ブロックチェーンゲームと日本法

2018.10.04

Ⅰ ブロックチェーンゲームとは

ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーンを活用したゲームであり、例えばアイテムがブロックチェーン上のトークンとして発行され(当該アイテムを、以下「トークン」といいます。)、当該トークンがブロックチェーンを利用して移転可能など、仮想通貨やトークンが活用されるゲームを指します。

世界でもっとも有名なブロックチェーンゲームはCryptoKitties1という2017 年11 月に発表されたゲームであり、一時期はイーサリウムネットワークのトランザクションの15%を占めるなど世界でブームを起こしました。

通常のゲームでは、①購入したアイテムはゲーム運営会社のものでありユーザーのものではなく、②資産の自由な移転、売却、貸与はできず、③時間をかけたデータでもゲーム配信終了後は単に消滅するのみ、であるのに対し、ブロックチェーンゲームでは、①ユーザーがトークン(ゲームアセット)の保有者であり、②当該トークンを自由に移転、売却、貸与でき、③サードパーティー等が自由にトークンを利用でき、④ブロックチェーンが存在する限り、記録されたデジタルアセットは永久に生き続ける、等の特徴を備え得る可能性があります2

日本でも、クリプ豚3、コントラクトサーヴァント4、My Crypto Heros5などのゲームがリリースされ、又はリリース予定となっており、今後、盛り上がることが期待されます。

Ⅱ 検討すべき法律と現時点の結論

ブロックチェーンゲームの組成にあたっては、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の仮想通貨規制(資金決済法のうち仮想通貨規制に関する部分を以下「仮想通貨法」といいます。)、資金決済法の前払式支払手段規制、刑法の賭博罪、景品表示法(以下「景表法」といいます。)など、様々な法律を検討する必要があります。
現在の当職らの考えを纏めると以下の通りとなります。

(1) 仮想通貨法

  • アイテムに代替性がないと認められる場合(1 つの商品としてみるべき場合)、資金決済法上の仮想通貨には該当せず、仮想通貨交換業の登録は不要
  • なお、non-fungible token を使用すれば必ず代替性がない、という訳ではなく、ゲームごとにその仕組み、アイテムの性質・内容等を確認する必要性

(2) 前払式支払手段規制

  • 円やドルで購入するゲーム内通貨は通常、自家型前払式支払手段発行の届出が必要
  • これに対し、1 ゲーム内通貨が 0.01Ether のように購入価額が仮想通貨にリンクする場合、原則、前払式支払手段には該当しない
  • 100 円の時価に相当する Ether で 1 魔法石が購入できる等の場合、原則、自家型前払式支払手段に該当と思われる

(3) 賭博罪

  • ガチャでランダムにアイテムを購入し、そのランダムで得たアイテムを売却可能という場合、通常、賭博罪のリスクが高いと思われる
  • アイテム同士の合成によりランダムに新アイテムが登場し、その新アイテムが売却可能、という場合、財物である旧アイテムが消滅して掛金と見られる場合や、合成手数料が掛金と見られる場合、賭博罪のリスクが高いと思われる
  • 上記以外の仕組みでも賭博性については検討を要する。ゲームである以上、一定のランダム性は必ずあるが、どのような仕組みであれば賭博罪リスクが低いかについては慎重な検討を要する

(4) 景表法

  • ゲームの登録、ログイン、ランキングボーナス等で、トークンや Ether を配布する場合、トークン、Ether も「景品類」に該当しうることから、景表法の景品規制を踏まえて配布する必要性
  • 全員に配布のボーナス(総付景品)は取引価格が 1000 円未満の場合上限 200 円、1000 円以上の場合には取引価格の 20 倍まで。ランキング報酬等の場合、取引価格の 20 倍と10 万円の低いほうが上限
  • 取引価格は最低課金単位で考えることがまずは妥当

