本年5月1日施行の金商法の改正により「暗号資産」が「金融商品」に含まれることになりました。その関係もあり、幾人かから暗号資産の投資助言について尋ねられましたので、整理しておきます[1]。
結論としては以下のようになると思われます。
① 暗号資産の現物取引に関する助言は、投資助言業の登録は不要 ② 暗号資産デリバティブ取引に関する助言は、投資助言業の登録が必要 ③ 同一の暗号資産に関し、現物取引とデリバティブ取引が行われている場合がある。この場合の助言は、いずれに対する助言なのか不明瞭。助言の内容、同一の板か違う板か、対象とする取引の商品性なども踏まえて、慎重な検討を要する。 ④ 暗号資産の信用取引に関する助言は、投資助言業の対象外。但し、信用取引に対する助言なのかデリバティブ取引に対する助言なのか慎重な検討を要する。 |
金商法上、投資助言・代理業を行うためには金融商品取引業者としての登録が必要です(金商法28条、29条)
金商法2条8項11号により、金融商品に関する投資助言とは、①金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。)に関し、②口頭、文書(一定の物を除く)その他の方法により助言をすることを約し、③相手方が報酬を支払うことを約束する、という要件になります。
本年5月1日施行の金商法の改正により「暗号資産」が「金融商品」に含まれることになりました(金商法2条24項3号の2)。そのため、暗号資産デリバティブ取引の投資判断に関して助言を行うには投資助言・代理業の登録が必要です。なお、具体的商品の推奨のほか、暗号資産デリバティブ取引のシグナル配信、コピートレードサービスの提供、なども場合により投資助言に該当すると思われますので、留意が必要です。
これに対し、暗号資産は金融商品ですが、通常は上記1の下線に記載される有価証券でもなくデリバティブ取引でもありません。
従って、暗号資産現物に限定して行う助言は、金商法の文言上は、投資助言には該当しません。
上記2に関わらず、ビットコインなどの暗号資産については、同一の暗号資産に対して、世の中では現物取引とデリバティブ取引の両者が行われています。この場合、具体的商品に対する助言が、規制されない現物取引の助言となるのか規制されるデリバティブ取引に対する助言になるのか検討することが必要です。
例えば、取引所の同一の板でビットコイン現物とビットコインデリバティブの取引が行われている場合、自らの助言が現物に関する助言に過ぎないと主張しても併せてデリバティブ取引に対して助言しているという方向で議論されると思われます。
他方、取引所で現物取引とデリバティブ取引の板は別のものとして設定される場合もあります。デリバティブ取引の価格はできるだけ現物の価格と近似するよう設計はされているものの、必ずしも現物の価格と一致するものではなく、相当に乖離する場合もあるようです。この場合、現物に対する助言とデリバティブに対する助言は区別して議論できるのではないかと思われますが、助言の内容、対象となる取引の商品性なども踏まえて慎重な検討が必要です。
暗号資産のレバレッジ取引には、金商法で規制される暗号資産デリバティブ取引に該当する取引と、資金決済法で規制される信用取引に該当する取引があります。
金商法の投資助言規制は有価証券や金融商品デリバティブ取引に関する規制であり、信用取引に対する助言は文言上は金商法の規制対象外となります。
ただし、具体的な商品が信用取引なのかデリバティブ取引なのかは、必ずしも明確ではない場合もあります。特に他社が取り扱うレバレッジ取引に助言する場合には、そもそもレバレッジ取引の法的構成が外部からは不明確な場合も多いため、慎重に検討する必要があります。
暗号資産信用取引とは暗号資産交換業の利用者に信用を供与して行う暗号資産の交換等(暗号資産交換業府令1条2項6号)をいい、例えば、 下記のような取引があります。
信用取引の例 ① 100万円の担保を入れることにより、200万円を借り入れ、当該200万円でBTCを購入 ② 100万円を担保に入れることにより、3BTCを借入、当該BTCを売却 |
これに対し、金商法が定めるデリバティブ取引には下記のものが含まれています。
デリバティブ取引 (1) 原資産を対象とする取引類型 ① 金融商品先物取引・金融商品先渡取引(金商法2条21項1号、22項1号) ② 金融商品等オプション取引(同条21項3号・22項3号) (2) 参照指標を対象とする取引類型 ① 金融指標先物取引・金融指標先渡取引(同条21項2号・22項2号) ② 金融商品等オプション取引(同条21項3号・22項3号) ③ 金融指標オプション取引(同条21項3号ロ括弧書・22項4号) ④ スワップ取引(同条21項4号・4号の2・22項5号) (3) それ以外の取引類型 ① クレジット・デリバティブ取引(同条21項5号・22項6号) |
金商法や資金決済法の条文と照らしながら具体的商品の該当性を検討していくことが必要となります[2]
留保事項
本稿の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職の現状の考えに過ぎず、当職の考えにも変更がありえます。
本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。
参考条文
「投資助言・代理業」
金商法28条3項
