2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条に基づき緊急事態宣言がなされた中、本年の株主総会をどう開催するかは、総会実務者としては関心があるところだと思います。会社法上、いわゆる完全なバーチャル株主総会[1]の開催に関しては否定的な意見もあり[2]ハードルが高い中、会社法の規定に従い、いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会(詳細は後述)[3]を開催するのか、延期するのか又は継続会(会社法第317条参照)をするのか等本年の定時株主総会をどのように行うのか、判断が迫られています。
そのような中、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」による「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」では、「法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすることは可能であること。」とされています[4]。この点、多くの株式会社(上場非上場問わず)では、定時株主総会において議決権等の権利を行使できる株主は「毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することのできる株主とする。」などの規定を定款で定めており、かかる定款の規定を無視して基準日を定め(会社法第124条第2項)、当該基準日時点での株主に権利行使させる形で延期した例も見られるところです[5]。このような例があるとはいえ、当初の日程で決議する議題があるなど6月末に定時株主総会を開催する必要があり、にもかかわらず企業決算・監査が間に合わない場合に備えて、対応方法として前述の連絡協議会は以下の方法を掲げています[6]。
資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。
株主総会の開催方法としては、新型コロナウイルス感染症拡大防止という観点からも、ハイブリッド型バーチャル株主総会が注目を浴びています。
経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます。)2頁では、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とハイブリッド出席型バーチャル株主総会という二つのハイブリッド型バーチャル株主総会の開催方法が挙げられています。
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会(以下「参加型」といいます。)とは、リアル株主総会(「物理的に存在する会場において、取締役や監査役等と株主が一堂に会する形態で行われている」ものとされています。)の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいいます。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会(以下「出席型」といいます。)とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいいます。
参加型と出席型のいずれも、会社法上特にこれを禁止する規定はなく、適法に開催することができます。以下、株主の参加場面における注意点について、実施ガイドの内容を基に概説します。
(1)質疑応答
参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、あくまでもオブザーバーとして参加することになるので、会社法上、株主総会において株主に認められている質問(会社法第314条)を行うことができません(実施ガイド9頁参照)。
他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、質問は可能であるものの、インターネット等からの出席という特殊性から、音声ではなくテキストによる質問ということが考えられ、出席者一人が提出できる質問回数や文字数、送信期限(通信に要する時間や、事務局の処理時間を考慮すると、リアル株主総会の会場の質疑終了予定の時刻より一定程度早く設定する必要があるでしょう。)などの事務処理上の制約や、質問を取り上げる際の考え方、個人情報が含まれる場合や個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げないといった、リアルの場での質問ではあまり問題となっていなかった事柄についても、その処理方法について予め運営ルールとして定め、招集通知やウェブ上で通知することが考えられます(実施ガイド21頁参照)。
(2)議決権行使
参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、一般的には当日の決議に参加することができません[7]。そのため、「議決権行使の意思のある株主は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使や、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使を行うことが必要であり、会社は、その旨を事前に招集通知等であらかじめ株主に周知することが望ましい」とされています(実施ガイド9頁)。
他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、審議に参加し、議決権を行使することは可能であるものの、バーチャルでの株主総会に出席した株主が事前に議決権行使を行っていた場合の取り扱いに関しては、リアル株主総会と異なる取扱いをすることが考えられます(実施ガイド18頁)。
(3)動議
参加型の場合、当日、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、あくまでもオブザーバーとして参加することになるので、会社法上、株主総会において株主に認められている動議(会社法第304条参照)を行うことができません(実施ガイド9頁)。
