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ミームコイン |
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(1) ミームコインとは/本稿の狙い
ミームコインとは、主にインターネットのミーム(流行のネタやジョーク)をもとに作られたトークンのことを指します。通常の暗号資産(ビットコインやイーサリアムなど)と比べて、技術的な革新性や実用性よりも、コミュニティの熱狂やソーシャルメディアでの話題性によって価値が大きく変動する特徴があります。
ミームコインは、仮想通貨の黎明期である2013年にDogecoinが登場して以降、ブームと低迷を繰り返してきました。しかし、2024年にはpump.funのようなミームコイン作成プラットフォームの登場、イーロン・マスク氏によるDogecoinへのたびたびの言及、2025年にはアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏自らがミームコイン「TRUMP Token」を発行するなど、AIを活用した新しいミームコインの誕生とともに、海外では大きな盛り上がりを見せています。
一方、日本では暗号資産に関する規制が厳しいこともあり、ミームコイン市場は海外ほど活発ではないと考えられます。しかし、コミュニティトークンの分野では一定の存在感があり、筆者らに対してもミームコインの可能性についての問い合わせが寄せられていることから、本稿を執筆するに至りました。
(2) ミームコインの具体例
ミームコインの代表的な例としては、以下のようなコインが発行されています。
コイン名 | 発行年 | ブロックチェーン | 主な特徴 |
Dogecoin (DOGE) | 2013年 | 独自チェーン | ミームコインの元祖。シンボルマークは日本の柴犬であるカボスちゃん。イーロン・マスク氏が度々言及するなど同氏の影響が大きい。米国のDepartment of Government Efficiency(政府効率化省)の略称DOGEはこのコインからとられている。 |
Shiba Inu (SHIB) | 2020年 | Ethereum |
2020年8月に匿名の開発者Ryoshiによって誕生。Dogecoinキラーとして宣伝され、2021年に急成長。犬コインブームの一角を担う。 |
Bonk (BONK) | 2022年 | Solana | Solana上の人気ミームコイン、エアドロップで話題。 |
PEPE (PEPE) | 2023年 | Ethereum | 漫画「ボーイズ・クラブ」に登場するカエルのキャラクターのミーム。短期間で爆発的に価格上昇。 |
ai16z | 2024年 | Solana |
AIとミームを融合させたトークンの一つ。Web3 AI Agent銘柄。 |
TRUMP | 2024年 | Solana | ドナルド・トランプ大統領が自身の名を冠したミームコイン。トランプ氏が公式Xで発行を発表して急騰。 |
Test (TST) | 2025年 | BNB Chain | BNB Chainチームによって作成されたトークン。バイナンス創業者ジャオ・チャンポン(CZ)氏との関係についての憶測により話題となった。 |
Central African Republic Meme(CAR) | 2025年 | Solana |
中央アフリカ共和国の公式ミームコイン。2025年2月10日発行。 |
(3) ミームコインの発行プラットフォームの例
2024年に、海外ではpump.funというミームコインの発行プラットフォームが登場し、その登場もミームコインブームの一因となっています。pump.funは、Solana(ソラナ)ブロックチェーン上で、誰でも簡単にミームコインを作成・ローンチできるプラットフォームであり(現在はSonala以外でもEthereumのレイヤー2ネットワークであるBaseやBlastにも対応し)、ユーザーは簡易な手続で新しいトークンを発行して販売できます。
pump.funでは、ユーザーがウォレットを接続し、トークン名やシンボルなどの基本情報を入力することで、独自のミームコインを作成できます。作成されたトークンは、ボンディングカーブモデルと呼ばれる、需要が増えると価格が上昇し、供給が増えると価格が下落する仕組みによって販売価格が設定されます。
pump.funの特徴
特徴 | 内容 | リスク |
簡単なトークン作成 |
→数クリックで誰でもミームコインを作成可能。 |
誰でも作成可能なため、詐欺プロジェクトが増加する可能性。 |
ミームコイン市場の活性化 |
→pump.fun発のミームコインがSNS(特にX/Twitter)で話題になりやすい。 |
