ICO と日本法

2017.11.27

0 レジュメのまとめ

1. 日本法の適用関係

商品によって適用される法律が異なる(日本には ICO 特有の規制はない)。仮想通貨法、前払式支払手段規制、ファンド規制、民法、消費者契約法、出資法等を1つ1つ検討する必要がある。

2. 仮想通貨法

  1. 「仮想通貨」の ICO を行う場合、仮想通貨交換業者が行う必要がある。仮想通貨交換業者が取扱うコインについては何でも取扱っても良い訳ではなく、取扱コインを金融庁に届出る必要がある。そして、取扱コインについては金融庁の審査がある。
  2. ICO で対象となるコインが全て仮想通貨の定義に該当する訳ではない。仮想通貨の「不特定」等の定義に該当するかは慎重に考える必要があり、場合により仮想通貨ではないとして組成することもできそうである。
    この点、仮想通貨の定義が広ければ自由なビジネスが難しくなる可能性があり、他方、狭ければ詐欺的コインが横行する可能性がある。

3. 前払式支払手段の規制

  1. 発行者が存在し、発行者又は発行者の指定する第三者で使用でき、金額が指定されている又は得られるモノ等が確定している、というような場合には前払式支払手段になる(6 ヶ月以内に消滅する場合を除く)
  2. 前払式支払手段に該当する場合、届出(自家型)又は登録(第三者型)が必要になり、かつ未使用残高の 2 分の 1 の供託等が必要になる

4. 金商法とファンド規制

  1. 金商法の規制が適用されるためには対象商品が原則として「有価証券」や「デリバティブ」という概念に該当する必要がある。この定義は限定列挙された定義であり、例えば Bitcoin や Ether など一般的な仮想通貨は「有価証券」「デリバティブ」に該当しない。よって ICO を含む仮想通貨の販売には原則としては金商法の適用はない。
  2. ただし、金商法上の有価証券のうち「集団投資スキーム(ファンド)」は一定の幅をもった概念であり、ICO の中には日本法上、集団投資スキームに該当すると思われるものがある。①他人から金銭を集め、②事業に投資し、③保有者に対して配当等を行う、という仕組みの場合である。この場合、金商法上のファンド規制に服する可能性が高い。
  3. 上記2の①につき、金銭ではなく Bitcoin や Ether との交換で ICO を行う場合、通常、ファンド規制に服する可能性は低い。

5. 消費者契約法、民法

  1. ICO に仮想通貨法やファンド規制が適用されないとしても販売者が自由にどんな説明でもできる訳ではない。
  2. 例えば重要事実による虚偽の説明、重要事実の故意による不告知、断定的判断を提供した場合、消費者契約法による取消の対象となる。また、民法上の説明責任等も問題となる。よって、説明は合理的に行うことが必要であろう。
  3. 但し、消費者保護を考えた場合、一般的には多くの詐欺的コインは「虚偽の説明」や「断定的判断の提供」まではしていないケースが多いようには思われる。重要事実の故意による不告知については争う余地があるかもしれない。

6. 税法(参考)

  1. ICO は必ずしも有利ではなく、新株発行やファンドでの資金調達より不利になることがある。
  2. コインの売買額は「売上げ」となり、対応する支出がない場合には「利益」として法人税が課税される
  3. 仮想通貨の定義に該当しない場合には消費税が課税される

7. 各国法(参考)

各国の対応は禁止(中国、韓国)、配当型をセキュリティーとして登録等の規制(米国、シンガポールなど)、投資家に対する注意喚起(英国)などに分かれる。特徴的な国としてスイスなど

I 始めに

1. ICO とは何か

ICO は Initial Coin Offering の略

Initial Public Offering(IPO)という言葉とかけて ICO と呼ばれる

全世界で実施額が急増。新しい資金調達として注目されている

何を ICO に含めるかは人によって異なる。コイン、トークン、仮想通貨、という用語の使用法も人によって異なる

自分のイメージ(個人的なイメージ)
ICO: ブロックチェーンを利用して何らかのコインやトークン(と呼ばれる電磁的な記録)を発行し、それにより資金調達するような場合
仮想通貨: 仮想通貨法上の仮想通貨
トークン・コイン: 仮想通貨法上の仮想通貨ではないが、一般的には仮想通貨と呼ばれるもの

ただ、取引所に上場する場合を ICO と呼ぶ等の考えもあるよう。

2. 良く聞かれる質問

Q1. ICO に適用される法律は?規制されてる?
Q2. 税金どうなる?
Q3. 海外で規制されてる?
Q4. やっていいの?今後どうなる?規制すべきでは?

