Crypto決済と日本法

2025.01.30

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I. 初めに

暗号資産の価格上昇に伴い、ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。
南米やアフリカでは金融インフラが不十分な地域を中心に、ビットコインやステーブルコインが日常決済で急速に普及しています。例えば、エルサルバドルではビットコインが法定通貨として採用され、納税や個人間送金にも活用されています。先進国アメリカでも、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスでCrypto決済を導入する企業が増えています。

一方、日本では2017年にビックカメラがビットコイン決済を導入したことが大きなニュースになったものの、その後のCrypto決済の普及は限定的だと思われます。その主な原因として、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きな課題です。ただし、値動きが少ないステーブルコインが普及すれば、日本でもCrypto決済が広がる可能性があります。

本稿では、Crypto決済の仕組みを解説し、日本で導入する際の法律上の論点について述べます。
本稿の「Crypto決済」とは、暗号資産決済やステーブルコイン決済を含む幅広い概念として扱いますが、法律議論は主に暗号資産を中心として議論します。ステーブルコインの売買や管理に関する規制は概ね暗号資産規制と同様であり、適宜、読み替えてお読み下さい。

II. 世界のCrypto決済の例

Cypto決済の例は、大きく分けて二つのカテゴリーに分けられます。一つはCryptoを直接決済に使用する例、もう一つはクレジットカードやデビットカードを使用した例です。下記では、海外で行われている例の一部を紹介します。

1. Cryptoを直接決済に用いる例

〇アメリカ

  • Overstock.com:ビットコイン決済を受け付ける大手オンライン専門店。
  • Whole Foods:デジタルウォレット「Spedn」でビットコインやイーサリアム決済が可能。
  • Starbucks:「Bakkt」プラットフォームを使用した決済を一部店舗で実現。

〇エルサルバドル

  • ビットコインが法定通貨として活用され、税金や個人間送金にも実現されている例があります。

〇シンガポールや韓国

  • シンガポールではフィンテック企業がCrypto決済の導入を推進。
  • 韓国のゲームプラットフォームでも決済が活発。

〇スイス

  • ルガーノ市では税金や市のサービス利用料の支払いの他、マクドナルド等各地でビットコイン決済が可能

2. Crypto決済にカードを用いる例

〇クレジットカード1/デビットカード型

  • NEXO Card: デビットカードとクレジットカードを切替可能。クレジットの場合、預託している暗号資産を担保にして資金貸付。当該資金がクレジットの支払に充てられる。デビットモードの場合には使用時に即座に暗号資産が売られる

〇デビットカード型

  • XAPO Card:ジブラルタルの暗号資産銀行であるXAPO Bank発行のカード。USDのほかBitcoinを裏付けにデビット
  • Binance Card:暗号資産を自動的に決済時に現地通貨に変換。
  • Coinbase Card: Cryptoを用いたリワードを獲得可能。
  • BitPay Card:Bitcoin、Bitcoin Cash、USDをサポート。

〇プリペイドカード型

  • Crypto.com Visa Card:チャージ型のカード。ステーキングに対するリワードが変化。

III. Crypto決済と日本法

1. 法律のまとめ

  暗号資産法 割賦法、貸金業法、前払式支払手段規制 外為法
自社店舗によるCrypto決済の受入れ なし なし 非居住者との3000万円以上の決済の場合には外為法の報告
決済代行業者を利用したCrypto決済 決済代行業者に売買規制の適用可能性 なし 同上
クレジットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 割賦法(ショッピング)及び貸金業法(キャッシング)の適用可能性 同上
デビットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 なし 同上
プリペイドカード型 なし 自家型又は第三者型として前払式支払手段規制の適用 同上

2. 自社店舗によるCrypto決済

自社の実店舗やオンライン店舗でCryptoを決済に収受する場合の規制を解説します。
日本では、暗号資産の売買、その媒介や他人のためにする管理は、暗号資産交換業として規制されています。しかし、自社の店舗でCryptoを決済として受け取ること自体については規制が存在しません。
また、受け取ったCryptoを自社で保有したり、暗号資産交換業者を利用して金銭に交換することにも規制はありません。
ただし、非居住者との間で、3000万円以上の決済を行う場合は、原則として外為法上の報告義務が発生します(外為法55条)。この報告義務は、3000万円相当のCryptoでの決済場合も同様であり、居住者による報告が必要となります。この外為法上の報告義務は、2以下の場合でも同様に当てはまります。

