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本稿では2025年に入り急激に盛り上がりを見せるAIエージェントについて、(1)AIエージェントとは何か、(2)特にその中でもWeb3 AIエージェントとは何か、を紹介した上で、(3)AIエージェントに関連する法的論点を記載します。

AIエージェントはあらゆる業務に代替し得るため、AIエージェントと法律の関係を考える場合、本来は、AIエージェントが行うあらゆる業務について法的問題点を検討する必要があります。しかし、blogでそれを網羅することは難しいため、本稿では、AIエージェントの法的問題点を検討する際の基本的な考え方を紹介した後に、規制との関係では特に金融規制を中心に議論しています。ただ、この金融規制に関する考え方は他のAIエージェントに関する法的論点を検討する際にも、一定程度参考になると考えています。

I AIエージェントの概要

1 AIエージェントとは何か

AIエージェント(AI Agent)は、一般に「特定のタスクを自律的に遂行する人工知能システム」を指します。人間が指示を出さなくても、環境からデータを処理し、必要に応じて学習や意思決定を行い、タスクを実行することが可能です。
一般にAIエージェントは、以下の要素を備えています。

①認識: 外部環境や入力データを処理し、現在の状況を理解。
②意思決定: データに基づき、タスクを遂行するための行動を計画。
③行動: 計画に基づいて環境に変化を与えるアクションを実行。
④フィードバック: 実行結果を学習に活用し、次回の行動を改善。

これにより、AIエージェントは人間の代わりに反復作業を行ったり、複雑な判断をしたりすることが可能です。
現在、AIエージェントは、私たちの生活やビジネスを変革する存在として、非常に注目を集めています。
AIエージェントは例えば下記のような用途で使用されることが期待されています。

AIエージェントの使用例
(1) ジェネレーティブAIを活用した創造性の支援
文章や画像、動画、音楽の生成など、クリエイティブ分野での活用。メディア、広告、ゲーム業界では、制作の効率化や新たな価値創出が期待されます。
(2) パーソナルアシスタント
ライフコーチ、教育支援、ビジネスアシスタントなど、個人のニーズに応じた支援が可能。スケジュール管理や健康アドバイスなど、日常生活をより効率的にする用途が注目されます。
(3) 金融分野での自律的な活用
資産運用や家計管理を支援するAIエージェントは、データを活用して最適な投資戦略や節約方法を提案します。分散型金融(DeFi)でも、自動化された取引や資産管理が進んでいます。
(4) 業務プロセスの自動化
人事や財務、顧客対応などの反復的なタスクを自動化することで、企業の生産性向上に寄与します。また、データ解析や意思決定支援も、AIエージェントの得意分野です。
(5) ヘルスケア
AIエージェントは、健康管理や遠隔医療、疾患予測などに活用されます。特に、症状の解析やメンタルヘルスのサポートなど、個人に寄り添ったサービスが期待されます。
(6)自律型システム
倉庫管理や物流、災害対応などにおけるロボットの自律化、自動運転やドローン操作など、物理的なタスクを担うAIエージェントの活躍が期待されます。

AIエージェントは、個別化と自律性を強みに、私たちの生活をより豊かに、ビジネスをより効率的にする可能性を秘めています。これらの用途は、今後さらなる進化が期待される分野です。

2 AIエージェントの具体的な例

AIエージェントの国内外での具体的な活用事例として、以下のようなものが挙げられます。

サービス名 提供者 特徴
Fujitsu Kozuchi AI Agent 富士通株式会社 人と協調して自律的に高度な業務を推進するAIエージェント。例えば、会議エージェントとしてAIが自ら会議に参加して情報共有や施策の提案をしたり、現場支援エージェントとして製造や物流の現場でカメラ映像を分析して改善提案をしたり作業レポートを作成します。
Agentforce Salesforce, Inc. 自律型のAIアシスタント。例えば、Agentforceの一つであるService Agentは、従来のチャットボットを自律型AIに置き換え、事前にシナリオをプログラムしなくても、24時間365日顧客と正確で流暢な会話を行います。
Operator OpenAI, Inc. AIがユーザーに代わってウェブブラウザを操作し、日常的なタスクを自動化。ユーザーの指示に従って独自のブラウザを使用してウェブページを閲覧し、入力、クリック、スクロールなどの操作を実施。それにより、例えば、レストランの予約やオンラインショッピングなどを自動化。
Pactum AI Pactum AI, Inc, Walmartでは、自律型交渉AIであるPactum AIを導入し、10万社超のサプライヤーとの交渉を自動化。サプライヤーからの要求に対し、あらかじめ指示された予算額と優先事項に従って自動で提案を行い、Walmartとサプライヤーの双方にとって最適な取引条件を導きます。
Waymo Foundation Model Waymo LLC 自動運転タクシーを運営するWaymoは、独自開発のWaymo Foundation Modelと呼ばれるAIモデルを用いて、周囲の状況理解から運転計画の生成まで、高度な判断を可能にしています。

3 Web3 AIエージェント

AIエージェントはWeb3とも親和的と言われています。Web3とAIエージェントの統合は、以下のような新しい可能性を生み出すと考えられます。

Web3 AIエージェントの使用例
(1)分散型AIエージェント
スマートコントラクトとの統合:
AIエージェントがブロックチェーン上のスマートコントラクトを操作し、自律的にトランザクションを実行。例えば、不動産取引や金融取引を仲介者なしで完了。
自律分散型組織(DAO)の一部として活動:
AIエージェントがDAO内で意思決定プロセスに参加し、提案や投票を実施。

(2)ユーザー主権の強化
プライバシー保護:
AIエージェントがユーザーのデータをローカルで処理し、個人情報を分散型ストレージ(例:IPFS)に安全に保存。
自己所有データ(Self-Sovereign Identity, SSI):
AIエージェントがユーザーのSSIを活用して、Web3サービスへのアクセスや認証を簡素化。

(3)トークンエコノミーの自動化
トークン取引の自動化:
AIエージェントが分散型取引所(DEX)でユーザーの代わりに資産を管理・取引。
報酬の分配:
AIエージェントがWeb3プラットフォーム上で生成した価値に応じてトークンを受け取り、再分配。

(4)メタバースとAIエージェント
・メタバース内でAIエージェントがバーチャルアシスタントとして活動。例えば、ユーザーのために土地を管理したり、NFTを取引。

(5)ゼロ知識証明(ZKP)の活用
・AIエージェントがZKPを用いることで、プライバシーを守りつつWeb3アプリケーション上で信頼を提供。

なお、Web3 AIエージェントが世界的に大きく話題になった例としてAI16Z(ai16z)があります。ai16zは、Solanaブロックチェーン上に構築された分散型AI投資ファンドであり、AIエージェントを活用して自律的に投資活動を行うプロジェクトです。

プロジェクト名: ai16z
基盤: Solanaブロックチェーン
特徴:
・AIが市場情報を収集・分析し、コミュニティのコンセンサスを考慮して自動的にトークン取引を実行。
・投資家がトークンを通じてプロジェクトの運営や意思決定に参加可能できる分散型ガバナンスを採用。
・ブロックチェーン技術により、投資活動の透明性と信頼性を確保。
AIエージェント「Eliza」:
・投資戦略の立案や実行を担当するAIエージェント。
・オープンソースとして公開されており、第三者による展開も可能。

ai16zという名称は、シリコンバレーの著名VCであるAndreessen Horowitz(a16z)をもじって命名されたものですが、ai16zとa16zは無関係です。

しかし、2024年10月27日にa16z創業者の一人であるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)がX(旧Twitter)で「GAUNTLET THROWN(挑戦状)」と投稿したり、ai16zのメインアバターが来ているTシャツについて言及したりしたことにより、ai16zの名は一気に拡散しました1

更に、 2024年1月初めには、ai16zの時価総額は一時3000億円を超え3か月で100倍以上の成長を遂げました。そのような事情もあり、2025年1月初頭時点では世界的に大きな話題になり、日本のX(旧twitter)でもAIエージェントの中心的な話題となっていました。

ただし、期待が大きすぎた等の理由によるのかもしれませんが、その後、価格が大幅に下落し、時価総額が500億円程度まで下がるなど、極めて投機的な値動きを見せている状況です。

II 本稿の法律パートの纏め

1 AIエージェントと法規制(考え方の基本)
(1)AIエージェントの「エージェント」は日本語に翻訳すると「代理人」となります。AIエージェントと呼ばれるサービスが、法的に厳密な意味で「代理人」に該当しない場合でも、特定のタスクを人間の「代わりに」実行する存在を指すことが通常です。
 
(2)AIエージェントに適用がある規制を考える場合、①類似行為を人間が行っていればどういう規制等が課されるかを検討し、②その上で、そのような行為をユーザーがAIを利用して行う場合にユーザーに何か規制等が課されるか、③事業者が当該AIをユーザーに提供している場合、事業者には何か規制等が課されるか、を考えます。
 
(3)なお、DAO等で仮にAIエージェントが、完全に自律的に動いている、人間が関与していない等と言える場合には、そもそも法規制の適用がないと考える余地もあります。しかし、完全に規制対象となる運営者がいないといえるかは不明確なことが多いため慎重に検討する必要があると考えます。
 
2 AIエージェントとユーザーの関係、AIエージェント提供者とユーザーの関係
(1)業務の一部を人間に委ねる場合、①業務委託(準委任・請負)、②労働者派遣、③雇用、等の形態がとられますが、業務の一部をAIエージェントに委ねる場合、AIエージェントとユーザーの関係において契約関係は生じず、単に人間がAIエージェントを事実上使っている、ということになります。
 
(2)AIエージェントの提供者とユーザーの関係は、AIエージェントの利用に際して、SaaS等のサービス利用契約や、AIエージェントのシステム開発契約等の契約関係により規律されます。
 
3 AIエージェントのミスと責任
(1)提供者に対する責任追及の議論
AIエージェントの提供者とユーザーとの間の関係は、契約や規約により規律され、AIエージェントに不具合があればAIエージェントを提供するサービス提供者には債務不履行責任などの問題が生じます。
 
(2)AIエージェントによる発注ミス(無断発注や無権代理)
①ユーザー自らが管理しているAIエージェントが間違って発注をした場合、基本的には発注の効果がユーザーに帰属することになります。AIエージェントに対する指示内容やAIエージェントの動作、設定・管理状況等によっては理論的には錯誤による発注の取消しを検討する余地がありますが、取引の安全性の観点からはこのような主張は極めて限定的な場合にしか認められないように思われます。
②他人が管理しているAIエージェントについては、AIエージェントの提供者による無権代理行為の有無が問題となります。表見代理の成否については、例えばAIエージェントにパスワードや発注権限が与えられており、その発注権限を越えて取引をした場合、相手方としては正当な取引があったと考えるしかなく、基本的には表見代理が成立するように思われます。
③例えば、暗号資産交換業者や証券会社等の金融機関が提供するAIエージェントが誤作動を起こして、誤発注が起こった、という場合には、ユーザーから当該金融機関に対する損害賠償請求や、ユーザーによる錯誤取消の主張が認められるケースがあると考えます。そのため、利便性が落ちることになりますが、最終的な発注内容の人間(ユーザー)自身の確認を必須とする等の措置を取ることが、誤発注リスクへの対策という観点では有効であると思われます。
 
(3)AIエージェント利用で他者に損害が生じた場合の責任
例えば、自動運転のAIエージェントの利用で他者に損害が生じた場合に、誰が責任を負うかについては、①自ら保有する自動運転車両の運転者等には自賠法や民法に基づく損害賠償責任が生じる可能性があり、②自動車メーカーには製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償責任が生じる可能性があり、③AIエージェントを提供するソフトウェア業者には民法に基づく損害賠償責任が生じる可能性があります。
 
4 Web3 AIエージェントと金融規制
(1)AIエージェントが、DEXで本人に代わって暗号資産やステーブルコインの売買を行う場合、AIエージェントの提供者について暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制が適用されるか検討が必要となります。ユーザーに対する単なる補助であれば規制対象外ですが、AIエージェントが媒介等を行っているとされる場合、規制対象となりえます。
 
(2)暗号資産・ステーブルコインの現物取引への投資助言・運用サービスは現在金商法の規制対象外であるため、AIエージェントが行う場合でも基本的には金商法の規制は適用されません。他方、暗号資産・ステーブルコインの「デリバティブ取引」への投資助言・運用サービスについては金商法の規制対象であり、AIエージェントが行う場合にも、その提供者に金融商品取引業の規制が適用される可能性があります。
 
(3)GK-TKスキームなどでGKがファンド運用業務を行う際にAIエージェントを自ら使用して暗号資産やステーブルコインの現物を取引する場合には、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制は適用されないと考えられます。他方で、GKから別の会社が投資一任を受けてAIエージェントを使用してそれらを行う場合には、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制が適用される可能性があります。
 
5 その他の法律
(1)AIエージェントが接客をする場合、個人情報保護委員会がAIに関して示している注意喚起を念頭に対策をする必要があり、消費者保護法4条との関係ではハルシネーションを抑制する策を講じる必要があります。

III AIエージェントと法律の基本的な考え方

1 規制の検討の際には類似行為を人が行った場合にどう考えられるかをまず検討

AIエージェントの「エージェント」は、日本語では「代理人」と訳されます。そして、AIエージェントと呼ばれるサービスは、法的に厳密な意味で「代理人」には該当しない場合でも、特定のタスクを人間の「代わりに」実行する存在を指すことが通常です。

AIエージェントに適用がある規制等を考える場合、以下の手順で検討します。

①類似の行為を人間が行った場合、どのような法的問題が生じるのかを検討。
②その上で、そのような行為をユーザーがAIを利用して行う場合にユーザーに何らかの規制等が課されるかを検討。
③当該AIを事業者がユーザーに提供している場合、事業者に何らかの規制等が課されるかを検討。

2 規制の対象は人や法人であり、AIエージェント自体ではない

前述のとおり、AIエージェントは「代理人」と訳されることがありますが、当然、人でも法人でもないため、現行法上は、AIエージェント自体が規制対象になるわけではありません。それを利用し、又は提供する自然人や法人が規制対象になります。

この「自然人や法人が規制対象となる」ということに関連し、特にDAOの文脈において、仮にAIエージェントが完全に自律的に動作し、人間が関与していない等と言える場合には、そもそも法規制の適用がないと考えられないかが問題となります。しかし、完全に規制対象となる運営者がいないといえるかは不明確なことが多いため、慎重に検討する必要があると考えます[\efn_note] 例えばDeFi(分散型金融)に関する議論においては、開発チーム、管理権限保有者、等の「トラストポイント(利用者が無条件に信頼せざるを得ない中央集権的要素)」の存在が指摘されており、これらの者が規制対象になる可能性があります(2022年6月20日金融庁の事務局説明資料「DeFiのトラストポイントに関する分析」https://www.fsa.go.jp/singi/digital/siryou/20220620/jimukyoku2.pdf)。[/efn_note]

