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I  初めに

近時、現実の資産(Real World Asset=RWA)の価値や所有権に紐づいたトークン(以下「RWAトークン」といいます。)を日本で発行し、販売することができないか、その場合の規制はどうか、ということを聞かれることがあります。

トークン化される現実資産の種類はアート作品、不動産、ウイスキーなどの酒類、ビンテージカー、国債や株式などの有価証券、ゴールド、など多岐にわたります。

RWAトークンのメリットとして、単独では購入できない資産を分割することにより低額で購入できる、所有の喜びが得られる、値上がり益等を期待できる、流動性が高くなる、などが挙げられます。

II 検討すべき法律の例と纏め

RWAトークンのスキームには様々なものがあり、そのスキームによって検討すべき法律は異なります。検討が必要となる法律の例は以下のとおりです。

1     暗号資産法(資金決済法)
 RWAトークンが暗号資産に該当する場合、その販売等には暗号資産交換業の登録が必要となります。
 概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると考えられており、RWAトークンもそのようにNFTとして組成することが考えられます。
他方、ゴールドをトークン化したジパングコインのように、暗号資産として組成することも考えられます。

2 金商法
 RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売には第1種金商業の登録が必要となります。
 例えば、RWAトークンに配当や100%以上の元本償還があるような場合、集団投資スキーム(ファンド)=有価証券に該当する可能性が高くなります。 
事業者が現実資産を利用して収益を上げ、その収益をトークンホルダーに分配する場合や、事業者が現実資産を売却し、その売却益をトークンホルダーに分配するようなスキームでは、集団投資スキーム該当性について慎重な検討が必要です。

3 預託等取引法
 RWAトークンのスキームにおいて物品や物品に関連する権利の預託を受け、それに関連して、利益の供与を約束したり、物品等の買取を約束する場合、預託等取引法の適用が問題となり、その販売等には内閣総理大臣の事前確認等が必要になることがあります。
 収益配当や元本償還を約束する場合又は類似の仕組みがある場合、金商法若しくは預託等取引法、又はその両者が適用されることがないか、検討する必要があります。

4 前払式支払手段
 現実の資産を取得したり利用したりすることができる権利のトークンを形で発行する場合、前払式支払手段として資金決済法の規制対象となる可能性があります。
 発行者やその密接関係者のみで使用できる自家型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものや、一定の基準日において未使用の残高が1,000万円以下であるものを除き、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。それ以外の第三者型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものを除き、財務局長への登録等が必要になります。

5 古物営業法
 一度使用された物品(鑑賞的美術品を含みます)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。
 但し、分割化した権利として販売している場合には、古物営業法は適用されない可能性があります。

6 その他裏付資産に関連する法律
 例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、物品に関連する法律が適用されることがあります。

7 RWAトークン移転による権利の移転と対抗要件
 RWAトークンでは、トークンの移転に伴いいかなる権利の移転がなされるのか、対抗要件はどのように備えるのか、検討を要します。トークン移転に伴い動産の所有権の移転があり、かつブロックチェーン上の記録で指図による占有移転がある、という考え方や、トークンの移転に伴い利用権や引渡請求権が旧トークンホルダーの元では消滅し新トークンホルダーの元で発生する等の考え方がありえます。

III RWAトークン化の実例とメリット

1  アート作品のRWAトークン化1

RWAトークンの例として、アート作品のトークン化があります。例えば、海外のフリーポート(Freeport)という会社は、アンディ―・ウォーホル等の作品を分割してトークン化して販売しています。

同社が当初販売したアンディ・ウォーホルの作品は4作品であり、「マリリン(Marilyn)」(1967年)、「ダブルミッキー(DoubleMickey)」(1981年)、「ミック・ジャガー(MickJagger)」(1975年)、「理由なき反抗(ジェームス・ディーン)(RebelWithoutaCause[JamesDean])」(1985年)で、各作品は10,000トークンで構成され、1人あたり10トークンから購入可能となり、コレクションのウェブサイトによるとトークン化された各ロットの販売開始価格は、250ドル(約33,271円)~860ドル(約11万4,453円)とのことです。

なお、アート作品の分割化自体は珍しいものではなく、2017年にはマスターワークス(Masterworks)という会社が設立され最低投資額は1万5000ドル(約200万円)でアート権利を販売、2021年12月に元クリスティーズの社員のフィリップ・ガウザーが、ブロックチェーン技術でアート作品の共有所有権を提供するパーティクル(Particle)を設立し、NFTの形でアートの権利をオープンシー(OpenSea)やラリブル(Rarible)で販売しています。

また、トークン化はしていないものの、日本では、ANDARTと言う会社https://and-art.jp/が、ピカソ、バンクシー、ダミアンハースト、ウォーホルなどの作品を分割して販売している例があります。

アート作品をRWAトークン化するメリットですが、著名アーティストの作品を購入したい場合、数千万円~数十億の金額が必要となり、富裕層でないと購入できません。それに対し、絵画を分割して販売することにより、より多くのアートファンが購入を行い、所有の喜び、鑑賞の機会、将来の値上がり益の期待等を得ることができます。

2  アルコールのNFT化

アルコールの樽のトークン化の事例も存在しています。日本の会社であるUniCask社は、ウイスキーの樽を分割した権利をNFT化して販売しています。 ウイスキーはワインと同様に熟成することにより価値が上がります。例えば、著名ウイスキーである山崎やシーバスリーガルの700mlボトルの参考小売価格や希望小売価格で2023年8月現在、以下となっています2

 山崎シーバスリーガル
ノンビンテージ4,500円 
12年10,000円5,126円
18年32,000円10,000円
25年160,000円31,429円

ウイスキーの価格が期間経過により上昇する理由としては、貯蔵の管理コストが必要となること(場所代、人件費、その他管理コスト)、期間中投資資金を回収できないことによるコストに加え、ウイスキーの性質として貯蔵により毎年一定程度の蒸発があること、希少性、などがあると言われます。

大手企業の場合、熟成に要する管理コストや資金コストを負担できる場合もあるものの、小さな醸造所の場合には、このようなコストに耐えられない場合があります。

UniCaskでは事前に樽の権利を分割してNFT化して販売することにより販売する醸造所にとっては早期の資金調達をしながら熟成を行う機会が、ウイスキーの愛飲家にとっては所有の喜び、熟成後まで待って飲む楽しみ、期中の定期的な一部試飲の機会、自分で飲まない場合には転売による値上がり益の期待、などが期待できるとのことです。

UniCaskのスキーム図3

3  高級宿泊施設のRWAトークン化

宿泊施設の利用権のトークン化の事例として、Not A Hotel NFTというものがあります。

NFTではないNOT A HOTELは、所有物件をアプリで手軽に、自宅や別荘、ホテルに切り替えて運用できるサービスであり、ユーザーは1棟まるごと購入するか、もしくはシェア購入(年10日・年30日)によって、物件を保有します。

NOT A HOTELのNFTは、より安い金額でNFTを購入してメンバーシップ会員になることにより、1日単位(例えば年に1泊/2泊/3泊を47年分)でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなります。

当該宿泊施設を47年間利用することができる権利のNFTは、後述のとおり、法的には前払式支払手段として組成されているため、原則払戻しができないものの、NFTとなることにより、NFTをNFTマーケットプレイスで売却したり、友人に贈ったりすることができ、メンバーシップNFTを保有している人限定のイベントに参加できます4。なお、メンバーシップNFTの内訳は宿泊券(前払式支払手段)が80%、登録料が20%との整理がされており、NFTの対価全額を前払式支払手段としていません。

4  ゴールドのトークン化

現実資産に紐づいたトークンが暗号資産として販売された例として、ゴールドのトークン化であるジパングコイン(ZPG)があります。  ZPGは、三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産です。ZPGは、インフレヘッジ機能など金(ゴールド)の特性を備え、デジタル化による利便性と小口化を実現した国内初のデジタルゴールドといえる暗号資産であり、概ね金(ゴールド)価格に連動することを目指す商品です。仕組みとしては下記のとおりとなっています。

スキーム図5

仕組みとしては、①三井物産デジタルコモディティーズ社(以下「発行者」といいます。)がZPGを発行する場合、ZPGの移転と同時に、(利用者に代わってZPGを購入した)デジタルアセットマーケッツ社のために、ZPGの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産社から購入、②当該購入した金現物は、デジタルアセットマーケッツ社へ販売すると同時に、デジタルアセットマーケット社から発行者が消費寄託を受ける、③ZPGは金現物の消費寄託に関する引渡請求権を表象するが、ユーザーはZPGを持っていても現物の金の引渡しを請求できない、④しかし、マーケットメーカーであるデジタルアセットマーケッツ社が金の市場価格に近似した価格でZPGを購入することを約束している(なお、かかる請求権には銀行保証が付される)、⑤デジタルマーケッツ社がZPGを有する場合、発行者にZPGと同数の金現物の引渡しを要求できる、という仕組みで、1ZPGが1単位の金と限りなく近い価格になるように組成されているようです。

参考:ZPGホワイトペーパー
https://www.mitsuidc.com/zpg-whitepaper
本トークンの販売時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを販売する場合、発行者は、本トークンの移転と同時に、(利用者に代わって本トークンを購入した)デジタルアセットマーケッツのために、当該移転したトークンの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産から購入の上、当該購入した金現物について、デジタルアセットマーケッツへ販売すると同時に、同社から消費寄託を受けます。
・発行者は、デジタルアセットマーケッツから消費寄託を受けた金現物を即時に三井物産に対してリースします。
・三井物産は、発行者からリースした金現物を用いて、金市場での運用を行います。

本トークンの買取時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを買い取る場合、発行者は、本トークンの回収と同時に、デジタルアセットマーケッツから寄託された金現物のうち、発行者が回収したトークンの数量と同等の金現物を、デジタルアセットマーケッツへ返還した上で自ら買い取り、買い取った金現物を直ちに三井物産に売却します。
・発行者が三井物産に対して金現物を売却することによって、当該売却された金現物に係る発行者から三井物産へ のリースは当然 に 終了します 。・発行者は、金現物を売却して取得した資金をもって、本トークン(の数量と同等の金現物)の買取代金を支払います。

5  RWAトークン化のメリット

現実資産をトークン化するメリットとしては、スキームにより異なるものの、例えば以下のようなものがあると言われます。

①    低額での購入
単独では購入できないような高額の資産でも分割することにより、低額で購入することができる
②    所有の喜び
例えば、アート作品、ビンテージカー、競走馬、ウイスキー、などの場合、その商品の権利の一部を所有している、という精神的満足感が得られることがある。
③    鑑賞や利用の機会の提供
例えば、アート作品の場合、トークンホルダーが当該作品を鑑賞できる機会を提供したりする等の例がある。また、不動産の場合、当該不動産を利用できる、ウイスキーの場合、試飲するなどの機会が得られることがある。
④    値上がり益の期待
アート作品、ビンテージカー、ウイスキー、不動産など多くの資産では継続保有によって値上がりが起こる場合がある。
⑤    流動性
分割してNFT化することにより流動性が高くなり、転売等が容易になる。

IV RWAトークンと日本法の検討

1  暗号資産法

仮にRWAトークンが資金決済法(そのうちの暗号資産部分を、以下「暗号資産法」といいます)上の暗号資産に該当するとされた場合、RWAトークンを販売する場合、自らが暗号資産交換業の登録を受けるか、既に暗号資産交換業の登録を受けている暗号資産交換業者に販売を委託する必要があります。

暗号資産法上、暗号資産の定義はかなり広く定義されており、従前は、いかなるものが暗号資産であり、いかなるものがNFTか判然としませんでした。

2023年3月に金融庁が暗号資産に関するガイドラインを改正し、かつ関連するパブリックコメント回答を出しています。ここでは、概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであるとしており、RWAトークンでもそのようにNFTとして組成することが考えられます。

参考条文等
暗号資産の定義(資金決済法2条14項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

暗号資産交換業の定義(資金決済法2条15項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

暗号資産交換業者ガイドライン
I-1-1
① 法第2条第14項第1号に規定する暗号資産(以下「1号暗号資産」という。)の該当性に関して、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ.発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ.当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
・最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
・発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること

なお、以上のイ及びロを充足しないことをもって直ちに暗号資産に該当するものではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もあり得ることに留意する。

参考:金融庁2023年3月24日付パブリックコメント回答
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf
19番
トークンの価格については、基本的には当該トークンが提供されているサービスプラットフォームや二次的な流通市場において取引される価格を基準に判断することになります。また、最小取引単位当たりの価格が例えば1000円以上のトークンについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。
20番
一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます。

2  金商法

RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売を行うには自ら第1種金商業の登録を受けるか、第一種金商業者に販売を委託する必要があります。

RWAトークンの有価証券該当性を検討するにあたっては、主として集団投資スキーム(ファンド)への該当性が問題となります。集団投資スキームの定義の概要は下記の通りであり、概ね、配当や100%以上の元本償還がある場合には集団投資スキームに該当する可能性が高くなります。

金融商品取引法2条2項5号が定義する集団投資スキームの概要
(i) 出資者が金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下「金銭等」という)を出資すること(金銭等出資の要件)
(ii)  (i)の出資により事業が行われること(事業の要件)
(iii) 事業から生じる収益の配当又は事業に係る財産の分配を出資者が受けることができること(収益配当・財産分配可能性の要件) 

この点、単に現実資産を小口化、トークン化して販売するのみであれば有価証券になることはありません。

他方、例えば、①事業者が現実資産を販売する、②事業者や関係会社が販売代金を充てて現実資産を管理する、③事業者が現実資産の賃貸等で収益を上げ、その収益からNFTホルダーに収益を分配する、又は④事業者がトークンホルダーのために現実資産を売却し、その売却代金の利益をトークンホルダーに分配する、といったスキームの場合、集団投資スキームへの該当性が問題となります。

なお、ファンド自体は資金の出資契約を規制するものであり、物品の売買契約を規制するものではないため、上記のようなスキームの全てが集団投資スキームになるものではありません。㋐物の購入者がみずから当該物を管理・利用・処分できる可能性があるか、㋑購入者の取引の目的が物の購入だけで完結しうるか、㋒事業者がどういう勧誘内容を行っていたか、といった点を総合的に考慮して考えられると議論されています6。RWAトークンとの関係では、収益商品、金融商品として宣伝することについては慎重に対応する必要があると考えます。

なお、米国ではSecurityの基準が日本よりも厳しく、冒頭で述べたFreeportのアートRWAトークンはSecurityとして販売されています。

3  預託等取引法

RWAトークンのスキームが「預託等取引」に該当する場合、預託等取引法の規制により、契約締結時書面を交付したり、内閣総理大臣の事前の確認が必要になる可能性があります。

3.1 預託等取引の定義

預託等取引には、物品等の販売を伴うものと伴わないものがあります。預託等取引の基本的な類型は下記の4つとなります。

預託等取引の4つの類型
①    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、その預託に関して、財産上の利益供与を約束すること(物品+利益約束型)
②    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、期間経過後の物品買取を約束すること(物品+買取約束型)
③    当事者の一方が、相手方から、物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利(特定権利)の管理の委託を受け、それに伴って、財産上の利益供与を約束すること(特定権利+利益約束型)
④    当事者の一方が、相手方から、特定権利の管理の委託を受け、期間経過後の権利買取を約束すること(特定権利+買取約束型)

このような預託等取引は財産上の利益の供与や買取りが約された投資取引として消費者を誘引する性質を有する一方で、約束された財産上の利益の消費者に対する支払いや買取りが困難になるリスクがあるものと位置づけられ7、消費者保護のために、書面の交付義務や不当勧誘等の禁止義務が課されます。

さらに、このような預託等取引に関連し、自ら又は密接関係者が行う物品等の売買契約がある場合(販売預託)、更に消費者保護の必要性がある8ため、内閣総理大臣の確認を得る必要があります。なお、本稿執筆時点において、内閣総理大臣の確認を受けた事業者は存在しません。