II 仮想通貨法

1. 仮想通貨に該当する場合、ICO には仮想通貨交換業登録が必要

仮に ICO の対象となるコインが仮想通貨法(資金の決済等に関する法律のうち仮想通貨に関する部分をそのように呼称する)上の「仮想通貨」に該当する場合、その販売を業として行うことは、「仮想通貨交換業者」しかできない。

仮想通貨法は、「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」を業としてなすことを「仮想通貨交換業」と定義し、仮想通貨交換業は内閣総理大臣の登録を受けたものでなくては行ってはならないとする(法 2 条 7 項、63 条の 2)

第 2 条 (定義)
7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
① 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
② 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
③ その行う前 2 号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理を行うこと

第 63 条の 2(仮想通貨交換業者の登録)
仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。

金銭で ICO を行う場合には「仮想通貨の売買」に、Bitcoin や Ether との交換で ICO を行う場合には、「他の仮想通貨との交換」に該当する。

従って、「仮想通貨」の ICO を行う者は自ら仮想通貨交換業の登録を受けるか、既に仮想通貨交換業の登録を受けた者に依頼をして ICO を行う必要がある。

2. 仮想通貨交換業者が新しい仮想通貨を取扱うには金融庁への届出が必要

仮想通貨交換業者は、取扱う仮想通貨の全てを金融庁に届出を行う必要がある。例えばBitcoin や Ether を取扱っている仮想通貨交換業者が新しいコインを取扱う場合には、届出が必要である。これは ICO の場合でも同様である。

金融庁は全ての仮想通貨を認める訳ではなく、利用者保護ないし公益性の観点から適否を判断することになる。この適切性の判断に際しては認定自主規制団体の見解も踏まえて判断を行う。

適切性の判断基準(仮想通貨交換業ガイドライン 5 頁)

取り扱おうとするものが仮想通貨に該当し、又は当該仮想通貨の取扱いが仮想通貨交換業に係る取引に形式的に該当するとしても、利用者保護ないし公益性の観点から、仮想通貨交換業者が取り扱うことが必ずしも適切でないものもあり得る。

したがって、当局は、仮想通貨交換業に係る取引の適切性及び取り扱う仮想通貨の適切性等について、申請者に対して詳細に説明を求めるとともに、認定資金決済事業者協会の公表する情報等を参考としつつ、登録の申請の審査等を実施するものとする。

(注 3)取り扱う仮想通貨の適切性を判断するに当たり、例えば、当該仮想通貨の仕組み、想定される用途、流通状況、プログラムのバグなどの内在するリスク等について、申請者から詳細な説明を求めることとするほか、こうした観点から、利用者からの苦情や、認定資金決済事業者協会の意見等の外部情報も踏まえて判断する。
(注 4)例えば、新規に発行する仮想通貨の売り出しを行う場合に、発行段階で流動性に欠けるとしても、当該仮想通貨を取り扱うことが適切でないと直ちに判断するのではなく、申請者からの説明や外部情報を十分考慮し、総合的に判断するものとする。

但し、現状のコインは相応に広く認められているようであり、ICO の障害にはならない可能性がある。

3. 現状の仮想通貨交換業者と取扱仮想通貨

2017 年 9 月 29 日現在で 11 社が登録
19 社が審査継続中とのこと

マネーパートナーズ、QUOINE、bitFlyer、ビットバンク、SBI バーチャル・カレンシーズ、GMO コイン、ビットトレード、BTC ボックス、ビットポイントジャパン、フィスコ仮想通貨取引所、テックビューロ
(金融庁サイト記載順)

①3 月末までに営業+②9 月末までに申請受理=③正式な合否まで営業を継続可能
①+②の両方を満たさない場合、正式に登録を受けてから営業可能

取扱仮想通貨

登録取引所で取扱われている仮想通貨は以下(17 種類)

BTC(ビットコイン)、ETH(イーサリウム)、BCH(ビットコインキャッシュ)、ETC(イーサリウムクラシック)、LTC(ライトコイン)、XRP(リップル)、MONA(モナコイン)、FSCC(フィスココイン)、NCXC(ネクスコイン)、CICC(カイカコイン)、XCP(カウンターパーティー)、ZAIF(ザイフ)、BCY(ビットクリスタル)、SJCX(ストレージコインエックス)、PEPECASH(ぺぺキャッシュ)、ZEN(ゼン)、XEM(ゼム(ネム)) 金融庁サイトから

相当に広く認められている?ICO の障害にはならない?
日本では移転を制限して「トークン」として売り出し、その後、上場して仮想通貨とするのが主流に?
当初から「仮想通貨」として上場するものも?

4. ICO コインが仮想通貨に該当するのか

ICO の対象となるコインについて、ブロックチェーンテクノロジーを利用していても、そもそも定義上は「仮想通貨」に該当しない可能性がある。

また、ICO の仕組みを工夫することにより、場合により「仮想通貨」の定義に該当しない(すなわち規制が適用されない)ように仕組める可能性がある。

法第 2 条第 5 項
1 号仮想通貨の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

2 号仮想通貨の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

通貨建資産の定義
「本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。」

通貨建資産、すなわち円やドル等にリンクする商品の場合には、仮想通貨にならない。
→ 例えば MUFG コインのようなコインであるが、この場合、前払式支払手段への該当性や為替取引への該当性を検討する必要がある。

1 号仮想通貨に関しては「不特定の者に対して使用でき」かつ「不特定の者を相手方として購入及び売却」を行うことが可能でなければならず、2 号仮想通貨の場合には「不特定の者を相手方として・・・・相互に交換できる」必要がある。この要件を満たす必要がある。
→ 「不特定」の定義については下記 5 で議論するが、ICO の場合、この定義に該当しない可能性がある。

5. 不特定とは何か

不特定の用語については、どの範囲を指すのか現時点では不明瞭である。

(1) 出資法では「不特定」の定義は広く解釈されている

別の法律ではあり、また趣旨も異なるのでどこまで参考になるかは兎も角、出資法では「何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。」とする。

この「不特定かつ多数」という用語について出資法では広く解釈している。

例えば

  • 親族などであれば特定であるが、親族を含むからといって必ずしも不特定となるものではない
  • 「出資の勧誘の場合には、このような勧誘を受けるのも当然であるといった関係が特に認められない限り、特定の者とはいい得ないであろう」

(2) 仮想通貨法では「不特定」の定義は限定的に解釈されている?