3 AIエージェント一般を規制する法律は現在存在していない

現在、AIエージェントの提供や利用を一般的に禁止する法律はないため、個別の行為ごとに自然人や法人を対象とする現行規制の適用の有無を考えることになります。

4 AI自体が権利義務の帰属主体になる訳ではない

上記2に関連し、エージェントを「代理人」と訳したとしても、AIは自然人でも法人でもなく、AI自体は権利や義務の帰属主体になりえません。
そのため、例えばAIエージェントがミスをした場合の責任に関し、AI自体は責任の対象とならず、ユーザー又はAIエージェント提供者が責任の主体になります。

IV AIエージェントとユーザーとの関係、AIエージェント提供者とユーザーとの関係

1 AIエージェントとユーザーとの関係

AIエージェントでは様々な業務の自動化がなされています。
先ず、人が業務の一部を他者に委ねる場合には、以下のような形態の契約が結ばれます。

人と人との関係
(i)業務委託(準委任・請負)
●一般的には短期的な業務を外部に依頼する場合に適している。
●特定の成果物や業務の完成を求める場合は請負(民法632条)、特定の業務遂行を求める場合は準委任(同法656条)。
●主な関連法令:下請法、独占禁止法、フリーランス法など
(ii)労働者派遣
●一般的には自社の人員を一時的に補う場合に適している。
●労働者は派遣元企業に雇用され、派遣先企業で業務を行う。
●主な関連法令:労働者派遣法など
(iii)雇用(同法623条)
●一般的には継続的な業務に関する安定した労働力を確保する場合に適している。
●主な関連法令:労働基準法などの労働関連法令。

他方、人間(ユーザー)とAIエージェントとの関係は、現行法上は、あくまで人間と(AIエージェントを構築する)ソフトウェア・ハードウェアの関係であり、契約関係ではなく、単に人間がAIエージェントを事実上使っているという関係にとどまります。

2 AIエージェント提供者とユーザーとの関係

AIエージェントの開発は、一般に企業によってなされ、多くのユーザーが当該企業から、既製品のAIエージェントの提供を受け、又は企業にAIエージェントの開発を委託します。
この関係は以下のように整理できます。

(i)SaaS等のサービス利用
企業が提供するAIエージェントの使用許諾を受け、利用規約を遵守しながら利用する。
(ii)システム開発により自社に導入
企業が自社向けのAIエージェントシステムの開発をし、導入・運用する

V AIエージェントの不具合と責任

1 AIエージェントのユーザーに生じた損害

AIエージェントの不具合によってユーザーに損害が発生した場合、以下のような責任追及、及び防御がなされることが考えられます。

ユーザー側の主張
●SLA(サービスレベルアグリーメント)などの内容に基づき、サービス提供者に対し損害賠償請求(民法415条)や契約解除(同法541条、542条)
 
サービス提供者側の考えられる主張
●利用規約に基づく免責・責任制限があること
●サービス提供者の帰責性の不存在(同法415条1項ただし書)
●ユーザー側にも過失があったこと(過失相殺、同法418条)

2 AIエージェントの発注ミス(無断発注や無権代理)

(1) 人間による無権代理の問題

仮に、ある人が他者にビットコインの購入を依頼して代理権を与えたにもかかわらず、代理人がイーサリウムを購入してしまった場合、これは無権代理行為となり、原則として契約の効果は本人に帰属しません。
無権代理が発生した場合の主な法的問題は以下のとおりです。

●無権代理行為の追認(民法113条、116条)
●無権代理人の履行又は損害賠償責任(同法117条)
●表見代理(同法110条)の適用
➡ 取引相手が、代理権があると信じる「正当な理由」がある場合、契約の効果が本人に帰属することがあります。例えば、代理人に代理権を証明する手段(実印・委任状の所持など)がある場合です。
しかし、以下のようなケースにおいて、相手方が代理権の存在について適当な調査・確認を行わない場合、「正当な理由」がないと判断されて表見代理が成立しない可能性があります。
✓委任状に改ざんの跡がある場合
✓委任状の印が三文判である場合
✓本人にとって不利益な取引である場合

(2) AIエージェントによる無断発注や無権代理
(i) ユーザーが管理するAIエージェントの場合

AIエージェントはユーザーの指示に基づいて動作するプログラムであることから、一般的に、AIエージェントの発注はユーザーの意思表示とされ、その効果もユーザーに帰属するものと考えられます。
しかし、AIエージェントがユーザーの真意とは異なる発注をしてしまうケースも想定され、この場合にも発注の効果がユーザーに帰属するかが問題となります。
この点については、「錯誤」(民法95条)としてユーザーが意思表示を取り消すことができるかを検討することが考えられます。錯誤には以下の2つのケースがあります。

①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(同条1項1号)
錯誤が重要な事項に関する場合、原則として取消し可能。
②法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤(同項2号)
錯誤が重要な事項に関するものであり、その事情が相手方に示されていた場合に限り、原則として取消し可能。

(a)ユーザーの指示と発注結果が一致する場合
例えば、ユーザーが「AIエージェントの判断で暗号資産を購入する」という意思を持ち、そのような指示を出した結果、想定外の種類・数量の暗号資産の購入がなされた場合、ユーザーの「AIエージェントの判断で暗号資産を購入する」という意思と結果が一致する以上、意思表示(AIエージェントの発注)に対応するユーザーの意思は存在するといえ、「ユーザーの想定内でAIエージェントが動作すると考えていた」という事情が相手に表示されなければ、錯誤による取消しは難しいと思われます(同条2項)。

(b)ユーザーの指示と発注結果が一致しない場合
一方で、ユーザーが種類・数量を指定した具体的な指示を出し、AIエージェントが異なる種類・数量の発注を行った場合、意思表示(AIエージェントの発注)に対応するユーザーの意思を欠くとして、錯誤による取消しを理論的には主張できるように思われます。

もっとも、このような取消が容易に認められるとすれば取引の安全性を大きく害すると思われます。そこで、民法95条3項では、ユーザーに「重大な過失」がある場合には取消しをすることができないと定めています。 例えば、AIエージェントの設定ミスや管理不備があれば、ユーザーに「重大な過失」があるとして取消しが否定され得ますし、企業による発注の場合、そもそもAIエージェントを使用した後に自身で具体的な発注内容を確認していないことが「重大な過失」になる場合もあるのではないかと思われます

(c)電子消費者契約の特例
消費者がAIエージェントを利用して発注する場合には、電子消費者契約法(電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律)第3条が適用されると思われます。この法律は、インターネット取引の場合には発注のミスが多いことから、以下のような場合に原則として取消しを認めるものです。

①誤クリックによる注文(例:「購入する」ボタンを誤って押した)
②誤った入力による注文(例:購入数量を間違えた)
③自動入力や誤操作による意思と異なる注文

AIエージェントを利用する場合にも、事業者がコンピュータの映像面に表示する手続に従って消費者がコンピュータを用いて取引を行えば、それは電子消費者契約(同法2条1項)に該当することとなり、AIエージェントを利用した取引にも本条の適用があると考えられます。

ただし、以下のように事業者が消費者の意思確認を求める措置を講じた場合には、この特例の適用を受けることはできません。

①「購入を確定しますか?」と最終確認のポップアップを表示した場合
②ワンクリック購入ではなく、カートを経由して確認画面を設けた場合
③二段階認証のような仕組みで購入意思を確認している場合

また、消費者がAIエージェントを利用して、これらの確認を求める措置における確認を省いて取引を行った場合、同条の「消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合」に該当し、特例の適用がなくなる場合があります。この場合、原則として錯誤による取消は認められないと考えられます。

(ii) 他者が提供するAIエージェントの場合

他者が提供するAIエージェントを利用したところ、AIエージェントがユーザーの意図せぬ取引を行ってしまったような場合には、AIエージェントの提供者による無権代理行為の問題が生じ得ます。
AIエージェントの提供者が無権代理人となる場合、表見代理の成否については特に以下のような問題が生じます。

●通常の代理関係では、代理人が実印や委任状などを持っているかどうかが、取引相手について代理権の存在を信じる「正当な理由」を認めるポイント。
●AIエージェントの場合、取引はデジタル化されており、実印の使用や委任状の提示がないのが一般的。

そのため、取引相手にとって何が「正当な理由」となるかが問題になりますが、当該AIエージェントが、例えばパスワードや発注権限を与えられ、それを使用して発注した場合、基本的には相手方は正当な取引がなされたと信じるしかなく、表見代理が成立するように思われます。

コラム
暗号資産交換業者や証券会社などの金融機関が提供し、当該金融機関のサービス内で利用できるAIエージェントの誤発注の場合
例えば、暗号資産交換業者や証券会社などの金融機関が、自社のサービス内で利用できるAIエージェントを提供している場合を考えます(規制については下記VI以下で検討)。このAIエージェントが誤作動を起こし、その結果、誤発注が起こった場合については、以下のように整理することができます。

1.取引相手が第三者である場合
AIエージェントの誤作動により発生した誤発注の取引相手方が第三者である場合、第三者は表見代理等によって保護されるケースが多いと思われます。
他方、この取引が表見代理により有効に成立してしまった場合、AIエージェントの提供者である金融機関は、ユーザー本人から損害賠償請求(民法415条、709条)を受けるリスクがあります。
 
2. 取引相手が金融機関自身である場合
AIエージェントによる誤発注の取引相手が第三者ではなく金融機関自身である場合、そもそもユーザーには誤発注に対応する意思表示がないとされる可能性があります。また、仮に誤発注に対応する意思表示があるとしても、誤発注についてユーザーには重過失がないとして、ユーザーの錯誤取消の主張は認められやすいのではないかと思われます。
また、ユーザーの誤入力によって金融機関との間で契約が成立してしまったような場合には、電子消費者契約法第3条の適用があり、金融機関がユーザーの重過失を主張できないケースも考えられます。
 
3.リスク回避策としてのユーザー確認の導入
上記を踏まえたAIエージェントの誤作動による金融機関のリスクをユーザーに転嫁する方法としては、最終的な発注時には常に人間(ユーザー)の確認を必要とする仕組みを導入することが考えられます。この場合、誤発注が発生したとしても、それは人間(ユーザー)の責任である、と言いやすくなります。
この仕組みを導入した場合、完全自動化とはならず利便性は落ちることになりますが、誤発注リスクの対策という観点では有効な措置になるのではないかと思われます。

3 AIエージェントの利用により他者に損害が生じた場合について(例:自動車の自動運転)

AIエージェントの不具合に関連して他者が損害を被った場合、AIエージェントの提供者やAIエージェントのユーザーが損害賠償責任を負う可能性があります。

この点、AIエージェントの活用事例として特に注目されており、AIエージェントの利用により他者に損害が発生し得る典型的なユースケースとして、自動運転が考えられます。

自動運転では、AIエージェントが自動車の運転を担うことになりますが、人間が運転する場合とAIが運転する場合では、事故が発生した際の法的責任が異なる可能性があります。

(1) 人間が運転していた場合
①人身事故の場合

人身事故を起こした場合、車の保有者などの運行供用者(自動車を自己のために運行する者)は、民法の不法行為(709条)のほか、自動車賠償責任保障法(自賠法)3条に基づく責任を負うことになります。自賠法3条に基づき損害賠償請求をする場合、被害者は、運転者の過失を立証する必要がありません。運行供用者は、自賠法3条に基づき、以下の3つの免責要件をすべて満たした場合には責任を免れることができます。

(a)自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
(b)被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
(c)自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

②物損事故の場合

物損事故では自賠法が適用されないため、被害者は民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことになります。この場合、被害者としては、運転者の故意又は過失を自ら立証しなければなりません。

(2) AIエージェントが運転していた場合(社会的に認められたAIエージェントを想定)
①人身事故の場合

AIエージェントの自動運転により人身事故が生じた場合でも、基本的には自賠法の適用があると考えられています2。完全自動運転のAIエージェントのシステムに障害があった場合には、上記の免責要件のうち(c)の要件を満たさないとして、被害者から運行供用者に対して自賠法に基づく損害賠償請求権が認められる可能性があります。

AIエージェントのシステム障害に起因して賠償金を支払った運行供用者や保険金を支払った保険会社等は、自動車メーカーやAIシステムのソフトウェア業者などに求償を行うことになると考えます。

②物損事故の場合

物損事故の場合には自賠法3条が適用されないため、運転者等に不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことになりますが、完全自動運転であれば、運転者の操作ミス等がなくなるため、運転者の故意又は過失を問うことが難しくなり、運転者の損害賠償責任が認められにくくなる可能性があります。

この場合、被害者としては、AIエージェントのシステムに障害があれば、それを提供する自動車メーカーやソフトウェア開発業者などに対して以下のとおり責任追及をすることが考えられます。

③自動車メーカーに対する請求

被害者は、自動車メーカーに対して、製造物責任法(PL法)3条に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。
PL法は、製造物の欠陥が原因で生命、身体又は財産に損害を与えた場合、製造業者等に無過失責任を課す法律です。ただし、以下のような課題もあります。

●ソフトウェア自体は動産ではないため、PL法の「製造物」に該当しない。ただし、ソフトウェアが組み込まれた車両に欠陥があると評価されれば、PL法に基づき自動車メーカーが製造物責任を負う可能性がある3
●AIによる自動運転システムは高度で複雑なため、被害者が「欠陥」と「因果関係」を立証するのが困難である可能性がある。
●製造物責任は、製造業者等による引き渡し時に存在した欠陥に基づき認められる責任であるため、車両の引渡し後の遠隔で行われたソフトウェアのアップデートにより欠陥が生じたような場合には、製造物責任が認められない可能性がある。

④ソフトウェア業者に対する請求

被害者は、AIエージェントを提供するソフトウェア業者に対し、AIエージェントの欠陥を理由として損害賠償請求をすることが考えられます。この場合、ソフトウェアは無体物であるため製造物責任の適用がないことから、民法709条に基づく不法行為責任等を追及することになります。

この場合、被害者がソフトウェア開発者の故意・過失を立証する必要があることから、上記の自賠法3条に基づく損害賠償請求のケースや、PL法3条に基づく損害賠償請求のケースよりも、賠償請求のハードルが高くなることが考えられます。

VI Web3 AIエージェントと金融規制

本項目では、上記IIIの考えに従い、Web3のAIエージェントに対してどのように金融規制が適用されるかを検討します。なお、Web3の文脈で検討しますが、類似の考え方が、株式投資のAIエージェントなど、金融系のAIエージェントにも当てはまります。

