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クリプト業界のためのメタバース入門

JCBAの2022年5月勉強会で当職らが行ったセミナーの資料です。

従来、株主総会は、株主や取締役及び監査役等が物理的な場所に集まって開催されることが一般的でしたが、コロナ禍という状況もあり、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席又は参加(以下、インターネット等の手段を用いての出席を「バーチャル出席」、インターネット等の手段を用いての参加を「バーチャル参加」といいます。)が可能な、いわゆるバーチャル株主総会の開催も増えてきました。また、経済産業省が、2020年2月26日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます。)を、2021年2月3日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(以下「実施事例集」といいます。)を、それぞれ公表し、物理的な場所での株主総会(以下「リアル株主総会」といいます。)の開催に加えてバーチャル出席又はバーチャル参加を可能とするいわゆるハイブリッド型株主総会について一定の指針が示されたことや、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号、以下「改正法」といいます。)が成立し、2021年6月16日に公布と同時に、上場企業を対象に、リアル株主総会の開催を要しない、いわゆるバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする特例に係る規定が施行されたこともあり、各種バーチャル株主総会の実例もある程度出揃ってきたことから、各種バーチャル株主総会について、まとめました。

1. バーチャル株主総会の種類

バーチャル株主総会には、(i)リアル株主総会の開催がなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席する「バーチャルオンリー株主総会」と、(ii)リアル株主総会の開催に加えて、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席又は参加できる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」とがあり、(ii)には①株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に出席できる「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」と、②株主総会への出席とはならないが、株主がインターネット等の手段を用いてリアル株主総会の審議等を確認・傍聴することができる「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」とがあります1)。

現行の会社法(平成17年法律第86号、以下「会社法」といいます。)では、株主総会の招集の際に株主総会の場所を定める必要があることから(会社法第298条第1項第1号)、バーチャルオンリー株主総会の開催は認められないと解されていますが2)、改正法による産業競争力強化法(平成25年法律第98号、以下「産競法」といいます。)の改正により、上場会社については、会社法の特例として、一定の要件を満たす場合にはバーチャルオンリー株主総会の開催が認められることになりました。 これに対し、ハイブリッド型株主総会は現行の会社法の下でも開催が可能と解されています3)。

2. バーチャルオンリー株主総会

(1) 要件

バーチャルオンリー株主総会を開催するための要件は、以下のi.からiv.のとおりです(産競法第66条第1項及び第2項、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令(令和3年法務省・経済産業省令第1号。以下「本省令」といいます。)第1条及び第2条)。

  1. 上場会社であること。
  2. (iii.の前提として)以下のa.からd.の要件(以下「省令要件」といいます。)該当性につき経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けること。なお、本2の確認は、バーチャルオンリー株主総会毎に受ける必要はなく4)、当該確認に有効期限はありません5)。
    1. 通信の方法に関する事務(b.及びc.の方針に基づく対応に係る事務を含みます。)の責任者の設置。
      a.の責任者は、バーチャルオンリー株主総会で用いる通信方法の運用に係る事務や、以下のb.及びc.の方針に基づく対応に係る事務(一部を外部委託し、当該委託先との連携が必要な場合の連携事務を含みます。)を網羅する責任者で、取締役であることは要しません6)。
    2. 通信方法に係る障害に関する対策についての方針の策定。
      審査基準では以下のような事項が例として挙げられていますが、これらに限定されるものではありません7)。
      ・通信方法に係る障害に関する対策に資する措置が講じられたシステムの使用。
      ・通信方法に係る障害が生じた場合における代替手段の用意。
      ・通信方法に係る障害が生じた場合に関する具体的な対処マニュアルの作成。
      ・場所の定めのない株主総会において、延期・続行の議長一任決議について諮ること。
    3. 通信方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針の策定。
      審査基準では以下のようなものが例として挙げられていますが、これらに限定されるものではありません8)。実際にバーチャルオンリー株主総会を開催した会社9)の招集通知によれば、事前の書面による議決権行使の推奨や、電話会議システム等の準備を行っているもの等があったようです10)。
      ・事前の書面による議決権行使(会社法第311条第1項)の推奨の通知。
      ・場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信をするために必要となる機器の貸出し。
      ・電話による出席が可能であるものの利用
    4. 株主名簿に記載又は記録されている株主数が100人以上であること。
  3. 株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定め(以下「本規定」といいます。)があること。
    具体的には以下のような規定を置くことになります 11)。本規定は、株主総会の招集決定時点及び当該総会の開催当日時点の双方の時点で定款に定められていることが必要とされています 12)。
    (種類株式発行会社でない場合)
    「当会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」
    (種類株式発行会社の場合)
    「当会社は、株主総会(種類株主総会を含みます。)を場所の定めのない株主総会(種類株主総会にあっては、場所の定めのない種類株主総会)とすることができる。」

    なお、改正法の施行日から2年を経過する日までの間においては、上記ii.の確認を受けた場合には、定款変更を行わなくても、本規定があるものとみなすことができます(改正法附則第3条第1項)。但し、本規定を入れるための定款変更についてはバーチャルオンリー株主総会で行うことはできません(改正法附則第3条2項)。

  4. 招集決定時に省令要件に該当していること。
    本iv.における該当性の判断は招集決定者が行います 13)。

(2) 招集決定事項

バーチャルオンリー株主総会を招集する場合、会社法に定める事項(会社法第298条第1項、但し、株主総会の場所を除く。)に加えて、以下の事項を決定することが必要となります(産競法第66条第2項による読替後の会社法第298条第1項、本省令第3条)。

(3)招集通知記載事項

バーチャルオンリー株主総会の招集通知には、会社法に定める事項(会社法第299条第4項、但し、株主総会の場所の記載を除きます。)に加えて、以下の事項の記載が必要とされています(産競法第66条第2項による読替後の会社法第299条第4項、本省令4条)。

(4) 議事録

バーチャルオンリー株主総会の議事録では、リアル株主総会の議事録の記載事項のうち、株主総会の場所の記載に代えて、株主総会を場所の定めのない株主総会とした旨及びその議事における情報の送受信に用いた通信の方法(上記省令要件のii.b.及びiii.の方針に基づく対応の概要を含みます。)の記載が必要とされています(本省令第5条第3項)。

3. ハイブリッド型株主総会

上記1及び2(1)iのとおり、産競法に基づきバーチャルオンリー株主総会の開催が認められるのは上場会社に限られることから、現行法下で非上場会社が開催できるバーチャル株主総会は、ハイブリッド型のものに限られます。ハイブリッド型株主総会には、上記1のとおり、バーチャル出席が可能か否かにより、ハイブリッド出席型株主総会とハイブリッド参加型株主総会とに分かれます。

(1)ハイブリッド参加型株主総会

ハイブリッド参加型株主総会はバーチャル参加をする株主(以下「バーチャル参加株主」といいます。)は株主総会に出席したと取り扱われないことから、株主総会当日にインターネット等の手段を用いて議決権の行使をすることはできません。したがって、当該株主が議決権を行使するためには、リアル株主総会に自ら出席するか、リアル株主総会に出席することができない場合は、書面若しくは電磁的方法により事前に議決権を行使するか(会社法第311条及び第312条)14)、又は代理人を通じて議決権を行使するか(会社法第310条)のいずれかの方法によることになります。
また、ハイブリッド参加型株主総会は現行の会社法のもとで開催可能な株主総会の形態であることから、招集通知の法定の記載事項については、リアル株主総会のみを開催する場合と異なるところはありませんが、インターネット等の手段を用いての参加を認めることから、以下のような事項について、招集通知に記載する等して事前に周知することが望ましいとされています15)。

(2) ハイブリッド出席型株主総会

ハイブリッド出席型株主総会では、上記(1)と異なり、バーチャル出席をする株主(以下「バーチャル出席株主」といいます。)は株主総会に出席していると取り扱われ、株主総会当日にインターネット等の手段を用いて議決権を行使することが可能であることから(なお、事前に書面又は電磁的方法により議決権行使をしている場合の事前に行使した議決権の効力の取扱いについては、後記4(4)参照。)、前提として、リアル株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要と解されています19)。

また、リアル株主総会に加えてインターネット等の手段を用いての出席が可能であることや、後述するようにバーチャル出席の場合には一定の制限等を加えることが可能であること等から、以下のような事項について、招集通知に記載する等して事前に周知することが望ましいとされています20)。

4. 主な論点・留意点等

以下、バーチャル株主総会に関する主な論点、留意点等について、みていきます。

(1) 本人確認

出席型及びバーチャルオンリー株主総会においては、バーチャル出席を行う株主は出席として取り扱われることから、リアル株主総会と同様、本人確認が必要になります。具体的な本人確認方法としては、以下のような方法が挙げられます 31)。

(2) 代理人の制限の可否

会社法上、株主は代理人により議決権を行使させることが認められています(会社法第310条)。しかしながら、ハイブリッド出席型株主総会については、代理人によるバーチャル出席を認める必要性と、代理人によるバーチャル出席を認めた場合の事務処理やコスト等の負担を比較して、代理人の出席をリアル株主総会に限定することも妥当と考えられてます(但し、かかる制限を行う場合は、あらかじめその旨株主に招集通知等で通知することが必要とされています。)32)。

これに対し、上記のような事情がないバーチャルオンリー株主総会については、会社法の原則通り、代理出席を認める必要があると考えられています33

(3) 動議及び質問

会社法上、株主は株主総会において動議を提出し(会社法第304条等)、質問を行うこと(会社法第314条)が認められています。この点、各バーチャル株主総会において出席と取り扱われるか、リアル株主総会が開催されるか等により、取扱いが異なってくると解されています。以下、各種のバーチャル株主総会ごとに検討します。

  1.  ハイブリッド参加型株主総会
    ハイブリッド参加型株主総会については、バーチャル参加株主は、株主総会において出席とは取り扱われないことから、会社法上は動議の提出や質問権の行使は認められません。
    但し、これらとは別のものとして株主総会中や事前にコメント等を受け付けることがあり得、かかるコメント等に対し、株主総会中に議長の裁量で議事運営上可能な範囲で紹介や回答を行ったり、株主総会終了後や後日、コメント等の紹介や回答等を行うことは可能であり、株主とのコミュニケーション向上に資すると考えられています34)。
  2.  ハイブリッド出席型株主総会
    ハイブリッド出席型株主総会では、バーチャル出席株主も株主総会において出席と取り扱われるものの、バーチャル出席がリアル株主総会への出席に加えた、追加的な出席手段の提供であること、リアル株主総会への出席者との出席態様の違いから生じる、質問や動機の提出に対する心理的なハードルの低下、並びに質問や動議の提出方法の違いやバーチャル出席という態様から生じうる濫用的な質問権の行使及び動議の提出権の可能性等を踏まえて、以下のように一定の制約を設けることは許容されると解されています35)。
    1. 質問権の行使 あらかじめ招集通知やウェブサイトで通知したうえで、以下のような取扱いを行うことが考えられます36)。 ・1人が提出できる質問回数、文字数、送信期限等の制限
      ・質問を取り上げる際の考え方及び個人情報が含まれる場合や個人的な攻撃等につながる不適切な内容の取り上げ拒否等の運営ルールの設定
      ・上記の運営ルールに従った運営 なお、適正性・透明性を担保する措置として、後日、受け取ったものの回答できなかった質問の概要を公開すること等の工夫を行うことも考えられます37)。

    2. 動議38) バーチャル出席株主から動議が提出された場合の動議の趣旨確認や説明要求等の実施及びそのためのシステム的な体制の整備や動議採決のためのシステム的な体制の整備が、会社の合理的な努力で対応可能な範囲を超えた困難が生じることが想定されることを踏まえて、事前に招集通知等で通知することにより、原則として、動議の提出についてはリアル株主総会の出席者からのものに限定することや、動議の採決についてはバーチャル出席者は棄権又は欠席と取り扱うことも可能と解されています39)。
  3. バーチャルオンリー株主総会
    ⅱと異なり、バーチャルオンリー株主総会については、株主からの質問や動議を受け付けないという取扱いを許容する規定がないことから、会社法の原則通り、動議や質問権を受け付けないとすることは許されないとされています40)。
    もっとも、動議や質問の文字数や回数を制限したりすること等は許される余地があると考えられます41)。

(4)事前行使の議決権の効力

ハイブリッド出席型及びバーチャルオンリー株主総会では、株主が、事前に書面又は電磁的方法で議決権を行使しながら、バーチャル株主総会に出席するという可能性が考えられます42)。その場合、事前に行われた議決権の効力をどのように取り扱うべきかが問題となります。

この点、現行法の解釈からは、ログインした段階で事前の議決権行使の効力を失わせるとすることも、バーチャル株主総会で議決権の行使をした時点で失わせるとすることもどちらも可能と解されています43)。

上記のいずれの取扱いを採用するとしても、当該取扱を招集通知に記載する等してあらかじめ株主に通知しておくことが必要と解されています44)。

(5)決議取消・不成立事由の該当性

バーチャル株主総会では、インターネット等の通信手段を使用することから、通信障害(サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合)により株主が株主総会にアクセスできなくなる事態が生じることが考えられます。かかる通信障害が株主総会の決議取消事由(会社法第831条第1項)又は決議不成立事由(会社法第830条第1項)となるかが問題となります。

まず、株主側の問題に起因する不具合については、いずれのバーチャル株主総会でも、一般的に決議取消事由には該当しないと考えられます45)。

これに対し、会社側の問題に起因する不具合の場合、まず、ハイブリッド参加型株主総会に関しては、バーチャル参加は株主総会への出席と取り扱われず、コメント等が決議に影響を及ぼすとも考えにくいことから、通信障害が生じた場合でも、決議取消又は不成立となる現実的なリスクはないと考えられます46)。ハイブリッド出席型株主総会については、リアル株主総会への出席という選択肢があることから、会社が通信障害防止のために合理的な対策を取っており、通信障害のリスクについて事前に株主に告知していたような場合は決議取消事由には該当しないとの解釈も可能と考えられます47)。なお、個別の事情等に応じて検討する必要があるものの、具体的な対策としては、事前の議決権行使を促すことのほか、以下のようなものが考えられます48)。

  1. システムやバックアップ

    ・一般に利用可能なライブ配信サービスやウェブ会議ツールの利用、又は第三者が提供する株主総会専門ステムのサービスの利用

    ・インターネットの代替手段や電話会議等のバックアップ手段の確保

  2. 株主総会当日に向けた備え

    ・事前の通信テスト等の実施ガイド

    ・通信障害が発生した場合を想定した対処シナリオの準備

また、バーチャルオンリー株主総会については、リアル株主総会への出席という選択肢はないものの、通信障害の発生が常に決議取消事由や決議不存在事由に該当するとは限らず、通信障害が生じたタイミングや通信障害が議事に与える影響等に鑑みて判断されることになると考えられます(例えば、採決のタイミングで通信障害により大多数の株主の議決権行使が妨げられたような場合は決議不存在と評価される可能性があると考えられます。)49)。

(6) 肖像権・プライバシー権等の配慮

バーチャル株主総会では株主総会の映像等を配信することがあることから、株主の肖像権やプライバシー権に配慮することが必要となります。この点、株主に限定した配信の場合は肖像権等の問題は生じにくいと考えられますが、肖像権やプライバシー権等に係る紛争のリスクを抑えるため、株主が映りこまないようにする等撮影方法を工夫するほか、以下のような対応を取り、あらかじめこれらの点を招集通知等で通知しておくことが考えられます50)。

(7) 音声のみのバーチャル株主総会の可否

バーチャル株主総会というと動画配信等映像を含むものを想定しがちですが、いずれのタイプのバーチャル株主総会も、電話会議等を通じた、音声のみによる方法で行うことも許容されていると考えられています52)。但し、バーチャルオンリー株主総会及びハイブリッド出席型については、音声のみの場合も情報伝達の双方向性及び即時性が確保されていることが必要とされています。


メタバース都市再現型における法律(知的財産権)の整理

1.     はじめに

メタバース(仮想空間)ビジネスの拡大・浸透に伴い、メタバース上で表現されるデジタルアートやロゴなど、知的財産の保護が問題となるケースについてご相談を受けることが増えています。