他方、出席型の場合、株主総会への「出席」である以上、動議は可能であるものと考えられるものの、バーチャル出席者に対しリアル出席者と同等の取り扱いをするために「システム的な体制を整えることは、会社の合理的な努力で対応可能な範囲を超えた困難が生じることが想定され」(実施ガイド22頁)、「株主に対し、事前に招集通知等において、「バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください。」といった案内を記載したうえで、原則として動議についてはリアル出席者からのものを受け付ける」(実施ガイド22頁)ということが考えられます。また、リアル出席者からなされた動議に関しても、バーチャル出席者に採決に参加させることがシステム上困難なことも想定され、「株主に対し、事前に招集通知等において、「当日、会場の出席者から動議提案がなされた場合など、招集通知に記載のない件について採決が必要になった場合には、バーチャル出席者は賛否の表明ができない場合があります。その場合、バーチャル出席者は、事前に書面又は電磁的方法により議決権を行使して当日出席しない株主の取扱いも踏まえ、棄権又は欠席として取扱うことになりますので予めご了承ください」といった」(実施ガイド22頁)案内を記載したうえで、「個別の処理が必要となる動議等の採決にあたっては、バーチャル出席者は、実質的動議に関しては棄権、手続的動議に関しては欠席として扱う」(実施ガイド22頁)ことが考えられます。
ハイブリッド型バーチャル株主総会においては、当日の出席者の本人確認についてリアル出席株主とバーチャル出席株主それぞれに対して行うことが必要であるとした上で、バーチャル出席株主の本人確認にあたっては、事前に株主に送付する議決権行使書面等(議決権行使書面又は議決権行使書面と同封の書類)に、株主毎に固有のIDとパスワード等を記載して送付し、株主がインターネット等の手段でログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法を採用するのが妥当とされています(実施ガイド15頁)。
また、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会における代理人出席に関しての取り扱いに関して記載されており、「代理出席の取り扱に当たっては、代理人の出席はリアル株主総会に限るとすることも、妥当な判断と考えられる。そのような取扱いをする場合、代理人の出席はリアル株主総会に限るという旨について、予め招集通知等において株主に通知しておくことが必要である。」としています(実施ガイド16頁)。①会社法では、株主が議決権を行使する方法として、代理人による議決権行使が認められている(会社法第310条)から代理人がリアル株主総会に出席することを認めなければならないが、これを認めていれば同条には違反しないと言えること、また、②バーチャル出席という態様の特性を考えると、代理人による出席を認める必要性が乏しいが、他方で本人確認等に付随する処理は実務上煩雑であり、事務処理コストが高いことが理由として挙げられています。
リアル株主総会の実務においては、「日本の信頼性の高い郵便事情を背景に、株主名簿上の株主の住所に送付された議決権行使書面を所持している株主は、通常の当該株主と同一人であるという経験則を適用し、本人確認を実施していると理解できる。」(実施ガイド15頁)ことから、実際に代理人がリアル株主総会に出席する場合であっても、出席者が本人なのか代理人なのか確認しない会社が多いかと思われます(特に、法人株主の役職員に関して対応していないケースはよく聞くところです。)。
ハイブリッド型バーチャル株主総会でも、議決権行使書面又は議決権行使書面と同封の書類に記載されたID及びパスワードによってバーチャル出席した場合、リアル株主総会と同様に実際に株主として参加又は出席したものが本人か代理人であるかどうかは実際には不問とするケースもあろうかと思われます。
当職も6月総会をいくつか控えています。今後、ハイブリッド型参加型バーチャル株主総会が取り入れられ、総会実務担当者、証券代行その他関係者間で議論が深まっていくかものと思いますので、またアップデートできればと思います。
[1] 経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf)3頁で定義する、参加者全員がリモートで参加する、バーチャルオンリー型株主総会を意味します。
[2] 商事法務No.2225「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実務対応₋実施ガイドを踏まえて₋」16頁武井一浩先生のコメント参照。会社法第298条第1項第1号等条文上の「場所」という記載は明らかに物理開催を前提としており、実際ネット上での開催のみとするのは難しいと思われます。なお、ドイツでは、2020年3月28日付で2021年12月31日までの時限立法として、完全なバーチャル株主総会が認められました(Gesetz zur Abmilderung der Folgen der COVID-19-Pandemie im Zivil-, Insolvenz- und Strafverfahrensrecht)。要件としては、①株主総会が、音声及びビデオが配信されていること、②株主は議決権を電磁的方法又は事前の書面により行使できること、③電磁的方法により質問を行うことができること、及び④株主総会決議に異議を唱えることができる権利が与えられることとされています。
[3] 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」2頁
[4] https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html
[5] なお、延期の場合は、3月末日の株主は定時株主総会で議決権を行使することができず、改めて基準日を定めて公告する必要があります。株主会社東芝は、本年4月18日付で、定時総会の延期のため基準日設定の公告を行う旨の適時開示を行っています(http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20200418_1.pdf)。
[6] 延期または継続会の場合、一つの案として、上場会社であれば、会社法第459条(剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め)の定めが定款にあることがほとんどだと思いますが、同条及び定款の定めに従い、取締役会において剰余金配当の決議を行い、定時株主総会(継続会)において剰余金配当の決議を行わないといった対応も検討しうるところかと思います(実際、以前から会社法第459条及び定款の定めに従い剰余金配当は取締役会決議のみで行い定時株主総会において当該議案は上程しないという方針の上場会社もあるところではあります。)。
[7] 実施ガイド9頁には、注6として「会社によっては、その置かれている状況により、インターネット等の手段を用いて審議を傍聴した株主が傍聴後に議決権を行使することを可能にするような選択肢を検討することも考えられる。(以下略)」と記載している。