これに対して、仮想通貨法の「不特定」はより限定された解釈がされているようである(仮想通貨ガイドラインの 4 頁 I-1-1 参照)。

1 号仮想通貨の定義の「不特定の者に対する使用」
  • 「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために仮想通貨を使用可能な店舗等が限定されていないか」
  • 「発行者が使用可能な店舗を管理していないか」

→ この規定及び通貨建資産の除外の規定により通常の電子マネーは仮想通貨の定義から除外される。当職が立法時に議論した経験からすると、SUICA などの電子マネーは、使用できる店舗が限定されていることから「不特定」には該当しないと整理されているようである。

2 号仮想通貨の「不特定」
  • 「発行者による制限なく、1 号仮想通貨との交換ができるか」
  • 「1 号仮想通貨との交換市場が存在するか」

→ VALU という商品は発行者が譲渡を制限し、発行者のプラットフォームで会員間の売買しかできないことから上記を満たさないと考えているようであり、そのような考えが成り立ちうる余地はある

→ 但し、誰でも会員登録でき、それで売買できる以上「それは不特定だ」という考え方も充分ありえる。ただ、ここで不特定の範囲を狭くしすぎるとそれはそれで他の商品を考えた場合に問題が出る場合も

不特定の定義を狭く解した場合の問題点

なお、特に 2 号仮想通貨については定義上、仮想通貨の範囲を限定しすぎて脱法的な仮想通貨が発行されないようにするために、広めの定義になっている。そのため、各種の新しい商品が出てきた場合、2 号仮想通貨に該当するか否かは、検討を要することになる。

そして、この「不特定」や「財産的価値」や「電子的に移転」の概念を広く解釈しすぎると、問題が生じるように思われる。

① 例えば、上場されている株式(無額面株式)をオンライン証券で BTC で売買できるようになった場合、当該株式は 2 号仮想通貨になるのか。なお、現在の株券は電子化されており紙では発行されておらず、移転もほふりでの電子的処理で行われる。
② ゲーム内での魔法石やルピー、オンラインゲームのゴールド等が(発行会社が認めず、または発行会社も認めて)BTC で売買されている場合、当該ゲーム内通貨は 2号仮想通貨になるのか
③ マイルやポイントが(発行会社が認めず、または発行会社も認めて)BTC で売買されている場合、当該マイルやポイントは 2 号仮想通貨になるのか

よって、慎重な議論が必要なように思われる。

(3) ICO と「不特定」

ICO において、一定の会員にのみ限定して販売し、かつ一定の会員内でのみ売買できる等とした場合、「不特定」になるのか

→ 不明であるが、その時点では発行者による制限なく 1 号仮想通貨との交換ができないため、仮想通貨には該当しないとされる可能性はある。

ICO の時点では「不特定」ではなく「特定」の者でしか売買できないが、将来的には仮想通貨取引所に上場して、広く「不特定」の対象で売買できることを目指している場合、現時点では「不特定」なのか「特定」なのか?

→ 法文上は、現時点で「不特定」が対象ではない以上、仮想通貨の定義には該当しないように思われる。

なお、「不特定」に該当しないとして「仮想通貨」には該当しないとすると仮想通貨法の規制対象外となり詐欺的なコイン発行の防止の効力が減少する。

他方、ビジネスの発展からは、自己責任のもと当初は限定された人に対して自由に商品を販売し、その後、取引所に上場というようなことができるようになる。

→ あまり規制を強くしすぎると問題
→ 他方緩すぎると問題
→ 適切な規制はどのレベル?

III ICOと前払式支払手段規制

前払式支払手段
自家型 – 届出規制(資金決済法 3 条)
第三者型(SUICA など) – 登録規制(資金決済法 7 条)

後払式の電子マネー(iD など) 規制なし

前払式支払手段の定義は複雑であるが、概要下記の定義である

① 金額(1 号)(これを換算した個数、度数等含む)又は物品・サービスの数量(2 号)が、証票、電子機器その他の物証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録される
② それに応ずる対価が支払われる
③ その発行する者又は当該発行する者が指定する者から、物品を購入、サービス提供を受けるとき等に利用可能

発行者が存在する、発行者又は発行者の指定する第三者で使用できる、金額指定又は得られるモノ等が確定している、という場合には前払式支払手段

該当すると未使用残高の 2 分の 1 を供託

→ 全額を開発費等に充てたい案件の場合には、目的に沿わないことになる

現時点の私の考え

① 何らかの形でマーケットがあり価格変動があり、時価で使用できる・・・前払式支払手段ではない
② 度数等が減ることなく、毎月、無制限にサービスを使える・・・前払式支払手段ではない
③ 度数等が減ることなく、毎月、5 回までサービスを使える・・・原則として前払式支払手段ではない。ただし、留意が必要
④ トークンを持っているとサービスが割引で受けられる。トークンを使うか否かは自由・・・原則前払式支払手段ではない
⑤ サービスでトークンを使用できる。この際に当初発行額 1トークン 1 万円だが、2 万円分として使用できる。
→ すると他人が 1 万円でのサービスが20%割引でサービスが受けられる。・・・前払式支払手段の可能性が高い

