

2. 「暗号資産」の定義との関係

資金決済法改正案の暗号資産の定義から「電子記録移転権利」は除外されている。

改正資金決済法第 2 条
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和23 年法律第 25 号)第 2 条第 3 項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
6 この法律において「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。

上記 1(1)④の要件により電子記録移転権利に該当しないものは、理論上、金商法の規制に加えて資金決済法の規制が重畳的に適用されうる。他方、上記 1(1)④の要件に該当する場合には、流通性がなく、資金決済法改正案上の暗号資産の定義にもそもそも該当しない、という考え方もありうる。暗号資産の定義の解釈次第と思われる(パブコメで聞く予定)

もともとが一項有価証券である株券や社債をトークン化した場合、暗号資産の定義からは明示には除外されない。どう考えるべきか不明確(パブコメで聞く予定)。
→ 例えば、株式や社債をトークン化した場合、定義上、暗号資産に該当する可能性あり。「通貨建資産」にあたる場合は暗号資産の定義から除外されることから通貨建て資産に該当すれば問題ないものの、無額面株式が通貨建資産に該当するのか
→ なお、更に考えると「電子情報処理組織を用いて移転することができる」と暗号資産の定義にあるが、ほふり等を利用していても電子情報処理組織を用いて移転しているといえる、トークン化しているか否かは問題ではない、という議論もあることはある

Ⅴ 電子記録移転権利の開示規制

1. 第一項有価証券の募集に係る開示規制

現行の金商法上、第一項有価証券の募集に該当する場合、原則、発行開示(例:有価証券届出書1、目論見書等)、継続開示(例:半期報告書、臨時報告書等)等の公衆縦覧型の開示規制が課せられる

電子記録移転権利たる ST の募集に該当する場合に、如何なる情報を開示するかについては、改正内閣府令(特定有価証券等開示府令)に規定されている。
→ 開示書類の作成には、かなりの手間を要するように思われる

他方、第一項有価証券の私募に該当する場合には、公衆縦覧型の開示規制は課せられていない

2. 第一項有価証券の募集・私募の概念

募集(公募2)

新たに発行される有価証券の取得の申し込みの勧誘のうち
(i) 多数(50 名以上3)の者を相手方とする場合
(ii) 私募に該当しない場合

私募

(i) 適格機関投資家のみを相手方とする場合(適格機関投資家私募)
(ii) 特定投資家のみを相手方とする場合(特定投資家私募)
(iii) 少人数(50 名未満)の者を相手方とする場合(少人数私募)

3. 第一項有価証券の「私募」に該当するための要件(転売制限要件)

(1) 適格機関投資家私募

「取得勧誘において適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合」という要件(転売制限要件、金商法第 2 条第 3 項第 2 号イ)を満たす必要がある。転売制限要件は、本来は有価証券の種類によって異なる

ST の場合、適格機関投資家にのみ販売されるよう技術的な制限を課すことが要求される

令 1 条の 7 の 4(株券)
当該株券等に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価値を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

新株引受権、その他の証券
定義府令 13 条の 4(売付け勧誘等における適格機関投資家以外への譲渡に関する制限等)
1 令第 1 条の 7 の 4 第 2 号ニに規定する内閣府令で定める方式は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める要件を満たすものとする。
一当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価値を)適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

2 令第 1 条の 7 の 4 第 3 号ハに規定する内閣府令で定める要件は、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
一 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める要件に該当すること。
イ当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 当該財産的価を適格機関投資家以外の者に移転する技術的措置がとられていること。

適格機関投資家私募の転売制限に違反して適格機関投資家以外の者に転売される場合には、「発行者」に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 2項本文参照)4

(2) 特定投資家私募

特定投資家私募の要件についても転売制限要件が存在し5、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ロ、金商法施行令第 1 条の 5 の 2 第 3 号、定義府令第 12 条)

詳細省略するが、特定投資家以外への譲渡を制限する技術的制限が課されていることが要件

特定投資家私募の転売制限に違反して特定投資家等以外の者に転売される場合には、発行者に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 3 項本文参照)6

(3) 少人数私募

少人数私募についても転売制限要件が存在し、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ハ)

株券や新株予約権の ST については特に今回追加された制限はない

他方、その他の有価証券については①一括譲渡以外の技術的禁止、又は②有価証券の枚数又は単位の総数が 50 未満である場合において、単位未満の当該権利を移転することができない制限の技術的措置が必要となる(金商法施行令第 1 条の 7第 2号ハ、定義府令第 13 条第 3 項等)

改正定義府令 13 条
3 令第一条の七第二号ハ(3)に規定する内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める要件に該当すること。
イ 当該有価証券に係る権利が、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合 次に掲げる要件のいずれかに該当すること。
(1) 当該権利を取得し、又は買い付けた者がその取得又は買付けに係る権利を表示する財産的価値を一括して移転する場合以外に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
(2) 当該有価証券の枚数又は単位・・・の総数が五十未満である場合において、単位に満たない当該権利を表示する財産的価値を移転することができないようにする技術的措置がとられていること。

少人数私募の転売制限に違反して多数の者に転売された場合であっても、有価証券届出書の提出義務は課されない(金商法第 4 条第 2 項、第 3 項参照)7
→ 株券の ST の場合、少人数私募で発行しても、その後に拡散してしまうことは考えられる?
→ 社債型やファンド型の ST の場合、技術的に譲渡制限が課されているため、上記のような場合は基本的には生じないように思われる

(4) 実務上の検討事項・疑問点等

日本では適格機関投資家私募として販売、海外では海外における適格機関投資家に限定して販売することができるか → 技術的に対応すれば可能では?

日本で少人数私募として販売し、海外では人数に含めず販売することはできるか
→ 還流制限を技術的に導入することが可能か。

日本で適格機関投資家私募・少人数私募として販売し、その後に海外の取引所では完全に自由に転売できるとした場合、どうなるか(海外の取引所で日本居住者が売買を行うと、発行体が開示違反になるか)
→ 当初の私募の際に通常は技術的制限が必要なので、日本の居住者については適格機関投資家や少人数以外には転売されないような技術的措置が取られることになる?

Ⅵ 電子記録移転権利の取扱いに関する業規制

1. 電子記録移転権利の募集の取扱

業として電子記録移転権利の売買、売買の媒介等、募集・私募の取扱い等を行う場合には、以下のとおり、第一種金融商品取引業(例:証券会社等と同様の資格)の登録が必要となる

金商法第 28 条
1 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 有価証券(第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項第 2 号及び第 64 条第 1 項第 1 号において同じ)を除く。)についての同条第 8項第 1 号から第 3 号まで、第 5 号、第 8 号又は第 9 号に掲げる行為
一の2 (以下省略)

金商法第 2 条第 8 項 1 号から第 3 号まで、第 5 号・第 8 号・第 9 号
一 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、市場デリバティブ取引(金融商品(第二十四項第三号の二に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係る市場デリバティブ取引(以下「商品関連市場デリバティブ取引」という。)を除く。)又は外国市場デリバティブ取引(有価証券の売買にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
二 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)又は代理(有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
三 次に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理
イ 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
ロ 外国金融商品市場(取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するものをいう。以下同じ。)における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引
五 有価証券等清算取次ぎ
八 有価証券の売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等
九 有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い

→ 第一種金融商品取引業の範囲から金商法第 2 条第 2 項のみなし有価証券に係る各行為が除外されているが、当該除外規定から電子記録移転債権が除かれている(除外の除外)

2. 電子記録移転権利の自己募集・私募

(1) 業規制の概要

現行の金商法上、株式や社債等の自己募集・私募業規制は存在しないが、集団投資スキーム持分(=ファンド)の自己募集・私募については、金商法の業規制が適用される

改正法により、以前から自己募集・私募規制があった証券に加えて、一定の証券(合名、合資、合同会社、類似の外国会社の社員権)につき、自己募集・自己私募に追加で第二種金商業が要求されるようになった

金商法第 28 条
2 この章において「第二種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第 2 条第 8 項第 7 号に掲げる行為
二 (以下省略)

金商法第 2 条 8 項第 7 号
この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為・・・・のいずれかを業として行うことをいう。
七 有価証券(次に掲げるものに限る。)の募集又は私募
ヘ 第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利(=ファンド)
ト イからヘまでに掲げるもののほか、政令で定める有価証券

金商法施行令 1 条の 9 の 2(金融商品取引業となる募集又は私募に係る有価証券)
法第 2 条第 8 項第 7 号トに規定する政令で定める有価証券は、次に掲げるものとする。
2 法第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる権利(同条第 8 項第 7 号ホ及びヘ並びに前号に掲げるものを除き、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合(投資者の保護の必要性を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。)

(金融商品取引業となる募集又は私募に係る有価証券から除かれる場合)
定義府令 16 条の 2
令第 1 条の 9 の 2 第 2 号に規定する内閣府令で定める場合は、法第 2 条第 2項第 3 号及び第 4 号に掲げる権利以外のものである場合とする。

法第 2 条 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
2 項
三 合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権
四 外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの

(2) ファンドの適格機関投資家特例

集団投資スキーム持分の自己募集・私募には、適格機関投資家等特例業務8が認められているが、ST についても同様に認められるか→ 認められるが譲渡制限のための技術的措置を取る必要がある

(適格機関投資家等特例業務)
金商法法第 63 条 次の各号に掲げる行為については、第 29 条及び第 33 条の 2 の規定は、適用しない。
一 適格機関投資家等(適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(その数が政令で定める数以下の場合に限る。)及び適格機関投資家をいう。以下この条において同じ。)で次のいずれにも該当しない者を相手方として行う第 2 条第 2項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利に係る私募(適格機関投資家等(次のいずれにも該当しないものに限る。)以外の者が当該権利を取得するおそれが少ないものとして政令で定めるものに限り、投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものを除く。)
ハ イ又はロに掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者

金商業者府令
(投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの)
第 234 条の 2 法第 63 条第 1 項第 1 号に規定する投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものは、出資対象事業持分に係る私募のうち、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するものとする。

三 当該権利が財産的価値に表示される場合には、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める措置がとられていないこと。
イ 当該権利の取得勧誘(法第 2 条第 3 項に規定する取得勧誘をいう。ロにおいて同じ。)に応ずる取得者が適格機関投資家(法第 63 条第 1 項第 1 号イからハまでのいずれにも該当しないものに限る。以下この号において同じ。)である場合当該財産的価値を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置
ロ当該権利の取得勧誘に応ずる取得者が特例業務対象投資家(令第 17 条の 12第 4 項第 2 号に規定する特例業務対象投資家をいう。以下ロにおいて同じ。)である場合当該権利を取得し又は買い付けた者が当該権利を表示する財産的価値を一括して他の一の適格機関投資家又は特例業務対象投資家に移転する場合以外に移転することができないようにする技術的措置

Ⅶ 電子記録移転権利のセカンダリー取引に関連する規制

ST のセカンダリー取引に関して、当該トークンの売買の媒介を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法第 2 条第 8 項第 2 号、第 28 条第1 号)

ST のセカンダリー取引に関して、「板取引」等の取引所を設置する場合、その態様により、金融商品市場の免許(金商法第 2 条第 14 項、第 80 条第 1 項)、又は私設取引システムに該当するものとして PTS 業務の認可(同法 第 80 条第 2 項、第2条第 8 項第 10 号、第 30 条第 1 項)を受けることが必要になると思われる
→ 現実的には市場免許の取得は極めて困難
→ PTS 認可の取得は容易ではない。また PTS 認可の場合、困難であり、また、PTS 業務については、事実上、板取引(オークション形式)ができないように思われる
→ 当初は、いわゆる OTC 取引にて、金融商品取引業者がビッドプライス・オファープライスを提示して ST を販売する「販売所形式」でのセカンダリー取引になる、と推察される。セカンダリーマーケットの充実も課題

参考 金融商品市場

金商法第 2 条第 14 項
14 この法律において「金融商品市場」とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう。

なお、「市場」の定義はない。

参考 PTS 業務(この部分は今回の改正で変更はなし)

金商法第 2 条第 8 項第 10 号
十 有価証券の売買又はその媒介、取次ぎ若しくは代理であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として次に掲げる売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行うもの(取り扱う有価証券の種類等に照らして取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場(第六十七条第二項に規定する店頭売買有価証券市場をいう。)以外において行うことが投資者保護のため適当でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)
イ 競売買の方法(有価証券の売買高が政令で定める基準を超えない場合に限る。) (=オークション、板取引。取扱い可能金額に制限。取引所や店頭有価証券がないと使えない?)
ロ 金融商品取引所に上場されている有価証券について、当該金融商品取引所が開設する取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を用いる方法(=ST は上場されていないので使えない)
ハ 第 67 条の 11 第 1 項の規定により登録を受けた有価証券(以下「店頭売買有価証券」という。)について、当該登録を行う認可金融商品取引業協会が公表する当該有価証券の売買価格を用いる方法(= 店頭売買有価証券は旧 JASDAC 市場のようなものが想定されている。STO 協会が類似制度を導入する?)
ニ 顧客の間の交渉に基づく価格を用いる方法 (=顧客から買値・売値を出させ、板ではない方式で仲介する?)
ホ イからニまでに掲げるもののほか、内閣府令で定める方法(顧客注文対当方法、売買気配提示方法)

施行令 (競売買の方法による場合の基準)
第 1 条の 10 法第 2 条第 8 項第 10 号イに規定する政令で定める基準は、次に掲げるものとする。
一 毎月末日から起算して過去 6 月間に行われた上場有価証券等(金融商品取引所に上場されている有価証券及び店頭売買有価証券をいう。以下この条において同じ。)の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下この条において同じ。)であつて法第 2 条第 8 項第 10 号イに掲げる売買価格の決定方法により行うものに係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額の、当該 6 月間に行われた上場有価証券等のすべての取引所金融商品市場及び店頭売買有価証券市場における売買に係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額に対する比率が 100 分の 1 であること。
二 毎月末日から起算して過去 6 月間に行われた上場有価証券等の売買であって法第 2 条第 8 項第 10 号イに掲げる売買価格の決定方法により行うものに係る銘柄ごとの総取引高の 1 営業日当たりの平均額の、当該 6 月間に行われた当該銘柄のすべての取引所金融商品市場及び店頭売買有価証券市場における売買に係る総取引高の 1 営業日当たりの平均額に対する比率が 100 分の 10 であること。