→ブームが去ると急落しやすく、持続性に欠ける。 |
以上のように、注目を受けるpump.funですが、他方、必要な米国証券法上の登録を得ずにSecurityを販売しており米国証券法に違反しているとして集団訴訟の対象となる2、米国の法律事務所であるBurwick LawとWolf Popper LLPからpump.funが同事務所の名称やロゴを無断で使用したトークン(例:DOGSHIT2)を作成・配布し、同事務所の知的財産権を侵害しているとしてトークンの即時削除を求められるなど3、相応の法的リスクも顕在化しています。
pump.fun以外の発行プラットフォームの例
名称 | 概要 | 特徴 |
Memelandia4 | テレグラム発のブロックチェーン「The Open Network(TON)」が立ち上げたミームコイン発行プラットフォーム。 | ユーザーが独自のミームコインを手軽にローンチし、取引できるプラットフォーム「ローンチパッドLair」を提供。 |
Sato Pump5 | EVMチェーンによるミームコイン発行プラットフォーム兼DEX。 | pump.funに比べ、少額の資金で容易にミームコインの発行を実現する特徴的な設計を備えるとされている。 |
Memecoin Solution6 | BNBチェーン上で、ミームコインプロジェクトを作成できるノーコードプラットフォーム。 | 9種類のミームコイン専用ローンチパッドからプロジェクトの目的やテーマに適したものを選択可能。 |
(4) 日本におけるミームコインの発行状況
日本では、後述するように暗号資産交換業に関する規制が厳しく、TRUMP Tokenやai16zコインのようなミームコインの発行・販売には厳格な法規制が適用されるため、容易ではありません。
しかしながら、決済手段性や配当性を持たないトークン(いわゆるNFTなど)としてであれば発行・販売が容易なこともあり、コミュニティトークンを中心に、例えば、下記のようなプロジェクトが誕生しています(各プロジェクトの法規制の遵守状況等を筆者らが調査したものではありません)。
日本で発行されたミームコインの例
(5) ミームコイン活用のメリットとリスク
名称 | 概要 | 特徴 |
モナコイン (Monacoin) |
2013年12月に日本で初めて開発されたミームコイン。ASCIIアートの猫「モナー」をモチーフにしている。 | →ライトコイン派生のPoW方式を採用。 →発行当時は日本では暗号資産規制は存在していない。 →日本の暗号資産コミュニティで広く受け入れられ、投げ銭やオンラインゲームでの利用実績がある。 →現在は日本の各取引所に上場されている。 |
ガチホトークン | 著名ブロガー・イケハヤ氏が「FiNANCiE」上で発行したミームコイン。 | →「ガチホ(長期保有)」をテーマにしたトークン。 →実用性よりもコミュニティ内での価値共有やエンターテインメントを目的とする。 →NFTとして発行されているのではないかと思われる。 |
NYANMARU Coin | パチンコ業界大手マルハンのオリジナルキャラクター「にゃんまる」をモチーフにしたミームコイン。 | →GFA株式会社がNYANMARU Coinの取引所への上場支援を行っていることを公表7。 →堀江貴文氏(ホリエモン)がPRやマーケティングを担当 →海外の取引所に上場しており、日本居住者には販売しない暗号資産という整理なのではと想像。 →現時点で特定のロードマップが存在しない。 |
(5) ミームコイン活用のメリットとリスク
ミームコインは、インターネットのジョークや特定の文化を反映したトークンであり、コミュニティの支持を受けやすいという特徴があります。しかし、実用性よりも話題性や投機性が重視されるものが多く、価格変動が激しく、詐欺リスクも伴う点に注意が必要です。
ミームコインのメリット
メリット | 内容 |
コミュニティの強化 | ミーム文化を背景にしたプロジェクトはファン層の結束が強く、支持されやすい。 |
低コストで発行可能 | 少額での販売が可能なため、一般層にもリーチしやすい。 |
Web3の入門としての役割 | 投資経験の少ないユーザーが自らコインを発行してブロックチェーンの仕組みに触れる機会を提供する。 |
短期間で注目を集めやすい | SNSやインフルエンサーの影響で急激に価値が上がる可能性がある。 |
ミームコインのリスク
リスク | 内容 |
ボラティリティーの激しさ |
ミームコインは短期間で大きく値上がりすることもあるが、同様に急落することも多い。 |
詐欺やラグプル= Rug Pullの危険性 | ミームコインの多くは匿名開発チームによって作成されており、開発者が大量のトークンを売り抜けてプロジェクトを放棄するラグプルの事例が多い。また、当初から詐欺目的のトークンも存在する。 |