例えば、2022年以降、アメリカでは、メタバースビジネスの一環としてエルメスのバーキンというバッグに毛皮を被せたデザインのNFTシリーズ(参考図1)を販売した者に対し、エルメスがその知的財産を侵害されたとして提訴した事例などが報道されています。日本においても、2022年3月30日に公表された、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討PT「NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略) 」にてメタバースについて言及されており、コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策として、意匠法の改正を含めたメタバースにおけるデザイン保護の必要性などが提言されています。また、2022年4月22日には、KDDI、東急などで運営される「バーチャルシティコンソーシアム」が、「バーチャルシティガイドラインver1.0」を公開し、知的財産権を含むバーチャルオブジェクトの権利関係の注意点について言及しています。

知的財産権は著作権や商標権などを含む概念であり、それぞれ成立要件や保護期間などが異なります。しかし、メタバースにおける知的財産の侵害態様は様々なものが想定される一方で、「IPの盗用はよくない」という結論自体のイメージは持ちやすいためか、それぞれどの権利が問題となるのかという結論の過程に至る詳細な検討がされていないケースが少なくないように思われます。

本稿では、主に、現実の都市を再現したケースを想定して検討を行い、メタバースにおける知的財産の問題を入門的に整理することを試みます。

以下は、JCBAの2022年5月勉強会で当職らが行った「クリプト業界のためのメタバース入門」というセミナーの資料です。併せてご参照ください。
https://innovationlaw.jp/crypto-metaverse/

(参考図1) メタバーキンNFT

(Metabirkinsのウェブサイトhttps://metabirkins.com/より)

2. 都市再現型メタバースにおける知的財産権まとめ

[著作権]
● 一般的な建築物は、著作権で保護されない。
● 屋外に恒常的に設置されている美術の著作物は、原則自由に利用することができる。
● 広告などの著作物は、景観の一部を構成するにすぎないと考えられる場合には、写り込みとして著作権侵害にならない可能性がある。

[意匠権]

● 意匠権は登録がなければ発生しない。
● 意匠権は同一又は類似の意匠にしか効力が及ばず、メタバース上での再現はこれに該当しないと考えられる。
● 意匠登録することができる画像は限定的であり、都市再現型のメタバースで問題になることは想定しがたい。

[商標権]
● 商標権は登録がなければ発生しない。
● メタバース上の景観の一部として再現したに過ぎない場合には、商標権の侵害とならないと考えられる。

[商品表示(不正競争防止法)]
● メタバース上の景観の一部として再現したに過ぎない場合には、商品表示に該当しないと考えられる。

3.     都市再現型メタバースにおける知的財産権の検討

メタバースでは、例えば渋谷の街頭など現実の都市が取り上げられることがあります(参考図2)。このような場合に、他者に権利帰属する知的財産がデジタルやバーチャルの形で表現されることがあり得ます。近年の知的財産法の改正により、従来のイメージと異なる客体についても権利保護がなされているケースもある一方で、一定の態様であれば知的財産の侵害に該当しない場合もあり得るため、どのような事例が知的財産権侵害になるか検討をする必要があります。

以下では、各知的財産権について問題となり得る項目を想定事例をあげて検討します。

(参考図2) バーチャル渋谷

(バーチャル渋谷 体験ビデオhttps://www.youtube.com/watch?v=1huL3qPm9JI 0:01より。以下同ビデオにつきURLを省略。)

【参考:著作権、意匠権、商標権、商品表示の違い】

  著作権 意匠権 商標権 商品表示
対象 文芸、学術、美術、音楽、プログラム 物品、建築物、画像のデザイン 商品・サービスに付する標章 周知・著名な商品表示
具体例 小説、絵画 家具、部品 ロゴマーク 有名なロゴ
根拠法 著作権法 意匠法 商標法 不正競争防止法
登録 不要 必要 必要 不要
要件 (i)人の思想又は感情が表現
(ii)創作性
(iii)文芸・学術・美術・音楽の範囲
(i)量産性
(ii)新規性
(iii)創作非容易性
(iv)先願
など
(i)使用意思
(ii)識別力
など
(i)周知性又は著名性
(ii)類似性
(iii)混同のおそれ
など
期間 著作者の死後70年 出願日から最長25年 設定登録から10年
何度でも更新可
救済・罰則 差止め
損害賠償
刑事罰
差止め
損害賠償
刑事罰
差止め
損害賠償
信用回復措置
刑事罰
差止め
損害賠償
刑事罰

・(1)著作権

現実の都市を再現したメタバースでは、実際に存在する建築物や美術品が表現されることがあります。その建築物や美術品が著作物に該当する場合には、メタバース上でこれらを表現することが著作権の侵害にならないか問題となります。

想定事例1)JR渋谷駅の外観をメタバース上で再現した場合

(バーチャル渋谷 体験ビデオ2:09より)

著作権は著作物についてのみ生じ、(i)思想又は感情の表現、(ii)創作性、(iii)文芸・学術・美術・音楽の範囲に属することといった要件を満たす必要があります。一般的な建物のデザインは、居住や人の往来といった建物の機能・便益に供することを第一に採用され、原則的にこれらの要件を満たさず著作物には該当しません。

一般的な建築物として注文住宅の著作物性が問題となった裁判例として、下記が参考になります。

(大阪高決平成16年9月29日(判例秘書判例番号L05920554))
一般住宅が著作権法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。

JR渋谷駅は、上記裁判例で示されたような建物としての機能や実用性と独立した美的要素が認められるような建築物ではないため、著作権の保護は及ばないと考えられます。
なお、後述するJR上野駅と異なり意匠登録もされていないため意匠権の問題は生じません。JRのロゴ等も再現する場合の商標の問題については(2)をご参照ください。

想定事例2)忠犬ハチ公の銅像をメタバース上で再現した場合

(PhotoAChttps://www.photo-ac.com/より。上記は非メタバースの写真)

JR渋谷駅ハチ公口前に設置されている忠犬ハチ公の銅像は、創作者の思想が創作的に表現された美術の著作物に該当すると考えられます。 しかし、原作品が屋外に設置されている美術の著作物については、著作権法46条(下記参照)により、一定の例外のもと、自由に利用することができるとされており、忠犬ハチ公の銅像についてもメタバースで再現することを妨げられません。

第46条(公開の美術の著作物等の利用)
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し又はその複製物を販売する場合

想定事例3)建物外壁などのキャラクター広告を再現した場合

(バーチャル渋谷 体験ビデオ3:41より)

現実世界の建物の外壁や巨大看板などにおいて、著作物であるキャラクターが広告として掲げられている場合があり、これをメタバースで再現することも考えられます。この場合、原作品が恒常的に屋外に設置されているとはいえないため、著作権法46条の適用はありません。その著作物を表現したデータをアップロードした場合には、複製権・翻案権・同一性保持権の侵害になりえます(下記参照)。
この場合であっても、メタバースのごく一部を構成するにすぎないと整理することができる場合には、対象を伝達する際に写り込んだ著作物の利用について正当な範囲で著作権侵害に当たらないとする著作権法30条の2(下記参照)の適用があり得ます。

【参考:著作権の内容】

区分 支分権 著作権法 内容
著作権 複製権 21条 複製(有形的に再製すること)する権利(2条1項15号)
サーバーへのアップロードやハードディスクへのコピーといった有体物に固定することも含む
公衆送信権 23条 インターネットなどを通じて公衆に情報を送出する権利
展示権 25条 美術の著作物・未発行写真の著作物の原作品を展示する権利
譲渡権 26条の2 映画以外の著作物又はその複製物を譲渡する権利
貸与権 26条の3 映画以外の著作物又はその複製物を貸し出す権利
翻案権 27条 二次的著作物を作成する権利
  二次的著作物利用権 28条 二次的著作物について利用(上記の各権利に係る行為)する権利
著作者人格権 同一性保持権 20条 著作物又はその題号を勝手に改変されない権利
第30条の2(付随対象著作物の利用
  1. 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(「複製伝達行為」)を行うに当たって、その対象とする事物又は音(「複製伝達対象事物等」)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。「付随対象事物等」)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(「作成伝達物」)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。「付随対象著作物」)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
  2. 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

・(2)意匠権

意匠とは、物品・建築物の形状等又は画像で、視覚を通じて美感を起こさせるものをいい、登録することにより意匠権を取得することができます。登録を受けるためには、工業上利用することができること、新規性、創作非容易性などの要件を満たす必要があります。

想定事例4)JR上野駅の外観をメタバース上で再現した場合

(株式会社JR東日本建築設計ウェブサイトhttp://www.jred.co.jp/projects/p126.htmlより。上記は非メタバースの写真)

直近の意匠法の改正により、物品に加えて建築物・画像についても意匠登録が可能となっており、JR上野駅は駅舎として意匠登録をしています(意匠登録1671774)。
しかし、意匠権は、同一又は類似する意匠にしか効力が及ばない(意匠法23条)ため、メタバース上でJR上野駅を再現したとしても、それは現実の駅舎であるJR上野駅と同一又は類似の意匠とはいえず、その効力は及ばないと考えられます。

なお、意匠登録の対象となる画像についても、機器を操作するための画像や、操作した結果を表示する画像に限られており、これらに該当し得ないデジタルアセットについては、画像として意匠権の保護対象になり得ません。この点について、自民党のNFTホワイトペーパー(案)では、意匠権による保護対象の拡大を含めた法改正による手当ての可能性について提言されています。

・(3)商標権

商標権者は、登録時に指定した商品・役務について登録した商標を使用する権利を専有します。なお立体的な形状の商品や営業を提供する建物などの立体商標についても登録が認められています(ヤクルトの容器やケンタッキーの人形、東京スカイツリーなど)。

想定事例5)JR渋谷駅のJRのロゴをメタバース上で再現した場合

(バーチャル渋谷 体験ビデオ1:29より、画像右側にJRのロゴが再現されている)

商標権の効力は、指定商品・役務と同一又は類似のものについてのみ及ぶため、メタバース上のアセットの商標として登録されていない限り、その効力は及ばないと考えられます。
また、商標登録がされているロゴを使用しても、それがどの業者の商品・役務であると認識できる態様により使用(商標的使用)されていない限り、商標権の侵害には該当しません(商標法26条1項6号)。メタバース上で単なる景観の一部としてJR渋谷駅にロゴが再現されていた場合には、それはJRによる商品・役務であると混同させるものではなく、商標的使用がなされていないと考えられます。

・(4)商品表示(不正競争防止法)

広く認識されている商品表示(提供主体やブランドを示すサイン)については、商標登録がない場合であっても、不正競争防止法により保護される場合があります。
具体的には、周知な商品表示について、第三者が自己の商品表示として使用して商品の混同を生じさせること(混同惹起行為、2条1項1号)と、さらに広く認識されて著名といえる商品表示について、混同の恐れがない場合であっても使用することが禁止されています(著名表示冒用行為、同項2号)。
もっとも、メタバース上で周知又は著名な商品表示を再現した場合であっても、それは都市景観の一部を構成するにすぎずメタバースの提供主体を示すものではないため、商品表示として使用されたものではないと考えられます。

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける知的財産の問題について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

1.はじめに

「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が、令和2年6月5日に成立、同12日に公布されました(以下「令和2年改正法」といいます。)。この令和2年改正法が令和4年(2022年)4月1日より全面的に施行されます 17 。本ニュースレターでは、施行間近となった令和2年改正法の概要と、改正後の個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(以下「改正法」といいます。なお、条文番号については、参照の便宜を考慮し、令和3年改正法も施行された後のものとしています。)についてご説明いたします 23

平成27年改正法附則第12条では、「いわゆる3年ごと見直し」が必要とされたことを踏まえ、情報を提供する個人の情報の取扱いに対する関与への期待の高まり、個人の権利利益の保護と個人情報利活用のバランス、国際的な制度調和や連携、クロスボーダーでの個人情報取扱状況への対応、AI・ビッグデータ時代における適切な環境整備といった点を考慮し、改正がなされました。

特に、①漏えい等の事態が発生した場合等の個人情報保護委員会への報告及び本人への通知の義務化、②外国にある第三者への個人データの提供時に、当該国の個人情報保護制度等提供先の第三者における個人情報の取扱いに関する情報提供、③安全管理措置(外国において個人データを取り扱う場合の、当該外国の個人情報保護制度を踏まえた安全管理措置を含む。)の公表の義務化等、④開示請求の対象の拡大(6ヶ月以内に消去するデータ、個人データを提供・受領した際の記録)、利用停止・消去等請求の拡充、⑤不適正な方法による個人情報の利用禁止、⑥「個人関連情報」の第三者提供の制限等が挙げられます。以下、概説します。

2.本人の個人情報に対する権利強化

(1) 開示方法の拡充

現行の個人情報保護法(以下、便宜上「現行法」といいます。)では、保有個人データについて本人より開示請求がなされた場合、原則書面交付の方法により開示しなければならず、書面交付以外の場合には請求者の同意が必要とされています 28

これに対し、改正法では、本人が開示の請求に当たり、開示方法を指定して請求することができることとなりました29。個人情報取扱事業者は、電子メールによる送信や、ウェブサイトでのダウンロード等を含め原則個人から指定された方法による開示が義務付けられ、開示しない旨の決定をした場合に加え、指定方法による開示が困難である場合にも速やかに通知する必要があります 30

(2)   利用停止・消去等請求の拡充

現行法では、個人情報取扱事業者に対し、利用目的制限違反、適正な取得違反の場合に利用停止・消去の請求32 、第三者提供制限、外国にある第三者提供制限違反の場合に第三者提供の停止請求 47 ができることと定められています。

これに加え、改正法では、個人情報取扱事業者が個人情報保護法に違反していない場合でも、本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合には利用停止・消去等の請求権利が認められることとなりました。具体的には以下の内容が追加されています。

① 「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法による」個人情報の利用禁止違反の場合 53

② 本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合(㋐保有データを利用する必要がなくなった場合、㋑改正法第26条第1項本文に規定する個人情報保護委員会への報告が必要となる漏えい等の事態が生じた場合を含みます。) 54

但し、個人情報取扱事業者が、当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止に多額の費用を要する場合その他これを行うことが困難な場合で、かつ、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りではありません 55

個人情報取扱事業者においては、今後増加が想定される本人からの請求に対応するため、保有個人データについて、どのような場合に利用する必要がなくなったといえるのか、プライバシーポリシーの利用目的記載事項等を改めて確認・検討し、また、請求時の対応方法等について準備する必要があるでしょう。

(3) 開示請求の対象の拡大

① 保有個人データの範囲の変更と公表事項の追加

保有個人データ 56 に短期保存データ(個人データのうち個人情報取扱事業者に開示、訂正等の権限があるもので、かつ取得から6ヶ月以内に消去される個人データをいいます。)が追加され、開示請求等の対象となりました。

また、保有個人データに関する公表事項(本人の求めに応じて遅滞なく回答することとすることも許容されるが、本人の知り得る状態に置かなければなりません。)に、個人情報取扱事業者の住所や法人代表者、第三者提供記録の開示請求に応じる手続や改正により追加された利用停止等に応じる手続が追加されました57

個人情報取扱事業者としては、利用する必要がなくなった個人データについては遅滞なく消去するよう努め 58 、また、上述の公表事項の追加事項についてはプライバシーポリシーに追記するかその対応を検討する必要があります。

② 開示対象の追加と開示方法の指定

現行法上、個人データを第三者に提供するとき及び個人データを第三者から受領したときには、所定の事項を記録することが義務付けられていますが 59 、改正法では、これらの記録を「第三者提供記録」とし、本人による開示請求の対象としました 60 。本人による利用停止・消去等請求の実効性を確保するための手段となります。 

個人事業取扱事業者は、第三者提供記録を既存の契約書等で代替している場合には、本人による開示請求の際に不要な情報まで開示対象とならないようガイドライン等を踏まえて、対応方針や手続を検討、準備しておくことが望ましいでしょう。

3.個人データの越境移転に対する規制、域外適用

(1) 個人データの越境移転に対する規制

現行法では、個人情報取扱事業者が、個人データを外国(EU/EEAと英国を除きます。)にある第三者(個人データの取扱いについて個人情報取扱事業者が講ずべきこととされている措置に相当する措置(以下「相当措置」といいます。)を継続的に講ずるために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備 61 している者を除きます。)に提供する際には、原則として、外国にある第三者への個人データの提供を認める旨の本人の事前同意を得ることが義務付けられています。
新法では、現行法の規制に加えて、以下の義務を個人情報取扱事業者に課しています。

