暗号資産の価格上昇に伴い、ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。
南米やアフリカでは金融インフラが不十分な地域を中心に、ビットコインやステーブルコインが日常決済で急速に普及しています。例えば、エルサルバドルではビットコインが法定通貨として採用され、納税や個人間送金にも活用されています。先進国アメリカでも、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスでCrypto決済を導入する企業が増えています。
一方、日本では2017年にビックカメラがビットコイン決済を導入したことが大きなニュースになったものの、その後のCrypto決済の普及は限定的だと思われます。その主な原因として、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きな課題です。ただし、値動きが少ないステーブルコインが普及すれば、日本でもCrypto決済が広がる可能性があります。
本稿では、Crypto決済の仕組みを解説し、日本で導入する際の法律上の論点について述べます。
本稿の「Crypto決済」とは、暗号資産決済やステーブルコイン決済を含む幅広い概念として扱いますが、法律議論は主に暗号資産を中心として議論します。ステーブルコインの売買や管理に関する規制は概ね暗号資産規制と同様であり、適宜、読み替えてお読み下さい。
Cypto決済の例は、大きく分けて二つのカテゴリーに分けられます。一つはCryptoを直接決済に使用する例、もう一つはクレジットカードやデビットカードを使用した例です。下記では、海外で行われている例の一部を紹介します。
〇アメリカ
〇エルサルバドル
〇シンガポールや韓国
〇スイス
〇クレジットカード1/デビットカード型
〇デビットカード型
〇プリペイドカード型
暗号資産法 | 割賦法、貸金業法、前払式支払手段規制 | 外為法 | |
自社店舗によるCrypto決済の受入れ | なし | なし | 非居住者との3000万円以上の決済の場合には外為法の報告 |
決済代行業者を利用したCrypto決済 | 決済代行業者に売買規制の適用可能性 | なし | 同上 |
クレジットカード型 | 保管規制、売買規制の適用可能性 | 割賦法(ショッピング)及び貸金業法(キャッシング)の適用可能性 | 同上 |
デビットカード型 | 保管規制、売買規制の適用可能性 | なし | 同上 |
プリペイドカード型 | なし | 自家型又は第三者型として前払式支払手段規制の適用 | 同上 |
自社の実店舗やオンライン店舗でCryptoを決済に収受する場合の規制を解説します。
日本では、暗号資産の売買、その媒介や他人のためにする管理は、暗号資産交換業として規制されています。しかし、自社の店舗でCryptoを決済として受け取ること自体については規制が存在しません。
また、受け取ったCryptoを自社で保有したり、暗号資産交換業者を利用して金銭に交換することにも規制はありません。
ただし、非居住者との間で、3000万円以上の決済を行う場合は、原則として外為法上の報告義務が発生します(外為法55条)。この報告義務は、3000万円相当のCryptoでの決済場合も同様であり、居住者による報告が必要となります。この外為法上の報告義務は、2以下の場合でも同様に当てはまります。
日本の会社の中には、自社で暗号資産を保有したり管理したりすることに抗拒感を持つ会社が存在します。これは、価格変動やハッキングなどのセキュリティリスク、会計や税務上の問題などが原因として挙げられます。
このような会社は、第三者である決済代行業者(以下「決済代行者」といいます。)を利用し、決済代行者が暗号資産を収受し、これを日本円に変換して店舗などの会社に渡すスキームが取られることがあります。
このスキームは、下記の行為の組み合わせとなります。
①暗号資産を他人のために収受する。
②収受した暗号資産を他人のために日本円に変換する。
③変換した日本円を会社に渡す。
しかし、この中の「②暗号資産を日本円に変換する」行為は、決済代行者が暗号資産交換業を営んでいるとみなされ、原則として暗号資産交換業の登録が必要と考えられます。
この点について、日本ではコンビニエンスストアや宅配便業者による収納代行が特に規制なく行われていることとの比較が問題となります。決済代行者が行う行為も収納代行であり規制は存在しないと考えられないか、以下のような整理ができないか問題となります。
①店舗から決済代行者が収納代行の権限を与えられる。
②決済代行者は暗号資産を自分のものとして収受する。
③その委任事務の処理の一環として日本円を渡す。
④これは変換行為ではなく、委任事務の処理上の支払い方法にすぎない。
このような考え方は理論上は可能かもしれませんが、筆者の経験では、実際の運用では当局との議論が厳しくなる可能性が高いと考えられます。そのため、実務上は暗号資産交換業の登録が必要な可能性が高いと考えておくのが安全でしょう。
ただし、他の業務や委任された事務に付随する形で行われる場合、その具体的な内容によっては許容される可能性もあります。この点については、ケースごとに慎重な検討が必要です。
(1)仕組み
クレジットカードタイプのCrypto決済として考えられる典型的な例は、次のような仕組みになります2。
①暗号資産交換業者またはその連携会社がクレジットカードを発行。
②ユーザーが円立てやドル立てで商品を購入。
③通常のクレジットカードとは違い、決済はユーザーの暗号資産交換業者のアカウントからビットコインなどが引き落とされる。
(2)割賦販売法
日本において、クレジットカードの発行には、「2ヶ月を超える分割支払い」「リボルビング支払い」「ボーナス一括支払い」などの機能を提供する場合に割賦販売法が適用されます。
一方、「翌月1回払い」のみのカードは割賦販売法の対象外であり、規制を受けずに発行可能です(割賦販売法2条の定義参照)。ただし、このようなカードは便利性が限られるため、実際にはほとんど発行されていません。
暗号資産にリンクするクレジットカードでも、この規制が適用されます。
(3)貸金業法
クレジットカードのキャッシング機能は、商品やサービスの購入ではなく、借入であるため、割賦販売法ではなく貸金業法の規制対象となります。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、キャッシングを円や外貨で行える場合には貸金業が適用されます。ただし、暗号資産でキャッシングできる場合は、暗号資産レンディングには貸金業法が適用されないため規制対象外です(貸金業法2条の定義参照)。
