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2024年5月15日に、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第32号、以下「改正法」といいます。)が成立し、同年同月22日に公布されましたが、以下の3点に係る改正について、2025年5月1日から施行されました。
①投資運用関係業務受託業に関する規定の整備
②投資運用業に関する規定の整備
③非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備
これらは、我が国資本市場の活性化に向けて資産運用の高度化・多様化を図る、具体的には、投資運用業の新規参入を促進し、またスタートアップ等が発行する非上場有価証券の仲介業務への新規参入を促進し、非上場有価証券の流通を活性化させること等を目指したもので、投資運用業登録要件を緩和する規定の整備、またスタートアップ企業等の非上場企業の株式のセカンダリー取引等を活性化するため、非上場有価証券の取引の仲介業務に特化する等一定の要件を充足する場合は、第一種金融商品取引業の登録等要件等を緩和する等、非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備が行われました。
(1)では、①投資運用関係業務受託業に関する規定の整備、②投資運用業に関する規定の整備について概説します。
(1) 総論
2でご紹介する投資運用業の登録に関する人的体制整備の要件の緩和に伴い、投資家保護を軽視する事業者が委託を受けることがないよう(「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(以下「資産運用TF報告書」といいます。)6頁)、今回の改正で、投資運用関係業務受託業の登録制度が創設されました。
「投資運用関係業務受託業」とは、金融商品取引法(昭和23年法律第25号、その後の改正を含む。以下「金商法」といいます。)の規定により投資運用業、適格機関投資家等特例業務(自己運用に限ります。)及び海外投資家等特例業務(自己運用に限ります。)(以下、総称して「投資運用業等」といいます。)を行うことができる者の委託を受けて、当該委託をした者のために以下の業務(金商法第2条第43項。以下「投資運用関係業務」といいます。)のいずれかを業として行うことをいい(金商法第2条第44項)、投資運用関係業務受託業を行う者のうち、内閣総理大臣の登録を受けた者を「投資運用関係業務受託業者」としています(金商法第2条第45項、第66条の71)。
投資運用関係業務受託業は登録を受けなくても行うことは可能ですが、2でご紹介するように、投資運用関係業務受託業者に投資運用関係業務を委託した場合に限り、投資運用業の登録要件が緩和されますので、人的体制整備に係る登録要件の緩和の適用を受けることを前提に投資運用業に参入しようとする事業者から投資運用関係業務を受託するためには、投資運用関係業務受託業の登録が必要となります。
(2) 登録
投資運用関係業務受託業者としての登録を受けようとする場合、以下の①の事項を記載した登録申請書を、以下の②の書類を添付して、提出する必要があります(金商法第66条の72、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号、その後の改正を含み、以下「業府令」といいます。)第348条から第350条)
①登録申請書記載事項
②添付書類
(i)法人・個人共通の添付書類
(ii) 法人の場合の添付書類
(iii) 個人の場合の添付書類
金商法第66条の74各号に定める登録拒否事由に該当する場合、又は登録申請書若しくはその添付書類に虚偽の記載若しくは記録があり、若しくは重要な事実の記載若しくは記録が欠けている場合には、投資運用関係業務受託業者の登録は拒否されます(金商法第66条の74)。業務の種別以外の登録申請書の記載事項(上記の①)に変更が生じた場合は、その日から2週間以内に届出が必要であり(金商法第66条の75第1項)、業務の種別を変更しようとする場合は、変更登録を受ける必要があります(同条第4項)。また、登録申請の添付書類として提出した業務方法書に記載した業務の内容又は方法に変更があった場合も、遅滞なく届出を行うことが必要となっています(同条第3項)。以下の各事由に該当する場合には30日以内に届出を行う必要があり、かつ、投資運用関係業務受託業者の登録は効力を失います(金商法第66条の83)。
(i) 法人・個人共通の届出事由
(ii) 法人の場合の届出事由
(iii) 個人の場合の届出事由
(3) 行為規制
投資家保護や業務の質の確保の観点から(資産運用TF報告書6頁)、投資運用関係業務受託業者には以下のような行為規制が課されています。
投資運用関係業務受託業を適確に遂行するための業務管理体制として、以下の事項の整備が求められています(業府令第358条)。なお、各事項に関する留意点は投資運用関係業務受託業者向けの監督指針III-2-1に定められています。
投資運用関係業務受託業者は、以下の記録を作成し、当該記録を作成日((ii)については業務終了日)から10年間保存する必要があります(業府令第360条)。
(i)当該投資運用関係業務受託業者が行った投資運用関係業務に関する以下の(a)から(c)に掲げる事項に係る記録
