クリプトトレジャリー戦略と法的課題 - 日本企業の実務論点

2025.09.11

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1. はじめに:クリプトトレジャリー戦略とは何か

クリプトトレジャリー戦略とは、企業が自社の財務戦略として暗号資産を保有・運用することです。従来の現金や有価証券に代わる、またはそれらを補完する資産として、企業の資産ポートフォリオに暗号資産を組み込みます。
ビットコインのみに特化する場合は「ビットコイントレジャリー戦略」と呼ばれることもありますが、本稿では暗号資産全般を対象とした「クリプトトレジャリー戦略」として統一します。なお、海外では近時「Digital Asset Treasury(DAT)」と呼ばれることも増えています。
近年、この戦略を採用する企業が世界的に増加しています。特に2024年の米国における暗号資産ETF承認は、機関投資家の参入を促し、企業による直接保有戦略への関心も高まりました。日本でも上場企業による暗号資産保有の事例が現れ、投資家の注目を集めています。
本稿では、クリプトトレジャリー戦略の概要と日本法上の論点を整理します。

2. まとめ

結論:現行日本法下でも実行可能
クリプトトレジャリー戦略は、適切な対応により現行の日本法制度下でも実行可能です。主要論点の結論は以下の通りです。

法的論点
暗号資産交換業: 自社保有分の売買は登録不要
・集団投資スキーム: 株式・CB発行による資金調達は該当しない
・ステーキング・レンディング: 自己勘定での運用は規制なし
・適時開示: 重要な取引・方針変更時の開示が必要

会計・税務
・会計: 時価評価が原則(日本基準・IFRS・US GAAPで差異あり)
・税務: 期末時価評価による課税が原則、但し、2024年改正により一定要件下で期末時価評価課税の適用除外が可能
・監査: 監査法人との事前合意が重要

実務上の準備事項
・取締役会レベルでの投資方針決定
・監査法人・税理士との事前協議
・内部統制・リスク管理体制の構築
・投資家向けの情報開示体制整備

投資家視点
・株式としての税務優遇(20.315% vs 暗号資産現物最高55%)や投資手続きの簡便性等のメリット
・法人レベルと個人レベルの二重課税
・事業リスク、運用リスクのデメリット
・暗号資産ETFとは異なる価値(レバレッジ効果、企業価値とのシナジー等)

以下、各論点の詳細を解説します。

3. クリプトトレジャリー戦略の導入事例、考えられる戦略
3.1 導入事例

(1) 世界的な先駆者:マイクロストラテジー

米国のマイクロストラテジー社(現ストラテジー社)は、クリプトトレジャリー戦略の代表的な成功例として知られています。2020年からビットコインの大量購入を開始し、企業価値の大幅な向上を実現しました。

(2) 日本の先駆者:メタプラネット

2024年、日本の上場企業である株式会社メタプラネットが本格的なクリプトトレジャリー戦略を発表しました。これは日本初の本格的な事例として大きな注目を集めました。

(3) 他の日本企業の例:リミックスポイント

株式会社リミックスポイントも、事業との関連性を重視しながら暗号資産保有を行っている企業の一つです。同社の子会社であった株式会社ビットポイントジャパンは暗号資産取引所ビットポイントを保有しており(但し、2022年から2023年にかけてグループ外に同社の株式譲渡)、Web3と親和的な会社です。

主要企業のクリプトトレジャリー戦略比較

企業名 戦略の特徴 保有資産 株価パフォーマンス
マイクロストラテジー 米国 現金の大部分をBTCに転換
「企業版のBTC ETF」
大量のBTC 1年:164%上昇
5年:2,238%上昇
時価総額USD940億
メタプラネット 日本 「財務準備資産」として位置づけな購入実施 大量のBTC 1年:490%上昇
5年:707%上昇
時価総額4,612億円
リミックスポイント 日本 事業シナジーを重視 BTC、ETH、SOL、XRP、DOGE等 1年:120%上昇
5年:274%上昇
時価総額515億円

*株価は2025年9月9日付の調査

3.2 クリプトトレジャリーの戦略例

「クリプトトレジャリー戦略」といえば、マイクロストラテジー社やメタプラネット社のような「全資産暗号資産転換型」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実際の企業戦略は多岐にわたります。
企業は以下の4つの観点から、自社に適した戦略を選択する必要があります。