3. 決済代行業者を利用したCrypto決済

日本の会社の中には、自社で暗号資産を保有したり管理したりすることに抗拒感を持つ会社が存在します。これは、価格変動やハッキングなどのセキュリティリスク、会計や税務上の問題などが原因として挙げられます。
このような会社は、第三者である決済代行業者(以下「決済代行者」といいます。)を利用し、決済代行者が暗号資産を収受し、これを日本円に変換して店舗などの会社に渡すスキームが取られることがあります。

このスキームは、下記の行為の組み合わせとなります。
①暗号資産を他人のために収受する。
②収受した暗号資産を他人のために日本円に変換する。
③変換した日本円を会社に渡す。

しかし、この中の「②暗号資産を日本円に変換する」行為は、決済代行者が暗号資産交換業を営んでいるとみなされ、原則として暗号資産交換業の登録が必要と考えられます。
この点について、日本ではコンビニエンスストアや宅配便業者による収納代行が特に規制なく行われていることとの比較が問題となります。決済代行者が行う行為も収納代行であり規制は存在しないと考えられないか、以下のような整理ができないか問題となります。

①店舗から決済代行者が収納代行の権限を与えられる。
②決済代行者は暗号資産を自分のものとして収受する。
③その委任事務の処理の一環として日本円を渡す。
④これは変換行為ではなく、委任事務の処理上の支払い方法にすぎない。

このような考え方は理論上は可能かもしれませんが、筆者の経験では、実際の運用では当局との議論が厳しくなる可能性が高いと考えられます。そのため、実務上は暗号資産交換業の登録が必要な可能性が高いと考えておくのが安全でしょう。
ただし、他の業務や委任された事務に付随する形で行われる場合、その具体的な内容によっては許容される可能性もあります。この点については、ケースごとに慎重な検討が必要です。

4. クレジットカードタイプ

(1)仕組み

クレジットカードタイプのCrypto決済として考えられる典型的な例は、次のような仕組みになります2

①暗号資産交換業者またはその連携会社がクレジットカードを発行。
②ユーザーが円立てやドル立てで商品を購入。
③通常のクレジットカードとは違い、決済はユーザーの暗号資産交換業者のアカウントからビットコインなどが引き落とされる。

(2)割賦販売法

日本において、クレジットカードの発行には、「2ヶ月を超える分割支払い」「リボルビング支払い」「ボーナス一括支払い」などの機能を提供する場合に割賦販売法が適用されます。
一方、「翌月1回払い」のみのカードは割賦販売法の対象外であり、規制を受けずに発行可能です(割賦販売法2条の定義参照)。ただし、このようなカードは便利性が限られるため、実際にはほとんど発行されていません。
暗号資産にリンクするクレジットカードでも、この規制が適用されます。

(3)貸金業法

クレジットカードのキャッシング機能は、商品やサービスの購入ではなく、借入であるため、割賦販売法ではなく貸金業法の規制対象となります。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、キャッシングを円や外貨で行える場合には貸金業が適用されます。ただし、暗号資産でキャッシングできる場合は、暗号資産レンディングには貸金業法が適用されないため規制対象外です(貸金業法2条の定義参照)。

(4)暗号資産法

暗号資産にリンクしたクレジットカードの場合、この暗号資産の保管には暗号資産交換業が適用されます。
さらに、決済の過程で暗号資産の売買行為に該当することがあります。

  • ユーザーがクレジットカードを使用して商品を購入。
  • その代金相当額の暗号資産を売却し、金銭をクレジットカード発行会社に渡す。

この場合、上記行為は暗号資産の売買であり、暗号資産交換業の登録が必要になると思われます。
なお、クレジットカードの決済は原則として金銭で行うが、ユーザーが事後的に暗号資産での代物弁済を選択できる、といったスキームである場合、これは代物弁済にすぎず、暗号資産交換業は適用されないと思われます。

