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備忘用リンク集
(1) SEC Chairman Jay ClaytonのICOレター (Dec. 11, 2017)
https://www.sec.gov/news/public-statement/statement-clayton-2017-12-11
Statement on Cryptocurrencies and Initial Coin Offerings

(2) Dec. 11, 2017
Company Halts ICO After SEC Raises Registration Concerns
https://www.sec.gov/news/press-release/2017-227

後で何かの参考になるかと思い(1)のうちの「CryptocurrencyまたはICOへの投資機会を検討中の投資家が自ら問うべき確認事項」を内部で訳出したもの(番号は原文にはなし)

  1. 実際の契約の相手方は誰か?
  2. 誰が商品を発行し、スポンサーしているのか、スポンサーのバックグラウンド(概要)、スポンサーは商品の網羅的かつ完結した説明・要綱を提供しているか?スポンサーからは書面にて明瞭なビジネスプランが提供されていて、自身これを理解できているか?
  3. 誰が商品を宣伝またはマーケティングしているか、当該売出人のバックグラウンドは?また、当該売出人は商品を販売するライセンスを有するか?当該売出人は商品を宣伝することによる報酬を得ているか?
  4. ICO企業の現実の所在地は?
  5. 自身の払込金は実際どこに移動し、その資金使途は?自身の払込金が他の者への「現金払戻」に使用される場合が有り得るか?
  6. 投資することによって自身が手にするのは具体的にどのような権利か?
  7. 財務諸表は作成されているか?作成されている場合は監査済みか?
  8. 取引のデータが存在するか?存在する場合、当該取引データを検証する方法は?
  9. 私自身の投資持分は、いかなる方法で、いつ、いかなる費用を払えば、売却・処分できるか?たとえば、私自身トークンやコインを会社に返還する権利や払い戻しを受ける権利を持っているか?私はコインやトークンを転売することができるか?転売可能の場合、転売に何か制約・条件が付されているか?
  10. デジタルウォレットが関係する場合、鍵を紛失するとどうなるか?紛失後も投資持分にアクセスできるか?
  11. ブロックチェーンが使用されている場合、プライベート・ブロックチェーンか、パブリック・ブロックチェーンか?コードは公開され、独立したサイバーセキュリティ監査が行われているか?
  12. 募集は証券法を遵守すべく構成されているか?もし証券法に抵触する可能性が有る場合、ICO企業の安定性と私自身の投資価値にどのような影響が有るか?
  13. 詐欺、ハッキング、マルウェア、またはビジネスの見通しが悪化した場合、法的保護が利用可能かどうか。何か問題が生じた場合、私の投資を払い戻す責任は誰にあるのか?
  14. 自身が法的権利を有する場合、これを現実に執行できるのか?この権利が侵害された場合、当該権利侵害につき、自身に対し補填するための十分な資金があるか

I 始めに

ビットコインに関して取引所が関連する犯罪を大きく分けると

① 取引所に対する犯罪
② 取引所のユーザーに対する犯罪
③ 取引所ユーザー以外への犯罪で取引所をその後の手段として利用する犯罪の 3 つが考えられる。

また、
④ ①や②に類似の犯罪として個人のウォレットに仮想通貨を保管していた場合のハッキングもある

それ以外の仮想通貨関係の犯罪としては
⑤ 単なる詐欺 – 全く存在もしていない仮想通貨を値上がりすると言って販売する等
⑥ 単なる犯罪 – ランサムウェアの身代金として仮想通貨を要求、薬物・ポルノを仮想通貨で販売等
⑦ 犯罪か否かは不明だが一部から問題視される取引 – ネットワーキングビジネスでの販売、High Yield Investment Program(HYIP)等と呼ばれる取引

等、様々なものがある。今回のセミナーでは①~③を主として取り上げる。

Ⅱ 取引所に対する犯罪

1. 内部犯行と外部犯行

内部犯行

取引所の内部者が自社のビットコイン、又は顧客からの預かり資産であるビットコインを横領する

外部犯行

取引所に外部からハッキングをし、取引所から仮想通貨を盗み出す(外部のアカウントに送付させる)。

2. 内部犯行の例

2013 年 2 月 (MtGox 事件)
当時世界最大の取引所 MTGOX が破綻。当初は外部からのハッキングと報道されていたが、実際には内部犯行であったよう。
→ 報道等による。但し、刑事裁判手続中であり、被告は無罪を主張している。また外部に犯人がいる等の報道もされている。

2016 年 4 月
両替所 ShapeShift のホットウォレットから約 2,300 万円の通貨が流出、この事件では内部の元従業員による犯行であったことが判明?

3. 外部犯行の例

外部からの犯行については、取引所は多額のビットコインを保管しており、毎日のようにハッキング攻撃のトライを受けているという状況。これを水際で防いでいる。

筆者の知る限り日本の著名取引所で大きなハッキング被害があった事例はない。海外事例は例えば下記のような例。このうち The DAO や Bitfinex は著名事例。小規模な事例は多数あるものと思われる。

2016 年 5 月
香港にて運営を行う Gatecoin が 200 万ドル相当のビットコイン、イーサリウムのハッキング被害

2016 年 6 月(The DAO 事件)
正確には取引所ではないが、The DAO という仮想通貨を利用したドイツの自律型ファンド(150 億円以上を調達し、非常に期待されていたプロジェクト)が、2016 年 6 月にイーサリウムの脆弱性を付かれて 3 分の 1 のコインを盗まれ、その後、破綻

2016 年 8 月(Bitfinex 事件)
Bitfinex という当時ドル取引高世界 No1 の香港の取引所が 2016 年 8 月に119,756BTC(約6347 万ドル、約 71 億円)のハッキングを受けた。
なお、被害部分を額に比べて相当程度の資本や収益があったこと等から、債権者の同意を得て被害相当部分に関して独自トークンを渡す、Equity 化する等で営業を継続。その後の収益により現在は損害部分は回復したよう。

2017 年 4 月
韓国のビットコイン取「YAPIZON」がハッキング被害。ユーザーの資産の 37%にあたる3816.2028 ビットコイン(約 500 万ドル、約 5.6 億円)を盗み出された。上記 Bitfinex の例と同様のトークンを出す方法で考えているが、Bitfinex との金融ステータスとの違いから議論が大きいよう。

2017 年 7 月
韓国最大の取引所が「Bithumb」がハッキングされ、多数のユーザーアカウントが漏洩し、100万ドル(約 1 億 1000 万円)分以上の仮想通貨が盗み出された。

2017 年 11 月 19 日
USD Tether という USD にペッグする仮想通貨 3100 万ドル分がその発行者であるテザー社の金庫ウォレットから不正に外部に送付される → 発行者がいる案件であり、ハードフォークで対応し大きな問題はなかったよう。

4. 対策・防止策

ハッキングは取引所として会社破綻に繋がりうる重要な事象である

通常の取引所であれば、これらに対しては細心の注意を払って対応する必要がある

内部犯行対策
権限の分配、信頼できる者の採用、システム設計(ログの保持、コールドウォレットの利用など)、帳簿作成、バグ対策、内部監査、外部監査、不正サイトへのアクセス及び不正行為検出・記録・アラート通知体制

外部犯行対策
システム設計(セキュリティー対策、コールドウォレットの利用等)、バグ対策(常に最新の情報の入手、対応等)、帳簿作成(ずれるとすぐ判る)、定期的なチェック、システム監査など

*参考(権限の分配)
例えば仮想通貨法では、業態によるものの取締役会の設置、営業と管理の分離、コンプライアンスオフィサーの設置、内部監査室の設置、外部監査(会計監査、分別管理監査)などで二重三重の権限分離を要求

*参考(コールドウォレット)
インターネット等のネット環境に接続していないウォレット。ネットに接続していないため外部からハッキングされる可能性が極めて低い。
多くの取引所では例えば顧客預かり資産の 80~90%等をコールドウォレットに保管

コールドウォレットからホットウォレット(ネットに繋がったウォレット)への移動の回数は可能な限り低くする(運用によるが月に 1 度~年に 1 度など限定的)

Ⅲ 取引所ユーザーに対する犯罪

1. ユーザーのパスワード等の盗難

取引所ユーザーのアカウントがハッキング等され、無権限の者が当該ユーザーに代わって取引所にログインし、コインを送付する等の事案がある

会社の内部犯行
自社の内部者が会社のアカウントとパスワードを利用して、会社の PC で取引所からコインを送付

外部犯行(外部からのハッキング)
総当り攻撃、ウィルス、キーロガー、メールのハッキング、フィッシングサイト等々

2. ユーザー側の対応策

ネットを利用するための基本
① ウィルス対策ソフト、セキュリティー対策ソフトを入れる
② 最新の OS を利用する
③ 不審なファイルを開かない
④ 不審なリンクを踏まない
⑤ アカウント番号やパスワードを他者に教えない
⑥ パスワードを他のサイトと共用しない
⑦ PC やスマホを放置したり失くしたりしない、パスワードをかける
⑧ 定期的にログイン記録を確認し、自分以外のアクセスがないかをチェックする

金融取引の場合に重要
⑨ 2 段階認証/2 要素認証を設定する

よりセキュアな方法
⑩ できるだけクリーンな PC やスマートフォンで取引を行う
→ 本当に多額の金額の取引を行う場合、専用の完全にクリーンな PC を利用
し、かつ、当該 PC にアクセスできる者を限定する等が望ましい

3. 取引所側の対応策の例

ユーザーに対するハッキングは取引所では対応できない部分も多いが、例えば下記のような対策をとって、よりセキュアにする例がある

① パスワードの強度が低い場合(例えば英語の大文字小文字、数字、記号の全てを必須とし、文字数を 8 文字以上にする等)には受け付けない
② パスワードが推測されやすい単語を含んでいる場合には受け付けない
③ パスワードの試行回数を限定し、一定回数以上の誤りについてはロック(総当り攻撃対策)
④ 2 段階認証/2 要素認証を強制する/強く推奨する
⑤ 通常不使用の IP アドレスからのログインを弾く、ユーザーに通知して注意を促す等
⑥ ユーザーにユーザーが対応すべきセキュリティーを教育
⑦ サイバーセキュリティ保険の導入
⑧ パスワード保存の暗号化(ハッシュ化等、内部の者でもわからない状態に暗号化
→ 取引所に対してハッキングしその後ユーザー側をハッキングするケースの防止)