(1)保有方針による分類

戦略タイプ 特徴 主なメリット 主な留意点
余剰資金投資型 既存の余剰現金の一部を暗号資産に配分 ・既存事業への影響最小限
・段階的な導入が容易
・投資規模が限定的
・株価への影響も限定的
完全移行型 現金資産の大部分を暗号資産に転換 ・価格上昇の恩恵を最大化
・「ビットコイン銘柄」として明確なポジション
・価格下落リスクが大きい
・運転資金への影響
・ETF導入時のリスク

Web3戦略型

Web3・ブロックチェーン事業との関連性を重視 ・事業戦略との整合性
・投資家への説明がしやすい
・事業の実現可能性
・継続的な事業投資が必要
・Web3領域における専門知識が不可欠

(2)資金調達方法

調達方法 特徴 メリット 留意点
余剰資金活用型 既存の現金、預金を原資として購入 ・追加調達不要
・希薄化影響なし
・迅速に実行可能
・投資規模に限界
・既存事業資金への影響要検討
新株発行型 新株発行により資金調達して購入 ・大規模投資が可能
・負債増加を回避
・成長投資アピール
・株式の希薄化
・株主総会の承認が必要な場合あり
・市場環境に左右
転換社債発行型 CB発行により資金調達して購入 ・低金利での調達
・転換時まで希薄化抑制
・レバレッジ効果
・金利負担発生
・転換条件の設定
・信用格付けへの影響

(3)投資対象による分類

投資対象 特徴 メリット リスク・留意点
ビットコイン専用 BTC単一銘柄への集中投資 ・最も流動性が高く安定
・「デジタル・ゴールド」
・投資家説明が容易
・単一銘柄集中リスク
・分散効果なし
・他通貨成長機会の逸失
銘柄分散型 BTC、ETH、アルトコイン等への分散投資 ・適度な分散効果
・ステーキング収益も獲得
・市場全体成長を取込み
・個別銘柄リスクは存在
・管理の複雑化
・税務計算の煩雑化
アルトコイン重視型 新興、小型コインへの積極投資 ・高成長の可能性
・先行者利益の獲得
・イノベーション領域投資
・極めて高いボラティリティ
・流動性リスク高
・投資家理解の困難性

(4)運用方法による分類

運用方法 特徴 メリット リスク・留意点
HODL(長期保有) 暗号資産を長期保有し続ける ・単純な運用方法
・価格変動に左右されない
・税制優遇の可能性(→5章参照)
・価格下落時の損失拡大
・機会損失の可能性
・流動性の確保
ステーキング活用 ETH等をステーキングして追加収益獲得 ・継続的収益
・年利数%の追加リターン
・ネットワーク貢献
・技術的リスク
・スラッシングリスク
・アンボンディング期間
レンディング活用 第三者への貸出で利息収入獲得 ・高い利率での運用
・価格上昇と利息の両獲得
・流動性調整可能
・貸出先の信用リスク
・市場流動性リスク
・規制変更リスク

企業はこれらの要素を組み合わせて、自社の事業内容、財務状況、リスク許容度に応じた最適な戦略を構築することになります。
なお、当職らがアドバイザーや関係者と話す限り、現在検討中の会社の場合、先行事例との差異を設けるためか、単なるHODLではなく、本業との繋がりをも生かしたトレジャリー戦略を模索する企業が多いようにも思われます。他方、必ずしも本業とWeb3との関係が強くない企業がクリプトトレジャリー戦略を採用する場合でも、ステーキングやレンディングによるストック収入を組み合わせる収益モデルとして株主等のステークホルダーに説明を行おうとする例もあるようです。

4. 日本法上の論点

クリプトトレジャリー戦略を日本で実施する際の主要な法的論点を整理します。結論として、適切な対応により現行法下でも戦略実施は十分可能です。

4.1 暗号資産交換業登録(結論:登録不要)

基本原則 企業が自社の財務戦略として暗号資産を取得・保有する行為は、資金決済法上の「暗号資産交換業」に該当せず、登録は不要です。
法的根拠 資金決済法第2条第15項によれば、暗号資産交換業とは以下の行為を「業として」行うことです:

  • 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
  • 上記行為の媒介、取次ぎ又は代理
  • 利用者の金銭の管理
  • 他人のために暗号資産の管理をすること

該当しない理由 企業による自社ポートフォリオ投資としての暗号資産売買は「業として」行う行為に該当しないと解釈されています1。また、自社保有は「他人のための管理」ではありません。

株式等による資金調達について
株式や転換社債等による資金調達を行い、その資金で暗号資産を購入する行為についても、現時点では暗号資産交換業には該当しないと整理されています。形式的には「株主から資金を集め暗号資産を取得する」ため、実質的に株主に対して暗号資産売買サービスを提供していると評価し得る余地はありますが、現行実務においてはそのような解釈は採用されていません。