ポンジスキームの可能性 |
新規投資家からの資金を既存の投資家への配当に充てることで、持続不可能な形で成長するトークンも存在する。 |
流動性の低さ |
一部のミームコインは取引所での流動性が低く、大量売却時に価格が大幅に下がる可能性がある。 |
実用性の欠如・長期的な成長が難しい |
ほとんどのミームコインは特定のユースケースを持たず、価格がコミュニティの熱量やトレンドに依存している。 |
規制リスク |
ミームコインプラットフォームが規制当局の監視対象になることが増えており、今後、未登録証券とみなされるリスクがある。 |
(6) 発行者と消費者の注意点と対策
上記のとおり、ミームコインにはメリットが存在するとともに、様々なリスクも存在します。そのため、健全なビジネスとしてミームコインを発行する者としては、消費者からの信頼を獲得するため、また、消費者としては、詐欺的なプロジェクトによる被害を回避するために、以下のような対策を講じたうえで取引を行うことが考えられます。
現在、海外で発行されているミームコインの多くは、日本では資金決済法上の「暗号資産」に該当し、その販売や取扱いには法規制が適用されます。以下では、暗号資産とその取扱いに関する規制の概要を述べます。なお、暗号資産の定義や暗号資産交換業の規制に関する詳細は別紙をご参照下さい。
(1)資金決済法による規制
概略として、暗号資産とは、ブロックチェーンで発行されるトークンであって、物品や役務の対価として、不特定の者に対して使用でき、不特定の者との間で売買できるものを意味します(資金決済法2条14項)。そして、暗号資産の売買やその媒介等を業として行うことは、暗号資産交換業(同法2条15項)に該当し、内閣総理大臣の登録(同法63条の2)を受けるほか、広告の際の一定の情報の明示義務(同法63条の9の2)や、利用者の預託資産の分別管理義務(同法63条の11)が課されるなど、資金決済法上の各種の規制を遵守する必要があります。
(2)その他の法令による規制
他の法令においても暗号資産取引に関する各種の規制が設けられています。
先ず、金融商品取引法では、暗号資産のデリバティブ取引を業として行うことについては、第一種金融商品取引業の登録(金融商品取引法28条)が必要とされるほか、広告・勧誘の規制(同法37条・38条)、自己資本比率の維持義務(同法46条)などが設けられています。また、暗号資産の現物取引やデリバティブ取引に関する虚偽表示・風説の流布・相場操縦なども禁止されています(同法185条の22~24)。
さらに、犯罪収益移転防止法においても、暗号資産交換業者は、一定の取引について、本人確認義務(KYC)(犯収法4条)を負う等の規制が設けられています。
(3)ICO、IEOに関する規制
ミームコインを暗号資産として発行する場合、発行者自らが暗号資産を販売する場合(ICO:Initial Coin Offering)や、発行者が暗号資産取引所上場して販売を委託する場合(IEO:Initial Exchange Offering)が考えられます。
ICOについては、発行者が暗号資産の売買を行うことになるため、発行者自身が暗号資産交換業の規制を受けることになります。IEOについても、取引所からの審査の他、一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)および金融庁(FSA)の審査をパスしなければなりません。
このように、暗号資産に該当するミームコインを発行者が自ら販売する場合(ICO)でも、暗号資産取引所に上場させる場合(IEO)でも、重い規制が課されることになります。
上記のとおり、ミームコインを暗号資産として発行・販売する場合には、暗号資産に関する各種規制をクリアする必要があります。
しかし、暗号資産に該当しない形でミームコインを設計・発行する方法や、暗号資産交換業に該当しない形でミームコインを発行・運用する方法を検討することで、厳しい規制対応のコストを回避しつつ、発行を実現することも可能と考えられます。
以下、その具体的な方法について説明します。
(1)暗号資産に該当しないミームコインの設計
金融庁の暗号資産交換業者関係ガイドライン(以下「暗号資産ガイドライン」といいます。)8を踏まえると、以下の①~③のいずれかの工夫をすることで、暗号資産の規制を受けずにミームコインを発行・販売できる可能性があります。
対策 | 具体例 |
①決済手段としての使用禁止をし、かつ、価格や供給量を制限 |
・決済手段としての使用禁止を規約や商品説明等で明記するか、または、システム上決済手段に使用されない仕様とする。 and ・ミームコインの最小取引単位当たりの価格を1000円以上に設定するか、または、分割可能性を踏まえた発行数量を100万枚以下に限定する。 |
