投資運用関係業務受託業、投資運用業及び非上場有価証券特例仲介等業務に係る改正について(2)

2025.08.06

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2024年5月15日に、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第32号、以下「改正法」といいます。)が成立し、同年同月22日に公布されましたが、以下の3点に係る改正について、2025年5月1日から施行されました。
①投資運用関係業務受託業に関する規定の整備
②投資運用業に関する規定の整備
③非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備

これらは、我が国資本市場の活性化に向けて資産運用の高度化・多様化を図る、具体的には、投資運用業の新規参入を促進し、またスタートアップ等が発行する非上場有価証券の仲介業務への新規参入を促進し、非上場有価証券の流通を活性化させること等を目指したもので、投資運用業登録要件を緩和する規定の整備、またスタートアップ企業等の非上場企業の株式のセカンダリー取引等を活性化するため、非上場有価証券の取引の仲介業務に特化する等一定の要件を充足する場合は、第一種金融商品取引業の登録等要件等を緩和する等、非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備が行われました。

(2)では、③非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備について概説します。

1. 非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備

非上場有価証券の仲介を業として行うためには、原則として、第一種金融商品取引業の登録を受けることが必要ですが(金商法第28条第1項第1号、第29条)、非上場有価証券の流通活性化を目的として、非上場有価証券の取引の仲介業務への新規参入を促すため、今回の改正で、一定の要件を充足する非上場有価証券の仲介業務を「非上場有価証券特例仲介等業務」とし、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合の登録要件等が緩和されました。

(1) 非上場有価証券特例仲介等業務の内容
「非上場有価証券特例仲介等業務」とは、第一種金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいいます(金商法第29条の4の4第8項)。

(i)   非上場有価証券(金融商品取引所に上場されていない有価証券で、店頭売買有価証券を除きます(金商法施行令第15条の10の4)。以下同じです。)に係る次に掲げる行為
① 売付けの媒介又は有価証券の募集・売出しの取扱い若しくは私募若しくは特定投資家向け売付勧誘等の取扱い(一般投資家[2] を相手方として行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために行うものを除きます。以下「1号仲介業務」といいます。)
② 買付の媒介(一般投資家のために行うもの及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として行うものを除きます。)

 (ii)   (i)に掲げる行為に関して顧客から金銭の預託を受けること((i)に掲げる行為による取引の決済のために必要なものであって、当該預託の期間が、顧客から金銭の預託を受けた日の翌日から1週間(金商法施行令第15条の10の5)を超えないものに限ります。)

なお、「金融商品取引所に上場されていない有価証券」の「金融商品取引所」とは、金商法第80条第1項の規定により内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する金融商品会員制法人又は株式会社をいうことから(パブコメ回答No.37)、かかる金融商品取引所に上場されていない有価証券(例えば、海外でのみ上場されている有価証券等)も「金融商品取引所に上場されていない有価証券」(非上場有価証券)となります。

(2) 登録要件等の緩和
非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合、以下のとおり各規制が緩和されます。

(i) 兼業規制
第一種金融商品取引業の登録を受けるためには、他に行っている事業が付随業務(金商法第35条第1項各号に定める業務その他の金融商品取引業に付随する業務をいいます。)若しくは届出業務(金商法第35条第2項各号に定める業務をいいます。)に該当し、又は承認業務として承認を取得できる見込みがあることが必要ですが(金商法第29条の4第1項第5号ハ)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合は、当該要件が適用されません(金商法第29条の4の4第2項)。
また、第一種金融商品取引業者は、届出業務を行う場合にはついて届出が、承認業務を行う場合については承認の取得が、それぞれ必要ですが(金商法第35条第3項及び第4項)、非上場有価証券特例仲介等業者については、これらの届出及び承認の取得が不要です(金商法第29条の4の4第3項及び第4項)。

(ii) 自己資本規制比率規制
第一種金融商品取引業の登録を受けるためには、自己資本規制比率が120%以上であることが必要ですが(金商法第29条の4第1項第6号イ)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合は、当該自己資本規制比率が適用されません。そのため、登録申請の際に添付する誓約書において、自己資本規制比率に係る誓約は不要とされ(金商法第29条の4の4第1項)、また自己資本規制比率を算出した書面の提出が不要とされています(業府令第10条第1項第3号括弧書き)。
また、第一種金融商品取引業者は、毎月、自己資本規制比率を算出してこれを届け出る義務があり、かつ、自己資本規制比率120%を下回ることがないように維持する必要がありますが(金商法第46条の6第1項及び第2項)、非上場有価証券特例仲介等業者については、これらの制限が適用されません(金商法第29条の4の4第5項)。

(iii) 金融商品取引責任準備金の積立て義務
第一種金融商品取引業者には、金融商品取引責任準備金の積立て義務があり、その使途も制限されていますが(金商法第46条の5)、非上場有価証券特例仲介等業者については、金融商品取引責任準備金の積立義務がありません(金商法第29条の4の4第5項)。

(iv) 最低資本金及び純財産要件
第一種金融商品取引業の登録を受けるためには、最低資本金及び純財産の額は5000万円以上であることが必要ですが(金商法第29条の4第1項第4号イ及び第5号ロ、金商法施行令第15条の7第1項第3号及び第15条の9第1項)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合は最低資本金及び純財産の額が1000万円以上に引下げられました(金商法施行令第15条の7第1項第6号)。