(但し、全て具体的事例による)

IV ICOと金商法、ファンド規制

1. ファンド規制概論

日本国内で所謂ファンド(集団投資スキーム)の募集又は私募を行う場合、原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法 2 条 8 項 7 号ヘ、28 条 2 項 1 号)。

また、ファンドから募集を受けた資金をもって主として有価証券やデリバティブに対して投資を行う場合には、投資運用業の登録も必要となる(金商法 2 条 8 項 15 号ハ、28 条 4 項3 号)。

金商法で規制対象となるファンドは以下のものとなる。

日本法によるファンド

(1) 以下の権利その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち
① 民法第 667 条第 1 項 に規定する組合契約
② 商法第 535 条に規定する匿名組合契約
③ 投資事業有限責任組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する投資事業有限責任組合契約
④ 有限責任事業組合契約に関する法律第 3 条第 1 項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利
⑤ 社団法人の社員権

(2) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であり

(3) 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利
ハ 保険業法上の保険契約など
ニ 上記のほか当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利

外国法によるファンド

(4) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記の民法上の組合契約は「組合契約は各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」と定義され、商法上の匿名組合契約は「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。」と定義され、概念として広い。いずれも当事者がスキームが組合契約である、匿名組合契約である等と述べなくても、成立が認められるようになっており、名称がいかなる名称であっても、一定の投資の約束をした場合、上記のいずれかに該当する可能性が高くなる。

更に仮に組合契約や匿名組合契約に該当しなくても、上記(1)については「その他の権利」という包括規定があり、集団投資スキーム持分に該当するかどうかについては法形式の如何は問わない、①~⑤は集団投資スキームのビークルとして用いられるものを例示的に列挙するものに過ぎないとされている。

従って、日本法上の権利が何らかの形で存在すれば、例えば仮想通貨を使用、ブロックチェーンを使用、スマートコントラクトを使用等しても、上記(1)の要件を満たす。さらに外国法に基づき組成したとしても類する権利として 6 号ファンドに該当する。

2. Bitcoin等で出資を受ける場合には規制が文言上は非適用

金商法上のファンド規制は、出資者が金銭(又は類似するものとして政令で定めるもの)を拠出する場合を規制している。類似するものとしては有価証券、為替手形、約束手形などが上げられている。

Bitcoin や Ether は現行法上はこれらのいずれにも該当せず、従って Bitcoin や Ether で資金の拠出を受ければ、現行法上はファンド規制の対象とはならない。

但し、同一主体や関連主体がファンド出資のために Bitcoin を販売し、当該 Bitcoin でファンドへの拠出を受ける等の場合、実質的に金銭の出資を受けているとして規制が適用される場合は考えられる。

[立法論や自主規制]
立法論として、Bitcoin や Ether で募集をした場合、原則として規制対象外ということで本当に良いのかは議論になりうる

自主規制として、本来、ファンド規制やファンド規制の趣旨を考えて、スキームを作るべきでは?

V ICOと消費者契約法、民法

1. まとめ

重要事実による虚偽の説明、重要事実の故意による不告知、断定的判断を提供した場合、消費者契約法による取消の対象となる。

また、民法上の説明責任等も問題となる

よって、説明は合理的に行うことが必要

但し、この条文で消費者が充分に保護されているかは微妙

2. 消費者契約法条文

条文のみ記載する

第 4 条

1 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
① 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
② 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 (省略)

4 第 1 項第 1 号及び第 2 項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
① 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
② 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

VI ICOと税務(参考)

ICO を行なう場合、税務上の考察も必要である。現在、ICO は新株発行やファンドでの募集より、税務上不利なのでは、と考えられているよう。

注: なお、筆者は税務を専門にしていない。また ICO の税務について議論した文献も不見当である。よって議論の参考のために記載するものに過ぎない。

(1) 新株発行

適正価額で発行した新株について、払い込みを請けた金額(資本金や資本準備金となる)は「利益」にはならない。資本金増額のための登録免許税が必要だが大きな金額ではない。消費税は非課税。

(2) ファンド

ファンドで払い込みを受けた金額は「利益」にはならない。登録免許税、消費税も不要

(3) ICO

法人税

コインの売買額は「売上げ」となり、対応する支出がない場合には「利益」として法人税が課税(実行税率 30.86~34.81%)。
① 当期の開発費等の支出が多ければ利益は発生しないが、当期にそれだけの支出があるか
② 前期までに利用できる赤字(繰越欠損金)があるか
③ 翌期の欠損金の繰戻しによる還付が期待できるか。但し、中小企業者等しか利用できず、かつ翌期しか還付は不可

等であり、税務上、法人税法を回避するのは容易ではないように思われる。

消費税

仮想通貨法上の「仮想通貨」の定義に該当する場合には非課税
同定義に該当しない場合、規制上は有利であるが、売上げに対して 8%の消費税。仕入税額控除で利用できる金額がどの程度あるか

法人税消費税登録免許税
新株発行n/an/a増加資本金の
0.7%(最低 3 万円)
ファンドn/an/an/a
ICO実効税率 30.8%~仮想通貨: n/a
非仮想通貨: 8%
n/a

→ 税務面を考えれば ICO が非常に有利な手段という訳では必ずしもないのでは、という印象

なお、海外法人を使って節税することは考えられる
① 法人税についてはタックスヘイブン対策税制の適用があるか等
② 消費税についてはかからない?