① 本人の同意に基づき提供する場合62

個人情報取扱事業者は、事前に、本人に対して、当該外国における個人情報の保護に関する制度、外国にある第三者が講ずる個人情報の保護のための措置、その他当該本人に参考となるべき情報を提供する義務を負います。

具体的な提供対象の情報は、以下の通りです。

㋐  外国の名称

㋑  適切かつ合理的な方法により得られた外国における個人情報の保護に関する制度に関する情報(本人の同意を得ようとする時点において㋐が特定できない場合、㋐㋑に代えて、特定できない旨及びその理由、当該事項に代わる本人に参考となるべき情報)

㋒ 第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報(本人の同意を得ようとする時点において㋒の情報提供ができない場合その旨及びその理由)とされています。

なお、一定の国又は地域については、個人情報保護委員会が各国制度について情報を公表しています 63

② 相当措置を継続的に講ずるための体制整備をしているため本人の同意なく提供する場合64

個人情報取扱事業者は、個人データを外国にある第三者(相当措置を継続的に講ずるための体制整備をしている者に限ります。)に提供した場合に、以下の義務を負います。

・当該第三者による相当措置の継続的な実施を確保するために必要な措置を講じること(㋐当該第三者による相当措置の実施状況や当該相当措置の実施に影響を及ぼすおそれのある当該外国の制度の有無・内容を、適切かつ合理的な方法により、定期的に確認すること、及び㋑当該第三者による相当措置の実施に支障が生じたときは、必要かつ適切な措置を講ずるとともに、当該相当措置の継続的な実施の確保が困難となったときは、個人データの当該第三者への提供を停止すること)

・本人の求めに応じて当該必要な措置に関する情報を本人に提供すること(但し、情報提供することにより当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合は、その全部又は一部を提供しないことができます。

(2) 域外適用

現行法では、日本国内にある者に物品又は役務提供する際に個人情報等を取り扱う外国事業者に適用される規制は限定されており、報告及び立入検査や命令等の規定は適用対象外となります 65 。そのため、漏洩事案が発生しても、個人情報保護委員会が対処することが困難となっていました。また、当該外国事業者への適用は、個人情報等を本人から直接取得した場合に限られると解釈されており、取得形態は事業者間の契約によって定められていることが多いため個人情報保護委員会が判断することが難しく任意回答がない場合に十分な権利保護が図れないおそれがありました。

そこで、改正法では、外国事業者に国内の事業者同様に全ての条文が適用されることとなり、個人情報保護委員会は外国事業者に対して報告、立入検査、命令等が可能となりました。また、個人情報等を本人から直接取得したわけではなく、第三者提供により間接取得した場合であっても個人情報保護法の規定が適用されることになり、外国事業者に対し、より日本の個人情報保護法の遵守が求められることになりました 66

4.仮名加工情報の創設

(1) 個人情報、匿名加工情報との相違

個人情報保護法では、「個人情報」は生存する個人に関する情報であって、①当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)、又は②個人識別符号が含まれるものをいい、「個人データ」は個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものをいいます。

他方で、昨今、個人情報の利活用の需要が高まり、個人情報の利活用と個人の権利利益の保護の調和を図る観点から、平成27年改正により、「匿名加工情報」の制度が創設されました。「匿名加工情報」とは特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいいます 67 。匿名加工情報は、個人情報に該当しないため、本人の同意を得ずに、目的外利用や、第三者提供を行うことができますが、あらかじめ個人に関する情報の項目及びその提供の方法について公表する等、一定の事項を遵守する必要があります 68

しかしながら、AI技術の発展等により、他の情報との照合による特定個人の識別可能性が飛躍的に向上し、元の個人情報に復元できないような加工をするためには、大幅な加工が必要であり、データとしての有用性を失ってしまうといったケースが増大したことが指摘されていました。そこで、匿名加工情報よりも、抽象化の程度を下げ、データとしての有用性を残しつつ、個人情報を利活用する方法として、令和2年改正により「仮名加工情報」の制度が創設されました。

(2) 仮名加工情報とは

仮名加工情報とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報をいいます 69
仮名加工情報には、個人情報に該当する仮名加工情報と個人情報に該当しない仮名加工情報が存在し、個人情報に該当するか否かにより、規制が異なっています。個人情報に該当する仮名加工情報か否かは、仮名加工情報取扱事業者が保有する情報、組織体制、知識、技術等の総合的な事情を考慮して、一般人の感覚により、他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別できるかによって判断されます。

一般的に、仮名加工情報取扱事業者は、個人情報を加工する際に、加工前の情報と加工後の情報の対照表を作成することから、仮名加工情報は、当該対照表と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることが想定され、この場合、仮名加工情報は個人情報にも該当します。

他方で、例えば、法令に基づき仮名加工情報の提供を受けた仮名加工情報取扱事業者において、当該仮名加工情報の作成の元となった個人情報や当該仮名加工情報に係る削除情報等を保有していない等により、当該仮名加工情報が、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる状態にない場合には、当該仮名加工情報は、個人情報に該当しないことになります。

個人情報に該当する仮名加工情報と、個人情報に該当しない仮名加工情報について、取扱いに関する規制は以下のとおりです。

  個人情報

個人情報に該当する
仮名加工情報

個人情報に該当しない
仮名加工情報

利用目的の変更 変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲で変更可[1 制限なし[2 制限なし[3
目的外利用 原則不可[4

原則不可[5

制限なし

第三者提供

原則不可[6

原則不可[7]  原則不可[8] 
利用目的を本人に認識させる方法 通知又は公表[9]  公表のみ[10 規定なし

データの取扱い

利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するように努めなければならない[11 個人データ及び削除情報等を利用する必要がなくなったときは、当該個人データ及び削除情報等を遅滞なく消去するように努めなければならない[12 規定なし

保有個人データの開示請求等

保有個人データの開示請求等が認められる[13]  開示請求等は認められない[14  

その他

  本人を識別するために、仮名加工情報を他の情報と照合してはならず 、また、本人への連絡のために仮名加工情報に含まれる連絡先その他の情報を利用することも禁止[15  

1]改正法第17条第2項
2]改正法第41条第9項、改正法第17条第2項
3]個人情報に該当せず、仮名加工情報について特段の規定はありません。
4]改正法第18条第1項。例外は、以下のとおり(改正法第18条第3項各号)。なお、同条同項第5号及び第6号は、令和3年改正法による。
  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  4. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、
    本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
  5. 個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人情報を学術研究目的で取り扱う必要があるとき。
  6. 学術研究機関等に個人データを提供する場合であって、当該学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき。
5]改正法第41条第3項
6]改正法第27条第1項。例外は、以下のとおり(改正法第27条第1項各号)。なお、同条同項第5号乃至第7号は、令和3年改正法による。
  1. 法令に基づく場合
  2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  4. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、
    本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
  5. 個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、個人データの提供が学術研究の成果の公表又は教授のためにやむを得ない場合。
  6. 個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、個人データを学術研究目的で提供する必要があるとき。
  7. 学術研究機関等に個人データを提供する場合であって、当該学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき。
7]改正法第41条第6項
8]改正法第42条第1項
9]改正法第21条
10]改正法第41条第4項
11]改正法第22条
12]改正法第41条第5項
13]改正法第32条乃至第39条
14]改正法第41条第9項
15]改正法第41条第7項、第8項

5.個人関連情報に対する規制

(1) 個人関連情報とは

令和2年改正法では、生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものを「個人関連情報」として、新たに規制の対象としました。個人関連情報には、例えば、cookie情報など端末識別子を通じて収集されたサイト閲覧履歴、商品購買履歴、位置情報等が該当します70

(2) 個人関連情報取扱事業者の義務-本人の同意確認

個人関連情報を電子計算機等により検索することができるように体系的に構成したもの(「個人関連情報データベース等」)を事業の用に供している者(「個人関連情報取扱事業者」)は、提供元である当該個人関連情報取扱事業者においては個人データに該当しないものの、提供先において個人データとなることが想定される情報を提供するには、あらかじめ本人の同意を得ていること等を確認しなければなりません。確認は、個人関連情報の提供を受ける第三者から申告を受ける方法その他適切な方法によりなされます 71 。提供先において個人データとなるというのは、例えば、cookie情報は通常それ自体で個人を特定することはできませんが、提供先において、ID等他の情報と紐づけることにより個人が特定可能であるような場合が該当します。

さらに、外国 72 にある第三者への提供にあっては、本人の同意を得ようとする場合において、あらかじめ、国名、当該外国における個人情報の保護に関する制度に関する情報、当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報が本人に提供されていることを確認しなければなりません 73

(3) 個人関連情報取扱事業者の義務-確認、記録義務等

個人関連情報取扱事業者は、上述の確認を行ったときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該個人関連情報を提供した年月日、当該個人関連情報の項目、第三者の名称・住所・代表者、当該確認に係る事項に関する記録を作成しなければなりません 74

なお、個人関連情報取扱事業者は、個人関連情報を外国にある第三者に提供した場合には、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該第三者による相当措置の実施状況の確認等継続的実施を確保するために必要な措置を講じることとされています75

6. 漏えい等の報告・通知義務

個人データの漏えい、滅失、毀損等のうち、以下の個人の権利利益を害するおそれが大きいものが発生し、又は発生したおそれがある場合、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知が義務化されました76

①  要配慮個人情報が含まれる個人データ(高度な暗号化その他の個人の権利利益を保護するために必要な措置を講じたものを除く。)の漏えい等

②  不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等

③  不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等

④  個人データに係る本人の数が千人を超える漏えい等

7.安全管理措置の公表の義務化

改正法では、保有個人データの安全管理措置の公表等本人が知りうる状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含みます。)が義務化されました 77。安全管理措置が公表されることにより、個人が、各個人情報取扱事業者の安全管理措置の体制を把握することができます。

8. オプトアウトによる第三者提供に対する規制

現行法では、個人情報取扱事業者は、第三者に提供される要配慮個人情報を除く個人データについて、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、利用目的等の一定の事項について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くとともに、個人情報保護委員会に届け出たときは、現行法第23条第1項の規定にかかわらず、当該個人データを第三者に提供することができます(いわゆる、オプトアウト)。改正法では、オプトアウトにより第三者提供できるデータに制限がかかり、①不正取得された個人データ、②オプトアウトにより第三者から提供された個人データが対象外になりました 78

9. 罰則強化 

個人情報保護法の違反行為に対する刑事罰について、令和2年12月12日施行日から、以下の通り法定刑が引き上げられました。なお、施行日前の行為に関しては、改正前の罰則が適用されます。

  概要 対象 改正前 改正後
個人情報保護委員会による命令(法第145条第2項第3項)に違反した場合(改正法第173条) 行為者 6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
法人等(改正法179条1項) 30万円以下の罰金 1億円以下の罰金(法人重科)
2 個人情報データベース等の不正提供罪の違反行為(改正法第84条) 行為者 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
法人等(改正法87条1項) 50万円以下の罰金 1億円以下の罰金(法人重科)
3 ・個人所法保護委員会による報告要求又は立入検査(法第143条第1項)の際、報告や検査を拒否し又は虚偽の応答等をした場合(改正法第177条第1号)

・認定個人情報保護団体が、個人情報保護委員会に対して認定業務に関する報告(法第150条)をせず、又は虚偽の報告をした場合(改正法第177条第2号)
行為者   30万円以下の罰金 50万円以下の罰金
法人等(改正法179条1項) 30万円以下の罰金 50万円以下の罰金

個人情報保護法違反事案の増加に伴い将来の違反事案抑止のため、行為者処罰規定につき、個人情報保護委員会の命令違反に対する刑事罰である改正法第173条の法的刑の引上げが行われ、また、個人情報保護委員会の調査権限の実効性を高めるため、改正法第174条の法定刑も引上げが行われました。

また、法人両罰規定につき、資力のある法人に対する十分な抑止効果のため、これらの違反行為について、法人に対し高額の罰金を科す法人重科が導入され、罰金の上限額1億円まで引き上げられました 79


免責事項

本文書は、一般的な情報提供のみを目的としています。本書は法律上のアドバイスを構成するものではありませんので、特定の法律上の問題や問題に関して依拠することはできません。具体的案件に際して法律・税務アドバイスが必要な場合には、各人の弁護士や税理士にご相談下さい。

以上


Ⅰ 初めに 本書の位置付け

 当事務所では、(1)暗号資産ファンドに関して2018年6月1日に「仮想通貨ファンドについて」というBlog、(2)暗号通貨ファンドを含むファンド全般について2020年6月30日に「日本のファンド(集団投資スキーム)規制」というBlogをそれぞれ公開してきました。
 2021年には暗号資産ファンド設立のご相談を多数頂いており、①2020年の暗号資産法改正、②NFT、DeFi、ステーブルコイン等の登場、③暗号資産税制の変更等も踏まえて、上記(1)のBlog内容のアップデートを図ることが有用と思われるため、本書を記載する次第です。
 なお、一般に「暗号資産ファンド」という場合、その内容としては①ファンドの調達手段が BitcoinやEtherなどの暗号資産である場合、②ファンドの投資対象が、BTCやETH、SAFT、ICOトークン、NFT、ステーブルコイン、セキュリティートークン、DeFi、暗号資産関連企業など、暗号資産又は暗号資産関連ビジネスである場合、③投資家の得る権利がトークン化されている場合、など様々な場合があり、それぞれの仕組みに応じて異なった法規制が適用されます。そこで、以下、それぞれの形態ごとに適用ある規制の概要を検討します。
 本書では暗号資産ファンドを中心たる検討対象としているため、いわゆる通常のファンド(金銭出資×有価証券等の運用)は下記Ⅷ1.を除き検討の対象外とします。通常のファンドについての規制は、上記(2)のBlogをご参照ください。

Ⅱ ファンドの調達に関する規制

1. ファンド調達手段が金銭(Fiat Currency)の場合の規制

 金銭(Fiat Currency)で出資を募り、それを充てて事業を行い、その事業から生ずる収益を分配する行為は、金融商品取引法(以下「金商法」)上、集団投資スキームに該当します(2条2項5号)。
 集団投資スキームの出資を自ら募る行為(自己募集)(2条8項7号ヘ)は、原則として、第二種金融商品取引業(以下「第二種金商業」)(28条2項1号)に該当し、第二種金商業の登録なくして自己募集はできません(29条)。これはファンドの調達手段が金銭であり投資対象を暗号資産とする暗号資産ファンドの場合も同様です。
 ただし、かかる金商法のファンド規制には幾つかの例外が設けられており、例えば①他の第二種金商業者に対して募集の取扱いを全面的に委託して自らは取得勧誘を全く行わない場合58や、②適格機関投資家等特例業務(63条)として実施する場合、③海外投資家からの出資が50%超で、国内投資家が適格機関投資家など一定の投資家のみである場合(海外投資家等特例業務、63条の8)には第二種金商業の登録は不要となります61
 上記①の発行者が取得勧誘を全く行わないかどうかは、個別事案ごとに実態に即して実質的に判断されるものと考えられています69。取得勧誘とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘及びこれに類するものをいいます(2条3項)。勧誘とは、一般に、特定の有価証券について投資家の関心を集め、その取得を促すこととなる行為であると解されており、文書による場合のほか、口頭又は広告の方法による場合も勧誘に該当し得ます70
 上記②の適格機関投資家等特例業務とは、ファンドの出資者の全てが適格機関投資家である場合、又は出資者に1人以上の適格機関投資家と49人以下の投資判断能力を有すると見込まれる一定の者が含まれる場合に、金融庁に対する簡単な届出のみでファンド業務を行うことができる、という制度となります。ただし、同制度は平成27年度金商法改正で規制が強化されており、例えば同規制強化前は49人以下の投資家の範囲が一般の個人投資家でも良かったのに対し、同規制強化後は、投資性金融資産(有価証券等を指し、暗号資産は入りません)の合計額が1億円以上であり、かつ、証券口座開設後1年を経過している者など一定の富裕層に限って投資が認められていることに留意が必要となります(平成28年3月1日付金融庁・証券取引等監視委員会「適格機関投資家等特例業者に対する対応を強化!」 参照)。

2. ファンド調達手段が暗号資産の場合の規制

 これに対して、ファンドの調達手段がBitcoinや Etherなどの暗号資産である場合、2020年の5月までは、暗号資産で出資を募ることは、金商法の対象外でした。
 しかし、同月施行の改正金商法により、調達との関係では、暗号資産は金銭とみなされることとなり(2条の2)、暗号資産でファンド調達を行う場合についても、金銭で調達を行う場合と同様の規制に服することになりました。