定義府令 (私設取引システム運営業務の売買価格の決定方法)
第 17 条 法第 2 条第 8 項第 10 号ホに規定する内閣府令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 顧客の提示した指値が、取引の相手方となる他の顧客の提示した指値と一致する場合に、当該顧客の提示した指値を用いる方法
二 金融商品取引業者が、同一の銘柄に対し自己又は他の金融商品取引業者等の複数の売付け及び買付けの気配を提示し、当該複数の売付け及び買付けの気配に基づく価格を用いる方法(複数の金融商品取引業者等が恒常的に売付け及び買付けの気配を提示し、かつ当該売付け及び買付けの気配に基づき売買を行う義務を負うものを除く。)

Ⅷ ファンド型 ST の規制纏め

1. 業規制

(1) プライマリー

  募集・私募等の主体 募集・私募等の相手方 必要な登録・届出等
A ST 発行者 適格機関投資家

49 名以下の富裕層に限定*
発行者において適格機関投資家等
特例業務の届出が必要
B ST 発行者 A 以外の場合、自主規制で
一定の投資家に限定すべき
という議論あり
発行者において第二種金商業の登
録が必要
C ST 発行者以外の第三者 同上 当該第三者において第一種金商業
の登録が必要

*限定の方法については要検討

(2) セカンダリー

・業として、ST の売買の媒介を行う場合、第一種金融商品取引業の登録を必要とする

・取引所形式での取引は現実的には困難であり、販売所方式での取引になると思われる

2. 開示規制

  募集・私募の区分 募集・私募等の相手方 開示義務
a 私募 適格機関投資家私募* 適格機関投資家に限定 通常無し
b 少人数私募* 49 名以下に限定
c 特定投資家私募 特定投資家に限定
d 募集 多数 有価証券届出書**
(その他、四半期報告書、臨時報告書等の継続開示についても留意する)

* 限定の方法については要検討
**発行価格の総額が 1 億円未満の募集の場合、有価証券届出書(金商法第 4 条第1 項第 5 号)の届出義務が免除される

3. 考えられる方式

当初は、規制が緩やかな方式として、①発行者自らが、適格機関投資家特例を使用して募集を行う方式(1(1)a‐2b 方式)、又は②発行者が第三者に対し適格機関投資家私募を委託する方式(1(1)c‐2a 方式)が取られ、その後、徐々に、発行者が第三者に委託して ST の募集を多数の者に対し行う方式(1(1)c‐2d 方式)による取引が行われる?

Ⅸ 法改正と STO に関する各種の質問

金商法改正に関連して各種セミナーで例えば、以下のような質問を受けている。なお、今回の改正はあくまで業法の改正であり、ST の私法上の位置づけ、発行手続きその他関連規定に直ちに影響を及ぼす訳ではない。

1. セキュリティトークンの移転の方法と私法上の有効性

匿名組合契約その他ファンド上の地位をトークン化して、トークンの移転によって、匿名組合契約上の地位を自由に移転できるか。
日本の民法上、契約上の地位の移転には、地位の譲渡人及び譲受人の合意と契約の相手方の承諾が必要となる。この点は改正法で何らの変更はなく、トークンの移転によって権利が自動的に移転する、ということが可能かはあくまで今後の解釈による。なお、実務上は何法を準拠法にするか、私法上どのような権利を有するかについては Code is Law として明確には規定しない対応になるのでは、と思われる。

日本の民法上の第三者対抗要件
確定日付ある通知、又は確定日付ある承諾
これがなくトークンの譲渡のみで良い、としてリスクは発生しないか?

2. セキュリティトークンの会社法上の発行手続き

会社法上の ST の発行手続きはどうなるか。
ST は、株式ではなく社債でもなく9、これらに対する会社法の発行手続規制がそのまま当てはまる訳ではない。匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、株主総会の決議は必要ではなく、但し、重要な業務執行であり取締役会の決議(会社法第 362 条第 4 項柱書)を経ることが妥当とは思われるが、今後の解釈による。

3. セキュリティトークンの税務上の取扱い

匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、ファンドと同様の取扱いになるのでは、と思われるが、税務専門家との協議が必要である。

4. 既存株主への説明義務

会社法上、既存株主に対して特段、説明義務等が求められる訳ではない。但し、穏当な経営という観点からは既存のステークホルダーの権利を害さないトークン組成が必要であろう。

5. 上場会社の適時開示

上場会社が ST を発行する場合、金融商品取引所における適時開示についても留意が必要である。いかなる情報を開示すべきかについては、適宜、各金融商品取引所と調整する必要があるだろう。

6. ブロックチェーン

X社がY証券のアレンジでSTOまたは仮想通貨市場ZでSTOを行う場合、X社が発行する証券に相当するブロックチェーンの実態はX,Y,Zのどこに配置されるか?
例えば仮想通貨市場毎に何らかのマルチ・トークン・プラットフォームがあり,そこに追加できるプロトコルがあって(STO-20), そのプロトコルを守る形で自身のトークンを作って登録すると,あとは承認さえおりれば売買可能となるイメージか?

ブロックチェーンについては Ethereum ベースや Tezos ベースのものが多い。その場合、Ethereum や Tezos はどこにあるか、ということになりパブリックチェーンであって全世界にある、ということになるのではないか

Ⅹ アセットクラスごとの STO の可能性

1. 株式 STO

<考えられるスキーム>

現在の株式は株券不発行が原則
株主名簿での管理が必要であり、株主名簿への記載が対抗要件(会社法 130 条)

(株主名簿)
第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
(株式の譲渡の対抗要件)
第百三十条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする

ブロックチェーン上でトークンを移転した場合に自動的に株主名簿が書き換わるシステムを開発することが良いと思われる。移転があった場合、株主の氏名・住所などを通知してもらえるシステムの開発が必要

なお、会社法 125 条などを踏まえると株主名簿を電磁的記録で作成すること自体は可能

<業者規制>

現在:自己募集・自己私募については業規制なし。株式の募集・私募については一種金商業が必要

改正法:トークン化した場合、自己募集・自己私募については変更なし
募集・私募については原則変更ないが、販売対象に自主規制等で一定の規制が入る可能性

例えば

が想定されるが具体的要件は未定

2. 社債 STO

<考えられるスキーム>

社債について紙を発行した場合、紙の譲渡が権利の取得要件となる

トークン化する場合、社債券を不発行とし、かつ記名式社債として、トークンの譲渡に伴い社債名簿を書き換えする方法により対応か(株式 STO と同様のシステム開発)

(社債券を発行する場合の社債の譲渡)
第 687 条 社債券を発行する旨の定めがある社債の譲渡は、当該社債に係る社債券を交付しなければ、その効力を生じない。
(社債の譲渡の対抗要件)
第 688 条 社債の譲渡は、その社債を取得した者の氏名又は名称及び住所を社債原簿に記載し、又は記録しなければ、社債発行会社その他の第三者に対抗することができない。
2 当該社債について社債券を発行する旨の定めがある場合における前項の規定の適用については、同項中「社債発行会社その他の第三者」とあるのは、「社債発行会社」とする。
3 前二項の規定は、無記名社債については、適用しない。
(権利の推定等)
第 689 条 社債券の占有者は、当該社債券に係る社債についての権利を適法に有するものと推定する。
2 社債券の交付を受けた者は、当該社債券に係る社債についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

なお、会社法 681 条などを踏まえると社債原簿を電磁的記録で作成することは可能

<業者規制>

現在:社債の募集・私募については一種金商業が必要。自己募集・自己私募については業規制なし

改正法:トークン化した場合、自己募集・自己私募については原則変更ない。

募集・私募については原則変更ないが、販売対象に自主規制等で株式の販売と同様の規制が入る可能性があるよう

3. 考えられる不動産 STO の仕組み

不動産自身はトークン化できないため、SPC を設立し、当該 SPC が発行する有価証券をトークン化するという方法が通常と思われる

例えば下記のような方法が考えられる。(これまでの証券化では下記(1)~(3)が多かった印象)

(1) TMK

<基本>
<資産>
<税務>
<その他>

会計監査が必要

<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(2) GK-TK(信託受益権の利用)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(3) 信託受益権そのままのトークン化

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(4) GK-TK(現物不動産、不動産特定共同事業法)

<基本>
<資産>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(5) Operating Company + TK (現物不動産、不動産特定共同事業法)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(6) GK only (現物不動産)

<基本>
<資産>
<運用>
<税務>
<非トークンの場合の販売>
<トークン化>

(7) KK only (現物不動産)

上記(6)に関して、GK ではなく KK を使えば二種金商業の規制なく自己募集可能?KKにすることで論点増えるか?

まとめ:不動産 ST 化(要再検討)

    資産 販売の業法 販売先 税務(Tax Transparency) その他の論点
(1) TMK 現物不動産 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし(但し TMKは自己募集できるか?)
自主規制で限定される可能性 90%超配当や適格機関投資家引受など要件満たせば擬似的に Yes 資産流動化計画の作成
会計監査
優先出資の Token 化の方法
(2) GK-TK(信託受益権) 信託受益権 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし
同上 Yes TK トークン譲渡の対抗要件
(3) 信託受益権 通常は現物不動産 同上 同上 Yes 信託銀行が Token 化を認めるか
受益権トークンの対抗要件
(4) GK-TK(不動産特定共同事業法型) 現物不動産 第三者による販売:不特法の登録をした一種金商業?
自己販売:販売は委託必須で自己募集不可
適格機関投資家+3 億円以上の人のみ Yes TK トークン譲渡の対抗要件
(5) 不動産特定共同事業法の運営会社に TK 現物不動産 不動産特定共同事業法の会社が自身で販売 限定なし?(金商法無関係) Yes 国交省は不動産特定共同事業法下のSTについてまだ未検討のよう
倒産隔離ではない
暗号資産規制の適用可能性?
TK トークン譲渡の対抗要件
(6) GK の社員権 現物不動産と信託受益権? 第三者による販売:一種金商業
自己販売:二種金商業
自主規制で限定される可能性 no  
(7) KK の株主権 現物不動産と信託受益権? 第三者による販売:一種金商業
自己販売:規制なし?
自主規制で限定される可能性 no  

XI 海外の規制の概要

1. 米国法と Howey Test

米国では securities の概念が極めて広範であり、日本とは異なり明確には決まっていない。そのうちの investment contract については、通常、Howey Test という判例基準で決定される。

Howey Test
An investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person [1] invests his money in [2] a common enterprise and its led to [3] expect profits [4] solely from the efforts of the promoter or a third party, [excluded factors] its being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.

[1]資金の出資、[2]共同事業への出資、[3]収益を期待して、[4]当該収益は専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、[excluded factors] シェアが正式な証書や資産に対する名目的な権利等で表されているかは重要ではない

他国ではユーティリティートークンとして規制対象ではないトークンであっても、米国ではセキュリティーとして規制される場合が多い

2. その他の国の法律

他の殆どの国では、トークンが有価証券に該当するかで規制を考え、かつ有価証券の範囲は①出資、②運用、③配当があるか否かで考えているように思われる(シンガポール、香港、英国、EU など)。その上で、多くの国に適格機関投資家向け販売、少人数向け販売、少額販売などに Exemption があるようである

例えば、EU だと、EUR1M 以下の販売については、目論見書の提出義務が免除され、ただ各国はこの金額を EUR8M にまであげることができ、例えばドイツ(一定の条件あり)、フランス、イタリア、デンマーク、フィンランドなどで 8Mの上限、クロアチア、ベルギー、オーストリアで 5M 上限などとなっている
https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma31-62-
1193_prospectus_thresholds.pdf

以 上


昨年5月、GDPRの施行が開始された(EUデータ保護指令は置き換えられた)。それ以来、GDPRはEUのみならず、日本を含む各国において個人データ保護のための重要な判断基準と考えられている。EU内に所在する企業等の組織は、GDPRに日々精通してきているものの、EU域外の企業等組織では依然遵守状況についてはばらつきが見られる。GDPR施行から1年が経過した今、規制[1][2]の解釈を明確にしていきたい。

本稿では、GDPRにより保護される個人データとはどのようなものかということを踏まえて、GDPRがEU域外の組織にどの程度適用されるか概説する。第3項では、EU域内からEU域外への個人データの移管、特に日本への移管について、より詳しく見ていきたい。

1. 個人データとは?