(1) 暗号資産やステーブルコインなどの売買とAIエージェント

AIエージェントが分散型取引所(DEX)でユーザーの代わりに暗号資産やステーブルコインの取引を行うことが考えられます。このような仕組みを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

●リアルタイム市場分析による迅速な取引
●人間の感情に左右されないデータドリブンな意思決定

一方で、このような売買を行う場合、暗号資産交換業等の規制がないか検討が必要となります。

①人間が取引する場合

暗号資産の売買やステーブルコイン(法定通貨の価値と連動し、額面で償還されるもの)の売買については、暗号資産交換業(資金決済法2条15項)や電子決済手段等取引業(同法2条10項2号)に関する規制の適用を考える必要があります。

同法では、単なる投資家として暗号資産等を売買する場合は、「業として」に該当せず、規制対象ではありません4
他方、広く公衆に対して売買する場合や、公衆に対して売買の代理を行う場合には規制の対象となります。

②AIエージェントが取引する場合

AIエージェントがユーザーの代わりに暗号資産やステーブルコインを売買する場合であっても、自分自身の投資目的でAIエージェントを使う場合、ユーザー自身には特に規制はかかりません。
また、売買の発注をするAIエージェントを提供する会社があっても、それが単にユーザーの売買手続の事務を助ける、というだけの場合には、規制はないと思われます。

他方、AIエージェントが、例えばユーザーをDEXに容易に繋ぐといった媒介等5
と言われる範囲の動作を行っており、そのAIエージェントをユーザー以外の者が管理運用している、とみられるような場合、当該AIエージェントの提供者に、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制(媒介規制)が課される可能性があります。

(2) 投資サービスとAIエージェント

Web3分野では、AIエージェントが投資戦略を立案し、暗号資産・ステーブルコインの現物取引、暗号資産・ステーブルコインのデリバティブ取引に関する投資助言や資産運用を行うサービスが考えられます。
本パートでは、AIエージェントがこのような投資サービスを提供する際に検討すべき主要な法的問題について、人間が行う場合と比較しながら説明します。

①人間が行う場合

投資助言・運用サービスを提供する場合、それぞれ異なる法的規制が適用されます。

(i) 投資助言サービス

投資助言サービスとは、投資助言をして報酬を受け取る契約(投資顧問契約)を締結し、有価証券やデリバティブ取引に関する投資判断について助言を行う業務を指します。
規制のポイントは以下のとおりです。

●投資助言・代理業として金融商品取引法に基づく登録を要する(金商法2条8項11号、3項1号、28条、29条)。ただし、無償の助言は規制対象外。
●暗号資産やステーブルコインの現物取引に関する助言は規制対象外。
●暗号資産や(電子決済手段に該当する)ステーブルコインのデリバティブ取引に関する助言は規制対象。
●助言の対象が現物取引かデリバティブ取引かを意識する必要がある。

(ii) 投資運用サービス

投資運用サービスは、主に、(a)ファンド持分を有する者からの出資金を主に有価証券やデリバティブ取引に投資する業務(ファンド運用業務) 、(b)顧客から投資判断と資産運用の権限を一任されて、有価証券やデリバティブ取引に投資運用する業務(投資一任業務)、が考えられます。
規制のポイントは以下のとおりです。

●投資運用業の登録を要する(金商法2条8項12号ロ、2条8項15号、28条4項、29条)。無償で提供する場合でも「業」に該当する場合は規制対象。
●(a)ファンド運用業務については、自己募集には原則、第二種金融商品取引業の登録が必要(同法2条8項7号へ、28条2項1号)。ただし、適格機関投資家等特例業務(同法63条)などの例外あり。
●(b)投資一任業務により顧客資産を預かる場合、第一種金融商品取引業の登録も必要(同法28条5項・1項5号、29条、42条の5)。
●暗号資産・ステーブルコインの現物取引を投資対象とする場合((a)ファンド運用業務の場合は「主として」投資対象とする場合)は、投資運用業に該当しない。他方、暗号資産・(電子決済手段に該当する)ステーブルコインのデリバティブ取引を投資対象とする場合は投資運用業の規制対象。
●GK-TKスキーム6では、匿名組合員による出資はすべてGK(営業者)の財産に帰属し(商法536条1項)、GKが自己の名をもって事業を行うため、(a)GKがファンド運用業務に基づき、暗号資産の現物の売買を行う場合、自己投資目的で行う取引であるとして一般的には「業」には当たらず、暗号資産交換業の登録を要しないと考えられ7、投資対象がステーブルコインの現物である場合もパラレルに考えれば、電子決済手段等取引業に該当しないと考えられる。
●(b)GK-TKスキームなどでGKが別の会社に投資業務を一任し、当該別会社が暗号資産やステーブルコインの売買等まで行う場合、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の規制を受ける可能性がある8

②AIエージェントが行う場合

AIエージェントが投資助言・運用サービスを行う場合、その業務が金融規制の適用を受けるかどうかが問題となります。通常、AIエージェントを提供する者について規制の適用を検討することになると考えます。
規制のポイントは人間が行う場合と概ね同じですが、特にAIエージェントの場合には以下の点がポイントになります。

●投資一任業務で顧客資金を預かる場合でも、AIエージェントの提供者が運用していないスマートコントラクトで顧客資金の預託を受ける場合には第一種金融商品取引業の登録が不要となる可能性がある。
●AIエージェントの提供後、特に開発者が運用に関わらず、AIエージェントが完全にDAOとして自律的に動き、投資運用についてもスマートコントラクトにより自動執行される等の場合には規制の対象外となる可能性がある。

VII その他の法律

(1) 個人情報保護法、消費者契約法

AIエージェントがバーチャルアシスタントとして、サービスの販売支援や問い合わせ対応を行うことが考えられます。例えば、メタバース内で商品やサービスを販売する場合にも、AIエージェントが搭載されたアバターが自動接客を行うことが想定されます。

本パートでは、AIエージェントが接客サービスを提供する際の主要な法的問題について、従来の人間による業務と比較しながら説明します。

①人間が顧客対応する場合

人間が顧客対応を行う場合、例えば以下のような観点から法規制を遵守する必要があります。

(i) 個人情報の取扱い

顧客対応の際に個人情報を取得・利用する場合は、個人情報保護法の以下のルールなどを遵守する必要があります。

●利用目的をできるだけ明確に特定すること(個人情報保護法17条1項)
●特定した目的の範囲を超えて個人情報を利用しないこと(同法18条1項)
●利用目的を本人に通知又は公表すること(同法21条1項)

(ii) 消費者保護に関する規制

消費者に対してサービスの説明や情報提供を行う際には、消費者契約法4条に基づく以下の規制などを遵守する必要があります。

●重要事項について虚偽の説明をしないこと
●将来の不確実な事項について断定的な判断を提供しないこと
●消費者に不利益となる事実を故意又は重過失により伝えないことを回避すること

これらの違反があった場合、消費者は契約を取り消す権利を持つため、正確かつ十分な情報を提供することが重要です。

②AIエージェントが顧客対応する場合
(i) 個人情報の取扱い

AIエージェントが顧客対応を行う際にも、個人情報の取扱いには慎重な対応が求められます。

個人情報保護委員会は、OpenAIのサービス提供者に対し、「利用者及び利用者以外の者を本人とする個人情報の利用目的について、日本語を用いて、利用者及び利用者以外の個人の双方に対して通知し又は公表すること。」ということや、本人の同意なしに、要配慮個人情報を取得しないことなどの注意喚起を行っています9。 また、生成AIを利用して個人情報を取り扱う事業者に対しては、「個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」などの注意喚起を行っています10
AIエージェントにより個人情報を取り扱う場合には、これらの注意喚起を念頭に置いて対応する必要があります。

(ii) AIエージェントによる誤情報(ハルシネーション)の問題

消費者契約法4条などを遵守する観点では、AIエージェントが不十分な学習データや古い情報をもとに不十分な情報提供や誤った回答をする「ハルシネーション」のリスクが問題となります。
この問題を防ぐために以下のような対策をとることが考えられます。

●最新かつ正確な学習データを用いて、AIエージェントを継続的にトレーニングすること
●消費者が誤情報を報告できるフィードバック機能を実装すること
●運営者がAIエージェントの回答を適宜チェックし、必要に応じて修正を行うこと

留保事項
・本稿の内容は関係当局の確認を受けたものではなく、法令上合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本稿に記載された内容は筆者らの現時点での見解にすぎず、今後変更がありえます。
・本稿はAIエージェントやWeb3 AIエージェントの利用を推奨するものではありません。
・本稿はAIエージェントに関する一般的な考え方を記載したものに過ぎず、具体的な案件に関する法務アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的助言が必要な場合は、各自、弁護士にご相談下さい。

創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

1初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。
LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことについては、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」という通知が2023年4月19日に経済産業省が出され、取扱いが整理されたところである(当事務所の以前のArticle「LPS法とトークン投資に関する2023年4月19日付経産省通知について」(2023年4月25日)参照)。

しかしながら、暗号資産(資金決済法第2条第14項)市場が引き続き拡大し、いわゆるWeb3.0系スタートアップを含め暗号資産による資金調達を目指すスタートアップ企業も増えている中、暗号資産への投資を促進すべきであるとの意見が多く唱えられてきた。[1]また、経済産業省も、LPSによる暗号資産への投資については、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、取扱いについて検討を行うとしていたところである。今般、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」(2024年5月31日成立、同年6月7日公布)により、LPS法が改正され、主として、①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められることとなり、②合同会社への出資が認められることとなり、また③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったことから、本稿では、かかる改正内容について概説する。

2.LPSが投資できる資産

LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号及び新設された第2項の規定及びその解釈による。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。また、特に断りが無い限り、本稿では、改正後のLPS法の内容及び条文番号を記載している。

第3条第1項
・ 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の持分の取得及び保有企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有(第1号)

・ 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有(第2号)

・ 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[2]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有(第3号)

・ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有(第4号)

・ 事業者に対する金銭の新たな貸付け(第5号)

・ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有(第6号)

・ 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有(第6号の2)

・ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)(第7号)

・ 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業(第8号)

・ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資(第9号)

・ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの(第10号)[3]

・ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの(第11号)[4 ]

・ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用(第12号) [5]

第3条第2項
前項第一号から第三号まで、第六号又は第八号に掲げる事業に係る株式、持分、新株予約権又は指定有価証券には、前条第一項の政令で定める者については、これらに類似するものであって外国の法令に準拠するものを含むものとする。

3.①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められること

従来のLPS法下では、日本の会社法下で設立された株式会社であれば、その株式をLPSが取得及び保有することが上限なく可能であったのに対し、外国籍の法人であれば、日本法人の子会社であっても、「外国法人」の発行する株式の取得として、投資金額(なお、投資約束金額ではない。)の50%未満の範囲でしか、投資が認められなかった。

しかしながら、今般の改正により、「事業者」という定義が、「法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)」とされ(LPS法第2条第1項。以下、下線部の外国法人を「日本法人等が支配等する外国法人」という。)、株式会社の発行する「株式」には、これらの日本法人等が支配等する外国法人が、当該外国の法令に従って発行する、「株式」に類するものが含まれることとなった。

これにより、例えば、日本人が設立したスタートアップであって、米国証券市場での上場を目指して、米国法人をホールディングカンパニーとする法人にも、LPSが投資を行うことが可能となった。

具体的には、政令では、「本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすもの」として以下の者が定められている。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。つまり、日本人又は日本法人が議決権の過半数を有しているか(資本関係)、意思決定機関を支配しているか、又は取引等を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与えることができるか、という形式的・実質的な基準に拠っている。実際のところ、日本人が外国法人を創業し、その後株主が増えたとしても、当該株主の多くが日本法人であれば[6]、投資先となる当該外国法人は当該条件を充足し、上限無しにLPSの投資対象となりうることとなる。

第1条第1項
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「法」という。)第2条第1項の政令で定める者は、外国法人のうち、次の各号に掲げる者のいずれかに該当する者とする。


本邦法人又は本邦人(以下この条において「本邦法人等」という。)により総株主又は総出資者の議決権の過半数を保有されている者その他本邦法人等により財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(次項において「意思決定機関」という。)を支配されている者として経済産業省令で定めるもの(以下この条において「子法人等」という。)(第1号)

本邦法人等又は子法人等との間の売上高又は仕入高が売上高の総額又は仕入高の総額の100分の50以上である者その他本邦法人等又は子法人等が出資、役員その他これに準ずる役職への本邦法人等若しくは子法人等の役員若しくは使用人である者若しくはこれらであった者の就任、融資、債務の保証若しくは担保の提供、技術の提供又は営業上若しくは事業上の取引等を通じて、財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる者として経済産業省令で定めるもの(第2号)

第1条第2項
本邦法人等及び子法人等又は子法人等が他の者の意思決定機関を支配している場合における当該他の者は、その本邦法人等の子法人等とみなして、この条の規定を適用する。

4.②合同会社への投資が認められること

従前のLPS法では、LPSによる合同会社の持分(社員権)の取得は認められなかったが、機関設計の柔軟性等を鑑みて合同会社として設立されるスタートアップ企業等の事業者も少なくないことから合同会社についても、LPSの投資対象となることとあった(上述のLPS法第3条第1項第1号、2号等)。

5.③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったこと

従前のLPS法では、LPSによる暗号資産への投資が認められていませんでしたが、上述のような議論を経て改正が実現され、今後は、事業者のために、事業者自身又は暗号資産取引所に委託して暗号資産を発行する場合など、特定の条件下において、LPSによる暗号資産への投資が認められる。

なお、今般の改正はあくまで「事業者のために発行される暗号資産」の取得及び保有を認めるものであり、すべての暗号資産が投資対象となるわけではないことには引き続き注意を要する。例えば、決済用の仮想通貨として一般的な、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、LPSの投資対象となる「事業者のために」発行されたものではないことから、LPSの投資対象には含まれないと思われる。

6.施行時期

改正法の施行は、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」及び「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」と改正内容により異なっており、上述の①日本法人等が支配等する外国法人への投資に関する規定及び②合同会社への出資に関する規定は前者(即ち2024年9月7日まで)、③事業者のために発行される暗号資産への投資に関する規定は後者(即ち2025年6月7日まで)である。

留保事項
本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
本書は当事務所ウェブサイト用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

