DePIN |
Filecoin |
Helium |
Hivemapper |
PicTrée |
DePIN(ディーピン)とはDecentralized Physical Infrastructure Networkの略称で直訳すると分散型物的インフラストラクチャーネットワークとなります。DePINとは何か、という点については明確な結論がありませんが、一例として下記のように説明されます。
DePINとは、Decentralized Physical Infrastructure Network(分散型物的インフラストラクチャーネットワーク)の略称で、物理的資源が必要なネットワーク経済をトークンをはじめとしたWeb3の仕組みでブートストラップするプロジェクトを総称しています。 物理的資源が必要なネットワーク経済とは様々ですが、私達にとって身近なサービスであればUBERやAirbnbがそうです。前者は車両を運転するドライバーという物理ネットワークによって配車サービスが成り立っており、後者は不動産を短期滞在者に提供するホストという物理ネットワークによって宿泊サービスが成り立っています。 DePINとはこれらのような経済圏をトークンインセンティブで再構築したり、あるいはこれまでは単一的企業からサービス提供されていたサービスをトークンインセンティブで物理的資源を不特定多数から集めてネットワーク経済に作り変えることを指します |
近年、DePINがWeb3業界で頻繁に話題になっており、Hivemapper、Filecoin、Heliumなどの有名プロジェクトがあるほか、日本でも東京電力がDePINの実証実験を発表した等とされます。
また、SolanaブロックチェーンがDePINに親和的とされ、多くのDePINプロジェクトがSolanaベースで作成され、そのことが暗号資産Solanaの価格高騰の一つの要因となっているとも言われます。
他方、DePINの概要は判りにくく、また、いかなる法的規制が適用されるか検討したものも見当たりません。
そこで、本書では、Web3業界の方々のために、DePINの概要と、DePINプロジェクトの組成や利用に際して、主として検討すべき日本法について記載することとしました。
DePINには様々なプロジェクトがありますが、現在の主要なDePINプロジェクトを日本居住者向けに導入する場合、資金決済法の暗号資産規制(以下「暗号資産法」といいます)、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます)、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます)、電波法、電気通信事業法、その他の機器の輸入や販売に関する法律、などを検討する必要があるのではと思われます。
現在の当職らの分析を纏めると以下の通りとなります。
(1) 暗号資産法 多くのプロジェクトではDePINに貢献することにより何らかのトークンを貰えます。かかるトークンが暗号資産に該当しても、貢献に対する付与であり、「売買」等ではなく、暗号資産法上の規制はありません。 トークンの付与がブロックチェーン上のユーザー保有アドレスに対してなされる場合、プロジェクトが「暗号資産の管理」をしているとは考えられず、暗号資産法上の規制はありません。他方、付与されたトークンを運営側が預かる等する場合、暗号資産交換業が必要となりえます。このため、少額報酬でも低額のガス代で送付できるブロックチェーンの利用が望ましいと思われます。 利用手数料の支払がクレジットカードで行われ、それによりトークンがBurn&Mineされることがありますが、これは暗号資産の売買には該当しないと思われます。 貢献で得られたトークンに関して売買機会を付与するために、トークンを上場することが通常と思われます。この場合、日本居住者に暗号資産を販売するためには暗号資産交換業登録が必要となります。他方、取引所の単なる利用者側には規制はありません。 (2) 景表法 DePINに貢献することにより、何らかのトークンを貰えたとしても、それは貢献に対する報酬であり、景表法の景品規制の適用はありません。 (3) 特定商取引法 DePINプロジェクトの参加のために、一定の専用機材が販売されることがあります。①販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をするもの、については、「業務提供誘引販売取引」(特定商取引法第51条)として、書面交付義務等の規制が課されます。 (4) 電波法 DePINに利用する機材の多くでは、無線通信のために電波を発していると思われます。 このデバイスの利用には、技適マーク等がない限り、電波法に基づく免許が必要となり、留意が必要となります。既に技適マークのある汎用機材を利用するか、専用機材を使用させる場合、技適マークを取得することが事実上必要となると思われます。 (5) 電気通信事業法 Heliumのようなネット等への接続用のホットスポットを設置し、報酬を得るためには電気通信事業法の届出が必要となり、日本では行いにくいと思われます。 (6) その他の機器の輸入や販売に関する法律 専用機器の輸入や販売にあたっては、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法、製造物責任法などを検討する必要があります。 |