GDPRは、個人データ(personal data)について、「識別され又は識別可能な自然人に関するあらゆる情報」と広く定義している。識別可能な自然人とは、データから直接的に、又は識別子(氏名、位置データ、オンライン識別子等)を参照することによって間接的に識別され得る自然人のことをいう。自然人がデータから識別できるかどうかを決定するためには、すべての合理的な手段(all reasonable means)を考慮しなければならない。特定の個人へ紐付けされ得ないデータは個人データではないため、GDPRの適用を受けない。[3]

個人データの例には以下のものがある。

2. GDPRはどのような行為に適用されるか?

GDPRは個人データの処理に適用される。処理の定義は非常に幅広く、個人データの収集、記録、編集、構造化、保存、修正、変更、検索、相談、使用、開示、配布、結合、制限、消去及び破棄が含まれる。[4]

処理の例としては、以下が挙げられる。

3. EU域内に実体が無い事業者もGDPRを遵守すべき場合

GDPRの目的は、個人データの処理がEUとの繋がりを有する場合に、高いレベルの保護を確保することである。したがって、GDPRは、当該個人データの処理がEU域内に拠点を持たない組織による場合であっても、下記のいずれかの要件が満たされる場合には適用される。

(a)EU域内に所在する拠点の活動として行われること。

(b)EU域内に所在する個人に対する商品及びサービスの提供、又はEU域内に所在する個人の行動のモニタリングに関連して行われること。

EU域外に拠点を置く組織は、EU域内における現状の配置・展開等が拠点とみなされるかどうか、もしみなされないとしても、個人データが拠点の活動に関連して処理されているかどうかを第一に検討すべきである。例えば、EU域内に販売代理店がいるというだけでは「EU域内に所在する拠点の活動」には該当しないが、以下で述べる要素を有する場合には(a)の要件を満たし、GDPRが適用されうる。

仮に(a)の要件に該当しない場合であっても、組織がEU域内に所在する個人を対象としている場合、(b)の要件に該当するとしてGDPRが適用されうる。

(1) EU域内に所在する拠点の活動として行われること

GDPRは、EU域内に所在する拠点の活動に関連する個人データの処理に適用される。当該処理がEU域内では行われない場合であっても、GDPRの適用対象となる。

① EU域内に所在する拠点

拠点とは、法律上の形式を問わず、安定的な仕組み(stable arrangements)を通じて、実効的かつ現実的な活動を行うものを意味する。したがって、EU非加盟国の組織がEU加盟国のいずれにも支店や子会社を有しないからといって、当該組織がEU域内拠点を有しないとはいえない。従業員が一人、あるいは代理人が一人いる場合には、個々の人員が一定の永続性をもって行動する限り、安定的な仕組みをもっていると認められる場合がある。

なお、EU域内からホームページを閲覧できるという事実だけでは、EU域外の組織がEU域内に拠点を有すると判断される可能性は低いだろう。

② 域内拠点の活動としての処理

GDPRは、域内拠点自体がデータ処理を行うことを要請していない。しかしながら、GDPRが適用されるには、当該域内拠点の活動が、EU域外組織のデータ処理活動と密接に関連していなければならない。そのような関連性が存在するかどうかは、事実と状況を考慮して、ケースバイケースで判断されることとなる。

個人データがEU域外組織のデータ処理活動と密接に関連して処理される場合、GDPRは、当該データの主体である個人がEU域内に所在するか否かにかかわらず適用される。GDPRは、「規則により与えられる保護は、その国籍又は居住地の如何を問わず、自然人の個人データの処理に関して自然人に適用されるべきである。」と明確に述べている。

 例:電子商取引プラットフォームを運営する日本企業が、EU域内でマーケティング・キャンペーンを開始するために欧州事務所を設立した。データ処理業務は、日本所在の事務所が専任で行っている。欧州事務所の活動は、プラットフォーム上で提供されるサービスをより収益性の高いものにすることを意図している。このような場合、欧州事務所の活動は日本の電子商取引プラットフォームによって実行される個人データの処理と密接に関連している。よって、個人データの処理は、GDPRの適用を受ける。

(2) EU域内の個人に対する物品又はサービスの提供及び域内の個人のモニタリング

急速な技術発展と国境を越えた個人情報の流れの増加を考慮して、EU議会はEU域内の個人を対象とする場合にはGDPRが適用される旨を決定した。当該決定により、個人データの処理が以下のいずれかに関連する場合、GDPRが適用されることとなった。

(a)EU域内の個人に対する商品又は役務の提供(支払が必要か否かを問わない。)

(b)EU域内で行われる、個人の行動のモニタリング

① EU域内の個人向け商品・サービスの提供

組織がEU域内の個人に商品や役務を提供しているか判断要素としては、現地語の使用、現地通貨の使用、欧州の顧客への言及、EUへの送料の表示などが挙げられる。商品や役務を提供しているとされる場合、組織がEU域内の個人の個人データを処理する際GDPRが適用される。

 例:日本の事業者が、ウェブサイト上で、自社のWeb開発サービスについて申込みを受け付けている。そのウェブサイトは日本語、英語、スペイン語及びドイツ語で公開されている。報酬の支払いは、日本円、米ドル又はユーロで行うことができる。当該サービスはEU域内の顧客を対象としたサービスであり、ウェブサイトを運営する日本企業のデータ処理はGDPRの適用を受ける。 

② EU域内における個人の行動のモニタリング

個人データの処理は、当該データがEU内の個人のモニタリングに関連する場合、GDPRの適用対象となる。典型的なケースは、クッキー及びトラッキングピクセルによるインターネット上のユーザの追跡、GPSデータの収集及び行動広告である。GDPRが適用されるには、モニタリング対象者はEU域内にいなければならない。EU域内のモニタリングを監視することを意図しておらず、EU内でのモニタリングが偶発的である場合、GDPRは適用されない。

 例:ヨーロッパの空港でストップオーバー中、日本人が日本のプレイストアでのみ提供されるアプリをダウンロードした。アプリは、各人のGPSデータを追跡し、個人情報を収集する。本アプリの開発会社は、EU域内の個人データを収集する意図はないため、GDPRは適用されない。 

4. 個人データの処理及びGDPR違反に対する制裁

GDPRの下では、個人データの処理は適法でなければならない。適法な場合は、大まかに言って、以下のいずれかの場合に限られる。

どのような場合にこれらに該当するかは次稿で検討することとする。

仮に個人データの処理がGDPRに違反していると判断されれば20,000,000ユーロ以下の制裁金、又は侵害者が事業体である場合には、前年度の全世界年間売上高の4%以下の制裁金が課せられることがある。British AirwaysがGDPRに違反し、2017年全世界年間売上高の1.5%である約250億円の記録的な制裁金を課されたほか、ホテルグループのMarriott Internationalに対して約135億円の制裁金が課された事例や、Googleに対して約62億円の制裁金が課された事例などもあり、これに加え、レピュテーションリスクも過小評価されるべきではない。また、個人が違反者に対して損害賠償を請求したり、競争事業者が不正競争として苦情を申し立てたりすることもある。

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図表:英国内における最大級の制裁金一覧(2012年から2019年)[5]

5. EUから日本や他のEU域外諸国にいつ個人データを移すことができるか?

GDPRの下では、個人データは、組織が適切なセーフガードを実施している場合又は適用の免除が適用される場合にのみ、適切なレベルのデータ保護を提供するEU域外諸国に移転することができる。

(1) EUから日本への個人データの移管はできるか?

欧州委員会は、2018年、日本が個人情報について十分な水準の保護(いわゆる十分性認定、adequate level of protection)行っていると認定した。この認定は、日EU経済連携協定(EPA)及び戦略的パートナーシップ協定(SPA)の一環として行われ、2019年1月23日に発効された。日本は現在、EUが十分性認定を行っている13か国の一つである。

以下は、欧州委員会が十分性認定を行っている国のリストである。米国については、Privacy Shield [6]が定めるルールに則って個人データを扱う場合に限り、EU域内にある個人データを米国内に移管することができる。

アンドラアルゼンチンカナダフェロー諸島
ガーンジーイスラエルマン島日本
ジャージー代官管轄区ニュージーランドスイスウルグアイ
米国   

上記の国への個人データの転送には、当該国の法令に従う限り、関係する個人によるなんらの許可を必要とせず、また、なんらのセーフガードも不要である。この点で、データが自由に移転可能なEU域内での個人データの転送に類似している。

我が国が欧州委員会から十分性認定がなされたことにより、(2)で述べるような煩雑な手続きがなされなくとも、EU域内から日本に個人データを移管することができるようになった。疑義を避けるために付言すると、当然のことながら、日本企業は個人データの移転に関する条項以外のGDPRの条項の適用を免れるものではない。これに加えて、日本の個人情報の保護に関する法律とGDPRの齟齬を補完するためのルールである「個人情報の保護に関する法律に係るEU域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」が個人情報保護委員会から2018年9月に公表されており、EU域内から日本に移転されたデータについては、当該ルールを遵守する必要がある。

(2) EUから上記以外の国への個人データの移管は可能か?

欧州委員会による十分性認定がない場合、データは、適切なセーフガードが実施され、又はデータが移管された個人が法的救済を受けることができる場合に限り、EU以外の国に移管することができる。

適切なセーフガードには監督機関からの個別の承認を得る場合のほか、次のものが含まれる。

移転が適切なセーフガードに基づかない場合には、個人データは、適切なセーフガードがないことにより考えられるリスクについて個人が通知を受けた後に、当該個人が移転に明示的に同意した場合に限り、EU域外諸国に移転することができる。

その他移転を行うことができる場合には、次の場合を含む。

6. まとめ

GDPRは、EU域外の組織にも多くの影響を及ぼしており、違反には厳しい罰則が科されうること、GDPRの施行から約1年の間にGDPR違反により多額の制裁金を課された事例が複数出てきていることからすると、日本企業としても、GDPRの適用を受けるか否かを改めて確認し、対応策を検討すべきであろう。

[1] 個人データの取扱いと関連する自然人の保護及び当該データの自由な移動に関する並びに指令95/46/ECを廃止する2016年4月27日の欧州議会及び理事会規則(EU)2016/679

[2] 個人データ取扱いに係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する1995年10月24日の欧州議会及び理事会の指令95/46/EC

[3] GDPR第4条第1項

[4] GDPR第4条(2)。

[5] BBC(2019年7月8日) 「British Airways faces record 183m fine for data breach」 <https://www.bbc.com/news/business-48905907> 2019年7月9日アクセス

[6] EUに所在するデータ主体である自然人の救済手段の強化のため、自然人からの申立てへの45日以内の企業の対応義務などが設けられている。

Libra and stable coins under Japanese regulations (in Japanese/revised) from So Saito

当事務所が準備したLibraの日本法上の分析についての資料です。仮想通貨交換業、銀行業、資金移動業、金商法など。日本語及び英語版。

ステーブル・コインの支持者によれば、ビットコインやその他の暗号通貨の主流派による採用を妨げる最大の障壁の一つは、その変動性(ボラティリティ)とされている。ステーブル・コインは、正にその障壁を取り除くことを約するもので、因ってクリプトの聖なる恵みと持ち上げられている。執筆時点で、ステーブル・コインは時価総額 40 億ドルに達している。従来型の金融システムに結び付かない分権化された取引所の台頭を踏まえれば、市場規模は増大する可能性が高い。世界的にはステーブル・コインが総じて成功しているにもかかわらず、日本の暗号通貨取引所では未だ大きなプロジェクトは上場されていない。

以下では、様々な種類のステーブル・コインについて説明し、各モデルの規制環境をより詳細に評価する。

Stable Coin Dominance
グラフ 1:ステーブル・コインのドミナンス1

1. ステーブル・コインの種類

「ステーブル・コイン」とは、あらかじめ決められた資産(最も一般的には米ドル)に対して安定している暗号資産を表す包括的な用語である。一般に、ステーブル・コインには、IOU モデル、オン・チェーン担保付モデル、シニョレッジ・モデルの 3 種類がある。2

本書に記した例は、例示目的にのみ使用している。

1.1. IOU モデル

IOU モデルは現在、ステーブル・コイン界を席巻している。これは、モデルの単純さと明確さに起因している可能性が高い。個々の具体的な内容を見ると、設計は大きく異なるが、すべての IOU モデルは、トークン保有者の利益の為、発行者に対し買戻請求が可能な証書を表すトークンを発行する中央主体が存在する点で共通している。トークンの安定性を保証するために、各トークンは、一般に、通貨、もしくは他の実世界資産によって完全に裏付けられている。但し一部のケースでは、発行者がトークンをあらかじめ決められた価格で買い戻すことが保証されているに留まる。

TrueUSD の場合、ユーザーが資金を第三者のエスクロー口座に送金すると、トークンが新たに鋳造され、米ドル償還されたときにトークンをバーンして消滅させる。このメカニズムにより、流通している TrueUSD とエスクロー勘定に保管されている米国ドルの間の均衡が確保される。Libra も同様のメカニズムを展開しており、各トークンは準備金によって裏付けされている。新しいトークンは、認可された再販業者が準備金に資金を注入した場合にのみ、鋳造される。逆に、需要が収縮するとトークンは破壊される。トークンは単一のフィアットカレンシーではなく、フィアットカレンシーのバスケットに裏打ちされているので、外国為替市場の動きの結果として価格が変動することになる。3

テザー(Tether)は、最も成功し、同時に最も物議も醸しているステーブル・コイン・プロジェクトの 1 つであるが、利用者の支払いに拘わらず新しいトークンを鋳造する。しかし、TrueUSD と同様に、プロジェクトはステーブル・コインUSDT と準備金として保有する USD を 1 対 1 比率に維持すると約している。4

日本では、2017 年に JPYZ として知られるプロジェクトが立ち上げられた。日本円との同価値性は、同額の日本円を銀行口座に保管し、各トークンをその上場する取引所で 1 円の価格で発注するという発行体の保証によって維持される。このプロジェクトは依然社会実験とされ、米ドル建ステーブル・コインの一部ほどには扱いは拡大されていない。

トークン:ステーブル・コイン

1.2. オン・チェーン担保付モデル

オン・チェーン担保付モデルでは、コインの安定性を確保・維持するために、複雑なスマート・コントラクト・システム、異なる種類のトークン、オラクルおよび外部アクター(外部の行為者)が必要となる。たとえば、MakerDAO はユーザーに暗号資産をスマート・コントラクト・システムに転送するよう求める。その後、スマート・コントラクトは、ステーブル・コイン(DAI)の形でローンを発行、ローンが返済されるまで、当該暗号資産を担保物としてスマート・コントラクトに有効に固定する。

DAI の目標価格は 1 米ドルに設定され、スマート・コントラクトに固定された担保物の価値決定(値洗い)に使用される。担保価値の変動を考慮し、MakerDAOはすべての貸付につき超過担保状態を維持するよう求めている。担保・債務比率が所定の閾値を下回った場合、自動的にポジションが解消され、担保物は市場で売却される。これにより、DAI は常に米ドルに対して安定的に推移することが保証される。

2 種類目のトークン – Maker Token (MKR) – は、スタビリティ・フィー・「安定」料支払いに使用される。この手数料は、担保物をスマート・コントラクトへの固定から解除するための負債に加えて支払うべきものである。MKR トークンはまた、トークン保有者に議決権(例えば、オラクルの任命およびスタビリティ・フィー料率の決定)を付与することで、メーカー・プラットフォームのガバナンスに中心的な役割を果たしている。

メイントークン:ステーブル・コイン、ハイブリッドガバナンス/ユーティリティトークン

1.3. シニョレッジ・Seigniorage モデル

シニョレッジ・モデルは貨幣数量説に基づいている。トークン価格を基準通貨や他の基準値との対比で安定させる為、トークンの供給は需給に応じて継続的に調整される。インフレ局面では、価格を元の水準に戻すべく、トークン供給は自動的に縮小される。デフレ局面では逆に、トークン供給は増大する。

Basis の場合、ステーブル・コイン(ベーシス)は米ドルにペッグ(連動)された。ペッグを維持するため、ベーシスの供給は追加のトークン(シェア・トークンや債券トークン)を用いて調整された。債券トークンは、供給を縮小しなければならないとき、1 ベーシス未満の価格で競売にかけられた。Basis の供給の拡大が必要と判断されると、債券トークンの保有者は、「先入先出」順で、債券トークン毎に 1 ベーシスを受け取った。債券トークンがトークン供給を拡大するのに十分ではなかった場合、株式トークンの保有者は、システム上有する株式トークンの総数に応じ、新しい Basis の発行に参加した。5