  1. 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会web3事業ルール検討タスクフォースによる「Web3.0系スタートアップ及びWeb3.0系VCについての実態調査(PDF)
    LPSによる暗号資産の取得及び保有等に関する提言↩︎
  2. 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。
    金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
    金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
    金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
    金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
    金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
    金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
    金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
    金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
    金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
    第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの ↩︎
  3. 付随事業としては、(i)LPS法に定められる事業者が発行し、又は所有する約束手形の取得及び保有を行う事業、(ii)譲渡性預金証書の取得及び保有を行う事業、及び(iii)取得し保有する、約束手形、指定有価証券に表示されるべき権利又は金銭債権に係る担保権の目的である不動産(担保権の目的が土地である場合にあっては当該土地の隣地、担保権の目的が建物である場合にあっては当該建物の所在する土地及びその隣地を含む。)及び動産の売買、交換若しくは貸借又はその代理若しくは媒介を行う事業とされている。 ↩︎
  4. 余裕金の運用方法は、(i)銀行その他の金融機関への預金、(ii)国債又は地方債の取得又は(iii)外国の政府若しくは地方公共団体、国際機関、外国の政府関係機関、外国の地方公共団体が主たる出資者となっている法人又は外国の銀行その他の金融機関が発行し、又は債務を保証する債券の取得、に限定されている。 ↩︎
  5. 外国法人の発行する株式の取得等は、その取得価額の合計が、総組合員の出資の総額の50%未満でなければならない(施行令第3条)。 ↩︎
  6. なお、LPS法及び政令には「本邦人」「本邦法人」の規定がなされており、LPSその他の法人格が無い組合は、明記はされていないものの、理論的には「本邦人」に該当すると思われる。 ↩︎

創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

(トークンに関する監修:斎藤 創、執筆協力:砂田 有史)

1.初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。これまで、LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことが、対象事業として許容されるかどうかが明らかでなかったところ、セキュリティトークンへの投資や、ブロックチェーンを利用した資産移転の処理が近年用いられつつあることを踏まえ、セキュリティトークンの取得や保有の対象事業への該当性等について、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417002/20230417002-1.pdf)という通知(以下「本通知」という。)が本年4月19日に経産省よりなされ、一定程度、この問題に対して取扱いが明確になった。本稿では、本通知の内容について説明する。

なお、LPSが暗号資産や一般的なNFT(注:セキュリティトークンではない)へ投資を行うことは対象事業として列挙されていなかったことから、認められないと解されている。これに対しては、以下のように問題点が指摘されてきた(本通知はこれを解決するものではない。)。

2.LPSが投資できる資産

まず、前提として、LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号の解釈によって決まってくる。この点、上述のとおり、セキュリティトークンに関して対象事業に含まれるとする明文の定めは存在しない。

(1) 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

(2) 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

(3) 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[1]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有

(4) 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有

(5) 事業者に対する金銭の新たな貸付け

(6) 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有

(7) 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)

(8) 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業

(9) 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資

(10) 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの

(11) 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの

(12) 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用

3.本通知の内容

本通知においては、主に以下の①から③の3つのことが明示されている。

まず、①LPSがセキュリティトークンを扱う事業を行う場合については、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の有価証券のうち、LPS法第3条第1項により、投資事業有限責任組合が取得及び保有が可能とされる有価証券[2]については、セキュリティトークンが、金商法上のいわゆるみなし有価証券の一つである「電子記録移転有価証券表示権利等」である以上、その取得及び保有も当然に対象事業となると整理することができるとされている。LPSが、セキュリティトークンを取得・保有することができることを改めて明確にしている。なお、本通知においては、「金融商品取引法(昭和23年法律第25号。)上の有価証券はブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合があり(いわゆるトークン化)、かかるトークン化した有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法第29条の2第1項第8号に規定する権利をいう。))を本通知ではセキュリティトークンと称する。」 と記載されており、ここで言うセキュリティトークンとは金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第1条第4項第17号、金商法第29条の2第1項第8号、業府令第6条の3)を意味している。

次に、本通知は、②LPSが、LPS法第3条第1項に掲げる事業のうち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等に投資を行う場合に、これらの資産を取得及び保有するにあたり、ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法でこれらの資産の移転に係る事務を処理しても、LPS法第3条第1項各号に掲げる事業の範囲内で組合契約を遂行するための業務執行と解することができる(LPS法第7条第4項に規定する「第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合」には当たらない)としている。すなわち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等がトークン化されたとしても、これを取得・保有することができることを改めて明確にしている。もっとも、例えば、NFT(Non-Fungible Token)は、主にイーサリアム(ETH)[3]のブロックチェーン上で構築できる代価不可能なトークンだが、NFTを譲渡しても著作権等が移転しない形式を利用していることも多く、NFTの取得・保有はLPS法の対象事業に該当せず、引き続きLPSがNFTに直接投資することは困難なのではないかと考えられる。

また、本通知は、③資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の電子決済手段(改正資金決済法第2条第5項、いわゆるステーブルコイン)及び暗号資産(資金決済法第2条第5項(資金決済法改正後は第14項))を取得・保有することは、現行のLPS法第3条第1項に掲げる事業のいずれにも該当しないこと、すなわちLPSでは、電子決済手段及び暗号資産を取得・保有することができないことを改めて明確にしている。上述のとおり、LPSが直接暗号資産に投資することができるようになるには、法改正を待つしかないということになる[4]

4.その他

話は異なるものの、近年LPS法をめぐる分野だと、LPSを用いたセカンダリーファンドが話題となってきている。セカンダリーファンドと言えば、個別の事業者が発行した株式を既存株主から譲り受ける場合だけではなく、既存のLPSのLP持分をLPSが買い集めるという手法も話題となっている。もっとも、LPSがLP持ち分を保有できる根拠はLPS法第3条第1項第9号となると思われるものの、同号は、「出資」(いわゆるプライマリー)のみを定め、他のLPS法第3条第1項各号のように「取得及び保有」(いわゆるプライマリーとセカンダリー)と定めていないことから、LPSによる既存のLPSのLP持分の取得が明確にされることが望ましいのではないかと考える。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
  • 本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

[1] 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。

  1. 金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
  2. 金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
  3. 金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
  4. 金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
  5. 金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
  6. 金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
  7. 金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
  8. 金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
  9. 金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
  10. 金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
  11. 金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
  12. 金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
  13. 第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの

[2] なお、本通知によれば、「対象事業」には、①匿名組合契約の出資持分、②投資事業有限責任組合及び民法上の組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合に対する出資持分、③外国の法令に基づく権利であって②の組合に類似する団体に対する出資持分であって、金商法上有価証券とみなされないものへの出資も含まれる。ただし、これらの権利をブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転したとしてもそれはセキュリティトークンにはならない。この場合は、②の金銭債権等と同様の整理となると考えられる。

[3] ブロックチェーン・プラットフォームの名称及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称である。詳しくはhttps://ethereum.org/ja/を参照。

[4] 現状のプラクティスとしては、株式、新株予約権等のエクイティ投資を行うに際し、将来的にトークンの付与を受けることが可能な場合、投資家が指定するエンティティー(例えば新設の合同会社)でトークンを受領できる等とする形が多く見られる。当初からLPSが暗号資産やNFTに投資を行いたい場合、LPSが合同会社等を保有し、当該合同会社が暗号資産やNFTに投資をするスキームが考えられる。

メタバースBlog連載済み

メタバースBlog連載の予定

1 初めに

メタバースは、現実世界などをモチーフとした仮想空間であることから、メタバース空間内で、各種の現実世界同様の商取引がなされることがあります。

例えば、ランド(土地)や家、アバター、その服やアクセサリー、ライブの入場チケットなどが販売され、それに対する支払いがなされます。このような売買は、運営側とユーザー側でなされるのみならず、ユーザー同士でなされる場合もあります。

デジタル空間上での取引であることから、売買の対象となるものはデジタルデータであり、デジタルデータ上に「所有権(民法206条)」等の権利があるのかが問題となります。また、デジタル上での支払いであることから、現金以外での支払い手段が求められることが多く、支払手段についての規制も問題となります。

更に、将来的には、レディ・プレイヤー1のオアシス世界のように、メタバース上での労働というものが観念できるかもしれません。このような労働は、契約当事者同士が一度も会ったことはなく、空いた時間で、兼職自由の前提でなされることが多いと思いますが、そのような場合に特有の問題について記載をします。

図1(THE SANDBOX公式サイトhttps://www.sandbox.game/jp/より。ランドの例)
図2(SF映画『レディ・プレイヤー1』より。IOI社で労働させられるプレイヤー)
本書での検討内容と結論

(1)  メタバース上のデータが法的な権利により保護されるか
メタバース上のデータはメタバース運営者に対する一種の利用権(債権)により保護され得るが、占有権や所有権等の物権によっては保護されない。もっとも、著作権等の知的財産権により保護される可能性はある。なお、NFTについては、自らのウォレットにより管理し、メタバース内外を問わず移転可能である等といった点で排他的な支配権を観念できる余地がある。

(2)  メタバース上でのデータの売買代金の支払方法にはどのようなものが考えられるか
Web2型メタバースでは、主にクレジット・デビットカード、前払式支払手段の利用が想定される。いずれも支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その発行には業規制が課される。また、Web3型メタバースでは、これらに加えて、暗号資産や業規制対象外のポイントの利用が想定される。暗号資産を支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その有償発行には暗号資産交換業の規制が適用される。なお、ポイントについてはその付与に関して景表法の景品規制に留意する必要がある。

(3)  NFTや暗号資産の発行、販売にはどのような規制が課されるか
NFTの販売を一律に規制する法令はない。NFTと暗号資産の区別は「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになる。暗号資産の有償発行、販売については、暗号資産交換業としての登録の他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務、取引時確認義務等の種々の規制が課される。

(4)  メタバース内での労働にはどのような法規制が課されるか
メタバース内で、他のプレイヤーのために仕事をする場合、多くはいわゆるギグワーカーのような形態で業務委託契約が成立することになると思われ、基本的には特段の法規制はない。例外的に、労働者性が認められて雇用契約が成立する場合、労災保険の加入や賃金の通貨払い、労働条件の書面等による明示等、種々の労働法規制が課される。

2 メタバースと所有権その他の権利

メタバース上では、ランド(土地)や家などの不動産類似物、服やアクセサリー、家具などの動産類似物が販売されることがあります。しかし、これらは実際上はいずれも単なるデータにすぎず、現実の不動産や動産ではありません11

日本の民法上は、占有権や所有権等の物権は原則として有体物(=形のあるもの)にしか認められないため(民法85条、180条、206条等)、単なるデータには占有権や所有権等の物権は認められないことになります。そこで、メタバース上のデータが法的な権利によって守られないのかが問題となります。

2.1 Web2型メタバースと利用権

まず、Web2型メタバースの場合、ユーザーのデータに関する権利は、ユーザーがメタバース空間上でデータを利用できる、という一種の利用権(サービス利用規約等に基づくメタバース運営者に対するユーザーの債権)であることが通常と思われます。そのため、基本的には、ユーザーは運営者以外の第三者に対して利用権を行使することは難しいことになります。

2.2 Web3型メタバース、NFTと利用権

Web3型メタバースでNFT等のデータを利用する場合も一種の利用権であることは基本的には同様です。

もっとも、NFTの場合、ブロックチェーン上で自らのウォレットにより管理でき、メタバースの内外を問わず第三者に譲渡、貸与等を可能にする仕組みが実装できる、少なくともNFTに対しては排他的な支配権を持てる可能性がある等、Web2型メタバースの場合に比べ、データに対する支配権をより強く観念できる可能性があります。

ただし、当該支配権もメタバース運営者やNFT発行者の定めたルールや技術的仕様の範囲内で認められるに過ぎず、メタバースのサービス終了によって無価値化する可能性がありそうです。

2.3 ユーザーに対する説明

運営側としてもユーザー側としても、現実空間上での用語とのアナロジーで商品説明をすることが判りやすく、「不動産」という用語を使用したり、Web3型メタバースではNFTに対して「デジタル所有権」等の用語を使用することがあり、それ自体は許容されると思われますが、運営側としては現実の所有権や不動産と同じような権利があると思われることがないよう、誤解のない表現で販売を行う必要があると思われます。

2.4 メタバースと知的財産権

なお、メタバース上のデータについては、主に著作権等の知的財産権による保護の対象になる可能性があります。この点は、メタバースと法律Ⅱ[https://innovationlaw.jp/ metaverse2/]をご参照下さい。

3 メタバース上での売買代金の支払方法

メタバース上の決済方法としては、クレジットカード、デビットカード、前払式支払手段、暗号資産、ポイントなどが考えられます。

3.1 Web2型メタバースと支払手段

Web2型メタバースでの支払手段は、通常はクレジットカード、デビットカードまたは前払式支払手段を使うことが考えられます。ここで、前払式支払手段とは、金額等が記載または記録された証票や符号等であり、当該金額等に相当する金額を支払うことで発行され、発行者やその指定する特定の者との取引に用いることができる通貨建の決済手段をいいます(資金決済法3条1項)。例えば、Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券等がこれに当たります。

これらをメタバース上の取引で利用すること自体には規制は有りませんが、メタバース運営者が自ら前払式支払手段を発行する場合には、以下の業規制が課されます。

種類 特徴 規制

自家型前払式支払手段
(資金決済法3条4項)

前払式支払手段の発行者やその密接な関係者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り使用できる前払式支払手段 未使用残高が3月末または9月末において、1,000万円を超えた時は、財務(支)局長に届出が必要(同法5条、同施行令6条)
※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で届出不要(同法4条、同施行令4条)
第三者型前払式支払手段
(同法3条5項)
前払式支払手段の発行者やその密接な関係者以外の第三者に対しても使用できる前払式支払手段 財務(支)局長の登録が必要(同法7条)
※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で登録不要(同法4条、同施行令4条)

3.2 Web3型メタバースと支払手段

Web3型メタバースでも、前払式支払手段を使うことも考えられますが、ビットコインやイーサリアムなどの既存の暗号資産、または独自発行の暗号資産を決済手段とすることも考えられます。

暗号資産とは、物品・役務提供の代価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークンで、法定通貨や通貨建資産に該当しないものを意味します。また、そのような暗号資産と相互に交換を行うことができるトークンも暗号資産に含まれることがあります(資金決済法2条5項)。

暗号資産をメタバース上の取引で利用すること自体に規制は有りません。しかし、自ら暗号資産を有償で発行する場合には、財務(支)局長の登録(同法63条の2)を受けることが必要になる等、暗号資産交換業者として種々の規制が適用されます。

また、前払式支払手段や暗号資産に該当しないポイント、例えば、メタバース利用者に一律に配られたり、メタバース内での買い物の金額に応じて無償で付与され、メタバース内での買い物の際に代価の弁済の一部に充当することができるようなものは、その利用や発行について一律に規制する法令がありません。なお、このようなポイントの付与については、景表法の景品規制に留意する必要がありますが、次回の買い物時の値引きであると評価できるポイントの付与については、景表法の規制も課せられません。