(v) 人的要件
第一種金融商品取引業の登録を受けるためには、常勤役職員の中に、その行おうとする第一種金融商品取引業の業務を3年以上経験した者が複数確保されていることが求められていますが(金商業者向け監督指針IV-4-1(2)①ハ)、非上場有価証券特例仲介等業務のうち、特定投資家を相手方として行う1号仲介業務(私設取引システム運営業務(金商法第2条第8項第10号)を除きます。)のみを行う場合には、常勤役職員の中に、その行おうとする第一種金融商品取引業の業務(金商法第29条の5第2項に規定する業務を含みます。)を1年以上経験した者が1名以上確保されていればよいこととされています(金商業者向け監督指針IV-4-1(2)①ハ(注))。

(vi) 投資者保護基金への加入義務
第一種金融商品取引業は、いずれかの投資者保護基金に会員として加入する義務がありますが(金商法第79条の27)、非上場有価証券特例仲介等業者については投資者保護基金の加入義務が免除されています(金商法施行令第18条の7の2)。そのため、投資者保護基金に加入しない場合は、登録申請書への記載も不要です(業府令第7条第3号ロ)。

(3) 適切性の確保
(2)のとおり、非上場有価証券特例仲介等業者については登録要件が一部緩和されていることから、その範囲を超えた第一種金融商品取引業を行うことがないよう、以下のような措置を取ることが求められています(業府令第70条の2第10項、監督指針IV-3-6(1))。

(i) 一般投資家を相手方として及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために売付けの媒介又は法第2条第8項第9号に掲げる行為(有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い)を行うことを防止するための必要かつ適切な措置がとられていること。

(ii) 一般投資家のために及び一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として買付けの媒介を行うことを防止するための必要かつ適切な措置がとられていること。

(iii) 顧客から金銭の預託を受ける場合には、(1)(ii)の金銭の預託として適切に管理するための措置がとられていること。

また、非上場有価証券特例仲介等業務の担当者が第二種金融商品取引業の担当を兼務する場合には、第二種金融商品取引業に係る顧客に一般投資家が含まれているかどうか、含まれている場合には第二種金融商品取引業に係る一般投資家である顧客に対して非上場有価証券特例仲介等業の範囲を超えた第一種金融商品取引業が行われないよう、非上場有価証券特例仲介等業務を行う前の顧客の属性の事前確認が求められています(金商業者向け監督指針IV-3-6(1))。

(4) 日本証券業協会への加入
日本証券業協会に加入する場合、第一種金融商品取引業者は会員となりますが(日本証券業協会の定款第5条第1号、第11条第1項)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う者は特定業務会員となります(同定款第5条第2号ニ、第13条第1項)。また、入会金は原則として100万円ですが、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う者は50万円で(定款の施行に関する規則第10条第1項及び第2項)、定額会費も1特定業務会員につき月額7万円のところ、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う者は月額3万5,000円と軽減されています(特定業務会員会費規則第3条第1項第1号)。
他方、非上場有価証券特例仲介等業務の内部管理を担当する内部管理統括責任者、同業務を行う営業単位の内部管理責任者及び同業務に関する内部管理部門に所属する管理職者は「外務員等資格試験に関する規則」による会員内部管理責任者資格試験(以下「会員内部管理者責任者資格試験」といいます。)の合格者に限られ(協会員の内部管理責任者等に関する規則(以下「協会員内部管理責任者等規則」といいます。)第6条第4項、第14条第3項及び第7条第2項)、非上場有価証券特例仲介等業務を行う営業単位の営業責任者は、平成18年4月1日改正前の「証券外務員等資格試験規則」による会員営業責任者資格試験又は会員内部管理者責任者資格試験の合格者に限定されており(協会員内部管理責任者等規則第11条第3項)、他の特定業務会員より各責任者等の資格が限定されています。また、非上場有価証券特例仲介等業務に関する内部管理業務に従事する従業員について、会員内部管理責任者資格試験の合格者となるよう努める義務があります(協会員内部管理責任者等規則第7条第2項)。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、本書作成日現在、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
  • 本書は当事務所ウェブサイト掲示用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には、各人の法律顧問にご相談下さい。

[2] 「一般投資家」とは、特定投資家等、当該有価証券の発行者、当該発行者の取締役、監査役、執行役、理事若しくは監事若しくはこれらに準ずる者若しくは使用人(以下「特定役員等」といいます。)又は当該特定役員等が総議決権の50%超の議決権を保有する法人その他の団体(以下「被支配法人等」といいます。)、当該発行者の総株主等の議決権の50%を超える議決権を自己又は他人の名義をもって保有する会社以外の者をいいます(金商法第29条の4の4第8項第1号、金融商品取引業に関する内閣府令第16条の3第1項及び第3項)。なお、特定役員等及びその被支配法人等があわせて他の法人その他の団体の総株主等の議決権の50%を超える議決権を自己又は他人の名義をもって保有する場合も当該特定役員等の被支配法人等とみなされます(同条第2項)。