4. 問題点

セキュリティーは、利便性と安全性のバランスを取る必要がある。

① 例としてパスワードは難しくすれば難しくするほどセキュリティーは安全になる。複雑なパスワードの場合、ユーザーが他サイトで使用している覚えやすいパスワードは弾かれることになり流用も防止しやすくなる
他方、ユーザー自身が覚えられないパスワードしか設定できず利便性が低下し、紙に書いておく等で別途のセキュリティーリスクが発生することがある
② ユーザーがパスワードを忘れた場合、再発行の手続きを行うが、パスワードの再発行手続きが容易であればパスワードのハッキングリスクが増す。厳格化した場合、再発行が著しく面倒になる
③ 2 段階認証/2 要素認証の方法として例えばメール、SMS、ボイス、ワンタイムパスワード等があるが、メールがハッキングされている場合には認証の効果が薄れる。SMS、ボイス認証についてもハッキング事例が報告されているよう。
④ ユーザーの PC にトロイの木馬、フィッシング、キーロガーなどを入れられてしまうと対応は極めて困難。取引専用のクリーンな PC の利用等を求めることは現実的ではない
⑤ 保険についてはコストや引受手の有無の問題。またユーザーがハッキング被害にあった、と虚偽の申告をしてくる可能性がある

→ いずれにせよユーザーと取引所の両方の協力、不断の努力が必要

*(参考)2 段階認証と 2 要素認証

認証要素認証の具体的な方法
利用者が知っていること
(Something You Know:SYK)
固定パスワードや暗証番号、認証用 ID など、利用者が知っている情報を認証要素として活用
利用者が持っているもの
(Something You Have:SYH)
ハードウェアトークン(小さな認証用器具)、ソフトウェアトークン(スマートフォンなどにインストールする認証用ソフト)、スマートカード(クレジットカードタイプの認証カードなど)、電子証明書など、利用者が持っているものを認証要素として活用
利用者の身体的特徴(Something
You Are:SYA)
指紋、静脈、網膜、音声など、利用者個人の特徴を認証要素として活用

この SYK、SYH、SYA のうち別の 2 つ以上を使う認証を 2 要素認証
別の要素かは意識せず、例えばパスワード+パスワードなどでも良いのが 2 段階認証

現在、ヨーロッパでは(一定の金額以下の決済や高速道路料金等の決済を除き)Payment Service に関しては 2 要素認証(Knowledge、Possession、Inheritance)を要求することが検討されている。
“Regulatory Technical Standards on strong customer authentication and secure communication under PSD2”

とはいえヨーロッパでも現時点で必須な訳ではなく、また日本でも現在は 2 要素認証が必須という訳ではない。

Ⅳ 取引所ユーザーでない者に対する犯罪

1. 銀行口座ハッキング事案

① 取引所ユーザーではない者 A のインターネットバンキングをハッキング
② ビットコイン取引所の B 名義の口座に金銭を送付
③ B 名義の口座でビットコインを購入
④ B 名義口座からビットコインを引き出し

2. コンビニ振込詐欺等の事案

① 取引所にはペイジー入金システムがあるものがあり、例えば入金額と、ペイジーの番号が出され、それにコンビニ等で振り込むことができる
② 取引所の名義人である B は、ペイジー入金をする旨を取引所に連絡
③ 犯人 C が取引所ユーザーではない A に対して振込詐欺。上記②のペイジー入金の番号を教える
④ A はコンビニで入金
⑤ B が入金されたお金でビットコインを購入、引き出し
(現在は、例えば振り込み金額について 1 週間の引き出しを禁止するなどにより基本的には解決されていると理解)

3. 問題点

上記の B が本人であれば通常は逮捕が容易。

他方、
(a) B が報酬を貰った出し子として行動するが、実際の犯人は他の C
(b) B が生活困窮者等で本人確認書類を C に売却、又は C に騙されて本人確認書類等を渡しているケース(融資をします、融資のためにこの情報が必要です等)
(c) B が外国人等で帰国時に C に口座を売却するケース
など、C を突き止めることは必ずしも容易ではない

銀行口座ハッキング
インターネットバンキングのハッキングは何故起きるのか?
銀行によっては例えば振込用カードでの番号入力やワンタイムパスワード等での2 段階認証/2 要素認証をしていると思われる。そのようなものがない事例?対応していたがウィルス、フィッシング等で破られた事例?

取引所としては振込人 A の名義と口座 B の名義が異なれば入金を拒否するが、そもそも日本の銀行送金システムで第三者名義での送金ができる
→ 海外ではできないケースが多いと聞いている。日本の送金システムの便利な点でもあり、他方、セキュリティー上の欠点でもあると思われる

取引所の疑わしい取引確認について
取引所の方で Suspicious Activity を発見し、自主的に取引をストップさせることはしばしばある
しかしながら、業者によってもそのレベル感は異なると思われ、更にブラッシュアップが必要

Ⅴ ウォレットに対するハッキング

個人保有のウォレットがセキュリティーリスクや脆弱性をつかれハッキングを受けるケース

2017 年 6 月
複数の仮想通貨を管理できるウォレット Jaxx が 40 万ドル分盗まれる
http://cryptocurrencymagazine.com/users-report-losing-400000-due-to-jaxx-walletvulnerability

2017 年 7 月 20 日
イーサリアムクライアントの Parity が提供するマルチシグウォレットにてセキュリティバグがありウォレットがハッキングにあい、約 34 億円が盗難にあったケース https://ethereum-japan.net/ethereum/parity-maltisig-vulnerability-hacked-150keth/

Ⅵ その他の最近の犯罪事例

  1. 最近は ICO(Initial Coin Offering)という資金調達のために新しいコインやトークンを発行し、その対価を Bitcoin や Ether で受け取る事例が増えている。犯罪者が虚偽の受取アドレスを Telegram サイト等で掲示して、そこに Bitcoin 等を送付させる例
  2. BLOG などにマイニングのソフトウェアを埋め込み、ブログにアクセスした人の PC を使用し、勝手にマイニングを行なう

Ⅶ 犯罪等で盗まれたビットコインの行き先/犯人の調査方法

1. 前提

ブロックチェーン上の取引記録
① ビットコインは全取引がブロックチェーン上に記録される
② 但し、ブロックチェーン上には 32 桁の英数字のアドレスとアドレスに関する取引(に対応したデータ)で記載されるのみ。秘密鍵を管理する者の名前や住所等のデータが載っている訳では勿論ない
③ アドレス間のコインの移動のチェックは誰でもできる。ツールも例えばChainFlyer などが公開されている。但し、転々と移動をされた場合、チェックは労力を要する

本邦取引所の本人確認
④ 本邦取引所は現在、犯収法に従い、アカウント開設者の名称、住所、生年月日等の本人確認書類(免許証等)での確認、申告による取引目的、職業等の確認を行い、かつ、転送不要郵便等で住所の実在を確認している。かつ、犯収法に従い、疑わしい取引のチェックなどを行っている
⑤ 本人確認については 3 月以前は自主規制で、例えば免許証によるチェック+ID セルフィーによるチェック
⑥ 潜りの取引所(規制を守る気のない取引所等)の中には本人確認をしていない取引所があるかもしれない。10 月以降、厳しい指導が必要となる

海外の取引所の本人確認
⑦ 海外の取引所が本人確認/疑わしい取引をチェックしているかは各国の法規制等による。米国では FinCEN の要求により厳しい本人確認/疑わしい取引のチェックをしているよう
⑧ いずれにせよ各国の主要取引所は何らかの形で本人確認を行っていると理解
⑨ 但し、全ての国、取引所が本人確認をしているかは不明
⑩ FATF は加盟各国に取引所についての免許制又は登録制、本人確認義務を導入することを勧告している。全世界的に本人確認は必須化していくと思われる

2. 調査

上記のように、ビットコインのブロックチェーン上の移動は全て記録され、転々と移動された場合に調査に労力は必要なものの、理論的には全て調査可能

問題は、そのアドレスと持ち主をどう紐付けるか

日本国内の取引所であれば捜査事項照会を送付すれば、取引所としては返答可能な筈
→ アドレス、そのアドレスの持ち主、そのアドレスとの間で●月●日から●月●日に取引があった内容等
→ 素早いご返答のために、各取引所と警察で取引所に聞く捜査事項照会書の様式を共有化している最中

海外の取引所でも、各国ごとの捜査協力で情報を得られる(と聞いている)

将来的にビットコインがビットコインのまま使用されるようになると取引所の本人確認のみでは不足になる可能性があるが、少なくとも現在のところビットコインをビットコインのまま使用するニーズは少ない

最終的には換金をする以上、どこかの取引所を使う必要があることが通常
→ 調査方法等は警察等関係者と議論させて頂ければ我々としても可能な限り協力したい

0 レジュメのまとめ

1. 日本法の適用関係

商品によって適用される法律が異なる(日本には ICO 特有の規制はない)。仮想通貨法、前払式支払手段規制、ファンド規制、民法、消費者契約法、出資法等を1つ1つ検討する必要がある。

2. 仮想通貨法

  1. 「仮想通貨」の ICO を行う場合、仮想通貨交換業者が行う必要がある。仮想通貨交換業者が取扱うコインについては何でも取扱っても良い訳ではなく、取扱コインを金融庁に届出る必要がある。そして、取扱コインについては金融庁の審査がある。
  2. ICO で対象となるコインが全て仮想通貨の定義に該当する訳ではない。仮想通貨の「不特定」等の定義に該当するかは慎重に考える必要があり、場合により仮想通貨ではないとして組成することもできそうである。
    この点、仮想通貨の定義が広ければ自由なビジネスが難しくなる可能性があり、他方、狭ければ詐欺的コインが横行する可能性がある。

3. 前払式支払手段の規制

  1. 発行者が存在し、発行者又は発行者の指定する第三者で使用でき、金額が指定されている又は得られるモノ等が確定している、というような場合には前払式支払手段になる(6 ヶ月以内に消滅する場合を除く)
  2. 前払式支払手段に該当する場合、届出(自家型)又は登録(第三者型)が必要になり、かつ未使用残高の 2 分の 1 の供託等が必要になる

4. 金商法とファンド規制

  1. 金商法の規制が適用されるためには対象商品が原則として「有価証券」や「デリバティブ」という概念に該当する必要がある。この定義は限定列挙された定義であり、例えば Bitcoin や Ether など一般的な仮想通貨は「有価証券」「デリバティブ」に該当しない。よって ICO を含む仮想通貨の販売には原則としては金商法の適用はない。
  2. ただし、金商法上の有価証券のうち「集団投資スキーム(ファンド)」は一定の幅をもった概念であり、ICO の中には日本法上、集団投資スキームに該当すると思われるものがある。①他人から金銭を集め、②事業に投資し、③保有者に対して配当等を行う、という仕組みの場合である。この場合、金商法上のファンド規制に服する可能性が高い。
  3. 上記2の①につき、金銭ではなく Bitcoin や Ether との交換で ICO を行う場合、通常、ファンド規制に服する可能性は低い。

5. 消費者契約法、民法

  1. ICO に仮想通貨法やファンド規制が適用されないとしても販売者が自由にどんな説明でもできる訳ではない。
  2. 例えば重要事実による虚偽の説明、重要事実の故意による不告知、断定的判断を提供した場合、消費者契約法による取消の対象となる。また、民法上の説明責任等も問題となる。よって、説明は合理的に行うことが必要であろう。
  3. 但し、消費者保護を考えた場合、一般的には多くの詐欺的コインは「虚偽の説明」や「断定的判断の提供」まではしていないケースが多いようには思われる。重要事実の故意による不告知については争う余地があるかもしれない。