なお、同法は消費者保護のための法律であるため、営業者が預託を行う取引には同法の保護は適用されません9

参考条文:預託等取引の定義等
(定義)
第二条 この法律において「預託等取引」とは、次に掲げる取引をいう。
一 当事者の一方が相手方に対して、内閣府令で定める期間(筆者注: 3か月(預託等取引に関する法律施行規則1条))以上の期間にわたり物品の預託・・・を受けること・・・及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、又は物品の預託を受けること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該物品を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該物品を預託することを約する取引
二 当事者の一方が相手方に対して、次に掲げる権利(以下「特定権利」という。)を前号の内閣府令で定める期間以上の期間管理すること・・・及び当該管理に関し財産上の利益を供与することを約し、又は特定権利を管理すること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格・・・により当該特定権利を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該特定権利を管理させることを約する取引
イ 施設の利用に関する権利であって政令で定めるもの
ロ 物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利

第一節 預託等取引に関する規制
(書面の交付)
第三条 預託等取引業者は、預託等取引契約を締結しようとするときは、顧客に対し、当該預託等取引契約を締結するまでに、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
(省略)

(不当な勧誘等の禁止)
第四条 預託等取引業者又は勧誘者(以下「預託等取引業者等」という。)は、預託等取引契約の締結若しくは更新について勧誘をするに際し、又は預託等取引契約の解除を妨げるため、預託等取引契約に関する事項及び当該預託等取引契約の対象とする物品又は特定権利の販売に関する事項であって、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
(省略)

(契約の締結等の禁止)
第十四条 預託等取引業者は、第九条第一項の確認及び次項の確認を受けていない種類の物品又は特定権利については、自ら売主となる売買契約の締結及び自己又は密接関係者が販売しようとする当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新についても、同様とする。

(適用除外)
第二十七条 前三章の規定は、預託等取引契約で預託者が営業のために又は営業として締結するものについては、適用しない。

3.2 RWAトークンと預託等取引法

RWAトークンのスキームでは、現実資産や関連する権利がトークン化されることがありますが、その場合でも、現物資産そのものは何らかの会社等がユーザーのために保管され、ユーザーには直接引き渡されないことが通常です。

仮に財産上の利益供与を約束があったり、物品や関連権利の買取約束があった場合には、預託等取引法との関係を検討することが必要となります。

この点、日本でのRWAトークン事例を検討するに、例えばUniCaskの事例では、スキームの詳細は不明であるものの、UniCask社がウイスキーの樽の一部の権利をユーザーに販売し、ウイスキーの樽は蒸留所がユーザーのために保管していると思われます。しかし、UniCask社も蒸留所も、何らの利益供与の約束も買取等の約束をしておらず、預託等取引法の適用はないものと思われます。

また、ZPGの事例では、金の預託、ZPGの預託、ZPGの買取約束、などがあります。しかしながら、金の預託に関しては何らの利益供与の約束や買取約束はなされていません。ZPGの販売、預託、買取約束があることが論点とはなるものの、ZPGの売却が制限される期間などは設定されていないため一定期間の預託を前提としたものではない、あるいは、ZPGについてはデジタルアセットマーケッツ社と発行者との間では金の引渡請求権を表象するものの、ユーザーが保有した場合には金の引渡を請求できないことから特定権利に該当しない、と整理をしているのではないかと思われます(類似の仕組みを採用する場合、自らご判断頂くか、当局等に確認して頂く必要があります)。

他方、当職らがご相談を受ける中には、物品を販売した上で、販売者又は密接関係者が現物資産の3か月以上の預託や特定権利の管理の委託を受け、将来的に利益の分配や物品の買取をしたい等とご相談を受ける事例があります。特に販売が行われる仕組みについては、預託等取引に該当する場合、これまで内閣総理大臣の確認が得られた事例がないことに留意しながら、組成を行う必要があると思われます。

4  前払式支払手段

RWAトークンが資金決済法上の前払式支払手段に該当する場合、同法の規制が適用される可能性があります。

前払式支払手段は、記録される内容によって、金額や度数が記録される場合と、物品やサービスの数量を記録されたものに分けることができます。前者はSuicaや図書券、後者はビール券やカタログギフト券などが該当します。また、前払式支払手段は、利用できる範囲によって、発行者及びその密接関係者のみで使用することができる自家型前払式支払手段と、第三者でも使用できる第三者型前払式支払手段とに分けることができます。
自家型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。ただし、発行から6か月の有効期限があるものや、3月末と9月末の基準日時点において未使用の残高が1,000万円以下であるものは、規制の適用が除外されます。第三者型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への登録等が必要になりますが、発行から6か月の有効期限があるものは、規制の適用が除外されます。

現実の資産の給付を受けることができる権利や、利用することができる権利をNFT化した場合、かかるトークンは前払式支払手段に該当する可能性があります。Not A Hotelの事例では、自己又は密接関連者が管理する宿泊施設を利用することができる権利として、自家型前払式支払手段として組成されています。

参考条文:前払式支払手段の定義(資金決済法)
(定義)
第三条 
1・・・「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下・・・「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。・・・)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。・・・)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
4・・・「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者・・・を含む。・・・)から物品等の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品等の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5・・・「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

 5 古物営業法

一度使用された物品(鑑賞的美術品を含むとされている)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。

新品のウイスキーの樽等を売却するRWAトークンでは新品の売買であることから、古物営業法は無関係です。

他方、アート作品、中古の時計等の場合、小口化(トークン化)された権利の売買が古物営業法に服する可能性があります。

この点、当職らがある案件で警察に確認をしたところ、どこまで当該担当者の回答が正しいのかについては悩ましいものの、トークン化された権利の売買であれば古物営業法の届け出は必要ないと回答を受けています。但し、個別の事案に対する古物営業法の適用の有無については、各自にてご確認頂く必要があります。

6  裏付資産に関連するその他の規制法

例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、各物品に関連する法律が適用されることがあり、検討が必要となります。なお、UniCask社は酒類販売業の免許を取得しているようです。

7 RWAトークンの移転による権利の移転と対抗要件

RWAトークンは、その背後にある実物の資産を表章するデジタルトークンです。トークン自体の移転は、ブロックチェーン上のトランザクションによって行われますが、このトークンの移転が自動的に実物の資産の所有権の移転を意味するわけではありません。

トークンの移転とRWAに関する権利の移転を紐づけるためには、別途法的な手当てや契約が必要です。

7.1 当事者間における権利の移転について

日本では動産や不動産の所有権の移転、その他の権利(債権)の移転は、原則として単に当事者の合意のみで行われます(物権について民法176条)。仕組みとして、トークンに動産や不動産の所有権や何らかの権利が付随する、とした場合、トークンを移転する者同士では、当然に裏付け資産の権利を移転する合意があると思われるため、トークン移転のみにより権利が移転すると解釈することは可能と思われます。

7.2 不動産移転の対抗要件について

上記のように動産や不動産の所有権、債権の当事者間の移転自体は合意のみでできるものの、それを第三者に対抗(主張)することができるか(第三者対抗要件の具備)は問題となります。

例えば、不動産の場合、本邦での所有権移転の対抗要件は、不動産登記の変更になります(民法177条)。例えば、AがBに不動産を売却したが、不動産登記が未了の場合、Aが倒産をしたときに、BはAの破産管財人に自身が不動産所有者であることを対抗できません。また、AがCに不動産を売却し、Cが登記を備えた場合、原則としてCがBに所有者として優先することになります。

不動産の所有権をRWAトークン化したとしても、トークン移転に伴って、不動産登記の移転をすることは通常考えられず、その場合、トークンホルダーが倒産した場合等、問題が生じる可能性があります。

7.3 動産移転の対抗要件について

同様の問題は動産の場合も問題になります。本邦での動産の所有権の移転の対抗要件は、動産の占有権の移転です(民法178条)。そして、動産が第三者に寄託されている場合に占有権を移転させるためには、寄託者が受寄者に対し、「私はその動産をAさんに譲渡したから、以後、Aさんのために預かって欲しい」と通知する指図による占有移転によります(民法184条)。

不動産や債権譲渡の対抗要件の場合と異なり登記や証書による必要がないこと、かつ、動産に紐づいたトークンの移転はブロックチェーン上に記録されることから、ブロックチェーンの記録が動産の占有移転に係る指図であるとして第三者に対抗できる可能性はあります。

特に動産の価額が大きくない場合や、財産隠しではない健全な取引である場合、トークンを用いた動産の譲渡が社会的に受け入れられている場合には、ブロックチェーン上の記録による対抗要件が管財人によって争われる可能性は極めて低いのでは、とも思われますが、リスクがあることは認識しておく必要があるとは思われます。

7.4  債権の移転の対抗要件について

本邦での債権の移転の対抗要件は、確定日付のある証書による承諾です。一般には、内容証明郵便や公正証書などが該当します。トークンの移転とともに内容証明や公正証書を作成することは現実的ではなく、不動産登記の場合と同様の問題が発生します。

7.5 権利の消滅発生構成について

動産や不動産の所有権自体をトークンホルダーに引渡し、かつトークンに伴って所有権が移転する、という構成ではなく、トークンを持っている人に動産や不動産を引き渡すことを約束したり、利用権を付与する、そして、トークンが移転した場合、既存の権利は消滅し、新しい権利が新トークンホルダーの元で発生する、という構成がありえます。

銀行間の振込や電子マネーの移転は、このような考え方によっているのではと思われ、かつ、社会的にも受け入れられています10

RWAトークンと現物資産の紐づけもそのような構成で有効に移転可能であると思われ、明確ではないものの、例えば前払式支払手段であるNot A Hotel NFTの利用権の移転などもこのような考え方によるのでは、と推測されます。

しかしながら、同構成の場合、トークンホルダーにはあくまで利用権や引渡請求権しかなく、所有権移転の対抗要件は具備されていないため、発行者ないし預託者が倒産した場合にはリスクがある点、留意が必要です。

7.6 準拠法について

なお、本6の議論は、動産又は不動産の移転については動産又は不動産が日本に存在する場合、債権の権利については債権の権利の準拠法が日本法である場合を想定しています。

法の適用に関する通則法13条は「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。」と規定し、同法23条は「債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は、譲渡に係る債権について適用すべき法による。」としています。

このため、動産や不動産が海外にある場合等、別途の議論が必要になります。

留保事項

・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、RWAトークンの購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

2023年9月29日改訂

創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

(トークンに関する監修:斎藤 創、執筆協力:砂田 有史)

1.初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。これまで、LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことが、対象事業として許容されるかどうかが明らかでなかったところ、セキュリティトークンへの投資や、ブロックチェーンを利用した資産移転の処理が近年用いられつつあることを踏まえ、セキュリティトークンの取得や保有の対象事業への該当性等について、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417002/20230417002-1.pdf)という通知(以下「本通知」という。)が本年4月19日に経産省よりなされ、一定程度、この問題に対して取扱いが明確になった。本稿では、本通知の内容について説明する。

なお、LPSが暗号資産や一般的なNFT(注:セキュリティトークンではない)へ投資を行うことは対象事業として列挙されていなかったことから、認められないと解されている。これに対しては、以下のように問題点が指摘されてきた(本通知はこれを解決するものではない。)。

2.LPSが投資できる資産

まず、前提として、LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号の解釈によって決まってくる。この点、上述のとおり、セキュリティトークンに関して対象事業に含まれるとする明文の定めは存在しない。

(1) 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

(2) 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

(3) 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[1]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有

(4) 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有

(5) 事業者に対する金銭の新たな貸付け

(6) 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有

(7) 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)

(8) 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業

(9) 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資

(10) 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの

(11) 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの

(12) 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用

3.本通知の内容

本通知においては、主に以下の①から③の3つのことが明示されている。

まず、①LPSがセキュリティトークンを扱う事業を行う場合については、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の有価証券のうち、LPS法第3条第1項により、投資事業有限責任組合が取得及び保有が可能とされる有価証券[2]については、セキュリティトークンが、金商法上のいわゆるみなし有価証券の一つである「電子記録移転有価証券表示権利等」である以上、その取得及び保有も当然に対象事業となると整理することができるとされている。LPSが、セキュリティトークンを取得・保有することができることを改めて明確にしている。なお、本通知においては、「金融商品取引法(昭和23年法律第25号。)上の有価証券はブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合があり(いわゆるトークン化)、かかるトークン化した有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法第29条の2第1項第8号に規定する権利をいう。))を本通知ではセキュリティトークンと称する。」 と記載されており、ここで言うセキュリティトークンとは金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第1条第4項第17号、金商法第29条の2第1項第8号、業府令第6条の3)を意味している。

次に、本通知は、②LPSが、LPS法第3条第1項に掲げる事業のうち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等に投資を行う場合に、これらの資産を取得及び保有するにあたり、ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法でこれらの資産の移転に係る事務を処理しても、LPS法第3条第1項各号に掲げる事業の範囲内で組合契約を遂行するための業務執行と解することができる(LPS法第7条第4項に規定する「第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合」には当たらない)としている。すなわち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等がトークン化されたとしても、これを取得・保有することができることを改めて明確にしている。もっとも、例えば、NFT(Non-Fungible Token)は、主にイーサリアム(ETH)[3]のブロックチェーン上で構築できる代価不可能なトークンだが、NFTを譲渡しても著作権等が移転しない形式を利用していることも多く、NFTの取得・保有はLPS法の対象事業に該当せず、引き続きLPSがNFTに直接投資することは困難なのではないかと考えられる。

また、本通知は、③資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の電子決済手段(改正資金決済法第2条第5項、いわゆるステーブルコイン)及び暗号資産(資金決済法第2条第5項(資金決済法改正後は第14項))を取得・保有することは、現行のLPS法第3条第1項に掲げる事業のいずれにも該当しないこと、すなわちLPSでは、電子決済手段及び暗号資産を取得・保有することができないことを改めて明確にしている。上述のとおり、LPSが直接暗号資産に投資することができるようになるには、法改正を待つしかないということになる[4]

4.その他

話は異なるものの、近年LPS法をめぐる分野だと、LPSを用いたセカンダリーファンドが話題となってきている。セカンダリーファンドと言えば、個別の事業者が発行した株式を既存株主から譲り受ける場合だけではなく、既存のLPSのLP持分をLPSが買い集めるという手法も話題となっている。もっとも、LPSがLP持ち分を保有できる根拠はLPS法第3条第1項第9号となると思われるものの、同号は、「出資」(いわゆるプライマリー)のみを定め、他のLPS法第3条第1項各号のように「取得及び保有」(いわゆるプライマリーとセカンダリー)と定めていないことから、LPSによる既存のLPSのLP持分の取得が明確にされることが望ましいのではないかと考える。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
  • 本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

[1] 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。

  1. 金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
  2. 金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
  3. 金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
  4. 金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
  5. 金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
  6. 金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
  7. 金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
  8. 金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
  9. 金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
  10. 金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
  11. 金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
  12. 金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
  13. 第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの

[2] なお、本通知によれば、「対象事業」には、①匿名組合契約の出資持分、②投資事業有限責任組合及び民法上の組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合に対する出資持分、③外国の法令に基づく権利であって②の組合に類似する団体に対する出資持分であって、金商法上有価証券とみなされないものへの出資も含まれる。ただし、これらの権利をブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転したとしてもそれはセキュリティトークンにはならない。この場合は、②の金銭債権等と同様の整理となると考えられる。

[3] ブロックチェーン・プラットフォームの名称及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称である。詳しくはhttps://ethereum.org/ja/を参照。

[4] 現状のプラクティスとしては、株式、新株予約権等のエクイティ投資を行うに際し、将来的にトークンの付与を受けることが可能な場合、投資家が指定するエンティティー(例えば新設の合同会社)でトークンを受領できる等とする形が多く見られる。当初からLPSが暗号資産やNFTに投資を行いたい場合、LPSが合同会社等を保有し、当該合同会社が暗号資産やNFTに投資をするスキームが考えられる。