発行についての規制

支払手段 特徴 業規制
クレジットカード カードを提示またはその情報を通知することで、特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価をカード事業者が支払い、利用者が定められた時期までに対価に相当する額をカード事業者に支払う。例 Visa、Mastercard、JCB、American Express 包括信用購入あっせん業(割賦販売法)
デビットカード カードを提示またはその情報を通知することで特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価を利用者の口座から販売業者の口座に送金する。例 三菱UFJデビット、SMBCデビット、みずほJCBデビット 銀行業(銀行法)や資金移動業(資金決済法)
前払式支払手段 利用者が、金額等が記録された証票等をあらかじめ対価を払って取得し、特定の販売業者に対して当該証票等を使用して、記録された金額等に相当する商品やサービスの提供を受ける。例 Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券 前払式支払手段発行業(資金決済法)
暗号資産 物品・役務提供の対価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークン。例 BTC、ETH、XRP 暗号資産交換業(資金決済法)
上記以外のポイント 利用者に一律に配られたり、買い物の際におまけとして無償で付与され、次回以降の買い物の際に対価の弁済の一部に充当することができるようなもの。 特になし
※景表法の景品規制については留意が必要。

4 NFTや暗号資産の発行、販売と法的論点

Web3型メタバースではしばしばNFTや暗号資産が利用されるところ、ここではNFTや暗号資産について触れます。

4.1 NFTと暗号資産の区別

NFTの販売を一律に規制する法令はありませんが、NFTと称していてもそれが暗号資産に該当する場合には上記のとおり登録が必要になる等、資金決済法上の暗号資産交換業に関する規制が課されることになります。

そして、NFTと暗号資産とを区別する明確な基準は定かではないものの、「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになると考えられ12、例えば、①店舗でサービスの対価として利用できる、②同一のトークンが多数存在している、③個々のトークンの個性が捨象されている、等といった事情があれば、暗号資産として認められ易くなるものと思われます。

4.2 暗号資産の発行に関する法規制

暗号資産の発行については、それを有償で行う場合、暗号資産の売買等(資金決済法2条7項1号)に該当するため、上記で説明したとおり暗号資産交換業としての登録を要する他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務(同法63条の11)、取引時確認義務(犯収法4条)等、発行者に種々の規制が課せられます。

他方で、利用者に無料で暗号資産をエアドロップする場合のように、暗号資産を無償で発行する場合には、暗号資産交換業の規制は課せられません。

5 メタバースと労働

メタバース内では、いわゆるギグワーカーのような形態で、他のプレイヤーのためにアバターを用いて仕事を行い、メタバース内通貨やアイテム等の対価を取得するといった取引の出現が考えられます。このようなプレイヤー間において、どのような法律関係が生じるかを検討します。

5.1 メタバース内で想定される労働

メタバース内で想定される仕事としては、例えば、他のプレイヤーが使用するための家や服を作成する等、他のプレイヤーのためにアイテムを生成することが考えられます。また、メタバース内のイベント主催者から依頼を受けて演奏や歌唱を行うといったアーティスト活動や、メタバース内の会議室でのコンサルティングサービスの実施も考えられます。こうした、メタバース外の世界と同様の仕事も考えられる一方で、例えば、保有する希少なアイテムを他のプレイヤーのために利用することで対価を得る等、メタバース内ならではの仕事も考えられます。

メタバース内で仕事ができる環境が出現すれば、プレイヤーは、メタバースで獲得したリソースをマネタイズすることができたり、人々が柔軟で自由な働き方を実現することができる等、様々なメリットが創出されるのではないかと思われます。

(Meta社の『Horizon Workrooms』では、VRを用いた「バーチャル会議」や「ワークスペース」が提供されています。
画像は同サービスの公式ウェブページ(https://www.oculus.com/workrooms/?locale=ja_JP)より転載。)

5.2 メタバース内での業務委託

メタバース内での仕事は、アバターにより事務処理を行う点に大きな特徴があります。もっとも、実際の作業としては、人がコンピューターでアバターを操作することが仕事の内容になるため、メタバース外でコンピューター作業を受発注することと基本的には同じ法的分析ができると思われます。

そして、多くの場合、空いた時間で、兼職自由の前提で作業がなされることが多いと思われ、いわゆるギグワーカーとして、個人事業主の立場で他のプレイヤーと業務委託契約(請負契約(民法632条)や準委任契約(同法656条))を締結し、仕事を行うことになるのではないかと思われます。 業務委託契約に基づく取引については、特に法規制はなされていないため、主としてプレイヤー間での合意に従うことが重要になってきます。なお、メタバース内でアバターにより仕事を行うという点において、以下の注意点があることを考慮したうえで、取引を行うことが望ましいと考えます。

・作業はメタバースのプラットフォームを前提とし、当該メタバースがサービス終了することで履行できなくなる。
・対価がメタバース内通貨で支払われる場合には、当該メタバースがサービス終了することでメタバース内通貨が無価値化する可能性がある。
・取引相手の素性が分からず、個人情報等が一切隠されたまま取引がなされること等で、義務不履行に対する法的手続きが講じ難く、未成年者か否か等のアバターを操作している者の属性が分かり難い。

また、契約成立に際しては、捺印やサインを付した書面や電子署名を付したファイルは作成されず、メッセージ記録のログ等が契約成立の証拠になることも多いのではないかと思われます。

5.3 メタバース内での労働契約

仕事を行うプレイヤーが、労働基準法9条に定める「労働者」に該当する場合、プレイヤー間の契約形態は、業務委託ではなく、雇用(民法623条)となり、労働法制による種々の規制が適用されることになります。

そして、労働者の有無の判断には、以下の基準が用いられると考えられています13

労働者性の有無に関する判断基準
①使用者の指揮監督下で労働しているかを、主に以下(a)~(d)等により判断。
 (a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  -諾否の自由が無ければ指揮監督関係を推認。
 (b)業務遂行上の指揮監督の有無
  -業務内容・遂行方法について具体的な指揮命令を受けていれば指揮監督関係が肯定されやすい。
 (c)勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無
  -当該拘束が業務の性質上当然に生ずるものか、使用者の指揮命令によって生ずるものかを考慮。
 (d)代替性の有無
  -本人に替わって他の者が労務を提供してよい、あるいは補助者を使ってよい場合、指揮監督関係を否定する要素となる。

②労務対償性のある報酬を受け取る者といえるかを、主に以下の(a)や(b)等により判断。これらが肯定される場合、報酬が一定時間の労務を提供していることへの対価と判断され、使用従属性が補強される。
 (a)報酬が時間給を基礎に計算される等、労働の結果による較差が少ない。
 (b)欠勤した場合には報酬が控除され、残業した場合には手当が支給される。

③上記①、②の観点のみでは判断できない場合の補強要素として、(a)事業者性の有無に関わる事項(機械・器具の負担の関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)、(b)専属性の程度等を検討する。

5.4 労働法制とメタバース

メタバース内での仕事は、業務委託契約等の労働者性が認められない形式により行われることが多いと思われますが、労働者性が認められる場合には、プレイヤー間の法律関係は労働基準法をはじめとする種々の労働法制により規制されます。

メタバースで単発の仕事を発注する場合に留意すべき法規制としては、労働者の労働規約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する合意をすることができず(労働基準法16条)、使用者による労災保険料の支払の必要が生じる等の他(労災保険法3条)、労働組合と使用者との間の労働協約で合意しない限り、賃金を通貨(日本円)で支払う必要があります(労働基準法24条1項)。そのため、メタバース内の独自トークンはもちろん、BTC等の暗号資産、前払式支払手段、アイテム等で支払うことは、原則として禁止されます。

また、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面、ファクシミリ又は電子メールで明示しなければなりません(労働基準法15条1項。労働契約法4条1項、労働基準法施行規則5条4項)。そのため、労働契約の締結はメタバース内では完結しずらいケースも多いのではないかと思われます。

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

1 初めに及び結論

1.1         問題意識

日本でDAOを組成できないか、と尋ねられることがあります。

DAOの定義が不明確であることから、ご質問時点でどういうDAOを組成したいのか曖昧な場合も多く、弁護士からどのようなDAOを想定しているのかお尋ねしても、法律上可能なDAOを組成したい、そのために日本では何が出来るのか教えてくれ、等の曖昧な返答を受ける場合も多いです。

このように整理がなされていない状況ですとDAOの組成が困難であると思われるため、本稿では、日本でDAOを組成する場合に何を検討すればいいのかを整理し、日本法上、組成が可能と思われるDAOを探求することを目的として執筆をしています。

1.2   検討すべき点及び結論

様々なDAOが考えられる前提で、結論として日本でも一定のDAOの組成は可能ですが、それが金融規制を順守できるか、及び、どのような法形式で行うのか、慎重な検討が必要です。

金融規制は、配当や100%以上の元本償還の可能性がある(以下、配当及び100%以上の元本償還を併せて「配当等」といいます。)DAOのトークン販売は、原則として、第一種金融商品取引業者に行わせる、又は自ら第二種金融商品取引業を取得して行う必要があります。

また、配当等のないFungible Tokenを販売する場合には、原則として、暗号資産交換業者に行わせるか、自ら暗号資産交換業を取得する必要があります。

なお、移転に技術的制約を設けたり、販売相手を限定することにより、緩和された規制の適用を受けられる可能性があります(トークンによります)。これらに対し、配当等のないNFTを販売する場合、金融規制は一般的にかかりません。

DAOの法形式は、それぞれの法形式に利点、欠点がありますが、例えば、配当等のあるInvestment DAOで税務上の有利さを追求したいのであれば組合やGK-TKスキーム、特に税務上の有利さを重視しないのであれば権利能力なき社団や一般社団法人、合同会社がトークンを発行するスキームが考えられます。配当等のないFungibleトークンやNFTの発行の場合、特に法人格を持たないことで良いかもしれません。

1.3         結論の参考表

以下、法的スキームや、金融規制について、検討すべきと思われる点と、それに対する結論を纏めた表となります。

配当等のあるInvestment DAO(=配当や100%以上の元本償還がある想定)のトークン販売には下記の規制が適用されます。

  日本法上の形態 トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用
合同会社、株式会社の社員権のDAO 合同会社の社員権のトークン化など 社員権トークンの無償配布は、会社法などで不可 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は合同会社の場合、第2種金商業、株式会社の場合は規制なし。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

社員権以外の権利のDAO(配当あり) TK出資、組合出資、所定の法形式に分類困難な権利のトークン化など 規制なし 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は第2種金商業。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

(有価証券投資の場合には投資運用業の可能性)

他方、配当等のないDAOも考えられますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

DAOに考え得る法形式に関しては、以下の比較ができると考えられます。

  法形式 有限責任性 配当可能か 二重課税回避 その他、総合評価

法人格なし

権利能力なき社団+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 自由度が高い。二重課税の点さえ問題なければ良いスキーム。
民法上の組合+組合持分トークン × △~〇 自由度が高い。有限責任性の点さえ問題なければ良いスキーム。
投資事業有限責任組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、NFTの購入が不可等、投資先や事業に制約。通常DAOでは使いにくい。
有限責任事業組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、組合員の名義の登記が必要である等、DAOでは使いにくい。
法人格あり 法人(*1)+匿名組合(例:TK-GKスキーム)のトークン化 △ 会社法や一般社団法に従った運営が必要。TK保有者には指図権がない等の点に留意が必要。二重課税がない、有限責任である点は良い。
法人(*1)+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 会社法や一般社団法に従った運営が必要。それ以外の自由度高く、二重課税の問題を気にしなければ良いスキーム。
法人(*1)+社員権(*2)のトークン化 〇(一般社団法人は×) × × 会社法や一般社団法に従った運営、社員としての管理が必要で、自由度低いか。

*1 法人としては合同会社、株式会社、一般社団法人など。株式会社より合同会社のほうが一般的に設立と運用が簡便。より公益的なイメージを持たせたい場合には一般社団法人を利用
*2  合同会社の社員権、株式会社の株式、一般社団法人の社員権

2 DAOについて

2.1         DAOとは何か?

DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、分散型自律組織等と呼ばれます。

特徴としては、特定の管理者が存在せず、メンバーが共同にて所有運用を行う組織のことを指します。

多くのプロジェクトでは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトと呼ばれる仕組みを利用し、スマートコントラクトで記載した事柄は自動的に実行されるようにします。また、ガバナンストークンと呼ばれるトークンを発行し、そのスマートコントラクトを変更したりするなどの重要な事項については、トークンホルダーの投票がない限り行えない仕組みになっています。

2.2         DAOの分類

Hideto@VancouBoysさんの2021年8月26日付Twitterが良く纏まっていたので、それを転載させて頂くと、DAOは下記のような分類になります。

①   Investment DAO
プロジェクトへの共同出資を目的とした営利目的DAO。「経済資本」を中心に利益を生むことを目的とされるためGrant DAOと比較すると資金が集まりやすい。
例)Genesis DAO, The LAO, BitDAO
 
②   Grant DAO
最初のユースケースとして正式稼働したのはGrant DAO。寄付された資金の使途をガバナンスを通じて決定する仕組み。「社会資本」を中心にメンバーが集まる傾向。
例)MolochDAO, MetaCarteDAO, Uniswap Grants
 
③   Protocol DAO
DeFi Protocol群を中心に発展しているDAO。コアチームからコミュニティにProtocolの権利を徐々に移行させ将来的にコミュニティ主導で自律的に運営されることを目指す。
例)Maker, Compound, Uniswap, Aave, Yearn, Sushi
 
④    Service DAO
分散型ワーキンググループ。プロジェクトを遂行すると対価としてトークンをもらえる。
例)RAID GUILD, DXdao, PartyDAO
 
・Social DAO
Grant DAOの社会資本中心の性格を抽出したDAO。メンバー間で価値観を共有するソーシャルネットワークのようなもの。
例)Friends With Benefits(FWB)
 
①   Collector DAO
何か(多くの場合NFT)を収集するために結成したDAO。
例)PleasrDAO
 
②   Media DAO
ニュースレターなどのコンテンツを提供するメディアをDAO化したプロジェクト群。
例)Fore Front(FF), Bankless DAO
Hideto@VancouBoys氏twitter
(https://twitter.com/VancouBoys/status/1430687658104168451以下)から引用

2.3         DAOの事例

以下では現在あるDAOの事例を幾例かご紹介します。

3 海外のDAO法(Wyoming州のDAO法)

①          Flamingo DAO
NFTへの投資、共同所有を目的とするInvestment DAO。NFTへの投資、売却により収益を得る。また、保有するNFTを貸し出したり、デジタルアートギャラリーに展示したり、他のDeFiプラットフォームの担保として利用する等で収益を得ることがある。
 