(4)暗号資産法
暗号資産にリンクしたクレジットカードの場合、この暗号資産の保管には暗号資産交換業が適用されます。
さらに、決済の過程で暗号資産の売買行為に該当することがあります。
この場合、上記行為は暗号資産の売買であり、暗号資産交換業の登録が必要になると思われます。
なお、クレジットカードの決済は原則として金銭で行うが、ユーザーが事後的に暗号資産での代物弁済を選択できる、といったスキームである場合、これは代物弁済にすぎず、暗号資産交換業は適用されないと思われます。
(1)仕組み
デビットカードタイプのCrypto決済の典型的な例は次のような仕組みです。
①暗号資産交換業者またはその連携会社がデビットカードを発行。
②ユーザーが暗号資産交換業者にビットコインなどを預託。
③ユーザーは預託した暗号資産の範囲で、円立てやドル立てで商品を購入可能。
④商品購入時に、ビットコインが自動的に円転される。
(2)デビットカード発行に関する規制
日本では、デビットカードの発行自体には特別な規制はありません。しかし、例えば普通のデビットカードは預金を組み合わせて発行されるため、銀行法の適用対象となります。
一方、暗号資産を連携したデビットカードの発行には銀行法は適用されず、以下の論点が生じる可能性があります。
(3)暗号資産法
他人の暗号資産を業として管理する場合は、暗号資産交換業者としての登録が必要となります。また、売買規制が適用される可能性もあります。
(1)仕組み
前払式支払手段とは、図書券やAppleギフトカード、Amazonギフトカードのように、事前に対価を支払い、その対価に応じた、残高などが付与され、残高で決済ができる仕組みをいいます
前払式支払手段型のCrypto決済は、次のような流れになります。
①発行会社がプリペイドカードを発行。
②ユーザーが発行会社にビットコインなどを送付。
③送付されたビットコインの時価に従ったチャージが行われる。例:0.001BTCであれば1.5万円相当。
④ユーザーがカードを使用した際に、チャージ残高から減額される。
(2)前払式支払手段の発行規制
日本における前払式支払手段の発行は、「自家型」と「第三者型」に分けられます。
自家型の場合には届出、第三者型の場合には登録が必要となり、いずれの場合も未使用残高の半分の供託などの規制がかかります。
ただし、次の場合は規制が適用されません。
(3)暗号資産法の適用
プリペイドカードは、クレジットカードやデビットカードと異なり、原則として暗号資産交換業の規制は適用されないと考えられます。この理由は下記のとおりです。
①発行会社は暗号資産を保管しているわけではない。
②チャージで、暗号資産の金額に応じたチャージがなされるが、これは金銭と暗号資産の交換ではない。あくまで前払式支払手段の発行行為にすぎない。
③暗号資産同士の交換にも該当しない。
ただし、チャージした暗号資産を、再度暗号資産に戻すこと(払い戻し)が可能なスキームの場合、実質的には暗号資産の預託とみなされ、暗号資産交換業におけるカストディ規制が適用される可能性があります。
(1)Crypto決済時の利益確定について
Crypto決済は、決済を行った時点で利益が確定したとされ、この利益に税が課されます。たとえば、1万円で取得した暗号資産が5万円に値上がりし、その暗号資産を使用して決済を行った場合、4万円の利益が発生します。この利益は、個人の場合「雑所得」に分類され、他の所得と合算した総合課税にて、最大55%の税率が適用されます。
(2)少額決済の記録と確定申告の手間
Crypto決済を行った場合には、上記のような課税がなされるため、原則として確定申告が必要になります。雑所得が20万円以下であり、かつ1か所から給与を受け取らない給与所得者である等の場合には確定申告の義務がありません。
しかし、雑所得が20万円を超える場合や、雑所得が20万円以下でも自営業者、フリーランス、副業がある等でそもそも確定申告の義務がある場合、Crypto決済での利益についても1円単位で申告する必要があります。
たとえば、日常的な買い物で暗号資産を使用した場合、各取引時点の暗号資産の時価を記録し、その利益を合算して申告することが求められます。この記録と計算の手間は非常に煩雑であり、特に少額決済を頻繁に行う場合、実務上大きな負担となります。
なお、この問題は、本来は、海外旅行で余った外貨を後日使用した場合にも適用されます。例えば1ドル120円の時に入手した10ドルを、何年後かの海外旅行で1ドル150円で使用した場合には、差額の30円×10ドル=300円について雑所得として課税され、確定申告が必要となります。
(3)Crypto決済への海外での課税
海外では暗号資産に関するキャピタルゲイン課税がない国や、ある場合にも少額の場合や長期保有の場合に課税対象外とする、という国があります。
(各国の税制=Chat GPT等調べ)
1 | 個人の暗号資産取引についてキャピタルゲイン課税がない国 | シンガポール、ポルトガル、スイス、マレーシア、UAE、エルサルバドル |
2 | 個人が長期で保有した場合、キャピタルゲイン課税がない国 | ドイツ(1年以上保有した場合には非課税) |
3 | 一定の限度額の範囲でキャピタルゲイン課税がない国 | イギリス(年間6000ポンド=約120万円まで) イタリア(年間2000ユーロ=約32万円まで) 韓国(年間2500万ウォン=約250万円まで) ブラジル(月額35,000ブラジルレアル=約90万円まで) |
4 | 少額決済には非課税の国 | オーストラリア(1取引が10,000豪ドル=約90万円以下の「個人的利用目的(Personal Use Asset)と見なされる場合、非課税) |
5 | 少額決済への非課税化を現在議論中の国 | アメリカ(現在は短期保有か1年以上保有の長期保有かに分けて課税。1回あたり200ドルまで利益の少額決済については課税しない議論が進行中) |
6 | 少額決済でも基本的に課税される国 | 日本(但し、確定申告義務ない人の場合には20万円までの雑所得は非課税)、フランス、カナダ、アルゼンチン |
日本で暗号資産のキャピタルゲインを課税しない議論は極めて難しいと思われます。また、G7でも米国、フランス、カナダが課税の現状下、少額決済に課税しないとの議論を当局に説得的に要望することは難しいかもしれません。
しかしながら、各国がWeb3の進展を図る中、特に米国で少額決済の非課税化が通った場合には、日本でも競争政策上少額決済の利益には課税しない等の制度を導入することが必要なのではと思われます。
