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暗号資産の価格上昇に伴い、ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。
南米やアフリカでは金融インフラが不十分な地域を中心に、ビットコインやステーブルコインが日常決済で急速に普及しています。例えば、エルサルバドルではビットコインが法定通貨として採用され、納税や個人間送金にも活用されています。先進国アメリカでも、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスでCrypto決済を導入する企業が増えています。
一方、日本では2017年にビックカメラがビットコイン決済を導入したことが大きなニュースになったものの、その後のCrypto決済の普及は限定的に留まっています。主な要因は、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きいことです。ただし、値動きが少ないステーブルコインが普及すれば、日本でもCrypto決済が広がる可能性があり、実際にステーブルコインで支払えるクレジットカードの発行が予定されています。
本稿では、Crypto決済の仕組みを解説し、日本で導入する際の法律上の論点について述べます。
本稿の「Crypto決済」とは、暗号資産決済やステーブルコイン決済を含む幅広い概念として扱いますが、法律議論は主に暗号資産を中心として議論します。ステーブルコインの売買や管理に関する規制は概ね暗号資産規制と同様であり、適宜、読み替えてお読み下さい。
※本稿は、2025年1月30日に筆者が発表した「Crypto決済と日本法」を改訂したものです。
Crypto決済の例は、大きく分けて二つのカテゴリーに分けられます。一つはCryptoを直接決済に使用する例、もう一つはクレジットカードやデビットカードを使用した例です。下記では、Crypto決済の一部を紹介します。
資金決済法の暗号資産規制 | 割販法、貸金業法、前払式支払手段規制 | 外為法 | |
自社店舗によるCrypto決済受入れ | なし | なし | 非居住者又は国外との3000万円以上の決済の場合には外為法の報告 |
決済代行業者を利用したCrypto決済 | 決済代行業者に売買規制の適用可能性 | なし | 同上 |
クレジットカード型 | 保管規制、売買規制の適用可能性 | 割販法(ショッピング)及び貸金業法(キャッシング)の適用可能性 | 同上 |
デビットカード型 | 保管規制、売買規制の適用可能性 | なし | 同上 |
プリペイドカード型 | なし | 自家型又は第三者型として前払式支払手段規制の適用 | 同上 |
自社の実店舗やオンライン店舗でCryptoを決済に収受する場合の規制を解説します。
日本では、暗号資産の売買、その媒介や他人のためにする管理は、暗号資産交換業として規制されています。しかし、自社の店舗でCryptoを決済として受け取ること自体については規制が存在しません。
また、受け取ったCryptoを自社で保有したり、暗号資産交換業者を利用して金銭に交換することにも規制はありません。
ただし、非居住者や国外口座との間で、3000万円以上の決済を行う場合は、原則として外為法上の報告義務が発生します(外為法55条)。この報告義務は、3000万円相当のCryptoでの決済場合も同様であり、居住者による報告が必要となります。この外為法上の報告義務は、3以下の場合でも同様に当てはまります。
日本の会社の中には、自社で暗号資産を保有したり管理したりすることに抵抗感を持つ会社が存在します。これは、価格変動リスク、ハッキングなどのセキュリティリスク、会計や税務上の問題などが原因として挙げられます。
このような会社は、第三者である決済代行業者(以下「決済代行者」といいます。)を利用し、決済代行者が暗号資産を収受し、これを日本円に変換して店舗などの会社に渡すスキームが取られることがあります。
このスキームは、下記の行為の組み合わせとなります。
しかし、この中の「②暗号資産を日本円に変換する」行為は、決済代行者が暗号資産交換業を営んでいるとみなされ、原則として暗号資産交換業の登録が必要と考えられます。
この点について、日本ではコンビニエンスストアや宅配便業者による収納代行が特に規制なく行われていることとの比較が問題となります。決済代行者が行う行為も収納代行であり規制は存在しないと考えられないか、以下のような整理ができないか問題となります。
このような考え方は理論上は可能かもしれませんが、筆者の経験では、実際の運用では当局との議論が厳しくなる可能性が高いと考えられます。そのため、実務上は暗号資産交換業の登録が必要な可能性が高いと考えておくのが安全でしょう。
ただし、他の業務や委任された事務に付随する形で行われる場合、その具体的な内容によっては許容される可能性もあります。この点については、ケースごとに慎重な検討が必要です。
クレジットカードタイプのCrypto決済として考えられる典型的な例は、次のような仕組みになります4。