DePINには様々なプロジェクトがあり、何をDePINと呼び、何をDePINと呼ばないかは、未整理です。
ただ、下記のようなプロジェクトはDePINと呼ばれていると思われます。このうち、下記2以下で4つのプロジェクトをより詳細に説明します。
プロジェクト名 | 説明 | 主な特徴 |
撮影等によるデータ提供するDePIN |
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Hivemapper |
実世界の分散型マッピングを提供 |
・ユーザーはダッシュカメラを車に設置して周辺を撮影 |
DIMO | 車両データを収集・分析 |
・所有する車の走行データ等の収集、収益化(自動車メーカー、保険会社への提供) |
PicTrée | 分散型の電柱メンテナンス貢献システム |
・日本人が代表を務めるシンガポール企業DEAと東京電力グループが実証実験 |
主として余剰のデバイス(新規購入デバイスも可)を他者に利用させるDePIN | ||
Filecoin | 分散型ストレージネットワーク |
・ストレージを必要とするユーザーと余剰容量を持つユーザーをマッチング |
Arweave | 分散型ストレージネットワーク |
・ブロックウィーブ技術を活用し、NFTやDeFi向けに、最低200年という長期間に渡る検閲耐性のある情報保存サービスを提供する、分散型ストレージソリューション ・ARトークンにより報酬を付与 |
Render Network | 分散型のクラウドレンダリングプラットフォーム |
・GPU(Graphics Processing Unit)の余剰計算能力を持つユーザーと、GPUの計算能力を求めるユーザーをマッチング |
新規購入デバイスを他者に利用させるDePIN | ||
Helium Hotspot | IoTデバイス向けの分散型無線ネットワーク |
・LoRaWAN(消費電力及び長距離通信が特長の無線通信方式)の提供 |
Helium5G | 分散型5Gネットワークを構築 |
・5G通信網の提供 |
GEODNET |
GPSの精度を改善するために分散型ネットワーク技術を使用 |
・リアルタイムキネマティック(RTK)技術を活用し、正確な位置情報を安価かつ大規模に提供 |
その他のDePIN | ||
Internet Computer1 |
Webサービス提供に特化するクラウドコンピューティング基盤 |
・データセンターを世界各国に分散しWeb3.0(分散型Web)の基盤としてクラウドコンピュー ティング環境の提供を目的とするブロックチェーン |
The Graph | ブロックチェーン上にあるデータをインデックスおよび検索するための分散型プロトコル |
・「ブロックチェーン界のGoogle」とも呼ばれ、分散的なチーム運営形式で2018年から運営 |
出典:インターネット上の記事等を参考に、当職らが作成。分類は便宜的なもの
Hivemapperは、分散型リアルワールドマッピングを目指すDePINプロジェクトです。Hivemapperは、Google MapやGoogle Street Viewのようなサービスを再現することを目的としています。
主な特徴及び仕組は以下となります
①ユーザーはDashCamと言われるHivemapper用の専用カメラを購入し、車に設置します。 ②ユーザーが明るい時間帯(日の出1時間後~日の入り1時間前)にドライブすると、カメラが撮影したデータとGPS位置情報がネットワークにアップロードされます。 ③データを提供したユーザーは、SolanaベースのHONEYトークンで報酬を受け取ります。 ④また、マップの改善のためにAI Trainersとして貢献し、HONEYトークンを獲得する方法もあります。ユーザーは幾つかのコンテンツに分かれたクイズ(道路標識に関するクイズやマッピングされた画像が適切かに関するチェック)に答えることにより、HONEYトークンを得られます。 ⑤なお、Hivemapperで作成されたマップを商業用に利用したい者は、HONEYトークンでの支払いによりマップを利用できます。 |
Filecoinは、分散型ストレージネットワークで、余剰なストレージスペース(ハードディスクなど)を持つユーザーとデータ保存が必要なユーザーを結びつけます。Filecoinは2017年にICOを行い、2020年から正式運用を開始、それらの当時はDePINという言葉は存在しませんでしたが、現在ではDePINの有力な実例と考えられています。
FilecoinはDropBoxやGoogle Driveのようにデータを外部に保存するサービスです。主な違いは、データを保存する先が、一社が提供するデータセンターではなく、分散化された個人や法人が提供するストレージである点です。