→ 仮に日本法人が海外子会社を作って、または日本とは関係ない海外法人が日本居住者相手に ICO をしたほうが税務的に有利だとすれば、それは日本にとって望ましくないのではないか、とは思われる

VII 本邦の他の法律との比較(参考)

今後の議論のため、参考として現行の本邦 ICO 規制(仮想通貨法が適用される場合)と他の商品に対する規制を比較

1. 比較

商品私募(限定された販売)公募(幅広い販売)上場(より幅広い販売)
株式少人数私募は原則 50名未満に勧誘(プロ私募には人数制限なし)
開示規制なし
第三者のために私募の取扱
を行うには第一種金商業
金証法の開示規制

第三者のために公募をする
には第一種金商業
金商法の開示規制
証券取引所による開示規制

第三者のための公募の場合、第一種金商業
投資信託・
リート
同上同上同上
ファンド取得ベースで 500 名未満
自分で勧誘であっても二種金商業

特例ファンドなどの緩和あり
取得ベースで 500名以上
自分で勧誘であっても第二種金商業
上場という概念がない
仮想通貨「不特定多数」への販売か否か。
「不特定多数」でなければ規制なし
「不特定多数」への販売が公募
自分で発行であっても「仮想通貨交換業」の登録が必要
コインの内容に関して金融庁審査あり
同左(公募と上場の区別がない)
自家型前払
式支払手段
基準日残高 1000 万円以下であれば
規制なし
基準日残高 1000 万円超で
金融庁届出
同左
第三者型前払式支払手段n/a金融庁への登録同左
資金移動業n/a金融庁への登録同左
買取型クウ
ンドファン
ディング
規制なし規制なし
(私募・公募の概念なし)
規制なし
(上場の概念なし)

2. 上記比較についての検討

(1) 商品の販売と考えた場合

仮想通貨の販売を単に新しい商品を販売しているだけと考えれば、本来、それは買取型クラウドファンディングと同様のことを行っているにすぎず、規制の必要はないということになる。したがって、現行の規制は通常の商品の販売より厳しい。

(2) 決済手段と考えた場合

現在の仮想通貨規制は原則として「決済手段」としての側面を重視していると思われる。「決済手段」として考えた場合、現行の規制は概ね妥当な規制と思われる。

(3) 投資商品と考えた場合

  • 投資商品として考えた場合、私募については、「不特定多数」の範囲が相当に広い範囲で認められるとすれば、規制が存在しないことになる。詐欺的コインの温床になる可能性がある。
  • 公募については、例えばファンドに比べて仮想通貨交換業の登録の難易度は低いが、コインの内容についての審査がある点が厳しい。この審査が厳しすぎると、日本での新規仮想通貨の発行がほぼ困難になる。緩すぎると詐欺的コインの温床になる可能性がある。
  • 上場については株式上場と比べて圧倒的に緩い。ただ、信頼度や流通性の点から考えて、仮想通貨交換所への上場と株式取引所への上場を少なくとも現時点では同一に考える必要はないとは思われる。

(4) ICOの分類と規制(試論)

ICO の分類については様々な分類方法が考えられるが、コインの種類に応じて分類した場合、下記のような分類が考えられる。
① 決済での使用を目的としたもの(e.g. Bitcoin、Litecoin)
② アプリで使用されることを目的とし、使用するとなくなるもの (e.g. Ether)
③ 優待サービス等を受けられるもの (e.g. VALU?)
④ 金銭や BTC などで配当等がもらえるもの

①、②は現在の仮想通貨法が主として想定したもの。仮想通貨に該当する場合には、まずは現状の規制で足りるのではないか。

また、②、③については、販売型クラウドファンディング(規制がない)と同様と考えて良いのではないか。
とはいえ、現実的には投資である、と思われ購入している者がほぼ 100%であり、その点をどう考えるか

④についてはファンド類似であり、もう少し規制を考えても良いのではないか。筋としてはファンドと完全な同じ規制にするという考え方か(但し、その場合、適格機関投資家の定義や 63 条の対処である富裕層である個人投資家に仮想通貨の財産価値も含めるべきであろう)。他のより緩やかな考え方はなりたちうるか?