3月に自民党ブロックチェーン推進議連で、DAOと日本法について発表したのですが、その際の資料が役に立つかもと思ったので、掲載しておきます。
なお、その際の議論で気づいた点を踏まえて少し改訂しています。誤字を訂正、及びV番の参考表の部分を主として改訂したもの

1 ジェネレーティブAIとは

ジェネレーティブAI(Generative AI)とは、画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなど様々なコンテンツを自動的に生成することのできる人工知能のことを指します。
機械学習により大量のデータを学習した学習モデルが、人間が作成するような絵や音楽、文章などを簡単に生成することができます。
2022年頃から、MidjourneyやStable Diffuisionなど画像生成AIが急速に市場にて普及し始め、2023年初頭から、ChatGPTやBingなど自然言語処理に特化したジェネレーティブAIが急速に普及し始めています11

https://stablediffusionweb.com/ に、「A bored ape in Tokyo imperial palace with a high school girl」「Anime hero with Samurai cloth who fights with huge Indian elephant」という文言を入れて作成

ジェネレーティブAIの製品例としては例えば以下のような例があります。

ジェネレーティブAIの製品例

製品名 分野 製品説明
Midjourney,
Stable Diffusion,
DALL·Eなど
画像生成 テキストでの指示に基づき、リアル/芸術的な画像を生成するAI
Artbreeder 画像生成 アップロードした画像や複数の画像から、他の新しい画像を生成するAI
Juke deck 音楽生成 ジャンル、テンポ、ムードなどを指定すると、著作権フリーのオリジナル曲を生成するAI
Runway ML 動画生成 テキストを打つことで、動画が作成できるAI
CHAT GPT,
Bing
テキスト生成 自然言語でテキスト入力すると、それに自然言語で回答を行うAI。会話エージェント、自動作文、自動翻訳など
Catchy テキスト生成 日本語特化のAI文章作成ツール

なお、本原稿もChatGPTなどのテキスト生成AIを活用して作成しています。具体的には、ChatGPTに「金融機関とジェネレーティブAIについてBlogを書くことを考えています。骨子を教えて下さい。」等と質問したり、「ジェネレーティブAIの商品の例を表形式で教えて下さい。」等と質問した後、出力データを、①人間がチェックし、②人間が再構成し、③人間が修正し、④人間が加筆して、仕上げています。

テキスト生成AIが打ち出すデータは、まだまだ誤りも多く、現時点ではそのままでは使用できません。
AI出力データから大幅な修正加筆をしているのが現状(=まだ人間の仕事がなくなるほどではない)ものの、しかしながら、現時点でも相当程度は業務の効率化に繋がりますし、今後はますます素早く、正確になっていくものと想定されます。

2 ジェネレーティブAIと金融

ジェネレーティブAIの急速な進化を受け、多くの金融機関にてAIを利用して業務の効率化が図れないか検討が進められています。

例えば、金融機関は、一般に、対顧客でも行内でも膨大な数の書類を作成しているところ、ジェネレーティブAIにより、説明書類の作成、稟議書の作成等、対顧客業務/行内業務の効率化が可能であれば、大幅なコスト減が可能になりえます。更にAIによる投資助言サービスや自動ポートフォリオ最適化ツールなど、対顧客向けに新しいサービスを提供することや、社内での議論の壁打ち相手12、としてチャットAIからの回答を参考にしてビジネス判断の再検討や思考整理を行うことも考えられます。

金融分野におけるジェネレーティブAIの応用分野
(1)   顧客体験やマーケティングの向上
(2)   対顧客業務の効率化
(3)   行内業務の効率化
(4)   投資助言やポートフォリオ最適化
(5)   リスク評価や不正検知
(6)   議論の壁打ち相手

他方、ジェネレーティブAIの利用には、下記のような新たな倫理的・法的な問題が生じ得ます。

AIと新たな問題の登場
(1)   バイアスの問題 各種審査などに関連し、ジェネレーティブAIの学習に用いられるデータが、特定の人種や地域に偏っている場合、AIが偏った結果を出力する可能性があります。この場合、人種差別や地域差別につながる恐れがあります。
(2)   プライバシーの問題 ジェネレーティブAIを用いた金融サービスや商品において、顧客の個人情報が必要な場合、プライバシーの侵害が懸念されます。また、AIが生成した情報を利用する際にも、プライバシーの保護が求められます。
(3)   不正行為の問題 ジェネレーティブAIは、高度な詐欺手法に悪用される可能性があります。例えば、不正な取引の詐欺や、個人情報を盗むためのフィッシングなどが考えられます。
(4)   人間との関係性の問題 ジェネレーティブAIによる自動化が進むことで、人間の労働力や専門性が求められなくなる場合があります。この場合、職業の流動化や失業問題が生じる可能性があります。また、AIによる決定が人間の判断を上回る場合、人間がAIに従属することで、意思決定の権限が人間からAIに移行する可能性があります。

以上のように、ジェネレーティブAIと金融分野においては、技術的な問題だけでなく、倫理的・法的な問題や人間との関係性についても十分な考慮が必要です。

3 金融関係とジェネレーティブAIによる業務効率化

現在、金融機関において、もっともAIの活用が検討されている分野は、AIによる業務効率化になります。
筆者らが聞く限り、金融機関から大手のAI会社に対し、AIの利用の相談、業務効率化について多数の相談が寄せられており、新規開発は数か月待ち、とのことです。

例えば、①対顧客の説明資料や契約書、行内の稟議書や各種記録書類、規制当局向け申請書や報告書などの膨大な文章作成をAIによって効率化する、②顧客からの問い合わせをチャットAIによって自動回答(文章回答、音声回答)し、問い合わせ内容を収集、記録し、データ化する、③顧客の不正検知のため架空の取引データを大量に作成する13、④融資先の過去の借入実績等の情報をAIにより分析して融資審査を実施する、等の行為が考えられます。

なお、金融機関のAI利用の特徴として、ChatGPTのようなオープンなデータベースではなく、このようなオープンデータベースに自社独自のデータをも追加した専用のデータベースを利用する(機械学習等させる)、という特徴があるようです。
このような専用のデータベースを利用することにより、より業務に即した回答を得られ、業務の秘密性が確保できるメリットがあります。

4 金融機関による機械学習と個人情報保護法、秘密保持義務

ジェネレーティブAIに機械学習をさせるためには、自社の各種のデータをAIに食わせる(=AIに情報を提供して分析して、学習させること)必要があります。

自社でデータを食わせる、又は、外部ベンダーに情報を提供してデータを食わせる場合の両方が考えられますが、金融機関が食わせたいデータには多くの個人情報や秘密情報が含まれており、個人情報保護法や秘密保持義務との関係が問題となります。

現時点での結論としては、以下のようになるのではないかと思われ、それぞれ検討を行います。

  自社でのデータ利用 各部ベンダーの利用
個人顧客の情報利用で、プライバシーポリシーに「データ分析等による記入商品やサービスの研究開発のため」等と利用目的を記載 利用目的の範囲内であり、可能 利用目的の範囲内であり、可能
第三者ベンダーとの間では秘密保持契約を締結する必要がある
個人顧客の情報利用で、プライバシーポリシーに単に「お客様に対するサービス向上のため」等と利用目的を記載 議論がありうるが慎重に対処。プライバシーポリシーの改訂を行うことが望ましい 同左
法人顧客の情報利用で、特別の秘密保持契約を締結していない 当然に負担する秘密保持義務との関係が問題となるが、原則として問題ないのではないかと思われる 第三者ベンダーとの間では秘密保持契約を締結すれば、問題ないのではないかと思われる
個人または法人の顧客の情報利用で、特別の秘密保持契約を締結している 明示の秘密保持契約の内容によるが、契約上は、通常、難しい 同左

個人情報保護法

(1)自社でAIに個人情報を使用させる場合

① 個人情報保護法と利用目的
自社でデータを食わせる場合、その処理が利用目的の範囲内であるかが問題となります。個人情報保護法では、個人情報を取扱うにあたり、その利用の目的をできる限り特定する必要があり(個人情報保護法17条1項)14、本人の同意を得た場合を除き、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取扱うことができません(同法18条1項)。また、個人情報を取得した場合には、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知又は公表する必要があります(同法21条1項)。

仮に、AIでの利用があらかじめ設定した利用目的の範囲内ではない場合、利用目的の変更が必要となります。AIでの利用が既に設定された利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲内であれば、変更手続きは利用目的の変更を本人に通知するか公表することで足ります(同法21条3項)。他方で、変更が認められる合理的な範囲を超える場合には、改めてAIでの利用について本人の同意を得たうえで利用目的を設定する必要があります。

なお、プライバシーポリシーの改訂を行う際で上記の通り本人の同意を必要とする場合、。定型約款を一定の場合には同意なく変更できるとする民法上の定型約款の変更手続の規定(民法548条の4)は適用されないと考えられています15。そのため、インターネット取引の場合には、例えばポップアップ等でプライバシーポリシーの変更箇所を明示したうえで、クリックにて顧客の同意を取る等の手続きを行うことになると思われます。

② プライバシーポリシーの利用目的の記載の具体例
例えば、単に「お客様に対するサービス向上のため」とのみ記載されている場合で、対顧客業務の効率化のために、各種個人情報を食わせる場合を考えます。このような場合でも、「お客様に対するサービス向上のため」であり利用目的の範囲内だと考える議論もありえますが、顧客からした場合、自身に対するサービス提供のためではなく、顧客全般へのサービス向上(業務効率化)のために自身の個人情報を利用することは想定できないのではないか、もしそうだとすれば、利用目的の特定として不十分であり、利用目的の変更が必要なのではないか、等の議論になるように思われます。

次に、「市場調査やデータ分析等による金融商品やサービスの研究や開発のため」等と規定されている場合で、対顧客業務の効率化のために各種個人情報を食わせる場合を考えます。この場合、AIによる分析であることは明示はされていないものの、顧客の個人情報を大量に用いて何らかのデータ分析をし、その結果、金融商品やサービスが研究開発されることは当然予想できると思われることから、一般的にはAIでの利用もプライバシーポリシーの利用目的の範囲内であると考えて良いように思われます。

いずれにせよ個別具体的なプライバシーポリシーの文言と、使用目的を考慮の上、法務部門等とも相談の上、検討する必要があります。

(2)第三者のベンダーに個人情報を提供しAIに個人情報を使用させる場合

① 個人情報保護法と第三者提供
ベンダー等の他社に個人情報を提供してAIに食わせる場合、上記に加えて、第三者提供の範囲か否かが問題となります。
原則として、個人情報取扱事業者は、第三者に対して個人データを提供する場合、本人の同意が必要となります(同法27条1項)。

もっとも、事業者が、その利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴い、個人データが提供される場合には、そのような業務委託先は「第三者」には該当せず、本人の同意は不要となります(同法27条5項1号)。そのため、自ら提供するAIサービスの構築のために、個人情報をAIに食わせる作業をベンダー等に委託することに伴って個人データをベンダーに提供する場合には、本人の同意は不要になると考えられます。但し、委託者は、個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)。

また、特定の者との間で共同して利用される個人データをその特定の者に提供する場合にも、共同利用する旨やその個人データの項目等の個人情報保護法が定める一定の情報をあらかじめ本人に通知又は容易に知り得る状態に置いていれば、本人の同意は不要となります(同法27条5項3号)。例えば、個人データを利用したAIをグループ企業間で利用する場合等に、共同利用をすることが考えられます。

② 業務委託として個人データをベンダーに提供する際の具体例
第三者提供に該当しない業務委託を行う具体的な事例としては、例えば、プライバシーポリシーの利用目的に「市場調査やデータ分析等による金融商品やサービスの研究や開発のため」と明示されている場合には、第三者たる外部ベンダーにAIでの分析のために個人データを提供することも、「事業者が、その利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴い」と解釈することができるのではないか、と考えます。

③ 秘密保持契約の締結
個人情報保護法上、第三者提供が可能であるとしても、「委託者は、個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)」とあることから、第三者であるベンダーに秘密保持義務を負わせる等の契約は当然、必要になります。

(3)匿名加工情報・仮名加工情報

仮に取得した個人情報の利用目的にAIでの分析が含まれていないとしても、AIに食わせる個人情報を匿名加工情報に加工することで、本人の同意なしに目的外利用や第三者提供が行えることになります。

ここで匿名加工情報とは、一定の方法により「特定の個人を識別できないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元できないようにしたもの」を意味します(同法2条6項)。もっとも、個人情報を匿名加工情報に加工する場合、個人情報に含まれる特定の個人を識別することができる記述等の全部又は一部の削除、個人識別符号の全部の削除、個人情報と加工後の個人情報とを連結する符号の削除、特異な記述の削除等、個人情報保護委員会規則で定める基準(同法43条1項、個人情報保護法施行規則34条)による加工を行わなければならず、加工が困難であることも多いものと思われます。

そこで、匿名加工情報に比べて高度な加工技術を要しない仮名加工情報を利用することも考えられます。仮名加工情報とは、一定の方法により「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報」を意味します(個人情報保護法2条5項)。匿名加工情報に比べて抽象化の程度が低いため、個人情報の利用価値が維持される点などにメリットがあります。また、未加工の個人情報と異なり、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えた利用目的の変更が可能です(同法41条9項)。もっとも、匿名加工情報等と異なり、原則として第三者への提供が禁止されています(同法41条6項)。

  未加工の個人情報 仮名加工情報 匿名加工情報
加工 加工なし 他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように加工 特定の個人を識別できず、個人情報を復元できないように加工
目的外利用 特定された利用目的の範囲内で利用が可能。
また、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が不可
特定された利用目的の範囲内で利用が可能。
もっとも、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が可能
目的外利用が可能
第三者提供 原則、本人の同意が必要 法令に定める場合を除き不可(仮名加工情報を作成する前に本人の同意を得ていた場合であっても不可)。なお委託業務の場合には第三者に該当しない旨の規定(法28条5項)は適用される。 原則、本人の同意は不要

秘密保持義務

金融機関は、情報の提供者である顧客等との間で当然に秘密保持義務を負い、また、M&Aアドバイスや有価証券の引受など特別な取引を行う際には特別な秘密保持義務を定める秘密保持契約を締結することがあります。AIで情報分析を行う際には、個人情報保護法との関係のみならず、このような秘密保持義務との関係も検討する必要があります。

(1)特別の秘密保持契約がない個人の情報

特別の秘密保持条項を含む契約を締結することなく取得した個人の情報に関しては、個人情報保護法以上の保護を当然の秘密保持義務として負う、という議論は通常は存在しないことから、自社利用、第三者提供とも、概ね、上記で検討した個人情報保護法の議論の範囲で実施するのであれば問題ないのではないか、と考えます。

(2)特別の秘密保持契約がない法人の情報

特別の秘密保持条項を含む契約を締結することなく取得した法人(例えば、通常の銀行取引約定書に基づく取引を行う法人)の情報についても、法人に対する秘密保持義務が、個人に対する秘密保持義務よりも重い等の議論が通常はないことから、個人と同様の範囲で自社利用や第三者提供を行う場合には問題ないのではないか、と思われます。

(3)特別の秘密保持契約がある個人または法人の情報

M&AやIPOアドバイス、有価証券の引受、その他特殊な契約で、金融機関が特別の秘密保持義務を負う契約を締結している場合、このような契約には、例えば、①IPOの目的以外には使用しない、②IPOに関連しない第三者には開示しない、等の条項が多く含まれています。そのような秘密保持契約がある場合、今後のIPO案件での資料作成をジェネレーティブAIで簡易化する等の目的でAIにデータを食わせたり、第三者のベンダーにデータを提供することは難しいのではないか、と思われます。

この点、例えば、リーガルテックに関して、「リスク分析のために契約書ファイルをリーガルテックサービスにアップロードするのは契約書の第三者に対する開示に当たり、その契約書に秘密保持義務が規定されていた場合、契約違反にならないのか」との議論があります。これには、実質的に契約相手方の黙示の同意があると考えられないか、実際の損害がないのでビジネスジャッジの問題になるのではないか、等という議論もあるものの16、本項で議論する状況はリーガルテックの場合に比べても、実際の案件との関係が遠く、黙示の同意についてはより慎重に考慮する必要があります。また実際の損害がないとの議論については、金融機関の場合、一般の事業会社に比してもコンプライアンスリスクに慎重にならざるを得ないことから、より慎重に判断する必要があると思われます。