①ストレージ提供者はFilecoinネットワークに接続することにより余剰なストレージスペースを提供でき、その対価としてFilecoin(FIL)トークンで報酬を受け取れます。この際に、自分は幾らでストレージスペースを提供するかを設定でき、それにより価格競争がなされます。このようなストレージ提供者は「マイナー」と呼ばれます。 ②ストレージを利用したいユーザーはFilecoinネットワークに接続し、少額のFILトークンを支払うことによりストレージを利用できます。 ③ユーザーがアップロードしたデータは、無数の断片に分解され、暗号化された上で、複数のストレージに分散されて保存されます。そのため一つのストレージをハッキングしてもデータは判らず、セキュリティーとプライバシーが確保されます。 ④上記の断片にアクセスするには、ファイルをアップロードした人物の持つ秘密鍵が必要になります。 |
Heliumは分散型のネットワークの構築を目指すプロジェクトです。
Helium Hotspotでは、低消費電力のワイドエリアネットワーク(LoRaWAN)を構築し、IoTデバイス間の接続を可能にすることを目的としています。ユーザーはホットスポットを購入して、家に設置することによりネットワークに参加し、周辺エリアのIoTデバイス等にインターネット接続を提供、その報酬としてHelliumトークン(ティッカ―はHNT)を得られます。
また、Helium5Gでは、分散型5Gネットワークを構築することを目的としています。この取り組みでは、5G対応のホットスポットが展開され、これによりネットワークの機能がIoTから高速モバイルインターネットアクセスに拡張されます。Helium 5Gは、中央集権的な通信プロバイダーに代わる代替案を提供し、より広範囲な地域での高速通信サービスを実現することを目指しています。ユーザーはHelium 5G対応の機材を購入してネットワークに参加することで、5G通信の提供に貢献し、その報酬としてHelium Mobile トークン(ティッカーはMOBILE)を得られます。
シンガポール拠点のGameFiの会社であるDigital Entertainment Asset(DEA)と、東京電力パワーグリッド株式会社と組んだ上で、ゲームユーザーが電柱やマンホールを撮影して報酬を受け取るGameFiの実証実験を予定しています(2024年4月13日ローンチ予定)。
電柱やマンホールなどは、継続的に保守点検が必要ですが、ゲームプレイヤーが最新状況を撮影することにより、電力会社による実際の点検修理が必要かを判断、それにより安全性を保ったままコスト削減できないか、という実証実験のようであり、最初は前橋市の一部で4月13日~6月29日の期間で行われます。
上記2で記載したHivemapper同様、撮影により社会に貢献し、報酬を受け取れる、というDePINですが、自身のスマホと無料アプリで参加可能であり、より参加しやすいDePINと言えると思われます。
ゲーム説明 ◼️「PicTrée(ピクトレ)~ぼくとわたしの電柱合戦~」の概要 「ピクトレ」はチームに分かれて、電柱やマンホールなど皆さまの身近にある電力アセットの撮影を行い、撮影した電力アセットの量や距離を競う「チームバトルゲーム」です。 プレイヤーは「アンペア」「ボルト」「ワット」の3チームから所属したい1チームを選択し、そのチームの一員としてゲームに参加します。ゲームでは電柱などの電力アセットに「チェックイン」や「撮影」というアクションを行い、さらに撮影した電柱同士を「コネクト(繋ぐ)」することによってポイントを獲得することができます。所属するチームの合計点によって3チームのランキングが決まります。 プレイヤーはゲーム内での活躍に応じて、Amazonギフト券やDEAPcoin(DEP)などの報酬が獲得できる他、一定期間行われる各シーズンの終了時にはチームランキングに基づくチーム報酬の獲得チャンスもあります。 (公式サイト)https://pictree.greenwaygrid.global/ |
ゲーム説明及び図の出典:2024年3月4日付Digital Entertainment Asset Pte.Ltd社プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000200.000047612.html
DePINには様々なプロジェクトがあり、適用のある法律は一様ではありません。下記では多くのDePINや有名DePINに適用があると思われる法律を検討します。
DePINでは、プロジェクトに対して貢献を行うことにより、当該プロジェクトのトークンが付与されることがあります。かかるトークンの多くは暗号資産に該当すると思われます。
参考 暗号資産の定義(資金決済法2条5項) 1号暗号資産の定義 「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」 2号暗号資産の定義 「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」 暗号資産交換業の定義(資金決済法2条7項) この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。 一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換 二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理 三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。 四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。 |