開示の強制
なお、いずれにせよ一定の重要事項の開示を行うことを法令又は自主規制等で必須とし、虚偽の説明をした場合、消費者契約法や民法上の説明義務違反として、責任を問えるようにしたほうが良いのではないか。

例えば、下記のような情報の提供(試論)

提供情報
1. コインの概要
名称・略称
発行者の有無
発行手段(例えばマイニング、事前に発行、対価と引き換えに今後発行など)
コインの開発の概要(開発済み、現在開発中、現在開発中の場合ホワイトペーパーの有無)
開発者の概要(開発している個人会社団体。オープンソースで開発の場合その方法など)
認証の仕組み(PoW、PoC、PoI、PoB など)
ネットワーク上で移転できるか
フィアットにリンクしているか、していないか

2. コインの詳細
決済性コイン
決済に使用可能か? (in the case of BTC, YES)
決済に使用できる場合、使用できる店舗が管理されたり限定されているか、いないか(in the case of BTC, No)。
利用できる現在の店舗数の概要
機能性コイン
支払手段としての機能以外に機能があるか、その機能
例えばアプリで使用できる場合、アプリの概要、開発の状況
サービス等提供コイン
例えば、何らかの役務提供、物品の提供を受けられるか
受けられる場合、その仕組み
収益性コイ
収益配当や元本償還の有無
ある場合、その計算方法
収益等を分配するための仕組み

3. 市場性・流通性
日本及び世界での取引市場の有無
当該 VC を何と交換できるか(such as JPY, USD, EUR, BTC)
最低取引単位(仕組み上の最小取引単位、販売者が取引所を運営する場合、そこでの最小取引単位)
換金・他の VC との交換に関する制限があれば記載(仕組み上、及び販売者が取引所を運営する場合、そこでの制限の有無)
総発行量
発行量の上限の有無
1 単元あたりの時価
時価総額
上位 5 名の保有者(判る場合。発行体関係者が保有していないか等)

4. 販売方法
当初の発行方法
今回の販売方法(マルチネットワーキングビジネスで販売等)
これまでの販売額、今回の販売額
販売した金銭の使途(なお、開発資金に当てる場合には開発資金に宛てる想定割合。マーケティン
グ費用に当てる場合にはマーケティング費用の想定割合)
手数料(販売者が受け取る報酬を含む)

5. システム
これまでのハードフォーク
プログラムのバグがあった場合、その概要

VIII 海外法

各国毎に規制が異なる。

各国の対応は禁止(中国、韓国)
配当型をセキュリティーとして登録等の規制(米国、シンガポールなど)
投資家に対する注意喚起(英国)などに分かれる
特徴的な国としてスイスなど

IX 米国の規制(参考)

1. まとめ

米国の投資家を勧誘する ICO は Security として米連邦証券取引法により規制され、SECに登録する義務に服する可能性がある。

この点、SEC は 2017 年 7 月 25 日、The DAO の Token に関して Investigation Reportを出し、The DAO が明確に Security に該当するとしている。

また、投資者へも ICO について投資判断の指針を示し、これに潜む fraud 詐欺リスクについて注意喚起している。

但し、全ての ICO が Security に該当するものではなく、一つ一つ検討が必要である。

2. security 概念と Howey Test

米国では securities の概念が極めて広範であり、日本とは異なり明確には決まっていない。そのうちの investment contract については、通常、Howey Test という判例基準で決定される。

Howey Test
An investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person [1] invests his money in [2] a common enterprise and its led to [3] expect profits [4] solely from the efforts of the promoter or a third party, [excluded factors] its being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.

[1]資金の出資、[2]共同事業への出資、[3]収益を期待して、[4]当該収益は専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、[excluded factors] シェアが正式な証書や資産に対する名目的な権利等で表されているかは重要ではない

3. The DAO Token と Howey Test

The DAO の Token に関して SEC Investigation Report 等では以下のとおり述べていると考えられる。
① The DAO については Security であって、規制対象である
② ICO や dao であっても、securities laws が適用される場合が「ある(may apply)」
③ Security に該当するかのテストは Howey Test で行なう。
④ Security に該当する場合、登録が必要
⑤ Virtual organization である、digital instruments や blockchain を使用しているから securities laws が無関係になるとは言えない(使用されている技術や発行体が従来型の会社等であるか仮想の非中央集権型自律組織であるか、投資資金が US ドル決済か仮想通貨決済か、販売が従来型 certificate によるかブロックチェーン上digital instruments によるかに拘わらず、取引の経済的実態に鑑みて判断)

なお、Howey Test の適用については以下のとおり。

(a) Invested Money

投資される”money”は cash でなくて良い(goods and services, other exchange of value)ことは判例により確立していることを確認。ETH で資金を集めることも Invested Money に該当する。

(b) With a reasonable expectation of profit

DAO の投資家に The DAO が profit 目的であることは周知徹底されており、投資家は The DAO が投資した Contractor の上げる収益の分配に預かることを合理的に期待している。

(c) Derived from the Managerial Efforts of Others

  • The DAO の投資家は収益の期待を、主として Slock.it と its co-founders、The DAO’s Curators の努力に依存するしかない状況であった
  • The DAO と DAO Tokens の販売については Slock.it がウェブサイトを作り、ホワイトペーパーを公開。投資家向け website や online forums のモニタリング、広範な質疑応答等、マーケティングおよび運営を行う
  • The DAO の creators は自らが ETH や blockchain プロトコルの専門知識を有するとし、The DAO Curators の選任を行っている。
  • Slock.it が投資家に、当初の収益を生む契約を提案
  • Curators が、(1) Contractors を点検し、(2)どのプロポーザルを投票にかけるか決め、(3)投票の順番と頻度を決め、(4)決議に必要な定足数を半減させるか決めるか等の権限。この Curators は Slock.it と co-founders が選任
  • The DAO の投資家が与えられた議決権は非常に限定的、The DAO の事業に何ら有効な制御を及ぼし得るものではない。投票対象は The Curators が選別した Contract に限定され、意味ある投票行動に必要十分な情報は必ずしも与えられていない。また、各投資家は特定性が無く互いに孤立しており、The DAO への投資は広く分散されているため投資家の議決権は稀釈化されたものである。