現時点では、秘密保持契約がある相手方の書類を大量にAIに食わせたい、というニーズはあまり存在しないかもしれませんが、今後、このようなニーズが発生することを考えると、自社で用意する秘密保持契約のテンプレートの内容も考慮をする必要があるかもしれません。

5 ジェネレーティブAIによる投資助言

法令上、投資助言・代理業を行うためには金融商品取引業者としての登録が必要です(金商法28条3項、29条)
金商法2条8項11号により、金融商品に関する投資助言とは、①金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。)に関し、②口頭、文書(一定の物を除く)その他の方法により助言をすることを約し、③相手方が報酬を支払うことを約束する、という要件になります。

仮に、ジェネレーティブAIに、金融商品のこれまでの値動き、リターン、投資データ等を食わせて、その結果、投資銘柄等を推奨する文章を作成した場合、当該文章作成サービスは、投資助言業に該当する可能性があります。

投資助言に特化したAIで、かつ有償で提供されているAIサービスの場合、投資助言業の取得が必要である場合が多いのではと思われます。現在でも「投資分析サービス等のコンピュータソフトウェアの販売」については、販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、追加サポートなく誰でも使用できるようなツールは投資助言業に該当しないと解されています。他方、ツールの使用に、販売業者等から継続的に投資情報等のデータの提供、その他のサポートを受ける必要がある場合、登録が必要になる場合がある、とされています(下記「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」参照)。投資助言に特化した有償AIは、多くの場合、AI提供会社が継続的にデータを食わせる、チューニングをする、等をすることにより、価値を担保していると思われ、そのような場合、投資助言業になるのでは、と思われます。

他方、金融機関が一般的な情報提供の趣旨で、無償で投資情報を提供する場合には、「相手方が報酬を支払う」という要件に該当しないことから、投資助言業は必要ありません

問題は、現在はそこまで進化したAIはないと思われますが、例えば汎用的なジェネレーティブAIで、しかしながら当該AIが金融商品の情報も多数収集しており、その結果、投資助言的なことも行うことができる、通常は無償であるが、有償会員になるとより素早いレスポンスを得ること等ができる、等の場合、投資助言業に該当するかです。

筆者らとしては、このようなAIの有償会員になったとしても、あくまでこれは投資助言のための報酬ではなく、AI全般のスピードアップ等のメリットを得るためのものであり、投資助言業に該当しないと考えますが、今後、AIがますます進化していった場合、このように解して良いか、更に検討が必要となると思われます。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針VII-3-1(2)②c
②投資助言・代理業に該当しない行為
イ. 不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(以下「投資情報等」という。)を提供する行為
例えば、以下aからcまでに掲げる方法により、投資情報等の提供を行う者については、投資助言・代理業の登録を要しない。
ただし、例えば、不特定多数の者を対象にする場合でも、インターネット等の情報通信技術を利用することにより個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や、会員登録等を行わないと投資情報等を購入・利用できない(単発での購入・利用を受け付けない)ような場合には登録が必要となることに十分に留意するものとする。

a. 新聞、雑誌、書籍等の販売
(注)一般の書店、売店等の店頭に陳列され、誰でも、いつでも自由に内容をみて判断して購入できる状態にある場合。一方で、直接業者等に申し込まないと購入できないレポート等の販売等に当たっては、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。

b. 投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売
(注)販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、誰でも、いつでも自由にコンピュータソフトウェアの投資分析アルゴリズム・その他機能等から判断して、当該ソフトウェアを購入できる状態にある場合。一方で、当該ソフトウェアの利用に当たり、販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合には、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。
(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kinyushohin/07.html#07-03)

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

Ⅰ     ブロックチェーンゲームとは

ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーンを活用したゲームであり、例えばアイテムがブロックチェーン上のNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)として発行され、当該NFTがブロックチェーンを利用して移転可能であるなど、暗号資産やトークンが活用されるゲームを指します。

通常のゲームでは、①購入したアイテムはゲーム運営会社のものでありユーザーのものではなく、②当該アイテム等の資産の自由な移転、売却、貸与はできず、③時間をかけたデータでもゲーム配信終了後は単に消滅するのみ、であるのに対し、ブロックチェーンゲームでは、①ユーザーがトークン(ゲームアセット)の保有者であり、②当該トークンを外部に移転、売却、貸与でき、③サードパーティー等もトークンを利用でき、④ブロックチェーンが存在する限りは記録されたデジタルアセットは永久に生き続ける1、等の特徴があります。

世界では2017年11月に開始したCryptoKittiesというゲームがその嚆矢であり、日本でも2018年頃からくりぷ豚、My Crypto Heroesなど各種のゲームが発表されました。その後、2021年から2022年にかけて、暗号資産の高騰とNFTブームがあり、世界ではAxie InfinityやSTEPNなどPlay to Earnのゲームが大ブームとなりました。

このようなブームも受け、現在、日本でもブロックチェーンゲームの開発を進めている会社が多く存在しています。

当職らはこれまでも下記のようなブロックチェーンゲームに関連する記事を執筆していますが、下記①以降、様々な議論があり、また、2022年10月12日に業界5団体により賭博に関するガイドライン(以下「合同ガイドライン」といいます。)が発出されたことも踏まえ17、下記①を改訂してブロックチェーンゲーム全般の法規制について、改めて記載するものです。

参考
①ブロックチェーンゲームと日本法(2018年10月4日)
https://innovationlaw.jp/blockchain-games-under-japanese-laws/
② コラム – 多数枚を発行するNFTの暗号資産該当性について(2021年6月29日)
https://innovationlaw.jp/issue-multiple-nft/
③ ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討(2021年9月2日)
https://innovationlaw.jp/play-to-earn-2/
④ NFTスカラーシップ、Yield Guild Gamesと日本法(2021年9月16日)
https://innovationlaw.jp/nft-scholarship-ygg/

Ⅱ     検討すべき法律と結論

ブロックチェーンゲームの組成にあたっては、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の暗号資産規制(資金決済法のうち暗号資産規制に関する部分を以下「暗号資産法」といいます。)、刑法の賭博罪、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)、資金決済法の前払式支払手段規制など、様々な法律を検討する必要があります。
現在の当職らの考えを纏めると以下の通りとなります。

(1) 暗号資産法
  • アイテムに決済手段としての機能がないと認められる場合、資金決済法上の暗号資産には該当せず、暗号資産交換業の登録は不要となる。
  • なお、NFTを使用すれば必ずしも決済手段としての機能がない、という訳ではないが、多くのNFTは暗号資産ではないと思われる。

(2) 賭博罪
  • ガチャ、パッケージ販売、リビール販売などランダム性のある方法でNFTをユーザーに売却する場合、賭博罪のリスクの検討を要する。この点、合同ガイドラ
    インでは、①例えば販売会社が二次流通市場での買取を約束している場合や、②販売会社が、アイテムを別途レアリティ等により単価に差異を設けて個別で販売し、ランダム型販売による販売価格が、個別で販売されるアイテムの価格のうち最も低い単価を超えているような場合18等、例外的な場合以外は、原則としてランダム型販売であっても賭博罪は成立しない、但し、消費者保護の観点から個別のNFT の客観的価値に差異があるものと消費者に殊更意識させるような手法(例えば、特定のキャラクターの価値が高い旨を販売会社が過度に宣伝する、特定のキャラクターをゲームにおいて過度に有利に扱う等)は避けるとされており、実務的には合同ガイドラインに従うことになると思われる19
  • アイテム同士の合成によりランダムに新アイテムが登場し、その新アイテムが売却可能という場合、財物である旧アイテムが消滅して賭け金と見られる場合や、合成手数料が賭け金と見られる場合、賭博罪のリスクを検討する必要がある。合同ガイドラインでは合成については触れていない。合成の場合でも、理論的にはランダム型販売と同様の考え方となるとは思われるが、合同ガイドラインにないこともあり、ランダム型販売に比して慎重な検討を要する。

(3) 景表法
  • ゲームの登録、ログイン、ランキングボーナス等で、トークンやEtherを配布する場合、トークン、Etherも「景品類」に該当しうることから、景表法の景品規制を踏まえて配布する必要性がある。
  • 全員に配布のボーナス(総付景品)は取引価格が1000円未満の場合上限200円、1000円以上の場合には取引価格の10分の2まで。ランキング報酬等の場合、取引価格の20倍と10万円の低いほうが上限となり、更に懸賞に係る売上予定総額の2%の総額制限が課される。
  • 取引価格は最低課金単位で考えることがまずは妥当と思われる。
  • Play to Earnゲームについて、(a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができると考えた場合、報酬部分が景品規制の対象となる可能性がある。ただし、ゲームデザイン次第では、報酬はおまけ(景品類)ではなく、景表法の適用がないと考え得る場合がある。

(4) 前払式支払手段規制
  • 円やドルで購入するゲーム内通貨は通常、自家型前払式支払手段発行の届出が必要
  • これに対し、1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が暗号資産にリンクする場合、原則、前払式支払手段には該当しない
  • 100円の時価に相当するEtherで1魔法石が購入できる等の場合、原則、自家型前払式支払手段に該当と思われる。

Ⅲ  法律の検討

以下、各法的問題点の検討をします。

1 暗号資産法

(1) 問題となる仕組み

ブロックチェーンゲームでは、以下の仕組をとるケースが多く見受けられます。

① アイテム等に対応したトークン(ゲームアセット)が発行される。
② 運営会社は当該トークンをユーザーにEther等の暗号資産を対価に販売する。
③ トークンは上記のほか、運営会社から無償配布され、ゲームプレイで入手できる場合がある。
④ 入手したトークンはブロックチェーン上で自由に移転可能。
⑤ 入手したトークンを、他のプレイヤーが保有するEther等と交換できるプラットフォームが提供される。かかるプラットフォームは運営会社が提供するプラットフォームの場合もあり、また外部サイトの場合もある。

(2) 問題の所在

仮にトークンが暗号資産法上の「暗号資産」に該当するとされた場合、上記(1)②のようにトークンを販売する場合は販売者が、上記(1)⑤のようにトークン売買のプラットフォームを運営する場合にはプラットフォーム運営者が、原則として「暗号資産交換業」の登録を受ける必要があります。

この暗号資産交換業の登録は、多額のコストと時間がかかるとされており、ゲームのためだけに登録を受けることは、通常、現実的ではありません。

暗号資産法上、「暗号資産」の定義はかなり広く定義されており、ブロックチェーンゲームのトークンも暗号資産に該当するのではないか、その場合、CryptoKittiesのようなゲームを日本で販売することは難しいのではないか、と2018年までは、考えられていました。

参考
暗号資産の定義(資金決済法2条5項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

暗号資産交換業の定義(資金決済法2条7項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

(3) 金融庁パブリックコメント回答

この点、2018年頃の関連当局との相談、その後の下記の当局のパブリックコメントにより、多くのNFTの場合、「暗号資産(当該パブコメ時には仮想通貨)」に該当しないと解釈されています。

令和元年9月3日金融庁「『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)』の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について-コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(「2019年9月3日パブコメ回答」)

コメントの概要 金融庁の考え方
2号仮想通貨について1号仮想通貨と「同等の経済的機能を有するか」との基準を設けるべきではない。同等の経済的機能とならないような制限を加えることで、資金決済法に基づく規制の対象外になりかねない。

物品等の購入に直接利用できない又は法定通貨との交換ができないものであっても、1号仮想通貨と相互に交換できるもので、1号仮想通貨を介することにより決済手段等の経済的機能を有するものについては、1号仮想通貨と同様に決済手段等としての規制が必要と考えられるため、2号仮想通貨として資金決済法上の仮想通貨の範囲に含めて考えられたものです。したがって、例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。(下線は筆者)

現時点でも、このパブリックコメントの回答は有効であり、同一又は類似の NFT が複数枚発行されても、必ずしも暗号資産となる訳ではありません。但し、NFT であれば全て問題ない訳ではなく、「決済手段等の経済的機能」を有しているかを個別に判断していく、ということになります。

(4) 決済手段等の経済的機能を有さないかの判断基準

あくまで例ですが、下記のような要素を総合的に検討して「決済手段等の経済的機能」の 有無を判断すべきと思われます。なお、全ての決済手段性を弱める要素を満たす必要性がある訳ではなく、総合判断で検討すべき、ということになります。

  考えられる要素の例
決済手段性を強める要素 (=暗号資産となる)
  1. 店舗で使用できる、スマートコントラクトのガス代等で使用できる、という機能や目的を有している
  2. 同一又はほぼ同一のNFTが多数存在し、自由に外部に移転でき、発行者はそのような目的を有していないとしても、結果として決済手段として使用される可能性がある
  3. 個性はあるもののその違いが捨象されて、日本銀行券のように他の商品・サービス等との交換や価値の移動に使われる実態が存在する(又はそのような実態が事後に生じる
決済手段性を弱める要素 (=暗号資産とはならない)  1.      ゲームアイテムとしての使用の目的がハッキリしている
 2.      使用目的が紙のトレーディングカードに類似している
 3.      コレクション目的であることがはっきりしている
 4.      絵柄が異なる(色が異なる、背景が異なる)
 5.      パラメーターが異なる
 6.      番号を付す(但し、紙幣でも番号はついているという反論はありうる)
 7.      1人が買える枚数が限定されている
 8.      発行数が少ない
 9.      最初の購入者や保有者の履歴が印字される

2 賭博罪

(1) 総論

刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。
この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大4年10月16日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

また、金銭のみならず「財産上の利益」が賭博の対象となるところ、米、土地、借金の棒引きなど全て賭博罪の対象となる「財産上の利益」に該当し、暗号資産も当然に財産上の利益に該当すると考えられます。

第185条(賭博)
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

(2) ガチャ、パック販売、リビール販売などのランダム型販売と賭博罪

ブロックチェーンゲームやNFT販売では、いわゆるガチャ販売、パッケージ販売、リビール販売、ランダムジェネレーション販売など、ランダム性をもつ販売方法でゲームアイテムが販売されることがあります。

このようなランダム型販売は、Etherなどの財産を拠出し、NFTという財産をランダムで取得する、ということで、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うことに該当し、賭博罪になるのではないか、と考えられてきました。

しかしながら、2022年に東京大学の刑法学者であられる橋爪隆教授が、NFTのパック販売と賭博罪との関係について、「NFT については、その生成段階においては、いかなる経済的価値が付与されるかは一義的ではないから、実際の販売行為における価格設定を離れて、客観的な価値や相当な価額を(販売時点において)明確に算定することは困難である。かりに人気のない NFT を含むパッケージを取得したとしても、そのことから直ちに、購入者は販売価格相当の NFT を取得することに失敗し、経済的な損失を被ったという評価を導くことはできないように思われる。」等のご見解を出され20、そのようなご意見も参考にしながら業界5団体による2022年10月12日に上記の合同ガイドラインが発出されています。

当該合同ガイドラインでは、①例えば販売会社が二次流通市場での買取を約束している場合や、②販売会社が、アイテムを別途レアリティ等により単価に差異を設けて個別で販売し、ランダム型販売による販売価格が、個別で販売されるアイテムの価格のうち最も低い単価を超えているような例外的な場合以外は賭博罪が成立しない、但し、消費者保護の観点から個別のNFT の客観的価値に差異があるものと消費者に殊更意識させるような手法(例えば、特定のキャラクターの価値が高い旨を販売会社が過度に宣伝する、特定のキャラクターをゲームにおいて過度に有利に扱う等)は避けるとしています。

合同ガイドラインは、警察や裁判所等に対して拘束力等を持つものではなく、あくまで民間の団体が出したものにすぎませんが、著名な刑法学者のご意見も参考にしながら、業界団体及び弁護士等が集まって議論した結果発出されたものであり、実務的には合同ガイドラインに従ったランダム型販売を行うことは許容されるのでは、と思われます。