4.2 集団投資スキーム規制(結論:該当しない)

基本的な考え方 企業が新株発行や転換社債発行で調達した資金による暗号資産投資は、金商法第2条第2項第5号の「集団投資スキーム」に該当しません。
法的根拠 金商法の条文構造上、株式や転換社債は第2条第1項第5号や第9号で独立した「有価証券」として規制されており、第2項第5号の集団投資スキーム(ファンド規制)とは別体系です。

具体的理由

  • 株式:企業全体に対する持分権(特定事業への出資権利ではない)
  • 転換社債:元本償還請求権が基本(運用成果配当が目的ではない)

留意すべきケース 暗号資産投資専用の別会社(SPC等)を設立して匿名組合出資等を募る場合は、集団投資スキーム該当性の慎重な検討が必要です。

4.3 ステーキング・レンディング(結論:自己勘定なら規制なし)

ステーキングについて 企業が自己保有資産、自己勘定で行うステーキングは、通常、ファンド(集団投資スキーム)や暗号資産カストディには該当せず、特段の規制なく実施可能です。
レンディングについて 日本では金銭貸付は貸金業法で規制されますが、暗号資産レンディングに特段の規制はありません。自己保有の暗号資産をレンディングで運用することは、自己勘定であれば自由です。

4.4 投資顧問業との関係(結論:現物は対象外)

現物暗号資産への助言 現物暗号資産は金商法上の「有価証券」ではないため、投資助言・代理業(金商法第28条第3項)の対象外です。一般的なコンサルティングサービスとして整理できます。
注意が必要なケース 暗号資産デリバティブ(先物、パーペチュアル等)への継続的・具体的助言や裁量運用は、投資助言・代理業の登録が必要となる場合があります。
実務的対応 外部アドバイザーとしてデリバティブを含む助言を行う場合は、契約目的を「戦略設計・リスク分析支援」に限定し、具体的な投資判断の助言は避けることが推奨されます。

4.5 上場ルールと適時開示(結論:制限なし、開示必要、資金調達の方法に留意)

上場ルール 東証の上場ルールにおいて、暗号資産保有を直接禁止する規定はありません。適法な投資行為として、他の投資商品と同様の扱いを受けると考えられます。

適時開示が必要なケース

  • 企業規模に比して重要な金額の暗号資産取得・売却
  • 新たな暗号資産投資開始時の投資方針決定
  • 投資方針の大幅変更
  • 業績予想に重大な影響を与える評価損益


開示内容のポイント 暗号資産への投資が大規模な場合、以下の内容を含める必要があると考えられます:

  • 投資目的・方針の明確化
  • リスクの適切な説明(価格変動、流動性、技術、規制変更)
  • 感応度分析(価格変動による業績への影響試算)
  • 四半期ごとの運用状況報告体制

企業は適切な法務体制を構築し、コンプライアンスを確保しながら戦略を実行することが重要です。

資金調達 クリプトトレジャリー会社の中には大規模な資金調達を行う会社があります。この場合、東証の300%ルール(株式価値の希薄化率が300%を超える第三者割当の場合、「株主および投資家の利害を侵害するおそれが少ないと取引所が認める場合を除き、上場廃止とする」とするルール、東証有価証券上場規程第601条第1項第15号、施行規則第601条第12項第6号)に配慮する必要があります2

また、25%ルールと呼ばれる規定(上場規程第432条、施行規則第435条の2)にも留意が必要です。これは、第三者割当増資によって発行済株式総数の25%を超える株式が新たに発行される場合、株主総会の特別決議又は独立した第三者による必要性・相当性の意見の取得を必要とするものです。投資家の持分比率が大きく変動するため、少数株主保護の観点から厳格な手続きが要求されています。

5. 会計・税務

クリプトトレジャリー戦略実施時の会計・税務対応は極めて重要です。特に上場企業は、投資家・監査法人への説明責任を果たしつつ、税務リスクを適切に管理する必要があります。

5.1 会計処理(日本基準・IFRS・US GAAP)

日本基準(JGAAP) 実務対応報告第38号により、活発な市場が存在する暗号資産は期末に市場価格で評価し、評価差額を損益に計上します。活発な市場がない場合は取得原価評価となります。
貸借対照表の表示区分は保有目的と流動性で判断されます。独立掲記する場合には「暗号資産」等として表示しますが、重要性が乏しい場合には無形固定資産やその他資産等に含めて表示します。損益計算書上の区分は事業の目的や実態に応じて判断されます。いずれも監査法人との協議と合意が求められます。