6. 税法(参考)

  1. ICO は必ずしも有利ではなく、新株発行やファンドでの資金調達より不利になることがある。
  2. コインの売買額は「売上げ」となり、対応する支出がない場合には「利益」として法人税が課税される
  3. 仮想通貨の定義に該当しない場合には消費税が課税される

7. 各国法(参考)

各国の対応は禁止(中国、韓国)、配当型をセキュリティーとして登録等の規制(米国、シンガポールなど)、投資家に対する注意喚起(英国)などに分かれる。特徴的な国としてスイスなど

I 始めに

1. ICO とは何か

ICO は Initial Coin Offering の略

Initial Public Offering(IPO)という言葉とかけて ICO と呼ばれる

全世界で実施額が急増。新しい資金調達として注目されている

何を ICO に含めるかは人によって異なる。コイン、トークン、仮想通貨、という用語の使用法も人によって異なる

自分のイメージ(個人的なイメージ)
ICO: ブロックチェーンを利用して何らかのコインやトークン(と呼ばれる電磁的な記録)を発行し、それにより資金調達するような場合
仮想通貨: 仮想通貨法上の仮想通貨
トークン・コイン: 仮想通貨法上の仮想通貨ではないが、一般的には仮想通貨と呼ばれるもの

ただ、取引所に上場する場合を ICO と呼ぶ等の考えもあるよう。

2. 良く聞かれる質問

Q1. ICO に適用される法律は?規制されてる?
Q2. 税金どうなる?
Q3. 海外で規制されてる?
Q4. やっていいの?今後どうなる?規制すべきでは?

II 仮想通貨法

1. 仮想通貨に該当する場合、ICO には仮想通貨交換業登録が必要

仮に ICO の対象となるコインが仮想通貨法(資金の決済等に関する法律のうち仮想通貨に関する部分をそのように呼称する)上の「仮想通貨」に該当する場合、その販売を業として行うことは、「仮想通貨交換業者」しかできない。

仮想通貨法は、「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」を業としてなすことを「仮想通貨交換業」と定義し、仮想通貨交換業は内閣総理大臣の登録を受けたものでなくては行ってはならないとする(法 2 条 7 項、63 条の 2)

第 2 条 (定義)
7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
① 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
② 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
③ その行う前 2 号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理を行うこと

第 63 条の 2(仮想通貨交換業者の登録)
仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。

金銭で ICO を行う場合には「仮想通貨の売買」に、Bitcoin や Ether との交換で ICO を行う場合には、「他の仮想通貨との交換」に該当する。

従って、「仮想通貨」の ICO を行う者は自ら仮想通貨交換業の登録を受けるか、既に仮想通貨交換業の登録を受けた者に依頼をして ICO を行う必要がある。

2. 仮想通貨交換業者が新しい仮想通貨を取扱うには金融庁への届出が必要

仮想通貨交換業者は、取扱う仮想通貨の全てを金融庁に届出を行う必要がある。例えばBitcoin や Ether を取扱っている仮想通貨交換業者が新しいコインを取扱う場合には、届出が必要である。これは ICO の場合でも同様である。

金融庁は全ての仮想通貨を認める訳ではなく、利用者保護ないし公益性の観点から適否を判断することになる。この適切性の判断に際しては認定自主規制団体の見解も踏まえて判断を行う。

適切性の判断基準(仮想通貨交換業ガイドライン 5 頁)

取り扱おうとするものが仮想通貨に該当し、又は当該仮想通貨の取扱いが仮想通貨交換業に係る取引に形式的に該当するとしても、利用者保護ないし公益性の観点から、仮想通貨交換業者が取り扱うことが必ずしも適切でないものもあり得る。

したがって、当局は、仮想通貨交換業に係る取引の適切性及び取り扱う仮想通貨の適切性等について、申請者に対して詳細に説明を求めるとともに、認定資金決済事業者協会の公表する情報等を参考としつつ、登録の申請の審査等を実施するものとする。

(注 3)取り扱う仮想通貨の適切性を判断するに当たり、例えば、当該仮想通貨の仕組み、想定される用途、流通状況、プログラムのバグなどの内在するリスク等について、申請者から詳細な説明を求めることとするほか、こうした観点から、利用者からの苦情や、認定資金決済事業者協会の意見等の外部情報も踏まえて判断する。
(注 4)例えば、新規に発行する仮想通貨の売り出しを行う場合に、発行段階で流動性に欠けるとしても、当該仮想通貨を取り扱うことが適切でないと直ちに判断するのではなく、申請者からの説明や外部情報を十分考慮し、総合的に判断するものとする。

但し、現状のコインは相応に広く認められているようであり、ICO の障害にはならない可能性がある。

3. 現状の仮想通貨交換業者と取扱仮想通貨

2017 年 9 月 29 日現在で 11 社が登録
19 社が審査継続中とのこと

マネーパートナーズ、QUOINE、bitFlyer、ビットバンク、SBI バーチャル・カレンシーズ、GMO コイン、ビットトレード、BTC ボックス、ビットポイントジャパン、フィスコ仮想通貨取引所、テックビューロ
(金融庁サイト記載順)

①3 月末までに営業+②9 月末までに申請受理=③正式な合否まで営業を継続可能
①+②の両方を満たさない場合、正式に登録を受けてから営業可能

取扱仮想通貨

登録取引所で取扱われている仮想通貨は以下(17 種類)

BTC(ビットコイン)、ETH(イーサリウム)、BCH(ビットコインキャッシュ)、ETC(イーサリウムクラシック)、LTC(ライトコイン)、XRP(リップル)、MONA(モナコイン)、FSCC(フィスココイン)、NCXC(ネクスコイン)、CICC(カイカコイン)、XCP(カウンターパーティー)、ZAIF(ザイフ)、BCY(ビットクリスタル)、SJCX(ストレージコインエックス)、PEPECASH(ぺぺキャッシュ)、ZEN(ゼン)、XEM(ゼム(ネム)) 金融庁サイトから

相当に広く認められている?ICO の障害にはならない?
日本では移転を制限して「トークン」として売り出し、その後、上場して仮想通貨とするのが主流に?
当初から「仮想通貨」として上場するものも?

4. ICO コインが仮想通貨に該当するのか

ICO の対象となるコインについて、ブロックチェーンテクノロジーを利用していても、そもそも定義上は「仮想通貨」に該当しない可能性がある。

また、ICO の仕組みを工夫することにより、場合により「仮想通貨」の定義に該当しない(すなわち規制が適用されない)ように仕組める可能性がある。

法第 2 条第 5 項
1 号仮想通貨の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

2 号仮想通貨の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

通貨建資産の定義
「本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。」

通貨建資産、すなわち円やドル等にリンクする商品の場合には、仮想通貨にならない。
→ 例えば MUFG コインのようなコインであるが、この場合、前払式支払手段への該当性や為替取引への該当性を検討する必要がある。

1 号仮想通貨に関しては「不特定の者に対して使用でき」かつ「不特定の者を相手方として購入及び売却」を行うことが可能でなければならず、2 号仮想通貨の場合には「不特定の者を相手方として・・・・相互に交換できる」必要がある。この要件を満たす必要がある。
→ 「不特定」の定義については下記 5 で議論するが、ICO の場合、この定義に該当しない可能性がある。

5. 不特定とは何か

不特定の用語については、どの範囲を指すのか現時点では不明瞭である。

(1) 出資法では「不特定」の定義は広く解釈されている

別の法律ではあり、また趣旨も異なるのでどこまで参考になるかは兎も角、出資法では「何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。」とする。

この「不特定かつ多数」という用語について出資法では広く解釈している。

例えば

(2) 仮想通貨法では「不特定」の定義は限定的に解釈されている?

これに対して、仮想通貨法の「不特定」はより限定された解釈がされているようである(仮想通貨ガイドラインの 4 頁 I-1-1 参照)。

1 号仮想通貨の定義の「不特定の者に対する使用」

→ この規定及び通貨建資産の除外の規定により通常の電子マネーは仮想通貨の定義から除外される。当職が立法時に議論した経験からすると、SUICA などの電子マネーは、使用できる店舗が限定されていることから「不特定」には該当しないと整理されているようである。

2 号仮想通貨の「不特定」

→ VALU という商品は発行者が譲渡を制限し、発行者のプラットフォームで会員間の売買しかできないことから上記を満たさないと考えているようであり、そのような考えが成り立ちうる余地はある

→ 但し、誰でも会員登録でき、それで売買できる以上「それは不特定だ」という考え方も充分ありえる。ただ、ここで不特定の範囲を狭くしすぎるとそれはそれで他の商品を考えた場合に問題が出る場合も

不特定の定義を狭く解した場合の問題点

なお、特に 2 号仮想通貨については定義上、仮想通貨の範囲を限定しすぎて脱法的な仮想通貨が発行されないようにするために、広めの定義になっている。そのため、各種の新しい商品が出てきた場合、2 号仮想通貨に該当するか否かは、検討を要することになる。

そして、この「不特定」や「財産的価値」や「電子的に移転」の概念を広く解釈しすぎると、問題が生じるように思われる。

① 例えば、上場されている株式(無額面株式)をオンライン証券で BTC で売買できるようになった場合、当該株式は 2 号仮想通貨になるのか。なお、現在の株券は電子化されており紙では発行されておらず、移転もほふりでの電子的処理で行われる。
② ゲーム内での魔法石やルピー、オンラインゲームのゴールド等が(発行会社が認めず、または発行会社も認めて)BTC で売買されている場合、当該ゲーム内通貨は 2号仮想通貨になるのか
③ マイルやポイントが(発行会社が認めず、または発行会社も認めて)BTC で売買されている場合、当該マイルやポイントは 2 号仮想通貨になるのか

よって、慎重な議論が必要なように思われる。

(3) ICO と「不特定」

ICO において、一定の会員にのみ限定して販売し、かつ一定の会員内でのみ売買できる等とした場合、「不特定」になるのか

→ 不明であるが、その時点では発行者による制限なく 1 号仮想通貨との交換ができないため、仮想通貨には該当しないとされる可能性はある。

ICO の時点では「不特定」ではなく「特定」の者でしか売買できないが、将来的には仮想通貨取引所に上場して、広く「不特定」の対象で売買できることを目指している場合、現時点では「不特定」なのか「特定」なのか?

→ 法文上は、現時点で「不特定」が対象ではない以上、仮想通貨の定義には該当しないように思われる。

なお、「不特定」に該当しないとして「仮想通貨」には該当しないとすると仮想通貨法の規制対象外となり詐欺的なコイン発行の防止の効力が減少する。

他方、ビジネスの発展からは、自己責任のもと当初は限定された人に対して自由に商品を販売し、その後、取引所に上場というようなことができるようになる。

→ あまり規制を強くしすぎると問題
→ 他方緩すぎると問題
→ 適切な規制はどのレベル?