メイントークン:ステーブル・コイン、ボンド・トークン、シェア・トークン

2. 法的分類と結果

以下では、各モデルについてより詳細に分析する。モデルが複数のトークンに該当している場合、典型例以外のトークンについても分析・考察するものとする。

2.1. IOU モデル

IOU モデルでは、単一のトークン(ステーブル・コイン)が発行される。トークンの設計と基礎となるビジネス・モデルによっては、トークンは前払式決済手段、為替、仮想通貨のいずれかに分類されるかもしれない。

2.1.1. 前払式支払手段

資金決済法(「PSA」)は、前払式決済手段を、とりわけ、対価と引き換えに電磁的方法により記録される記号等として定義している。記号等が、発行者から、或いは発行者によって指定された第三者から、商品およびサービスを購入するために使用されるかによって、前払式支払手段は、自家型前払式支払手段または第三者型支払手段として分類される。

多くの場合、ステーブル・コインは、あらかじめ定められた生態系(エコシステム)の中で財やサービスを購入するために発行されるものではないため、前払式決済手段には該当しない。代わりに、発行者との契約関係にかかわらず、誰でも支払いとして受領できる。単に、ステーブル・コインが発行者の顧客認証(KYC)手続きをクリアした利用者にのみ払い戻しされるという事実だけでは、結果に違いはない。

また、IOU モデルで発行されたステーブル・コインは、一般的にフィアットカレンシーに償還することができるという事実は、前払式決済手段としての分類に反するものである。資金決済法によれば、「前払式支払手段の発行者は、資金決済法に規定されている場合を除き、返金してはならない」とされている。典型的なケースは、少額の償還であり、利用者がやむを得ない事由(例えば、発行者の事業の中止)のために前払式支払手段を継続して使用し得ない場合である。

2.1.2. マネーオーダー(小為替)

ステーブル・コインは、フィアットカレンシーと引き換えに発行され、トークン保有者への当該フィアットカレンシーによる払い戻しが可能である場合には、マネーオーダーに分類される可能性が高い。PSA(資金決済法)や銀行法には法律上の定義はないが、マネーオーダーは、一定額の金銭の支払命令として一般的に理解されている。マネーオーダーに記載された金額は、通常、前払いで支払われなければならず、マネーオーダーの受取人として記載された者によってのみ現金化することができる。ただし、IOU モデルの下で発行されるトークンには、受取人の記載は含まれない。代わりに、それらは、それぞれのトークンに対応する秘密鍵を所有する者によって償還されることがある。このようにステーブル・コインは、安全性の向上と流通性の向上により、白紙マネーオーダーに匹敵する。しかしながら、基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更しても、異なる結果につながる可能性がある(下記の項目 2.1.3 を参照)。

マネーオーダーに分類されるトークン自体は規制されていない。しかしながら、トークンの販売、移転または償還に関与する事業体については、法律は、これらの事業体が銀行免許を保有すること、または PSA の下で移転サービス提供者として登録されることを要求することができる。

2.1.3. 仮想通貨

IOU モデルで発行されるステーブル・コインも、仮想通貨となる場合がある。PSA は、第一種と第二種の仮想通貨を区別している。

第一種仮想通貨とは、下記を行うことができる財産的価値をいう。


i. 不特定の者への支払、
ii. 不特定の者からの買取り・売却、
iii. 電磁的方法による移動

第二種仮想通貨とは、不特定の者との間で第一種仮想通貨と相互に交換することができ、かつ、電磁的方法による資金移動等することができるものをいう。

通貨及び通貨建て資産は、第一種及び第二種の仮想通貨から明確に除外されている。

IOU モデルで発行されるステーブル・コインは、通貨建て資産に分類される可能性が高いため、第一種と第二種の仮想通貨に分類することはできない。

しかし、基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更しても、まったく異なる結果をもたらすかもしれない。これは、JPYZ から見ることができる。他の IOU モデルとは異なり、JPYZ トークンは発行体から払い戻されるのではなく、日本円1 円を JPYZ1 とする保証された価格で買い戻される。これにより、金融庁(FSA)は、日本円を PSA 上の仮想通貨として分類するようになった。

仮想通貨を構成するステーブル・コインを発行する主体は、日本における仮想通貨交換業として登録するか、登録済仮想通貨交換業者を通じて販売しなければならない。

2.2. オン・チェーン担保付モデル

オン・チェーン担保付モデルは、典型的には複数のトークンを含む。MakerDAOの場合、これにはステーブル・コインとハイブリッド・ユーティリティー・ガバナンストークンが含まれる。

オン・チェーン担保モデルで発行されるステーブル・コインは、少なくとも第二種 I の仮想通貨に分類される可能性が高い。これは、不特定の者との間で、第一種仮想通貨と相互に交換することができるためである。米ドルやその他のフィアットカレンシーに対するソフト・ペッグが存在するという事実だけでは、ステーブル・コインは通貨建て資産とはならない。ペッグは安定メカニズムとしてのみ機能し、米ドルまたは他のフィアットカレンシーでの払い戻しを約束するものではない。

第一種仮想通貨と相互に交換可能なガバナンス・トークンは、一般的には第二種仮想通貨と考えられている。

2.3. シニョレッジ・Seigniorage モデル

シニョレッジ・モデルで発行されるステーブル・コインは、第二種仮想通貨に分類される可能性が高い。ただし、上記 2.2 の説明を参考されたい。

金融商品取引法(以下「金商法」という。)においては、ステーブル・コイン供給量の調整に必要な社債及び株式のトークンは有価証券に分類されるかもしれない。そのような有価証券のマーケティングは、一般に、金商法上、金融商品取引業の登録を必要とする。

当該債券と株式のトークンを第一種仮想通貨と相互に交換することができる場合には、トークンはさらに第二種仮想通貨とみなされる。

現行の規制では、有価証券を登録された仮想通貨交換所の 1 つに上場することはできない。

3. 結論

本稿は、日本における様々なステーブル・コイン・モデルに対する現在の規制環境の高次の概観を紹介するに留まる。トークン・デザインや基礎となるビジネス・モデルをわずかに変更するだけで、全く異なる帰結に至る可能性がある。したがって、ステーブル・コインの発行者は、彼らのモデルを慎重に検討すること、そして対象とするステーブル・コインがすでに市場に出ている場合、当該ステーブル・コインを日本で販売し、最終的に上場することが可能か、慎重に評価することが望ましい。

免責条項
本稿に記したステーブル・コインは、例示目的にのみ使用している。本稿形式に鑑み、トークン・デザインやその基礎となるビジネス・モデルの全詳細が考察されていないため、評価結果が規制当局の結論や各プロジェクトのために作成された法律意見書から乖離する可能性がある。本稿の解説は、決して、本稿に言及の有るステーブル・コインについての法的見解と解されるべきものではない。
本稿は、別途、当職らが記載した”STABLE COINS UNDER JAPANESE LAW”と題する英文の論稿を和訳したものである。

以 上


当職らは、別途「暗号資産規制の 2019 年改正について」というタイトルの論考を記述したが、セキュリティトークンオファリング(以下「STO」という。)に関して、今後、どのような方法での STO が認められるか等のご質問が多かったことから、今後の STO 規制について、以下のとおり検討する。改正の経緯、今後の想定スケジュールその他、暗号資産規制 2019年改正の全体像については前記書をご参照頂きたい。

Ⅰ 本稿の結論

現行の金融商品取引法(以下「金商法」という。)や金商法改正案の内容を考えると、電子記録移転権利たるセキュリティトークン(以下「ST」という。)に対する規制は、以下のようになるものと推察される。

なお、Ⅰに関する検討の詳細は、ⅡからⅤに記載する。

1. 業規制

(1) プライマリー

  募集・私募等の主体 募集・私募等の相手方 必要な登録・届出等
a ST 発行者 適格機関投資家

49名未満の富裕層に限定(*)
発行者において適格機関投資家等特例業務の届出が必要
b ST 発行者 a 以外の場合 発行者において第二種金商業の登録が必要
c ST 発行者以外の第三者 当該第三者において第一種金商業の登録が必要

(*) 認められない可能性もあるが、この方式が認められる可能性は高いと思われる

(2) セカンダリー

2. 開示規制

  募集・私募の区分 募集・私募等の相手方 開示義務
a 私募 適格機関投資家私募* 適格機関投資家に限定 通常無し
b 少人数私募* 49 名以下に限定
c 特定投資家私募 特定投資家に限定
d 募集 多数 有価証券届出書**
(その他、四半期報告書、臨時報告書等の継続開示についても留意する)

*   限定の方法については要検討
** 発行価格の総額が 1 億円未満の募集の場合、有価証券届出書(金商法第 4 条第 1 項第 5 号)の届出義務が免除される

3. 当職らの考え

上記は、あくまで現状の金商法改正案を前提した当職らの予想に過ぎないが、今後は、まず、規制が緩やかな方式から、具体的には、①発行者自らが、少人数(但し、適格機関投資家を 1 名以上入れる)に限定して募集を行う方法(1(1)a‐2b方式)、又は②発行者が第三者に対し適格機関投資家私募を委託する方式(1(1)c‐2a方式)から、ST の取引が進展するのではないか、と思われる。

その後、徐々に、発行者が第三者に委託して ST の募集を多数の者に対し行う方式(1(1)c‐2d 方式)による取引についても行われることになろう。

Ⅱ セキュリティトークンと電子記録移転権利

1. 電子記録移転権利の該当性

<電子記録移転権利の定義>

下記の①~③を満たし、④を除く権利
① 金商法第 2 条第 2 項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権など)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の者に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

電子記録移転権利に該当する場合には「第 1 項有価証券」となる。
他方、非該当の場合には従前どおり「第 2 項有価証券」となる。

なお、現行の金商法上、株券、社債券、投信の受益証券等の第 1 有価証券に表示される権利は、券面が発行されない場合(ペーパーレスの場合)においても有価証券とみなされ(金商法第 2 条第 2 項前段)、かつ第 1 項有価証券として整理される(同条第 3 項柱書)。
→ 株券等の有価証券トークン化した場合、現行の金商法下においても、上述のとおり第 1 項有価証券として整理されるため、電子記録移転権利の定義には含まれないと思われる。

また、ブロックチェーンの利用方法によっては、そもそも上記②「財産的価値に表示される場合」に該当しないという考えもありうる。
→ 例えば、単に、ファンドの権利者が誰であるかをブロックチェーン上で管理するが、権利者は秘密鍵を管理せず、ブロックチェーンの書換えはファンド運営者が行う場合、上記②の「表示される」に該当しないのでは、と思われる。

どのようなトークンであれば除外規定に該当するのかは、金商法改正案上、不明である。
→ トークンの流通性が技術的に制限されている場合、上記④の除外事由に該当する可能性がありうるが、そもそも内閣府令でどのような考え方がなされるか今のところ不明である。

2. 「暗号資産」の定義との関係

資金決済法改正案の暗号資産の定義から「電子記録移転権利」は除外されている。
→ 上記 1(1)④の要件により電子記録移転権利に該当しないものについては、理論上、金商法の規制に加えて資金決済法の規制が重畳的に適用されうる。他方、上記 1(1)④の要件に該当する場合には、流通性がなく、資金決済法改正案上の暗号資産の定義にもそもそも該当しない、という考え方もありうる。今後、改正が予定される内閣府令、及び暗号資産の定義の解釈次第と思われる。

以下、本稿では ST が第 1 項有価証券になる場合を前提として検討する。

Ⅲ セキュリティトークンの開示規制

1. 第 1 項有価証券の募集に係る開示規制

現行の金商法上、第 1 項有価証券の募集に該当する場合、原則、発行開示(例:有価証券届出書1、目論見書等)、継続開示(例:四半期報告書、臨時報告書等)等の公衆縦覧型の開示規制が課せられる。

電子記録移転権利たる ST の募集に該当する場合に、如何なる情報を開示するかについては、今後改正される内閣府令に規定される予定である(なお、一般的に開示書類の作成には、かなりの手間を要する。)。

他方、第 1 項有価証券の私募に該当する場合には、公衆縦覧型の開示規制は課せられていない。

2. 第 1 項有価証券の募集・私募の概念

募集(公募2)
新たに発行される有価証券の取得の申し込みの勧誘のうち
(i) 多数(50 名以上3)の者を相手方とする場合
(ii) 私募に該当しない場合

私募
(i) 適格機関投資家のみを相手方とする場合(適格機関投資家私募)
(ii) 特定投資家のみを相手方とする場合(特定投資家私募)
(iii) 少人数(50 名未満)の者を相手方とする場合(少人数私募)

3. 第 1 項有価証券の「私募」に該当するための要件(転売制限要件)

(1) 適格機関投資家私募

「取得勧誘において適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合」という要件(転売制限要件、金商法第 2 条第 3 項第 2 号イ)を満たす必要がある。転売制限要件は、有価証券の種類によって異なるが、例えば、株券等・新株予約権等以外の有価証券(以下「その他の有価証券」という。)として整理される場合(金商法施行令第 1 条の 4 第 3 号参照)、以下のような転売制限を付す必要がある(金商法施行令第 1 条の 4 第 3 号ハ、定義府令第 11条第 2 項等)

定義府令第 11 条第 2 項
2 令第一条の四第三号ハに掲げる内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げるいずれかの要件に該当すること。
イ 当該有価証券に転売制限が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
ハ 社債等振替法の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。

適格機関投資家私募の転売制限に違反して適格機関投資家以外の者に転売される場合には、「発行者」に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 2項本文参照)4

(2) 特定投資家私募

特定投資家私募の要件についても転売制限要件が存在し5、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ロ、金商法施行令第 1 条の 5 の 2 第 3 号、定義府令第 12 条)。

特定投資家私募の転売制限に違反して特定投資家等以外の者に転売される場合には、発行者に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 3 項本文参照)6

(3) 少人数私募

少人数私募についても転売制限要件が存在し、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ハ)。

株券等についてはそもそも転売方式の制限がない

他方、新株予約権等やその他の有価証券については①一括譲渡方式(一括して他の位置の者に譲渡する場合以外の譲渡禁止)、又は②有価証券の枚数又は単位の総数が 50 未満である場合において、当該有価証券の性質によりその分割ができない旨若しくは当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限が必要となる(金商法施行令第 1 条の 7 第 2 号ハ、定義府令第 13 条第 3 項等)。