(3) 合成

ブロックチェーンゲームでは、合成、具体的には2つ以上のアイテムから新しい1つのアイテムがランダムに誕生する、という仕組みがとられる場合があります。

合成に何らかの賭け金がある場合、例えば、元のアイテムが消失する、合成に手数料が必要である、等の場合、賭け金を賭けて新たな財産が得られる賭博である、とされないかについてのリスクを検討する必要があります。理論的には合成の場合であっても上記(2)の議論が適用される、すなわち、出現するNFTの価額を明確には算定できない場合(例えば、販売会社が買取を約束していたり、別途の価格での販売を行っていない場合)には、財物の得喪がなく、賭博罪には該当しない、と考えられそうですが、上記合同ガイドラインは、合成の場合については対象としていないことから、ランダム型販売の場合に比べて合成はより慎重に考慮する必要があるようには思われます。

なお、合成の場合には、元のアイテムが消失しない、かつ手数料を取らない、又は手数料はガス代等コスト分のみである場合には、一定の財産を賭けていない(喪がない)という議論が可能ですので、合成に関する賭博罪リスクは低いと思われます。

3 景表法

(1) 初めに

多くのソーシャルゲームでは、新規顧客を勧誘するためにアイテムを配布し(新規ボーナス)、既存プレイヤーにゲームを継続させるためにアイテムが配布され(ログインボーナス)、各種イベントの達成度に応じてアイテムが配布されるほか(達成ボーナス)、プレイヤーを競わせるために各種ランキングを設けてランキングに応じてアイテムが配布されることがあります(ランキングボーナス)。

 ブロックチェーンゲームを開発する事業者から、このようなボーナスとしてトークンを配布したり、特にランキングボーナスの場合、上位者にEtherなどの暗号資産を付与できないか、というご相談を受けることがあります。これらの配布を行う場合、景表法との関係を考える必要があります。

(2) 景表法について

景表法では、過大な景品類の提供を禁止しています。

景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。また、経済的利益には(a)物品及び土地、建物その他の工作物、(b)金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券、(c)きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)、(d)便益、労務その他の役務、を幅広く含みます。

「過大」性については、一般懸賞、共同懸賞、総付懸賞により異なりますが、ゲームに関連すると思われる範囲では下記の基準によります。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること。 購入者全員にプレゼント、来店者全員にプレゼントなど

取引価格が1000円未満 – 景品類上限は200円

取引価格が1000円以上 – 景品類上限は取引価額の10分の2

一般懸賞 商品・サービスの利用者に対 し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること。 店舗での抽選、クイズ大会、ゲーム大会

取引価額が5000円未満 – 取引価額の20倍

取引価額が5000円以上 – 10万円

いずれも総額上限として売上予定総額の2%

なお、そもそもEtherやトークンの配布が「景品類」に該当するか問題となりますが、上記(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、Etherのように財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されており、原則として常に景表法の適用があると考えて良いと思います。

(3) ログイン報酬と景表法

ログインをした場合に報酬としてトークンを付与するゲームを考えた場合、当該報酬が、景品類に該当するか検討します。

そもそもログイン自体は課金には直結していないものの、一般的にログイン報酬は当該ゲームを継続してプレイしてもらい、課金を行ってもらうための誘引として提供されており、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、に該当すると思われます。

また、Etherやトークンは、通常、③物品や金銭などの経済的利益、に該当すると思われます。

そしてログインだけで景品が貰えることは総付懸賞であると考えられ、よってログイン報酬としてトークンを付与する場合、1日あたり200円以内など、景表法の範囲を守って付与する必要があると思われます。

(4) ランキング報酬と景表法

ランキング上位にEtherや非常に強力なトークン等を付与することが考えられます。

従来型ゲームでも、ランキング上位に強力なアイテムや無償アイテムを付与することはしばしば見受けられますが、この場合、付与するものに応じて、経済的価値がないと考える、もしくは経済的価値が余り高くないと価値を算定し、景品規制の上限金額の範囲内で付与しているものと思われます。

ブロックチェーンゲームで、付与されるEtherや外部売却可能なトークンも景品類に該当し、一般懸賞の制限に服することとなります。  懸賞の許容額は取引価額に応じて決定されるところ、取引価額が幾らかの算定は困難ですが、一応の考え方としては最低課金価格を取引価格とし、その20倍ないし10万円までの低いほうの報酬が出せる、と考えることになるのではと思います。

(5) PlaytoEarnと景表法

Play to Earnゲームについて、(a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができると考えた場合、報酬部分が景品規制の対象となる可能性があります。

ただし、理論的には、そもそもPlay to Earnゲームでの報酬は「おまけ(景品類)」ではなく、報酬の獲得がNFT購入とゲームプレイの目的そのものである、として景表法の適用がないとする考え方もあり得るとは思われます。 例えば、宝くじの賞金やパチンコの景品などは、正常な商慣習に照らして、「宝くじを買う」「パチンコをする」といった取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益であり、取引付随性がないと考えられています21

Play to EarnのNFTを購入するという取引に、購入したNFTを使ってゲームをプレイすることで報酬を獲得する、ということが正常な商慣習に照らして含まれているといえるような場合、例えば、NFTを購入するほぼすべてのユーザーが、報酬の獲得を当然の目的としてNFTを購入していると言えるような場合には、報酬の獲得が取引そのものであり取引付随性が認められない(=景表法は無関係)、と考えることもできるように思います。実態としてはこのように考えても良いようには思われますが、他方、パチンコや宝くじと比較すると、なおNFT購入と報酬獲得の関係は遠いように思われる点や、そもそもNFTを購入して報酬を得る目的ということを強調しすぎると全体として賭博なのではないか等、疑問も生じるところです。

Play to Earnゲームの構築に際しては、法令違反がないのか、法令上不明確な部分も多いのでどこまでリスクを取れるのかも含め、より慎重な検討が必要とは思われます。

なお、例えばAxie Infinityに景表法が適用されると考えた場合の分析を行ったものとして、当事務所による「ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討」(2021年9月2日)(https://innovationlaw.jp/play-to-earn-2/)もご参照下さい。

4 資金決済法(前払式支払手段)

(1) ゲーム内通貨の販売と前払式支払手段

ブロックチェーンゲームの中には、スタミナ回復やアイテム購入のために、ゲーム内通貨を販売するものがあります。円やドルで購入するゲーム内通貨は、多くの場合、自家型前払式支払手段に該当し、同手段発行の届出が必要となります(資金決済法第3条、第5条)。

(2) ゲーム内通貨の暗号資産での販売

ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内通貨がEtherなどの暗号資産で販売される場合があります。

この点、資金決済法第3条第1項の前払式支払手段の定義上「金額に応ずる対価を得て発行される」と記載され、通貨建資産ではないEtherは「金額」に該当しないと思われます。よって、仮に1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が暗号資産にリンクする場合には、同ゲーム内通貨は原則として、前払式支払手段には該当しないと思われます。

他方、1ゲーム内通貨が、100円の時価に相当するEtherで購入できるというケースの場合、これは100円という「金額」を単にEtherで支払っているに過ぎないため、前払式支払手段の「金額」の定義に該当すると思われます。

第3条(定義)
1 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
① 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。) により記録される金額 (金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。) に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
② 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
 
4 この章において「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者(次条第五号及び第三十二条において「密接関係者」という。)を含む。以下この項において同じ。)から物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5 この章において「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、ブロックチェーンゲームの利用やNFT購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

メタバースBlog連載済み

メタバースBlog連載の予定

1 初めに

メタバースは、現実世界などをモチーフとした仮想空間であることから、メタバース空間内で、各種の現実世界同様の商取引がなされることがあります。

例えば、ランド(土地)や家、アバター、その服やアクセサリー、ライブの入場チケットなどが販売され、それに対する支払いがなされます。このような売買は、運営側とユーザー側でなされるのみならず、ユーザー同士でなされる場合もあります。

デジタル空間上での取引であることから、売買の対象となるものはデジタルデータであり、デジタルデータ上に「所有権(民法206条)」等の権利があるのかが問題となります。また、デジタル上での支払いであることから、現金以外での支払い手段が求められることが多く、支払手段についての規制も問題となります。

更に、将来的には、レディ・プレイヤー1のオアシス世界のように、メタバース上での労働というものが観念できるかもしれません。このような労働は、契約当事者同士が一度も会ったことはなく、空いた時間で、兼職自由の前提でなされることが多いと思いますが、そのような場合に特有の問題について記載をします。

図1(THE SANDBOX公式サイトhttps://www.sandbox.game/jp/より。ランドの例)
図2(SF映画『レディ・プレイヤー1』より。IOI社で労働させられるプレイヤー)
本書での検討内容と結論

(1)  メタバース上のデータが法的な権利により保護されるか
メタバース上のデータはメタバース運営者に対する一種の利用権(債権)により保護され得るが、占有権や所有権等の物権によっては保護されない。もっとも、著作権等の知的財産権により保護される可能性はある。なお、NFTについては、自らのウォレットにより管理し、メタバース内外を問わず移転可能である等といった点で排他的な支配権を観念できる余地がある。

(2)  メタバース上でのデータの売買代金の支払方法にはどのようなものが考えられるか
Web2型メタバースでは、主にクレジット・デビットカード、前払式支払手段の利用が想定される。いずれも支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その発行には業規制が課される。また、Web3型メタバースでは、これらに加えて、暗号資産や業規制対象外のポイントの利用が想定される。暗号資産を支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その有償発行には暗号資産交換業の規制が適用される。なお、ポイントについてはその付与に関して景表法の景品規制に留意する必要がある。

(3)  NFTや暗号資産の発行、販売にはどのような規制が課されるか
NFTの販売を一律に規制する法令はない。NFTと暗号資産の区別は「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになる。暗号資産の有償発行、販売については、暗号資産交換業としての登録の他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務、取引時確認義務等の種々の規制が課される。

(4)  メタバース内での労働にはどのような法規制が課されるか
メタバース内で、他のプレイヤーのために仕事をする場合、多くはいわゆるギグワーカーのような形態で業務委託契約が成立することになると思われ、基本的には特段の法規制はない。例外的に、労働者性が認められて雇用契約が成立する場合、労災保険の加入や賃金の通貨払い、労働条件の書面等による明示等、種々の労働法規制が課される。

2 メタバースと所有権その他の権利

メタバース上では、ランド(土地)や家などの不動産類似物、服やアクセサリー、家具などの動産類似物が販売されることがあります。しかし、これらは実際上はいずれも単なるデータにすぎず、現実の不動産や動産ではありません1

日本の民法上は、占有権や所有権等の物権は原則として有体物(=形のあるもの)にしか認められないため(民法85条、180条、206条等)、単なるデータには占有権や所有権等の物権は認められないことになります。そこで、メタバース上のデータが法的な権利によって守られないのかが問題となります。

2.1 Web2型メタバースと利用権

まず、Web2型メタバースの場合、ユーザーのデータに関する権利は、ユーザーがメタバース空間上でデータを利用できる、という一種の利用権(サービス利用規約等に基づくメタバース運営者に対するユーザーの債権)であることが通常と思われます。そのため、基本的には、ユーザーは運営者以外の第三者に対して利用権を行使することは難しいことになります。

2.2 Web3型メタバース、NFTと利用権

Web3型メタバースでNFT等のデータを利用する場合も一種の利用権であることは基本的には同様です。

もっとも、NFTの場合、ブロックチェーン上で自らのウォレットにより管理でき、メタバースの内外を問わず第三者に譲渡、貸与等を可能にする仕組みが実装できる、少なくともNFTに対しては排他的な支配権を持てる可能性がある等、Web2型メタバースの場合に比べ、データに対する支配権をより強く観念できる可能性があります。

ただし、当該支配権もメタバース運営者やNFT発行者の定めたルールや技術的仕様の範囲内で認められるに過ぎず、メタバースのサービス終了によって無価値化する可能性がありそうです。

2.3 ユーザーに対する説明

運営側としてもユーザー側としても、現実空間上での用語とのアナロジーで商品説明をすることが判りやすく、「不動産」という用語を使用したり、Web3型メタバースではNFTに対して「デジタル所有権」等の用語を使用することがあり、それ自体は許容されると思われますが、運営側としては現実の所有権や不動産と同じような権利があると思われることがないよう、誤解のない表現で販売を行う必要があると思われます。

2.4 メタバースと知的財産権

なお、メタバース上のデータについては、主に著作権等の知的財産権による保護の対象になる可能性があります。この点は、メタバースと法律Ⅱ[https://innovationlaw.jp/ metaverse2/]をご参照下さい。

3 メタバース上での売買代金の支払方法

メタバース上の決済方法としては、クレジットカード、デビットカード、前払式支払手段、暗号資産、ポイントなどが考えられます。

3.1 Web2型メタバースと支払手段

Web2型メタバースでの支払手段は、通常はクレジットカード、デビットカードまたは前払式支払手段を使うことが考えられます。ここで、前払式支払手段とは、金額等が記載または記録された証票や符号等であり、当該金額等に相当する金額を支払うことで発行され、発行者やその指定する特定の者との取引に用いることができる通貨建の決済手段をいいます(資金決済法3条1項)。例えば、Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券等がこれに当たります。

これらをメタバース上の取引で利用すること自体には規制は有りませんが、メタバース運営者が自ら前払式支払手段を発行する場合には、以下の業規制が課されます。

種類 特徴 規制

自家型前払式支払手段
(資金決済法3条4項)

前払式支払手段の発行者やその密接な関係者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り使用できる前払式支払手段 未使用残高が3月末または9月末において、1,000万円を超えた時は、財務(支)局長に届出が必要(同法5条、同施行令6条)
※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で届出不要(同法4条、同施行令4条)
第三者型前払式支払手段
(同法3条5項)
前払式支払手段の発行者やその密接な関係者以外の第三者に対しても使用できる前払式支払手段 財務(支)局長の登録が必要(同法7条)
※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で登録不要(同法4条、同施行令4条)

3.2 Web3型メタバースと支払手段

Web3型メタバースでも、前払式支払手段を使うことも考えられますが、ビットコインやイーサリアムなどの既存の暗号資産、または独自発行の暗号資産を決済手段とすることも考えられます。

暗号資産とは、物品・役務提供の代価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークンで、法定通貨や通貨建資産に該当しないものを意味します。また、そのような暗号資産と相互に交換を行うことができるトークンも暗号資産に含まれることがあります(資金決済法2条5項)。

暗号資産をメタバース上の取引で利用すること自体に規制は有りません。しかし、自ら暗号資産を有償で発行する場合には、財務(支)局長の登録(同法63条の2)を受けることが必要になる等、暗号資産交換業者として種々の規制が適用されます。

また、前払式支払手段や暗号資産に該当しないポイント、例えば、メタバース利用者に一律に配られたり、メタバース内での買い物の金額に応じて無償で付与され、メタバース内での買い物の際に代価の弁済の一部に充当することができるようなものは、その利用や発行について一律に規制する法令がありません。なお、このようなポイントの付与については、景表法の景品規制に留意する必要がありますが、次回の買い物時の値引きであると評価できるポイントの付与については、景表法の規制も課せられません。

発行についての規制

支払手段 特徴 業規制
クレジットカード カードを提示またはその情報を通知することで、特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価をカード事業者が支払い、利用者が定められた時期までに対価に相当する額をカード事業者に支払う。例 Visa、Mastercard、JCB、American Express 包括信用購入あっせん業(割賦販売法)
デビットカード カードを提示またはその情報を通知することで特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価を利用者の口座から販売業者の口座に送金する。例 三菱UFJデビット、SMBCデビット、みずほJCBデビット 銀行業(銀行法)や資金移動業(資金決済法)
前払式支払手段 利用者が、金額等が記録された証票等をあらかじめ対価を払って取得し、特定の販売業者に対して当該証票等を使用して、記録された金額等に相当する商品やサービスの提供を受ける。例 Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券 前払式支払手段発行業(資金決済法)
暗号資産 物品・役務提供の対価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークン。例 BTC、ETH、XRP 暗号資産交換業(資金決済法)
上記以外のポイント 利用者に一律に配られたり、買い物の際におまけとして無償で付与され、次回以降の買い物の際に対価の弁済の一部に充当することができるようなもの。 特になし
※景表法の景品規制については留意が必要。