III ICOと前払式支払手段規制

前払式支払手段
自家型 – 届出規制(資金決済法 3 条)
第三者型(SUICA など) – 登録規制(資金決済法 7 条)

後払式の電子マネー(iD など) 規制なし

前払式支払手段の定義は複雑であるが、概要下記の定義である

① 金額(1 号)(これを換算した個数、度数等含む)又は物品・サービスの数量(2 号)が、証票、電子機器その他の物証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録される
② それに応ずる対価が支払われる
③ その発行する者又は当該発行する者が指定する者から、物品を購入、サービス提供を受けるとき等に利用可能

発行者が存在する、発行者又は発行者の指定する第三者で使用できる、金額指定又は得られるモノ等が確定している、という場合には前払式支払手段

該当すると未使用残高の 2 分の 1 を供託

→ 全額を開発費等に充てたい案件の場合には、目的に沿わないことになる

現時点の私の考え

① 何らかの形でマーケットがあり価格変動があり、時価で使用できる・・・前払式支払手段ではない
② 度数等が減ることなく、毎月、無制限にサービスを使える・・・前払式支払手段ではない
③ 度数等が減ることなく、毎月、5 回までサービスを使える・・・原則として前払式支払手段ではない。ただし、留意が必要
④ トークンを持っているとサービスが割引で受けられる。トークンを使うか否かは自由・・・原則前払式支払手段ではない
⑤ サービスでトークンを使用できる。この際に当初発行額 1トークン 1 万円だが、2 万円分として使用できる。
→ すると他人が 1 万円でのサービスが20%割引でサービスが受けられる。・・・前払式支払手段の可能性が高い

(但し、全て具体的事例による)

IV ICOと金商法、ファンド規制

1. ファンド規制概論

日本国内で所謂ファンド(集団投資スキーム)の募集又は私募を行う場合、原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法 2 条 8 項 7 号ヘ、28 条 2 項 1 号)。

また、ファンドから募集を受けた資金をもって主として有価証券やデリバティブに対して投資を行う場合には、投資運用業の登録も必要となる(金商法 2 条 8 項 15 号ハ、28 条 4 項3 号)。

金商法で規制対象となるファンドは以下のものとなる。

日本法によるファンド

(1) 以下の権利その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち
① 民法第 667 条第 1 項 に規定する組合契約
② 商法第 535 条に規定する匿名組合契約
③ 投資事業有限責任組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する投資事業有限責任組合契約
④ 有限責任事業組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利
⑤ 社団法人の社員権

(2) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であり

(3) 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利
ハ 保険業法上の保険契約など
ニ 上記のほか当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利

外国法によるファンド

(4) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記の民法上の組合契約は「組合契約は各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」と定義され、商法上の匿名組合契約は「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。」と定義され、概念として広い。いずれも当事者がスキームが組合契約である、匿名組合契約である等と述べなくても、成立が認められるようになっており、名称がいかなる名称であっても、一定の投資の約束をした場合、上記のいずれかに該当する可能性が高くなる。

更に仮に組合契約や匿名組合契約に該当しなくても、上記(1)については「その他の権利」という包括規定があり、集団投資スキーム持分に該当するかどうかについては法形式の如何は問わない、①~⑤は集団投資スキームのビークルとして用いられるものを例示的に列挙するものに過ぎないとされている。

従って、日本法上の権利が何らかの形で存在すれば、例えば仮想通貨を使用、ブロックチェーンを使用、スマートコントラクトを使用等しても、上記(1)の要件を満たす。さらに外国法に基づき組成したとしても類する権利として 6 号ファンドに該当する。

2. Bitcoin等で出資を受ける場合には規制が文言上は非適用

金商法上のファンド規制は、出資者が金銭(又は類似するものとして政令で定めるもの)を拠出する場合を規制している。類似するものとしては有価証券、為替手形、約束手形などが上げられている。

Bitcoin や Ether は現行法上はこれらのいずれにも該当せず、従って Bitcoin や Ether で資金の拠出を受ければ、現行法上はファンド規制の対象とはならない。

但し、同一主体や関連主体がファンド出資のために Bitcoin を販売し、当該 Bitcoin でファンドへの拠出を受ける等の場合、実質的に金銭の出資を受けているとして規制が適用される場合は考えられる。

[立法論や自主規制]
立法論として、Bitcoin や Ether で募集をした場合、原則として規制対象外ということで本当に良いのかは議論になりうる

自主規制として、本来、ファンド規制やファンド規制の趣旨を考えて、スキームを作るべきでは?

V ICOと消費者契約法、民法

1. まとめ

重要事実による虚偽の説明、重要事実の故意による不告知、断定的判断を提供した場合、消費者契約法による取消の対象となる。

また、民法上の説明責任等も問題となる

よって、説明は合理的に行うことが必要

但し、この条文で消費者が充分に保護されているかは微妙

2. 消費者契約法条文

条文のみ記載する

第 4 条

1 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
① 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
② 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 (省略)

4 第 1 項第 1 号及び第 2 項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
① 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
② 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

VI ICOと税務(参考)

ICO を行なう場合、税務上の考察も必要である。現在、ICO は新株発行やファンドでの募集より、税務上不利なのでは、と考えられているよう。

注: なお、筆者は税務を専門にしていない。また ICO の税務について議論した文献も不見当である。よって議論の参考のために記載するものに過ぎない。

(1) 新株発行

適正価額で発行した新株について、払い込みを請けた金額(資本金や資本準備金となる)は「利益」にはならない。資本金増額のための登録免許税が必要だが大きな金額ではない。消費税は非課税。

(2) ファンド

ファンドで払い込みを受けた金額は「利益」にはならない。登録免許税、消費税も不要

(3) ICO

法人税

コインの売買額は「売上げ」となり、対応する支出がない場合には「利益」として法人税が課税(実行税率 30.86~34.81%)。
① 当期の開発費等の支出が多ければ利益は発生しないが、当期にそれだけの支出があるか
② 前期までに利用できる赤字(繰越欠損金)があるか
③ 翌期の欠損金の繰戻しによる還付が期待できるか。但し、中小企業者等しか利用できず、かつ翌期しか還付は不可

等であり、税務上、法人税法を回避するのは容易ではないように思われる。

消費税

仮想通貨法上の「仮想通貨」の定義に該当する場合には非課税
同定義に該当しない場合、規制上は有利であるが、売上げに対して 8%の消費税。仕入税額控除で利用できる金額がどの程度あるか

法人税消費税登録免許税
新株発行n/an/a増加資本金の
0.7%(最低 3 万円)
ファンドn/an/an/a
ICO実効税率 30.8%~仮想通貨: n/a
非仮想通貨: 8%
n/a

→ 税務面を考えれば ICO が非常に有利な手段という訳では必ずしもないのでは、という印象

なお、海外法人を使って節税することは考えられる
① 法人税についてはタックスヘイブン対策税制の適用があるか等
② 消費税についてはかからない?

→ 仮に日本法人が海外子会社を作って、または日本とは関係ない海外法人が日本居住者相手に ICO をしたほうが税務的に有利だとすれば、それは日本にとって望ましくないのではないか、とは思われる

VII 本邦の他の法律との比較(参考)

今後の議論のため、参考として現行の本邦 ICO 規制(仮想通貨法が適用される場合)と他の商品に対する規制を比較

1. 比較

商品私募(限定された販売)公募(幅広い販売)上場(より幅広い販売)
株式少人数私募は原則 50名未満に勧誘(プロ私募には人数制限なし)
開示規制なし
第三者のために私募の取扱
を行うには第一種金商業
金証法の開示規制

第三者のために公募をする
には第一種金商業
金商法の開示規制
証券取引所による開示規制

第三者のための公募の場合、第一種金商業
投資信託・
リート
同上同上同上
ファンド取得ベースで 500 名未満
自分で勧誘であっても二種金商業

特例ファンドなどの緩和あり
取得ベースで 500名以上
自分で勧誘であっても第二種金商業
上場という概念がない
仮想通貨「不特定多数」への販売か否か。
「不特定多数」でなければ規制なし
「不特定多数」への販売が公募
自分で発行であっても「仮想通貨交換業」の登録が必要
コインの内容に関して金融庁審査あり
同左(公募と上場の区別がない)
自家型前払
式支払手段
基準日残高 1000 万円以下であれば
規制なし
基準日残高 1000 万円超で
金融庁届出
同左
第三者型前払式支払手段n/a金融庁への登録同左
資金移動業n/a金融庁への登録同左
買取型クウ
ンドファン
ディング
規制なし規制なし
(私募・公募の概念なし)
規制なし
(上場の概念なし)

2. 上記比較についての検討

(1) 商品の販売と考えた場合

仮想通貨の販売を単に新しい商品を販売しているだけと考えれば、本来、それは買取型クラウドファンディングと同様のことを行っているにすぎず、規制の必要はないということになる。したがって、現行の規制は通常の商品の販売より厳しい。

(2) 決済手段と考えた場合

現在の仮想通貨規制は原則として「決済手段」としての側面を重視していると思われる。「決済手段」として考えた場合、現行の規制は概ね妥当な規制と思われる。

(3) 投資商品と考えた場合

(4) ICOの分類と規制(試論)

ICO の分類については様々な分類方法が考えられるが、コインの種類に応じて分類した場合、下記のような分類が考えられる。
① 決済での使用を目的としたもの(e.g. Bitcoin、Litecoin)
② アプリで使用されることを目的とし、使用するとなくなるもの (e.g. Ether)
③ 優待サービス等を受けられるもの (e.g. VALU?)
④ 金銭や BTC などで配当等がもらえるもの

①、②は現在の仮想通貨法が主として想定したもの。仮想通貨に該当する場合には、まずは現状の規制で足りるのではないか。

また、②、③については、販売型クラウドファンディング(規制がない)と同様と考えて良いのではないか。
とはいえ、現実的には投資である、と思われ購入している者がほぼ 100%であり、その点をどう考えるか

④についてはファンド類似であり、もう少し規制を考えても良いのではないか。筋としてはファンドと完全な同じ規制にするという考え方か(但し、その場合、適格機関投資家の定義や 63 条の対処である富裕層である個人投資家に仮想通貨の財産価値も含めるべきであろう)。他のより緩やかな考え方はなりたちうるか?