定義府令 13 条
3 令第一条の七第二号ハ(3)に規定する内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げるいずれかの要件に該当すること。
イ 次に掲げるいずれかの制限(以下この号において「転売制限」という。)が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
(1) 当該有価証券を取得し、又は買い付けた者がその取得又は買付けに係る当該有価証券を一括して譲渡する場合以外に譲渡することが禁止される旨の制限
(2) 当該有価証券の枚数又は単位の総数が五十未満である場合において、当該有価証券の性質によりその分割ができない旨又は当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
ハ 社債等振替法の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。

少人数私募の転売制限に違反して多数の者に転売された場合であっても、有価証券届出書の提出義務は課されない(金商法第 4 条第 2 項、第 3 項参照)7

(4) 電子記録移転権利たるセキュリティトークンの場合

ST が現行の金商法施行令・内閣府令等における“その他の有価証券”として整理され、当該有価証券と同様の転売制限要件を課すことは考え得る(その場合は、上記(1)乃至(3)と同様の要件となる。)。

他方、ST については、現行の転売制限要件のほか、追加で何らかの技術的制約が必要とされる可能性もあり得る。

いずれにせよ、今後改正される予定の内閣府令を確認する必要がある。

(5) 実務上の検討事項・疑問点等

ST の場合において、どのように取得勧誘の相手方を少人数、適格機関投資家等に限定するか。

①日本では適格機関投資家私募として販売、海外では海外における適格機関投資家に限定して販売することができるか(おそらく可能と思われる。)、②①について如何なる方法によるか(従前の株式発行の場合と同様の方法で可能か。)。

また、日本で適格機関投資家私募・少人数私募として販売し、その後に海外の取引所では完全に自由に転売できるとした場合、どうなるか(海外の取引所で日本居住者が売買を行うと、発行体が開示違反になるか。)。

Ⅳ セキュリティトークンの取扱いに関する業規制

1. 電子記録移転権利の募集の取扱

業として電子記録移転権利の売買、売買の媒介等、募集・私募の取扱い等を行う場合には、以下のとおり、第一種金融商品取引業(例:証券会社等と同様の資格)の登録が必要となる。

第 28 条 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 有価証券(第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項第 2 号及び第 64 条第 1 項第 1 号において同じ)を除く。)についての同条第 8項第 1 号から第 3 号まで、第 5 号、第8 号又は第 9 号に掲げる行為一の2 (以下省略)

[第 2 条第 8 項 1 号から第 3 号まで、第 5 号・第 8 号・第 9 号につき以下抜粋]
一 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、市場デリバティブ取引(金融商品(第二十四項第三号の二に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係る市場デリバティブ取引(以下「商品関連市場デリバティブ取引」という。)を除く。)又は外国市場デリバティブ取引(有価証券の売買にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
二 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)又は代理(有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
三 次に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理
イ 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
ロ 外国金融商品市場(取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するものをいう。以下同じ。)における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引
五 有価証券等清算取次ぎ
八 有価証券の売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等
九 有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い

第一種金融商品取引業の範囲から金商法第 2 条第 2 項のみなし有価証券に係る各行為が除外されているが、当該除外規定から電子記録移転債権が除かれている除外の除外。

2. 電子記録移転権利の自己募集・私募

(1) 業規制の概要

現行の金商法上、株式や社債等の自己募集・私募業規制は存在しないが、集団投資スキーム持分の自己募集・私募については、以下のとおり業規制が存在する(金商法改正案において変更がない。)。

第 28 条 (1 項省略)
2 この章において「第二種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第 2 条第 8 項第 7 号に掲げる行為
二 (以下省略)

[第 2 条 8 項第 7 号につき抜粋]
この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為・・・・のいずれかを業として行うことをいう。
七 有価証券(次に掲げるものに限る。)の募集又は私募
ヘ 第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利
ト イからヘまでに掲げるもののほか、政令で定める有価証券

[第 2 条第 2 項第 5 号・第 6 号につき抜粋]
五 民法・・・に規定する組合契約、商法・・・に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律・・・に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律・・・に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭・・・を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
(省略)
六 外国の法令に基づく権利であって、前号に掲げる権利に類するもの

→ 金商法改正案上、集団投資スキーム持分をトークン化した場合でも、金商法第 2 条第 2 項第 5 号・6 号との関係では依然として集団投資スキーム持分に該当する。したがって、集団投資スキーム持分に係る自己募集・私募の業規制、すなわち第二種金融商品取引業の規制が適用されると思われる。

(2) 実務上の検討事項・疑問点等

集団投資スキーム持分の自己募集・私募には、適格機関投資家等特例業務8が認められているが、ST についても同様に認められるか。
→ 特に変更なく認められるようにも思われるが、第 1 項有価証券としての ST に特定業務が認められるかについては今のところ不明である。

仮に特例業務が認められる場合、どのような制限により、適格機関投資家の範囲を限定すれば良いのか不明である。

Ⅴ セキュリティトークンのセカンダリー取引に関連する規制

ST のセカンダリー取引に関して、当該トークンの売買の媒介を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法第 2 条第 8 項第 2 号、第 28 条第1 号)。

ST のセカンダリー取引に関して、「板取引」等の取引所を設置する場合、その態様により、金融商品市場の免許(金商法第 2 条第 14 項、第 80 条第 1 項)、又は私設取引システムに該当するものとして PTS 業務の認可(同法 第 80 条第 2 項、第 2条第 8 項第 10 号、第 30 条第 1 項)を受けることが必要になると思われる。
→ 現実的にはこれらの免許・認可取得は困難であり、また、PTS 業務については、取扱銘柄や取引方式に相応の制限がある。いずれにせよ取引所形式でのセカンダリー取引は実現困難と思われる。
→ このため、当初は、いわゆる店頭取引にて、金融商品取引業者がビッドプライス・オファープライスを提示して ST を販売する「販売所形式」でのセカンダリー取引になるのではないか、と推察される。

参考 金融商品市場

[金商法第 2 条第 14 項の抜粋]
14 この法律において「金融商品市場」とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう。

参考 PTS 業務

[金商法第 2 条第 8 項第 10 号の抜粋]
十 有価証券の売買又はその媒介、取次ぎ若しくは代理であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として次に掲げる売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行うもの(取り扱う有価証券の種類等に照らして取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場(第六十七条第二項に規定する店頭売買有価証券市場をいう。)以外において行うことが投資者保護のため適当でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)
イ 競売買の方法(有価証券の売買高が政令で定める基準を超えない場合に限る。)
ロ 金融商品取引所に上場されている有価証券について、当該金融商品取引所が開設する取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を用いる方法
ハ 第六十七条の十一第一項の規定により登録を受けた有価証券(以下「店頭売買有価証券」という。)について、当該登録を行う認可金融商品取引業協会が公表する当該有価証券の売買価格を用いる方法
ニ 顧客の間の交渉に基づく価格を用いる方法
ホ イからニまでに掲げるもののほか、内閣府令で定める方法

VI その他

金商法改正に関連して以下のような質問を受けた。なお、今回の改正はあくまで業法の改正であり、ST の私法上の位置づけ、発行手続きその他関連規定に直ちに影響を及ぼす訳ではない。

1. セキュリティトークンの移転の方法と私法上の有効性

匿名組合契約その他ファンド上の地位をトークン化して、トークンの移転によって、匿名組合契約上の地位を自由に移転できるか。

日本の民法上、契約上の地位の移転には、地位の譲渡人及び譲受人の合意と契約の相手方の承諾が必要となる。この点は改正法で何らの変更はなく、トークンの移転によって権利が自動的に移転する、ということが可能かはあくまで今後の解釈による。なお、実務上は何法を準拠法にするか、私法上どのような権利を有するかについては Code is Law として明確には規定しない対応になるのでは、と思われる。

2. セキュリティトークンの会社法上の発行手続き

会社法上の ST の発行手続きはどうなるか。
ST は、株式ではなく社債でもなく9、これらに対する会社法の発行手続規制がそのまま当てはまる訳ではない。匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、株主総会の決議は必要ではなく、但し、重要な業務執行であり取締役会の決議(会社法第 362 条第 4 項柱書)を経ることが妥当とは思われるが、今後の解釈による。

3. セキュリティトークンの税務上の取扱い

匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、ファンドと同様の取扱いになるのでは、と思われるが、税務専門家との協議が必要である。

4. 既存株主への説明義務

会社法上、既存株主に対して特段、説明義務等が求められる訳ではない。但し、穏当な経営という観点からは既存のステークホルダーの権利を害さないトークン組成が必要であろう。

5. 上場会社の適時開示

上場会社が ST を発行する場合、金融商品取引所における適時開示についても留意が必要である。いかなる情報を開示すべきかについては、適宜、各金融商品取引所と調整する必要があるだろう。

以 上


I 法案提出の経緯

1. 現行法の制定の経緯

現行の仮想通貨(暗号資産)規制は、2016 年 5 月に国会で制定され、2017 年 4 月に施行されたものである。マネーロンダリング・テロ資金供与対策に関する国際的な要請や、国内における仮想通貨交換業者(MtGox 社)の破綻を受け、仮想通貨の支払・決済手段としての性格に着目し制定されたものであり、主として、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)により①仮想通貨交換業者の登録制、及び②体制整備、分別管理、会計士による監査、利用者に対する説明義務等が規定され、③犯罪収益移転防止法により本人確認義務等のマネーロンダリング・テロ資金供与対策が規定されている。日本では同法に基づき 2017 年 12 月末までに仮想通貨交換業者 16 社の登録が認められた。

2. 改正法提出の経緯

その後、2018 年 1 月に Coincheck 社による不正アクセスにより、仮想通貨交換業者が管理する多額の顧客仮想通貨が外部流出する事案が発生したほか、金融庁による立入検査を通じて、多くの仮想通貨交換業者の内部管理態勢等の不備が把握された。また、仮想通貨は投機対象となっているとの指摘がなされ、証拠金を用いた仮想通貨の取引や仮想通貨による資金調達等の新たな仮想通貨関連取引が登場する動きも見られた。

このような状況を受け、2018 年 3 月に、「仮想通貨交換業等に関する研究会」が設置され、仮想通貨交換業等を巡る諸問題に関する制度的な対応について検討が進められた。同研究会では、計 11 回にわたる議論が重ねられ、2018 年 12 月 21 日には、仮想通貨に関する新たな法制度について検討結果を取り纏めた報告書1(以下「報告書」という。)が公表された。

報告書を受け、資金決済法、金融商品取引法(以下「金商法」という。)その他関係法律等を改正して、①暗号資産交換業者に関する規制の整備、②暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引に関する規制の整備、③店頭デリバティブ取引における証拠金の清算に係る規定の整備等を講じること等を内容とする法律案(情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案) が、本年 3 月 15 日に国会に提出された。 なお、改正案は、<https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/index.html>で入手可能 である。

3. 今後の想定

今後の想定としては下記のようなスケジュールになるのではないかと思われる。但し、以下はあくまで 2016 年、2017 年の法改正時、及び他の法令での当職らの経験からの推測である。

  1. 本年 5 月頃に国会において法律が成立
  2. 金融庁は、2019 年末頃に、改正法の下位規定である政省令をドラフトし、パブリックコメント手続。
    2020 年 3 月頃にパブリックコメント回答と最終版の政省令公表(なお、10 月にパブリックコメント、年内に政省令公表等の可能性もある)
  3. 改正法は、施行後 1 年以内(すなわち、2020 年 4 月または 5 月頃)に施行
  4. 暗号資産カストディ規制、デリバティブ商品に関する規制などは、法施行後 6 ヶ月間の移行期間

Ⅱ 資金決済法改正案の内容

1. 「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更

資金決済法改正案では、国際的な動向等をふまえ、「仮想通貨」の呼称が「暗号資産」に変更されている。

「暗号資産」の定義(資金決済法改正案第 2 条第 5 項)は、金商法で定める「電子記録移転権利を表示するもの2」が除かれている点以外は、現行法上の「仮想通貨」の定義と変更はない。

暗号資産該当性に関する議論

  • ステーブルコインの暗号資産該当性については改正案上明確化されておらず、解釈による。

  • 一般に、Non Fungible Token(NFT)は、現行法上、仮想通貨に該当しないと解釈されているが、この解釈には変更はないと思われる。但し、法文上の明確化等はなされていない。

2. 暗号資産交換業者を巡る課題への対応に伴う改正

(1)利用者財産の管理及び保全の強化(利用者の暗号資産の流出リスク・暗号資産交換業者の倒産リスクへの対応)

ア 利用者の暗号資産の管理
 暗号資産交換業者に対し、自己の暗号資産と分別して管理する利用者の暗号資産(以下「受託暗号資産」という。)について、原則として、「利用者の保護にかけるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法3で管理」することが求められている(資金決済法改正案第 63 条の 11 第 1 項)。
 なお、受託暗号資産についてコールドウォレットでの管理を求めるものであるが、「利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件に該当するもの」については、除外規定が適用され、ホットウォレットでの管理が許される。

イ 履行保証暗号資産の保持義務
 暗号資産交換業者に対し、上記アの除外規定が適用された受託暗号資産(=ホットウォレット管理の受託暗号資産)と同じ種類及び数量の暗号資産(以下「履行保証暗号資産」という。)を自己の暗号資産として保有すること、履行保証暗号資産以外の自己の暗号資産と分別して管理すること、「利用者の保護にかけるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理すること」が求められる(資金決済法改正案第 63 条の 11 の2 第 1 項)。

【イメージ】

履行保証暗号資産の保持に伴うリスク

  • 同種・同量の暗号資産を保持しないといけないところ、当該資産の価格変動リスクを暗号資産交換業者は負うことになる。ヘッジ市場が未整備の状況下、どのように当該リスクを管理するかは今後、問題となり得る。

ウ 利用者の金銭の信託義務
 暗号資産交換業者に対し、その管理する利用者の金銭(以下「受託金銭」という。)につき、内閣府令で定めるところにより信託会社等に信託することが求められる(資金決済法改正案第 63 条の 11 第 2 項)。
 受託金銭については、現行の資金決済法上、仮想通貨交換業者に、自己の金銭とは別の預貯金口座又は金銭信託で管理することが求められているが、同法施行時と比べ、受託金銭の額が高額になってきているほか、仮想通貨交換業者による流用事案も確認されていることから、報告書においても信託義務を課すことが提言されていた。