4. Howey Test と Cryptocurrency、ICO(詳細)

The DAO が security であることは明確化されたが、他の商品については必ずしも明らかではない。

SEC Investigation Report 前に出されたものであるが、例えば Peter Van Valkenburgh “Framework for Securities Regulation of Cryptocurrencies” Coin Center Reportでは Howey Test の 4 つの要件について以下のように議論されている。

(1) Investment of Money

テスト該当ファクター

販売方法について、主たる方法が新トークンの販売である場合、特にユーザーと開発者との間の直接の売買によってなされる場合、テストは満たされる。

(ゴルフクラブ等の会員権を扱う先例における、設立済みクラブの会員権と、資金が十分集まるのを待ち設立されるクラブの会員権の販売との対比からして)既に開発されネットワークでマイニングされ、又は配布されているコインを販売又は再販売するようなケースよりも、プレセールにて販売され、プリセールが完了した後に開発され、又はサポーターに配布される、というアルトコインのほうが、よりテストを満たしうる。

開発者によるプレマインコインの販売が、特に将来の報酬の約束や最低価格保証との抱き合わせで販売される場合には、より満たしうる。

テスト非該当ファクター

マイニング、proof-of-burn、サイドチェイン、又はリソースを投入することによって主として配布されるトークンは、テスト非該当性ファクターである。

Howey Test の各種事例から考えて、マイニングやリソースを提供したという行為は、”money”の投資には当たらないと考えられる。

また、Securities Law の目的は発行者が、しばしば自社の事業の価値をオーバーステートして、それにより投資を募って短期的な利益を得る、ということを防止し、fair disclosure を求めるものであるが、(i)労働の提供を要求する場合には法による同様の保護はなく、(ii)proof-of-burn やサイドチェインの場合にもそのようなリスクは少ない、と考えられる。

(2) Common Enterprises: Horizontal and Vertical Commonality

テストを満たすために Horizontal Commonality が必要か、Vertical Commonality でもいいかは、連邦控訴審で議論が分かれている。

Horizontal Commonality
投資家の資金について、全投資家の命運の上昇・下降が互いに正の相関関係にあり、しばしば(従って常にではないが)利益のプロラタシェア、という形で資金がプールされる。

Vertical Commonality
投資家の成功(fortunes)が、投資を募る者又は第三者の努力と成功に不可分に依存している。

通常の投資案件では horizontal commonality の要件のほうが vertical commonality の要件より厳格である(前者を満たさないが後者を満たす場合は多い)。

しかし、仮想通貨の場合には必ずしもそうではない。例えばビットコインの場合、価格の上下動は保有者に共通であり horizontal commonality を満たしうるが、マイナーやプロモーター等の損益はビットコインの価格の上下動に必ずしも正の相関を示さずvertical commonality は満たしていない。

他方、Altcoin の中には、その成功が完全に開発者の努力に依存しており vertical commonality は満たすが、coin 同士の性質が異なり、horizontal commonality を満たさないようにみえるものもある。

Scarcity
トークンの数が限られており、かつお互いのトークン間で代用性がある(fungible)場合、horizontal commonality を満たしうる (全員の収益の上下が一緒となるため) 。

そうでない場合には horizontal commonality は弱くなる。

ただ、コイン同士が同じ権利を表象しないということはしばしば適切に開示されず、それが詐欺や表明保証違反に繋がりうる。

Decentralization
互いに資本関係の無いマイナー、トランザクションバリデーター、ネットワーク上のビジネス等の存在により開発・運営・販売等が充分に非集中化され、投資家と vertical commonality を有し得る単一プロモーターが存在しない場合、vertical commonality は当然に満たさない

他方、alt-coin の開発やメンテナンスに対して非集中化が殆どない場合、vertical commonality を満たしやすい。

Profit-Development Linkage
仮に開発者が、多数のトークンを保有し、又はプレマインのトークンを販売する場合、vertical commonality を満たす強い根拠がある。トークンの当初のホルダーとして、価格の変動が開発者の損益を大きく左右し、開発者が自己保有するプレマインコインも併せて販売することを選んだ場合特にその傾向が顕著だからである。

Vertical commonality の趣旨は、開発者自らコインを多数保有して売却し得る場合、当該開発者がネットワーク上プールされた資産の総額を過大に謳って短期的利益を膨らませがちであり、それがパブリックポリシーゴールに反するからである。他方、開発者がコインを殆ど持たない場合や、新コインを作ったり保有する権利がない場合、そのようなモチベーションは働かない。

(3) Expectation of Profits

殆どのアルトコインが収益目的のために投資されており、容易にこのテストを満たす。議論すべき点は以下 2 点のみ。

Distribution
サイドチェインで発行されるトークンについて、収益期待はほぼ有り得ない。価値は常に bitcoin にリンクしており、かつトークンを得るには bitcoin を動けなくしなければならない。

Permissions
トークンが主としてツールや、コンピュータープラットフォーム上価値を使用する許可を得る為に購入される場合、収益目的はない(例えば、YouTube appcoin、Accpcoin、多くの meta-coin など)