(販売時の規制まとめ)

  原則
必要なライセンス
例外
第三者に完全に
委託した場合
63条届出の利用 海外投資家等
特例業務の利用
出資の募集・私募 第二種金商業登録 登録不要
当該第三者は募集・私募の取扱いとして第二種金商業登録が必要
出資の募集・私募
の取扱い
(他者設定ファンド
の販売)
第二種金商業登録 第三者への完全再委託は考え難い 不可
第二種金商業登録
不可
第二種金商業登録

Ⅲ ファンドの投資運用に関する規制

1. 投資対象が主として有価証券やデリバティブの場合の規制

 金商法上、投資対象が「主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利」であるファンドについては、その自己運用行為(2条8項15号)につき「投資運用業」の登録が必要となります(28条4項3号)。この「主として」とは、基本的に運用財産の50%超を意味します80
 なお、上記の有価証券には、株式を含むほか、通常のセキュリティートークンを含みます。上記規制を避けたい場合、投資対象について有価証券(株式、社債、STO等)やデリバティブへの投資は50%以下とする旨の投資制限を付すことになります。
 他方、クリプト企業の株式やセキュリティートークンにも投資を行う等で、運用財産の50%超を有価証券に投資する可能性のある暗号資産ファンドも考えられます。この場合、原則として投資運用業が必要となりますが、金商法の運用業規制には上記Ⅱ1.同様、幾つかの例外が設けられており、例えば①他の投資運用業者に対して運用を全面的に委託するなどの要件を満たした場合81や、②適格機関投資家等特例業務(63条)として実施する場合、③外国籍ファンドで国内投資家が10名未満の適格機関投資家のみ、かつ、国内投資家からの出資額がファンドの運用財産の全体の3分の1以下の場合(2条8項柱書、金商法施行令1の8の6条1項4号、定義府令16条1項13号)には投資運用業の登録は不要となります。

自己運用行為の定義(金商法2条8項15号)
金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る 権利に対する投資として、次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うこと(第12号及び前号に掲げる行為に該当するものを除く。)。
イ 第1項第14号に掲げる有価証券又は同項第17号に掲げる有価証券(同項第14号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)に表示される権利
ロ 第2項第1号又は第2号に掲げる権利
第2項第5号又は第6号に掲げる権利

2. 投資対象が主として暗号資産の場合の規制

 投資対象が主として暗号資産である場合、「有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」を行っているものではないため、自己運用行為(金商法2条8項15号)には該当せず、運用に関して金商法の適用はありません。
 また、暗号資産の自己運用に相当する行為は、暗号資産の売買又は交換を行うものですが、投資目的で行う取引であるため一般的には「業」には当たらず、暗号資産交換業(資金決済法2条7項)には該当せず、資金決済法の適用もないと考えられます。
 なお、第三者がファンドから暗号資産への投資運用行為の委託を受けて行う、いわゆるアセットマネジメント業務については、「業」として行う「暗号資産の売買」、「交換」又はその「代理」として暗号資産交換業に該当するか否かは問題となり得ます。しかしながら、金商法上は有価証券に対する投資一任運用行為は「投資運用業」に該当し、「有価証券の売買」又はその「代理」として第一種金融商品取引業に該当するとは解されていないこととパラレルに考えると、暗号資産の場合も同様に消極的に解釈されるべきものと考えます82
 なお、NFT、SAFT、DeFi、ステーブルコイン等に投資することも考えられますが、暗号資産を投資対象とする場合と同様、「有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に関する投資」を行っているものではなく、運用に関して金商法の適用はありません。また、通常は資金決済法の適用もないと考えられます。

(運用時の規制まとめ)

  原則
必要なライセンス
例外
第三者に完全に
委託した場合
63条届出の利用 一定の要件を満たした外国籍ファンド
50%超を有価証券に
投資するファンドの
運用(自己運用)
投資運用業登録 登録不要
当該第三者は投資運用業の登録が必要
登録不要
50%超を有価証券に
投資するファンドから委託を受けて運用
投資運用業登録 投資運用業登録 不可
投資運用業登録
投資運用業登録
それ以外(暗号資産含む)のファンドの運用 登録不要 登録不要 登録不要 登録不要

Ⅳ 投資家の得る権利内容に関する規制

1. 金銭や暗号資産の配当についての規制の有無

 ファンドは、一般的には、匿名組合契約や投資事業有限責任組合契約、海外のパートナーシップ契約(以下併せて「組合契約」)を利用して組成され、投資家は、当該組合契約上の権利を有することになります。暗号資産ファンドでは、①暗号資産でファンドの出資を募り、その後、金銭での配当や元本償還を行う場合、逆に②金銭でファンドの出資を募り、その後、暗号資産で配当や元本償還を行う場合、③暗号資産でファンドの出資を募り、その後、暗号資産で配当や元本償還を行う場合が想定されます。
 なお、これらの行為が暗号資産の売買や交換等として暗号資産交換業の登録が必要とならないかも一応は問題となり得ますが、例えば金銭でファンドの出資を募り即座に暗号資産で元本償還をするような「脱法的」な場合を除き、文言上、暗号資産の売買でも交換でもなく、資金決済法の適用はない、と解釈して良いのではないかと思われます。

2. トークンが発行・付与される場合の規制

 「暗号資産ファンド」が希望される場合、上記のような組合契約上の権利をトークン化し、ファンドがトークンを投資家に対して発行・付与することを希望されることがあります。
 2020年5月1日施行の改正金商法により、電子記録移転権利という法概念が創設され、トークン化されたファンドの権利は、通常、この電子記録移転権利に該当すると考えられます。

電子記録移転権利とは、以下の①~③を満たし、④を除く権利(金商法第2条第3項)
① 金商法第2条第2項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権等)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

 電子記録移転権利につき、改正金商法は、かかる権利が事実上多数の者に流通される可能性があることを理由に第一項有価証券として定めました(2条3項)。
 電子記録移転権利が第一項有価証券に該当することにより、当該権利の募集の取扱い又は私募取扱いを業としてする行為には、第一種金融商品取引業の登録が必要となります(28条1項1号、2条8項9号)。なお、電子記録移転権利に該当する集団投資スキーム持分について、自己募集・自己私募が第二種金融商品取引業に該当することや、自己私募又は運用につき適格機関投資家等特例業務(63条1項)の適用対象となる83点について、改正による変更はありません。

 なお、STOについては、「新STO規制と考えられるスキーム」という記事等を掲載しているので、当事務所ホームページをご参照ください。

(投資家の権利をトークン化した場合のまとめ)
※太字はトークン化しない場合と差がある部分。

販売時
  原則
必要なライセンス
例外
第三者に完全に
委託した場合
63条届出の利用 海外投資家等
特例業務の利用
出資の募集・私募

第二種金商業登録

登録不要
当該第三者は募集・私募の取扱いとして第二種金商業登録が必要
出資の募集・私募
の取扱い
(他者設定ファンド
の販売)
第一種金商業登録 第三者への完全再委託は考え難い 不可
第一種金商業登録
不可
第一種金商業登録
運用時
  原則
必要なライセンス
例外
第三者に完全に
委託した場合
63条届出の利用 一定の要件を満たした外国籍ファンド
50%超を有価証券に
投資するファンド
の運用(自己運用)
投資運用業登録 登録不要
当該第三者は投資運用業の登録が必要
登録不要
50%超を有価証券に
投資するファンドから委託を受けて運用
投資運用業登録 投資運用業登録 不可
投資運用業登録
投資運用業登録
それ以外(暗号資産含む)のファンドの運用 登録不要 登録不要 登録不要 登録不要

Ⅴ ファンドの発行開示規制

 暗号資産ファンドでは、投資家の権利をトークン化した場合に、電子記録移転権利が第一項有価証券に該当することにより、これを募集(公募)する場合には原則として開示規制の適用を受けることとなります。すなわち、発行者は有価証券届出書の提出義務(金商法4条1項)や、目論見書の作成・交付義務(13条1項、15条1項)を負い、また、発行後の有価証券報告書(24条)等による継続開示も義務付けられます。もっとも、(ⅰ)適格機関投資家のみを相手方とする場合、(ⅱ)特定投資家のみを相手方とする場合、又は(ⅲ)50名未満の少人数の者を相手方とする場合といった私募に該当するにとどまる場合には、公衆縦覧型の開示規制は課されません。
 トークン化を行わない場合には、主として有価証券に対する投資を行う有価証券投資事業権利等(3条3号イ)に該当する第二項有価証券の募集について、開示規制が課されます。第二項有価証券については、取得勧誘に応じて所有した者の数が500名未満である場合、募集には該当せず(2条3項3号、金商法施行令1条の7の2)、開示規制の適用はありません。

これをまとめると以下の表のとおりとなります。

有価証券の区分 募集・私募の区分 取得勧誘の相手方 開示規制
第一項有価証券 私募 適格機関投資家私募 適格機関投資家に限定 告知書の交付
少人数私募 49名以下に勧誘を限定
特定投資家私募 特定投資家に限定 告知書の交付は不要
募集 多数 有価証券届出書84、目論見書、継続開示
第二項有価証券 私募 499名以下に取得を限定 開示規制なし
募集 多数 原則、開示規制なし。但し、有価証券投資事業有価証券については適用あり

※技術的手段により移転先を制限する必要

Ⅵ ファンド組成スキームについて

1. 投資対象を暗号資産とする場合のファンドのスキーム

 ファンド契約は一般的には、上述のとおり種々の組合契約を利用して組成され、日本ではPEファンドやベンチャーキャピタルファンド等において、投資事業有限責任組合契約を利用して組成されることが多くみられます。
 ただし、投資事業有限責任組合は行うことができる事業内容が法令上定められており(投資事業有限責任組合契約法3条1項)、暗号資産やステーブルコインの取得及び保有はこれに含まれていません。したがって、投資対象を暗号資産とする場合には、投資事業有限責任組合を用いることはできず、匿名組合契約を利用することが考えられます(→合同会社と匿名組合を利用する一般的にGK-TKスキームと呼ばれる方式)。

2. トークン化を行う場合のファンドのスキーム

 組合契約上の権利をトークン化し、ファンドがトークンを投資家に対して発行・付与する場合(上記Ⅳ2.参照)、単に既存の契約上の権利をトークン化するのみで機能するか検討の必要があるように思われます。
 例えば、日本法上の組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約の権利をトークン化した場合、組合契約等の対抗要件は確定日付ある通知や承諾、動産債権譲渡特例法の登記等によるところ、トークンの譲渡のみで権利が移転するという仕組みが現実的に機能するか、他方、例えば特に準拠法を指定せずThe DAOのようなファンドとして組成することも考えられますが、そのような仕組みの本邦での税務・会計上の取り扱いはどうなるか、など様々な問題点を検討する必要があるように思われます。

Ⅶ 補論

1. 暗号資産関連企業・ブロックチェーン関連企業への投資

 金銭等による資金調達を行い、主として暗号資産関連企業・ブロックチェーン関連企業の「株式」に投資するファンドを「暗号資産関連ファンド」と呼ぶこともありますが、このようなファンドは、主として「有価証券」に投資するファンドとして、本文Ⅱ1.及びⅢ1.の考え方により、その自己募集行為につき原則として第二種金商業が、自己運用行為につき原則として投資運用業の登録が必要となります。

2. 社内ファンド

 企業等が自らの資金を暗号資産関連企業・ブロックチェーン関連企業の株式に投資する「社内ファンド」を立ち上げる場合も「暗号資産関連ファンドを立ち上げ」等と言われる場合もあるようですが、これらは金商法2条8項15号に定める「次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用」には当たらないため、金商法上のファンド規制の適用を受けることはありません。

3. 暗号資産ファンドの税務

 執筆者らは税務を専門としてはおりませんが、暗号資産ファンドの組成に際しては、税務上の取扱いも大きく問題となるところ、ご参考までに、暗号資産ファンドの税務について記載します85
 本邦では、法人が流動性のある暗号資産を保有している場合、期末にて時価評価で課税(含み益課税)がなされます(令和3年12月22日付国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」 33頁)。
 ファンドをTK-GKスキームにて組成する場合、匿名組合の投資家は資産を所有しているとは認められずGKが所有者と考えられるため、GKで、含み益課税がなされることが原則です。但し、かかる含み益に関して匿名組合契約に基づき、投資家に計数上の分配をした場合には、当該部分についてはGKでは課税されず(事実上のパススルー)86、他方、当該利益相当分については、投資家(個人投資家及び法人投資家両方)の所得として取り扱うことになると思われます。
 海外のパートナーシップでの組成を行った場合、日本の税法上、組合について投資家自体が資産を保有していることと同様に(パススルー)87、法人投資家は自分自身が暗号資産を保有していることと同様に含み益課税がなされます。他方、個人投資家の場合には、含み益については非課税となります。
 更に、海外の含み益課税のない国にて法人を設定し、当該法人に対して本邦投資家が匿名組合出資をするスキームとし(TK-海外法人スキーム)、未実現の含み益は投資家には計数上も配分しない、とすることにより、期末時価評価課税の問題を避けることも考えられます。但し、このスキームを取る場合、当該海外法人の株主が内国法人又は国内居住者である場合、いわゆるタックスヘイブン対策税制により、当該海外法人がペーパーカンパニー等と認定されたり経済活動基準を満たさないとされて、当該株主に期末時価評価課税相当分の利益が課税されないかについても検討する必要があります88
 このような税務上の問題があるため、ファンド組成に際しては、①主たる投資家が内国法人、日本居住者、海外法人、海外居住者のいずれであるか、②期末時価評価課税の問題が生じるトークンに投資を行うか(トークンが取引所やDEXに上場をした場合には期末までに売却をするストラテジーをとれるか)、③海外法人を設立した上で株主やGPがシンガポール等に移住することも考えられるか、等の諸事情を踏まえた上で、弁護士及び税務専門家と連携しながらスキームを組成する必要があります。

ファンドスキーム SPVへの含み益課税 法人LPへの含み益課税 個人LPへの含み益課税 SPVの株主への課税
TK-GK GKに原則含み益課税(投資家に配分すれば課税なし) 配分されればあり 配分されればあり 原則なし
海外パートナーシップ 国によるがなし あり なし 国によるがなし
TK-海外法人 国によるがなし 原則なし 原則なし タックスヘイブン対策税制の適用可能性

留保事項
 本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。具体的案件に際して法律・税務アドバイスが必要な場合には、各人の弁護士や税理士にご相談下さい。
 本稿は、暗号資産ファンドへの投資を推奨するものではありません。

以 上

本稿では、Non Fungible Token(NFT)のスカラーシップ(奨学金)及びYield Guild Games(YGG)に関する法規制を検討します。
なお、NFTスカラーシップ及びYGGは主として海外法準拠で海外を中心に運営されていると思われ、日本居住者が関与しない限り日本法は無関係です。本稿では、仮に類似の仕組みを日本で導入する場合、どのような法律が適用されるか、という観点から、NFTスカラーシップ及びYGGを分析するものです。

参考:当事務所では別途、NFTや暗号資産ファンド等に関連する以下の記事を掲載しておりますので、ご関心ある方はあわせてご参照下さい。

(1) 「ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討」(2021年9月2日付)
https://innovationlaw.jp/play-to-earn-2/

(2) 「コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について」(2021年6月29日付)
https://innovationlaw.jp/issue-multiple-nft/

(3) 「NFT:日本のマーケット状況、各団体のガイドライン、日本の規制」(2021年4月27日付)
https://innovationlaw.jp/nft-market-and-guidelines/

(4) 「NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン」(2021年3月31日付)
https://innovationlaw.jp/nft-buyer-beware-jp-2/

(5) 「イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法」(2020年7月31日付)
https://innovationlaw.jp/yield-farming-and-liquidity-mining-in-japan/

(6) 「日本のファンド(集団投資スキーム)規制」(2020年6月30日付)
https://innovationlaw.jp/funds-regulation-japan/

