金融庁の金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」では、2025年6月25日の設置以降、暗号資産の規制見直しについて検討が行われてきました。そして、11月26日に開催された第6回の会議において、それまでの審議の結果をまとめた報告書案1が概ね了承されました。
今後は、審議会の最終的な報告内容を踏まえ、関係法令の改正案が2026年の通常国会に提出され、早ければ2027年春には新規制が導入されることが見込まれます。
同報告書案における最大のポイントは、暗号資産関連の規制を資金決済法から金商法へと移行させることです。これは、2016年以降「決済手段」として概ね資金決済法の下で規制されてきた暗号資産を、「金融商品」として位置づける抜本的な見直しを内容とするものであり、暗号資産業界にとって極めて重要な制度変更となります。
本稿では、報告書案の全体像を整理した上で、その内容が導入された場合に、既存の暗号資産関連事業者にとってどのような影響が想定されるのかを整理します。
報告書案では、まず、暗号資産の投資対象化に伴う課題2を提示したうえで、規制見直しの必要性を述べています。そして、これらの課題への対処において金商法と親和性があることや、投資目的での取引の実態等を考慮して、政策的に金商法の規制を及ぼす必要性・相当性があるとし、以下のとおり提案しています。
金商法移行に伴う大きな変更点として、報告書案は、暗号資産取引における利用者への情報提供の必要性から、新規販売時の情報提供義務と継続的な情報提供義務を設けることを提案しています。
報告書案は、情報の非対称性を解消する観点から、暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等の情報が提供されるべきとしています。また、中央集権型暗号資産(※)については、上記の情報に加えて、中央集権的管理者3に関する情報の提供も必要としています。
内在するリスクとしては、詐欺や価格変動といった交換業者による説明で対処すべきもののほか、個別の暗号資産のリスクに係るものとして、流動性リスクや希薄化リスク、事業リスクや技術・運営上のリスク等について情報提供が必要であるとしています。また、暗号資産の商品性についても情報の提供がなされるべきとしています。
中央集権型暗号資産については、流通面(発行・移転権限)と内容面(仕様の設計・変更権限)の支配に着目してその範囲を定めるべきとして、該当する類型の例として以下が挙げられています。その該当性は交換業者において審査し、自主規制機関においてチェックすることが想定されています。
情報提供義務の主体については、暗号資産を取り扱う交換業者が基本的役割を担い、必要な情報を収集して利用者に提供する体制を確保すべきとしています。一方、中央集権型暗号資産について、その中央集権的管理者が一般の利用者から資金調達を行う場合には、その中央集権的管理者に情報提供義務を課すべきとしています4。
なお、海外発行の暗号資産を国内交換業者が取り扱う場合には、中央集権的管理者の存否を問わず、交換業者が情報提供を行うことが考えられるとしています。
| 類型 | 発行者の資金調達 | 情報提供義務主体 | 主な提供情報 | 備考 |
| 中央集権型 | あり | 発行体・交換業者 | ・性質・機能、供給量、基盤技術 ・リスク(流動性、希薄化、事業、技) ・発行者情報、資金使途、事業計画 ・保有状況、商品性 等 |
いずれが主体的かは不明確 |
| なし | 交換業者 | ・性質・機能、供給量、基盤技術 ・リスク ・発行者情報 等 |
― | |
| 非中央集権型 | ― | 交換業者 | ・性質・機能、供給量、基盤技術 ・リスク、商品性 等 |
― |
| 海外発行 | ― | 交換業者 | ・上記に準じる | 正確性・客観性を担保する措置を検討 |
| 私募・私売出し | あり | 免除 | ― | 転売制限が必要 |
報告書案は、暗号資産の性質上、仕様変更や事業進捗など投資判断に影響を与える事象が生じやすいことから、発行者または交換業者に対し、重要な事象が発生した場合の適時の情報開示を義務付けるとしています。また、適時の情報開示を補完するため、発行者には発行者の事業活動等について年1回の定期的な情報提供を求めることが適当としています。