Ⅲ 法律の検討

以下、各法的問題点の検討をします。

1 仮想通貨法

(1) 問題となる仕組み

ブロックチェーンゲームでは、以下の仕組をとるケースが多く見受けられます。
① アイテム等に対応したトークン(いわゆるゲームアセット)が発行される
② 運営会社はユーザーに当該トークンを Ether 等の仮想通貨を対価に販売する
③ トークンは②のほか、運営会社から無償配布され、ゲームプレイで入手できる場合がある
④ 入手トークンはブロックチェーン上で自由に移転可能
⑤ 入手したトークンを、他のプレーヤーが保有する Ether 等と交換できるサイトが提供される。同サイトは多くの場合は運営会社が提供するサイトであり、運営会社は交換の媒介時に手数料をとる

(2) 問題の所在

仮にトークンが仮想通貨法上の「仮想通貨」に該当するとされた場合、前述(1)②のようにトークンを販売する場合は販売者が、前述(1)⑤のようにトークン売買のプラットフォームを運営する場合にはプラットフォーム運営者が、原則として「仮想通貨交換業」の登録を受ける必要があります。

この仮想通貨交換業の登録は、相当のコストと時間がかかるとされており、ゲームのためだけに登録を受けることは、通常、現実的ではありません。

仮想通貨法上、「仮想通貨」の定義はかなり広く定義されており、ブロックチェーンゲームのトークンも仮想通貨に該当するのではないか、その場合CryptoKitties のようなゲームを日本で販売することは難しいのではないか、と考えられていました。

参考
仮想通貨の定義(資金決済法 2 条 5 項)
1 号仮想通貨の定義

「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

2 号仮想通貨の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

仮想通貨交換業の定義(資金決済法 2 条)
この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。

(3) 現在の考え方と運用

この点、幾つかの案件で関連当局とも相談をしましたが、現在、ERC721 トークンのようにnon-fungible(非代替)のトークンの場合、法令上は明文の根拠はないものの、「仮想通貨」に該当しないケースがあると解釈されているようです。

これは通常「通貨」というものは、どの 100 円玉でも 100 円である、というように代替性を有するのに対して、例えば、ゲームキャラで 100 万種類の猫がおり、その猫 1 匹 1 匹のデータが異なっている、という場合、それは「通貨」とはいえず、むしろ 1 つ 1 つが個別の商品とみるべきという解釈のようです。

ただし、あらゆる non-fungible トークンが「仮想通貨」に該当しない、と解釈されている訳ではなく、また明確な判断基準が存在するわけではありません。例えば、ゲーム内に「織田信長」が 10 体、100 体、1000 体いてそれが同一ステータスの場合は代替性があるといえるのではないか、他方、名称は「織田信長」であるが、武力や統率力などのデータが一体一体微妙に異なっていれば代替性がないといえるのか等、悩ましい問題となります。

そのため、現在は、ブロックチェーンゲームの各アイテムをトークンで発行する場合、仮想通貨該当性については当局に一旦、確認をとることが望ましいと考えられます。

2 資金決済法(前払式支払手段)

(1) ゲーム内通貨の販売と前払式支払手段

ブロックチェーンゲームの中には、スタミナ回復やアイテム購入のために、ゲーム内通貨を販売するものがあります。円やドルで購入するゲーム内通貨は、多くの場合、自家型前払式支払手段に該当し、同手段発行の届出が必要となります(資金決済法第 3 条、第 5 条)。

(2) ゲーム内通貨の仮想通貨での販売

ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内通貨が Ether などの仮想通貨で販売される場合があります。

この点、資金決済法第 3 条第 1 項の前払式支払手段の定義上「金額に応ずる対価を得ては」と記載され、Etherは「金額」に該当しないと思われます。よって、仮に1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が仮想通貨にリンクする場合には、同ゲーム内通貨は原則として、前払式支払手段には該当しないと思われます。

他方、1 ゲーム内通貨が、100 円の時価に相当する Ether で購入できるというケースの場合、これは 100 円という「金額」を単に Ether で支払っているに過ぎないため、前払式支払手段の「金額」の定義に該当すると思われます。