(7) 「仮想通貨ファンドについて」 (2018年6月1日付)
https://innovationlaw.jp/virtual-currency-funds/

I NFTスカラーシップ

(1) 概要

NFTスカラーシップ(奨学金)とは、play-to-earn(ゲームで稼ぐ)可能なブロックチェーンゲームにおいて、NFT保有者(マネージャー)がプレイヤー(スカラー)にNFTを貸し出し、当該NFTを利用してゲームプレイで得た利益をマネージャーとスカラーでシェアする仕組みを意味します。デジタルペットNFTの育成バトルゲーム『Axie Infinity』で主に利用されている仕組みであり、その他トレーディングカードNFTのバトルゲームである『Job Tribes』においてもスカラーシップシステムの実装計画が発表されています84。NFTスカラーシップにより、マネージャーが複数のスカラーにNFTを貸し出す等して、自らゲームプレイすることなく効率的に稼ぐことが可能となり、NFTを自ら獲得できない者にとってもスカラーになることでplay-to-earnができるようになるという相互協力的な収益モデルを実現しています。

(2) Axie Infinityのスカラーシップ

Axie Infinityを始めるには先ずデジタルペットNFTであるAxieを3体購入する必要があり、購入には2021年8月現在で1000ドル以上のコストが必要です。このようなエントリーハードルが高いゲームにも関わらず、プレイヤー数が急増している要因に、スカラーシップの存在があります。Axie Infinityのスカラーシップでは、スカラーがAxie Infinityをプレイすることにより、ゲーム内通貨であるSmooth Love Potion(SLP)というトークンを稼ぎ、それをマネージャーとの間で分配します。

Axie Infinityにおけるスカラーシップの方法
① マネージャーがスカラーに貸し出すアカウントとAxieを用意。
② コミュニケーションアプリDiscord等でスカラー候補を見つける。
③ スカラー候補との間でスカラーシップを実施する内容の契約を締結。
④ スカラーにAxie Infinityをプレイさせて、マネージャーがSLPを獲得。マネージャーは獲得したSLPを分配。
⑤ なお、スカラーが有する情報ではスカラーはゲームのプレイは出来るものの、Axieの売却処分等はできないことが通常のよう。
画像出典: CT Analysis NFT『Axie Infinityの概要と動向の調査レポート』p7(https://crypto-times.jp/ctanalysis-nft-1/)

(3) YGGによるスカラーシップ仲介制度

複数のNFTゲームのコミュニティ(ギルド)を束ねるYield Guild Games(YGG)と呼ばれるプロジェクトは、Axie Infinityのマネージャーとスカラーとの仲介サービスを提供し、報酬としてSLPを獲得します。以下、IIでYGGの概要を紹介します。

画像出典: NFTnavi「世界No.1NFTゲーム「Axie Infinity」の人気の秘密に迫る!急成長を支える仕組みとは?」https://nftnavi.net/no1-nftaxie-infinity/

II YGG

(1) NFTの取得・運用のDAO

YGGは、投資家等から出資を募り、NFTを取得・運用することで、利益を獲得する自律分散型組織(DAO)です。

YGGは、『Axie Infinity』におけるスカラーシップ仲介の他、『The Sandbox』、『League of Kingdoms』などのメタバースやゲーム内でアイテムとして用いられるNFTの売買や、レンディング等でplay-to-earnにより利益を獲得しており、それを投資家等に分配しています。今後、投資対象を他のブロックチェーンゲームにも拡大する方針を掲げています。

(2) 組織運営

YGGの組織運営は、DAOの仕組みが採られており、YGGトークン保有者の提案と投票により意思決定がなされ、これに基づきスマートコントラクトで自動執行がなされています。また、特定のゲームタイトルや、YGGの特定の活動に焦点を絞って組成されたSubDAOが存在し、SubDAOのトークンの一部がYGGのメインギルドに提供されるなど、重層的な組織により運営がなされています。

出資者らに配られるYGGトークンは、UniswapSushiSwapHuobi等で他の暗号資産と交換可能であることに加え、YGGトークン保有者は、YGGが提供するVaultにYGGトークンをステークすることで報酬トークンを得ることもできます。

III スカラーシップ、YGGの法的検討のまとめ

NFTスカラーシップを実施する場合にはスカラーとマネージャーとの間で適切な契約を締結する必要があります。また、NFTに投資するファンドを組み合わせる場合には、金融商品取引法等の法規制の検討を必要とする場合があります。以下そのまとめです。

[スカラーシップについて]

  • NFTのスカラーシップには、NFTの使用料をスカラーから獲得する貸借型、スカラーから役務の提供を受ける役務型、マネージャーとスカラーがplay-to-earnの共同事業を行うファンド型などのタイプが考えられる。現在のスカラーシップ85は、NFTの使用権を貸借した上、一定の時間のゲームプレイや一定程度のSLPの取得ノルマを課すといった貸借型と役務型の複合的な契約のように思われる。
  • NFTは金銭でも暗号資産でもなく、貸借型、役務型、ファンド型、いずれによってもNFTスカラーシップの規制はないと考える。
  • NFTスカラーシップの仲介行為は、NFTが金銭にも暗号資産にも該当しないため、業規制の対象にはならないと考えられる。

[YGGによるNFT投資について]

  • 投資家の出資金をNFTに投資するようなビジネスモデルは、集団投資スキーム持分の取得勧誘行為として第二種金融商品取引業や適格機関投資家等特例業務の規制の対象となる可能性がある。また投資家の権利をトークン化して販売する場合には、電子記録移転権利となり開示規制については第一種金商業の、取得勧誘行為については第二種金商業の規制にそれぞれ服する可能性がある。
  • (現在は必ずしもそのような体制ではないと思われるが)上記が完全にDAOにより実行される場合には金融商品取引業等を行う「者」が存在しないとして、規制の対象外となる可能性がある。
  • NFTに投資して運用する行為は、「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」には該当しないため投資運用業等の規制の適用はなく、また、投資目的でのNFTの売買も暗号資産交換業の規制の適用はない。

IV 各法規制の具体的な検討

1 NFTスカラーシップの法的性質

NFTスカラーシップはDiscord等を使用して、個別に口約束等で行われており、法的構成も準拠法も明らかではない場合が多いと思われます。この点、NFTスカラーシップを日本で導入する場合や、日本法で解釈する場合、以下のような構成が考えられます。

(1) 貸借型
マネージャーがスカラーに対してAxieを使用及び収益させることを約束し、その使用料として一定の金額を支払うことと、契約終了後にAxieを返還することを約束する場合には、賃貸借(民法601条)類似の無名契約89が成立しているものと考えることができます。
当該契約に賃貸借の規定が類推適用される場合には、スカラーによる第三者へのAxieの転貸禁止(民法612条1項)などが生じ、契約期間を定めなかった場合には解約の申し入れから1日経過後に契約終了することになると思われますが(民法617条1項3号)、無名契約である以上、民法のいずれの規定が適用されるかは不明確であるため、可能な限り契約においてルールの明確化を図る必要が特にあるように思われます。
更に、Axieの使用には著作権法上の「利用」90のような権利者保護のための制約がなされているわけではないので、契約中で使用方法(例えば、提供するAxieのパラメータの内容、第三者への譲渡禁止、Axieの交配禁止 等)についても適切な制限を加える必要があります。

(2) 役務型
マネージャーがスカラーに対して、Axie Infinityの1ヵ月の最低プレイ時間を指定したり、毎日のデイリークエストやログインボーナス取得を指示したり、ブリーディングにより特定の数値を上回るパラメータのAxieを作成する指示をしたり、アドベンチャーモードやアリーナプレイの実施回数を指定したりと、特定の業務の履行を求める場合があり得ます。または、特定の期間に一定の数量のSLPを稼ぐことを求める場合もあり得ます。
このように、特定の事務の処理や仕事の完成をすることをスカラーが約し、これに対してマネージャーが報酬を支払うことを約する場合には、準委任契約(民法656条)又は請負契約(民法632条)が成立することが考えられます。これらの場合、スカラーにはSLPの引渡義務(民法632条、646条)が生じ、マネージャーはスカラーに仕事の完成を求めることができること等(民法559条・562条)が考えられます。
現在、行われているAxieのスカラーシップでは、サブアカウントを設定し、そのサブアカウントで一定の時間のゲームプレイや一定程度の収益を上げることを求める契約にもとづき、一旦スカラーに入った収益のSLPがマネージャーに渡り、マネージャーが報酬をスカラーに渡す、という仕組みと思われます。これは、イメージとしては、農地を小作人に貸して/耕させて収益を上げる契約とも比較することができ、利用権の貸借と労働力の提供契約の中間的な契約と考えることができるのではと思われます。

(3) ファンド型
マネージャーがAxieを現物出資し、スカラーがplay-to-earnを実施する形で労務を提供することを約したうえ、利益を両者で分配するという仕組みを取ることにより、スカラーシップ契約を任意組合(民法667条)や匿名組合(商法535条)として構成することもあり得るものと思われます。
例えば任意組合の場合、マネージャーがAxieを出資し、スカラーを業務執行者(民法670条2項)と定めてplay-to-earnをさせる場合等が想定されます。この場合、マネージャーは業務執行権を失うものの、スカラーの業務の状況を検査する権利を有します(民法673条)。
なお、任意組合では、当事者の債務不履行を理由として契約を解除することができないため(民法667条の2第1項)、スカラーがplay-to-earnを適切に行わないような場合には、組合の解散請求(民法683条)等を行うことになります。その他、業務執行組合員となったスカラーは、正当な事由が無ければ辞任することができない(民法672条1項)などの規定の適用があります。

  マネージャーの権利・義務 スカラーの権利・義務 その他
貸借型
  • 一定の使用料の支払請求権
  • Axieを使用収益させる義務
  • Axieが契約で定めた内容に適合しない場合の代替物の送付義務 等
  • 契約終了時のAxie返還義務
  • 善良な管理者の注意によるAxieの保存義務
  • Axieの転貸禁止
  • 使用料の減額請求権 等
  • 存続期間を定めた場合にはその満了により契約終了し、存続期間の定めのない場合には、当事者による解約申し入れ後1日の経過をもって終了する 等
役務型
  • 報酬の支払義務
  • Axieを使用させる義務
  • スカラーの義務の未履行に関する追完請求権、報酬減額請求権 等
  • 特定の事務の処理や仕事の完成をする義務
  • 取得したSLPの引渡義務
  • 履行不能時の既履行部分の報酬支払請求権 等
  • 存続期間を定めた場合にはその満了により終了

    (請負の場合)

  • マネージャーはスカラーの損害を賠償する等していつでも契約解除可能

    (準委任の場合)

  • 各当事者は原則としていつでも契約解除可能 等
ファンド型
  • Axieの現物出資義務
  • 業務の状況を検査する権利
  • 利益分配請求権
  • 組合解散請求権 等
  • 労務の出資義務
  • 特定の事業を行う義務 等
  • 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能、存続期間の満了その他契約で定めた解散事由の発生により解散
  • 清算による残余財産については、各組合員の出資の価額に応じて分割 等

2 NFTスカラーシップに関する業規制

スカラーシップに関する業規制としては、主に、貸借型については貸金業の規制が、ファンド型については金商業の規制が、それぞれ検討対象になるものと思われます。
なお、現在、スカラーシップとして主に用いられていると思われる役務型については、特段問題となるような業規制はありません。

(1) 貸金業規制

①概要
貸金業とは「金銭の貸付又は金銭の貸付の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又は当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む。)」を意味し(貸金業法2条1項)、貸金業を行うためには登録を受ける必要があります(貸金業法3条1項)。

②NFTスカラーシップについて
ゲームプレイヤーへのNFTの貸付が貸金業に該当しないかが問題となりますが、NFTは、金銭にも通貨建資産にも該当しないデジタルデータであるため、これを業として貸付けても「貸金業」には該当しないと考えられます。

(2) 金商業規制

①概要
金商法では、金融商品取引に関する広範な行為(金商法2条8項)を金融商品取引業と捉えて、その事業を行うための包括的な登録制度(金商法29条)を採用しています。そのため、例えば、いわゆる集団投資スキーム持分である「出資した金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む)を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利」(金商法2条2項5号)の取得勧誘をする場合には、第二種金商業(金商法28条)の登録が求められます。

②NFTスカラーシップについて
マネージャーがその保有するNFTをスカラーに出資する場合にも金商業としての規制が適用されるかについては、NFTが「金銭(これに類するものとして政令で定めるもの)」(金商法2条2項5号、金商法施行令1条の3、金商定義府令5条)には該当しないため、NFTを出資しても集団投資スキーム持分には該当せず、金商業としての規制は適用されないことになります。

3 YGGモデルに関する業規制

(1) YGGによるスカラーシップの仲介について
YGGは、マネージャーとスカラーとのスカラーシップに関する仲介サービスを提供しています。これについては、上記IV 2のとおりNFTスカラーシップが貸金業にも金商業にも該当しないことから、これを仲介するビジネスを提供したとしても特段の規制は及ばないものと思われます。

(2) YGGによる出資の勧誘について
YGGは、2021年8月19日の公式ブログにて大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)等から、460万ドルの資金調達を実施したことを公表するなど、複数の投資家から資金調達を行ったうえ、NFTに投資を行い、その収益を投資家に対して分配しているようです。日本で取得勧誘を行った場合には、このようなビジネスにより投資家が取得することとなる権利は集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)に該当することがあるものと思われます。そして、集団投資スキーム持分の取得勧誘を行う場合には、第二種金融商品取引業の登録(金商法28条2項1号・2条8項7号、29条)や適格機関投資家等特例業務の届出(金商法63条)が必要になります。また、この権利がトークン化して販売されている場合には、電子記録移転権利(金商法2条3項)として、第一項有価証券としての開示規制が課せられることになりますが(金商法3条3号ロ)、その取得勧誘行為については、引き続き第二種金商業の登録が必要となります。
もっとも、(今現在は必ずしもそのような状況ではないのではとも思われますが)集団投資スキーム持分の取得勧誘が、完全にDAOにより実施され、中央集権的な管理者がいない場合には、金融商品取引業等を行う「者」が存在せず、業規制の対象外となる可能性があるように思われます。そのため、NFTへの投資ビジネスを実施の際には、集団投資スキーム持分の取得勧誘行為についての運営者がいないかを慎重に検討する必要があります。
なお、専らNFTを投資対象とするファンドについては、主として有価証券に投資するファンドではないため、開示義務(金商法4条等)は課されません。

(3) NFTへの投資運用に関する法規制
YGGのように投資対象が、専らメタバースやゲーム内でアイテムとして用いられるNFTである場合には、「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」(金商法2条8項12号ロ)には該当しないため、投資運用業(金商法28条4項1号)の規制の適用はないと思われます。
また、NFTに投資をする行為が暗号資産交換業(資金決済法2条7項)に該当しないかについても、NFTが通常暗号資産ではないことや91、暗号資産について投資目的で売買を行う行為は「業として」売買を行っているとは一般的に考えられないので92、NFTへの投資行為は暗号資産交換業にも該当しないものと思われます。

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
NFTスカラーシップやAxie Infinity、YGGに関する情報は、Axie Infinity公式ホワイトペーパーYGG公式ホワイトペーパー、各種記事の内容を参考に記載したものであり、内容の正確性は保証できず、実際の事実関係により分析結論は異なりえます。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、NFTスカラーシップ、Axie Infinity、YGGその他のブロックチェーン関連サービスの利用を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


本稿では、Axie Infinityをはじめとする、ユーザーが報酬を「稼ぐ」(”play-to-earn”)ことを想定したブロックチェーンゲームについて、日本法上の問題点を検討します。

参考:当事務所は2018年初めからブロックチェーンゲームに関する助言を行っており、一般的なブロックチェーンゲームやNFTに関しては下記の記事も掲載しておりますので、合わせてご参照下さい。

① ブロックチェーンゲームと日本法(2018年11月)
https://innovationlaw.jp/blockchain-games-under-japanese-laws/

② NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン(2021年3月31日)
https://innovationlaw.jp/nft-buyer-beware-jp-2/

③ NFT:日本のマーケット状況、各団体のガイドライン、日本の規制(2021年4月27日)
https://innovationlaw.jp/nft-market-and-guidelines/

④ コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について(2021年6月29日)
https://innovationlaw.jp/issue-multiple-nft/

