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創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

1初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。
LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことについては、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」という通知が2023年4月19日に経済産業省が出され、取扱いが整理されたところである(当事務所の以前のArticle「LPS法とトークン投資に関する2023年4月19日付経産省通知について」(2023年4月25日)参照)。

しかしながら、暗号資産(資金決済法第2条第14項)市場が引き続き拡大し、いわゆるWeb3.0系スタートアップを含め暗号資産による資金調達を目指すスタートアップ企業も増えている中、暗号資産への投資を促進すべきであるとの意見が多く唱えられてきた。[1]また、経済産業省も、LPSによる暗号資産への投資については、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、取扱いについて検討を行うとしていたところである。今般、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」(2024年5月31日成立、同年6月7日公布)により、LPS法が改正され、主として、①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められることとなり、②合同会社への出資が認められることとなり、また③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったことから、本稿では、かかる改正内容について概説する。

2.LPSが投資できる資産

LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号及び新設された第2項の規定及びその解釈による。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。また、特に断りが無い限り、本稿では、改正後のLPS法の内容及び条文番号を記載している。

第3条第1項
・ 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の持分の取得及び保有企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有(第1号)

・ 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有(第2号)

・ 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[2]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有(第3号)

・ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有(第4号)

・ 事業者に対する金銭の新たな貸付け(第5号)

・ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有(第6号)

・ 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有(第6号の2)

・ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)(第7号)

・ 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業(第8号)

・ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資(第9号)

・ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの(第10号)[3]

・ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの(第11号)[4 ]

・ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用(第12号) [5]

第3条第2項
前項第一号から第三号まで、第六号又は第八号に掲げる事業に係る株式、持分、新株予約権又は指定有価証券には、前条第一項の政令で定める者については、これらに類似するものであって外国の法令に準拠するものを含むものとする。

3.①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められること

従来のLPS法下では、日本の会社法下で設立された株式会社であれば、その株式をLPSが取得及び保有することが上限なく可能であったのに対し、外国籍の法人であれば、日本法人の子会社であっても、「外国法人」の発行する株式の取得として、投資金額(なお、投資約束金額ではない。)の50%未満の範囲でしか、投資が認められなかった。

しかしながら、今般の改正により、「事業者」という定義が、「法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)」とされ(LPS法第2条第1項。以下、下線部の外国法人を「日本法人等が支配等する外国法人」という。)、株式会社の発行する「株式」には、これらの日本法人等が支配等する外国法人が、当該外国の法令に従って発行する、「株式」に類するものが含まれることとなった。

これにより、例えば、日本人が設立したスタートアップであって、米国証券市場での上場を目指して、米国法人をホールディングカンパニーとする法人にも、LPSが投資を行うことが可能となった。

具体的には、政令では、「本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすもの」として以下の者が定められている。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。つまり、日本人又は日本法人が議決権の過半数を有しているか(資本関係)、意思決定機関を支配しているか、又は取引等を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与えることができるか、という形式的・実質的な基準に拠っている。実際のところ、日本人が外国法人を創業し、その後株主が増えたとしても、当該株主の多くが日本法人であれば[6]、投資先となる当該外国法人は当該条件を充足し、上限無しにLPSの投資対象となりうることとなる。

第1条第1項
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「法」という。)第2条第1項の政令で定める者は、外国法人のうち、次の各号に掲げる者のいずれかに該当する者とする。


本邦法人又は本邦人(以下この条において「本邦法人等」という。)により総株主又は総出資者の議決権の過半数を保有されている者その他本邦法人等により財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(次項において「意思決定機関」という。)を支配されている者として経済産業省令で定めるもの(以下この条において「子法人等」という。)(第1号)

本邦法人等又は子法人等との間の売上高又は仕入高が売上高の総額又は仕入高の総額の100分の50以上である者その他本邦法人等又は子法人等が出資、役員その他これに準ずる役職への本邦法人等若しくは子法人等の役員若しくは使用人である者若しくはこれらであった者の就任、融資、債務の保証若しくは担保の提供、技術の提供又は営業上若しくは事業上の取引等を通じて、財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる者として経済産業省令で定めるもの(第2号)

第1条第2項
本邦法人等及び子法人等又は子法人等が他の者の意思決定機関を支配している場合における当該他の者は、その本邦法人等の子法人等とみなして、この条の規定を適用する。

4.②合同会社への投資が認められること

従前のLPS法では、LPSによる合同会社の持分(社員権)の取得は認められなかったが、機関設計の柔軟性等を鑑みて合同会社として設立されるスタートアップ企業等の事業者も少なくないことから合同会社についても、LPSの投資対象となることとあった(上述のLPS法第3条第1項第1号、2号等)。

5.③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったこと

従前のLPS法では、LPSによる暗号資産への投資が認められていませんでしたが、上述のような議論を経て改正が実現され、今後は、事業者のために、事業者自身又は暗号資産取引所に委託して暗号資産を発行する場合など、特定の条件下において、LPSによる暗号資産への投資が認められる。