第 3 条(定義)
1 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
① 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。) により記録される金額 (金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。) に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
② 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

4 この章において「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者(次条第五号及び第三十二条において「密接関係者」という。)を含む。以下この項において同じ。)から物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5 この章において「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

3 賭博罪

(1) 総論

刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。

この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大 4 年 10 月 16 日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

また、金銭のみならず「財産上の利益」が賭博の対象となるところ、米、土地、借金の棒引きなど全て賭博罪の対象となる「財産上の利益」に該当し、仮想通貨も当然に財産上の利益に該当すると考えられます。

第 185 条(賭博)
賭博をした者は、50 万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

第 186 条(常習賭博及び賭博場開張等図利)
1 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

(2) ガチャ

多くの従来型のスマホゲーム(以下「従来型ゲーム」といいます。)では、ガチャという仕組みで、ゲーム内通貨を消費し、ランダムに貴重なアイテムを得られる、という仕組みが取られます。この点、従来型ゲームにおけるガチャは専らプログラムによって排出されるアイテムが決定されることからすれば、(1)①偶然性の要件は満たしていると考えられます。また、ゲーム内アイテムについても、前述(1)記載の「財産上の利益」の解釈に加え、RMT 等によりアイテムが金銭に換金できる場合には「財産上の利益」6であると評価しやすくなります。もっとも、現状、ゲーム運営会社は自らアイテム等を換金できる場を提供せず、また RMT の利用を禁止する等の措置を講じることで、ゲーム内アイテムが「財産上の利益」に該当するという評価を受けないようリスクヘッジしていると考えられます。

他方、ブロックチェーンゲームでも同様のガチャの仕組みを取ることが考えられますが、ブロックチェーンゲームで得られるアイテムを外部に売却可能とする場合、当該ガチャは①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、に一般的に該当し、賭博罪リスクが高いと思われ留意が必要です。

(3) 合成

ブロックチェーンゲームでは、合成、具体的には 2 つのキャラクターから新しい一つのキャラクターがランダムに誕生する、という仕組みがとられる場合があります。

合成がランダムであり、かつ新規で得られるアイテムが転売可能である等、財物性がある場合、賭博罪リスクを考える必要があります。この点、何らかの掛金がある場合、例えば元のアイテムが消失する、合成に手数料が必要である等の場合、掛け金を賭けて新たな財産が得られる賭博である、とされる可能性が考えられます。

他方、元のアイテムが消失しない、かつ手数料を取らない又は手数料はガス代等コスト分のみである場合には、一定の財産を賭けていない(得喪がない)という議論もあり得るところであり、合成に関する賭博罪リスクは低いと思われます。

(4) 全体

仮にガチャ要素を排除し7、合成で元のアイテムも消失せず、かつ合成手数料も徴収しない仕組みとした場合7でも、ゲーム全体としてみた場合に、賭博に該当すると指摘される場合はありえます。

例えば、将来高値が付くかどうかわからない初期アイテムを Ether で入手し、合成結果の如何によって、初期アイテムより高く売れる(儲かる)、又は初期アイテムより安くしか売れない(損する)という結果を生じるときには、なお財物の「得喪」有りと評価される可能性は否定できません。

通常、ゲームには一定のランダム性がある以上、トークンを外部売却できる場合、ゲーム全体としてみた場合の賭博リスクは否定できませんが、他方、そもそもあらゆる経済活動にはランダム性があるところ、ランダム性ある全ての経済活動を賭博と考えることは妥当ではないと考えます。

いかなる行為が賭博と評価されるかについては結論を出すことは困難ですが、ゲーム全体としての投機性(射幸性)の程度を見る必要があると思われ、社会的妥当性がある経済活動か、レピュテーションの観点も含めて慎重に検討する必要があると思われます。