4 NFTや暗号資産の発行、販売と法的論点

Web3型メタバースではしばしばNFTや暗号資産が利用されるところ、ここではNFTや暗号資産について触れます。

4.1 NFTと暗号資産の区別

NFTの販売を一律に規制する法令はありませんが、NFTと称していてもそれが暗号資産に該当する場合には上記のとおり登録が必要になる等、資金決済法上の暗号資産交換業に関する規制が課されることになります。

そして、NFTと暗号資産とを区別する明確な基準は定かではないものの、「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになると考えられ22、例えば、①店舗でサービスの対価として利用できる、②同一のトークンが多数存在している、③個々のトークンの個性が捨象されている、等といった事情があれば、暗号資産として認められ易くなるものと思われます。

4.2 暗号資産の発行に関する法規制

暗号資産の発行については、それを有償で行う場合、暗号資産の売買等(資金決済法2条7項1号)に該当するため、上記で説明したとおり暗号資産交換業としての登録を要する他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務(同法63条の11)、取引時確認義務(犯収法4条)等、発行者に種々の規制が課せられます。

他方で、利用者に無料で暗号資産をエアドロップする場合のように、暗号資産を無償で発行する場合には、暗号資産交換業の規制は課せられません。

5 メタバースと労働

メタバース内では、いわゆるギグワーカーのような形態で、他のプレイヤーのためにアバターを用いて仕事を行い、メタバース内通貨やアイテム等の対価を取得するといった取引の出現が考えられます。このようなプレイヤー間において、どのような法律関係が生じるかを検討します。

5.1 メタバース内で想定される労働

メタバース内で想定される仕事としては、例えば、他のプレイヤーが使用するための家や服を作成する等、他のプレイヤーのためにアイテムを生成することが考えられます。また、メタバース内のイベント主催者から依頼を受けて演奏や歌唱を行うといったアーティスト活動や、メタバース内の会議室でのコンサルティングサービスの実施も考えられます。こうした、メタバース外の世界と同様の仕事も考えられる一方で、例えば、保有する希少なアイテムを他のプレイヤーのために利用することで対価を得る等、メタバース内ならではの仕事も考えられます。

メタバース内で仕事ができる環境が出現すれば、プレイヤーは、メタバースで獲得したリソースをマネタイズすることができたり、人々が柔軟で自由な働き方を実現することができる等、様々なメリットが創出されるのではないかと思われます。

(Meta社の『Horizon Workrooms』では、VRを用いた「バーチャル会議」や「ワークスペース」が提供されています。
画像は同サービスの公式ウェブページ(https://www.oculus.com/workrooms/?locale=ja_JP)より転載。)

5.2 メタバース内での業務委託

メタバース内での仕事は、アバターにより事務処理を行う点に大きな特徴があります。もっとも、実際の作業としては、人がコンピューターでアバターを操作することが仕事の内容になるため、メタバース外でコンピューター作業を受発注することと基本的には同じ法的分析ができると思われます。

そして、多くの場合、空いた時間で、兼職自由の前提で作業がなされることが多いと思われ、いわゆるギグワーカーとして、個人事業主の立場で他のプレイヤーと業務委託契約(請負契約(民法632条)や準委任契約(同法656条))を締結し、仕事を行うことになるのではないかと思われます。 業務委託契約に基づく取引については、特に法規制はなされていないため、主としてプレイヤー間での合意に従うことが重要になってきます。なお、メタバース内でアバターにより仕事を行うという点において、以下の注意点があることを考慮したうえで、取引を行うことが望ましいと考えます。

・作業はメタバースのプラットフォームを前提とし、当該メタバースがサービス終了することで履行できなくなる。
・対価がメタバース内通貨で支払われる場合には、当該メタバースがサービス終了することでメタバース内通貨が無価値化する可能性がある。
・取引相手の素性が分からず、個人情報等が一切隠されたまま取引がなされること等で、義務不履行に対する法的手続きが講じ難く、未成年者か否か等のアバターを操作している者の属性が分かり難い。

また、契約成立に際しては、捺印やサインを付した書面や電子署名を付したファイルは作成されず、メッセージ記録のログ等が契約成立の証拠になることも多いのではないかと思われます。

5.3 メタバース内での労働契約

仕事を行うプレイヤーが、労働基準法9条に定める「労働者」に該当する場合、プレイヤー間の契約形態は、業務委託ではなく、雇用(民法623条)となり、労働法制による種々の規制が適用されることになります。

そして、労働者の有無の判断には、以下の基準が用いられると考えられています23

労働者性の有無に関する判断基準
①使用者の指揮監督下で労働しているかを、主に以下(a)~(d)等により判断。
 (a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  -諾否の自由が無ければ指揮監督関係を推認。
 (b)業務遂行上の指揮監督の有無
  -業務内容・遂行方法について具体的な指揮命令を受けていれば指揮監督関係が肯定されやすい。
 (c)勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無
  -当該拘束が業務の性質上当然に生ずるものか、使用者の指揮命令によって生ずるものかを考慮。
 (d)代替性の有無
  -本人に替わって他の者が労務を提供してよい、あるいは補助者を使ってよい場合、指揮監督関係を否定する要素となる。

②労務対償性のある報酬を受け取る者といえるかを、主に以下の(a)や(b)等により判断。これらが肯定される場合、報酬が一定時間の労務を提供していることへの対価と判断され、使用従属性が補強される。
 (a)報酬が時間給を基礎に計算される等、労働の結果による較差が少ない。
 (b)欠勤した場合には報酬が控除され、残業した場合には手当が支給される。

③上記①、②の観点のみでは判断できない場合の補強要素として、(a)事業者性の有無に関わる事項(機械・器具の負担の関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)、(b)専属性の程度等を検討する。

5.4 労働法制とメタバース

メタバース内での仕事は、業務委託契約等の労働者性が認められない形式により行われることが多いと思われますが、労働者性が認められる場合には、プレイヤー間の法律関係は労働基準法をはじめとする種々の労働法制により規制されます。

メタバースで単発の仕事を発注する場合に留意すべき法規制としては、労働者の労働規約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する合意をすることができず(労働基準法16条)、使用者による労災保険料の支払の必要が生じる等の他(労災保険法3条)、労働組合と使用者との間の労働協約で合意しない限り、賃金を通貨(日本円)で支払う必要があります(労働基準法24条1項)。そのため、メタバース内の独自トークンはもちろん、BTC等の暗号資産、前払式支払手段、アイテム等で支払うことは、原則として禁止されます。

また、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面、ファクシミリ又は電子メールで明示しなければなりません(労働基準法15条1項。労働契約法4条1項、労働基準法施行規則5条4項)。そのため、労働契約の締結はメタバース内では完結しずらいケースも多いのではないかと思われます。

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

1 初めに及び結論

1.1         問題意識

日本でDAOを組成できないか、と尋ねられることがあります。

DAOの定義が不明確であることから、ご質問時点でどういうDAOを組成したいのか曖昧な場合も多く、弁護士からどのようなDAOを想定しているのかお尋ねしても、法律上可能なDAOを組成したい、そのために日本では何が出来るのか教えてくれ、等の曖昧な返答を受ける場合も多いです。

このように整理がなされていない状況ですとDAOの組成が困難であると思われるため、本稿では、日本でDAOを組成する場合に何を検討すればいいのかを整理し、日本法上、組成が可能と思われるDAOを探求することを目的として執筆をしています。

1.2   検討すべき点及び結論

様々なDAOが考えられる前提で、結論として日本でも一定のDAOの組成は可能ですが、それが金融規制を順守できるか、及び、どのような法形式で行うのか、慎重な検討が必要です。

金融規制は、配当や100%以上の元本償還の可能性がある(以下、配当及び100%以上の元本償還を併せて「配当等」といいます。)DAOのトークン販売は、原則として、第一種金融商品取引業者に行わせる、又は自ら第二種金融商品取引業を取得して行う必要があります。

また、配当等のないFungible Tokenを販売する場合には、原則として、暗号資産交換業者に行わせるか、自ら暗号資産交換業を取得する必要があります。

なお、移転に技術的制約を設けたり、販売相手を限定することにより、緩和された規制の適用を受けられる可能性があります(トークンによります)。これらに対し、配当等のないNFTを販売する場合、金融規制は一般的にかかりません。

DAOの法形式は、それぞれの法形式に利点、欠点がありますが、例えば、配当等のあるInvestment DAOで税務上の有利さを追求したいのであれば組合やGK-TKスキーム、特に税務上の有利さを重視しないのであれば権利能力なき社団や一般社団法人、合同会社がトークンを発行するスキームが考えられます。配当等のないFungibleトークンやNFTの発行の場合、特に法人格を持たないことで良いかもしれません。

1.3         結論の参考表

以下、法的スキームや、金融規制について、検討すべきと思われる点と、それに対する結論を纏めた表となります。

配当等のあるInvestment DAO(=配当や100%以上の元本償還がある想定)のトークン販売には下記の規制が適用されます。

  日本法上の形態 トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用
合同会社、株式会社の社員権のDAO 合同会社の社員権のトークン化など 社員権トークンの無償配布は、会社法などで不可 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は合同会社の場合、第2種金商業、株式会社の場合は規制なし。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

社員権以外の権利のDAO(配当あり) TK出資、組合出資、所定の法形式に分類困難な権利のトークン化など 規制なし 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は第2種金商業。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

(有価証券投資の場合には投資運用業の可能性)

他方、配当等のないDAOも考えられますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

DAOに考え得る法形式に関しては、以下の比較ができると考えられます。

  法形式 有限責任性 配当可能か 二重課税回避 その他、総合評価

法人格なし

権利能力なき社団+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 自由度が高い。二重課税の点さえ問題なければ良いスキーム。
民法上の組合+組合持分トークン × △~〇 自由度が高い。有限責任性の点さえ問題なければ良いスキーム。
投資事業有限責任組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、NFTの購入が不可等、投資先や事業に制約。通常DAOでは使いにくい。
有限責任事業組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、組合員の名義の登記が必要である等、DAOでは使いにくい。
法人格あり 法人(*1)+匿名組合(例:TK-GKスキーム)のトークン化 △ 会社法や一般社団法に従った運営が必要。TK保有者には指図権がない等の点に留意が必要。二重課税がない、有限責任である点は良い。
法人(*1)+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 会社法や一般社団法に従った運営が必要。それ以外の自由度高く、二重課税の問題を気にしなければ良いスキーム。
法人(*1)+社員権(*2)のトークン化 〇(一般社団法人は×) × × 会社法や一般社団法に従った運営、社員としての管理が必要で、自由度低いか。

*1 法人としては合同会社、株式会社、一般社団法人など。株式会社より合同会社のほうが一般的に設立と運用が簡便。より公益的なイメージを持たせたい場合には一般社団法人を利用
*2  合同会社の社員権、株式会社の株式、一般社団法人の社員権

2 DAOについて

2.1         DAOとは何か?

DAOとは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、分散型自律組織等と呼ばれます。

特徴としては、特定の管理者が存在せず、メンバーが共同にて所有運用を行う組織のことを指します。

多くのプロジェクトでは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトと呼ばれる仕組みを利用し、スマートコントラクトで記載した事柄は自動的に実行されるようにします。また、ガバナンストークンと呼ばれるトークンを発行し、そのスマートコントラクトを変更したりするなどの重要な事項については、トークンホルダーの投票がない限り行えない仕組みになっています。

2.2         DAOの分類

Hideto@VancouBoysさんの2021年8月26日付Twitterが良く纏まっていたので、それを転載させて頂くと、DAOは下記のような分類になります。

①   Investment DAO
プロジェクトへの共同出資を目的とした営利目的DAO。「経済資本」を中心に利益を生むことを目的とされるためGrant DAOと比較すると資金が集まりやすい。
例)Genesis DAO, The LAO, BitDAO
 
②   Grant DAO
最初のユースケースとして正式稼働したのはGrant DAO。寄付された資金の使途をガバナンスを通じて決定する仕組み。「社会資本」を中心にメンバーが集まる傾向。
例)MolochDAO, MetaCarteDAO, Uniswap Grants
 
③   Protocol DAO
DeFi Protocol群を中心に発展しているDAO。コアチームからコミュニティにProtocolの権利を徐々に移行させ将来的にコミュニティ主導で自律的に運営されることを目指す。
例)Maker, Compound, Uniswap, Aave, Yearn, Sushi
 
④    Service DAO
分散型ワーキンググループ。プロジェクトを遂行すると対価としてトークンをもらえる。
例)RAID GUILD, DXdao, PartyDAO
 
・Social DAO
Grant DAOの社会資本中心の性格を抽出したDAO。メンバー間で価値観を共有するソーシャルネットワークのようなもの。
例)Friends With Benefits(FWB)
 
①   Collector DAO
何か(多くの場合NFT)を収集するために結成したDAO。
例)PleasrDAO
 
②   Media DAO
ニュースレターなどのコンテンツを提供するメディアをDAO化したプロジェクト群。
例)Fore Front(FF), Bankless DAO
Hideto@VancouBoys氏twitter
(https://twitter.com/VancouBoys/status/1430687658104168451以下)から引用

2.3         DAOの事例

以下では現在あるDAOの事例を幾例かご紹介します。

3 海外のDAO法(Wyoming州のDAO法)

①          Flamingo DAO
NFTへの投資、共同所有を目的とするInvestment DAO。NFTへの投資、売却により収益を得る。また、保有するNFTを貸し出したり、デジタルアートギャラリーに展示したり、他のDeFiプラットフォームの担保として利用する等で収益を得ることがある。
 
Flamingoは米国法上の証券に該当する可能性があるため、投資家は米国法上の適格機関投資家で100名以内とされている。
Flamingoのトークンホルダーは、1トークンあたり1票の権利を有し、また配当を受領する権限を有する。
 
Flamingoは、MolochDAOのスマートコントラクトのv2を使用し、スマートコントラクトは以下を管理している。
・メンバーのFlamingoに対する出資を集める
・投票
・投票の第三者への委任
・投資
・収益の分配
・rage quittingと呼ばれるメンバーの脱退
その他詳細はFLAMINGOの公式ウェブサイト(https://flamingodao.xyz/)をご参照下さい。

②  BitDAO
BitDAO はシンガポールの仮想通貨取引所「ByBit」が全面的にサポートする DAO。
BitDAO は、DeFi や NFT に関するプロジェクトに資金提供・流動性の供給をするInvestment DAOであり、独自トークンのBITを発行。BITは、イーサリアム基盤上に構築されたERC-20トークン。
ガバナンストークンとしての役割があり、BIT所有者は、BitDAOの出資先や出資額の決定に関与可能なほか、保有量に応じて利益の分配も受けられる。
 
③          ConstitutionDAO
ConstitutionDAOは、アメリカ合衆国憲法の原本をオークションで落札するためのクラウドファンディングとして立ち上がったDAOプロジェクト。
2021年11月に実施された原本のオークションでは敗れたものの、1週間で4700万ドルもの資金調達に成功。独自通貨peopleを発行し、ガバナンストークンとして使用する予定であった。
敗北後、返金を行い、今は活動を中止しているよう。
 
④  山古志村DAO
人口800人の限界集落が、デジタルアート×電子住民票として、NFTを発行するDAO。
錦鯉をシンボルにしたデジタルアートのNFTが電子住民票を兼ねている。
 
NFTセールによる調達資金により、山古志地域に必要なプロジェクトや課題解決を独自財源で押し進める。例えば、山古志地域をフィールドに世界中の子どもや大人がアクセスできる教育プログラムの立ち上げ、大小さまざまな地域課題を解決するためのファンドの設立、空き家や遊休施設を活用したスタートアップの誘致など。同時に、山古志地域を存続させるためのアイデアや事業プランをリアルタイムで、NFTホルダーであるデジタル住民専用のコミュニティチャット内(Discordを使用)で展開し、メンバーからの意見の集約、投票などで行う。
 