エ 受託暗号資産に係る優先弁済権
 暗号資産交換業者に暗号資産の管理を行わせている利用者は、受託暗号資産及び履行保証暗号資産について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有し、当該権利には民法第 333 条の先取特権の規定4が準用される(資金決済法改正案第 63 条の 19 の 2 第 1項及び第 2 項)。

(2)広告・勧誘規制の整備

資金決済法改正案では、暗号資産交換業者に対し虚偽表示、投機を助長させるような広告・勧誘等を禁止するほか、暗号資産交換業の広告等に関する規定を整備している(資金決済法改正案第 63 条の 9 の 2、第 63 条の 9 の 3)。

広告を行う際の表示義務(第 63 の 9 の 2)
① 暗号資産交換業者の商号
② 暗号資産交換業者である旨及びその登録番号
③ 暗号資産は本邦通貨又は外国通貨ではないこと
④ 暗号資産の性質であって、利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定めるもの
禁止行為(第 63 条の 9 の 3)
① 勧誘等に際し、虚偽の表示、又は暗号資産の性質その他内閣府令で定める事項(②において「暗号資産の性質等」という。)について、その相手方を誤認させるような表示をする行為
② 広告に際し、虚偽の表示、又は暗号資産の性質等について人を誤認させるような表示をする行為
③ 勧誘・広告等に際し、支払手段として利用する目的ではなく、専ら利益を図る目的で暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を行うことを助長するような表示をする行為
④ その他、暗号資産交換業の利用者の保護に欠け、又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとして内閣府令で定める行為

上表の表示義務や禁止行為のうち②又は③に違反した場合には、6 か月以下の懲役若しくは 50 万円以下の罰金、又はこれらの併科となる(資金決済法改正案第 112 条第 9号、第 10 号)。

なお、金融商品の販売等に関する法律改正案第 2 条第 1 項第 6 号により、「金融商品の販売」の定義に暗号資産を取得させる行為が追加されるため、暗号資産を取得させる行為を行う場合には、同法の適用対象となることについても留意が必要である。

(3)暗号資産カストディ業務に係る規制の整備

資金決済法改正案では、「暗号資産交換業」の定義に、業として、「他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合5を除く。)」(本稿において便宜上、以下「暗号資産カストディ業務」という。)が追加されている(資金決済法改正案第 2 条第 7 項第 4 号)。「業」該当性については、個別具体的に判断する必要があるだろう。

また、暗号資産カストディ業務に係る規制については、暗号資産交換業に係る規制のうち暗号資産の管理に関する規制(例:本人確認義務、分別管理義務等)が適用されると考えられるが、具体的には、今後、内閣府令によって定められることになるだろう。

暗号資産カストディ業務該当性に関する議論

  • 秘密鍵を預からないタイプのウォレットについては本規制の対象外と思われる。

  • マルチシグの一部のみを管理するウォレット業者について規制が適用されるかは不明。

(4)暗号資産交換業の登録、変更の届出に係る制度の整備

ア 登録拒否事由の追加
 資金決済法改正案では、暗号資産交換業者の登録拒否事由に、暗号資産交換業者をその会員とする認定資金決済事業者協会(以下「認定協会」という。)に未加入の法人であって、当該協会の規則に準じる内容の社内規則を作成していないもの、又は当該社内規則を遵守するための体制を構築していないものが追加された(資金決済法改正案第 63条の 5 第 1 項第 6 号)。

認定協会への事実上の加入義務

  • 今後、暗号資産交換業を目指す新規業者にとっては、認定協会である日本仮想通貨交換業協会への加入が事実上必須となる状況となると思われる。

イ 取り扱う暗号資産の変更等に伴う事前届出
 暗号資産交換業者がその取り扱う暗号資産の名称、又は暗号資産交換業の内容及び方法のいずれかを変更しようとする場合には、事前に届出をしなければならないこととされた(資金決済法改正案第 63 条の 6 第 1 項)。
 報告書でも、問題がある暗号資産を予め法令等で明確に特定することは困難であること、金融庁と認定協会が連携6して柔軟かつ機動的な対応を図ることが重要であることが指摘されていた。なお、現行の資金決済法上、取り扱う暗号資産等の変更については、事後届出の対象とされているが、金融庁は、これまでも実務上、取り扱う暗号資産の適切性等について事前の説明を求めてきた経緯があり、今回の改正案は実務上の取り扱いを法定化する内容と思われる。

(5)信用取引への対応

暗号資産交換業者は、利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、その契約に係る情報の提供等の措置を講じなければならない旨規定されている。当該措置の具体的内容は今後、内閣府令によって定められることになるだろう(資金決済法改正案第 63 条の 10 第 2 項)。

(6)暗号資産を用いた不公正な行為への対応

この点については、現行法上、特段規制は存在しないが、今回の金商法改正案において、不公正行為の禁止、風説の流布等の禁止、相場操縦行為等の禁止に係る規定が整備されている。詳細は本稿Ⅲ2 を参照のこと。

Ⅲ 金融商品取引法改正案の内容

1. 暗号資産を用いた新たな取引への対応

(1)ICO への対応

ア 「電子記録移転権利」の新設等
 金商法改正案では、以下のとおり、収益分配を受ける権利が付与されたトークンが有価証券に該当し、金商法の適用を受けることを明確化している。

「暗号資産」と「電子記録移転権利」の定義の相互関係

  • 資金決済法改正案において、暗号資産の定義から電子記録移転権利を除外することで、いわゆる決済型暗号資産に対する規制と証券型暗号資産に対する規制の重畳適用を回避しており、一応の棲み分けがなされているようである。

イ 開示規制関連
 金商法改正案では、電子記録移転権利は、第一項有価証券として整理されたことにより、株式等と同様に、企業内容等の開示規制の対象となることが明確化されている(金商法改正案第 2 条第 3 項・8 項、第 3 条)。

ウ 業規制関連

エ 暗号資産にて出資を受ける証券型暗号資産(STO)、ファンドに対する規制
 従前、本邦でのファンド規制は、①他人から金銭を集め、②事業に投資し、③保有者に対して配当等を行う、という仕組みの場合に適用されていたため、他人から仮想通貨を集めるファンドや証券型暗号資産(STO)には金商法規制は適用されないと解釈されていた。
 金商法改正案では、収益分配を受ける権利を有する者が出資した暗号資産は金銭とみなされることになったため、暗号資産を対価として出資を受けるファンドや証券型暗号資産(STO)に対して、金商法が適用されることとなった(金商法改正案第 2条の 2)。

(2)暗号資産デリバティブ取引等への対応

ア 定義の整理
 現行法上、仮想通貨等を原資産とするデリバティブ取引について特段の規定は設けられていないが、金商法改正案において、金融商品の定義に、暗号資産が追加され、暗号資産又は暗号資産に係る金融指標を原資産とするデリバティブ取引が、FX 取引等と同様に、金商法による規制を受けることが明確化されている(金商法改正案第 2 条第 24項)。

イ 業規制関連
 アによる整理に伴い、業として暗号資産等を用いたデリバティブ取引を行うことは、金融商品取引業に該当する行為として整理されている。
 これにより、業として暗号資産等を用いたデリバティブ取引を行う場合、FX 取引等と同様に、販売・勧誘規制等が適用されるほか、暗号資産等を用いたデリバティブ取引に関連する業務について説明義務等を負わせる規定が整備されている(金商法改正案第 43 条の 6、情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案要綱二の 1.(2))

2. 暗号資産を用いた不公正な行為への対応

暗号資産の売買その他の取引8、又はデリバティブ取引等について、不公正な行為を禁止する規定を、以下のとおり整備している。

  • 不正行為の禁止(不正の手段・計画・技巧、虚偽表示等による取引、虚偽相場の利用、金商法改正案第 185 条の 22 第 1 項)

  • 風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止(金商法改正案第 185 条の 23 第 1 項)

  • 相場操縦行為等の禁止(仮装売買、馴合売買、現実売買・情報流布・虚偽表示等による相場操縦、金商法改正案第 185 条の 24 第 1 項)

3. 顧客に関する情報を第三者に提供する業務等に係る規定の整備

金融商品取引業者の付随業務に、顧客に関する情報をその同意を得て第三者に提供することその他保有する情報を第三者に提供することであって、本業の高度化又は利用者の利便の向上に資するものが追加されている(金商法改正案第 35 条第 1 項第 16号)。

4. 電磁的記録に係る犯則調査手続等の整備

刑事訴訟法等と同様に、金商法の違反事案において、一定の電子的に保管されたデータの差押え等を可能とする規定が整備されている(金商法改正案第 210 条乃至第 226条)。

Ⅳ 経過措置

以下の経過措置が設けられる。

(資金決済法改正案)
  • 法律の施行の際に、現に暗号資産管理業務を行っている者は、法律の施行の日から起算して 6 ヶ月間(登録拒否処分等が合った場合にはその日まで)、法施行の際に現に行っている当該暗号資産管理業務の利用者のために、法施行の際に現に管理している暗号資産と同じ種類の暗号資産について、当該暗号資産の管理業務を行うことができる。
  • 上記の者が法施行日から 6 ヶ月を経過する日までに登録申請をした場合、申請についての登録又は登録拒否処分があるまで、又は施行日から起算して 1 年 6ヶ月までは、上記と同様の業務を行うことができる。

(金商法改正案)
  • 法律の施行の際に、新しく金融商品取引業となる業務を現に行っている者は、法律の施行の日から起算して 6 ヶ月間(登録拒否処分等が合った場合にはその日まで)、法施行の際に現に行っている当該新金融商品取引業の顧客を相手方として、法施行の際に現に管理している有価証券及びデリバティブ取引と同じ種類の有価証券及びデリバティブ取引について、金融商品取引業を行うことができる。
  • 上記の者が法施行日から 6 ヶ月を経過する日までに登録申請をした場合、申請についての登録又は登録拒否処分があるまで、又は施行日から起算して 1 年 6ヶ月までは、上記と同様の業務を行うことができる。

現行の資金決済法の経過措置と異なり、例えば、デリバティブの場合、「現に行っている顧客」に対して、「現に行っているデリバティブ取引と同じ種類のデリバティブ」についてのみ経過措置が適用される。そのため、新規顧客や新規仮想通貨デリバティブの取扱いができないことになると思われる。

また、現行の資金決済法の経過措置と異なり、1 年半の期間制限が設けられている。

本稿の内容は、関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
本稿に記載の見解は、当職らの現状の見解に過ぎず、当職らの見解に変更が生じる可能性があります。
本稿は、Blog 用に纏めたものに過ぎず、また一般的な情報提供であり、具体的な法的助言ではありません。具体的な案件については、当該案件の個別状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。

以 上


Ⅰ ブロックチェーンゲームとは

ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーンを活用したゲームであり、例えばアイテムがブロックチェーン上のトークンとして発行され(当該アイテムを、以下「トークン」といいます。)、当該トークンがブロックチェーンを利用して移転可能など、仮想通貨やトークンが活用されるゲームを指します。

世界でもっとも有名なブロックチェーンゲームはCryptoKitties1という2017 年11 月に発表されたゲームであり、一時期はイーサリウムネットワークのトランザクションの15%を占めるなど世界でブームを起こしました。

通常のゲームでは、①購入したアイテムはゲーム運営会社のものでありユーザーのものではなく、②資産の自由な移転、売却、貸与はできず、③時間をかけたデータでもゲーム配信終了後は単に消滅するのみ、であるのに対し、ブロックチェーンゲームでは、①ユーザーがトークン(ゲームアセット)の保有者であり、②当該トークンを自由に移転、売却、貸与でき、③サードパーティー等が自由にトークンを利用でき、④ブロックチェーンが存在する限り、記録されたデジタルアセットは永久に生き続ける、等の特徴を備え得る可能性があります2

日本でも、クリプ豚3、コントラクトサーヴァント4、My Crypto Heros5などのゲームがリリースされ、又はリリース予定となっており、今後、盛り上がることが期待されます。

Ⅱ 検討すべき法律と現時点の結論

ブロックチェーンゲームの組成にあたっては、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の仮想通貨規制(資金決済法のうち仮想通貨規制に関する部分を以下「仮想通貨法」といいます。)、資金決済法の前払式支払手段規制、刑法の賭博罪、景品表示法(以下「景表法」といいます。)など、様々な法律を検討する必要があります。
現在の当職らの考えを纏めると以下の通りとなります。

(1) 仮想通貨法

  • アイテムに代替性がないと認められる場合(1 つの商品としてみるべき場合)、資金決済法上の仮想通貨には該当せず、仮想通貨交換業の登録は不要
  • なお、non-fungible token を使用すれば必ず代替性がない、という訳ではなく、ゲームごとにその仕組み、アイテムの性質・内容等を確認する必要性

(2) 前払式支払手段規制

  • 円やドルで購入するゲーム内通貨は通常、自家型前払式支払手段発行の届出が必要
  • これに対し、1 ゲーム内通貨が 0.01Ether のように購入価額が仮想通貨にリンクする場合、原則、前払式支払手段には該当しない
  • 100 円の時価に相当する Ether で 1 魔法石が購入できる等の場合、原則、自家型前払式支払手段に該当と思われる

(3) 賭博罪

  • ガチャでランダムにアイテムを購入し、そのランダムで得たアイテムを売却可能という場合、通常、賭博罪のリスクが高いと思われる
  • アイテム同士の合成によりランダムに新アイテムが登場し、その新アイテムが売却可能、という場合、財物である旧アイテムが消滅して掛金と見られる場合や、合成手数料が掛金と見られる場合、賭博罪のリスクが高いと思われる
  • 上記以外の仕組みでも賭博性については検討を要する。ゲームである以上、一定のランダム性は必ずあるが、どのような仕組みであれば賭博罪リスクが低いかについては慎重な検討を要する

(4) 景表法

  • ゲームの登録、ログイン、ランキングボーナス等で、トークンや Ether を配布する場合、トークン、Ether も「景品類」に該当しうることから、景表法の景品規制を踏まえて配布する必要性
  • 全員に配布のボーナス(総付景品)は取引価格が 1000 円未満の場合上限 200 円、1000 円以上の場合には取引価格の 20 倍まで。ランキング報酬等の場合、取引価格の 20 倍と10 万円の低いほうが上限
  • 取引価格は最低課金単位で考えることがまずは妥当