②①以外の方法での不特定の者に対する使用を制限 |
・ネットワークを通じた不特定の者の間での移動を不可能にする。 |
③1号暗号資産との交換制限 | ・1号暗号資産と交換できないよう制限を設ける。 |
暗号資産ガイドラインでは、暗号資産に該当するか否かは最終的に個別判断されるとしつつ、以下の基準(抜粋)を示しています。
暗号資産ガイドライン抜粋 ①「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」という1号暗号資産の該当性を判断するにあたって、以下のポイントを検討する。 (a)ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか。 (b)発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか。 (c)発行者が使用可能な店舗等を管理していないか。 そして、以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。 イ)発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること。)。 ロ)当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること。 ▶最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること(例えば1000円以上のトークンについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられる9。)。 ▶発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること(例えば100万枚以下である場合には、「限定的」といえると考えられる10。)。 ただし、上記イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合がある。 ②2号暗号資産の該当性に関して、「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる」ことを判断するに当たって以下のポイントを検討する。 (a)ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか。 (b)発行者による制限なく、1号暗号資産との交換を行うことができるか。 (c)1号暗号資産との交換市場が存在するか。 (d)1号暗号資産を用いて購入又は売却できる商品・権利等にとどまらず、当該暗号資産と同等の経済的機能を有するか。 ③2号暗号資産の該当性に関して、「1号暗号資産を用いて購入又は売却できる商品・権利等にとどまらず、当該暗号資産と同等の経済的機能を有するか」を判断する上では、上記①の考え方が同様に当てはまる。 |
(2)暗号資産交換業に該当しないミームコインの取扱い
暗号資産に該当するミームコインを発行する場合であっても、暗号資産の売買・交換、他人の暗号資産の管理、といった暗号資産交換業に該当する方法以外で暗号資産を取り扱う場合でれば、暗号資産交換業の規制の適用を受けることなく実施可能です。例えば以下の取り扱いなどは暗号資産交換業の規制対象外です。
➡暗号資産の無償配布
➡暗号資産の報酬としての配布
➡暗号資産の貸付
ミームコインを暗号資産に該当しないものとして設計しても、他の金融規制に抵触する場合には、ミームコインの発行者には重い義務が課せられます。そのような事態を避けるため、特に以下の金融規制の適用を回避する設計になっているか、適切に検討する必要があります。
(1)電子記録移転権利(金商法)
ミームコインの購入者に対し、ミームコインの販売収益をもとにした事業利益の分配が行われる場合、ミームコインが「集団投資スキーム持分」(金融商品取引法2条2項5号)を表章するトークンであるとみなされ、電子記録移転権利(同法2条3項)に該当する可能性があります。
この場合には、以下のような金商法の規制が適用されます。
➡発行の際、金融商品取引法の開示規制が適用(同法3条3号ロ)
➡販売について金融商品取引業の登録が必要(同法29条)
➡その他、各種の金融商品取引業者に係る規制が適用
(2)前払式支払手段に関する規制(資金決済法)
ミームコインが、金銭を対価に発行され、当該金額がサーバー等に記載又は記録され、発行者の指定する相手に対する支払い手段として利用可能な場合、資金決済法上の「前払式支払手段」(同法3条1項)に該当する可能性があります。