暗号資産を業として売買し、交換し、又は利用者のために管理(保管)する場合には、暗号資産交換業の規制が適用されます。
しかしながら、プロジェクトに対して貢献したことにより暗号資産を付与すること自体は、売買でも交換でも管理でもなく、暗号資産規制は適用されません。
上記(1)記載のようにDePINでは、プロジェクトに対して貢献を行うことにより、当該プロジェクトのトークンが付与されることがあります。例えばHivemapperでは月曜日から日曜日までの貢献に対して、3日ほど後にHONEYトークンが付与されます。
このトークンの付与がブロックチェーン上で行われ、付与前には誰も移動等ができず、付与された後には、その付与者が有する秘密鍵でのみ移転が可能である、という場合、特段、暗号資産の「管理」に関する規制は適用ありません。
他方、付与された後のトークンが、何らかの中央集権組織で保管され、ユーザーのウォレットには移転していない(一定の引出手続きをとって初めて移転される等)場合、運営が暗号資産を管理しているとして暗号資産交換業の登録が必要となる可能性があります。
暗号資産管理の規制を避けるためにはトークン付与の際にはトークンをブロックチェーン上のユーザーのアドレスに移転することが必要と思われます。そして少額の報酬の付与でもコスト割れ等にならないよう、ガス代が安いブロックチェーンを使うことが望ましいのでは、と思われます。
多くのDePINでは、機材等を設置してプロジェクトに貢献するサプライヤーサイドにはトークンを報酬として付与し、利用サイド(デマンドサイド)からは利用料としてトークン等を受け取ります。また、一定期間における支払報酬と受取報酬を同額にする等により、インフレやデフレを防ぐ等の仕組が取られることもあります。
ただ、利用料の支払をトークンのみとした場合、利用者の裾野が広がらないことから、多くのプロジェクトでは実際にはクレジットカード等での利用料の支払いを中心とし、クレジットカードで支払われた額に相当するトークンをBurnし、Burnされたトークンと同数量を鋳造(Mint)してサプライヤーサイドに渡す、というスキームを取っているようです2。
このような行為が暗号資産の売買に該当し、暗号資産交換業が必要とならないか問題となりますが、①あくまでBurn & Mintであり売買ではないこと、②このような仕組みはプロトコルの提供をフィアットで行ない、サプライサイドにはトークンで行う、という仕組みを採用するための経済的合理性に基づき組成されたものであり、売買と再構成する必要もないこと、③仮にBurn & Mintではない仕組であっても、運営会社自体がプロトコルを管理しており、運営会社がサービスを提供し、トークンでの支払いは内部での処理にすぎない、という構成の場合や、運営会社はプロトコルを管理していないが運営会社がプロトコルからのサービス提供受領を代理人として行い、その代理行為の報酬をユーザーからフィアットで受領している、等の構成であっても暗号資産交換業には該当しないのではと思われること、等から暗号資産交換業という必要はないと思われる。
DePINプロジェクトでは、ユーザーの貢献で得られたトークン(暗号資産)に関して売買機会を付与するために、トークンを上場することが通常と思われます。
日本居住者に業として暗号資産を販売するためには暗号資産交換業規制が適用されます。海外発のプロジェクトで海外取引所に上場等を行っている場合、当該海外取引所が日本の暗号資産交換業の登録なく、日本居住者にトークンを販売することは違法となります。他方、単なるユーザー側には海外取引所を使用することに関して規制はありません。
日本発のプロジェクトの場合、海外子会社を利用して海外取引所に上場するか、日本法人の場合、いわゆるIEOとして、金融庁と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の許可を得た上で、日本の暗号資産交換業者を通じて、販売を行うことになります。
DePINの中には、専用機材の購入をした上で、貢献を行うと報酬が得られるものがあります。
例えば、Hivemapperでは、車載用カメラを購入し、それで撮影をすることによりHONEYトークンを得ます。HONEYトークンの付与が「景品」と考えられれば、車載カメラの販売代金に対する一定の割合までしかHONEYトークンが付与できない等の景表法の規制が課されます。
この点、景表法での景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益(トークンを含む)をいいます。
問題は「取引に対して付随する」と言えるかですが、HONEYトークンの付与は、ドライブしてマップ作製に貢献したことに対する報酬であり、車載カメラの販売に付随して行われるものではないため景品には該当せず、従って景表法の景品規制の適用はないと思われます。