報告書案は、情報の正確性・客観性確保のため、発行者による虚偽記載等については、有価証券届出書等の虚偽記載や不提出と同様の罰則や民事責任を設けるとともに、交換業者が発行者作成情報の虚偽を知りながら取り扱った場合の罰則や、交換業者自身が作成する情報の虚偽記載等に対する(発行者による場合よりも軽減された)責任も規律することとしています。
また、課徴金制度の創設を検討し、虚偽記載等があった場合には国内すべての交換業者での取扱い停止措置を設けるべきとしています。加えて、交換業者の審査義務・体制整備の法定化、第三者コード監査の義務化、自主規制機関の独立した審査体制整備など、チェック機能の強化も求めています。
金商法の枠組みへの移行に伴い、報告書案は、暗号資産の売買等を業として行う事業者について、第一種金融商品取引業に相当する規律を中心に、業務運営・利用者財産管理・セキュリティ対策等の強化を求める方向性を示しています。
報告書案は、交換業者に対して、金商法の兼業規制と同様に、利益相反防止や利用者保護の観点から他業を行う場合の事前チェックを求めています。ただし、ブロックチェーン等に係るコンサルティング業務等、暗号資産交換業に付随する業務については届出・承認を不要とするほか、それ以外の業務についても事前届出で足りるとすることが考えられるとしています5。また、既存の金商業者が暗号資産交換業を追加する場合には変更登録が必要とされています。
報告書案は、利用者保護の観点から、交換業者に対してより一層の管理体制の構築を求めています。特に以下の体制整備が必要とされています。
また、「販売所」と「取引所」の2種類の形態によってサービスを提供している交換業者について、より収益性の高い「販売所」への誘導が行われていないか懸念を示しています。この点、金商法における最良執行義務(最良の取引の条件で顧客の注文を執行するための方針及び方法を定めて実施するもの)の趣旨を踏まえ、顧客にとって適切なサービス提供を求めるべきとしています。
報告書案は、IEO等の暗号資産の募集・売出しについて、発行者の資金調達後に利用者の期待に応える経済的インセンティブが弱いという指摘を踏まえて、以下の利用者保護措置を提案しています。
利用者財産の管理について、報告書案は、現行の分別管理義務を維持することを基本としています。他方で、最近の不正流出事案において手口が巧妙化している点を踏まえ、ガイドライン等で柔軟に対応することも前提にしつつ、新たな安全管理措置を法令上義務付ける必要があるとしています。
また、交換業者が暗号資産管理の重要なシステムの提供を外部事業者から受ける場合には、当該事業者に対して事前届出制・監督権限・行為規制を導入し、交換業者が届出済み事業者からのみ提供を受けられる仕組みを設けることが適当としています6。
報告書案は、コールドウォレット等で管理される暗号資産についてもハッキングによる流出リスクが存在することから、顧客に対して必要な補償を適切に行う備えが必要であるとしています。このため、交換業者に過度な負担とならないよう配慮しつつ、過去の流出事案の発生状況やセキュリティ水準を踏まえた適切な水準の責任準備金の積立てを求めるべきとしています7。
また、補償原資確保の選択肢を広げる観点から、責任準備金の代わりとして、又は責任準備金と併せて、保険加入等を認めることも検討すべきと整理されています。
2025年の改正資金決済法で創設された電子決済手段・暗号資産サービス仲介業について、報告書案は、金商法上の金融商品仲介業と基本的な建付けが共通していることから、暗号資産取引に係る仲介業については金融商品仲介業に統合すべきとしています。その際、外務員制度など既存の金融商品仲介業規制の適用が原則となるべきとしています。
報告書案は、ステーキングや再貸付けのために利用者から暗号資産を借り入れる(レンディング)ビジネスについて、利用者がリスクをとってリターンを追求する行為であるため、利用者保護の観点から、金商法に基づく業規制の対象とし、以下のような体制整備義務や行為規制を課すべき8としています。