(ii)その委託を受ける投資運用関係業務に係る契約に関する記録
また、投資運用関係業務受託業者は、事業年度経過後3か月以内に事業報告書を提出する必要があります(金商法第66条の82)。
(1) 投資運用業の登録要件の緩和
投資運用業を行うためには、原則として「投資運用業」の登録が必要ですが、当該登録を行うためには最低資本金や人的体制の整備等の厳しい要件を満たすことが必要とされており、投資運用業への参入の障壁となっていました。そこで、我が国の経済成長と国民の資産所得の増加に繋げていく観点から、投資運用業者の参入を促進するため、以下の2点について、投資運用業の登録要件が緩和されることになりました。
(i) 人的体制の整備の緩和
従来、投資運用業の登録を行うためには、法令遵守等に関する業務を担う人材(いわゆるコンプライアンスオフィサー)を自社で採用する必要があり(適格投資家向け投資運用業を除き、外部委託は不可とされていました。)、かかる人材の確保が投資運用業の登録にあたり実務上負担となっていました。
そこで、今回の改正では、投資運用業者による当該業務等の外部委託が可能とされました。具体的には、金商法に基づき投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に対し、投資運用関係業務を委託する場合には、当該業務を担う人材を自社で確保することを要せず、当該業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保すれば足りることとして(金商法第29条の4第1項第1号の2)、人的体制整備の要件が緩和されました。
「当該業務の監督を適切に行う能力を有する者」とは、投資運用関係業務受託業者に委託する投資運用関係業務の内容を理解し把握するとともに、当該投資運用関係業務受託業者に対して適確に指示を行う能力がある者をいい、当該投資運用関係業務を直接遂行するにあたって必要な知識及び経験並びに過去に投資運用業に関する業務に従事していた経験は問わないとされています(金商業者向け監督指針VI-3-1-1(1)①ニ)。具体的にどのような経験があればこれに該当するといえるのかは明確ではなく、今後の運用が注目されます。投資運用関係業務を委託する場合、登録申請書にその旨並びに委託先の商号、名称又は氏名及び当該委託先に委託する投資運用関係業務の内容、並びに(登録を受けた投資運用関係業務受託業者に委託する場合は)投資運用関係業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保する旨及び当該役員又は使用人の氏名又は名称を記載することが必要になります(金商法第29条の2第1項第12号、金融商品取引業等に関する内閣府令第6条の6)。なお、施行の際に現に投資運用関係業務を委託している金融商品取引業者については、施行日に変更があったものとみなして、施行日から6か月以内に変更届を行う必要があります(改正法附則第8条第1項)。
なお、上述のとおり、投資運用関係業務受託業者としての登録は任意で、登録を行わなくても投資運用関係業務を行うことは可能ですが、投資運用業の登録要件が緩和されるのは、投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に投資運用関係業務を委託した場合に限定されていますので、実際には、投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に委託が行われることが多くなるのではないかと推測されます。
(ii) 最低資本金及び純財産額要件の緩和
原則として、投資運用業(適格機関投資家向け投資運用業を除きます。)の登録を行うためには、資本金額及び純財産額が5000万円以上であることが必要とされていますが、今回の改正に伴い、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者[1]にもかかる預託をさせない場合には、最低資本金及び最低純財産の額が1000万円以上に緩和されました(金商法第29条の4第1項第4号イ及び第5号ロ、金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号、その後の改正を含みます。以下「金商法施行令」といいます。)第15条の7第1項第4号及び第15条の9第1項)。また、その前提として、登録申請書に、金銭又は有価証券の預託の有無を記載することになりました(金商法第29条の2第1項第5号の2)。
顧客から金銭又は有価証券の預託を受けないこととは、投資運用業に関して現に顧客から預託を受けず、今後も預託を受ける意思がない場合が想定されています(金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(令和7年3月28日)(以下「パブコメ回答」といいます。)No.22)。
なお、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けない既存の金融商品取引業者が、かかる例外の適用を受けるためには、施行日から6か月以内に変更登録の申請を行う必要があります(改正法附則第7条)。
(2) 運用権限の全部委託の許容