暗号資産リンク型のカードを発行する際には、多くの場合、国際ブランド(VISA、MasterCard、Amex、JCB、Dinersなど)と契約し、その決済ネットワークを利用します。この際、国際ブランドは、自身が規制を受けているため、カード発行体に対して以下のような審査を行うことが通例です:
さらに、国際ブランドと直接契約する代わりに、既に国際ブランドと強固な関係を持つ日本のクレジットカード会社を通じて提携カードとして発行する方法もあります。この場合、カード発行プロセスの一部が簡素化される可能性がありますが、それでも一定の規制対応やコストが発生する点には注意が必要です。
本邦ではCrypto決済は必ずしも普及していないと思われます。これは規制というよりも、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きいのではと思われます。
ステーブルコインが普及した場合、相当程度の問題は解決される可能性があるものの、現時点では日本でステーブルコインがどの程度普及するかは未知数です。
今後、Web3分野での国際競争の観点からも、Crypto決済の税務面が改善されることが期待されます。
留保事項
創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。
LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことについては、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」という通知が2023年4月19日に経済産業省が出され、取扱いが整理されたところである(当事務所の以前のArticle「LPS法とトークン投資に関する2023年4月19日付経産省通知について」(2023年4月25日)参照)。
しかしながら、暗号資産(資金決済法第2条第14項)市場が引き続き拡大し、いわゆるWeb3.0系スタートアップを含め暗号資産による資金調達を目指すスタートアップ企業も増えている中、暗号資産への投資を促進すべきであるとの意見が多く唱えられてきた。[1]また、経済産業省も、LPSによる暗号資産への投資については、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、取扱いについて検討を行うとしていたところである。今般、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」(2024年5月31日成立、同年6月7日公布)により、LPS法が改正され、主として、①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められることとなり、②合同会社への出資が認められることとなり、また③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったことから、本稿では、かかる改正内容について概説する。
LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号及び新設された第2項の規定及びその解釈による。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。また、特に断りが無い限り、本稿では、改正後のLPS法の内容及び条文番号を記載している。
第3条第1項 ・ 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の持分の取得及び保有企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有(第1号) ・ 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有(第2号) ・ 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[2]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有(第3号) ・ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有(第4号) ・ 事業者に対する金銭の新たな貸付け(第5号) ・ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有(第6号) ・ 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有(第6号の2) ・ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)(第7号) ・ 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業(第8号) ・ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資(第9号) ・ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの(第10号)[3] ・ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの(第11号)[4 ] ・ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用(第12号) [5] 第3条第2項 前項第一号から第三号まで、第六号又は第八号に掲げる事業に係る株式、持分、新株予約権又は指定有価証券には、前条第一項の政令で定める者については、これらに類似するものであって外国の法令に準拠するものを含むものとする。 |
従来のLPS法下では、日本の会社法下で設立された株式会社であれば、その株式をLPSが取得及び保有することが上限なく可能であったのに対し、外国籍の法人であれば、日本法人の子会社であっても、「外国法人」の発行する株式の取得として、投資金額(なお、投資約束金額ではない。)の50%未満の範囲でしか、投資が認められなかった。
しかしながら、今般の改正により、「事業者」という定義が、「法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)」とされ(LPS法第2条第1項。以下、下線部の外国法人を「日本法人等が支配等する外国法人」という。)、株式会社の発行する「株式」には、これらの日本法人等が支配等する外国法人が、当該外国の法令に従って発行する、「株式」に類するものが含まれることとなった。