なお、今般の改正はあくまで「事業者のために発行される暗号資産」の取得及び保有を認めるものであり、すべての暗号資産が投資対象となるわけではないことには引き続き注意を要する。例えば、決済用の仮想通貨として一般的な、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、LPSの投資対象となる「事業者のために」発行されたものではないことから、LPSの投資対象には含まれないと思われる。

6.施行時期

改正法の施行は、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」及び「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」と改正内容により異なっており、上述の①日本法人等が支配等する外国法人への投資に関する規定及び②合同会社への出資に関する規定は前者(即ち2024年9月7日まで)、③事業者のために発行される暗号資産への投資に関する規定は後者(即ち2025年6月7日まで)である。

留保事項
本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
本書は当事務所ウェブサイト用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

  1. 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会web3事業ルール検討タスクフォースによる「Web3.0系スタートアップ及びWeb3.0系VCについての実態調査(PDF)
    LPSによる暗号資産の取得及び保有等に関する提言↩︎
  2. 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。
    金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
    金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
    金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
    金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
    金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
    金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
    金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
    金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
    金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
    第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの ↩︎
  3. 付随事業としては、(i)LPS法に定められる事業者が発行し、又は所有する約束手形の取得及び保有を行う事業、(ii)譲渡性預金証書の取得及び保有を行う事業、及び(iii)取得し保有する、約束手形、指定有価証券に表示されるべき権利又は金銭債権に係る担保権の目的である不動産(担保権の目的が土地である場合にあっては当該土地の隣地、担保権の目的が建物である場合にあっては当該建物の所在する土地及びその隣地を含む。)及び動産の売買、交換若しくは貸借又はその代理若しくは媒介を行う事業とされている。 ↩︎
  4. 余裕金の運用方法は、(i)銀行その他の金融機関への預金、(ii)国債又は地方債の取得又は(iii)外国の政府若しくは地方公共団体、国際機関、外国の政府関係機関、外国の地方公共団体が主たる出資者となっている法人又は外国の銀行その他の金融機関が発行し、又は債務を保証する債券の取得、に限定されている。 ↩︎
  5. 外国法人の発行する株式の取得等は、その取得価額の合計が、総組合員の出資の総額の50%未満でなければならない(施行令第3条)。 ↩︎
  6. なお、LPS法及び政令には「本邦人」「本邦法人」の規定がなされており、LPSその他の法人格が無い組合は、明記はされていないものの、理論的には「本邦人」に該当すると思われる。 ↩︎

本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に拡大を続けるリキッドステーキングとその最大手LIDOの仕組み、日本法の考察を記載します。

I  法的整理の纏め

(1)  リキッドステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼びます)の売買交換規制、②同法のカストディ規制、③金商法のファンド規制、の適用の有無を考える必要がある。
(2)  仕組次第であるが、LIDOが行うETHをステークし、代わりにstETHを受領するような取引は、暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。
(3)  ETH等のステークが、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、プロトコルやノードオペレーターが技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。
(4)  ETH等の拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、ETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング当のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。
(5)  上記のほか、日本法は運営者等の人や法人を対象とする規制のため、プロトコルに運営者がいない場合、当該プロトコルには規制が掛からないという議論がありうる。

II 当事務所のDeFiとステーキングのBlog(参考用)

なお、当事務所はDeFiやステーキングについて下記記載のようなBlogを執筆しています。本稿の他、下記をご参照ください。

ステーキングに関する法的論点の整理(2020.3.17)

イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法(2020.7.31)

DeFiによる暗号資産デリバティブ取引/信用取引と日本法(2020.9.10)

DeFiと日本法(2020.10.21)

Uniswap/DEX/AMMと日本法(2020.10.23)

III リキッドステーキングやETHステーキング、LIDOの基本概要

1 リキッドステーキング

リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。

2 Proof of Stakeとステーキング

Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。

ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。

3 ETHのステーキング

イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH (2023年10月現在の価格で約830万円)をデポジットすることで Validator になれる、②Validatorがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、Validator が意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またValidatorは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。

4 LIDOの仕組み

LIDOとは世界で最大規模を誇るLiquid Stakingを行うためのプロトコルです。現時点でイーサリウムのステーキング量の3割以上をLIDO経由が占めるとされています。 LIDOの仕組みは以下のようになっていると思われます1