I ブロックチェーンゲームとplay-to-earn

ブロックチェーンゲームは、ブロックチェーン技術を利用したゲームであり、多くの場合、ゲームアイテムがブロックチェーン上のトークンとして発行され、当該ゲームアイテムがブロックチェーン上で移転可能とされています。
最近では、ブロックチェーンゲームの特質を用いて、ゲームのプレイを通じて暗号資産や法定通貨と交換可能なトークンを提供することで、ユーザーがリアルマネーを稼ぐことができる”play-to-earn”という新しいゲームモデルが話題となっています。
とりわけ、ベトナムのSky Mavis社が運営するAxie Infinityでは、その公式Twitterが、2021年8月6日に、1日あたりのアクティブユーザー数が100万人を超えたと報告しています。また、DappRadarのデータによれば、同年9月2日時点において、Axie InfinityのNFT(ゲームアイテム)の取引総額は11.7億ドルを超えています。Axie Infinityユーザーの国籍は、フィリピンやインドネシアなどの賃金の安い発展途上国が多く、ゲーム自体の面白さやキャラクターデザインの魅力などに加え、このplay-to-earnモデルで「稼げる」ことで話題となり、ユーザー数を伸ばしたことが推測されます。

なお、Axie Infinityは日本語に対応しておらず、主に日本国外の居住者に向けて提供されています。このように、外国企業が外国居住者に対してゲームを提供する場合、日本法規制の適用はありません。実際には日本居住者もプレイしていることから理論的には日本法も適用され得ますが、日本プレイヤーが多数存在する等でなければ実務上は日本では大きな問題にはならないとは思われます。そのようには考えられるものの、本稿では、日本居住者を主たるターゲットとしてplay-to-earnのゲームが提供された場合に、日本ではどのような法律が適用されるか、という観点からAxie Infinityを例として検討することで、play-to-earnのブロックチェーンゲームにおける種々の法的問題点を概観します。

公式ホワイトペーパーより引用(https://whitepaper.axieinfinity.com/)

II Axie Infinityにおけるplay-to-earn

Axie Infinityは、主にAxieというキャラクターを育成し、相手と戦わせるゲームです(以下、ゲーム名と区別するために、当該キャラクターを片仮名で「アクシー」と表記します。)。ユーザーは、ゲームをプレイするために、まず3体のアクシーを購入する必要がありますが、アクシーは見た目や能力が異なるNFTとして構成されているため、いくつかのマーケットプレイス93で自由に取引をすることができます。
ユーザーは、デイリークエストクリア報酬、アドベンチャーモード(PvE94)の攻略、アリーナ(PvP95)の攻略、シーズンのランキング報酬などによって報酬を獲得することができます。そのほか、アクシーをブリーディングして新しいアクシーを生み出して販売したり、スカラーシップという制度で他人にアクシーを貸し出して報酬の一部を受け取ったりすることができます。さらに、LANDという仮想空間上の土地を購入し、その土地で産出された資源やトークンの一部を獲得する機能の実装も予定されているようです。
アドベンチャーモードやアリーナをプレイするためにはエナジーが必要であり、エナジーは、保有するアクシーが多いほど時間当たりの回復量が多くなるよう設定されています。また、ブリーディングで新しいアクシーを生み出す際には、一定のSLPというトークンの消費を伴います。


公式ホワイトペーパーより引用(https://whitepaper.axieinfinity.com/)

III play-to-earnモデルで検討すべき法律とそのまとめ

play-to-earnモデルのブロックチェーンゲームを提供する場合、景品表示法の景品規制や刑法の賭博罪、その他特定商取引法など、様々な法律上の問題点を検討する必要があります。以下はそのまとめで、それぞれIVにて詳述します。

まとめ

[景品表示法]

  • (a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができる場合、基本的に、報酬部分は景品規制の対象となる。ただし、ゲームデザイン次第では、報酬はおまけ(景品類)ではなく、景表法の適用がないと考え得る場合がある。
  • 景品規制の対象となる場合、デイリークエスト、ログイン、ランキング報酬などの提供方法は、景表法上の「一般懸賞」として、提供するおまけ(景品類)の上限は、取引価額の20倍、10万円となる。
  • 取引価額がいくらであるか、複数のNFTを組み合わせて報酬を獲得する場合に報酬上限をどのように考えるのかなど、具体的な場面では計算に困難が生じる。実際にplay-to-earnのゲームを運営する場合には、一定のグレーゾーンの中で行うか、もしくは景表法を意識した報酬スキームを構築する必要があると思われる。


[賭博罪]

  • NFTの販売にガチャのようなランダム性がない場合、販売自体は賭博罪に該当しないと考えられる。
  • デイリークエスト、ログイン、ランキング報酬などで稼ぐことに関して、例えばデイリークエストをプレイすることに何らかの費用が必要、ランキング戦に参加するために一定の費用が必要、等でなければ、賭博罪に該当しないと考えられる。
  • ブリーディングで稼ぐことに関しては、ブリーディングに一定の費用が必要となり、ランダム性があることから、賭博罪に該当する可能性が高い。


[特定商取引法]


誘引の仕方によってはいわゆる内職商法として規制される場合がありえ、勧誘方法に留意する必要がある。

IV 各法的論点の検討

1 景品規制

(1) 「景品類」該当性
「景品類」とは、顧客を誘引する手段として、事業者が、自己の供給する物品又は役務の取引に付随して提供する、物品その他経済上の利益をいいます。
このうち、play-to-earnモデルのブロックチェーンゲームにおいては、主に取引付随性の要件を満たすかどうかが問題となります9697

この点、取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合のように、取引と経済上の利益の提供が直結しているケースは、典型的な取引付随性が認められる場合です。また、取引を条件としているとはいえない場合であっても、商品を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合には、取引付随性が認められます。

Axie Infinityにおいて、アドベンチャーモード(PvE)攻略によって獲得できるトークンは、ユーザーがアクシーを購入した上でゲームをプレイすることによってはじめて提供を受けることが可能になるので、基本的には取引付随性が認められると思われます。

他方で、宝くじの賞金やパチンコの景品などは、正常な商慣習に照らして、「宝くじを買う」「パチンコをする」といった取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益であり、取引付随性がないと考えられています98
アクシーを購入するという取引に、購入したアクシーを使ってゲームをプレイすることでトークンを獲得する、ということが正常な商慣習に照らして含まれているといえるような場合、例えば、アクシーを購入するほぼすべてのユーザーが、報酬の獲得を当然の目的としてアクシーを購入していると言えるような場合には、取引付随性が認められない=景表法は無関係、と考えることもできるようには思えます。実態としてはこのように考えても良いようには思われますが、他方、パチンコや宝くじと比較すると、なおアクシー購入と報酬獲得の関係は遠いように思われ、景表法が無関係である、ということには躊躇を覚えます。

なお、Axie Infinityとは異なるゲームとして、仮に「報酬の提供が取引の本来の内容をなす」ゲームデザインを採用することで景表法の規制を避けることが考えられますが、賭博罪や特定商取引法との関係ではより規制を受けやすくなり得るように思われる点、留意が必要です。

本稿では、景表法の適用がありうる前提で以下検討を行います。

(2) 景品類の上限
提供する経済的利益が「景品類」に該当する場合、その提供方法に応じて、その最高額または総額について規制がかかります。ブロックチェーンゲームとの関係で問題となるのは「一般懸賞」と「総付景品」という方法であり、その規制内容は以下のとおりです。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること

NFT保有者全員にプレゼント
ログインのみで得られるボーナス

取引価額が1000円未満:景品類上限は200円
取引価額が1000円以上:景品類上限は取引価額の10分の2

一般懸賞 商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること

店舗での抽選
クイズ大会
eスポーツ大会
ランキング報酬

取引価額が5000円未満:取引価額の20倍
取引価額が5000円以上:10万円
いずれも総額上限として売上予定総額の2%

このように規制があるものの、Axie Infinityのように日本の景表法規制を念頭に置いていないゲームでの適用関係を考える場合、下記のように各種の難しい点があります。

① アクシー3体の組み合わせで報酬を得ること
Axie Infinityでは、アクシーを3体組み合わせてプレイするため、最低でもアクシー3体を購入しないと報酬を得ることはできず、報酬の上限がどのようにかかるのかが問題となります。
この点、一つのゲームに対する課金取引であると考えれば、アクシーを何体購入しようとも上限は10万円であると考えるのが素直だと思われます。
ただし、アクシーは個別に売られているため別個の取引として考え得る点や、初期購入時とは別のアクシー3体の構成で報酬を獲得できる点、強くなるためには継続的にアクシーの購入をすることが考えられ、その場合追加で1体ずつ購入する点など、理論的に検討しようとすると難しい点があります。

② 複数回の報酬があることと期間
Axie Infinityの報酬は、アドベンチャーモードやアリーナモードをプレイすることで、時間経過で回復するエナジーを消費するものの、毎日獲得することができます。このような場合、1日の報酬上限が10万円ということはなく、景品類の上限額は累計で10万円と考えるのが素直で保守的です。

ただ、例えば格闘技ゲームなどのe-sportsの賞金大会で、ゲームの販売促進のための大会であるとみられる場合には報酬は10万円が上限である(ゲームソフトが5000円の場合)、という議論がありました。この考え方は現在は取られておらず高額賞金のe-sportsも現在では認められているようですが、このような従前の考えでも同じプレイヤーが複数回、賞金を獲得することについては問題視されていなかったように思われます。

あまりに短期間で複数回の報酬を与えることは、景品規制の潜脱では、と考えられますが、他方、ユーザーにゲームを継続的にプレイしてもらえることを期待し、かつ継続的にプレイしてもらうことによってゲーム会社にも各種の追加の売り上げが入ることを期待している、と考えれば、例えば、一定の期間で区切ることで上限金額までのリワードを付与しても良いようにも思われます。

(3) 規制に違反した場合
景品表示法に違反する行為が行われている疑いがある場合、規制当局による調査を経て、行政指導や措置命令がなされる場合があります。措置命令は、事案の必要性に応じて、違反行為の差止め、再発防止策を講じること、これらの一般消費者への周知などを内容とします。この措置命令に従わなかった場合には、事業者に対して3億円以下の罰金などの罰則規定が定められています。
措置命令のほか、不当表示規制の違反に対しては、売上額に3%を乗じた課徴金の納付命令がなされることがあります。

2 賭博罪

(1) 賭博罪の要件
刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。
この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大4年10月16日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

(2) NFTの購入
ゲームアイテムとしてのNFTの購入はマーケットプレイスにおける相対取引として行われ、ガチャの仕組みのようにアクシーの取得の有無やその内容がランダムに決定されて購入者に喪失の危険が生じるものではないため、NFTの購入行為について賭博罪は成立しないものと思われます。

(3) デイリークエストやログインボーナス
デイリークエストクリアで報酬が得られますが、このようなプレイ自体には費用がかからないため、賭博罪は問題にならないと思われます。

(4) ブリーディング
2種類のアクシーを交配させて新しいアクシーを獲得するブリーディングについては、一定のSLPトークンの支払が必要であること、親となるアクシーにつきブリーディングできる回数に限度がありブリーディングごとに使用したアクシーの価値が落ちると思われること、そして排出される新しいアクシーがランダムに決定され、支払ったトークン+使用したアクシーの価値分の価値を下回るアクシーを取得する場合もあると思われるため、賭博罪が成立する可能性が高いと考えられます。

(5) アリーナ(PvP)のプレイ
アリーナ(PvP)のプレイは、特段に費用等がかかる訳ではなく、また、使用したNFTの価値が棄損する等もないため、賭博罪に該当しないと思われます。

3 特定商取引法

業務提供誘引販売取引(特定商取引法第51条、一種の内職商法)とは、①物品の販売または役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をする取引をいいます。業務提供利益とは、業務提供誘引販売取引の相手方を勧誘する際の誘引の要素となる利益で、提供される業務に従事することにより得られる収入のことをいいます。特定負担とは、業務提供誘引販売取引に係る商品の購入若しくは役務の対価の支払い又は取引料の提供をいいます。

例えば、このミシンを買ってくれれば、仕事を発注する、という契約が業務提供誘引販売取引であり、勧誘に先立つ氏名等の明示、広告規制、消費者への書面交付義務などの規制が課せられます。
play-to-earnのゲームであっても、ゲームプレイを業務というかは兎も角、ゲームプレイで利益を得られる、としてユーザーを勧誘した場合、業務提供誘引販売取引と考えられる余地があり、勧誘の仕方に留意をする、又は、念のため、業務提供誘引販売取引の規制を順守する必要があると思われます。

他方で、あくまでゲームのおまけとしてリワードが提供される等であり、収益を得られることが前提になっていない場合、特定商取引法の規制は適用されませんが、前述のとおり景品規制の対象となる可能性が高いと考えられます。いずれにせよ、すべての規制に違反しないplay-to-earnモデルのブロックチェーンゲーム組成は容易ではなく、弁護士と相談するなど慎重な対応が必要となります。

4 外国事業者による日本居住者への提供

(1) 行政規制
外国事業者が日本居住者に対して景表法や特商法に違反する行為を行っている場合には、当該外国事業者はそれぞれ規制対象になります。ただし、いずれについても行政罰の強制執行については主権上の制限があるものと思われ、個別の検討が必要となります。

(2) 犯罪規制
外国事業者が日本居住者に賭博に該当するサービスを提供した場合については、日本の刑法上賭博に関する犯罪に国外犯処罰規定が存在しないため、日本国外における賭博行為について刑事罰を科すことはできません。ただし、事業者の拠点やサーバーが日本国外にあったとしても、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合には賭博罪が成立すると考えられ99、この「一部」が何を指すかは議論あるものの100、少なくとも、例えば日本において勧誘などの行為がなされていれば、賭博罪が成立するのではと思われる点、留意が必要です。

留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。
Axie Infinityに関する情報は、公式ホワイトペーパーや各種記事の内容を参考に記載したものであり内容の正確性は保証できず、実際の事実関係により分析結果も異なりえます。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、Axie Infinityをはじめとするplay-to-earnモデルのブロックチェーンゲームの利用を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


1 初めに

同一又は類似のNFTを多数枚発行したい、というご相談を受けることがあります。
ERC-20であれば何でもNFTであって法律上の暗号資産に該当しないという訳ではなく、「決済手段等の経済的機能」を有していないか、ということを検討する必要があります。
如何なるファクターで「決済手段等の経済的機能」を有すると判断するのかは不明確ですが、議論の整理のため、現時点における当職らの考えを記載しておきます。

※なお、本コラムはNFTの暗号資産該当性に関する見解を述べるに止まりますが、NFTが暗号資産の他にも、前払式支払手段や為替取引、有価証券に該当する可能性がある点には注意が必要です。なお、これらについては日本暗号資産ビジネス協会NFTに関するガイドライン当事務所の別途のBlogもご参照下さい。

2 決済手段性を強める要素と弱める要素

あくまで例ですが、下記のような要素を総合的に検討して「決済手段等の経済的機能」の有無を判断すべきと思われます。

  考えられる要素の例
決済手段性を強める要素 (=暗号資産となる)
  1. 店舗で使用できる、スマートコントラクトのガス代等で使用できる、という機能や目的を有している
  2. 同一又はほぼ同一のNFTが多数存在し、自由に外部に移転でき、発行者はそのような目的を有していないとしても、結果として決済手段として使用される可能性がある
  3. 個性はあるもののその違いが捨象されて、日本銀行券のように他の商品・サービス等との交換や価値の移動に使われる実態が存在する(又はそのような実態が事後に生じる)
決済手段性を弱める要素(=暗号資産とはならない)
  1. ゲームアイテムとしての使用の目的がハッキリしている
  2. 使用目的が紙のトレーディングカードに類似している
  3. コレクション目的であることがはっきりしている
  4. 絵柄が異なる(色が異なる、背景が異なる)
  5. パラメーターが異なる
  6. 番号を付す(但し、紙幣でも番号はついているという反論はありうる)
  7. 1人が買える枚数が限定されている
  8. 発行数が少ない
  9. 最初の購入者や保有者の履歴が印字される

3 検討の背景(暗号資産の定義、NFT規制の歴史、2019年パブリックコメント)

資金決済法では、暗号資産の定義を下記としています。仮に暗号資産に該当すると資金決済法の様々な規制がかかることになります。

資金決済法2条5項
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第3項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
① 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
②不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