この章において「投資助言・代理業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第2条第8項第11号に掲げる行為
二 第2条第8項第13号に掲げる行為
「投資助言」
金商法2条8項
11 当事者の一方が相手方に対して次に掲げるものに関し、口頭、文書(新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。)その他の方法により助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約(以下「投資顧問契約」という。)を締結し、当該投資顧問契約に基づき、助言を行うこと。
イ 有価証券の価値等(有価証券の価値、有価証券関連オプション(金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第28条第8項第3号ハに掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場において行う取引であつて同号ハに掲げる取引と類似の取引に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う同項第4号ハ若しくはニに掲げる取引に係る権利をいう。)の対価の額又は有価証券指標(有価証券の価格若しくは利率その他これに準ずるものとして内閣府令で定めるもの又はこれらに基づいて算出した数値をいう。)の動向をいう。)
ロ 金融商品の価値等(金融商品(第24項第3号の二に掲げるものにあつては、金融商品取引所に上場されているものに限る。)の価値、オプションの対価の額又は金融指標(同号に掲げる金融商品に係るものにあつては、金融商品取引所に上場されているものに限る。)の動向をいう。以下同じ。)の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。以下同じ。)
「金融商品」
金商法2条24項
この法律において「金融商品」とは、次に掲げるものをいう。
一 有価証券
二 預金契約に基づく債権その他の権利又は当該権利を表示する証券若しくは
証書であつて政令で定めるもの(前号に掲げるものを除く。)
三 通貨
三の二 暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第五項に規定する暗号資産をいう。以下同じ。)
金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針VII-3-1 (2)②c
②投資助言・代理業に該当しない行為
イ. 不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(以下「投資情報等」という。)を提供する行為
例えば、以下aからcまでに掲げる方法により、投資情報等の提供を行う者については、投資助言・代理業の登録を要しない。
ただし、例えば、不特定多数の者を対象にする場合でも、インターネット等の情報通信技術を利用することにより個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や、会員登録等を行わないと投資情報等を購入・利用できない(単発での購入・利用を受け付けない)ような場合には登録が必要となることに十分に留意するものとする。
a. 新聞、雑誌、書籍等の販売
(注)一般の書店、売店等の店頭に陳列され、誰でも、いつでも自由に内容をみて判断して購入できる状態にある場合。一方で、直接業者等に申し込まないと購入できないレポート等の販売等に当たっては、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。
b. 投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売
(注)販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、誰でも、いつでも自由にコンピュータソフトウェアの投資分析アルゴリズム・その他機能等から判断して、当該ソフトウェアを購入できる状態にある場合。一方で、当該ソフトウェアの利用に当たり、販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合には、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。
c. 金融商品の価値等について助言する行為
(注)有価証券以外の金融商品について、単にその価値やオプションの対価の額、指標の動向について助言し、その分析に基づく投資判断についての助言を行っていない場合、又は報酬を支払うことを約する契約を締結していない場合には、当該行為は投資助言業には該当しない。
例えば、単に今年の日本の冬の平均気温について助言するのみでは、投資助言業には該当しない。
以 上
[1] CoinPost「金融庁、ビットコイン等の投資助言行為で警告|該当しないケースは」 https://coinpost.jp/?p=154943、及び、増田雅史弁護士の下記Twitterも参考になりますので合わせてご参照下さい。
https://twitter.com/m_masuda/status/1268382240779583489?s=20
[2] 松尾直彦「金融商品取引法〔第5版〕」73頁を参考に記載