(4) Efforts of a Third Party

収益が専らプロモーター又は第三者の努力によりなされる、というテストであり、前述した vertical commonality の議論と重複する。

すなわち、特定の第三者の行為が収益の増大の原因であるか、より正確にいえば購入者が第三者の努力に依存しているか、というテスト。

仮想通貨については提唱者から「トラストレス」であり「数学」にのみ依存している等と言われることがあるが、それは単純化しすぎである。例えば、ビットコインの場合でもネットワークの他者には依存している。特定のマイナーに依存しているのではなく非集中化されたマイナーに依存している、トラストについても非集中化によってトラストの最小化を図っている、ということである。

但し、うまく非集中化された仮想通貨(例えばビットコイン)の場合には、例えば土地の所有者がその価値の上昇について、例えば郡の登記官(deed clerk)に依存している、土地の隣人に良い人が住んでいるかに依存しているか、等と同様の依存なのであり、特定の第三者に依存している、と考える必要はない。

しかしコンセンサスメカニズムが上手くデザインされず、または開発コミュニティーが小さく非透明である場合は、収益が特定の 1 つか 2 つの第三者の努力に依存している、といえるかもしれない。

コンセンサス
Proof of work: 誰でもマイニングに入れる非集中化した proof of work については一般的には第三者に依存しているとはいいにくい。

Proof of stake: これまでの proof of stake はより大きな stake holder がより強くなる、という仕組みであり、proof of work に比べ特定の第三者に依存していないとは言いにくくなる。但し、Proof of stake においても改良が続けられており、ステークホルダーが充分に非集中化されていると考えられる場合、特定の第三者に依存しているとは言い難くなる。

Permissioned distributed ledger: トランザクションの承認について幾つか者に依存する、という仕組みの場合、その承認者のグループに依存している、といえる。

透明性
透明性は本議論で 2 つの意味で重要である。1 つは透明性あるソフトウェアと透明性あるブロックチェーンが、ネットワークが適切に非集中化されているか確認するために必要である。もう1 つは、透明性ある開発者コミュニティーは、この非集中化を害するソフトウェアアップデートを行うことが難しくなるからである。

ビットコインは透明性の観点で大きな参考になる
ビットコインでは、ソフトウェアは①オープンソースであり、②開発、Github のような公開のリポジトリで開発され、配布され、変更が記録される、③ブロックチェーンがパブリックであり、④バグフィクスや新機能の提案が公開のシステムでなされ、⑤大きな変更について公開の場で議論されている

反対に、ソフトウェアがクローズソースである場合、他の者に広く公開・ライセンスされない場合、公開のリポジトリで検証できない場合、ブロックチェーンが公開でない場合、バグフィクスや新機能の開発が秘密に行われる場合、等には第三者への依存が高くなる。

(5) Howey Test に関するまとめ

Howey Test を満たさず、規制する必要がないもの

  1. ビットコインやライトコインのように十分に非集中化されたコインにおいては、vertical commonality も第三者への依存もみられない。
  2. サイドチェインのコインにおいては、expectation of profits が有り得ない。
  3. 当初の配布が公開された競争のあるマイニングか proof of burn により行われるものは、investment of money ではない。
  4. Appcoin や、Distributed Computing Program(例えば Ethereum)においては、参加者はトークンについて expectation of profit よりも使用価値の方を重視しており、expectation of profit がない。

Howey Test に該当し、投資家を保護する必要があるもの

  1. クローズドソース又は透明性の低いコインプロモーターの誇大広告以外の理由で収益が発生すると信用する理由がない。
  2. オープンではあるが、市場での大々的プレセールで配布が行われ又はプリマインの仮想通貨のセールが行われ、かつ、マイニング及び開発者コミュニティーが小さく分散されていない場合、この事実は収益がこれらの個別の収益目的のグループに依存していることを示す。
  3. パーミッションド・レッジャー又は非常に集中化したトランザクション承認者のコイン

注:以上の議論が最も詳細であり参考になると思われたのでレポートを抜粋・要約した。ただし、あくまで Coin Center の一レポートに過ぎない点には留意。

X その他の国の状況(参考)

1. シンガポール

2017 年 8 月 1 日に FAS のアナウンス
仮想通貨そのものは規制対象ではない
但し、集団投資スキーム持分に該当する場合、証券先物法により規制される可能性
Howey Test 同様の考えか?

2. 中国

中国人民銀行等の中国当局が 2017 年 9 月 4 日に ICO を禁止するとの公告
中国国内での ICO は違法、直ちに禁止
ICO による資金調達を完了した場合、投資家に対して調達資金を返還すること

3. 韓国

2017 年 9 月 29 日に ICO を全面禁止との報道

4. 英国

FCA 2017 年 9 月 12 日 ICO に関する消費者向けの注意喚起
多くの ICO は規制対象とならない
詐欺リスク、トークン価格が不安定、ホワイトペーパーの記載が不十分等
リスクが非常に高いと注意喚起

5. スイス

仮想通貨フレンドリー、多くの ICO の本拠地
今後は最低限の規制をしつつ、ICO 立国を目指す?

6. エストニア

電子立国
国による ICO コインを発行の提案(実現度は不明)

留保事項
本記載はセミナー用に纏めたものに過ぎません。また日本法以外の法律も関係しておりますが、斎藤は日本法以外は専門とはしておりません。法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。