この場合には、以下のような資金決済法の規制が適用されます。
➡発行者が販売したミームコインの未使用残高が3月末又は9月末に1,000万円を超える場合、届出が必要(自家型:資金決済法5条、14条1項、資金決済法施行令6条)
➡第三者にも利用可能な場合、登録が必要(第三者型:同法7条)。
(3)電子決済手段としての規制(銀行法、資金決済法)
ミームコインが、法定通貨と価値が連動し、発行者が額面金額での償還を約束している場合、電子決済手段(資金決済法2条5項)に該当する可能性があります。
この場合には、以下のような銀行法又は資金決済法に関する規制が適用されます。
➡発行者は、銀行業免許(銀行法4条1項)又は資金移動業者登録(資金決済法37条)が必要。
➡電子決済手段の売買・仲介・管理行為を行う場合、電子決済手段等取引業(同法2条10項)の登録(同法62条の3)が必要。
また、一般社団法人暗号資産ビジネス協会発出の「NFTビジネスに関するガイドライン」11が、NFTの法規制に係る検討フローチャートを以下ように整理しています。このフローチャートは、ミームコインの法規制を検討する場合にも大いに参考になりますので、ご覧下さい。
上記のような日本の金融規制を回避できる現実的なミームコインの発行モデルとしては試案としては、以下のようなものが考えられます。ただし、これらはあくまで例示であり、上記IIの1~3の金融規制の内容を踏まえたうえで、その適用を受けずに発行できるミームコインの設計については、さまざまなものが検討できるのだろうと思われます。
(1)暗号資産等に該当しないトークンとして発行するケース
具体例
▶ECサイトの購入者にECサイトの商品の割引に使える無償ポイントとして付与
▶アーティスト・アイドルのファントークン
▶コミュニティやインフルエンサーなどの個人の活動に紐づいたファントークン
▶保有者限定のコンテンツアクセス権や特典グッズの一つとして販売
具体例
▶デジタルアートや音楽に紐づいたミームコイン
▶ゲーム内アイテム・キャラクター・ランドに紐づいたミームコイン
(2)暗号資産に該当する場合でも金融規制の適用を受けないケース
具体例
▶SNS・動画配信サービスのエンゲージメント報酬(「いいね」「コメント」「シェア」等に応じて付与)
▶ブロックチェーンゲーム内でのログイン報酬・プレイ報酬
具体例
▶イベントに伴うエアドロップキャンペーン
▶新規登録ボーナス
なお、金融規制に抵触しない形でミームコインを発行した場合でも、自由に販売できるわけではありません。例えば以下のような法規制に違反しないように気を付ける必要があります。
(1)特定商取引法
ミームコインをインターネットを通じて販売する場合、特定商取引法に基づき、以下のような規制が適用されます。
➡広告の表示の義務(特商法11条)
➡誇大広告等の禁止(同法12条)
➡未承諾者への電子メール広告の禁止(同法12条の3)
➡不実の告知の禁止(同13条の2)
➡契約解除に伴う債務不履行の禁止(同法14条1項1号)
➡顧客の意に反した申込み勧誘の禁止(同法14条1項2号) 等
(2)賭博罪(刑法)
ミームコインの販売手法として、いわゆる「ガチャ」や「パッケージ販売」など、ランダムな数量や種類のトークンを提供する場合、賭博罪(刑法185条・186条)が成立する可能性があります。
➡購入者が経済的損失を被る可能性がある場合、賭博とみなされるリスクがある。
➡JCBA、 JCBI、JBA、BCCC、C-SEPが共同で公表したガイドライン12を参考に慎重な設計が必要。
(3)景品規制(景表法)
ミームコインを商品やサービスの購入者などへ特典(おまけ)として提供する場合、以下のような景品表示法の景品規制13が適用される可能性があります。
➡くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供する場合(一般懸賞)
提供できるミームコインの金額
▶1人当たりの上限:取引価額の20倍又は10万円のいずれか低い額。
▶総額:懸賞に係る売上予定総額の2%まで。
➡全員に提供する場合(総付景品)
提供できるミームコインの金額
▶1人当たりの上限:200円又は取引価格の10分の2の金額のいずれか高い金額まで。
保有するミームコインを譲渡した場合、以下のように、個人は所得税、法人は法人税の対象となるのではないかと思われます。
(1)法人税の取扱い
法人がミームコイン(暗号資産)を譲渡した場合、譲渡価額から譲渡原価等を差し引いた譲渡損益について、その譲渡契約をした日の属する事業年度の所得の金額に算入の上、法人税の課税対象となります(法人税法61条1項)。
(2)所得税の取扱い(個人)