5. デビットカードタイプ

(1)仕組み

デビットカードタイプのCrypto決済の典型的な例は次のような仕組みです。
①暗号資産交換業者またはその連携会社がデビットカードを発行。
②ユーザーが暗号資産交換業者にビットコインなどを預託。
③ユーザーは預託した暗号資産の範囲で、円立てやドル立てで商品を購入可能。
④商品購入時に、ビットコインが自動的に円転される。

(2)デビットカード発行に関する規制

日本では、デビットカードの発行自体には特別な規制はありません。しかし、例えば普通のデビットカードは預金を組み合わせて発行されるため、銀行法の適用対象となります。
一方、暗号資産を連携したデビットカードの発行には銀行法は適用されず、以下の論点が生じる可能性があります。

(3)暗号資産法

他人の暗号資産を業として管理する場合は、暗号資産交換業者としての登録が必要となります。また、売買規制が適用される可能性もあります。

6. プリペイドカードタイプ

(1)仕組み

前払式支払手段とは、図書券やAppleギフトカード、Amazonギフトカードのように、事前に対価を支払い、その対価に応じた、残高などが付与され、残高で決済ができる仕組みをいいます

前払式支払手段型のCrypto決済は、次のような流れになります。
①発行会社がプリペイドカードを発行。
②ユーザーが発行会社にビットコインなどを送付。
③送付されたビットコインの時価に従ったチャージが行われる。例:0.001BTCであれば1.5万円相当。
④ユーザーがカードを使用した際に、チャージ残高から減額される。

(2)前払式支払手段の発行規制

日本における前払式支払手段の発行は、「自家型」と「第三者型」に分けられます。

  • 自家型: 発行会社自身の製品やサービスのみを対象とした支払手段。
  • 第三者型: 他社の製品やサービスにも対応できる支払手段。

自家型の場合には届出、第三者型の場合には登録が必要となり、いずれの場合も未使用残高の半分の供託などの規制がかかります。

ただし、次の場合は規制が適用されません。

  • 自家型、第三者型を問わず、有効期間が6ヶ月未満に設定されている場合
  • 自家型で3月末及び9月末の未使用残高合計が1000万円以下の場合

(3)暗号資産法の適用

プリペイドカードは、クレジットカードやデビットカードと異なり、原則として暗号資産交換業の規制は適用されないと考えられます。この理由は下記のとおりです。
①発行会社は暗号資産を保管しているわけではない。
②チャージで、暗号資産の金額に応じたチャージがなされるが、これは金銭と暗号資産の交換ではない。あくまで前払式支払手段の発行行為にすぎない。
③暗号資産同士の交換にも該当しない。

ただし、チャージした暗号資産を、再度暗号資産に戻すこと(払い戻し)が可能なスキームの場合、実質的には暗号資産の預託とみなされ、暗号資産交換業におけるカストディ規制が適用される可能性があります。

IV. 法律以外の問題

1. Crypto決済と税務

(1)Crypto決済時の利益確定について

Crypto決済は、決済を行った時点で利益が確定したとされ、この利益に税が課されます。たとえば、1万円で取得した暗号資産が5万円に値上がりし、その暗号資産を使用して決済を行った場合、4万円の利益が発生します。この利益は、個人の場合「雑所得」に分類され、他の所得と合算した総合課税にて、最大55%の税率が適用されます。

(2)少額決済の記録と確定申告の手間

Crypto決済を行った場合には、上記のような課税がなされるため、原則として確定申告が必要になります。雑所得が20万円以下であり、かつ1か所から給与を受け取らない給与所得者である等の場合には確定申告の義務がありません。
しかし、雑所得が20万円を超える場合や、雑所得が20万円以下でも自営業者、フリーランス、副業がある等でそもそも確定申告の義務がある場合、Crypto決済での利益についても1円単位で申告する必要があります。
たとえば、日常的な買い物で暗号資産を使用した場合、各取引時点の暗号資産の時価を記録し、その利益を合算して申告することが求められます。この記録と計算の手間は非常に煩雑であり、特に少額決済を頻繁に行う場合、実務上大きな負担となります。
なお、この問題は、本来は、海外旅行で余った外貨を後日使用した場合にも適用されます。例えば1ドル120円の時に入手した10ドルを、何年後かの海外旅行で1ドル150円で使用した場合には、差額の30円×10ドル=300円について雑所得として課税され、確定申告が必要となります。