以上は、山古志住民会議のNote(https://note.com/yamakoshi1023/n/n1ae0039aa8a4)を参考に記載。

海外でも、DAOに対する法律の適用は明確ではありません。一つの例として、Wyoming州では、2021年にDAOを法人として認める法律を制定しています。

概要
・DAOは、ワイオミング州の有限責任会社(LLC)として登記可能。
・DAOのメンバーはDAOの債務に関して有限責任。
・法人課税を選択しなければパススルー課税。
・ワイオミング州でDAOを設立する場合、その定款には自律分散型組織であることを示す文言や略語である「DAO」、「LAO」、「DAO LLC」などを含めなければならない。
・DAOの管理は定款および運営契約に別段の定めがなく、アルゴリズムが管理する場合はスマートコントラクトに帰属する。
・DAOは1人以上のメンバーを有するDAOを組織の定款の原本1部と正本または合本1部に署名し、州務長官に提出することによって結成できる。
・DAOを結成した者が、組織のメンバーである必要はない。DAOを結成した者はDAOの登録代理人としての役割を果たすことになる。
・DAO結成の条件として、その組織基盤となるスマートコントラクトが更新、修正、その他のアップグレードができなければならない。さらに定款には、DAOの管理、促進、運営に直接使用されるスマートコントラクトの識別子を含める必要がある。
・定款に記載されるスマートコントラクトには「メンバー間およびメンバーと自律分散型組織との関係、メンバーとしての資格を有する者の権利および義務、DAOの活動とその遂行、運営規約の変更の手段と条件、メンバーの議決権等の権利、メンバーの権利の譲渡性、メンバーシップの脱退、解散前のメンバーへの分配、組織規定の改正、適用されるスマートコントラクトの修正、更新、編集または変更の手順、その他、DAOに関するすべての事項」に関する規定がされていなければらならない。
・DAO法案は、設立時に定義したスマートコントラクトに変更が生じる場合に、合わせて定款を変更する必要がある点が特徴。
 
以上は、あたらしい経済社の記事「米ワイオミング州の「DAO法」、7月に施行へ」(https://www.neweconomy.jp/posts/112086)を参考に記載

なお、Wyoming州のDAO法はあくまで法形式に関する法律であり、販売時の金融規制は別途かかると思われる点に留意が必要です。

4 DAOに対する金融規制

4.1         初めに

配当等のあるInvestment DAO(=配当や100%以上の元本償還がある想定)のトークン販売には下記の規制が適用されます。

  日本法上の形態 トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用
合同会社、株式会社の社員権のDAO 合同会社の社員権のトークン化など 社員権トークンの無償配布は、会社法などで不可 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は合同会社の場合、第2種金商業、株式会社の場合は規制なし。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし
社員権以外の権利のDAO(配当あり) TK出資、組合出資、所定の法形式に分類困難な権利のトークン化など 規制なし 発行者のための販売の代行は第1種金商業。自己募集は第2種金商業。

50名以上勧誘の場合、有価証券届出書の提出等

規制なし

(有価証券投資の場合には投資運用業の可能性)

他方、配当等のないDAOも考えられますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

以下、解説します。

4.2         ファンド類似権利のトークン化のDAOと金商業の登録規制

合同会社や株式会社の社員権以外の権利のトークン化で、金銭や暗号資産の出資、投資運用、配当又は100%以上の元本償還がある場合、日本法上は広く集団投資スキーム(=ファンド)と見られると思われます。集団投資スキームは、典型的には組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約などのファンドを規制する概念ですが、金商法2条2項5号、6号は集団投資スキームの範囲を「その他の権利」と広く定義しているためです。

集団投資スキームの定義の概要
以下の①~④を満たす権利
① 民法第667条第1項に規定する組合契約、商法第535条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権、その他の権利
② 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(暗号資産を含む)を充てて行う事業(「出資対象事業」)が存在
③ 出資者が出資対象事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる
④ 出資者全員が常時業務に関与する等の例外事由にあたらない

そして、2020年5月1日施行の改正金商法により、電子記録移転権利という法概念が創設され、トークン化された集団投資スキームの権利は、通常、この電子記録移転権利に該当します。

電子記録移転権利の定義の概要
以下の①~③を満たし、④を除く権利(金商法第2条第3項)
① 金商法第2条第2項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名・合資・合同会社の社員権等)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

この電子記録移転権利の販売には、第一種金商業の登録が必要であり、また、50名以上に勧誘する場合、公募となり(金商法2条3項)、有価証券届出書の提出が必要となります(金商法5条)。

なお、例えば適格機関投資家や49名以下の富裕層にのみ販売を限定し、かつ、転売があっても、それ以外の者がDAOトークンホルダーになれないように技術的に制約されている場合、自己募集は63条届出という簡易な届出で足ります。

Investment DAOの組成の際には当初はそのような限定された形で販売する等し、大きくなった後に、規制を順守しつつ、一般公衆に販売していくことは考えられるのではと思われます。

4.3         社員権のトークン化のInvestment DAOと金商業登録規制

これに対して、社員権のトークン化(電子記録移転権利)の場合、合同会社の社員権であれば他者による募集に一種金商業が自己募集には二種金商業が、株式会社の株主権のトークン化であれば他者による募集に一種金商業が課されます。株式会社の株主権のトークン化の自己募集には業規制はかけられません。

4.4         公募等に関する規制

公募等になる場合、別途、有価証券届出書の提出が必要となる場合があります。以下のいずれかに該当する場合は、公募として、原則としてファンド類似権利や社員権をトークン化した電子記録移転権利の発行につき有価証券届出書の提出が必要になります。

(i)  50名以上の者(転売制限等を行った場合の適格機関投資家を除く)を相手方として有価証券の取得勧誘を行う場合
(ii) 適格機関投資家私募、特定投資家私募および少人数私募のいずれにも該当しない場合

適格機関投資家私募とは、適格機関投資家のみを相手方として行い、適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合として一定の要件を満たした取得勧誘を意味し(金商法2条3項2号イ)、また、特定投資家私募とは、特定投資家の身を相手方として行い、特定投資家以外に譲渡されるおそれが少ない場合として一定の要件を満たした取得勧誘を意味し(同号ロ)、少人数私募とは、50名未満の者を相手方として、多数の者に所有されるおそれが少ない取得勧誘を意味します(同号ハ)。

4.5         配当のないDAOに対する金融規制

配当等のないDAOも考えれますが、その規制は以下となります。

  トークンの無償配布 トークンの販売 投資運用(配当なし前提)
ユーティリティートークン 規制なし 暗号資産交換業 規制なし
NFT 規制なし 規制なし 規制なし

なお、ユーティリティートークンの販売に関し、暗号資産交換業の規制には、有価証券の販売の場合と異なりプロ向け販売の例外などがないのですが、例えば、「業」と見られない範囲の関係者に対してのみ販売を行い、かつ一般公衆には無償配布を行いつつ、事業が大きくなった後には暗号資産交換業者と組んだ上で上場を行う、ということは考えられると思われます。

5 DAOを日本で組成する場合の法形式

5.1         初めに

日本でDAOを組成する場合、法形式を明確化して、民法上の組合、投資事業有限責任組合、合同会社+匿名組合、などで、組成する場合と、特に明確化せず、いずれの法形式かよく判らない団体が権利性の良く判らないトークンを出している、という形にすることの両者が考えられます。

法形式を明確化しない場合、日本では一般には「権利能力なき社団」が「権利性が良く判らないトークン」を出しているという取扱いになると思われます。この場合、二重課税が排除できないことや、法的安定性が若干欠ける等のデメリットがありますが、法形式に縛られず自由である、というメリットがあります。

他方、法形式を明確化した場合、各々の法形式に応じて、二重課税が排除される等のメリットがありますが、法令に従った運営をしないといけない等、自由度が減るデメリットがあります。

以下で考えられる考慮要素を検討します。

法形式比較

  法形式 有限責任性 配当可能か 二重課税回避 その他、総合評価

法人格なし

権利能力なき社団+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 自由度が高い。二重課税の点さえ問題なければ良いスキーム。
民法上の組合+組合持分トークン × △~〇 自由度が高い。有限責任性の点さえ問題なければ良いスキーム。
投資事業有限責任組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、NFTの購入が不可等、投資先や事業に制約。通常DAOでは使いにくい。
有限責任事業組合+組合持分トークン × 他の点は良いものの、組合員の名義の登記が必要である等、DAOでは使いにくい。
法人格あり 法人(*1)+匿名組合(例:TK-GKスキーム)のトークン化 △ 会社法や一般社団法に従った運営が必要。TK保有者には指図権がない等の点に留意が必要。二重課税がない、有限責任である点は良い。
法人(*1)+権利性の良く判らないトークン 〇? × △~〇 会社法や一般社団法に従った運営が必要。それ以外の自由度高く、二重課税の問題を気にしなければ良いスキーム。
法人(*1)+社員権(*2)のトークン化 〇(一般社団法人は×) × × 会社法や一般社団法に従った運営、社員としての管理が必要で、自由度低いか。

*1 法人としては合同会社、株式会社、一般社団法人など。株式会社より合同会社のほうが一般的に設立と運用が簡便。より公益的なイメージを持たせたい場合には一般社団法人を利用
*2  合同会社の社員権、株式会社の株式、一般社団法人の社員権

5.2         法人格の有無

DAO化を徹底したい場合には法人格のない形式にすることが考えられます。単にトークン等に投資をする場合や、スマートコントラクトで全てが完結する場合、特に法人格を持つ必要はありません。

法人格を有する場合、当該法人の設立根拠法に従って運営をしなければならない、取締役や理事等が存在し中央集権的である、という制約はありますが、例えば、トークンホルダーに一定の投票権を持たせ、その投票に従って取締役等が行動する、と約束することで、相当程度のDAO類似性は達成できると思われます。

DAOの設立当初はいずれにせよ中央集権的な部分が必要と思われるため、当初は法人を設立し、後日、軌道に乗った後に法人格を失くしていくスキームも考えられます。

5.3    DAOトークンホルダーの有限責任性

出資者が出資した金額以上の責任を負わないこと、これを有限責任と言います。

DAOの目的が単にNFT投資等の場合、仮にDAOトークンホルダーの有限責任性が確保されていなくても大きな問題はないとも考えられますが、やはり有限責任性は確保した方が良いと思われます。そのような観点からは、例えば民法上の組合は有限責任性が確保されず、避けるべきと思われます。

他方、株式会社の株主、合同会社の社員、一般社団法人の社員、匿名組合契約の出資者などは、極めて例外的な場合を除き、有限責任です。

なお、多くのトークン発行事例では、そもそもトークンがどのような性質を持つのか不明確であり、それを会社が発行したり、財団が発行したり等します。このような「よく判らないトークン」のトークンホルダーが有限責任であるかは不明確な点もありますが、例えば投票権がある等のみの場合、基本的には有限責任と考えて良いのではと思われます。

5.4    配当可能か

トークンホルダーに配当等を行いたいか否かで選択できるスキームが異なります。例えば一般社団法人+社員権トークン化の場合、法令上、配当は行えません(一般社団法11条2項)。

なお、法形式上配当が可能であったとしても、配当は義務ではなく、約束で配当は行わないとすることも考えられます。配当を行うか否かで、前述4の金融規制の適用が変わってくるため、その点の留意が必要です。

5.5         二重課税の排除(Tax Transparent)

Investment DAOの場合、税務上、法人段階で課税され、配当があった場合に当該配当に対して構成員レベルでも課税される(二重課税、not tax transparent)のか、法人段階では課税されず構成員レベルで課税されるのか(二重課税なし、tax transparent)は重要な考慮要素になります。

二重課税を避けたい場合、民法上の組合や匿名組合など、法令上、明確に税務の処理が規定されている法形式を使用することが必要と思われますが、このような法形式には例えば民法上の組合には無限責任性、匿名組合には指図権の問題などがあり、留意が必要です。

5.6         DAOとしての自由度、適格性

例えば、ファンドで多く使用される投資事業有限責任組合は、法令上、投資先が限定されており(投有責法3条1項)、NFT等への投資ができません。勿論、債権等に投資するInvestment DAOであれば投資事業有限責任組合の採用も考えられますが、一般のDAOには使用しにくいと思われます。

また、匿名組合契約の場合、匿名組合員には経営への監視権はあるのですが(商法539条)業務執行権はなく(同法536条3項)、かつ、業務執行を行っていると見られると、匿名組合性が失われる(民法上の組合等と見られる)可能性がある点、留意が必要です。

5.7         トークン移転と対抗要件

日本法上、債権の移転を第三者に対抗するには原則として「確定日付のある証書による通知又は承諾」が必要とされています(民法467条2項)。例えば、債権者Aが債務者に対する債権を有し、Aが当該債権をBとCとに二重に譲渡した場合、このBとCのどちらが勝つかを「確定日付のある証書(内容証明郵便や公証人の確定日付印のある文書)による通知又は承諾」で決めよう、という発想になります。また、Cが差押債権者やAの倒産管財人である場合も、同様に対抗要件が問題となります。

トークンの移転の際に、確定日付ある通知又は承諾を得ることは、実務上、行われていません。法令上、債権であるか明確ではない場合、許容可能なリスクと思われますが、何らかの債権をトークン化したということを明確化した場合、移転に確定日付がないことのリスクが発生する可能性があります。その意味ではよく判らないトークンの譲渡の方がリスクが低い可能性はあります。とはいえ、トークンの譲渡に伴い、権利が譲渡されるのではなくAが元の契約から脱退をし、Bが債務者との間で元の契約と同一の契約をしたという構成にすることにより対抗要件問題は解決できる可能性があり24、債権譲渡に関しては、対抗要件問題は決定的な要素ではないと思われます。

この他、株式会社の株主権のトークン化については、株主の地位の移転の対抗要件は株主名簿の記載であり(会社法136条)、トークン化の場合もこの点は変わらないと思われる等、各種権利の移転についての対抗要件、効力要件は、トークン化に際して、検討することが必要です。

留保事項
・DAOについてはそもそも明確な定義もなく、これまで本邦で法的に分析された資料等もないため、法令上、合理的に考えられる当職らの現状の見解を整理したものに過ぎません。
・DAOに関する法制度の整備や関係当局の解釈、その他議論の状況等を踏まえ、本稿の内容について当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿の内容につき関係当局の確認を経たものではなく、関係当局が異なる判断を行う可能性があります。
・海外の法令や国内外のDAO事例は、各社のホームページ、ニュース記事、各種Blog等を参考に記載したものであり、内容の正確性は保証できません。
・本稿は、DAOの利用を推奨するものではありません。
・本稿は議論用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士等にご相談下さい。

メタバースBlog連載済み

メタバースBlog連載の予定

1 初めに

メタバース、特にバーチャルSNS型のメタバース(SNS型のメタバースの概要についてはメタバースと法律(1)の記述をご参照下さい)では、ユーザーのアバターによる表現が自由に許されることが多く、下記①のような事象が問題となります。

また、一般ユーザーがアバター(キャラクター)やワールド等を製作できるようにSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されているものが多く存在します。このようなSNS型メタバースでは、下記②、③のような事例がしばしば存在し、法律との関係が問題となります。

更に、SNS化型メタバースでは、このような①~③の行為を許容するプラットフォーマーの責任がどうなるか、も問題となります。

本稿で検討すること
①    ユーザーによりバーチャルライブなどの、演奏、歌唱、ダンスなどの様々な表現行為がなされることと法律
②    ユーザーがアバター(キャラクター)などの顔、服、小道具などを作成し、利用し、販売することと法律
③    ユーザーがワールドを作成し、他のユーザーに来場して貰い、遊んで貰うことと法律
①~③のような事例に関するプラットフォーマーの対応