IFRS採用企業 多くの場合IAS38の無形資産でコストモデル+減損(IAS36)が採用されますが、活発な市場がある場合は再評価モデルも選択可能です。この場合、上方再評価は、OCI(その他包括利益)に計上(過去の減損の戻入に相当する部分は損益)されるため、原則として損益計算書に計上されません。
ただし日本の法人税は期末時価評価で算定されるため、IFRS採用でも税務申告上の調整が必要となり、会計と税務の乖離が生じます。

US GAAP採用企業 マイクロストラテジー等の米国企業は、ASU 2023-08を適用し、取得原価で計上後、期末ごとに公正価値へ時価評価し、評価差額を損益に計上します。IFRSと異なり、OCI(その他包括利益)ではなく常にP/L通過することになります。

5.2 法人税の取扱い

期末時価評価による課税(原則) 国税庁Q&Aによれば、「活発な市場が存在する暗号資産」は期末に時価評価し、評価差額を益金又は損金に算入します。
以下の場合でも評価対象となります:

  • DEX上場で要件を満たす場合
  • ステーキングでロック中
  • 相対レンディング中

移転制限による期末時価評価課税回避(例外) 2024年4月改正により、一定要件を満たせば期末時価評価課税の適用除外が可能になりました。

要件:

  • 暗号資産交換業者を通じた移転制限の付与
  • JVCEAへの情報届出・公表
  • 短期売買目的以外での継続保有

効果: 税務上は取得原価で評価継続でき、売却時に初めて課税されます。未実現益課税が回避でき、キャッシュフロー安定化に寄与します。

留意点:

  • 会計上は引き続き時価評価が必要(会計と税務の乖離)
  • 移転制限中はレンディング等に制約
  • 財務戦略との整合性の検討が必要

ETFとの税務構造比較 なお、ETFはパススルー課税により二重課税が避けられる一方、企業の暗号資産投資では法人段階での課税後、株主が配当・売却益で再度課税される二重課税構造となります。この点は6章で詳述するETFとの重要な相違点の一つです。

5.3 監査・内部統制

監査法人との事前合意が重要 暗号資産監査の最重要論点は「実在性」確認です。監査によって財務数値の事後的・第三者的検証が可能と判断されるためには、業務やシステムの設計に影響します。監査法人と密な協議を行い監査可能であることの事前の合意が求められます。実務的な監査論点の一例は以下の通りです:

  • 秘密鍵管理体制の整備(マルチシグ、権限分離と相互牽制、災害対策等)
  • ウォレットアドレスの証憑管理方法
  • ブロックチェーン取引履歴との照合手続き(使用するツールの信頼性含む)
  • 第三者による残高確認手続き(暗号資産交換所に預託する場合、混合寄託によって保管している取引所の残高確認を取得する、交換所側で個別管理の仕組みを設けて残高確認を可能にする等)
  • 外部委託先の内部統制評価(SOCレポートの取得可能性含む)
  • 期末における市場価格の信頼性(使用する取引所・価格の定義)

内部統制の整備 監査の前提としても重要視されるのが内部統制であり、暗号資産特有のリスクを識別し業務上適切な対応がとられる必要があります。内部統制は、社内規程で適切な粒度でルール化した上で、業務フローや業務記述書等を使って具体的に文書化される必要があります。外部の信頼できる保管・記録機関が整備されている従来の金融資産とは異なり、自ら厳格な管理体制を構築することが求められます:

  • 取締役会レベルでの投資方針承認(リスクリミットや価格急変時対応等を含む)
  • 複数人チェック体制での取引実行
  • 定期的な残高確認と帳簿照合
  • 秘密鍵の安全保管と災害時復旧手順(カストディアンを利用する場合、保管先の内部統制評価も必要)

暗号資産に精通した会計士・税理士との連携体制を構築し、定期的な相談・確認を行うことが重要です。

6. ETFとの比較と企業の市場ポジション

日本では暗号資産ETFは未承認ですが、将来承認された場合の企業戦略や市場ポジションへの影響を整理します。

6.1 米国における状況

2024年1月に米国でビットコインETFが承認されましたが、既存のクリプトトレジャリー企業の株価は引き続きプレミアムを維持しており、両者が投資家や市場に異なる価値を提供していると考えられています。

6.2 構造的な相違点

項目 ETF クリプトトレジャリー会社
レバレッジ 基本は現物保有のみ 転換社債・新株発行等でレバレッジ可能
運用戦略 指数連動のパッシブ運用 銘柄配分調整、ステーキング等の裁量あり
付加価値
価格トラッキング、低コスト 本業収益、Web3事業とのシナジー
税務構造 パススルー課税(投資家側でのみ課税) 法人税+投資家課税(二重課税構造)