4 景表法

(1) 初めに

近時のゲームでは、新規顧客を勧誘するためにアイテムを配布し(新規ボーナス)、既存プレーヤーにゲームを継続させるためにアイテムが配布され(ログインボーナス)、各種イベントの達成度に応じてアイテムが配布されるほか(達成ボーナス)、プレーヤーを競わせるために各種ランキングを設けてランキングに応じてアイテムが配布されることがあります(ランキングボーナス)。

弊所においても、ブロックチェーンゲームに関して、このようなボーナスとしてトークンを配布したい、特にランキングボーナスの場合、上位者に Ether などの仮想通貨を付与できないか、というご相談を受けることがあります。
これらの配布を行う場合、景表法との関係を考える必要があります。

(2) 景表法について

景表法では、過大な景品類の提供を禁止しています。
「景品類」とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。

また、経済的利益には

(a) 物品及び土地、建物その他の工作物
(b) 金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
(c) きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)
(d) 便益、労務その他の役務

を幅広く含みます。

「過大」性については、景品類の提供方法(一般懸賞、共同懸賞、総付懸賞)により異なりますが、ゲームに関連すると思われる範囲では下記の基準によります。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること。 購入者全員にプレゼント、来店者全員にプレゼントなど 取引価格が1000円未満 – 景品類上限は200 円

取引価格が1000円以上 – 景品類上限は取引価額の10分の2
一般懸賞 商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること 店舗での抽選
クイズ大会、ゲーム大会
取引価額が5000円未満 – 取引価額の20倍

取引価額が5000円以上 – 10万円

いずれも総額上限として売上予定総額の2%

なお、そもそも提供する Ether やトークンが③「経済上の利益」に該当するか問題となりますが、前述③(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、Ether のように財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されており、これらには原則として景表法の適用があると考えて良いと思います8

(3) ログイン報酬と景表法

ログインをした場合に報酬として Ether やトークンを付与するゲームを考えた場合、当該報酬が、「景品類」に該当するか検討する必要があります。

まず、そもそもログイン自体は課金には直結せず、「取引」を条件とした「経済上の利益の提供」には該当しません。

もっとも、公正取引委員会の景品類等の指定の告示の運用基準9によれば、「取引」を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、取引の相手方を主たる対象として行われるとき10は、取引付随性を充足するとしています。この点、ログイン報酬は、取引(課金)対象者であるユーザーに当該アプリを継続して利用してもらい、課金を行ってもらうための誘引として提供されているとも考えられ、この場合には、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、に該当するように思われます。他方、無料で実施できるダウンロード報酬やログインボーナスには取引付随性および取引価額は観念できないものとして、景表法の規制は適用されないとする考え方もあるようです11

仮に、上述のとおり①顧客誘因性、及び②取引付随性を充足すると考える場合、通常、Etherやトークンは③物品や金銭などの経済的利益に該当すると考えられますので、ログイン報酬は「景品類」に該当することになります。そして、この場合、ログインだけで景品が貰えることは総付懸賞であると考えられるため、ログイン報酬としてトークンを付与する際には、1 日あたり 200 円以内など、景表法の範囲を守って付与する必要があります。

もっとも、この場合でも、Ether など市場価額が存在する「景品類」以外の「景品類」について
は、その価額をどのように算定するか別途検討を要すると思われます。

(4) ランキング報酬と景表法

ランキング上位者に Ether や非常に強力なトークン等を付与することが考えられます。

従来型ゲームでも、ランキング上位に強力なアイテムや無償ジェムを付与することはしばしば見受けられます。

仮に当該ゲームにおいて、ランキング仕様が顧客を誘引する手段になっていると客観的に判断され(①顧客誘引性を充足)、また課金することでランキング報酬を受けることが可能又は容易になる場合(②取引付随性を充足)には、ランキング報酬は「景品類」に該当するものと思われます(なお、(③「経済上の利益」に関しては前述(3)のとおり)。そして、ランキング報酬の付与は、特定の行為の優劣による「景品類」の付与といえ、「一般懸賞」であると考えられます。