Ⅲ 法律の検討

以下、各法的問題点の検討をします。

1 仮想通貨法

(1) 問題となる仕組み

ブロックチェーンゲームでは、以下の仕組をとるケースが多く見受けられます。
① アイテム等に対応したトークン(いわゆるゲームアセット)が発行される
② 運営会社はユーザーに当該トークンを Ether 等の仮想通貨を対価に販売する
③ トークンは②のほか、運営会社から無償配布され、ゲームプレイで入手できる場合がある
④ 入手トークンはブロックチェーン上で自由に移転可能
⑤ 入手したトークンを、他のプレーヤーが保有する Ether 等と交換できるサイトが提供される。同サイトは多くの場合は運営会社が提供するサイトであり、運営会社は交換の媒介時に手数料をとる

(2) 問題の所在

仮にトークンが仮想通貨法上の「仮想通貨」に該当するとされた場合、前述(1)②のようにトークンを販売する場合は販売者が、前述(1)⑤のようにトークン売買のプラットフォームを運営する場合にはプラットフォーム運営者が、原則として「仮想通貨交換業」の登録を受ける必要があります。

この仮想通貨交換業の登録は、相当のコストと時間がかかるとされており、ゲームのためだけに登録を受けることは、通常、現実的ではありません。

仮想通貨法上、「仮想通貨」の定義はかなり広く定義されており、ブロックチェーンゲームのトークンも仮想通貨に該当するのではないか、その場合CryptoKitties のようなゲームを日本で販売することは難しいのではないか、と考えられていました。

参考
仮想通貨の定義(資金決済法 2 条 5 項)
1 号仮想通貨の定義

「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

2 号仮想通貨の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

仮想通貨交換業の定義(資金決済法 2 条)
この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。

(3) 現在の考え方と運用

この点、幾つかの案件で関連当局とも相談をしましたが、現在、ERC721 トークンのようにnon-fungible(非代替)のトークンの場合、法令上は明文の根拠はないものの、「仮想通貨」に該当しないケースがあると解釈されているようです。

これは通常「通貨」というものは、どの 100 円玉でも 100 円である、というように代替性を有するのに対して、例えば、ゲームキャラで 100 万種類の猫がおり、その猫 1 匹 1 匹のデータが異なっている、という場合、それは「通貨」とはいえず、むしろ 1 つ 1 つが個別の商品とみるべきという解釈のようです。

ただし、あらゆる non-fungible トークンが「仮想通貨」に該当しない、と解釈されている訳ではなく、また明確な判断基準が存在するわけではありません。例えば、ゲーム内に「織田信長」が 10 体、100 体、1000 体いてそれが同一ステータスの場合は代替性があるといえるのではないか、他方、名称は「織田信長」であるが、武力や統率力などのデータが一体一体微妙に異なっていれば代替性がないといえるのか等、悩ましい問題となります。

そのため、現在は、ブロックチェーンゲームの各アイテムをトークンで発行する場合、仮想通貨該当性については当局に一旦、確認をとることが望ましいと考えられます。

2 資金決済法(前払式支払手段)

(1) ゲーム内通貨の販売と前払式支払手段

ブロックチェーンゲームの中には、スタミナ回復やアイテム購入のために、ゲーム内通貨を販売するものがあります。円やドルで購入するゲーム内通貨は、多くの場合、自家型前払式支払手段に該当し、同手段発行の届出が必要となります(資金決済法第 3 条、第 5 条)。

(2) ゲーム内通貨の仮想通貨での販売

ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内通貨が Ether などの仮想通貨で販売される場合があります。

この点、資金決済法第 3 条第 1 項の前払式支払手段の定義上「金額に応ずる対価を得ては」と記載され、Etherは「金額」に該当しないと思われます。よって、仮に1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が仮想通貨にリンクする場合には、同ゲーム内通貨は原則として、前払式支払手段には該当しないと思われます。

他方、1 ゲーム内通貨が、100 円の時価に相当する Ether で購入できるというケースの場合、これは 100 円という「金額」を単に Ether で支払っているに過ぎないため、前払式支払手段の「金額」の定義に該当すると思われます。

第 3 条(定義)
1 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
① 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。) により記録される金額 (金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。) に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
② 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

4 この章において「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者(次条第五号及び第三十二条において「密接関係者」という。)を含む。以下この項において同じ。)から物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5 この章において「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

3 賭博罪

(1) 総論

刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。

この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大 4 年 10 月 16 日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

また、金銭のみならず「財産上の利益」が賭博の対象となるところ、米、土地、借金の棒引きなど全て賭博罪の対象となる「財産上の利益」に該当し、仮想通貨も当然に財産上の利益に該当すると考えられます。

第 185 条(賭博)
賭博をした者は、50 万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

第 186 条(常習賭博及び賭博場開張等図利)
1 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

(2) ガチャ

多くの従来型のスマホゲーム(以下「従来型ゲーム」といいます。)では、ガチャという仕組みで、ゲーム内通貨を消費し、ランダムに貴重なアイテムを得られる、という仕組みが取られます。この点、従来型ゲームにおけるガチャは専らプログラムによって排出されるアイテムが決定されることからすれば、(1)①偶然性の要件は満たしていると考えられます。また、ゲーム内アイテムについても、前述(1)記載の「財産上の利益」の解釈に加え、RMT 等によりアイテムが金銭に換金できる場合には「財産上の利益」6であると評価しやすくなります。もっとも、現状、ゲーム運営会社は自らアイテム等を換金できる場を提供せず、また RMT の利用を禁止する等の措置を講じることで、ゲーム内アイテムが「財産上の利益」に該当するという評価を受けないようリスクヘッジしていると考えられます。

他方、ブロックチェーンゲームでも同様のガチャの仕組みを取ることが考えられますが、ブロックチェーンゲームで得られるアイテムを外部に売却可能とする場合、当該ガチャは①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、に一般的に該当し、賭博罪リスクが高いと思われ留意が必要です。

(3) 合成

ブロックチェーンゲームでは、合成、具体的には 2 つのキャラクターから新しい一つのキャラクターがランダムに誕生する、という仕組みがとられる場合があります。

合成がランダムであり、かつ新規で得られるアイテムが転売可能である等、財物性がある場合、賭博罪リスクを考える必要があります。この点、何らかの掛金がある場合、例えば元のアイテムが消失する、合成に手数料が必要である等の場合、掛け金を賭けて新たな財産が得られる賭博である、とされる可能性が考えられます。

他方、元のアイテムが消失しない、かつ手数料を取らない又は手数料はガス代等コスト分のみである場合には、一定の財産を賭けていない(得喪がない)という議論もあり得るところであり、合成に関する賭博罪リスクは低いと思われます。

(4) 全体

仮にガチャ要素を排除し7、合成で元のアイテムも消失せず、かつ合成手数料も徴収しない仕組みとした場合8でも、ゲーム全体としてみた場合に、賭博に該当すると指摘される場合はありえます。

例えば、将来高値が付くかどうかわからない初期アイテムを Ether で入手し、合成結果の如何によって、初期アイテムより高く売れる(儲かる)、又は初期アイテムより安くしか売れない(損する)という結果を生じるときには、なお財物の「得喪」有りと評価される可能性は否定できません。

通常、ゲームには一定のランダム性がある以上、トークンを外部売却できる場合、ゲーム全体としてみた場合の賭博リスクは否定できませんが、他方、そもそもあらゆる経済活動にはランダム性があるところ、ランダム性ある全ての経済活動を賭博と考えることは妥当ではないと考えます。

いかなる行為が賭博と評価されるかについては結論を出すことは困難ですが、ゲーム全体としての投機性(射幸性)の程度を見る必要があると思われ、社会的妥当性がある経済活動か、レピュテーションの観点も含めて慎重に検討する必要があると思われます。

4 景表法

(1) 初めに

近時のゲームでは、新規顧客を勧誘するためにアイテムを配布し(新規ボーナス)、既存プレーヤーにゲームを継続させるためにアイテムが配布され(ログインボーナス)、各種イベントの達成度に応じてアイテムが配布されるほか(達成ボーナス)、プレーヤーを競わせるために各種ランキングを設けてランキングに応じてアイテムが配布されることがあります(ランキングボーナス)。

弊所においても、ブロックチェーンゲームに関して、このようなボーナスとしてトークンを配布したい、特にランキングボーナスの場合、上位者に Ether などの仮想通貨を付与できないか、というご相談を受けることがあります。
これらの配布を行う場合、景表法との関係を考える必要があります。

(2) 景表法について

景表法では、過大な景品類の提供を禁止しています。
「景品類」とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。

また、経済的利益には

(a) 物品及び土地、建物その他の工作物
(b) 金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
(c) きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)
(d) 便益、労務その他の役務

を幅広く含みます。

「過大」性については、景品類の提供方法(一般懸賞、共同懸賞、総付懸賞)により異なりますが、ゲームに関連すると思われる範囲では下記の基準によります。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること。 購入者全員にプレゼント、来店者全員にプレゼントなど 取引価格が1000円未満 – 景品類上限は200 円

取引価格が1000円以上 – 景品類上限は取引価額の10分の2
一般懸賞 商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること 店舗での抽選
クイズ大会、ゲーム大会
取引価額が5000円未満 – 取引価額の20倍

取引価額が5000円以上 – 10万円

いずれも総額上限として売上予定総額の2%

なお、そもそも提供する Ether やトークンが③「経済上の利益」に該当するか問題となりますが、前述③(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、Ether のように財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されており、これらには原則として景表法の適用があると考えて良いと思います9

(3) ログイン報酬と景表法

ログインをした場合に報酬として Ether やトークンを付与するゲームを考えた場合、当該報酬が、「景品類」に該当するか検討する必要があります。

まず、そもそもログイン自体は課金には直結せず、「取引」を条件とした「経済上の利益の提供」には該当しません。

もっとも、公正取引委員会の景品類等の指定の告示の運用基準10によれば、「取引」を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、取引の相手方を主たる対象として行われるとき11は、取引付随性を充足するとしています。この点、ログイン報酬は、取引(課金)対象者であるユーザーに当該アプリを継続して利用してもらい、課金を行ってもらうための誘引として提供されているとも考えられ、この場合には、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、に該当するように思われます。他方、無料で実施できるダウンロード報酬やログインボーナスには取引付随性および取引価額は観念できないものとして、景表法の規制は適用されないとする考え方もあるようです12

仮に、上述のとおり①顧客誘因性、及び②取引付随性を充足すると考える場合、通常、Etherやトークンは③物品や金銭などの経済的利益に該当すると考えられますので、ログイン報酬は「景品類」に該当することになります。そして、この場合、ログインだけで景品が貰えることは総付懸賞であると考えられるため、ログイン報酬としてトークンを付与する際には、1 日あたり 200 円以内など、景表法の範囲を守って付与する必要があります。

もっとも、この場合でも、Ether など市場価額が存在する「景品類」以外の「景品類」について
は、その価額をどのように算定するか別途検討を要すると思われます。

(4) ランキング報酬と景表法

ランキング上位者に Ether や非常に強力なトークン等を付与することが考えられます。

従来型ゲームでも、ランキング上位に強力なアイテムや無償ジェムを付与することはしばしば見受けられます。

仮に当該ゲームにおいて、ランキング仕様が顧客を誘引する手段になっていると客観的に判断され(①顧客誘引性を充足)、また課金することでランキング報酬を受けることが可能又は容易になる場合(②取引付随性を充足)には、ランキング報酬は「景品類」に該当するものと思われます(なお、(③「経済上の利益」に関しては前述(3)のとおり)。そして、ランキング報酬の付与は、特定の行為の優劣による「景品類」の付与といえ、「一般懸賞」であると考えられます。

従って、従来型ゲームにおいてランキング報酬を付与する場合、その多くは一般懸賞の制限に服するものと考えられますが、従来型ゲームでは、付与するランキング報酬にはそもそも経済的価値がない、又は経済的価値が余り高くないと算定した上で付与しているのではないかと思われます。

ブロックチェーンゲームにおいても、ランキング報酬を付与する場合には、従来型ゲーム同様に、一般懸賞に係る制限に服することとなるケースが多いものと考えられます。もっとも、ブロックチェーンゲームの場合、Ether や第三者との間で取引可能なアイテム等を報酬として付与する場合が想定され、その場合、Ether は当然ながら、アイテム等にも市場価額が付く可能性があり、従来型ゲーム以上に、懸賞における景品類の上限価額に留意する必要があります。
この点、懸賞における景品類の価額は取引価額に応じて決定されるところ、取引価額が幾らかの算定は困難ですが、一応の考え方としては、最低課金価格を取引価格とし、その 20 倍又は10 万円までの低い方を報酬として出す、と考えることになるのではと思います。

留保事項

本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。

本書は Blog 用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

以 上


8月4日~8月13日にかけて、暑い日本を脱出してバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ベラルーシ、ウクライナに行ってきました。

同地でブロックチェーン企業、弁護士、政府関係者などに会ってきたので、備忘です。

[エストニア]

(全般)

IT大国、IT技術の導入について積極的

同国FSAもフレンドリー、例えばE residency。

但し、世界に電子大国と言っているほどにはブロックチェーン企業は多くない

クリプト特有の規制はない

Fiatとクリプトの交換にはマネロン規制が適用される。この登録が必要だが登録自体は簡単(24時間、300ユーロ?)