上記定義は2017年末から2018年のICOブームに伴い極めて広く解釈され、その結果、BitcoinやEth等の1号暗号資産と交換可能なトークンは全て暗号資産(当時は仮想通貨)に該当するとして規制される可能性が懸念されました。
そのため、一部のブロックチェーンゲーム業者は、2018年頃にブロックチェーンゲームのアイテムに暗号資産規制がかかるかという問い合わせを金融庁に行いました。その結果、例えば、一点物のゲームアイテム等のNFTは暗号資産に該当しない旨の回答を非公式に得、その後、日本では各種のNFTが番号を付す等して、発行されることになりました。

更に、金融庁は2019年9月3日付のパブリックコメントNo.4にて、下記と公表し、必ずしも1点物とは限定せずに非暗号資産のトークンと認められる場合があるとしています。

コメントの概要 金融庁の考え方
2号暗号資産について1号暗号資産と「同等の経済的機能を有するか」との基準を設けるべきではない。同等の経済的機能とならないような制限を加えることで、資金決済法に基づく規制の対象外になりかねない。 物品等の購入に直接利用できない又は法定通貨との交換ができないものであっても、1号仮想通貨と相互に交換できるもので、1号仮想通貨を介することにより決済手段等の経済的機能を有するものについては、1号仮想通貨と同様に決済手段等としての規制が必要と考えられるため、2号仮想通貨として資金決済法上の仮想通貨の範囲に含めて考えられたものです。したがって、例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。

(下線は筆者)

現時点でも、このパブリックコメントの回答は有効であり、同一又は類似のNFTが複数枚発行されても、必ずしも暗号資産となる訳ではない、但し、NFTであれば全て問題ない訳ではなく、「決済手段等の経済的機能」を有しているかを個別に判断していく、ということになります。
但し、「決済手段等の経済的機能」を有しているかの判断基準は必ずしも明確ではなく、多数の同一又は類似のNFTを発行する場合、慎重に検討する必要があると思われます。

留保事項
本コラムの内容は関係当局等の確認を経たものではなく、合理的に考えられる事柄を記載したものに過ぎません。
また、法令の解釈については、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えには今後変更がありえます。
本コラムは、NFTの利用や投資を推奨するものではありません。
本コラムは議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


ノンファンジブルトークン(NFT/非代替性トークン)が大幅な盛り上がりを見せる中、本邦でもNFTマーケットへの参入が相次いでいます。また一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)がNFTガイドラインを2021年4月26日に発表、それに先立ち一般社団法人ブロックチェーンコンテンツ協会(BCA)がNFTガイドライン第2版を2020年12月25日に発表するなど、業界団体としての動きも見られます。

本稿ではNFTに関する日本国内マーケットの状況、各団体のガイドラインの制定状況などを踏まえ、NFTに関する規制や今後の課題について紹介します。

参考:本書で取り上げる各団体のガイドライン
① JCBAのNFTガイドライン
https://cryptocurrency-association.org/dl/nft_guideline202104.pdf

② BCAガイドライン(第2版)
https://eb3d626b-4b51-42f2-b2d4-0f682cc5645e.filesusr.com/ugd/e9a87a_2028e5c7115d4fcd933e9f55e6262762.pdf
参考:当事務所は2018年初めからブロックチェーンゲームに関する助言を行っており、NFTに関しては下記の記事も掲載しておりますので、合わせてご参照下さい。
① ブロックチェーンゲームと日本法(2018年11月)
https://innovationlaw.jp/blockchain-games-under-japanese-laws/

② NFTブームへの注視 – デジタルアートとノンファンジブルトークン(2021年3月31日)
https://innovationlaw.jp/nft-buyer-beware-jp-2/

I 日本国内マーケットの状況

NFTは、2017年11月にカナダのAxiom Zen社によりリリースされたブロックチェーンゲームCryptoKittiesでの利用を皮切りに、国内外のゲーム、アート等の分野で活用されている。

以下では、各分野におけるNFTコンテンツの国内マーケットの状況を紹介する。

1.ブロックチェーンゲーム分野

従来、ゲーム内で獲得するアイテムは単なるゲーム内のデータであり、それがプレイヤーの資産になるということは意識されないのが一般的であった。他方、ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内のアイテムをNFTで設計することで、アイテムを資産としてプレイヤーのウォレットに移転させることができる。アイテムがプレイヤーの資産になることで、ゲーム外でもアイテムを売買、交換、貸与することが可能となる。また、ゲームのサービス終了後もNFTを載せたブロックチェーンが存在する限り、ゲームアセットが消えることは無いとされる。

日本の主なNFTを活用したゲームとしては、My Crypto HeroesCrypto Spellsコントラクトサーヴァント等がリリースされている。

従来のオンラインゲーム ブロックチェーンゲーム
①ゲーム内アイテムは、ゲームを離れて存在し
得ず、ユーザーがゲーム外で自由に移転、売却、
貸与することはできない。

②時間をかけて蓄積したデータでも、ゲーム配
信終了後は利用可能性を失う。
①ユーザーが NFT(ゲームアセット)の保有者と
して、当該 NFT をゲーム外に移転、売却、貸
与できる。

②サードパーティー等が NFT を利用してサービ
スを提供できる。

③ブロックチェーンが存在する限り、記録された
デジタルアセットは永続的に利用可能であ
る。

出典: JCBAガイドラインP4

(1) My Crypto Heroes
double jump.tokyo株式会社が手掛けるMy Crypto Heroesは、日本発のNFTを用いたゲームとして、2018年11月にリリースされた。その後は、ブロックチェーンゲームとして世界No.1のユーザー数、トランザクション数を記録している。プレイヤーがNFTであるヒーローを集めて育成し、エクステンションといわれるNFTアイテムを大会等で獲得しながら、敵を倒して仮想世界の制覇を目指すRPGゲームである。獲得したヒーローはOpenSeaなどの外部のNFT取引所で自由に譲渡することが可能となっている。

(2) Crypto Spells
CryptoGames株式会社のCrypto Spellsは、プレイヤーが30枚のNFTで発行されたカードを組合せ、コンピューターやプレイヤーを相手に戦うカードゲームである。カードの獲得には、バトルで手に入れたチケットを用いてガチャを引く方法、ETHで購入したゲーム通貨と交換する方法、ゲーム内外の取引所で取得する方法等がある。

(3) コントラクトサーヴァント
アクセルマーク株式会社のコントラクトサーヴァントは、それぞれ異なるステータスを持つ8枚のサーヴァント(カード)でデッキを構成して対戦するカードバトルゲームである。サーヴァントは、コモンサーヴァントとトークンサーヴァントの2種類があり、トークンサーヴァントはNFTとして発行されている。そのため、トークンサーヴァントは、コントラクトサーヴァント内のマーケット機能によりユーザー間でETHによる取引が可能である。なお、サーヴァントは、毎週一週間のリーグバトルの結果により、報酬として獲得することができるようである。

(4) その他
上記のほか、日本で注目されているブロックチェーンゲームとして、くりぷ豚Brave Frontier Heroesなどがある。また、double jump.tokyoは、My Crypto Heroesで集積した知見を基にして、ブロックチェーンゲーム開発プログラム「MCH+」を立ち上げている。

2.NFTアート分野

2021年2月、Beepleというアーティストのデジタルアート作品「The First 5000 Days」が、大手オークションハウスのクリスティーズで約75億円で落札され大きな話題となった。ここでデジタルアートとは、一般に、コンピューター技術を用いて作られたアート作品を意味し、それをNFTに紐づけたものをクリプトアートというようである。

日本の主なクリプトアート関連サービスとしては、nanakusaNFT StudioTOKEN LINK等がある。

(1) nanakusa
2021年3月、株式会社スマートアプリがクリプトアートのマーケットプレイスであるnanakusaをリリースしている。nanakusaとは、クリプトアーティストによるクリプトアートの販売及びその購入者による二次流通売買ができるNFT売買プラットフォームサービスであり、イーサムリアム及びPolygonが利用されている。なお、二次流通の際には、クリプトアートの制作者にロイヤリティが支払われる仕組みになっているようである。

(2) NFT Studio
2021年3月、CryptoGames株式会社が、イラスト作品をクリプトアートとしてイーサムリアム及びPolygonを利用して発行できるNFT Studioをリリースした。このサービスでも二次流通売買が行われた際にはロイヤリティが制作者に支払われる仕組みが取られているようである。

(3) TOKEN LINK
2021年1月には、株式会社プラチナエッグが、ゲームアイテム等に関するNFT マーケットであるTOKEN LINKをリリースしているが、同年4月には、IOSTベースで作成したクリプトアートのオークション機能が実装されている。

3. NFTコンテンツの取引環境について

(1) Coincheck NFT
日本で有数の暗号資産交換所Coincheckは2021年3月にNFTマーケット「Coincheck NFT」をオープンした。現時点で上場されているNFTは日本と海外のブロックチェーンゲームであるCrypto SpellsとThe SandBoxの2タイトルであるが、今後は様々な種類のNFTの取り扱いを目指していくようだ。同社は200万ユーザー、数千億円の預かり暗号資産があるとのことであり、コンテンツプロバイダーにとって日本市場におけるNFTプロジェクトの普及において重要なパートナーになると思われる。Coincheck NFTへの新規上場に際しては、コインチェックが定める必要審査項目や、ブロックチェーンプラットフォームの種類、プライマリーセールの状況、IPコンテンツとしての著名性、トランザクションボリューム等の個別具体的な審査がなされると聞いている。なお、コインチェックはJCBAのメンバーであり、かつNFT部会の部会長であることから、コインチェックで新規上場を希望する場合、後述のJCBAガイドラインも参考になろう。

(2) 大手事業者の参入状況
日本のNFTに関しては大手事業者ではコインチェックが先行してビジネスを開始しているが、2021年4月には株式会社メルカリ101LINE株式会社102、GMOインターネット株式会社103なども続々とNFTを活用した事業の検討開始を発表するなど、大手の参入によりNFTが大きく普及する兆しを見せている。

II NFTに関する各団体のガイドライン

現状、NFTに関する法規制については、特にNFT一般を包括的に規制する法令は存在しないため、個々のNFTを個別具体的に検討したうえで、資金決済法上の暗号資産、前払式支払手段、同法及び銀行法上の為替取引、金商法上の有価証券等に該当するか等を判断することになる。

それらの法的検討やNFTの取扱い上の留意点などを把握するために有用なツールとして、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)や一般社団法人ブロックチェーンコンテンツ協会(BCA)が、以下のガイドラインを発表している。

1.JCBAのガイドライン

JCBAは、暗号資産交換業者のみならず暗号資産関係のサービス事業者が多数集まった業界団体である。JCBAの分科会であるNFT部会ではNFTを取り扱う際のガイドラインを2021年4月26日に発表している。

ガイドラインの記載事項
① ブロックチェーンゲーム等NFTのユースケース
② 典型的な法規制の適用を判断するためのフローチャート
③ NFTと利益分配
④ NFTの決済手段性
⑤ 賭博
⑥ 景表法
⑦ 匿名性とプライバシー
⑧ セキュリティ
⑨ ユーザー保護
⑩ 新規NFTの取扱い(慎重な取扱いが求められるNFTの類型)

このうちNFTに関して最も参考となるのは以下のフローチャートと思われる。決済性がある場合には資金決済法等の対象となりうる点、配当がある場合には金商法の対象となりうる点は日本でのNFT発行に関して最も注意が必要と思われる。

出典:JCBAガイドラインP5

また、ブロックチェーンゲームの場合、日本の刑法に定める賭博罪との関係が重要である。賭博罪の構成要件は、(i)偶然の勝敗により、(ii)財産上の利益の、(iii)得喪を争うこと、(iv)失われ得る財産上の利益が一時の娯楽に供するものでないこと、であり、特に有償のガチャでNFTを発行する場合、賭博罪リスクに留意することが必要とされている。

更に、NFTを配布したり販売するようなサービスでは、景表法との関係が問題となる。景表法では、(i)顧客を誘引するための手段として、(ii)事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する、(iii)物品、金銭その他の経済上の利益、について規制がなされている。

なお、一般懸賞、共同懸賞、総付景品とで規制額が異なるが、一般懸賞、総付景品のそれぞれの限度額は下記である。

  説明 景品類の上限額
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく提供される景品類 購入者全員にプレゼント、来店者全員にプレゼントなど

①取引価格が1000円未満

– 景品類の上限額は200円

 

②取引価格が1000円以上

– 景品類の上限額は取引価額の10分の2
一般懸賞 商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること

店舗での抽選クイズ大会、ゲーム大会

①取引価額が5000円未満 

– 景品類の上限額は取引価額の20倍

 

②取引価額が5000円以上 

– 景品類の上限額は10万円

 

※いずれも総額上限として売上予定総額の2%

出典:消費者庁ウェブサイト等を参考に当事務所で作成

その他、ガイドラインでは、(i)NFTに関してもAML/CFTを意識するものとし、例えばML目的での利用をユーザーに禁止すること、(ii)NFTを保管するサービスを提供する場合にはセキュリティ態勢を検討し、盗難・紛失時の対応をユーザーに告知することが望ましいこと、(iii)NFTをもっぱら利用するサービスが終了することで当該NFTが無価値になってしまう可能性がある場合、そのようなリスクがあることをユーザーに説明しておくこと、(iv)新規NFTの取扱いに際し、(a)法令違反や第三者の権利を侵すおそれの高いNFT、(b)犯罪に利用されるおそれの高いNFT、(c)マネーロンダリングに利用されるおそれの高いNFT、については慎重に判断すること、を求めている。

2.​BCAのガイドライン

BCAは、ゲーム、SNS等のブロックチェーン上のコンテンツに係わる企業集団によって設立され、未成年者、高齢者を含むユーザーが安心してブロックチェーンコンテンツを利用できるよう、様々な取り組みを行っている。消費者保護の実現と事業者の自主規制を目的として、2020年3月24日に、NFTを含むブロックチェーンコンテンツに関する「ブロックチェーンコンテンツ協会ガイドライン」を公表し、同年12月25日にはその改訂版を公表している。

ガイドラインの記載事項
① 賭博について
② 景表法について
③ 資金決済法について
④ 金商法について
⑤ スキャム(詐欺的行為)防止

BCAガイドラインでも、賭博罪、資金決済法、景表法、金商法等の法令の解釈はJCBAガイドラインとは基本的に変わらない。

但し、賭博に関しては、(i)NFTその他換金性を有するゲーム内アイテムを排出する有償ガチャを行うことは賭博に該当する可能性が高いため、実施できない、(ii)イベント参加者から有償で参加費を徴収し、イベント参加者への報酬を当該参加費から分配する形でゲーム内イベントを実施することは賭博に該当する可能性が高く、実施できない、(iii)ゲーム内アイテムを掛け合わせて消滅させることで、ランダムに新たな NFT など換金性があるアイテムを排出(合成)する場合、賭博罪に該当しうることから、十分な注意が必要、(iv)ゲームプレイで換金性を有するゲーム内アイテムを報酬として付与する場合には、賭博罪に該当する場合もあり得ることから、その取扱いについては十分な注意が必要、等、より細かい記載がなされている。なお、(iv)について補足するに、プレイに参加費等が課され、それで有償の報酬が得られる場合には賭博罪に該当し得る、ということになろう。

また、BCAガイドラインでは、会員事業者に対し、(i)損失補填の禁止、(ii)インサイダー取引の禁止、(iii)相場操縦的行為の監視及び防止、(iv)NFT発行に関する重要な事実についての顧客への開示義務、について法令の規制はないものの自主規制を課している。

更に、NFTの発行では、サービス提供に先行してNFTが販売され、その後短期間にサービスをクローズする等のスキャム(詐欺的行為)が行われる可能性があり、次のような点を意識して顧客の利益に対して細心の注意を払うよう要求しており、参考になろう。(i)コンテンツの内容やNFTの概要を顧客に広く開示すること、(ii)顧客に示した内容を実現しうる資金、人材を確保すること、(iii)正式サービス前にNFTのプレセールを行う場合、セール参加者がサービスの内容やNFTの効能について事前に理解できるよう、βテスト等を行った上で実施するようにすること。

Ⅲ 今後の課題

以上のように各団体からNFTガイドラインが出され一定の整理はなされたが、NFTはまだ発展途上であり未解決な問題も多い。例えば、今後、下記のような点を検討する必要があろう。