日本において、クレジットカードの発行に「2か月を超える分割支払い」「リボルビング支払い」「ボーナス一括支払い」などの機能を付す場合には、「包括信用購入あっせん」となり、割賦販売法上の包括信用購入あっせん業者としての登録が必要となります(同法31条)。この登録を受けると、顧客に対する情報提供義務、過剰与信防止義務、抗弁の切断の制限など、同法に基づく各種規制が適用されます。
一方、支払方法が「2か月以内の1回払い(いわゆるマンスリークリア)」に限られるカードは、包括信用購入あっせんには該当せず、同業者としての登録は不要です。ただし、この場合でも「二月払購入あっせん」(割販法35条の16第2項)に該当するため、カード番号等の適切な管理措置の実施義務(同条1項)が課されます。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、付与される機能に応じて上記の規制が適用されます。
クレジットカードのキャッシング機能は、商品やサービスの購入ではなく、借入であるため、割賦販売法ではなく貸金業法の規制対象となります。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、キャッシングを円や外貨で行える場合には貸金業が適用されます。ただし、暗号資産でキャッシングできる場合は、暗号資産レンディングには原則として貸金業法が適用されないため規制対象外です(貸金業法2条の定義参照)。
暗号資産にリンクしたクレジットカードの場合、発行者が利用者の暗号資産を直接保管する構造であれば、暗号資産交換業(資金決済法2条7項)のうちカストディを行う者として規制が適用されます。
ただし、以下のような場合には、カストディに当たらず規制対象外となる可能性があります:
・スマートコントラクトやマルチシグを利用し、特定の事業者が単独で秘密鍵を管理できない構造とする場合
・カード利用代金の弁済を担保する目的で担保として暗号資産を預かる場合であり、「他人のために管理する」行為に当たらないと整理できる場合
カード決済の過程で暗号資産を法定通貨に換金する行為は、暗号資産の売買に当たり、原則として暗号資産交換業の登録が必要です。典型例は次のとおりです。
(a)ユーザーがクレジットカードで商品を購入
(b)利用代金に相当する暗号資産をユーザーが保有口座から売却し、その売却代金(円等)がカード発行会社に支払われる
このような場合、暗号資産の売買(またはその媒介)に該当します。
暗号資産での弁済スキーム
一方で、カード発行会社が通常は円建てで請求を行い、利用者が支払期日までに「円の代わりに暗号資産を差し入れる」という形を選択できるスキームであれば、これは一種の決済方法の指定、または代物弁済と評価されるにとどまり、暗号資産の売買には当たりません。この場合、暗号資産交換業の登録は不要と解されます。
もっとも、割賦販売法では支払方法や計算方法の表示規制があり、これにどう対応するかが課題となります。また、カード発行会社が暗号資産を受け入れる際の会計・税務処理や、チャージバックが発生した場合に暗号資産価格が変動しているケースへの対応など、実務上、検討すべき点も多いと考えられます。
犯収法(補足)
なお、補足すると、クレジットカード発行者、暗号資産交換業者などは、犯収法上の特定事業者に該当し、本人確認(KYC)義務を含むAML/CFT規制が課されます。また、アクワイヤラー(クレジットカード番号等契約締結業者)については、加盟店調査義務が課されており、これはマネーロンダリング対策としての機能を果たしています。
デビットカードタイプのCrypto決済の典型的な例は次のような仕組みです。
日本では、デビットカードは即時決済のため割賦販売法の適用はありません。ただし、ユーザーの金銭を預託させてカード決済に利用する仕組みを構築する場合、その金銭の受入れは銀行免許または資金移動業登録が必要です。利用者の指図によって資金を移転する点で為替取引性があるため、この観点からも銀行免許または資金移動業登録が必要と整理されます。
一方、暗号資産を連携したデビットカードの発行には銀行法は適用されず、以下の論点が生じる可能性があります。
暗号資産を連携させたデビットカードについては銀行法は適用されませんが、以下の論点が生じます。
・他人の暗号資産を業として管理する場合は暗号資産交換業の登録が必要
・決済時に暗号資産を売却し、その代金で支払う仕組みは暗号資産の売買に該当し、交換業の登録が必要
・カード会社が円で請求し、ユーザーが代物弁済として暗号資産を差し入れる場合は交換業には該当しない
前払式支払手段とは、図書券やAppleギフトカード、Amazonギフトカードのように、事前に対価を支払い、その対価に応じた、残高などが付与され、残高で決済ができる仕組みをいいます
前払式支払手段型のCrypto決済は、次のような流れになります。
日本における前払式支払手段の発行は、「自家型」と「第三者型」に分けられます。
自家型の場合には届出、第三者型の場合には登録が必要となり、いずれの場合も未使用残高の半分の供託などの規制がかかります。