出典:公表資料から当事務所が作成

  1. LIDOを使用すると、ユーザーは資産をロックしたり、自らステーキング用のインフラを維持する等することなく、かつ他のDeFiレンディング等にも参加しながら、ETH をステーキングできる。
  2. ユーザーがLIDOを利用してステーキングする場合、ユーザーはLIDOのスマートコントラクトにETHを送付する。これに対し、ユーザーは1:1でstETH というトークンを受領できる。
  3. stETHはLIDOにステーキングのためにETHを預けたことを表章するトークンであり、 stETHをLIDOに対して送付してBurnすると、ETHを受け取ることができる。stETHは自由に売買ができるほか、stETHを受け入れる別のDeFiがある場合、当該DeFiでstETHを利用することにより、二重に報酬を得ることができる(但し、stETHを受け入れるDeFiプロトコルはまだ限定的なようである)。
  4. LIDOはスマートコントラクトで受領したETHを利用し、ステーキングを行う。ステーキングで得られた報酬のうち10%はLIDOが取得し、当該ステーキングの実務を行う者(ノードオペレーター)とLIDO DAOに分配され、残りの90%はユーザーに分配される。なお、ユーザーへの分配はstETHのアドレスにあるstETHの数字が加算される方式で行われ、LIDOが管理するETHの数が常にstETHの数と同じになる方式で行われるようである。
  5. LIDOは複数のノードオペレーターを利用する。ノードオペレーター候補は、LIDOにノードオペレーターになりたい旨、経験や技術力等を申請し、その後、LIDOのガバナンストークンであるLIDOトークンホルダーにより構成されるDAOの投票によりノードオペレーターになれるか決定される。
  6. なお、ETHにはスラッシングリスクやペナルティーがあるが、LIDOは多数のノードオペレーターを利用することにより、当該リスクをヘッジしている。また、一部のETHを別で管理し、保険的に利用することによりスラッシングリスクに備える。
  7. LIDOはオープンソース、ピアツーピアのプロトコルであり、また、その運営の決定はLIDO DAOが行うため、一つの運営者等によって運営されているものではない。

IV リキッドステーキングと日本法

LIDOのようなリキッドステーキングを提供する場合、暗号資産法の売買規制やカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。

1 暗号資産の発行規制

LIDOに対してETHを拠出すると、stETHが交付され、逆にstETHをLIDOに対して送付すると、ETHが得られます。

この行為が、ETHとstETHとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。

しかしながら、stETHはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなstETHの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。

2 暗号資産のカストディ規制

LIDOに対するETHの拠出が、LIDOに対する暗号資産の寄託と考えられ、LIDOに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。

しかしながら、LIDOに対する拠出はスマートコントラクトに対する拠出であり、LIDOはスマートコントラクトの仕組上、ステーキング以外には当該ETHを利用できない(=秘密鍵を管理していない)ように見受けられます。

本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、スマートコントラクトにより、ETHの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。

3 金商法規制

ETHの拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、LIDOやリキッドステーキングがファンドに該当しないかが問題となります。

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
(B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利
(C) 次のいずれにも該当しないもの
 イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略)
 
外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり2、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。 

また、上記(C)の例外事由にも該当しません。 

問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETHがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られたETHがユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。

しかしながら、リキッドステーキングの場合、通常のファンドとは以下のようば点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。

  1. 通常のファンドの場合、出資を受けた金銭等は、ファンド運営者に完全に所有権が移転し、ファンド運営者は契約上の縛りはあるものの技術的には様々に使用できるのに対し、リキッドステーキングの場合は、ETHの拠出はスマートコントラクトに対して行われ、LIDOやノードオペレーターが自由に使えるものではない。ETHに対するオーナーシップ(所有権類似の権利)はユーザーが常に保有していると考えられる、
  2. 通常のファンドの場合、受け取った金銭等は株式の購入や事業資金等に使用され形を変えるのに対し、LIDOステーキングでは、スマートコントラクトに送付されたETHは特に他のものに変えられることはなく、そのまま維持される。
  3. ETHがロックされる理由は、バリデート作業にあたり不正申告をした場合のスラッシングや、ノードがオフラインになった場合のペナルティーを担保するために過ぎない。
  4. 上記①~③を踏まえ、ステーキングの法的性質を従来からの経済行為に例えると、ユーザーは一種の債務不履行責任を担保するための物上保証としてETHをスマートコントラクトにロックしているに過ぎず、物上保証を提供したことに対する報酬を受け取っているに過ぎない、と考えることができる。そしてこのような物上保証の提供や報酬の受領は、ファンドにいう「出資や拠出」、「充てて行う事業」という要件を満たすものではない。

4 運営者が存在しないことから規制対象とならないという議論

なお、DeFiの場合、そもそも運営者が存在せず、規制対象にならない、という議論がありえます。日本法は、運営者などの人や法人を規制する法律体系であり、完全に非中央集権的なファイナンススキームの場合、規制対象とはなりません。しかしながら、DeFiについて本当に運営者がいないのかという点は慎重に検討する必要があります。一般にDeFiでは運営者が不存在なことを目指しますが、とはいえ、多くのDeFiでは本当に完全に運営者がいないかは不明確です3

また、運営者がいない場合でも、仮に運営者がいれば法令上は金融規制に服する場合、当該スキームに媒介を行う者は規制対象となりえ、例えばライセンスのない日本企業が当該DeFiに顧客を送客することが行えなくなります。

そのため、DeFiの法的論点の検討に際しては、(i)仮に運営者がいた場合に法的規制に服するか、という論点と、(ii)運営者が存在するか、という論点の2点を検討する必要があります。

LIDOについて検討するに、LIDOでは中央集権的なエンティティーがなく、スマートコントラクトとLIDO DAOにより運営がなされるとされていますが、LIDO DAOが真に分散しているのかは公表資料からは我々には不明確であったこともあり、本稿では上記(i)を中心に検討しています。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、リキッドステーキングやLIDOの利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。