報告書案は、暗号資産現物の板取引を行う取引所を運営している交換業者について、暗号資産の性質上、個々の取引所の価格形成機能が限定的であることから、金融商品取引所に係る免許制に基づく規制や、金商業者に係る認可PTSの規制のような厳格な市場開設規制を課す必要性は低いとしています9。
報告書案は、発行者自身による暗号資産の販売について、私募・私売出しに相当する場合を除いて引き続き交換業の登録を必要とし、交換業者にその取扱いを委託する場合には、発行者による交換業の登録は不要とすることが適当であるとしています。
報告書案は、近年における、証券監督者国際機構(IOSCO)の勧告や、欧州・韓国での法制化、米国での法執行事案などを踏まえ、課徴金制度を伴う暗号資産のインサイダー取引規制を整備すべきとしています。
具体的には、「国内の交換業者の提供する取引の場の公正性・健全性に対する利用者の信頼を確保すること」を保護法益に据え、(i)「対象暗号資産」について、(ii)「重要事実」に接近できる(iii)特別の立場にある者(インサイダー)が、当該事実の(iv)「公表」前に、(v)取引の場に対する利用者の信頼を損なうような売買等を行うことを禁止する必要があるとしています。
規制対象となる暗号資産は、国内の交換業者において取り扱われる暗号資産であり、これには交換業者に対し正式な取扱申請があった暗号資産も含まれるとしています。
重要事実は、以下の3つの類型について個別列挙しつつバスケット条項で補完することが適当であるとしています。
規制対象については、重要事実に接近できる特別な立場にある者が、その立場にあることに起因して内部情報を知った場合を対象とすることが適当であるとしています。具体的には、重要事実の類型に応じて、中央集権型暗号資産の発行者の関係者、交換業者の関係者、大口取引を行う者の関係者、およびこれらの者からの第一次情報受領者が対象となることが想定されています。
インサイダー取引規制以外についても、有価証券に係る不公正取引規制のうち、以下のような暗号資産にも妥当すると考えられるものについては併せて整備すべきであるとされています。
・安定操作取引の禁止10
・対価を受けてインターネットサイト等で取引判断に関する意見表示をする場合における対価を受ける旨の表示義務11
銀行・保険会社本体による暗号資産の発行・売買等、それらの仲介については、引き続き慎重な検討が必要とされています12。他方で、銀行・保険会社に分散投資の手段を提供する観点等から、十分なリスク管理・態勢整備等が行われていることを前提に、銀行・保険会社本体に投資目的での暗号資産の保有を認めることが考えられるとされています。
無登録業者に対しては、刑事罰が強化され(5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科)、金商業の無登録業者への対応として設けられている緊急差止命令などのエンフォースメントを整備するべきとされています。また、暗号資産の投資運用や投資アドバイスについても投資運用業及び投資助言業の対象とすべきとされています。
DEXについては、開発後は人為的要素が少ないことや欧米において一定のDEXについて規制の対象外との整理がなされていること等を踏まえて、現時点で規制案として踏み込んだ提案はなされていませんが、技術的性質に合わせた過不足のない規制のあり方について、今後継続して検討を行うこととされています。
また、DEXに接続するアプリ等のUIを国内居住者向けに提供する者に対しては、接続先に係るリスクについての説明義務や犯収法上の本人確認義務を含むAML/CFT対策等といった、リスクに応じた過不足のない規制を課すことを念頭に、各国の規制動向やサービスの実態把握を深めていく必要があるとされています。
以下は、報告書案の内容から想定し得る範囲で、それが実現した場合の実務への影響を業種/業態ごとにまとめたものです。
| No. | 業種/業態 | 影響度 | 主な影響項目 | 備考 |