Flamingoは米国法上の証券に該当する可能性があるため、投資家は米国法上の適格機関投資家で100名以内とされている。
Flamingoのトークンホルダーは、1トークンあたり1票の権利を有し、また配当を受領する権限を有する。
 
Flamingoは、MolochDAOのスマートコントラクトのv2を使用し、スマートコントラクトは以下を管理している。
・メンバーのFlamingoに対する出資を集める
・投票
・投票の第三者への委任
・投資
・収益の分配
・rage quittingと呼ばれるメンバーの脱退
その他詳細はFLAMINGOの公式ウェブサイト(https://flamingodao.xyz/)をご参照下さい。

②  BitDAO
BitDAO はシンガポールの仮想通貨取引所「ByBit」が全面的にサポートする DAO。
BitDAO は、DeFi や NFT に関するプロジェクトに資金提供・流動性の供給をするInvestment DAOであり、独自トークンのBITを発行。BITは、イーサリアム基盤上に構築されたERC-20トークン。
ガバナンストークンとしての役割があり、BIT所有者は、BitDAOの出資先や出資額の決定に関与可能なほか、保有量に応じて利益の分配も受けられる。
 
③          ConstitutionDAO
ConstitutionDAOは、アメリカ合衆国憲法の原本をオークションで落札するためのクラウドファンディングとして立ち上がったDAOプロジェクト。
2021年11月に実施された原本のオークションでは敗れたものの、1週間で4700万ドルもの資金調達に成功。独自通貨peopleを発行し、ガバナンストークンとして使用する予定であった。
敗北後、返金を行い、今は活動を中止しているよう。
 
④  山古志村DAO
人口800人の限界集落が、デジタルアート×電子住民票として、NFTを発行するDAO。
錦鯉をシンボルにしたデジタルアートのNFTが電子住民票を兼ねている。
 
NFTセールによる調達資金により、山古志地域に必要なプロジェクトや課題解決を独自財源で押し進める。例えば、山古志地域をフィールドに世界中の子どもや大人がアクセスできる教育プログラムの立ち上げ、大小さまざまな地域課題を解決するためのファンドの設立、空き家や遊休施設を活用したスタートアップの誘致など。同時に、山古志地域を存続させるためのアイデアや事業プランをリアルタイムで、NFTホルダーであるデジタル住民専用のコミュニティチャット内(Discordを使用)で展開し、メンバーからの意見の集約、投票などで行う。
 
以上は、山古志住民会議のNote(https://note.com/yamakoshi1023/n/n1ae0039aa8a4)を参考に記載。

海外でも、DAOに対する法律の適用は明確ではありません。一つの例として、Wyoming州では、2021年にDAOを法人として認める法律を制定しています。

概要
・DAOは、ワイオミング州の有限責任会社(LLC)として登記可能。
・DAOのメンバーはDAOの債務に関して有限責任。
・法人課税を選択しなければパススルー課税。
・ワイオミング州でDAOを設立する場合、その定款には自律分散型組織であることを示す文言や略語である「DAO」、「LAO」、「DAO LLC」などを含めなければならない。
・DAOの管理は定款および運営契約に別段の定めがなく、アルゴリズムが管理する場合はスマートコントラクトに帰属する。
・DAOは1人以上のメンバーを有するDAOを組織の定款の原本1部と正本または合本1部に署名し、州務長官に提出することによって結成できる。
・DAOを結成した者が、組織のメンバーである必要はない。DAOを結成した者はDAOの登録代理人としての役割を果たすことになる。
・DAO結成の条件として、その組織基盤となるスマートコントラクトが更新、修正、その他のアップグレードができなければならない。さらに定款には、DAOの管理、促進、運営に直接使用されるスマートコントラクトの識別子を含める必要がある。
・定款に記載されるスマートコントラクトには「メンバー間およびメンバーと自律分散型組織との関係、メンバーとしての資格を有する者の権利および義務、DAOの活動とその遂行、運営規約の変更の手段と条件、メンバーの議決権等の権利、メンバーの権利の譲渡性、メンバーシップの脱退、解散前のメンバーへの分配、組織規定の改正、適用されるスマートコントラクトの修正、更新、編集または変更の手順、その他、DAOに関するすべての事項」に関する規定がされていなければらならない。
・DAO法案は、設立時に定義したスマートコントラクトに変更が生じる場合に、合わせて定款を変更する必要がある点が特徴。
 
以上は、あたらしい経済社の記事「米ワイオミング州の「DAO法」、7月に施行へ」(https://www.neweconomy.jp/posts/112086)を参考に記載

なお、Wyoming州のDAO法はあくまで法形式に関する法律であり、販売時の金融規制は別途かかると思われる点に留意が必要です。

4 DAOに対する金融規制

4.1         初めに

配当等のあるInvestment DAO(=配当や100%以上の元本償還がある想定)のトークン販売には下記の規制が適用されます。

  日本法上の形態 トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用
合同会社、株式会社の社員権のDAO 合同会社の社員権のトークン化など 社員権トークンの無償配布は、会社法などで不可 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は合同会社の場合、第2種金商業、株式会社の場合は規制なし。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし
社員権以外の権利のDAO(配当あり) TK出資、組合出資、所定の法形式に分類困難な権利のトークン化など 規制なし 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は第2種金商業。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

(有価証券投資の場合には投資運用業の可能性)

他方、配当等のないDAOも考えられますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

以下、解説します。

4.2         ファンド類似権利のトークン化のDAOと金商業の登録規制

合同会社や株式会社の社員権以外の権利のトークン化で、金銭や暗号資産の出資、投資運用、配当又は100%以上の元本償還がある場合、日本法上は広く集団投資スキーム(=ファンド)と見られると思われます。集団投資スキームは、典型的には組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約などのファンドを規制する概念ですが、金商法2条2項5号、6号は集団投資スキームの範囲を「その他の権利」と広く定義しているためです。

集団投資スキームの定義の概要
以下の①~④を満たす権利
① 民法第667条第1項に規定する組合契約、商法第535条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権、その他の権利
② 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(暗号資産を含む)を充てて行う事業(「出資対象事業」)が存在
③ 出資者が出資対象事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる
④ 出資者全員が常時業務に関与する等の例外事由にあたらない

そして、2020年5月1日施行の改正金商法により、電子記録移転権利という法概念が創設され、トークン化された集団投資スキームの権利は、通常、この電子記録移転権利に該当します。

電子記録移転権利の定義の概要
以下の①~③を満たし、④を除く権利(金商法第2条第3項)
① 金商法第2条第2項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名・合資・合同会社の社員権等)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

この電子記録移転権利の販売には、第一種金商業の登録が必要であり、また、50名以上に勧誘する場合、公募となり(金商法2条3項)、有価証券届出書の提出が必要となります(金商法5条)。

なお、例えば適格機関投資家や49名以下の富裕層にのみ販売を限定し、かつ、転売があっても、それ以外の者がDAOトークンホルダーになれないように技術的に制約されている場合、自己募集は63条届出という簡易な届出で足ります。

Investment DAOの組成の際には当初はそのような限定された形で販売する等し、大きくなった後に、規制を順守しつつ、一般公衆に販売していくことは考えられるのではと思われます。

4.3         社員権のトークン化のInvestment DAOと金商業登録規制

これに対して、社員権のトークン化(電子記録移転権利)の場合、合同会社の社員権であれば他者による募集に一種金商業が自己募集には二種金商業が、株式会社の株主権のトークン化であれば他者による募集に一種金商業が課されます。株式会社の株主権のトークン化の自己募集には業規制はかけられません。

4.4         公募等に関する規制

公募等になる場合、別途、有価証券届出書の提出が必要となる場合があります。以下のいずれかに該当する場合は、公募として、原則としてファンド類似権利や社員権をトークン化した電子記録移転権利の発行につき有価証券届出書の提出が必要になります。

(i)  50名以上の者(転売制限等を行った場合の適格機関投資家を除く)を相手方として有価証券の取得勧誘を行う場合
(ii) 適格機関投資家私募、特定投資家私募および少人数私募のいずれにも該当しない場合

適格機関投資家私募とは、適格機関投資家のみを相手方として行い、適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合として一定の要件を満たした取得勧誘を意味し(金商法2条3項2号イ)、また、特定投資家私募とは、特定投資家の身を相手方として行い、特定投資家以外に譲渡されるおそれが少ない場合として一定の要件を満たした取得勧誘を意味し(同号ロ)、少人数私募とは、50名未満の者を相手方として、多数の者に所有されるおそれが少ない取得勧誘を意味します(同号ハ)。

4.5         配当のないDAOに対する金融規制

配当等のないDAOも考えれますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

なお、ユーティリティートークンの販売に関し、暗号資産交換業の規制には、有価証券の販売の場合と異なりプロ向け販売の例外などがないのですが、例えば、「業」と見られない範囲の関係者に対してのみ販売を行い、かつ一般公衆には無償配布を行いつつ、事業が大きくなった後には暗号資産交換業者と組んだ上で上場を行う、ということは考えられると思われます。

5 DAOを日本で組成する場合の法形式

5.1         初めに

日本でDAOを組成する場合、法形式を明確化して、民法上の組合、投資事業有限責任組合、合同会社+匿名組合、などで、組成する場合と、特に明確化せず、いずれの法形式かよく判らない団体が権利性の良く判らないトークンを出している、という形にすることの両者が考えられます。

法形式を明確化しない場合、日本では一般には「権利能力なき社団」が「権利性が良く判らないトークン」を出しているという取扱いになると思われます。この場合、二重課税が排除できないことや、法的安定性が若干欠ける等のデメリットがありますが、法形式に縛られず自由である、というメリットがあります。

他方、法形式を明確化した場合、各々の法形式に応じて、二重課税が排除される等のメリットがありますが、法令に従った運営をしないといけない等、自由度が減るデメリットがあります。

以下で考えられる考慮要素を検討します。

法形式比較

  法形式 有限責任性 配当可能か 二重課税回避 その他、総合評価

法人格なし

権利能力なき社団+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 自由度が高い。二重課税の点さえ問題なければ良いスキーム。
民法上の組合+組合持分トークン × △~〇 自由度が高い。有限責任性の点さえ問題なければ良いスキーム。
投資事業有限責任組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、NFTの購入が不可等、投資先や事業に制約。通常DAOでは使いにくい。
有限責任事業組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、組合員の名義の登記が必要である等、DAOでは使いにくい。
法人格あり 法人(*1)+匿名組合(例:TK-GKスキーム)のトークン化 △ 会社法や一般社団法に従った運営が必要。TK保有者には指図権がない等の点に留意が必要。二重課税がない、有限責任である点は良い。
法人(*1)+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 会社法や一般社団法に従った運営が必要。それ以外の自由度高く、二重課税の問題を気にしなければ良いスキーム。
法人(*1)+社員権(*2)のトークン化 〇(一般社団法人は×) × × 会社法や一般社団法に従った運営、社員としての管理が必要で、自由度低いか。

*1 法人としては合同会社、株式会社、一般社団法人など。株式会社より合同会社のほうが一般的に設立と運用が簡便。より公益的なイメージを持たせたい場合には一般社団法人を利用
*2  合同会社の社員権、株式会社の株式、一般社団法人の社員権

5.2         法人格の有無

DAO化を徹底したい場合には法人格のない形式にすることが考えられます。単にトークン等に投資をする場合や、スマートコントラクトで全てが完結する場合、特に法人格を持つ必要はありません。

法人格を有する場合、当該法人の設立根拠法に従って運営をしなければならない、取締役や理事等が存在し中央集権的である、という制約はありますが、例えば、トークンホルダーに一定の投票権を持たせ、その投票に従って取締役等が行動する、と約束することで、相当程度のDAO類似性は達成できると思われます。

DAOの設立当初はいずれにせよ中央集権的な部分が必要と思われるため、当初は法人を設立し、後日、軌道に乗った後に法人格を失くしていくスキームも考えられます。

5.3    DAOトークンホルダーの有限責任性

出資者が出資した金額以上の責任を負わないこと、これを有限責任と言います。

DAOの目的が単にNFT投資等の場合、仮にDAOトークンホルダーの有限責任性が確保されていなくても大きな問題はないとも考えられますが、やはり有限責任性は確保した方が良いと思われます。そのような観点からは、例えば民法上の組合は有限責任性が確保されず、避けるべきと思われます。

他方、株式会社の株主、合同会社の社員、一般社団法人の社員、匿名組合契約の出資者などは、極めて例外的な場合を除き、有限責任です。

なお、多くのトークン発行事例では、そもそもトークンがどのような性質を持つのか不明確であり、それを会社が発行したり、財団が発行したり等します。このような「よく判らないトークン」のトークンホルダーが有限責任であるかは不明確な点もありますが、例えば投票権がある等のみの場合、基本的には有限責任と考えて良いのではと思われます。

5.4    配当可能か

トークンホルダーに配当等を行いたいか否かで選択できるスキームが異なります。例えば一般社団法人+社員権トークン化の場合、法令上、配当は行えません(一般社団法11条2項)。

なお、法形式上配当が可能であったとしても、配当は義務ではなく、約束で配当は行わないとすることも考えられます。配当を行うか否かで、前述4の金融規制の適用が変わってくるため、その点の留意が必要です。

5.5         二重課税の排除(Tax Transparent)

Investment DAOの場合、税務上、法人段階で課税され、配当があった場合に当該配当に対して構成員レベルでも課税される(二重課税、not tax transparent)のか、法人段階では課税されず構成員レベルで課税されるのか(二重課税なし、tax transparent)は重要な考慮要素になります。

二重課税を避けたい場合、民法上の組合や匿名組合など、法令上、明確に税務の処理が規定されている法形式を使用することが必要と思われますが、このような法形式には例えば民法上の組合には無限責任性、匿名組合には指図権の問題などがあり、留意が必要です。

5.6         DAOとしての自由度、適格性

例えば、ファンドで多く使用される投資事業有限責任組合は、法令上、投資先が限定されており(投有責法3条1項)、NFT等への投資ができません。勿論、債権等に投資するInvestment DAOであれば投資事業有限責任組合の採用も考えられますが、一般のDAOには使用しにくいと思われます。

また、匿名組合契約の場合、匿名組合員には経営への監視権はあるのですが(商法539条)業務執行権はなく(同法536条3項)、かつ、業務執行を行っていると見られると、匿名組合性が失われる(民法上の組合等と見られる)可能性がある点、留意が必要です。

5.7         トークン移転と対抗要件

日本法上、債権の移転を第三者に対抗するには原則として「確定日付のある証書による通知又は承諾」が必要とされています(民法467条2項)。例えば、債権者Aが債務者に対する債権を有し、Aが当該債権をBとCとに二重に譲渡した場合、このBとCのどちらが勝つかを「確定日付のある証書(内容証明郵便や公証人の確定日付印のある文書)による通知又は承諾」で決めよう、という発想になります。また、Cが差押債権者やAの倒産管財人である場合も、同様に対抗要件が問題となります。