クリプト関係について銀行口座開設は困難。ICOを行っても銀行口座が開設できる可能性は10%程度。
銀行ではなくpayment institutionなどを使用。

(ICO)

ICOについてはSecurity Law(証券法)の規制がかかる場合があるが、それ以外の規制はない。一般的な規制がかかる。

クラウドファンディングに規制はない

Security Lawの適用ある場合、Security Lawにaccredit investor(適格投資家)というスキームはない。
2.5M Euro以上の調達の場合にはSecurity Lawを遵守

ICOは盛ん。ICOコンサル等存在。

ICOに関するガイドラインを政府と一緒に作成中、ホワイトペーパーに最低限書くべき事項など

[ラトビア]

(全般)

FinTech、仮想通貨、ブロックチェーン、ICOについてはミーティングで聞いた限りでは特筆すべき点はないように思った。

クリプト特有の規制なし。Generalな規制は適用、マネロン規制も適用

エストニアに比べて保守的

ECBの規制の関係があり、クリプトについて銀行口座開設は困難。
銀行はクリプトにフレンドリーではない

e-money licenseの取得は容易(2ヶ月から3ヶ月)

ラトビアでは、大きなFinTech企業はない

(ICO)

Security規制を除き、ICO特有の規制なし

[リトアニア]

基本的にラトビアと同様の議論。保守性はエストニアとラトビアの中間

[ベラルーシ]

(全般)

IT企業の誘致のために、High Tech Park(HTP)という制度があり税率0%。クリプトからfiatに交換する際に1%の税率。従業員の雇用に際して月USD150のSocial Security Contribution

Employeeは収入に対して9%フラットのタックスレート

HTPに対しては事業計画を提出して、認可をとるのに2~3ヶ月(準備に弁護士報酬USD20,000など。事例による)

IT企業200社以上認可済み

全てのクリプト事業(マイニング、ICO、exchange、ATMなど)を既にHTPで合法化

EUの規制下にないのでクリプトでも銀行口座を開けやすい(ロシア系のAlfa Bankなど)

HTPに関してはcorruptionはない。我々の国はロシアやウクライナと違って仕事がしやすい、とのこと

ベラルーシ人はロシア入国やロシアで働くことに関してVISA不要とのこと

マルタは良いけど、ECBが厳しいし、ベラルーシに来てくれ、とのこと

(ICO)

ICOはHTPで合法化されている

ICOで調達したクリプトについてはフィアットに交換したい場合、High Tech Park内のexchangeでドルユーロベラルーシルーブルなどに交換すること(まだexchangeなし)が原則になると。但し、HTP登録の際の計画で他のexchangeを利用と記載して認められていれば他のexchangeでも交換OK

本年の10月、11月を目処に仮想通貨に関するsecondary legislationを出したい。AML/KYCなどの規制を含むが、ICOについても記載し、他国の情報も踏まえて世界をリードする規制としたい。日本の状況も知りたい。

HTPは観念上の概念であり、同所に登録した場合、ベラルーシ国中で勧誘可能

ただし、まだ現在はHTPでのICOの実施例はないとのこと

(感想)

Tax Benefit大きい。HTPの担当者やHTPの弁護士はかなり積極的であったが、ブロックチェーンスタートアップと話した際には現実には今はまだまだ難しいですよとのことであり、各種実例を見てから検討か?

[ウクライナ]

(全般)

ロシア、ウクライナでは仮想通貨に関する政府の規制が厳しい

ブロックチェーンエンジニアは多いが、キプロス、マルタ、シンガポールなど海外を登録地にして起業。実際の運営をキエフやモスクワ、サンクトペテルブルクなどで行う、というパターンが多い。その方法自体は問題視されていない。

Corruptionについて聞いたところ、この分野についてはcorruptionはない、とのことであった

(ICO)

規制が厳しい

画像はベラルーシHTPのプレゼン資料の一部です。大きくてすみません・・・

I 初めに

仮想通貨ビジネスの進展に伴い、近時、「仮想通貨に関するファンド」を設立したいというご相談が増えてきております。

しかしながら、「仮想通貨に関するファンド」(以下「仮想通貨ファンド」)という場合、その内容としては①ファンドの調達手段が Bitcoin や Ether などの仮想通貨である場合、②ファンドの投資対象が仮想通貨である場合(例えば ICO トークンへの投資、アルトコインへの投資、主要コインのアービトラジ取引など)、③投資家の得る権利がトークン化されている場合、など様々な場合があり、それぞれの仕組みに応じて異なった法規制が適用されます。

そこで、以下、それぞれの形態ごとに適用ある規制の概要を検討します。なお、本書では「仮想通貨ファンド」を検討対象としているため、いわゆる通常のファンド(金銭出資×有価証券等の運用)は下記Ⅶ1 を除き検討の対象外とします。

Ⅱ ファンドの調達手段に関する規制

1. ファンド調達手段が金銭(Fiat Currency)の場合の規制

ファンドの調達手段が金銭(Fiat Currency)である場合、その出資を自ら募る行為(自己募集)(金融商品取引法(以下「金商法」)第 2 条第 8 項第 7 号)は、原則として、第二種金融商品取引業(以下「第二種金商業」)(同法第 28 条第 2 項)に該当し、第二種金商業の登録なくして自己募集はできません。これはファンドの調達手段が金銭であり投資対象を仮想通貨とする仮想通貨ファンドの場合も同様です。

ただし、かかる金商法のファンド規制には幾つかの例外が設けられており、例えば①他の第二種金商業者に対して募集の取扱いを全面的に委託する場合1や、②適格機関投資家等特例業務(金商法第 63 条)として実施する場合には第二種金商業の登録は不要となります。

このうち②適格機関投資家等特例業務とは、ファンドの出資者の全てが適格機関投資家である場合、又は出資者に1人以上の適格機関投資家と 49 人以下の投資判断能力を有すると見込まれる一定の者が含まれる場合に、金融庁に対する簡単な届出のみでファンド業務を行える、という制度となります。ただし、同制度は平成 27 年度金商法改正で規制が強化されており、例えば同規制強化前は 49 人以下の投資家の範囲が一般の個人投資家でも良かったのに対し、同規制強化後は、投資性金融資産(有価証券等を指し、仮想通貨は入りません)の合計額が 1 億円以上であり、且つ、証券口座開設後1年を経過している者など一定の富裕層に限って投資が認められていることに留意が必要となります(https://www.fsa.go.jp/ordinary/tekikaku_kyouka/index.html 参照)。

2. ファンド調達手段が仮想通貨の場合の規制

これに対して、ファンドの調達手段が Bitcoin や Ether などの仮想通貨である場合、その出資を募る行為について金商法が適用されることは原則としてない、と解されます。

これは、金商法のファンド規制は、出資者が金銭又は類似するものとして政令で定めるものを拠出する場合を規制し、類似するものとしては有価証券、為替手形、約束手形などが上げられているところ、現行法上は、Bitcoin や Ether などの仮想通貨はこれらのいずれにも該当しないためです。

ただし、「脱法的な場合」には規制対象となり得、例えばですが同一主体や関連主体がファンド出資のために Bitcoin を販売し、当該 Bitcoin でファンドへの拠出を受ける等の場合、実質的に金銭の出資を受けているとして規制が適用される場合は考えられます。

Ⅲ ファンド投資対象に関する規制

1. 投資対象が主として有価証券やデリバティブの場合の規制

金商法上、投資対象が主として「有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」であるファンドについては、その自己運用行為(金商法第 2 条第 8 項第 15 号)につき「投資運用業」の登録が必要となります(金商法第 28 条第4項)2。この「主として」とは、基本的に運用財産の 50%超を意味します3

ただし、ファンドの資金調達が仮想通貨で行われている場合、主として有価証券やデリバティブ取引に係る権利を投資対象とする場合でも「次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用」を行っているわけではないため、自己運用行為には該当せず、金商法の適用は原則としてないと解釈されます。

自己運用行為の定義(金商法第 2 条第 8 項第 15 号)
金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うこと(第 12 号及び前号に掲げる行為に該当するものを除く。)。

イ 第 1 項第 14 号に掲げる有価証券又は同項第 17 号に掲げる有価証券(同項第 14 号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)に表示される権利
ロ 第 2 項第 1 号又は第 2 号に掲げる権利
第 2 項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利

2. 投資対象が主として仮想通貨の場合の規制

投資対象が主として仮想通貨の場合、「有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」を行っているものではないため、自己運用行為(金商法第 2 条第 8 項第 15 号)には該当せず、運用に関して金商法の適用はありません。この結論は、金銭によって資金調達を行っていたか、仮想通貨によって資金調達を行っていたかによって異なるものではありません。

また、仮想通貨の自己運用に相当する行為は、仮想通貨の売買又は交換を行うものですが、投資目的で行う取引であるため一般的には「業」には当たらず、仮想通貨交換業(資金決済法第 2 条第 7 項)には該当せず、資金決済法の適用もないと考えられます。

なお、第三者がファンドから仮想通貨への投資運用行為の委託を受けて行う、いわゆるアセットマネジメント業務については、「業」として行う「仮想通貨の売買」、「交換」又はその「代理」として仮想通貨交換業に該当するか否かは問題となり得ます。しかしながら、 金商法上は有価証券に対する投資一任運用行為は「投資運用業」に該当し、「有価証券の売買」又はその「代理」として第一種金融商品取引業に該当するとは解されていないこととパラレルに考えると、仮想通貨の場合も同様に消極的に解釈されるべきものと考えます。

Ⅳ 投資家の得る権利内容に関する規制

1. 金銭や仮想通貨の配当についての規制の有無

ファンド契約は、一般的には、匿名組合契約や投資事業有限責任組合契約、海外のパートナーシップ契約(以下併せて「組合契約」)を利用して組成され、投資家は、当該組合契約上の権利を有することになります。仮想通貨ファンドでは、①仮想通貨でファンドの出資を募り、その後、金銭での配当や元本償還を行う場合、逆に②金銭でファンドの出資を募り、その後、仮想通貨で配当や元本償還を行う場合、③仮想通貨でファンドの出資を募り、その後、仮想通貨で配当や元本償還を行う場合が想定されます。

なお、これらの行為が仮想通貨の売買や交換等として仮想通貨交換業の登録が必要とならないかも一応は問題となり得ますが、例えば金銭でファンドの出資を募り即座に仮想通貨で元本償還をするような「脱法的」な場合を除き、文言上、仮想通貨の売買でも交換でもなく、資金決済法の適用はない、と解釈して良いのではないかと思われます。

2. トークンが発行・付与される場合の規制

「仮想通貨ファンド」が希望される場合、上記のような組合契約上の権利をトークン化し、ファンドがトークンを投資家に対して発行・付与することを希望されることがあります。

この場合、実質的には、電子的にトークンと呼ばれる証票を発行し、それを販売することによって公衆から資金(金銭又は仮想通貨)調達を行う行為(Initial Coin Offering)に相当するスキームと判断されることがあり得ます。そのように解釈される場合、トークンの発行・付与行為は、仮想通貨の交換等にあたり、仮想通貨交換業に該当するとして、資金決済法の適用を受けます。ただし、当該行為を仮想通貨交換業者に委託する場合には、不要となります。

なお、金商法上の有価証券であるファンドの権利をトークン化し、転々流通とさせる場合、当該流通市場を提供する者について、私設取引システム(PTS)運営業務の認可(金商法第 2 条第 8 項第 10 号、第 30 条第 1 項)が必要となりうることに留意が必要です。

Ⅴ ファンド組成スキームについて

1. 投資対象を仮想通貨とする場合のファンドのスキーム

ファンド契約は一般的には、上述のとおり種々の組合契約を利用して組成され、日本ではPEファンドやベンチャーキャピタルファンド等において、投資事業有限責任組合契約を利用して組成されることが多くみられます。

ただし、投資事業有限責任組合は行うことができる事業内容が法令上定められており(投資事業有限責任組合契約法第 3 条第 1 項)、仮想通貨や ICO トークンの取得及び保有はこれに含まれていません。したがって、投資対象を仮想通貨とする場合には、投資事業有限責任組合を用いることはできず、匿名組合契約を利用することが考えられます(→合同会社と匿名組合を利用する一般的に GK-TK スキームと呼ばれる方式)。

2. トークン化を行う場合のファンドのスキーム

組合契約上の権利をトークン化し、ファンドがトークンを投資家に対して発行・付与する場合(上記Ⅳ2 参照)、単に既存の契約上の権利をトークン化するのみで機能するか検討の必要があるように思われます。

例えば、日本法上の組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約の権利をトークン化した場合、組合契約等の対抗要件は確定日付ある通知や承諾、動産債権譲渡特例法の登記等によるところ、トークンの譲渡のみで権利が移転するという仕組みが現実的に機能するか、他方、例えば特に準拠法を指定せず The DAO のようなファンドとして組成することも考えられますが、そのような仕組みの本邦での税務・会計上の取り扱いはどうなるか、など様々な問題点を検討する必要があるように思われます。

Ⅵ まとめ

以上をまとめると下記の表になります。

調達手段主たる運用方法投資家の権利ファンド業規制除外事由
金銭仮想通貨やICO 出資※1トークン化なし第二種金商業他の第二種金商業者に対する募集の委託、適格機関投資家等特例業務
トークン化あり※2第二種金商業なおセカンダリーに関し PTS 認可が必要となりうる。当初の販売に関し他の第二種金商業者に対する募集の委託、適格機関投資家等特例業務。
仮想通貨交換業他の仮想通貨交換業者に対する仮想通貨の販売等の委託
仮想通貨有価証券やデリバティブ取引トークン化なし原則規制なし
トークン化あり※2仮想通貨交換業他の仮想通貨交換業者に対する仮想通貨の販売等の委託
仮想通貨やICO 出資※1トークン化なし原則規制なし
トークン化あり※2仮想通貨交換業他の仮想通貨交換業者に対する仮想通貨の販売等の委託

※1 この場合には投資事業有限責任組合を選択することはできない。
※2 対抗要件など各種スキームの検討が必要

Ⅶ 補足

1. 仮想通貨関連企業・ブロックチェーン関連企業への投資

金銭等による資金調達を行い、主として仮想通貨関連企業・ブロックチェーン関連企業の「株式」に投資するファンドを「仮想通貨関連ファンド」と呼ぶこともありますが、このようなファンドは、主として「有価証券」に投資するファンドとして、本文Ⅱ1 及びⅢ1 の考え方により、その自己募集行為につき原則として第二種金商業が、自己運用行為につき原則として投資運用業の登録が必要となります。

2. 社内ファンド

企業等が自らの資金を仮想通貨関連企業・ブロックチェーン関連企業の株式に投資する「社内ファンド」を立ち上げる場合も「仮想通貨関連ファンドを立ち上げ」等と言われる場合もあるようですが、これらは金商法第 2 条 8 項第 15 号に定める「次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用」には当たらないため、金商法上のファンド規制の適用を受けることはありません。

留保事項

本書は Blog 用に纏めたものに過ぎません。具体的案件に際して法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、想定される各種スキームを踏まえて、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。具体的案件に際しては更なる検討が必要となりえます。

以 上


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