| 1 | 暗号資産交換業者 | ◎ | ・金商法下のライセンスの取得 ・情報提供規制(新規販売時/継続) ・中央集権型暗号資産の該当性審査 ・兼業規制 ・業務管理体制整備 ・安全管理措置整備 ・適合性原則・最良執行義務 ・責任準備金の積立て ・不公正取引規制 |
・暗号資産取引所(板取引)は市場開設規制の対象外 ・交換業に付随する業務は届出承認不要、それ以外の業務は事前届出 ・ウォレットなどの提供等を受ける先は届出事業者に限定 ・報告書案外の論点であるが、税制改正、レバレッジ規制の緩和の可能性 |
| 2 | 金融商品取引業者 | △? | ・暗号資産デリバティブ取引のみを行っている事業者について、兼業規制の緩和(事前届出)を認める可能性 | ・暗号資産デリバティブの板取引は市場開設規制の対象外 ・報告書案外の論点であるが、暗号資産ETF解禁の可能性 |
| 3 | 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者 | 〇 | ・金融商品仲介業に移行 ・外務員制度等の規制適用 |
― |
| 4 | 電子決済手段発行者 / 電子決済手段等取引業者 | × | ― | ・電子決済手段は対象外 |
| 5 | 暗号資産発行者(中央集権型) | 〇 | ・情報提供規制(新規販売時/継続) ・上場審査中・上場後の有利発行禁止 ・上場前後のロックアップ期間設定 ・不公正取引規制 |
・セカンダリー取引による資金調達についても情報提供規制の対象 |
| 6 | システム提供事業者(ウォレット等) | ◎ | ・事前届出規制対象に ・欠格事由・行為規制・監督権限の設定 |
・規制の適切な水準に留意 ・必要な経過措置も検討 |
| 7 | レンディング(借入れ)事業者 | ◎ | ・金商法の規制対象に ・リスク管理体制の整備義務 ・暗号資産の安全管理体制整備義務 ・利用者へのリスク説明義務や広告規制 |
・規制の適切な水準に留意 ・必要な経過措置も検討 ・機関投資家や個人が交換業者から借り入れるのは規制対象外 |
| 8 | ステーキングサービス提供者 | × | ― | ・報告書案で言及なし ・暗号資産の借入れや管理に該当する場合は影響あり |
| 9 | 投資運用・投資助言業者 | ◎ | ・暗号資産の投資運用や投資アドバイスについて、投資運用業及び投資助言業の対象 ・暗号資産の投資運用業者にサイバーセキュリティ態勢整備を求める可能性 |
― |
| 10 | 金融商品取引所 | × | ・暗号資産現物上場は当面困難 | ― |
| 11 | 銀行・保険会社(本体) | △ | ・売買・仲介は引き続き不可 ・暗号資産の投資運用業も不可 ・投資目的保有は検討可 |
・投資目的での保有は十分なリスク管理・態勢整備等が行われていることを前提 |
| 12 | 銀行・保険会社(子会社等) | 〇 | ・売買・仲介可能 ・暗号資産の投資運用業・投資目的での保有可能 |
・兄弟会社や関連会社についても子会社と同様 |
| 13 | DEX運営者 | × | ・規制は継続して検討 | ・国際的な議論が必要 ・行政や交換業者等においてリスクについて周知 |
| 14 | DEX UI提供者 | △ | ・リスク説明義務・AML/CFT 対策等の規制を検討 ・各国の規制動向と実態把握に努める |
|
| 15 | 無登録業者 | 〇 | ・刑事罰強化 ・緊急差止命令などのエンフォースメント強化 ・暴利行為として契約を無効にする民事効規定創設の検討 |
・なお、暴利行為として契約を無効とする民事効規定が設けられた場合、影響は◎となる可能性 |
| 16 | マイニング事業者 | × | ― | ・報告書案で言及なし ・ファンドに該当する場合は規制対象 |
| 17 | NFT事業者 | × | ― | ・NFTは原則規制対象外 ・暗号資産やセキュリティートークンに該当する場合は現行法でも規制対象であり改正後も規制対象 |
| 18 | ブロックチェーンゲーム事業者 | × | ― | ・無償付与や報酬としてのトークンの自動付与は資金調達ではないため、規制対象外 |
| 19 | 自己勘定取引 | × | ― | ・「業として」行われるものではなければ規制対象外 |
留保事項