これにより、例えば、日本人が設立したスタートアップであって、米国証券市場での上場を目指して、米国法人をホールディングカンパニーとする法人にも、LPSが投資を行うことが可能となった。
具体的には、政令では、「本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすもの」として以下の者が定められている。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。つまり、日本人又は日本法人が議決権の過半数を有しているか(資本関係)、意思決定機関を支配しているか、又は取引等を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与えることができるか、という形式的・実質的な基準に拠っている。実際のところ、日本人が外国法人を創業し、その後株主が増えたとしても、当該株主の多くが日本法人であれば[6]、投資先となる当該外国法人は当該条件を充足し、上限無しにLPSの投資対象となりうることとなる。
第1条第1項 投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「法」という。)第2条第1項の政令で定める者は、外国法人のうち、次の各号に掲げる者のいずれかに該当する者とする。 ・ 本邦法人又は本邦人(以下この条において「本邦法人等」という。)により総株主又は総出資者の議決権の過半数を保有されている者その他本邦法人等により財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(次項において「意思決定機関」という。)を支配されている者として経済産業省令で定めるもの(以下この条において「子法人等」という。)(第1号) ・ 本邦法人等又は子法人等との間の売上高又は仕入高が売上高の総額又は仕入高の総額の100分の50以上である者その他本邦法人等又は子法人等が出資、役員その他これに準ずる役職への本邦法人等若しくは子法人等の役員若しくは使用人である者若しくはこれらであった者の就任、融資、債務の保証若しくは担保の提供、技術の提供又は営業上若しくは事業上の取引等を通じて、財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる者として経済産業省令で定めるもの(第2号) 第1条第2項 ・ 本邦法人等及び子法人等又は子法人等が他の者の意思決定機関を支配している場合における当該他の者は、その本邦法人等の子法人等とみなして、この条の規定を適用する。 |
従前のLPS法では、LPSによる合同会社の持分(社員権)の取得は認められなかったが、機関設計の柔軟性等を鑑みて合同会社として設立されるスタートアップ企業等の事業者も少なくないことから合同会社についても、LPSの投資対象となることとあった(上述のLPS法第3条第1項第1号、2号等)。
従前のLPS法では、LPSによる暗号資産への投資が認められていませんでしたが、上述のような議論を経て改正が実現され、今後は、事業者のために、事業者自身又は暗号資産取引所に委託して暗号資産を発行する場合など、特定の条件下において、LPSによる暗号資産への投資が認められる。
なお、今般の改正はあくまで「事業者のために発行される暗号資産」の取得及び保有を認めるものであり、すべての暗号資産が投資対象となるわけではないことには引き続き注意を要する。例えば、決済用の仮想通貨として一般的な、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、LPSの投資対象となる「事業者のために」発行されたものではないことから、LPSの投資対象には含まれないと思われる。
改正法の施行は、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」及び「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」と改正内容により異なっており、上述の①日本法人等が支配等する外国法人への投資に関する規定及び②合同会社への出資に関する規定は前者(即ち2024年9月7日まで)、③事業者のために発行される暗号資産への投資に関する規定は後者(即ち2025年6月7日まで)である。
留保事項
本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
本書は当事務所ウェブサイト用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。
本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に拡大を続けるリキッドステーキングとその最大手LIDOの仕組み、日本法の考察を記載します。
(1) リキッドステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼びます)の売買交換規制、②同法のカストディ規制、③金商法のファンド規制、の適用の有無を考える必要がある。 (2) 仕組次第であるが、LIDOが行うETHをステークし、代わりにstETHを受領するような取引は、暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。 (3) ETH等のステークが、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、プロトコルやノードオペレーターが技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。 (4) ETH等の拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、ETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング当のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。 (5) 上記のほか、日本法は運営者等の人や法人を対象とする規制のため、プロトコルに運営者がいない場合、当該プロトコルには規制が掛からないという議論がありうる。 |
なお、当事務所はDeFiやステーキングについて下記記載のようなBlogを執筆しています。本稿の他、下記をご参照ください。
・イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法(2020.7.31)
・DeFiによる暗号資産デリバティブ取引/信用取引と日本法(2020.9.10)