トークンの移転の際に、確定日付ある通知又は承諾を得ることは、実務上、行われていません。法令上、債権であるか明確ではない場合、許容可能なリスクと思われますが、何らかの債権をトークン化したということを明確化した場合、移転に確定日付がないことのリスクが発生する可能性があります。その意味ではよく判らないトークンの譲渡の方がリスクが低い可能性はあります。とはいえ、トークンの譲渡に伴い、権利が譲渡されるのではなくAが元の契約から脱退をし、Bが債務者との間で元の契約と同一の契約をしたという構成にすることにより対抗要件問題は解決できる可能性があり14、債権譲渡に関しては、対抗要件問題は決定的な要素ではないと思われます。

この他、株式会社の株主権のトークン化については、株主の地位の移転の対抗要件は株主名簿の記載であり(会社法136条)、トークン化の場合もこの点は変わらないと思われる等、各種権利の移転についての対抗要件、効力要件は、トークン化に際して、検討することが必要です。

留保事項
・DAOについてはそもそも明確な定義もなく、これまで本邦で法的に分析された資料等もないため、法令上、合理的に考えられる当職らの現状の見解を整理したものに過ぎません。
・DAOに関する法制度の整備や関係当局の解釈、その他議論の状況等を踏まえ、本稿の内容について当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿の内容につき関係当局の確認を経たものではなく、関係当局が異なる判断を行う可能性があります。
・海外の法令や国内外のDAO事例は、各社のホームページ、ニュース記事、各種Blog等を参考に記載したものであり、内容の正確性は保証できません。
・本稿は、DAOの利用を推奨するものではありません。
・本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

メタバースBlog連載済み

メタバースBlog連載の予定

1 初めに

メタバース、特にバーチャルSNS型のメタバース(SNS型のメタバースの概要についてはメタバースと法律(1)の記述をご参照下さい)では、ユーザーのアバターによる表現が自由に許されることが多く、下記①のような事象が問題となります。

また、一般ユーザーがアバター(キャラクター)やワールド等を製作できるようにSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されているものが多く存在します。このようなSNS型メタバースでは、下記②、③のような事例がしばしば存在し、法律との関係が問題となります。

更に、SNS化型メタバースでは、このような①~③の行為を許容するプラットフォーマーの責任がどうなるか、も問題となります。

本稿で検討すること
①    ユーザーによりバーチャルライブなどの、演奏、歌唱、ダンスなどの様々な表現行為がなされることと法律
②    ユーザーがアバター(キャラクター)などの顔、服、小道具などを作成し、利用し、販売することと法律
③    ユーザーがワールドを作成し、他のユーザーに来場して貰い、遊んで貰うことと法律
①~③のような事例に関するプラットフォーマーの対応

これらの問題はメタバースに特有の問題ではなく、既存の動画投稿サイト、SNS、ユーザー投稿型のゲームなどでの問題点と重複する点がありますが、異なった問題点もあり、改めて検討するものです。

2 ユーザーによる表現行為(ライブ、歌ってみた、演奏してみた、踊ってみた)と法律

メタバース上で、ユーザーがライブをし、歌うこと、演奏すること、踊ること等について、他人の作品を取り扱う場合、基本的には著作権が問題となります。

メタバース上での大規模ライブ(竜とそばかすの姫より)

(竜とそばかすの姫「U」MVhttps://www.youtube.com/watch?v=R3V4sAXUJ-g0:04、3.17より。以下同ビデオにつきURLを省略。)
(竜とそばかすの姫「U」MV 2:30より。なお、同ライブの曲はおそらく自作曲と思われる。)

すなわち、歌については、歌詞やメロディーは音楽の著作物として保護されています。また、既に演奏された音源を流す場合、例えばカラオケ音源をバックに歌う場合などは、演奏物の著作隣接権も問題となります。更に、他人の作った振り付けを踊る場合、舞踏の著作物が問題となります。

(a)自身が著作権を有する場合、(b)著作権フリーである場合、(c)著作権の一括許諾がなされている場合、を除き、理論的には使用について許可を取る必要があります。なお、メタバース上での利用は、公衆送信権との関係で、私的利用の例外は認められないのでは、と思われますが、この点も後述します。

  想定される行為 対象となる著作権 例外の適用
1 (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏 音楽(作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 JASRAC、NEXTONE管理曲の包括許諾
但し、現在、メタバースサイトで包括許諾を取っているサイトがあるものがあるかは不明。今後、包括許諾が取られれば問題ない。

なお、公衆送信権や演奏には私的利用の例外はないこと、「公衆」の範囲の問題となるが、完全に閉じたワールド以外は公衆になりうることに留意。

2 (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏し、自分で歌唱 音楽(作詞・作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 同上
3 (市販の曲を、既にあるカラオケ音源をバックにして)メタバース上で歌を歌う 音楽(作曲・作詞)の著作物:演奏権と公衆送信権

カラオケ演奏:著作隣接権

音楽の著作物について同上

著作隣接権についてはJASRACやNEXTONEの包括許諾の対象外であることに留意

4 (市販の曲を、市販演奏をベースに、他人の振付にて)メタバース上でダンス ダンス(舞踏)の著作物: 上映権、公衆送信権
曲及び演奏:上記3と同様
TikTok等で上げられているダンスの振付は、他人が振付を真似して配信することに事実上の承諾があると考えられる可能性が、(市販の音楽等に比べて)高いと考えられる。

但し、音楽については留意

①市販の曲のメタバース上での演奏と著作権

メタバース上で、市販の曲を演奏する場合、歌詞の著作権と、作曲の著作権が問題となります。また、市販の曲を歌唱する場合で、他の演奏家が演奏したカラオケ等をバッグに流す場合には、演奏家が有する著作隣接権という権利も問題となります。 そして、通常、インターネットでのアップロードは公衆送信権という権利の問題となり、メタバース上での利用も同様の権利の問題となると思われます。

なお、「演奏してみた」「歌ってみた」は、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどの既存の動画サイトでも人気のカテゴリーです。これらのサイトは、JASRACやNEXTONEとの間で著作権についての包括的な許諾契約を締結し、金銭を払っていることから、JASRAC、NEXTONE管理曲であれば、ユーザーはいちいち個別の許可を取ることなく、演奏をアップロードできます。但し、既存サイトでも、著作隣接権についてはこのような包括承諾の対象となっておらず、カラオケ音源の利用には別途の問題が生じます。

これに対して、現時点では多くのメタバースサイトでは、現状、このような包括契約を締結していないと考えられ、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどとは異なった注意が必要となります。

  YouTube、ニコニコ動画、TikTok 多くのメタバースサイト
他人の曲(JASRAC、NEXTONE管理曲)の自分自身による演奏、歌唱 包括契約の対象なので個別の同意不要 包括同意契約がないので、個別の同意が必要
他人の演奏(カラオケ音源含む)の利用 個別の同意が必要 個別の同意が必要

➁踊ってみた、と明示又は事実上の承諾

既存動画サイトでは「踊ってみた」も人気を博しています。これらの振り付けは多くの場合、振付の創作者が、他のユーザーが踊った上で動画サイトで共有することを望んでいると思われ、少なくともその振付師が当初アップした動画サイトでは明示の承諾があるのではないかと思われます。

他方、他の動画サイトでダンスをアップロードすることや、アバターによるメタバース空間でのダンスについてまで承諾があるかは理論上は若干の疑義があります。多くのコミュニティ発生型のコンテンツは、インターネット上では(少なくとも営利目的でなければ)自由に使用できると考える創作者も多いと思われ、事実上の承諾がある、ないしそこまでは言えなくても事実上問題がないと考えられる場合が多いと思われますが、理論的には「踊ってみた」でも著作権の処理を考える必要がある点、留意が必要です。

なお、踊ってみたでも通常、音楽が一緒に流れると思われ、音楽の著作権処理については、上記①を念頭に置く必要があります。

③メタバースでの利用が「私的利用」といえるか、「公衆」の範囲

著作権の議論をする場合、「私的使用のため」であれば問題ない等と議論されることがあります。

しかし、「私的利用」は複製についての例外、家庭内など個人的な限られた範囲内で使用する目的で、使用する本人がコピーする場合は、著作者から許諾を得なくてもよい、という規定です。

著作権法第30条
著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

インターネットでの利用(公衆送信)や演奏などは著作権法上、複製とは異なる概念とされており、私的利用の例外は適用ありません。

なお、公衆送信権や演奏権には「私的利用」の例外はありませんが、これらはあくまで「公衆」に対する送信、「公衆」に対する演奏を問題とするため、完全に閉じたワールドで仲間内で歌う場合等には、著作権上の問題は発生しないと思われます。

[参考:著作物の例]

著作権法第10条
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

【参考:著作権の内容】

区分 支分権 著作権法 内容
著作権 複製権 21条 複製(有形的に再製すること)する権利(2条1項15号)
サーバーへのアップロードやハードディスクへのコピーといった有体物に固定することも含む
公衆送信権 23条 インターネットなどを通じて公衆に情報を送出する権利
展示権 25条 美術の著作物・未発行写真の著作物の原作品を展示する権利
譲渡権 26条の2 映画以外の著作物又はその複製物を譲渡する権利
貸与権 26条の3 映画以外の著作物又はその複製物を貸し出す権利
翻案権 27条 二次的著作物を作成する権利
  二次的著作物利用権 28条 二次的著作物について利用(上記の各権利に係る行為)する権利
著作者
人格権
同一性保持権 20条 著作物又はその題号を勝手に改変されない権利

3 ユーザーによるアバター作成と法律

メタバース上では、自分のアバターを作成しそれを用いることが多く想定されます。 アバターの作成方法及び表現方法によって発生する権利等が異なるため、項目を分けて検討します。

  作成方法及び表現方法 検討が必要な権利 結論
1 アニメ調のアバター    
(a)他者が作成した原画をモデリングする場合 著作権 – 複製権、翻案権又は公衆送信権の侵害となり得る。
– イラスト制作を依頼した場合であっても、著作権は当然に移転されないことに留意が必要。
(b)著作権で保護されない独創性のないキャラクターやロゴをモデリングする場合 商標権 – 企業のロゴやキャラクターのうち、独創性のないものは、著作物として認められない。
– 商標登録されている場合も多いが、一般的なメタバースでアバターとして利用することは、商標権の侵害に該当しない。
2 リアル調のオリジナルアバター

肖像権
名誉権

– 撮影の許可を得た写真を元にアバター作成する場合であっても、メタバース上での使用許可を得ていない場合には、肖像権侵害となり得る。
– 他者の容ぼうを用いたアバターの使用は、なりすまし行為に該当し得る。
– なりすましのもとで第三者を誹謗中傷した場合等には、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性がある。
3 制作ツールを用いて作成するアバター 著作権
肖像権
– 他者が容易に同一のアバターを作成できる制作ツールでは、著作権が発生しない場合がある。
– 上記2の作成方法と組み合わせた制作ツールもみられるため、その場合には肖像権についても検討が必要となる。

①アニメ調のアバター

自らアニメ調のオリジナルアバターを作成してメタバース上で利用する場合には問題ありませんが、他者のイラスト、キャラクター、ロゴ等をモデリングしてアバターを作成するような場合には、著作権や商標権の問題がないか検討する必要があります。

(a)他者が作成した原画をモデリングしたアバター

他者が作成したイラストやキャラクターは、一般的に著作物として保護され1、それを用いてアバターを作成した場合、複製権、翻案権、又は公衆送信権の侵害となり得ます。歌ってみたの議論と同様に、自らしか入れないメタバース上で利用した場合には私的利用の複製として許容されると考えられますが、翻案を加えて新たな著作物を作成した場合には翻案権の侵害、「オープン」なメタバースで利用した場合には公衆送信権の侵害になり得ます。

イラストレーター等に原画の作成を依頼して、それを元にしたアバターを使用する場合でも、あくまでイラストの依頼であってアバター利用の許諾までは得ていない場合、問題が生じ得ます。著作権は、制作発注や代金支払いに伴って当然に移転するものではなく、著作権の譲渡か利用許諾を得る必要があり、かつ、その譲渡や利用許諾の範囲を明確化する必要があります。

著作権の譲渡を行うと著作権そのものが譲受人へ移転します。したがって、たとえ著作者であっても譲渡後は著作物を原則として利用することができなくなります。著作権は、全部譲渡のほか、支分権や期限を区切り一部譲渡することが可能であるため、譲渡する著作権の範囲を明確化しておくことが求められます。なお全部譲渡の場合であっても二次的著作物に関する権利(著作権法27条、28条)に限っては、明記されていなければ移転しないと推定されるため注意が必要です。

著作権の利用許諾は、契約の相手方に使用を認めるに過ぎないため、著作権は相手方に移転しません。許諾を受けた者は、その契約の範囲内で著作物を使用することはできますが、他者に対して著作物を譲渡することや利用許諾をする(特約があれば利用許諾は可能)ことはできません。

したがって、他者が描いたイラストを用いてアバターを作成する場合、権利者との間で、いかなる権利の譲渡または利用許諾がなされるのか明確にしておく必要があります。

(公式サイトhttps://diverse.direct/より引用)

(b)独創性のないキャラクターやロゴをモデリングしたアバター

[参考: 著作物の要件]
①      思想または感情の表現であること
②      創作性があること
③      表現されたものであること
④      文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

企業のキャラクターやロゴマークなどで、例えば、独創性のない動物のイラストを用いたキャラクターや単純に文字や図柄を並べただけのマークでは、創作性の要件を満たさないため著作権は発生しないと考えられます。

企業が使用しているキャラクターやマークについては、著作権が認められないものであっても、商標登録がされている可能性が高く、これらをモデリングしてアバターを作成する場合、商標権を侵害することにならないか別途検討が必要です。

この点については、商標は、商品や役務を他人の商品または役務と識別し、出所の同一性を表示するために、営業上の標識を保護する目的で設けられています。商標権の発生には登録が必要ですが、色彩のみからなる商標や立体商標(ヤクルトの容器等)など広く認められています。

他方、商標登録がされているものを使用しても、それがどの業者の商品や役務であると認識できる態様により使用(商標的利用)されていない限り、商標権の侵害には該当しません(商標法26条1項6号)。
したがって、自らのアバターとしてそれらを使用した場合であっても、一般的には商標的利用があるとはいえず、商標権の侵害には該当しないと考えられます。

(公式サイトhttps://www.pandaexpress.jp/ja/https://www.lacoste.jp/より引用
なお著作権があるかについては未検討)