開示の強制
なお、いずれにせよ一定の重要事項の開示を行うことを法令又は自主規制等で必須とし、虚偽の説明をした場合、消費者契約法や民法上の説明義務違反として、責任を問えるようにしたほうが良いのではないか。

例えば、下記のような情報の提供(試論)

提供情報
1. コインの概要
名称・略称
発行者の有無
発行手段(例えばマイニング、事前に発行、対価と引き換えに今後発行など)
コインの開発の概要(開発済み、現在開発中、現在開発中の場合ホワイトペーパーの有無)
開発者の概要(開発している個人会社団体。オープンソースで開発の場合その方法など)
認証の仕組み(PoW、PoC、PoI、PoB など)
ネットワーク上で移転できるか
フィアットにリンクしているか、していないか

2. コインの詳細
決済性コイン
決済に使用可能か? (in the case of BTC, YES)
決済に使用できる場合、使用できる店舗が管理されたり限定されているか、いないか(in the case of BTC, No)。
利用できる現在の店舗数の概要
機能性コイン
支払手段としての機能以外に機能があるか、その機能
例えばアプリで使用できる場合、アプリの概要、開発の状況
サービス等提供コイン
例えば、何らかの役務提供、物品の提供を受けられるか
受けられる場合、その仕組み
収益性コイ
収益配当や元本償還の有無
ある場合、その計算方法
収益等を分配するための仕組み

3. 市場性・流通性
日本及び世界での取引市場の有無
当該 VC を何と交換できるか(such as JPY, USD, EUR, BTC)
最低取引単位(仕組み上の最小取引単位、販売者が取引所を運営する場合、そこでの最小取引単位)
換金・他の VC との交換に関する制限があれば記載(仕組み上、及び販売者が取引所を運営する場合、そこでの制限の有無)
総発行量
発行量の上限の有無
1 単元あたりの時価
時価総額
上位 5 名の保有者(判る場合。発行体関係者が保有していないか等)

4. 販売方法
当初の発行方法
今回の販売方法(マルチネットワーキングビジネスで販売等)
これまでの販売額、今回の販売額
販売した金銭の使途(なお、開発資金に当てる場合には開発資金に宛てる想定割合。マーケティン
グ費用に当てる場合にはマーケティング費用の想定割合)
手数料(販売者が受け取る報酬を含む)

5. システム
これまでのハードフォーク
プログラムのバグがあった場合、その概要

VIII 海外法

各国毎に規制が異なる。

各国の対応は禁止(中国、韓国)
配当型をセキュリティーとして登録等の規制(米国、シンガポールなど)
投資家に対する注意喚起(英国)などに分かれる
特徴的な国としてスイスなど

IX 米国の規制(参考)

1. まとめ

米国の投資家を勧誘する ICO は Security として米連邦証券取引法により規制され、SECに登録する義務に服する可能性がある。

この点、SEC は 2017 年 7 月 25 日、The DAO の Token に関して Investigation Reportを出し、The DAO が明確に Security に該当するとしている。

また、投資者へも ICO について投資判断の指針を示し、これに潜む fraud 詐欺リスクについて注意喚起している。

但し、全ての ICO が Security に該当するものではなく、一つ一つ検討が必要である。

2. security 概念と Howey Test

米国では securities の概念が極めて広範であり、日本とは異なり明確には決まっていない。そのうちの investment contract については、通常、Howey Test という判例基準で決定される。

Howey Test
An investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person [1] invests his money in [2] a common enterprise and its led to [3] expect profits [4] solely from the efforts of the promoter or a third party, [excluded factors] its being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.

[1]資金の出資、[2]共同事業への出資、[3]収益を期待して、[4]当該収益は専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、[excluded factors] シェアが正式な証書や資産に対する名目的な権利等で表されているかは重要ではない

3. The DAO Token と Howey Test

The DAO の Token に関して SEC Investigation Report 等では以下のとおり述べていると考えられる。
① The DAO については Security であって、規制対象である
② ICO や dao であっても、securities laws が適用される場合が「ある(may apply)」
③ Security に該当するかのテストは Howey Test で行なう。
④ Security に該当する場合、登録が必要
⑤ Virtual organization である、digital instruments や blockchain を使用しているから securities laws が無関係になるとは言えない(使用されている技術や発行体が従来型の会社等であるか仮想の非中央集権型自律組織であるか、投資資金が US ドル決済か仮想通貨決済か、販売が従来型 certificate によるかブロックチェーン上digital instruments によるかに拘わらず、取引の経済的実態に鑑みて判断)

なお、Howey Test の適用については以下のとおり。

(a) Invested Money

投資される”money”は cash でなくて良い(goods and services, other exchange of value)ことは判例により確立していることを確認。ETH で資金を集めることも Invested Money に該当する。

(b) With a reasonable expectation of profit

DAO の投資家に The DAO が profit 目的であることは周知徹底されており、投資家は The DAO が投資した Contractor の上げる収益の分配に預かることを合理的に期待している。

(c) Derived from the Managerial Efforts of Others

4. Howey Test と Cryptocurrency、ICO(詳細)

The DAO が security であることは明確化されたが、他の商品については必ずしも明らかではない。

SEC Investigation Report 前に出されたものであるが、例えば Peter Van Valkenburgh “Framework for Securities Regulation of Cryptocurrencies” Coin Center Reportでは Howey Test の 4 つの要件について以下のように議論されている。

(1) Investment of Money

テスト該当ファクター

販売方法について、主たる方法が新トークンの販売である場合、特にユーザーと開発者との間の直接の売買によってなされる場合、テストは満たされる。

(ゴルフクラブ等の会員権を扱う先例における、設立済みクラブの会員権と、資金が十分集まるのを待ち設立されるクラブの会員権の販売との対比からして)既に開発されネットワークでマイニングされ、又は配布されているコインを販売又は再販売するようなケースよりも、プレセールにて販売され、プリセールが完了した後に開発され、又はサポーターに配布される、というアルトコインのほうが、よりテストを満たしうる。

開発者によるプレマインコインの販売が、特に将来の報酬の約束や最低価格保証との抱き合わせで販売される場合には、より満たしうる。

テスト非該当ファクター

マイニング、proof-of-burn、サイドチェイン、又はリソースを投入することによって主として配布されるトークンは、テスト非該当性ファクターである。

Howey Test の各種事例から考えて、マイニングやリソースを提供したという行為は、”money”の投資には当たらないと考えられる。

また、Securities Law の目的は発行者が、しばしば自社の事業の価値をオーバーステートして、それにより投資を募って短期的な利益を得る、ということを防止し、fair disclosure を求めるものであるが、(i)労働の提供を要求する場合には法による同様の保護はなく、(ii)proof-of-burn やサイドチェインの場合にもそのようなリスクは少ない、と考えられる。

(2) Common Enterprises: Horizontal and Vertical Commonality

テストを満たすために Horizontal Commonality が必要か、Vertical Commonality でもいいかは、連邦控訴審で議論が分かれている。

Horizontal Commonality
投資家の資金について、全投資家の命運の上昇・下降が互いに正の相関関係にあり、しばしば(従って常にではないが)利益のプロラタシェア、という形で資金がプールされる。

Vertical Commonality
投資家の成功(fortunes)が、投資を募る者又は第三者の努力と成功に不可分に依存している。

通常の投資案件では horizontal commonality の要件のほうが vertical commonality の要件より厳格である(前者を満たさないが後者を満たす場合は多い)。

しかし、仮想通貨の場合には必ずしもそうではない。例えばビットコインの場合、価格の上下動は保有者に共通であり horizontal commonality を満たしうるが、マイナーやプロモーター等の損益はビットコインの価格の上下動に必ずしも正の相関を示さずvertical commonality は満たしていない。

他方、Altcoin の中には、その成功が完全に開発者の努力に依存しており vertical commonality は満たすが、coin 同士の性質が異なり、horizontal commonality を満たさないようにみえるものもある。

Scarcity
トークンの数が限られており、かつお互いのトークン間で代用性がある(fungible)場合、horizontal commonality を満たしうる (全員の収益の上下が一緒となるため) 。

そうでない場合には horizontal commonality は弱くなる。

ただ、コイン同士が同じ権利を表象しないということはしばしば適切に開示されず、それが詐欺や表明保証違反に繋がりうる。

Decentralization
互いに資本関係の無いマイナー、トランザクションバリデーター、ネットワーク上のビジネス等の存在により開発・運営・販売等が充分に非集中化され、投資家と vertical commonality を有し得る単一プロモーターが存在しない場合、vertical commonality は当然に満たさない

他方、alt-coin の開発やメンテナンスに対して非集中化が殆どない場合、vertical commonality を満たしやすい。

Profit-Development Linkage
仮に開発者が、多数のトークンを保有し、又はプレマインのトークンを販売する場合、vertical commonality を満たす強い根拠がある。トークンの当初のホルダーとして、価格の変動が開発者の損益を大きく左右し、開発者が自己保有するプレマインコインも併せて販売することを選んだ場合特にその傾向が顕著だからである。

Vertical commonality の趣旨は、開発者自らコインを多数保有して売却し得る場合、当該開発者がネットワーク上プールされた資産の総額を過大に謳って短期的利益を膨らませがちであり、それがパブリックポリシーゴールに反するからである。他方、開発者がコインを殆ど持たない場合や、新コインを作ったり保有する権利がない場合、そのようなモチベーションは働かない。

(3) Expectation of Profits

殆どのアルトコインが収益目的のために投資されており、容易にこのテストを満たす。議論すべき点は以下 2 点のみ。

Distribution
サイドチェインで発行されるトークンについて、収益期待はほぼ有り得ない。価値は常に bitcoin にリンクしており、かつトークンを得るには bitcoin を動けなくしなければならない。

Permissions
トークンが主としてツールや、コンピュータープラットフォーム上価値を使用する許可を得る為に購入される場合、収益目的はない(例えば、YouTube appcoin、Accpcoin、多くの meta-coin など)

(4) Efforts of a Third Party

収益が専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、というテストであり、前述した vertical commonality の議論と重複する。

すなわち、特定の第三者の行為が収益の増大の原因であるか、より正確にいえば購入者が第三者の努力に依存しているか、というテスト。

仮想通貨については提唱者から「トラストレス」であり「数学」にのみ依存している等と言われることがあるが、それは単純化しすぎである。例えば、ビットコインの場合でもネットワークの他者には依存している。特定のマイナーに依存しているのではなく非集中化されたマイナーに依存している、トラストについても非集中化によってトラストの最小化を図っている、ということである。

但し、うまく非集中化された仮想通貨(例えばビットコイン)の場合には、例えば土地の所有者がその価値の上昇について、例えば郡の登記官(deed clerk)に依存している、土地の隣人に良い人が住んでいるかに依存しているか、等と同様の依存なのであり、特定の第三者に依存している、と考える必要はない。

しかしコンセンサスメカニズムが上手くデザインされず、または開発コミュニティーが小さく非透明である場合は、収益が特定の 1 つか 2 つの第三者の努力に依存している、といえるかもしれない。

コンセンサス
Proof of work: 誰でもマイニングに入れる非集中化した proof of work については一般的には第三者に依存しているとはいいにくい。

Proof of stake: これまでの proof of stake はより大きな stake holder がより強くなる、という仕組みであり、proof of work に比べ特定の第三者に依存していないとは言いにくくなる。但し、Proof of stake においても改良が続けられており、ステークホルダーが充分に非集中化されていると考えられる場合、特定の第三者に依存しているとは言い難くなる。