従って、従来型ゲームにおいてランキング報酬を付与する場合、その多くは一般懸賞の制限に服するものと考えられますが、従来型ゲームでは、付与するランキング報酬にはそもそも経済的価値がない、又は経済的価値が余り高くないと算定した上で付与しているのではないかと思われます。

ブロックチェーンゲームにおいても、ランキング報酬を付与する場合には、従来型ゲーム同様に、一般懸賞に係る制限に服することとなるケースが多いものと考えられます。もっとも、ブロックチェーンゲームの場合、Ether や第三者との間で取引可能なアイテム等を報酬として付与する場合が想定され、その場合、Ether は当然ながら、アイテム等にも市場価額が付く可能性があり、従来型ゲーム以上に、懸賞における景品類の上限価額に留意する必要があります。
この点、懸賞における景品類の価額は取引価額に応じて決定されるところ、取引価額が幾らかの算定は困難ですが、一応の考え方としては、最低課金価格を取引価格とし、その 20 倍又は10 万円までの低い方を報酬として出す、と考えることになるのではと思います。

留保事項

本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。

本書は Blog 用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

以 上


  1. https://www.cryptokitties.co/
  2. 2018 年 8 月 28 日付アクセルマーク株式会社による日本ブロックチェーン協会での発表資料等を参考に記載
  3. https://www.crypt-oink.io/
  4. https://twitter.com/cscg_jp
  5. https://www.doublejump.tokyo/pr/double_jump.tokyo_pr_20180621.pdf
  6. なお、ゲーム内アイテムの財産上の利益該当性に関しては、有償で入手したオンラインゲーム内のアイテムを詐取した事案につき詐欺罪を認めた下級審判決(高松地判平 18 年 11 月 17 日)も参考になります。
  7. 例えば、ガチャではなくユーザーがショップでアイテムを選択の上で購入できる仕組みが考えられます。
  8. 「「コンプガチャ」で提供されるアイテム等は、オンラインゲーム上で 敵と戦うキャラクターであったり、プレーヤーの分身となるキャラクター(いわゆる「アバター」と呼ばれるものです。)が仮想空間上で住む部屋を飾るためのアイテムであったりと、様々ですが、いずれにしても、それによって消費者が、オンラインゲーム上で敵と戦うとか仮想空間上の部屋を飾るといった何らかの便益等の提供を受けることができるものであることから、「便益、労務その他の役務」…に当たります。また、「コンプガチャ」で提供されるアイテム等は、その獲得に相当の費用をかけるといった消費者の実態からみて、提供を受ける者の側から見て、金銭を支払ってでも手に入れるだけの意味があるものとなっていると認められるので、「通常、経済的対価を支払って取得すると認められるもの」として、「経済上の利益」 …に当たります。」(消費者庁「オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について」3 頁・4 頁参照(平成 24 年 5 月 18 日))
  9. 「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和 52 年 4 月 1 日事務局長通達第 7 号)
  10. 具体的には、①商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合(例 商品を購入しなければ解答やそのヒントが分からない場合、商品のラベルの模様を模写させる等のクイズを新聞広告に出題し、回答者に対して提供する場合)、②小売業者又はサービス業者が、自己の店舗への入店者に対し経済上の利益を提供する場合、など
  11. 「…手元でどこでもアクセスできるスマートフォンのダウンロードやログインと、物理的な移動や現実の体力の消費を伴うリアル店舗への来店とを同一視し、景品規制を適用するのはおかしいという主張ももっともでしょう。実際、…、インターネット上の懸賞企画には景品規制を適用しないものとする公正取引委員会見解も出されているところであり、これに準じれば、無料で実施できるダウンロード報酬やログインボーナスには取引付随性および取引価額は観念できないものとして、景品規制は適用されないとする余地は十分にあると考えます。」との見解もある(小野斉大他「アプリ法務ハンドブック」(レクシスネクシス・ジャパン株式会社,平成 27年)367・368 頁参照)。