6.3 企業の市場ポジショニング戦略

現状の日本市場 ETF不在のため、クリプトトレジャリー会社が「事実上のETF代替」として機能し、この特殊な市場環境が株価プレミアムの一因となっています。
ETF導入後の予想される影響 メタプラネット社は公式見解として「ETFは競合ではなく需要拡大要因」との立場を示し、「ETFがパッシブ連動する一方、トレジャリー会社は資本市場活用により1株当たりビットコイン保有量を増加させる戦略が可能」と説明しています。(参考:メタプラネット社FAQ https://metaplanet.jp/jp/shareholders/faqs)
米国ではETF導入後もプレミアムが維持されていますが、実際の日本での市場反応は投資家構造や市場環境に左右されるため、米国と同様の結果となるかは不透明です。

企業の対応戦略

  • レバレッジ効果の強調(ETFでは実現困難な上振れ可能性)
  • 事業シナジーの明確化(Web3戦略との連携等)
  • 資本効率性の訴求(1株当たり暗号資産保有量の増大等)

【コラム:投資家にとってのクリプトトレジャリー会社投資のメリット】

個人投資家がクリプトトレジャリー会社に投資することで得られる主なメリット、デメリットを参考情報として整理します。
税務上の優遇(個人投資家)
・株式投資として20.315%の申告分離課税が適用
・暗号資産の直接取引(総合課税、最高55%)と比較して大幅な低税率
・源泉徴収ありの特定口座での簡便な税務処理
投資手続きの簡便性
・暗号資産取引所への口座開設・本人確認手続き不要
・既存の証券口座から投資可能
・NISA対象となる可能性
制度的制約の回避
・暗号資産直接投資が制限されている機関投資家・年金基金等も投資可能
・社内規定で暗号資産投資が禁止されている企業の従業員も参加可能
主なデメリット・留意点
・二重課税構造: 法人レベルでの課税後、配当・売却益で個人レベルでも課税
・複合的リスク: 暗号資産価格変動リスクに加え、企業固有の事業リスクも存在
・プレミアムリスク: 株価に含まれるプレミアムが正当化されるか不透明
・ETF導入の影響: 将来のETF承認による影響が不透明

このため、クリプトトレジャリー企業は「事実上の暗号資産ETF」として一定の投資家需要を得やすい環境にある一方、投資判断には慎重な検討が必要です

7. 結語

クリプトトレジャリー戦略は、ETFとは異なるレバレッジ効果や企業価値とのシナジーを持ち、独自の投資対象としての地位を確立しつつあります。現行の日本法制度下において適切な対応により実行可能な財務戦略です。
法的論点については暗号資産交換業登録は不要であり、集団投資スキームにも該当せず、ステーキング・レンディングも自己勘定であれば規制はありません。
会計・税務面では時価評価による業績への直接的影響や期末時価評価課税といった特有の論点があるものの、2024年税制改正による移転制限制度の活用等により一定の対応が可能です。
ただし、日本企業がクリプトトレジャリー戦略を持続的に実行するためには、法的クリアランスの確認だけでは不十分です。会計・税務・IR体制を包括的に整備し、監査法人との事前合意、適切なリスク管理体制の構築、投資家への継続的な情報開示等を通じて、ステークホルダーからの理解と信頼を得ることが成功の鍵となります。
企業による暗号資産への関与は今後も拡大が見込まれる中、本稿が戦略検討の一助となれば幸いです。

謝辞
本Blogについては、Animoca Brands株式会社天羽健介氏、公認会計士柚⽊庸輔氏、齊藤洸氏よりご助言をいただきました。但し、ありうべき誤りは全て筆者らに帰します。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、筆者の現状の考えに過ぎず、筆者の考えにも変更がありえます。
・本稿は、クリプトトレジャリー戦略の利用やクリプトトレジャリー戦略企業への投資を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律、会計、税務等のアドバイスが必要な場合には各人の弁護士、会計士、税理士にご相談下さい。

  1. 金融庁 2017年3月24日パブコメNo.94(47頁)、No.95(48頁)https://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20170324-1/01.pdf
  2. 第三者割当に係る上場制度の概要及び実務上の留意事項。なお、第三者割当の定義は開示府令第19条第2項第1号ヲに規定する第三者割当をいい(上場規程第2条第67号の2)、株式の第三者割当の他、新株予約権の第三者割当を含みます。https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge7777.html