Permissioned distributed ledger: トランザクションの承認について幾つか者に依存する、という仕組みの場合、その承認者のグループに依存している、といえる。

透明性
透明性は本議論で 2 つの意味で重要である。1 つは透明性あるソフトウェアと透明性あるブロックチェーンが、ネットワークが適切に非集中化されているか確認するために必要である。もう1 つは、透明性ある開発者コミュニティーは、この非集中化を害するソフトウェアアップデートを行うことが難しくなるからである。

ビットコインは透明性の観点で大きな参考になる
ビットコインでは、ソフトウェアは①オープンソースであり、②開発、Github のような公開のリポジトリで開発され、配布され、変更が記録される、③ブロックチェーンがパブリックであり、④バグフィクスや新機能の提案が公開のシステムでなされ、⑤大きな変更について公開の場で議論されている

反対に、ソフトウェアがクローズソースである場合、他の者に広く公開・ライセンスされない場合、公開のリポジトリで検証できない場合、ブロックチェーンが公開でない場合、バグフィクスや新機能の開発が秘密に行われる場合、等には第三者への依存が高くなる。

(5) Howey Test に関するまとめ

Howey Test を満たさず、規制する必要がないもの

  1. ビットコインやライトコインのように十分に非集中化されたコインにおいては、vertical commonality も第三者への依存もみられない。
  2. サイドチェインのコインにおいては、expectation of profits が有り得ない。
  3. 当初の配布が公開された競争のあるマイニングか proof of burn により行われるものは、investment of money ではない。
  4. Appcoin や、Distributed Computing Program(例えば Ethereum)においては、参加者はトークンについて expectation of profit よりも使用価値の方を重視しており、expectation of profit がない。

Howey Test に該当し、投資家を保護する必要があるもの

  1. クローズドソース又は透明性の低いコインプロモーターの誇大広告以外の理由で収益が発生すると信用する理由がない。
  2. オープンではあるが、市場での大々的プレセールで配布が行われ又はプリマインの仮想通貨のセールが行われ、かつ、マイニング及び開発者コミュニティーが小さく分散されていない場合、この事実は収益がこれらの個別の収益目的のグループに依存していることを示す。
  3. パーミッションド・レッジャー又は非常に集中化したトランザクション承認者のコイン

注:以上の議論が最も詳細であり参考になると思われたのでレポートを抜粋・要約した。ただし、あくまで Coin Center の一レポートに過ぎない点には留意。

X その他の国の状況(参考)

1. シンガポール

2017 年 8 月 1 日に FAS のアナウンス
仮想通貨そのものは規制対象ではない
但し、集団投資スキーム持分に該当する場合、証券先物法により規制される可能性
Howey Test 同様の考えか?

2. 中国

中国人民銀行等の中国当局が 2017 年 9 月 4 日に ICO を禁止するとの公告
中国国内での ICO は違法、直ちに禁止
ICO による資金調達を完了した場合、投資家に対して調達資金を返還すること

3. 韓国

2017 年 9 月 29 日に ICO を全面禁止との報道

4. 英国

FCA 2017 年 9 月 12 日 ICO に関する消費者向けの注意喚起
多くの ICO は規制対象とならない
詐欺リスク、トークン価格が不安定、ホワイトペーパーの記載が不十分等
リスクが非常に高いと注意喚起

5. スイス

仮想通貨フレンドリー、多くの ICO の本拠地
今後は最低限の規制をしつつ、ICO 立国を目指す?

6. エストニア

電子立国
国による ICO コインを発行の提案(実現度は不明)

留保事項
本記載はセミナー用に纏めたものに過ぎません。また日本法以外の法律も関係しておりますが、斎藤は日本法以外は専門とはしておりません。法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

国会でも取り上げられた(参議院財政金融委員会平成29年6月18日付質疑、VALUで検索したところで出てきます)ということで、VALUについて少し書いてみます。
VALUは仮想通貨法上の「仮想通貨」に該当するのでしょうか。
これは結論としては、1号仮想通貨には該当しない、他方、2号仮想通貨に該当するかはよく判らない、ただ、現状の仕組み(現状β版)の範囲では当たらないと考えることも充分できる、ということになると思います。

仮想通貨法の仮想通貨の定義

仮想通貨の定義は資金決済に関する法律の2条5項にありますが、2種類の仮想通貨があり、それぞれ以下のように定義されています。

1号仮想通貨の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

2号仮想通貨の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

考え方: 「不特定」に該当しない?

このうち、1号仮想通貨については、私が見る限り、VALUは現状、提供者のサービスを受ける、という目的にのみ使用され、「不特定の者に対して使用できる」に該当しないので定義に該当しないということになりそうです。

他方、2号仮想通貨については、「①不特定の者を相手方としてBTCとの間で相互に交換できる」「②電子機器に記録された財産的価値」であり、かつ、ネット上で売買できるので「③電子情報処理組織を用いて移転することができる」に該当する、従って、2号仮想通貨に該当するようにもみえます。
ただ、この①について、現在、VALUはあくまでVALUの会員登録をした内部でのみ移転が可能な仕組みのようであり、そのために「不特定多数の者」と交換できるものではない、とVALU運営側は考えているようです。
Ready ForのQ2参照。

仮想通貨の定義の「不特定」の概念について、金融庁は限定的に解釈しているようです。例えば1号仮想通貨の定義の「不特定の者に対する使用」については、発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために仮想通貨を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗を管理していないか」等の要件が課されます(仮想通貨ガイドラインの4頁I-1-1参照。なお、この規定及び通貨建資産の除外の規定により通常の電子マネーは仮想通貨の定義から除外されます。)。

また、2号仮想通貨の「不特定」は、仮想通貨法ガイドラインでは「発行者による制限なく、1号仮想通貨との交換ができるか」、「1号仮想通貨との交換市場が存在するか」等の要件が基準になります。もし、運営側が会員間でのみ売買を認めるとしており、実際にその仕組みが担保されているのであれば、それは「不特定」の間の交換ではない、と考える余地は充分あります。(6月22日(木)午前1時38分追記:他方、誰でも会員登録でき、それで売買できるのだから「それは不特定だ」という考え方もありえます。「不特定」の考え方次第です。ただ、ここで不特定の範囲を狭くしすぎるとそれはそれで他の商品を考えた場合に問題が出る場合も・・・)

VALUの移転の仕組みについて、規約を見るだけではどういった仕組みなのか良く判りません。報道ではブロックチェーン技術を活用しているようですので(TechCrunchさんの記事など)、ブロックチェーン上で発行されブロックチェーン上で移転可能な仕組みなのか、とも想像されますが、他方、VALU利用規約上、「当社は、VALUの発行及び売買を制限し又は取り消し、又は発行済みのVALUを無効とすることができるものとします。」等とありますので、現在は、各種の制限が加えられる仕組みになっているように見えます。

ファンクラブ会員権、株式とかがBTCで売買された場合は?

なお、2号仮想通貨については定義上、仮想通貨の範囲を限定しすぎて脱法的な仮想通貨が発行されないようにするために、広めの定義になっています。そのため、VALUのような商品や各種の新しい商品が出てきた場合、2号仮想通貨に該当するか否かは、検討を要することになります。

例えば、VALUについては、価格がついており移転がされる、という違いがあるだけで、ファンクラブの会員権のようなものにも見えます。ファンクラブの会員権が紙では発行されず、単にコンピュータ上で記録されている、その会員権がオークションサイトでBTCで売買できるようになっている、という場合、ファンクラブ会員権は仮想通貨になるのでしょうか?

また、VALUは株式に類似する、等の説明もされています。
例えば、上場されている株式(無額面株式)をオンライン証券でBTCで売買できるようになった場合(現在、そのようなことは金融庁から認められないと思いますが笑)、当該株式は「仮想通貨」になってしまうのでしょうか。現在の株券は電子化されており紙では発行されていない、また移転もほふりでの移転でなされるので「電子」的になされる、そしてBTCと相互に交換できる、また無額面株式であれば通貨建資産には該当しない、とすれば、2号仮想通貨の定義に該当するようにも見えます。証券会社で口座を開いた人の間でしか売買できないことから「不特定」ではないと考えるか、それともほふりでの移転は「③電子情報処理組織を用いて移転することができる」に該当しないと考えるか・・・・


仮想通貨については「情報通信技術は急速に進展しており、日々、変化するものであることから、仮想通貨の該当性については、その利用形態等に応じて、最終的には個別具体的に判断する」とあり(上述仮想通貨ガイドライン4頁)、個別判断になります。ただ、ブロックチェーン上に各種権利が乗ってきた場合に、どう考えるのか、というのは面白いですね。

本日のパブコメ結果発表を受け、2017年4月1日以降に取引所の本人確認がどうなるのか多くの方から聞かれたため、現時点での整理です。一部、金融庁に確認した部分もありますが、速報ベースですので今後、変更の可能性があります。

1. 本年3月31日までの既存顧客

(1) ①200万円相当以下の仮想通貨の交換、②10万円相当以下の仮想通貨の送付、については新たな本人確認を行うことなく引き続き取引を行うことができます。

(2) 理由としては、「特定取引」の定義は、①継続的取引を行う口座開設、②200万円相当以上の仮想通貨の交換、③10万円相当以上の仮想通貨の送付、なのですが(犯収法施行令7条1項ヨ、タ、レ)、本年3月31日以前に口座開設が済んでいる場合には、4月1日以降に新たに②又は③が発生しない限り、犯収法相当の本人確認は行わなくて良い、ということのようです(犯収法関係パブコメ8番)。

(3) 但し、犯収法の規定上は上記の通りですが、取引所に適用あるガイドライン等の関係上、犯収法相当の確認のお願いを継続して行っていく必要はあります。(例えばガイドラインII-2-1-2-1(注1)

(4) 差し当たっては、既存顧客については、アカウントクラスを分け、上記(2)②③ができるクラス(犯収法本人確認済み)と、できないクラス(犯収法上の本人確認が未済)とに分けることになるかと思われます。

2.   本年4月1日以降の新規顧客

(1) 犯収法上の本人確認をしないと口座開設ができません。

(2) 上記は本年3月31日までに営業を行っている取引所で、現時点で金融庁への登録が未済の取引所の場合に当てはまります。本年3月31日までに営業を行っていた取引所については、金融庁への登録がなくても猶予措置で原則半年間は営業ができるのですが(改正法附則第8条第2項)、この間も「みなし仮想通貨交換業者」として、犯収法の本人確認を行う義務が生じます(犯収法関係パブコメ7番)。なお、本年3月31日までに営業を開始していない取引所は、4月1日以降、登録なくして取引を行うことはできません。

(3) 本人確認の方法ですが、個人の場合、「本人確認事項(名前、生年月日、住所)の確認」+「取引目的の確認」+「職業の確認」+「PEPSでないことの確認(申告ベース)」をする必要があります(個人の場合)。