・Uniswap/DEX/AMMと日本法(2020.10.23)
リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。
Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。
ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。
イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH (2023年10月現在の価格で約830万円)をデポジットすることで Validator になれる、②Validatorがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、Validator が意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またValidatorは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。
LIDOとは世界で最大規模を誇るLiquid Stakingを行うためのプロトコルです。現時点でイーサリウムのステーキング量の3割以上をLIDO経由が占めるとされています。 LIDOの仕組みは以下のようになっていると思われます3。
出典:公表資料から当事務所が作成
LIDOのようなリキッドステーキングを提供する場合、暗号資産法の売買規制やカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。
LIDOに対してETHを拠出すると、stETHが交付され、逆にstETHをLIDOに対して送付すると、ETHが得られます。
この行為が、ETHとstETHとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。
しかしながら、stETHはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなstETHの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。
LIDOに対するETHの拠出が、LIDOに対する暗号資産の寄託と考えられ、LIDOに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。
しかしながら、LIDOに対する拠出はスマートコントラクトに対する拠出であり、LIDOはスマートコントラクトの仕組上、ステーキング以外には当該ETHを利用できない(=秘密鍵を管理していない)ように見受けられます。
本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、スマートコントラクトにより、ETHの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。
ETHの拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、LIDOやリキッドステーキングがファンドに該当しないかが問題となります。
日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。
日本法によるファンド (A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。) (B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利 (C) 次のいずれにも該当しないもの イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利 ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略) 外国法によるファンド (D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの |
上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり4、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。
また、上記(C)の例外事由にも該当しません。
問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETHがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られたETHがユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。
しかしながら、リキッドステーキングの場合、通常のファンドとは以下のようば点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。
なお、DeFiの場合、そもそも運営者が存在せず、規制対象にならない、という議論がありえます。日本法は、運営者などの人や法人を規制する法律体系であり、完全に非中央集権的なファイナンススキームの場合、規制対象とはなりません。しかしながら、DeFiについて本当に運営者がいないのかという点は慎重に検討する必要があります。一般にDeFiでは運営者が不存在なことを目指しますが、とはいえ、多くのDeFiでは本当に完全に運営者がいないかは不明確です5。
また、運営者がいない場合でも、仮に運営者がいれば法令上は金融規制に服する場合、当該スキームに媒介を行う者は規制対象となりえ、例えばライセンスのない日本企業が当該DeFiに顧客を送客することが行えなくなります。
そのため、DeFiの法的論点の検討に際しては、(i)仮に運営者がいた場合に法的規制に服するか、という論点と、(ii)運営者が存在するか、という論点の2点を検討する必要があります。
LIDOについて検討するに、LIDOでは中央集権的なエンティティーがなく、スマートコントラクトとLIDO DAOにより運営がなされるとされていますが、LIDO DAOが真に分散しているのかは公表資料からは我々には不明確であったこともあり、本稿では上記(i)を中心に検討しています。
留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、リキッドステーキングやLIDOの利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。