個人がミームコインを譲渡した場合、譲渡価額から譲渡原価等を控除した譲渡損益については、原則として雑所得(場合によっては事業所得)として、以下のとおり所得税の課税対象になります(所得税法35条、36条1項) 14。
(1)法人税の取扱い
法人がNFTを譲渡した場合の譲渡損益については、法人税の課税対象となります(法人税法22条2項)。また、暗号資産と異なり、NFTは基本的に期末時価評価課税の対象にはなりません。
(2)所得税の取扱い(個人)
個人がデジタルアートを表章するNFTを譲渡し、譲渡価額から譲渡原価等を控除した譲渡損益が生じた場合、その方法によって以下のとおり所得税の課税区分が異なります15。
売却の形態 | 所得区分 |
自ら発行したNFTを第三者に譲渡(一次流通) | 原則として雑所得(場合により事業所得) |
購入したNFTを転売(二次流通) |
原則として譲渡所得 |
本邦において、金融規制の適用を受けるミームコインを発行・販売する場合、適切な規制対応を行うために多大な費用や手間がかかることが避けられません。
特に、TRUMP Tokenのような大規模なミームコインを機動的に販売することは、現行の規制のもとでは容易ではありません。
しかし、販売を伴わない発行(報酬としての配布や無償配布など)や、決済手段性や配当性を持たないトークンであれば、金融規制の対象とならずに発行・販売できる可能性があります。
そのため、規制対応の負担を抑えつつ、ミームコインを発行・運用する方法を検討する余地は十分にあると考えられます。
ミームコインには様々な課題があるものの、暗号資産やWeb3においては、コミュニティの存在が重要な要素となります。
たとえば、Monacoinのように健全なコミュニティを基盤とするトークンは、Web3の発展において一定の役割を果たし得るでしょう。
法律や税務には複雑な課題が多いものの、適切な規制を遵守しながら健全なコミュニティトークンが発行されることは、日本におけるWeb3の発展にとっても意義のある取り組みとなる可能性があります。
(1)資金決済法の暗号資産取引に関する規制
①暗号資産の定義
資金決済法2条14項では、次のとおり暗号資産が定義されています。
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。 一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの 二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの |
上記の条文から主に以下の要件を満たすものが暗号資産に該当することになります。
(a)物品等の購入・借り受け又は役務の提供の代価の弁済のために使用できること(決済手段性)
(b)ブロックチェーン上に記録される形で財産的価値があること(財産性)
(c)不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定のものを相手方として購入及び売却を行うことができること(不特定性)
(d)本邦通貨、外国通貨、通貨建資産及び電子決済手段に該当しないもの
(e)金商法29条の2第1項8号に規定する権利を表示しないもの(セキュリティトークンではないもの)
②暗号資産の取扱いに関する規制
暗号資産に関する次の各行為のいずれかを業として行うことは、暗号資産交換業(資金決済法2条15項)に該当し、内閣総理大臣の登録(同法63条の2)を受けるほか、資金決済法上の各種行為規制を遵守する必要があります。
対象業務 | 具体的な行為 |
①売買・他の暗号資産との交換業務 | 暗号資産販売所など、自ら暗号資産の売買や交換を行う業務等。 |
②①の媒介、取次ぎ又は代理 | 暗号資産取引所(利用者間の暗号資産の売買や交換をマッチングするプラットフォーム)や、他人のための暗号資産の買い付け等。 |
③①又は②に関する金銭管理行為 | 暗号資産の販売所や取引所において、暗号資産の取引のために利用者から金銭の預託を受けること等。 |
④カストディ業務(管理業務) | 他人の暗号資産を保管する業務(ウォレットサービス)等。 |
上記④について補足すると、規制対象となるカストディ業務の解釈は暗号資産ガイドライン16に示されており、例えば、ウォレットサービスを提供する事業者が、当該アプリを使用する利用者の暗号資産を移転するための秘密鍵を預かる場合は規制対象となり得ますが、利用者の暗号資産の秘密鍵を保有しないような場合には基本的に規制対象にはなりません。
(2)金融商品取引法上の各種行為規制
金融商品取引法においても、暗号資産に関連する以下のような規制が設けられています。
①デリバティブ取引の規制
暗号資産を原資産とするデリバティブ取引(先物・オプションなど)を行う場合、金融商品取引法上の「店頭デリバティブ取引」に該当し、第一種金融商品取引業の登録(金融商品取引法28条)が必要となるほか、各種規制が適用されます。