(4) 更に、非対面取引においては、取引所からは、①本人限定郵便の送付、②免許証等のupload +転送不要の書留郵便の送付、③マイナンバーカードによる電子認証、のいずれかの方法により本人確認がなされます。なお、一般に①②の郵送を行っているが、まだ郵便が届いていない、という間については取引を行ってよい、と考えられています。

*      *      *      *

なお、具体的な適用関係については自身の弁護士等にご確認下さい。

2016年8月2日付でハッキングを受けたとされるBitfinexが損失補てんのためにユーザーにトークンを発行するというにつき、幾つかの場所で聞かれたので自分の備忘用です。

(事実関係)

① 各種報道によるとBitfinexは8月2日にハッキング攻撃(とされるもの)を受け119,756 BTC(約6,600万ドル)の損失

② 同社の公式アナウンスではSecurity breach/theft等と表明されているが、詳しい原因や損失は現時点ではアナウンスされていない

③ 同社は8月6日付でカスタマー全員に36.067%の損失を負担させることを決定

④ 損失分をBFXと呼ぶトークンを発行。1BFX=1ドルで計算。当該トークンはBitfinexによって償還されるか、取引所Bitfinexの運営会社であるiFinex Incの株式と交換されるまで存続

(現時点での感想)

① 1BFX=1ドルと述べているが当該価格で実際に取引されるかは不明(詳細は発表されていないが難しいのでは)

② 預託の金銭・預託BTCともに36%強制的にカット。カスタマーが取引所に返還を求めても強制的にカットされた限度でしか受け付けないということだと思われるが、カスタマーがBitfinexを訴えた場合に同社が勝てるかは不明(日本の弁護士の感覚としては厳しい印象。但しBVI法等不明)

③ 準拠法も管轄もBVIであることから時間稼ぎをしながら取引所を継続させることも考えられるが、大口の債権者に敗訴した時点で取引所の存続が厳しくなる

④ またカット後の金額で大量流出の可能性

⑤ 潜在的投資家と出資を話しているとのことである。同社の現時点でのEquityがどの程度あるのかは調べていないが、数十億円の債務超過(潜在的な債務超過?)が存在している取引所に出資をすることは通常の感覚では困難

⑥ Good CompanyとBad Companyを分け、Good Companyに出資を受けることも考えられるが、(日本法だと)詐害行為取消、否認等の問題。BVI法だとどうか?

⑦ コミュニティーの中にはMtGoxとの比較から、倒産ではなく株やTokenで帰ってくるのであれば望ましいという意見もあるように見受けられる。全債権者がTokenに合意していれば良いが、大口債権者がToken処理に反対すれば上記③のようなリスクある。また反対する小口債権者が集団で訴えてくる可能性も

⑧ 仮にスポンサーが発見できたとしても、常識的には私的整理ではなく法的再生手続きを経た上で再生を行う事案ではないか(例えばGood Company、Bad Company方式のプレパッケージ型)。但し、BVI法、香港法、米国法など各国の法律が関係し、債権者も多数国に多数存在すると思われる中で法的再生手続がワークするかも予断を許さない印象。

添付のPDFファイルで同社のアナウンスメントや規約等を紹介しています。Bitfinex関係備忘ノート160809

I 規制関係

QuestionAnswer
開発・トレーディング・採掘
1仮想通貨関係のソフトウェアの開発を行っています。今回の法律で何か規制が入りますかソフトウェア開発のみでは入りません
2個人としてトレードを行っています。今回の法律で何か規制が入りますか通常、入りません。例えば登録取引所相手にユーザーとしてトレードを行なっている場合、それは通常は「業」として行っているものではない整理と思われます
3友人に仮想通貨を原価(ないしその時
点の時価)で分け与えました。規制され
ますか
通常の場合には「業」として行っていると見られず規制対象外と思われます。
但し、いわゆるネットワーキングビジネスなどで販売していく場合、「業」として行っていると見られることが通例と思われます
4仮想通貨を採掘しています。規制されますかされません
5仮想通貨を自分の商店で受け入れたいです。規制されますかされません
6仮想通貨を使用したいです。規制されますかされません
発行、独自コイン、ICO
1今回の規制で仮想通貨の「発行者」には規制が入りますか規制されません
なお仮想通貨の典型例であるビットコインには「発行者」は存在しません
今回の規制では「発行者」が存在する仮想通貨も仮想通貨の定義に含めていますが、そのような仮想通貨でも「発行」自体は規制されません。
2独自コインを発行していますが規制されますが上述のとおり仮想通貨の「発行」自体については改正法では規制されません
但し、独自コインの中には資金決済法上の「前払式支払手段」に該当するものもあり、その場合には、別途の規制が課されます
→ IOU を発行する場合には特にご留意下さい
3独自コインを販売していますが規制されますか独自コインが「仮想通貨」の定義に該当する場合、当該コインを業として販売するためには「登録」が必要となります
各コインが「仮想通貨」の定義に当たるか否かについては慎重な判断が必要です
4仮想通貨の ICO は規制されますか仮想通貨と現金の交換、又は仮想通貨同士の交換を業として行っていると見られ、通常規制されると思われます
詐欺的コインと規制
1今回の規制でいわゆる詐欺的コインは規制されますか「仮想通貨」の定義に該当する場合、当該コインを業として販売するには「登録」が必要となります。登録なくして販売した場合には違法になります
2詐欺的コインの販売業者でも登録できますか。登録によって詐欺的コインは絶滅すると考えて良いでしょうか今回の法律は官公庁がどのコインが適法でありどのコインが詐欺であるか等を判断するための法律ではありません。そのような審査も困難でありまた望ましくないように思われます
従って、法令の要件を満たす限り販売業者は登録を受けることが出来るように見えます
とはいえ、法令では体制整備や説明義務等を求めており、現実的には登録には相応のハードルがあります
登録審査が厳しければ詐欺的コインは通りにくいが健全コインも通りにくいという関係にもなりますので、これらの点は今後の状況を見守る必要があると考えています

II 規制関係(金融ビジネス関係)

QuestionAnswer
金融機関と仮想通貨ビジネス
1銀行が仮想通貨の取引所その他の業務を営めますか可能性はあります
銀行は銀行法に記載されている業務の他に、本業に近いと認められる業務を営むことができます。このような業務として認められれば営むことが出来ますが、当局との調整が必要となります。
2証券会社が仮想通貨の取引所を営めますか可能性はあります
証券会社は金商法に記載されている業務の他に一定の業務を承認業務として営めます。承認業務として営むためには当局との調整が必要となります。
なお、一般論としては証券会社が仮想通貨業務を営むほうが、銀行が同業務を行うより承認が得やすいのではと考えています。
仮想通貨ファンド
1仮想通貨で募集するファンドを組成したいのですが、金商法の規制に服しますか金商法のファンド規制は「金銭その他一定の類似物」で募集する場合に適用されますので、仮想通貨で募集する場合には適用されません
但し、実質的に金銭で募集している等と見られることのないようご留意下さい

III 税務

QuestionAnswer
取引利益と税務
1個人でビットコインの現物及び FX のトレードを行っています。税務について教えて下さい税務は専門外ですが、現物取引・FX 取引とも雑所得として課税されるものと理解しています。会社勤めの場合には 20 万円以上だと確定申告が必要。個人事業主等の場合には 1 円の儲けでも確定申告が必要と理解しています
2法人でビットコインの現物及び FX のトレードを行っています。税務について教えて下さい税務は専門外ですが、現物取引・FX 取引とも通常の利益として課税されるものと理解しています。
消費税
1今回の法律の成立・施行でビットコイン売買の消費税が非課税になりますかなりません
今回の法律は消費税については触れておりません
2今後、ビットコインの売買が消費税非課税になる可能性はありますか業界団体等から消費税非課税の要望は継続的に提出しています。国会での質疑でも消費税非課税化に関するご質問をして頂いています
但し、仮に非課税化がなされるとしても通常の税制改正の手続きによるものと思われ、一定の時間がかかります
3海外からビットコインを購入する場合の消費税について教えて下さい海外の取引所から購入する場合には消費税は非課税となります。
この点は公平性の問題もありますが、必ずしもユーザーにとって有利という訳ではなく、トレーダーの場合には、海外取引所から購入した場合には「仕入税額控除」が出来ないために「追徴課税」を受けるリスクがある点で留意が必要と言われています。

IV 会計

QuestionAnswer
会計処理
1ビットコインの会計処理について教えて下さい専門外なので判りません、すみません・・・。
判れば追記します。
なお、現在、公認会計士協会の専門部会で議論がなされていると理解しています。

留保事項

本書の記載は法律の文案及び関係当局と議論したところを踏まえた筆者の現時点での個人的な理解ですが、更に今後の政令・府令、パブリックコメント等を踏まえて検討する必要があります。また、具体的な事案に際しては、各自の弁護士、税理士、会計士等にご相談して下さいい。

旧聞に属しますが米国バーモント州でブロックチェーンに証拠能力を認める法律案が成立まじか、という報道があります。

「ブロックチェーン『証拠能力あり』と認める法律が可決間際に=米バーモント州」
Vermont is Close to Passing a Law That Would Make Blockchain Records Admissible in Court (http://btcnews.jp/vermont-approve-blockchain-as-admissible/)

上記についてどういうものなのかを何人かに聞かれ、かつ個人的にも興味があったのでこういうものではないかというものを書いておきます。

[前提知識]

  1. アメリカでは日本と違って陪審制であることもあり、法廷に証拠として提出できるものが非常に細かく証拠法のルールで決まっています。
  2. 証拠法は連邦や各州レベルで異なります。ただ、例えば Extrinsic Evidence(外因性の証拠)については Authenticity(真偽)を明らかにしてからではないと提出できません。連邦証拠法では知識ある証人によってそれが Authentic であることを証明しろ等とあるようです。
  3. これに対して日本では少なくとも民事訴訟では証拠は何でも提出できます。証拠としては提出できるが偽造である/信頼できない等は提出した後に争うということになります。

[今回の Bill の内容]