ただし、次の場合は規制が適用されません。
プリペイドカードは、クレジットカードやデビットカードと異なり、原則として暗号資産交換業の規制は適用されないと考えられます。この理由は下記のとおりです。
ただし、チャージした暗号資産を、再度暗号資産に戻すこと(払い戻し)が可能なスキームの場合、実質的には暗号資産の預託とみなされ、暗号資産交換業におけるカストディ規制が適用される可能性があります。
Crypto決済は、決済を行った時点で利益が確定したとされ、この利益に税が課されます。たとえば、1万円で取得した暗号資産が5万円に値上がりし、その暗号資産を使用して決済を行った場合、4万円の利益が発生します。この利益は、個人の場合「雑所得」に分類され、他の所得と合算した総合課税にて、最大55%の税率が適用されます。
Crypto決済を行った場合には、上記のような課税がなされるため、原則として確定申告が必要になります。雑所得が20万円以下であり、かつ1か所から給与を受け取らない給与所得者である等の場合には確定申告の義務がありません。
しかし、雑所得が20万円を超える場合や、雑所得が20万円以下でも自営業者、フリーランス、副業がある等でそもそも確定申告の義務がある場合、Crypto決済での利益についても1円単位で申告する必要があります。
たとえば、日常的な買い物で暗号資産を使用した場合、各取引時点の暗号資産の時価を記録し、その利益を合算して申告することが求められます。この記録と計算の手間は非常に煩雑であり、特に少額決済を頻繁に行う場合、実務上大きな負担となります。
なお、この問題は、本来は、海外旅行で余った外貨を後日使用した場合にも適用されます。例えば1ドル120円の時に入手した10ドルを、何年後かの海外旅行で1ドル150円で使用した場合には、差額の30円×10ドル=300円について雑所得として課税され、確定申告が必要となる場合があります。
海外では暗号資産に関するキャピタルゲイン課税がない国や、ある場合にも少額の場合や長期保有の場合に課税対象外とする、という国があります。
(各国の税制=Chat GPT等調べ)
1 | 個人の暗号資産取引についてキャピタルゲイン課税がない国 | シンガポール、ポルトガル、スイス、マレーシア、UAE、エルサルバドル |
2 | 個人が長期で保有した場合、キャピタルゲイン課税がない国 | ドイツ(1年以上保有した場合には非課税) |
3 | 一定の限度額の範囲でキャピタルゲイン課税がない国 | イギリス(年間6000ポンド=約120万円まで) イタリア(年間2000ユーロ=約32万円まで) 韓国(年間2500万ウォン=約250万円まで) ブラジル(月額35,000ブラジルレアル=約90万円まで) |
4 | 少額決済には非課税の国 | オーストラリア(1取引が10,000豪ドル=約90万円以下の「個人的利用目的(Personal Use Asset)と見なされる場合、非課税) |
5 | 少額決済への非課税化を現在議論中の国 | アメリカ(現在は短期保有か1年以上保有の長期保有かに分けて課税。1回あたり200ドルまで利益の少額決済については課税しない議論が進行中) |
6 | 少額決済でも基本的に課税される国 | 日本(但し、確定申告義務ない人の場合には20万円までの雑所得は非課税)、 フランス、カナダ、アルゼンチン |
日本で暗号資産のキャピタルゲインを課税しない議論は極めて難しいと思われます。また、G7でも米国、フランス、カナダが課税の現状下、少額決済に課税しないとの議論を当局に説得的に要望することは難しいかもしれません。 しかしながら、各国がWeb3の進展を図る中、特に米国で少額決済の非課税化が通った場合には、日本でも競争政策上少額決済の利益には課税しない等の制度を導入することが必要なのではと思われます。
暗号資産リンク型のカードを発行する際には、多くの場合、国際ブランド(VISA、MasterCard、Amex、JCB、Dinersなど)と契約し、その決済ネットワークを利用します。この際、国際ブランドは、自身の所在地国等での規制を順守等するため、カード発行体に対して以下のような審査を行うことが通例です:
さらに、国際ブランドと直接契約する代わりに、既に国際ブランドと強固な関係を持つ日本のクレジットカード会社を通じて提携カードとして発行する方法もあります。この場合、カード発行プロセスの一部が簡素化される可能性がありますが、それでも一定の規制対応やコストが発生する点には注意が必要です。
本邦ではCrypto決済は必ずしも普及していません。最大55%の課税や少額決済の記録・申告の煩雑さが最大の要因と考えられます。
ステーブルコインが普及すれば、価格変動リスクは軽減され一定の解決が見込まれますが、普及度はなお未知数です。加えて、利用者保護やAML対応など制度面の整備も課題となります。
今後、Web3分野での国際競争の観点からも、Crypto決済の税務面が改善されることが期待されます。
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