コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について

2021.06.29

1 初めに

同一又は類似のNFTを多数枚発行したい、というご相談を受けることがあります。
ERC-20であれば何でもNFTであって法律上の暗号資産に該当しないという訳ではなく、「決済手段等の経済的機能」を有していないか、ということを検討する必要があります。
如何なるファクターで「決済手段等の経済的機能」を有すると判断するのかは不明確ですが、議論の整理のため、現時点における当職らの考えを記載しておきます。

※なお、本コラムはNFTの暗号資産該当性に関する見解を述べるに止まりますが、NFTが暗号資産の他にも、前払式支払手段や為替取引、有価証券に該当する可能性がある点には注意が必要です。なお、これらについては日本暗号資産ビジネス協会NFTに関するガイドライン当事務所の別途のBlogもご参照下さい。

2 決済手段性を強める要素と弱める要素

あくまで例ですが、下記のような要素を総合的に検討して「決済手段等の経済的機能」の有無を判断すべきと思われます。

  考えられる要素の例
決済手段性を強める要素 (=暗号資産となる)
  1. 店舗で使用できる、スマートコントラクトのガス代等で使用できる、という機能や目的を有している
  2. 同一又はほぼ同一のNFTが多数存在し、自由に外部に移転でき、発行者はそのような目的を有していないとしても、結果として決済手段として使用される可能性がある
  3. 個性はあるもののその違いが捨象されて、日本銀行券のように他の商品・サービス等との交換や価値の移動に使われる実態が存在する(又はそのような実態が事後に生じる)
決済手段性を弱める要素(=暗号資産とはならない)
  1. ゲームアイテムとしての使用の目的がハッキリしている
  2. 使用目的が紙のトレーディングカードに類似している
  3. コレクション目的であることがはっきりしている
  4. 絵柄が異なる(色が異なる、背景が異なる)
  5. パラメーターが異なる
  6. 番号を付す(但し、紙幣でも番号はついているという反論はありうる)
  7. 1人が買える枚数が限定されている
  8. 発行数が少ない
  9. 最初の購入者や保有者の履歴が印字される

3 検討の背景(暗号資産の定義、NFT規制の歴史、2019年パブリックコメント)

資金決済法では、暗号資産の定義を下記としています。仮に暗号資産に該当すると資金決済法の様々な規制がかかることになります。

資金決済法2条5項
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第3項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
① 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
②不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

上記定義は2017年末から2018年のICOブームに伴い極めて広く解釈され、その結果、BitcoinやEth等の1号暗号資産と交換可能なトークンは全て暗号資産(当時は仮想通貨)に該当するとして規制される可能性が懸念されました。
そのため、一部のブロックチェーンゲーム業者は、2018年頃にブロックチェーンゲームのアイテムに暗号資産規制がかかるかという問い合わせを金融庁に行いました。その結果、例えば、一点物のゲームアイテム等のNFTは暗号資産に該当しない旨の回答を非公式に得、その後、日本では各種のNFTが番号を付す等して、発行されることになりました。

更に、金融庁は2019年9月3日付のパブリックコメントNo.4にて、下記と公表し、必ずしも1点物とは限定せずに非暗号資産のトークンと認められる場合があるとしています。

コメントの概要 金融庁の考え方
2号暗号資産について1号暗号資産と「同等の経済的機能を有するか」との基準を設けるべきではない。同等の経済的機能とならないような制限を加えることで、資金決済法に基づく規制の対象外になりかねない。 物品等の購入に直接利用できない又は法定通貨との交換ができないものであっても、1号仮想通貨と相互に交換できるもので、1号仮想通貨を介することにより決済手段等の経済的機能を有するものについては、1号仮想通貨と同様に決済手段等としての規制が必要と考えられるため、2号仮想通貨として資金決済法上の仮想通貨の範囲に含めて考えられたものです。したがって、例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。

(下線は筆者)

現時点でも、このパブリックコメントの回答は有効であり、同一又は類似のNFTが複数枚発行されても、必ずしも暗号資産となる訳ではない、但し、NFTであれば全て問題ない訳ではなく、「決済手段等の経済的機能」を有しているかを個別に判断していく、ということになります。
但し、「決済手段等の経済的機能」を有しているかの判断基準は必ずしも明確ではなく、多数の同一又は類似のNFTを発行する場合、慎重に検討する必要があると思われます。

留保事項
本コラムの内容は関係当局等の確認を経たものではなく、合理的に考えられる事柄を記載したものに過ぎません。
また、法令の解釈については、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えには今後変更がありえます。
本コラムは、NFTの利用や投資を推奨するものではありません。
本コラムは議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上