  1. ブロックチェーンの定義として、a mathematically secured, chronological, and decentralized consensus ledger or database, whether maintained via Internet interaction, peer-to-peer network, or otherwise と定義
(仮約) インターネットの相互作用、ピア・ツー・ピアネットワークまたは他の方法により維持される、数学的に保護され、時系列に従い、かつ分散型であるコンセンサスレッジャーまたはデータベース
  1. 以下の「推定」を行う。
    ① 有効なブロックチェーン技術の適用により検証された事実又は記録は真正 (authentic)である
    ② 当該ブロックチェーン上の事実や記録に付された日時については当該事実又は記録がブロックチェーンに加えられた日時である
    ③ 当該記録を作成した者とブロックチェーンに記録された者は、当該記録の作成者である
  2. 「推定」は事実や記録の「内容」の真実性、有効性、法的性質には及ばない
  3. 上記2の推定を打ち破るための証拠を提出する負担は、当該推定に反対する者が負う
  4. 本章で適用される「推定」は以下のような点にも及ぶがこれらに限られない
    ① 契約者、契約条項、契約の締結、契約締結日、状態
    ② 金銭、動産、契約、証書及び他の法的権利及び義務の、所有権、譲渡(assignment negotiation)、移転
    ③ 如何なる者についての本人性、参加、組織の状況、マネージメント、記録の保存、ガバナンス
    ④ 私的取引又は政府との取引についての本人性、参加、相互作用の状況、参加
    ⑤ 公的なものであれ私的なものであれ、記録の完全性
    ⑥ コミュニケーションについての記録の完全性
  5. 本章の規定は、以下のようなものを作成又は否定するものではない
    ① 本章に規定する如何なる目的のためにせよ、ブロックチェーン技術を使用する義務
    ② その実行や情報がブロックチェーン技術を使用して認証されている特定の活動についての法的有効性や官公庁による許認可

[感想]

  1. 証拠法的には、日本だと民事訴訟ですと証拠としては何でも提出できますので、今回のような条文は必要ありません。その意味では米国特有であるとは思います。
  2. しかしながら、本案ではブロックチェーンの定義がされ、また、どのような推定が及ぶかが詳細に規定されており、かつスマートコントラクトや権利の移転などについても目配せされており、非常に先進的な法案だと思います。もしこれが通れば世界でも一番早くブロックチェーンについて触れた法律になるのかもしれません。
  3. 日本でも刑事事件でブロックチェーンを証拠として使用したい場合(があるかはともかく)、少し考える必要があります。
  4. 本法案はあくまで証拠法のルールですが、日本でも契約、権利の移転(債権、不動産、動産、仮想通貨)、公的認証、私的認証(本人確認)、その他にブロックチェーンを利用した場合、または利用したい場合に法的に考えなければならない点は多数あります。
    ブロックチェーンは実証実験段階のものが多いですが、今後の実証実験の際には、その内容によってはこれらの点も考えていかないといけません。

ブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用してファンドを設定する等の事案を聞きます。

そのようなファンドが金融商品取引法上の登録を経ずに販売される場合、金商法違反となる可能性があります。

I 検討対象スキームの概要

本メモで検討の対象とするスキームは以下のスキームとします。

検討対象スキーム
① 新しく設定される Coin を不特定多数の人間に対して金銭で販売
② 当該販売によって得られた金銭を不動産の購入や、企業への投資、金地金への投資などにあてる
③ かかる投資から得られた収益を Coin の保有者に分配する
④ このようなスキームがブロックチェーン上のスマートコントラクトに記述され、自律的に執行される

II 金商法上のファンド規制

1. ファンド規制の一般的説明

日本国内で所謂ファンド(集団投資スキーム)の募集又は私募を行う場合、原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となります(金商法 2 条 8 項 7 号ヘ、28 条 2 項 1 号)

また、ファンドから募集を受けた資金をもって主として有価証券やデリバティブに対して投資を行う場合にも、投資運用業の登録も必要となります(金商法 2 条 8 項 15 号ハ、28条 4 項 3 号)。

例外として例えば、金商法 63 条で適格機関特例業務という特例が認められ、適格機関投資家+49 名以下の非適格機関投資家にしか販売しない場合には「届出」ですみます。しかしながらこの特例が悪用されたこともあり、平成 28 年3月1日以降は一般個人の出資が禁止されるなど、規制が厳格化されています。

http://www.fsa.go.jp/ordinary/tekikaku_kyouka/

金商法で規制対象となるファンドは以下のものとなります。

日本法によるファンド
(1) 以下の権利その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち
① 民法第 667 条第 1 項 に規定する組合契約
② 商法第 535 条に規定する匿名組合契約
③ 投資事業有限責任組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する投資事業有限責任組合契約
④ 有限責任事業組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利
⑤ 社団法人の社員権

(2) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であり

(3) 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利
ハ 保険業法上の保険契約など
ニ 上記のほか当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利

外国法によるファンド
(4) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

2. ファンド規制とブロックチェーン上のファンド

検討対象スキームのように「スマートコントラクト」を用いた場合、ファンド規制が適用されないか。

→ そのような解釈は極めて困難だと思われます。

考え方としてはスマートコントラクトの場合には上記(1)に該当しないという主張が考えられますが、かかる主張は極めて困難だと思います。そもそも、民法上の組合契約は「組合契約は各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」と定義され、商法上の匿名組合契約は「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。」と定義されています。いずれも当事者がスキームが組合契約である、匿名組合契約である等と述べなくても、成立が認められるようになっており、スマートコントラクトで記載をしたとしても、当該約束はこのいずれかに該当するとされる可能性が考えられます。

更に仮に組合契約や匿名組合契約に該当しなくても、上記(1)については「その他の権利」という包括規定があり、集団投資スキーム持分に該当するかどうかについては法形式の如何は問わない、①~⑤は集団投資スキームのビークルとして用いられるものを例示的に列挙するものに過ぎないとされています。

従って、日本法上の権利が何らかの形で存在すればスマートコントラクト上の権利であっても上記(1)は満たします。

さらに外国法に基づき組成したとしても類する権利として 6 号ファンドに該当します。どこの国の法律にも関係ない、インターネット世界上の権利に過ぎない、などの主張も困難と思われます。

以上により仮にスマートコントラクトで契約をしていても、例えば①全員が事業に関与する場合や、②出資額を超えて配当や元本償還が行われない場合、③そもそも収益分配の権利がない場合以外には金商法上のファンドに該当し、④63 条特例等を使わない限り、募集には第二種金融商品取引業者の登録等が必要となります。

3. ビットコイン等で出資を受ける場合には規制が非適用

金商法上のファンド規制は、出資者が金銭(又は類似するものとして政令で定めるもの)を拠出する場合を規制しています。類似するものとしては有価証券、為替手形、約束手形などが上げられています。

ビットコインや Ether は現行法上はこれらのいずれにも該当せず、従ってビットコインや Ether で資金の拠出を受ければ、現行法上はファンド規制の対象とはなりません。

但し、同一主体や関連主体がファンド出資のためにビットコインを販売し、当該ビットコインでファンドへの拠出を受ける等の場合、実質的に金銭の出資を受けているとして規制が適用される場合は考えられます。

III 不動産特定共同事業法

上記のほか投資対象が現物不動産である場合には不動産特定共同事業法を検討する必要があるなど、投資先によっては別途の法律の検討が必要となります。

例えば、不動産特定共同事業法上の不動産特定共同事業契約は以下のように定義されており、かかる業務を営むには許可が必要です。

不動産特定共同事業法
2 条
3 この法律において「不動産特定共同事業契約」とは、次に掲げる契約(予約を含む。)であって、契約(予約を含む。)の締結の態様、当事者の関係等を勘案して収益又は利益の分配を受ける者の保護が確保されていると認められる契約(予約を含む。)として政令で定めるものを除いたものをいう。

一 各当事者が、出資を行い、その出資による共同の事業として、そのうちの一人又は数人の者にその業務の執行を委任して不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約

二 当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため出資を行い、相手方がその出資された財産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる利益の分配を行うことを約する契約

三 当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため自らの共有に属する不動産の賃貸をし、又はその賃貸の委任をし、相手方が当該不動産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約

四 外国の法令に基づく契約であって、前三号に掲げるものに相当するもの

五 前各号に掲げるもののほか、不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を行うことを約する契約(外国の法令に基づく契約を含む。)であって、当該不動産取引に係る事業の公正及び当該不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を受ける者の保護を確保することが必要なものとして政令で定めるもの

検討対象スキームで現物不動産への投資を行う場合、不動産特定共同事業法の適用対象となる可能性が高いと思われます。

なお、金商法とは異なり「金銭」での出資に限定されておらず、ビットコイン等で出資を受けた場合も該当する可能性があります。

IV 仮想通貨であるから規制は適用ない?

自民党 IT 戦略匿名委員会資金決済小委員会は 2014 年 6 月 19 日に「ビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する【中間報告】(案)」を公表し、「「価値記録」のような新しい概念に対し、既存法は適用外とする。また、現在の僅少な流通量、自己責任の原則の徹底を考慮すると、現時点での立法は行わない」としています。

かかる記述をもって、仮想通貨やブロックチェーンであれば規制されない等と述べるものがいると聞いていますが、そのような解釈は成り立ちません。

上記 IT 戦略匿名委員会の記述は、あくまで出資法上の預かり金規制や銀行法の為替取引規制、犯罪収益移転防止法上の規制に関する当該時点の解釈を示したものに過ぎません。

それ以外の他の法律について解釈を示したものではなく、例えば、(i)ビットコインで賭博をした場合に賭博罪の適用がない、(ii)ビットコインを詐取した場合に詐欺罪の適用がない、等としたものではないのと同様、(iii)ブロックチェーン技術を用いてファンドを組成した場合に金商法の規制が適用ない、等としたものではありません。

V 法令違反とされた場合の投資家への影響

法令違反とされた場合には刑事罰が課されたり業務停止命令等が発出され、想定されるスキームが途中で終了する等し、元本等も帰ってこないリスクがあります。

また一般に法令違反を行う投資スキームはコンプライアンスに対する意識が希薄であり、他の法律や税法、会計等の検討も不十分なことが多く、想定外のリスクを被る可能性が高いと考えられます。

投資をご検討の方は法令違反スキームにはそのようなリスクがあることを前提に、法令違反がないか検討の上、投資を検討されることをお勧めいたします。

The DAO について(6 月 17 日追記)

現在、非常に注目を集めている the DAO について日本で販売する場合に日本の金商法の規制が適用されるのかを良く質問を受けます。the DAO の仕組みは極めて複雑でありスキーム全体について検討した訳ではありませんが、Ether を指定アドレスに送付することにより the DAO のトークンが返送されると聞いています。その場合、Ether は金銭(又は類似するものとして政令で定めるもの)には該当しませんので、本文で述べる例外的な場合を除き、少なくとも現行法上はファンド規制の対象外と解釈せざるを得ないのではないかと思われます。

但し、米国や UK はじめ諸外国では規制対象である可能性はあり、また本邦でもファンド規制以外の規制が適用されないかについては未検討です。

なお、今後は仮想通貨のような支払手段も「金銭」と類似するものとして上記政令に追加指定すべきではないかとも思われます

留保事項
本記載は斎藤の私的な見解に過ぎず、斎藤が関与する団体等の意見ではありません。

また、弁護士として法的アドバイスをするものではなく、具体的なアドバイスは各人の弁護士等の専門家にお聞き下さい。

斎藤は具体的なスキームが法令上の届出をしているか等は確認していません。また具体的な商品の具体的な中身の詳細も検討していません。

斎藤は違法商品への投資は極めてリスキーであると考えますが、仮に金商法上の届出等がなされている場合であっても金融商品への投資はリスクがあり、届出をしているから安全である等と述べるものではありません。

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