従来、投資運用業者は、すべての運用財産につき、その運用に係る権限の全部を委託することが禁止されていました(改正前の金商法第42条の3第2項)。しかしながら、欧米では運用の企画・立案をする事業者がファンドの運営機能に特化し、運用(投資実行)を全部委託する形態が一般的になっています(金融庁2024年3月「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」3頁)。日本においても、かかるファンドの運営機能(企画・立案)に特化することを可能とすべく、今回の改正により、運用権限の全部委託を禁止する規定が撤廃され、運用権限の他の登録投資運用業者への全部委託が可能となりました。
運用権限の外部委託を行う場合、委託先の品質管理を適切に行うことが重要であることから(資産運用TF報告書7頁)、かかる外部委託を認める前提として、投資運用業者は、外部委託を行う場合、受託者に対し、運用の対象及び方針を示し、以下の①から③記載の、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じなければなりません(金商法第42条の3第2項、業府令第131条第2項、金商業者向け監督指針VI-2-2-1(1)④、VI-2-3-1(1)④及びVI-2-5-1(1)④)。
①委託先の選定の基準及び委託先との連絡体制の整備
②委託先の業務遂行能力及び委託契約の遵守の状況を継続的に確認するための体制の整備
③委託先が当該委託に係る業務を適正に遂行することができないと認められる場合の対応策(業務の改善の指導、委託の解消等)の整備
(3) 投資助言業の規制との比較
今回の改正により、投資運用業の規制が一部緩和されたことから、投資助言業の登録を行わず、又は投資助言業とあわせて投資運用業の登録を行うことを検討される事業者もいると推測されます。そこで、今回の改正により規制が一部緩和された事項が、投資助言業の規制と比較して、より緩和されたのかについて検討します。
(i)投資運用業の方が規制が緩和された点
今回の改正で投資運用業の規制が投資助言業の規制に比べて緩和された点は、投資運用関係業務を委託することができる点です。
投資運用関係業務は投資運用業等に関して行う業務に限定されており(金商法第2条第43項)、今回の改正により投資助言業において求められる人的構成要件に係る審査の運用が変更されるものではないとされていることから(パブコメ回答No.8)、仮に投資助言業の登録申請を行う者が、法令等を遵守させるための指導に関する業務を投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に委託したとしても、投資助言業に係る業務につき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員又は使用人を自ら確保しているとは必ずしも認められず、投資助言業の登録を受けるためには、かかる人材を自ら確保する必要があると判断される可能性があります。もっとも、パブコメ回答によれば、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託の可否について、「個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、当局や当該業者への連絡体制などが構築できる場合等には、コンプライアンス業務を外部委託することが認められる場合もあるものと考えられます。」としており(同回答No.8)、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託も必ずしも否定されていないと考えられていることから、一概に投資運用業の方が規制が緩和されたとはいえないところはありますが、法令上委託の要件が明確な点で、実務上投資運用業の方がコンプライアンス業務の外部委託を行いやすいのではないかと思われます。
(ii)投資運用業の方が規制が厳しい点
他方、今回の改正で緩和された以下の点については、改正後も投資運用業の方が、投資助言業より厳しくなっています。ただし、二点目については、外部委託を許容する以上、委託元である投資運用業者による外部委託先の投資運用業者の監督が適正になされなければならないことは自明であり、必ずしもそれ自体が重大なハードルになる可能は高くないと思われます。
・最低資本金及び純財産要件
金銭又は有価証券の預託を受けない場合、最低資本金及び純財産の額が緩和されましたが、最低資本金額及び純財産の要件自体は維持されます。これに対し、投資助言業については最低資本金及び純財産の要件はありません。
・運用権限の全部委託
今回の改正で運用権限の全部委託が可能となりましたが、委託を行う場合、委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置等を講じる等の義務が課されています。これに対し、投資助言業については外部への委託について特に制限はありません。
留保事項
[1] 有価証券等管理業務を行う金融商品取引業者、銀行、協同組織金融機関、保険会社(外国保険会社等を含みます。)、信託会社及び株式会社商工組合中央金庫以外の者で、以下に該当する者をいいます(金商法施行令第15条の4の2、業府令第6条の2)。
・当該登録申請者の役員(役員が法人の場合の職務執行を行う社員を含みます。)又は使用人
・当該登録申請者の親法人等又は子法人等
・当該登録申請者の総株主等の議決権の50%を超える議決権を保有する個人