②その他の規制
(3)マネーロンダリング規制・広告規制等
①マネーロンダリング対策(AML)
暗号資産交換業者は、犯罪収益移転防止法上の特定事業者(犯収法2条2項32号)として、以下の取引(対象取引)を行う場合には、マネーロンダリング防止のための本人確認義務(KYC)や確認記録の作成・保存義務を負います(同法4条・6条)。
また、取引時確認の結果の疑わしい取引の届出義務(犯収法8条)や外国所在暗号資産交換業者との間での契約締結時の確認義務(同法10条の4)等が課されており、さらに、暗号資産の移転時に、送付依頼人・受取人の情報を相手方の暗号資産交換業者に通知する義務(トラベル・ルール)が課されています(同法10条の5)。
②広告・マーケティング規制等
暗号資産交換業者がテレビ・ラジオ・インターネットなどで広告を行う場合、以下の情報などを明示する義務があります(資金決済法63条の9の2)。
③その他の規制
暗号資産交換業者は、利用者に対する情報提供等の利用者保護措置を講ずる義務(資金決済法63条の10)や利用者が預託した金銭や暗号資産、履行保証暗号資産の分別管理義務(同法63条の11)が課されるなど、各種の規制を遵守する必要があります。
暗号資産を大衆に向けて発行する場合、主にICO(Initial Coin Offering)やIEO(Initial Exchange Offering)の手法が用いられます。以下では、それぞれの仕組みや国内での規制、課題について解説します。
(1) ICOとして発行する場合
① ICO(Initial Coin Offering)とは?
ICOとは、明確な定義はないものの、一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や暗号資産の調達を行う行為の総称を意味します17。
例えば、自社のWeb3サービスで利用できるユーティリティトークンを販売し、その資金を開発に充てるケースがあります。
②規制と課題
ICOで発行されたトークンは通常「暗号資産」に該当し、資金決済法の暗号資産交換業の規制を受けることになります(資金決済法2条15項1号。暗号資産ガイドラインII-2-2-8-1)。
2017年~2018年に国内外で最盛期を迎えたICOですが、日本ではCoincheck事件を受けて暗号資産規制が厳格化され、厳しい規制が課されるため2018年以降は実施例が見当たりません。
(2) IEOとして発行する場合
①IEO(Initial Exchange Offering)とは?
ICOに代わる資金調達方法として、IEO(取引所を介したトークン販売)が注目されています。
IEOとは、トークンの取引所がトークンの発行者に代わってトークンを販売する資金調達手法を意味します。IEOは、暗号資産交換業者としての登録を受けた暗号資産取引所が主体的に実施し、トークンや発行者、プロジェクトに関する審査を行ったうえで取引所にトークンを上場させるため、ICOに比べて信頼性が高く、詐欺リスクが低いとされています。 また、トークン発行者自身は、その委託に基づき、トークンの販売行為の全てを取引所が担うため、通常、暗号資産交換業の登録を必要としないとされています18。
②規制と課題
IEOを実施する場合、暗号資産交換業者は取扱い暗号資産の変更について、資金決済法に基づく事前の届出(資金決済法63条の6第1項)を行う必要があります。そのためには、自主規制団体である一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)および金融庁(FSA)の審査を受けなければなりません。
JVCEAの新規暗号資産の販売に関する規則(以下「JVCEA規則」といいます。)では、IEOを行う暗号資産交換業者に対し、以下の義務などが課されています。
➡プロジェクトの適格性・実現可能性の審査(JVCEA規則15条1項1号)
➡販売の各段階(開始時・終了時・終了後)の継続的な情報開示(同15条1項2号)
➡調達資金や新規暗号資産を適切に財務諸表へ開示する態勢の確立(同15条1項4号)
➡不適切な勧誘や広告等を防ぐための態勢の構築(同15条1項5号)
➡新規暗号資産に関連するシステムの安全性検証(同17条1項)
➡JVCEAへの説明および検証の受審(同18条3項)等
JVCEAの審査をクリアした後、金融庁の審査を経て、正式に取扱い暗号資産の変更届出を提出する流れとなります。このように、IEOの場合もICOに比較して規制は緩やかではあるものの、実施には厳しい審査基準が設けられており、このようなハードルをクリアする必要がある点に注意しなければなりません。
留保事項