(3)Crypto決済への海外での課税

海外では暗号資産に関するキャピタルゲイン課税がない国や、ある場合にも少額の場合や長期保有の場合に課税対象外とする、という国があります。

(各国の税制=Chat GPT等調べ)

1 個人の暗号資産取引についてキャピタルゲイン課税がない国 シンガポール、ポルトガル、スイス、マレーシア、UAE、エルサルバドル
2 個人が長期で保有した場合、キャピタルゲイン課税がない国 ドイツ(1年以上保有した場合には非課税)
3 一定の限度額の範囲でキャピタルゲイン課税がない国 イギリス(年間6000ポンド=約120万円まで)
イタリア(年間2000ユーロ=約32万円まで)
韓国(年間2500万ウォン=約250万円まで)
ブラジル(月額35,000ブラジルレアル=約90万円まで)
4 少額決済には非課税の国 オーストラリア(1取引が10,000豪ドル=約90万円以下の「個人的利用目的(Personal Use Asset)と見なされる場合、非課税)
5 少額決済への非課税化を現在議論中の国 アメリカ(現在は短期保有か1年以上保有の長期保有かに分けて課税。1回あたり200ドルまで利益の少額決済については課税しない議論が進行中)
6 少額決済でも基本的に課税される国 日本(但し、確定申告義務ない人の場合には20万円までの雑所得は非課税)、フランス、カナダ、アルゼンチン

日本で暗号資産のキャピタルゲインを課税しない議論は極めて難しいと思われます。また、G7でも米国、フランス、カナダが課税の現状下、少額決済に課税しないとの議論を当局に説得的に要望することは難しいかもしれません。
しかしながら、各国がWeb3の進展を図る中、特に米国で少額決済の非課税化が通った場合には、日本でも競争政策上少額決済の利益には課税しない等の制度を導入することが必要なのではと思われます。

2. カード発行と国際ブランドとの接続

暗号資産リンク型のカードを発行する際には、多くの場合、国際ブランド(VISA、MasterCard、Amex、JCB、Dinersなど)と契約し、その決済ネットワークを利用します。この際、国際ブランドは、自身が規制を受けているため、カード発行体に対して以下のような審査を行うことが通例です:

  • KYC(顧客確認手続き)とAML(マネーロンダリング防止)対策:発行者の財務状況、事業履歴、コンプライアンス体制が審査されます。
  • 不正取引防止とセキュリティ対策:暗号資産取引の追跡可能性や取引の安全性に関する基準を確認。
  • チャージバック対応:消費者保護の観点から、チャージバックに対応できる体制の整備が求められます。

さらに、国際ブランドと直接契約する代わりに、既に国際ブランドと強固な関係を持つ日本のクレジットカード会社を通じて提携カードとして発行する方法もあります。この場合、カード発行プロセスの一部が簡素化される可能性がありますが、それでも一定の規制対応やコストが発生する点には注意が必要です。

V. 今後の発展の可能性、課題

本邦ではCrypto決済は必ずしも普及していないと思われます。これは規制というよりも、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きいのではと思われます。
ステーブルコインが普及した場合、相当程度の問題は解決される可能性があるものの、現時点では日本でステーブルコインがどの程度普及するかは未知数です。
今後、Web3分野での国際競争の観点からも、Crypto決済の税務面が改善されることが期待されます。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、筆者の現状の考えに過ぎず、筆者の考えにも変更がありえます。
  • 本稿は、Crypto決済の利用を推奨するものではありません。
  • 本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

  1. クレジットカードについては、利用金額時には銀行口座から引き落とされ、リワードでビットコイン等を受け取れる、というカードもあり(BlockFi Rewards Visa Card、Gemini Credit Card、日本のbitFlyer Cardなど)、本稿では検討対象外としています。
  2. IIの2で記載したNEXO Cardは、クレジットカードモードの場合、預託している暗号資産を担保にして資金を貸付、当該資金がクレジットの支払に充てられるようです。この場合、貸金業法が適用されると思われます。暗号資産から直接引き落としがされる暗号資産決済クレジットカードは、調査の範囲内では見つかっていません。