➁リアル調のオリジナルアバター

3Dスキャナーやカメラ等を用いて、実在する人物の外見を元にアバターを作成する方法も存在するようですが、この場合、対象人物の肖像権を侵害しないかが問題となります。

肖像権は、憲法13条の幸福追求権を根拠として認められる権利であり、「撮影されない人格的利益」と「撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」を内容とします。許可を得て他者の容ぼうを撮影した場合であっても、それを用いてアバターを作成しメタバース上で使用することの許可を得ていない場合、後者の肖像権の侵害となり得ます。

また、他者の容ぼうを用いたアバターを使用した場合、第三者からは、そのアバターを操作している人物は本人だと認識される可能性が高く、いわゆるなりすましとして問題になり得ます。なりすましのもとで第三者を誹謗中傷したような場合には、本人をそのような人だと思わせてしまう可能性があるため、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性があります。

(公式サイトhttps://coubic.com/real-avatar/831845より引用)

③制作ツールを用いて作成するアバター

プラットフォームが提供するツールを用いて、アバターの髪型や目、輪郭、口の形を選択肢から選び、アバターを作成する方法があります。その選択肢が狭く他者が容易に同じアバターを作成できる場合には、創作性の要件を満たさないため、著作権は認められないと考えられます。選択肢が無数にあり細やかな調整をすることができる場合や、外部から購入したオブジェクトやアイテムを持ち込んで作成することができる場合には、創作性の要件は満たすとも考えられますが、思想または感情の表現であるといえるかは検討が必要です。

また、実在の人物の外見を読み込み、それを編集してアバターとする、②の方法と組み合わせたような作成ツールもみられます。この方法を用いているアバター制作ツールでは、デフォルメされた外見となる場合が多いため創作性が認められない可能性が高いものの、よりリアルな容貌に近づいた場合には②で述べた肖像権についても検討することが必要です。

(公式サイトhttps://guide.line.me/ja/account-and-settings/account-and-profile/avatar.htmlより引用)

④今後保護される必要があると考えられる権利

これまでは、ゲーム等にてアバターを作成した場合、当該プラットフォームにおいてのみ使用できるのが一般的で、同じアバターを他のプラットフォームで使用できる例は限定的でした。しかし、メタバースの相互運用性が重視される中で、プラットフォームをまたいで使用できるアバターの必要性が高まっています。

エストニアに拠点を置き2014年に設立されたWolf3Dが開発したアバター作成システム「Ready Player Me」では、複数のVRゲームやプラットフォームで同一のアバターを使用できる”ハブ”システムが実装されており、2021年12月末の時点で、このアバター作成システムを採用している企業は1000社以上にのぼります。

メタバースの相互運用性が高まり、現実世界と同じようにメタバース上で他社と取引を行ったり金銭を稼ぐことが当たり前になった世界においては、現実世界の外見と同じように、アバターそれ自体に肖像権等に類似する権利が必要となり得ると考えられます。

他方、アバターは外見を自由に変更することや、複数のアバターを状況により使い分けることができるため、現実の人物と同様の権利をアバターに認める場合、どのような案件でアバターを保護すべきか明確ではなく、別途検討が必要です。

  (公式サイトhttps://readyplayer.me/より引用)

4 ユーザーによるワールドの作成と法律

従来のゲーム等では、ユーザーは予め用意されたコンテンツを利用するのが一般的でしたが、メタバースにおいてはユーザーがワールドなどのコンテンツを作成し、そのワールドに他のユーザーを来訪させる等ができるものが多くあります。以下、そのようなユーザーが作成したコンテンツ(User Generated Contents、以下「UGC」)に係る権利と取扱いについて検討します。

UGCについては、著作物の要件を満たした場合、著作権は創作者に帰属するのが原則です(著作権法17条1項)。しかし、ワールドの著作権を創作者に帰属させた場合、(i)UGCのプラットフォーマー及び他のユーザーへの公開使用、(ii)プラットフォーマー及びユーザーが必要な範囲で行うUGCの複製や二次的創作物の制作等、(iii)プラットフォーマーによるサービスの維持、宣伝など必要な範囲で行うUGCの無償利用等、プラットフォーマーがサービスの提供を行う上で必要とする行為が、ワールド作成のユーザーにより制限又は禁止することが可能となります。

他方、ワールドなどのUGCの著作権を創作者に一切帰属させない旨を利用規約として合意を求める場合には、ユーザーの創作意欲や参加意欲を減退させたり、自らの知的財産をワールド上で使用することを避ける要因になると考えられます。

そのため、UGCについてプラットフォームがどのような権限を必要とするのかを検討したうえで、ユーザーの権利保護とプラットフォーマーの運営上の必要性の調節を志向することが望ましいと考えられます。

   (公式サイトhttps://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.htmlより引用)

5 プラットフォーマーの対応

上記のようなユーザーの表現行為や創作活動、とりわけ第三者の権利を侵害し得る行為について、サービスを提供するプラットフォーマーはどのように対応すべきかを検討します。

プラットフォーマーは、ユーザーとの合意事項として利用規約を定めているが、一般的であり、当該利用規約に基づく責任を負います。利用規定に基づいて対応を行うのが通常と考えられます。

もっとも、自由度の高いメタバースにおいては、上記で検討したような一般的なインターネットサービスでは想定されていなかった権利侵害行為が生じ得ます。そのため、利用規約に基づく対応をスムーズに行うためには、プラットフォーマーにおいて、予めユーザーの属性やサービスの内容を考慮して、トラブルになり得る表現行為や創作活動を洗い出しておく必要があります。ただしユーザーの自由度を過度に制約することの無いよう、専門家にも相談の上、それぞれ法的にどのように問題になるのかを検討しておくことが望ましいと考えられます。そのうえで、権利侵害行為や違法行為に該当するものについては明確に禁止・制限し、さらに該当規約に違反した場合にプラットフォーマーがどのような措置をとることができるのかについても規定することを検討する必要があります。

他方で、UGCのようなユーザーの創作活動を促進させたい場合には、利用規約で一律に権利侵害罪行為を制限するものではなく、ユーザー間で簡易な利用許諾や権利譲渡の仕組みを提供することなども考えられます。

なお利用規約でカバーしきれないトラブルが生じた場合には、プラットフォーマーは、プロバイダー責任制限法に基づく責任を負う可能性があると考えられます。プロバイダ責任制限法15では、例えば、下記の要件に基づく損害賠償や発信者情報開示などの責任があり留意が必要です。

  要件
損害賠償 (i) 情報の流通による権利侵害
(ii) 送信を防止することが技術的に可能
(iii)権利侵害を知っていたときなど
発信者情報開示 (i) 情報の流通による権利侵害が明らか
(ii)発信者情報が損害賠償のために必要その他正当な理由

同法の要件該当性の判断をスムーズに行うためにも、上述した該当プラットフォーム特有の権利侵害公の検討をしておくことがコンプライアンス上有意義であると考えられます。

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

当事務所では、現在、メタバースに関する各種のお問い合わせを頂いております。

その中には重複するご質問もあり、本連載ではメタバースで問題となる主要な法的問題をできるだけ分かりやすく、連載していく予定です。

メタバースBlog連載の予定
(1)  メタバース×法律 I – メタバースとは何か
(2)  メタバース×法律 II – ユーザーの演奏や歌唱、ユーザー作成コンテンツ(ワールドやアバター)と法律 [https://innovationlaw.jp/metaverse2/]
(3)  メタバース×法律 III – メタバース上の取引に関する法律 – 所有権、支払い、NFT規制、労働など [https://innovationlaw.jp/metaverse3/]
(4)  メタバース×法律 IV – メタバース上の嫌がらせ、不法行為、名誉棄損
その他の当事務所のメタバース関係のBlog等
(1)  都市再現型メタバースにおける知的財産権の整理(2022.05.13)
https://innovationlaw.jp/metaverse-ip/
(2)  クリプト業界のためのメタバース入門(2022.05.30)
https://www.slideshare.net/SoSaito1

また、NFTに関する記事も多数アップしていますので、メタバース上でNFTを利用する場合、当事務所のその他の記事をご参照下さい。

1 メタバースとは何か

メタバースの定義は論者により異なりますが、多くのイメージとしてはVR(Virtual Reality)などの機材を使い、3Dの仮想現実空間で遊び、交流をする等のイメージになるものと思われます。最終的には、レディ・プレイヤー1、竜とそばかすの姫、Sword Art Onlineなどの世界感を目指すイメージです。しかし、メタバースはこのような用途に限られるのではなく、他にも産業用のメタバース、物理拡張メタバースなど様々なものが存在します。

更にVRなどを利用することは必須ではなく、Fortnite、Robotex、どうぶつの森などの3Dないし2Dのゲームもメタバースと考える論者も存在し、どのような文脈でメタバースという用語が使われるのかは留意が必要です。

(公式サイトhttps://wwws.warnerbros.co.jp/readyplayerone/より)  (公式サイトhttps://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/より)
             (公式ツイッターサイトhttps://twitter.com/sao_animeより)

例えば、一般社団法人Metaverse Japanでは、メタバースについて下記のように考えていると思われ、参考になります。

メタバースとは何か
①    メタバースという言葉自体は非常に広範に使われており、それぞれの業界がそれぞれの理解でメタバースを名乗っているのが現状
②    今後テクノロジーや時代の変化の中でメタバースという概念が収斂していくものと想定
③    メタバースとは「仮想現実空間を利用し、ユーザー同士のコミュニケーションや現実さながらのライフスタイルを可能にする世界であると同時に、物理世界を拡張する世界」という大きな枠組み
④   10年後には多くのアプリがVRやARにネイティブ対応可していくことを想定しているので、現時点でXRに対応しているか否かは最重要事項ではない
出典: Mogura VR編集部「「日本のメタバース関連団体は「メタバース」をどう捉えているのか?各団体に問う」から一般社団法人Metaverse Japanの回答(以下「Metaverse Japan回答」という。)を参考に記載 https://www.moguravr.com/metaverse-related-organizations-questionnaire

2 メタバースの具体例

上述したMetaverse Japan回答によると、一般社団法人Metaverse Japanではメタバースを下記の6つに分類していると考えられ、参考になります。

  分類 どういうもの? 具体的例
1 産業用メタバース 製造業や各種シュミレーション、XRミーティングを活かした共創ツールといった、産業用途のメタバース NVIDIA社の提唱するomniverseやMicrosoft社の提唱するMicrosoft Meshのように
2 物理拡張メタバース 人間とロボットの共通認識を持つデジタル空間としてのメタバースや、ARを活用したメタバース。リアル拡張までを概念として含む  
3 バーチャルSNS ユーザー同士の交流や関係性を拡張的に構築する場としてのメタバース
アバターやワールド等を一般ユーザーが製作できるようSDKが公開されているものが多く、バーチャルネイティブなカルチャーを発信するユーザーコミュニティも発展
Cluster
4 Web3メタバース Web3要素と紐づいたメタバース
NFTや仮想通貨が発行されることが多い
Sandbox、Othersid、Decentraland、Oncyber、RTFKT、HighStreet
5 IP主導メタバース(エンターテイメントメタバース) ディズニーなど強力なIPが主導するIP完結メタバース
東京ガールズコレクションなどイベント単位のメタバース
ディズニーメタバース、ガンダムメタバース、東京ゲームショウ、東京ガールズコレクションメタバース
6 ソーシャルプラットフォーム型のゲーム 事実上の次世代ソーシャルプラットフォームとして稼働しているゲーム
注:これらのゲームをメタバースに含めるかは様々な議論があるが、これらの動向を全く見ないでメタバースを語ることは、大きな時代の変化を見過ごすリスクが高いので、Metaverse JapanではWGのメイン要素ではないが取り扱う、としている。

Roblox、Fortnite、どうぶつの森

出典        上記Metaverse Japan回答を参考に弊事務所で加筆・修正

(Microsoft公式サイトhttps://docs.microsoft.com/ja-jp/mesh/overviewより)                           (Cluster公式サイトhttps://cluster.mu/より)
(The Sandbox公式サイトhttp://sandbox.game/jp/より)                             (バーチャルTGC公式サイトhttps://virtualtgc.girlswalker.com/より)
(Epic Game公式サイトhttps://www.epicgames.com/fortnite/ja/homeより) (あつまれどうぶつの森公式サイトhttps://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.htmlより)

3 メタバースとプレイヤー

メタバースには幅広いプレイヤーが参加しています。例えば、以下のようなメンバーが参加しています。

(参考) メタバースマーケットマップ

     (Jon Radoffサイトhttps://medium.com/building-the-metaverse/market-map-of-the-metaverse-8ae0cde89696より)

(参考) メタバースカオスマップ

           (Diarkisサイトhttps://multiplayer.diarkis.io/metaverse-caosmapより)

4 メタバースとNFTとの関係

メタバースでは、NFT(Non Fungible Token)と呼ばれるトークンが使用されることがあります。NFTを利用することにより、メタバース内での財産的価値を把握したり、移転をしたり等ができることから、メタバースとNFTは親和的と考えられます。

しかし、NFTの利用は必須ではなく、財産的価値の購入や移転の概念がないメタバースも多数存在しています。産業用メタバース等、財産的価値の購入や移転は必要ないことが多いでしょう。また財産的価値の購入や移転があっても、Web2型のメタバース、例えば企業1社が運営し、運営する1つのメタバース世界で完結する仕組みであれば、わざわざブロックチェーン技術を使ったりNFTを使ったりする必要はありません。

 上述したMetaverse Japan回答では「Web3の要素と絡んだメタバースにおいてNFTは重要ですが、Web3要素のないWeb2型の企業が運営するメタバースのほとんどでは、今後もNFTは関連づけられません。数年の間はWeb3型のメタバースとWeb2型のメタバースは各々別々の進化をたどる期間が続くと予想しております。」としています。

このようにメタバースとNFTは一致するものではありませんが、NFTが重要な要素であること自体は間違いないと思われるため、本連載では別途、メタバース上のNFTの利用の法律関係について記載する予定です。

各種のメタバースと NFT の使用の有無

  分類 事例 財産の購入の例
1 アイテムの購入、移転などがないメタバース 多くの産業用メタバース、物理拡張メタバース なし
 2 アイテムの購入、移転などがあるが、1社で完結するメタバース(Web2型メタバース) 多くのゲーム、多くのIP主導型メタバース、多くのソーシャル型メタバース 例えばFortniteではV-bucksというゲーム内通貨を購入し、スキン(コスチューム)を購入できる。
クラスターではアバターをクレジットカード、アプリ課金で購入できる。
3 他の世界との間でアイテムの移転等を考えるメタバース(Web3型メタバース) Sandbox、Decentralandなど NFT化されたランド、武器などを、ETHやDOTなどの暗号資産で購入できる

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。