(1) NFT保有者と外部サービス
現在のNFTではブロックチェーン上に全てのデータが保存されたり完結するのではなく、外部に一定のデータが保存され、また外部のサービスでのNFTの利用を前提として販売されることが多い。NFTの保有者とNFTコンテンツに関する外部事業者との間で、NFT保有者の保護の観点等からどのような取り決めをするのが適切かという点は今後の課題であろう。
例えば、ブロックチェーンゲーム内のアイテムがNFT化された場合、NFTに記録されているのは当該アイテムのアドレスやメタデータのみで、アイテムのイラストやゲームのシステム等はゲーム会社のサーバー内にあるような場合に、サービス変更やサーバー内のデータ削除の可能性を踏まえたゲーム会社の必要な配慮は何か。
また、アートのNFTでは、NFTの権利自体はイーサリアム等のブロックチェーン上で管理されるが、それに関連付けられたデジタルアート等のデータはNFTとは別にIPSF等の外部P2P分散ストレージなどで管理されることがあるようであり104、外部データが消去され、又は改変された場合等、NFT保有者の権利が害されることとなる。このような外部ストレージに対する適切な規律は何か。

(2) デジタルアート等の著作権とNFTの関係
NFTの移転とデジタルアート等の著作物との関係は今後の検討する必要がある。NFTの移転の合意やブロックチェーン上でのNFTの移転が、デジタルアート等の著作権の譲渡にどのような影響を及ぼすか。通常は、著作権の譲渡は、譲渡当事者間の意思表示のみによって生じ、要物性(目的物の引渡し等の給付行為)は求められないので、NFTの移転とは必ずしも連動しない105。現在のアートNFT発行事例、流通事例では、NFTの発行や移転に関わらず、NFTに関連するアートの著作権は移転しないとされることが多い。今後、ベストプラクティスとしてアートNFT保有者にどのような権利を与えるべきか議論することが考えられる。

(3) NFTの取引に伴う課題
NFTが財産的価値として売買の客体になることは、多くのNFT関係者の共通の理解であろう。もっとも、NFTに関する権利移転が、一般的な契約ルールと同様に意思表示の合致のみで実現するかについては検討の余地がある。暗号資産に関する議論ではあるが、法定通貨における「所有と占有の一致」の考え方を暗号資産に及ぼし、ブロックチェーン上の記録をもって暗号資産の帰属が決定されるという見解がある106。この見解をNFTに及ぼせば、NFTの権利移転には、意思表示のみでは足りず、NFTのブロックチェーン上の移転が必要となる。例えばNFTの保有者が2人と二重にNFTの売買契約を締結した場合、原則として、ブロックチェーン上でNFTの移転を受けた者が確定的な権利者になる。もっとも、この理論は、暗号資産を法定通貨と同様に考えるという視点に立つものであり、暗号資産よりモノとしての性質が強いNFTにも適用されるかは疑問もある。仮にNFTの権利移転が、当事者の意思表示の合致のみで足り、ブロックチェーン上での移転は事実状態を権利状態に適合させるものにすぎないとした場合、NFTが二重に譲渡されたような場合の法律関係がどうなるのかは今後の課題として検討が必要と思われる。

(4) デジタルアート等の著作物の侵害とNFT保有者の保護
NFTに関連付けられたデジタルアート等の著作物が何者かから消去される等の侵害を受けた場合、NFT保有者はどのような保護を受けることができるのか。例えば、NFT保有者が損害賠償請求や妨害排除請求など不法行為制度や物権的請求権による保護を受けられるか。外部ストレージなどで管理されているデジタルアート等の侵害者が、それに関連付けられたNFTの侵害までは認識・意図していない場合等はどうか。

(5) NFTの税務関係
NFTに関する税務関係についてどのような整理がなされるか。なお、2019年2月には、一般社団法人日本仮想通貨税務協会(JCTA)が「あくまで税法上明確化されていない論点」と前置きをしたうえで、「NFTそのものが独立して価値を有するものであって、その売買や交換により所得が生じた場合には原則として雑所得として課税されると考えられます。」という見解を示している107

(6) NFTの二次流通と創作者へのリワードについて
NFTの二次流通が行われる際には、創作者であるアーティストに何らかのリワードを渡すことが望ましいという見解がある。実際に、上述のnanakusaとNFT Studioでは、二次流通の際にNFTアーティストにロイヤリティが支払われているようだ。他方で、多くの著作物ではそのような創作者の権利はないこと、完全な売り切りにしたい場合もあると思われること、プラットフォーム間の移転など流通時のリワードの仕組みは技術的に複雑にもなりえ先ずはNFT市場を立ち上げることを優先すべきであるという考えもありうること、など様々な議論がありうる、ベストプラクティスがどうあるべきか、今後、議論になりえよう。

留保事項
本稿の内容は関係当局やBlog上に記載のある事業者、団体等の確認を経たものではなく、合理的に考えられる事柄を記載したものにすぎません。
また、法令の解釈については、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
本稿は、NFTの利用・投資を推奨するものではありません。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

以 上


Photo by Ashwin Vaswani on Unsplash

本書は当事務所のSo Saito、Joerg Schmidt “Buyer Beware – Digital Art and Non-Fungible Tokens (NFT) Legal considerations“を和訳したものです。英語版をご覧になりたい方はリンク先をご参照下さい。

ノンファンジブルトークン(NFT)は、最近になってますます人気が高まっています。2017年のCrypto Kittiesのような小さなブロックチェーンゲームを皮切りに、NBA Top Shotクリスティーズのオークションでデジタルアート作品に7,000万米ドルを集めたことで、一般にも知られるようになりました。

NFTに関する最近の実績と主要メディアの関心の高まりを考えると、NFTの仕組みと法的分類を詳しく見直す時期に来ていると思います。多くの場合、NFTが法的に何を表しているのかは依然として不明確であり、技術的な実装が不十分な場合には、買い手が何百万ドルも費やしたにもかかわらずNFTが無価値になってしまう可能性があります。

定義

NFTは、一般的に固有なものを表していると言われています。そのため、NFTで表現されたコンテンツが、誰でもダウンロードでき、自由に複製できることは意外と知られていません。先日クリスティーズのオークションに出品された「Everydays: The First 5000 Days」を例にとると、この高解像度の画像は、クリスティーズのウェブサイトから直接ダウンロードすることはできないものの、IPFS(Inter Planetary File System)に記録されており、誰でもアクセスしてダウンロードすることができます。IPFSに保存されているファイルは、デジタルアート作品の購入者が最終的に受け取るファイルと同じものなのです。

Beeple (b. 1981), Everydays: The First 5000 Days : クリスティーズで69,346,250米ドルで落札

この高解像度ファイルはIPFSに記録されており、誰でもアクセスしてダウンロードすることができます。ファイルサイズは326MBです。そのため、ダウンロードに時間がかかる場合があります。

では、コンテンツが固有のものでないとしたら、それはいったい何なのでしょうか?実は、それはトークンそのものなのです。NFTは、他のトークンとは異なり、交換可能なものではありません。それぞれのNFTには独自の特徴があり、その特徴に応じて経済的価値も異なります。ERC-20トークン10枚を、同じ種類のERC-20トークン10枚と簡単に交換することができますが、NFTの場合は、それぞれ特徴や経済的価値が異なるので、このようなことはできません。
適切に実装されたNFTは、それが表現するコンテンツと密接に結びついています。実装するデザインによっては、デジタル所有権やその他の権利を表し、複製が容易であるコンテンツを希少なものにすることができます。

一般的な使用例

NFTの一般的な使用例としては、デジタルアート、デジタルコレクション、ゲーム内のアイテムやワールド、ドメイン名、イベントチケット、ファントークンなどがあります。この記事では、デジタルアートに焦点を当てます。

NFTの詳細な分析と関連問題

NFTを扱う際には、なぜNFTが固有のものといえるのかを理解することが重要ですが、より重要なのは、NFTがそれによって表現されるコンテンツとどのようにリンクしているのか、そしてそのコンテンツがどこに保存されているのかということです。

イーサリアム上では、ERC-721とERC-1155という異なるNFTのトークン規格があります。ERC-721の場合、NFTには固有の識別子のマッピングが含まれており、各識別子は1つのアセット/コンテンツを表しています。また、NFTは、トークンの所有者を容易に追跡することができ、所有者の証跡や履歴が公開されます。ERC-1155の場合、識別子は単一のアセットではなく、アセットのグループを表しています。単一のトークンの出所を追跡することは、ERC-721supersetが実装されている場合にのみ可能です。出所を追跡する可能性があることから、デジタルアートでは一般的にERC-721規格が使用されています。

トークンを固有のものにするメタデータは、オンチェーンまたはオフチェーンのいずれかに保存されます。オンチェーンで何かを保存するにはコストがかかるため、通常当該何かはオフチェーンで保存されます。このような場合、NFTには外部ソースへのポインタ(通常はURL)しか含まれていません。

一度発行されたトークンのデータは不変であり、変更することはできません1。もっとも、外部コンテンツの保存方法によっては、同じことがコンテンツにも当てはまるとは限りません。NFTのポインタが、中央のエンティティやアーティスト自身が管理しているURLを指している場合、アーティストはそのURLに保存されている画像を交換したり、完全に削除したりすることができます。また、リンク自体が削除され、NFTが404のサイトを指すことになるかもしれません。

このような場合、NFTの所有者は、デジタルアートが元々保存されていたURLを指し示すNFTをまだ所有しているものの、最終的に非常に不利な立場に置かれることになります。最近、この問題に注目を集めるために、neothconfirmは自身のデジタルアートを絨毯の写真に置き換えました

このような事態を回避し、データを永遠に残すために、クリスティーズのBeepleのアート作品をはじめとする最近のプロジェクトでは、IPFSを採用しています。IPFSは、URLとは異なり、IPFSに保存されているファイルに固有のURLを非中央集権的な方法によって作成します。ファイルが変更されると、新しいURLが生成されます。つまり、オリジナルのファイルは常にNFTで参照されるURLに置かれていることになります。言い換えれば、コンテンツとトークンは密接に結びついているということです。

法的問題

技術的な実装と同様に重要なのが、NFTが法的に何を表すかという問題です。これは、アート作品の制作者や購入者のできることが制限される可能性があるため重要であり、一次販売と二次販売の両方で価格に影響します。また、資金決済法や金融商品取引法におけるNFTの法的分類、カストディや消費者保護に関する法律などの問題もあります。

著作権と所有権

アートは一般的に、所有権と著作権を中心とした複雑な問題を含んでいます。アート作品を制作する場合、一般的には制作者が最初の著作権者となります。著作権オフィスでの登録は必須ではありませんが、場合によっては著作権の記録を残すことが望ましいこともあります。デジタルアート作品の場合は、写真にデジタル署名をし、対応するNFTをブロックチェーンに記録し、高解像度ファイルをIPFSに保存することで、同じ結果を得ることができます。

しかし、いったいNFTは何を表しているのでしょうか?デジタル所有権108?著作権?それともその両方でしょうか?

これは、アーティストや、アーティストが作品を販売する際に使用するプラットフォームによって異なります。NFTは、少なくともデジタル所有権を表すものです。デジタルアート作品の所有権は、NFT自体を譲渡する際に移転します。ただし、著作権は、明示的に別段の合意がない限り、創作者に帰属します。

原著作権者であるアーティストは、コピーの作成、コピーの販売および配布、著作権で保護されたアート作品に基づく二次的著作物の作成、およびアート作品の公開に関する独占的権利を有しています。なお、Beepleの「Everydays: The First 5000 Days」の写真の中には、以前に他のオークションで落札されたものがあるにもかかわらず、今回の作品にそのまま掲載されていることを疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。これがその理由です。

著作権は、創作者に以下のような権利・保護を与えています。

 - 著作者人格権
 - 複製権
 - 二次的著作物の利用に関する権利
 - 頒布権、譲渡権および貸与権等
 - 公衆送信権等

著作権に比べて所有権はかなり限定されており、大まかに言えば非商業的な使用に限定されています。

創作者が商業目的(商品化、展示など)でアート作品を使用する権利を所有者に与えたい場合は、著作権を譲渡するか、アート作品を商業的に使用するライセンスを所有者に与えることができます。

なお、プラットフォームの中には、創作者に対して、商用・非商用を問わず作品を使用するためのライセンスを与えることを求めているものがあります。例えばOpen Seaの場合、創作者はプラットフォームに対し、アップロードされたアート作品を非商用および商用目的で使用するための世界的、非独占的、無償のライセンスを付与しています。

“本サービス上で、または本サービスを通じて、コンテンツを提出、投稿、または表示することにより、お客様は、当社に対し、(現在知られているまたは将来開発される)あらゆるメディアまたは配布方法で、当該コンテンツを使用、コピー、複製、加工、適応、修正、出版、送信、表示、および配布するための世界的、非独占的、かつ無償のライセンス(サブライセンス権を含む)を付与するものとします。このライセンスは、当社がお客様のコンテンツを世界中に公開すること、および他者に同じことをさせることを許可するものです。お客様は、このライセンスには、Open Seaが本サービスを提供、促進、改善する権利、および本サービスに提出された、または本サービスを通じて提出されたコンテンツを、他のメディアやサービスで配布、促進、または公開するために他の企業、組織、または個人が利用できるようにする権利が含まれていることに同意するものとします。Open Seaまたは他の企業、組織、個人によるこのような追加利用は、お客様が本サービスを通じて提出、投稿、送信、またはその他の方法で利用可能にしたコンテンツに関して、お客様に報酬を支払うことなく行われる場合があります。”

Open Sea、利用規約第9節

デジタルアート作品をユーザーに販売する際には、潜在的な紛争を回避するために、創作者は、どの権利をすでにプラットフォームに付与しているかを考慮する必要があります。創作者がプラットフォームに対し、作品を商業目的で使用する非独占的ライセンスを与えている場合、購入者に独占的ライセンスを与えることはできません。

Hashmasksは、所有権と著作権を明確に区別しています。Hashmasksはその利用規約の中で、NFTの購入者は作品の所有者になるだけでなく、購入した美術品を使用、複製、展示するための無制限の世界的な独占ライセンスが与えられると述べています。

“買い手はNFTを所有することになります。各Hashmaskはイーサリアムブロックチェーン上のNFTです。NFTを購入すると、基礎となるHashmask(アート作品)を完全に所有することになります。NFTの所有権は、スマートコントラクトとイーサリアムネットワークによって完全に取り次がれます。”

Hashmasks、利用規約第3条A.i.

“当社は、お客様が本規約を継続して遵守することを条件に、購入したアート作品を、それに基づく二次的著作物を作成する目的で、使用、複製、展示するための無制限、全世界的、独占的なライセンスをお客様に許諾します(以下「商用利用」といいます)。このような商用利用の例としては、アート作品のコピーを表示した商品(Tシャツなど)を製造・販売するためにアート作品を使用することなどが挙げられます。”

Hashmask、利用規約第3条A.iii.

創作者と購入者が著作権の譲渡やライセンスの付与について明示的に合意している場合でも、トークンには必ずしも正確な条件が反映されているわけではありません。自然言語で書かれているため、条件がコードの一部になることはありません。すべての関係者がNFTによって表される権利を常に完全に認識するためには、NFTがそれぞれの規約を指し示し、その規約をIPFS上に保存することが望ましいです。この場合、NFTは、所有権の追跡記録として機能するだけでなく、NFTによって表される権利に関する事項がより明確になります。

暗号資産規制とカストディ

日本の金融庁(FSA)によると、NFTは一般的には有価証券や暗号資産とはみなされません109。そのため、取引、取引の媒介サービス、保管サービスの提供は規制されておらず、ライセンスなしで行うことができます。

プラットフォームがBTCやETHなどの暗号資産を支払いに受け入れ、アーティストに代わって資金を管理する場合、プラットフォームは規制対象となる活動(保管サービスの提供など)に従事することになるため、FSAに暗号資産交換業者として登録する必要があります。

決済にはBTC、ETHなどが使用できます。法律や規制による制限はありません。

消費者保護

消費者保護に関する法律は、アーティストがビジネスとして作品を販売している場合にのみ適用され得ますが、ケースバイケースで検討することが必要です。一般的に、作品がプラットフォーム上で販売されている場合には、消費者保護に関する法律が適用される可能性があります。

AML/CFT規制

アートディーラーは規制されていないので、AML/CFT規制を遵守する必要はありません。

税金

NFTの売却益は、日本の税法上、雑所得に分類されます。そのため、最大45%の累進課税と10%の住民税が課せられます。