同様に、HeliumのHNTトークンやMOBILEトークンの付与も、あくまでワイヤレスネットワークの提供に対する報酬であり、機材を購入したことに対するおまけではない、と整理可能だと思われます。
DePINの中には、FilecoinやRender Networkのように、既に手持ちのストレージやGPUの余剰部分を提供することにより報酬が得られる仕組みもあります。また、PicTréeのように手持ちのスマホを利用して撮影する場合もあります。
この場合には、特に景表法の景品規制の論点は発生しません。
Hivemapper、HeliumやGEODNETのように専用機材を販売し、その機材を利用して貢献すると報酬を得られるという仕組みの場合、業務提供誘引販売取引の規制を検討する必要があります。
業務提供誘引販売取引(特定商取引法第51条)とは、①物品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をする取引をいいます。業務提供利益とは、業務提供誘引販売取引の相手方を勧誘する際の誘引の要素となる利益で、提供される業務に従事することにより得られる収入のことをいいます。特定負担とは、業務提供誘引販売取引に係る商品の購入若しくは役務の対価の支払い又は取引料の提供をいいます。
例えば、このミシンを買ってくれれば、仕事を発注する、という契約が業務提供誘引販売取引であり(いわゆる内職商法)、勧誘に先立つ氏名等の明示、広告規制、消費者への書面交付義務などの規制が課せられます。
Hivemapper、HeliumやGEODNETの仕組みは、日本で行うと、①機材の販売事業であり、②報酬を得られると誘引し、③機材売買契約をしている、として、業務提供誘引販売取引に該当する可能性が高いと思われます。(なお、自社と全く無関係の者が販売し、かつ販売の斡旋もしなければ規制には該当しません)
他方、Filecoinのように余剰のストレージを利用させたり、PicTréeのように手持ちのスマホを利用させる場合、同法の適用はありえません。
DePINに利用するデバイスの多くでは、無線通信のために電波を発していると思われます。日本では電波を発するデバイス(携帯電話、Wi-Fiルーター、多くのIoT機器)を利用する場合、個人利用のためや無償利用であっても、原則として総務大臣の免許が必要です(電波法第4条)。ただし、発する電波が著しく微弱な場合や、いわゆる技適マークが付与された機材の場合、この免許は不要です(同条第1号、第2号)。
なお、電波法の規制はデバイスの利用者に関する規制であり、デバイスの販売者に関する規制ではありません。電波を発するデバイスを購入して利用する場合、ユーザーは規制対象ではないか、技適マークが付されているか等の判断をする必要があります。 ただし、同規制は利用者に対する規制ではありますが、日本国内で広く利用して貰うためには、運営側でも技適マークを取得するなどの対応が必要と思われます3。
日本では、インターネットや携帯電話等の通信用のサービスを他者に提供し、それで報酬を得る場合、電気通信事業の登録又は届出が必要となります。 例えば、喫茶店で無償のWi-Fiスポットを提供する等は「事業を営む」に該当しないとされます4。
なお登録と届出いずれが必要かは、例えば市区町村を超えて業務を行う場合には登録、それ以下の場合、届出となります(電気通信事業法9条第1号、第16条)。
Heliumのユーザーのように無線ホットスポットを提供し、それによりトークンを得る、という行為も電気通信事業に該当し、ユーザー側に届出が必要となります。従って、現行規制を前提とすると、日本でのHeliumの運用は厳しいのでは、と思われます。 DePINではありませんが、FONという無線LANアクセスポイント事業に関し、日本では電気通信事業法の規制のため、そのうちの有償事業が提供されていなかったことについて、脚注をご参照下さい5。
専用機器の購入を前提とするDePINの場合、当該機器を日本国内で製造・輸入・販売する上では、関連法による規制を受けることになります。 例えば、DePINとは直接の関係はありませんが、家電製品やIoT機器の輸入や販売にあたっては、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法などの法律の他、製造物責任法などの法律が適用されることがあるとされます6。
この点、現状において専用機器購入を前提とするDePINに該当すると思われるHivemapper、Helium及びGEODNETに関して言えば、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法等については、適用対象にならないのでは、他方、製造物に関する一般的な法規制(製造物責任法)については適用があるのでは、と思われますが、実際のデバイスの輸入や販売にあたっては、各製品の仕様と法律の詳細を検討する必要があります。
留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、DePINの利用やDePIN機材の購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。