これらの問題はメタバースに特有の問題ではなく、既存の動画投稿サイト、SNS、ユーザー投稿型のゲームなどでの問題点と重複する点がありますが、異なった問題点もあり、改めて検討するものです。

2 ユーザーによる表現行為(ライブ、歌ってみた、演奏してみた、踊ってみた)と法律

メタバース上で、ユーザーがライブをし、歌うこと、演奏すること、踊ること等について、他人の作品を取り扱う場合、基本的には著作権が問題となります。

メタバース上での大規模ライブ(竜とそばかすの姫より)

(竜とそばかすの姫「U」MVhttps://www.youtube.com/watch?v=R3V4sAXUJ-g0:04、3.17より。以下同ビデオにつきURLを省略。)
(竜とそばかすの姫「U」MV 2:30より。なお、同ライブの曲はおそらく自作曲と思われる。)

すなわち、歌については、歌詞やメロディーは音楽の著作物として保護されています。また、既に演奏された音源を流す場合、例えばカラオケ音源をバックに歌う場合などは、演奏物の著作隣接権も問題となります。更に、他人の作った振り付けを踊る場合、舞踏の著作物が問題となります。

(a)自身が著作権を有する場合、(b)著作権フリーである場合、(c)著作権の一括許諾がなされている場合、を除き、理論的には使用について許可を取る必要があります。なお、メタバース上での利用は、公衆送信権との関係で、私的利用の例外は認められないのでは、と思われますが、この点も後述します。

  想定される行為 対象となる著作権 例外の適用
1 (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏 音楽(作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 JASRAC、NEXTONE管理曲の包括許諾
但し、現在、メタバースサイトで包括許諾を取っているサイトがあるものがあるかは不明。今後、包括許諾が取られれば問題ない。

なお、公衆送信権や演奏には私的利用の例外はないこと、「公衆」の範囲の問題となるが、完全に閉じたワールド以外は公衆になりうることに留意。

2 (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏し、自分で歌唱 音楽(作詞・作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 同上
3 (市販の曲を、既にあるカラオケ音源をバックにして)メタバース上で歌を歌う 音楽(作曲・作詞)の著作物:演奏権と公衆送信権

カラオケ演奏:著作隣接権

音楽の著作物について同上

著作隣接権についてはJASRACやNEXTONEの包括許諾の対象外であることに留意

4 (市販の曲を、市販演奏をベースに、他人の振付にて)メタバース上でダンス ダンス(舞踏)の著作物: 上映権、公衆送信権
曲及び演奏:上記3と同様
TikTok等で上げられているダンスの振付は、他人が振付を真似して配信することに事実上の承諾があると考えられる可能性が、(市販の音楽等に比べて)高いと考えられる。

但し、音楽については留意

①市販の曲のメタバース上での演奏と著作権

メタバース上で、市販の曲を演奏する場合、歌詞の著作権と、作曲の著作権が問題となります。また、市販の曲を歌唱する場合で、他の演奏家が演奏したカラオケ等をバッグに流す場合には、演奏家が有する著作隣接権という権利も問題となります。 そして、通常、インターネットでのアップロードは公衆送信権という権利の問題となり、メタバース上での利用も同様の権利の問題となると思われます。

なお、「演奏してみた」「歌ってみた」は、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどの既存の動画サイトでも人気のカテゴリーです。これらのサイトは、JASRACやNEXTONEとの間で著作権についての包括的な許諾契約を締結し、金銭を払っていることから、JASRAC、NEXTONE管理曲であれば、ユーザーはいちいち個別の許可を取ることなく、演奏をアップロードできます。但し、既存サイトでも、著作隣接権についてはこのような包括承諾の対象となっておらず、カラオケ音源の利用には別途の問題が生じます。

これに対して、現時点では多くのメタバースサイトでは、現状、このような包括契約を締結していないと考えられ、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどとは異なった注意が必要となります。

  YouTube、ニコニコ動画、TikTok 多くのメタバースサイト
他人の曲(JASRAC、NEXTONE管理曲)の自分自身による演奏、歌唱 包括契約の対象なので個別の同意不要 包括同意契約がないので、個別の同意が必要
他人の演奏(カラオケ音源含む)の利用 個別の同意が必要 個別の同意が必要

➁踊ってみた、と明示又は事実上の承諾

既存動画サイトでは「踊ってみた」も人気を博しています。これらの振り付けは多くの場合、振付の創作者が、他のユーザーが踊った上で動画サイトで共有することを望んでいると思われ、少なくともその振付師が当初アップした動画サイトでは明示の承諾があるのではないかと思われます。

他方、他の動画サイトでダンスをアップロードすることや、アバターによるメタバース空間でのダンスについてまで承諾があるかは理論上は若干の疑義があります。多くのコミュニティ発生型のコンテンツは、インターネット上では(少なくとも営利目的でなければ)自由に使用できると考える創作者も多いと思われ、事実上の承諾がある、ないしそこまでは言えなくても事実上問題がないと考えられる場合が多いと思われますが、理論的には「踊ってみた」でも著作権の処理を考える必要がある点、留意が必要です。

なお、踊ってみたでも通常、音楽が一緒に流れると思われ、音楽の著作権処理については、上記①を念頭に置く必要があります。

③メタバースでの利用が「私的利用」といえるか、「公衆」の範囲

著作権の議論をする場合、「私的使用のため」であれば問題ない等と議論されることがあります。

しかし、「私的利用」は複製についての例外、家庭内など個人的な限られた範囲内で使用する目的で、使用する本人がコピーする場合は、著作者から許諾を得なくてもよい、という規定です。

著作権法第30条
著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

インターネットでの利用(公衆送信)や演奏などは著作権法上、複製とは異なる概念とされており、私的利用の例外は適用ありません。

なお、公衆送信権や演奏権には「私的利用」の例外はありませんが、これらはあくまで「公衆」に対する送信、「公衆」に対する演奏を問題とするため、完全に閉じたワールドで仲間内で歌う場合等には、著作権上の問題は発生しないと思われます。

[参考:著作物の例]

著作権法第10条
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

【参考:著作権の内容】

区分 支分権 著作権法 内容
著作権 複製権 21条 複製(有形的に再製すること)する権利(2条1項15号)
サーバーへのアップロードやハードディスクへのコピーといった有体物に固定することも含む
公衆送信権 23条 インターネットなどを通じて公衆に情報を送出する権利
展示権 25条 美術の著作物・未発行写真の著作物の原作品を展示する権利
譲渡権 26条の2 映画以外の著作物又はその複製物を譲渡する権利
貸与権 26条の3 映画以外の著作物又はその複製物を貸し出す権利
翻案権 27条 二次的著作物を作成する権利
  二次的著作物利用権 28条 二次的著作物について利用(上記の各権利に係る行為)する権利
著作者
人格権
同一性保持権 20条 著作物又はその題号を勝手に改変されない権利

3 ユーザーによるアバター作成と法律

メタバース上では、自分のアバターを作成しそれを用いることが多く想定されます。 アバターの作成方法及び表現方法によって発生する権利等が異なるため、項目を分けて検討します。

  作成方法及び表現方法 検討が必要な権利 結論
1 アニメ調のアバター    
(a)他者が作成した原画をモデリングする場合 著作権 – 複製権、翻案権又は公衆送信権の侵害となり得る。
– イラスト制作を依頼した場合であっても、著作権は当然に移転されないことに留意が必要。
(b)著作権で保護されない独創性のないキャラクターやロゴをモデリングする場合 商標権 – 企業のロゴやキャラクターのうち、独創性のないものは、著作物として認められない。
– 商標登録されている場合も多いが、一般的なメタバースでアバターとして利用することは、商標権の侵害に該当しない。
2 リアル調のオリジナルアバター

肖像権
名誉権

– 撮影の許可を得た写真を元にアバター作成する場合であっても、メタバース上での使用許可を得ていない場合には、肖像権侵害となり得る。
– 他者の容ぼうを用いたアバターの使用は、なりすまし行為に該当し得る。
– なりすましのもとで第三者を誹謗中傷した場合等には、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性がある。
3 制作ツールを用いて作成するアバター 著作権
肖像権
– 他者が容易に同一のアバターを作成できる制作ツールでは、著作権が発生しない場合がある。
– 上記2の作成方法と組み合わせた制作ツールもみられるため、その場合には肖像権についても検討が必要となる。

①アニメ調のアバター

自らアニメ調のオリジナルアバターを作成してメタバース上で利用する場合には問題ありませんが、他者のイラスト、キャラクター、ロゴ等をモデリングしてアバターを作成するような場合には、著作権や商標権の問題がないか検討する必要があります。

(a)他者が作成した原画をモデリングしたアバター

他者が作成したイラストやキャラクターは、一般的に著作物として保護され1、それを用いてアバターを作成した場合、複製権、翻案権、又は公衆送信権の侵害となり得ます。歌ってみたの議論と同様に、自らしか入れないメタバース上で利用した場合には私的利用の複製として許容されると考えられますが、翻案を加えて新たな著作物を作成した場合には翻案権の侵害、「オープン」なメタバースで利用した場合には公衆送信権の侵害になり得ます。

イラストレーター等に原画の作成を依頼して、それを元にしたアバターを使用する場合でも、あくまでイラストの依頼であってアバター利用の許諾までは得ていない場合、問題が生じ得ます。著作権は、制作発注や代金支払いに伴って当然に移転するものではなく、著作権の譲渡か利用許諾を得る必要があり、かつ、その譲渡や利用許諾の範囲を明確化する必要があります。

著作権の譲渡を行うと著作権そのものが譲受人へ移転します。したがって、たとえ著作者であっても譲渡後は著作物を原則として利用することができなくなります。著作権は、全部譲渡のほか、支分権や期限を区切り一部譲渡することが可能であるため、譲渡する著作権の範囲を明確化しておくことが求められます。なお全部譲渡の場合であっても二次的著作物に関する権利(著作権法27条、28条)に限っては、明記されていなければ移転しないと推定されるため注意が必要です。

著作権の利用許諾は、契約の相手方に使用を認めるに過ぎないため、著作権は相手方に移転しません。許諾を受けた者は、その契約の範囲内で著作物を使用することはできますが、他者に対して著作物を譲渡することや利用許諾をする(特約があれば利用許諾は可能)ことはできません。

したがって、他者が描いたイラストを用いてアバターを作成する場合、権利者との間で、いかなる権利の譲渡または利用許諾がなされるのか明確にしておく必要があります。

(公式サイトhttps://diverse.direct/より引用)

(b)独創性のないキャラクターやロゴをモデリングしたアバター

[参考: 著作物の要件]
①      思想または感情の表現であること
②      創作性があること
③      表現されたものであること
④      文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

企業のキャラクターやロゴマークなどで、例えば、独創性のない動物のイラストを用いたキャラクターや単純に文字や図柄を並べただけのマークでは、創作性の要件を満たさないため著作権は発生しないと考えられます。

企業が使用しているキャラクターやマークについては、著作権が認められないものであっても、商標登録がされている可能性が高く、これらをモデリングしてアバターを作成する場合、商標権を侵害することにならないか別途検討が必要です。

この点については、商標は、商品や役務を他人の商品または役務と識別し、出所の同一性を表示するために、営業上の標識を保護する目的で設けられています。商標権の発生には登録が必要ですが、色彩のみからなる商標や立体商標(ヤクルトの容器等)など広く認められています。

他方、商標登録がされているものを使用しても、それがどの業者の商品や役務であると認識できる態様により使用(商標的利用)されていない限り、商標権の侵害には該当しません(商標法26条1項6号)。
したがって、自らのアバターとしてそれらを使用した場合であっても、一般的には商標的利用があるとはいえず、商標権の侵害には該当しないと考えられます。

(公式サイトhttps://www.pandaexpress.jp/ja/https://www.lacoste.jp/より引用
なお著作権があるかについては未検討)

➁リアル調のオリジナルアバター

3Dスキャナーやカメラ等を用いて、実在する人物の外見を元にアバターを作成する方法も存在するようですが、この場合、対象人物の肖像権を侵害しないかが問題となります。

肖像権は、憲法13条の幸福追求権を根拠として認められる権利であり、「撮影されない人格的利益」と「撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」を内容とします。許可を得て他者の容ぼうを撮影した場合であっても、それを用いてアバターを作成しメタバース上で使用することの許可を得ていない場合、後者の肖像権の侵害となり得ます。

また、他者の容ぼうを用いたアバターを使用した場合、第三者からは、そのアバターを操作している人物は本人だと認識される可能性が高く、いわゆるなりすましとして問題になり得ます。なりすましのもとで第三者を誹謗中傷したような場合には、本人をそのような人だと思わせてしまう可能性があるため、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性があります。

(公式サイトhttps://coubic.com/real-avatar/831845より引用)

③制作ツールを用いて作成するアバター

プラットフォームが提供するツールを用いて、アバターの髪型や目、輪郭、口の形を選択肢から選び、アバターを作成する方法があります。その選択肢が狭く他者が容易に同じアバターを作成できる場合には、創作性の要件を満たさないため、著作権は認められないと考えられます。選択肢が無数にあり細やかな調整をすることができる場合や、外部から購入したオブジェクトやアイテムを持ち込んで作成することができる場合には、創作性の要件は満たすとも考えられますが、思想または感情の表現であるといえるかは検討が必要です。

また、実在の人物の外見を読み込み、それを編集してアバターとする、②の方法と組み合わせたような作成ツールもみられます。この方法を用いているアバター制作ツールでは、デフォルメされた外見となる場合が多いため創作性が認められない可能性が高いものの、よりリアルな容貌に近づいた場合には②で述べた肖像権についても検討することが必要です。

④今後保護される必要があると考えられる権利

これまでは、ゲーム等にてアバターを作成した場合、当該プラットフォームにおいてのみ使用できるのが一般的で、同じアバターを他のプラットフォームで使用できる例は限定的でした。しかし、メタバースの相互運用性が重視される中で、プラットフォームをまたいで使用できるアバターの必要性が高まっています。

エストニアに拠点を置き2014年に設立されたWolf3Dが開発したアバター作成システム「Ready Player Me」では、複数のVRゲームやプラットフォームで同一のアバターを使用できる”ハブ”システムが実装されており、2021年12月末の時点で、このアバター作成システムを採用している企業は1000社以上にのぼります。

メタバースの相互運用性が高まり、現実世界と同じようにメタバース上で他社と取引を行ったり金銭を稼ぐことが当たり前になった世界においては、現実世界の外見と同じように、アバターそれ自体に肖像権等に類似する権利が必要となり得ると考えられます。

他方、アバターは外見を自由に変更することや、複数のアバターを状況により使い分けることができるため、現実の人物と同様の権利をアバターに認める場合、どのような案件でアバターを保護すべきか明確ではなく、別途検討が必要です。

  (公式サイトhttps://readyplayer.me/より引用)

4 ユーザーによるワールドの作成と法律

従来のゲーム等では、ユーザーは予め用意されたコンテンツを利用するのが一般的でしたが、メタバースにおいてはユーザーがワールドなどのコンテンツを作成し、そのワールドに他のユーザーを来訪させる等ができるものが多くあります。以下、そのようなユーザーが作成したコンテンツ(User Generated Contents、以下「UGC」)に係る権利と取扱いについて検討します。

UGCについては、著作物の要件を満たした場合、著作権は創作者に帰属するのが原則です(著作権法17条1項)。しかし、ワールドの著作権を創作者に帰属させた場合、(i)UGCのプラットフォーマー及び他のユーザーへの公開使用、(ii)プラットフォーマー及びユーザーが必要な範囲で行うUGCの複製や二次的創作物の制作等、(iii)プラットフォーマーによるサービスの維持、宣伝など必要な範囲で行うUGCの無償利用等、プラットフォーマーがサービスの提供を行う上で必要とする行為が、ワールド作成のユーザーにより制限又は禁止することが可能となります。

他方、ワールドなどのUGCの著作権を創作者に一切帰属させない旨を利用規約として合意を求める場合には、ユーザーの創作意欲や参加意欲を減退させたり、自らの知的財産をワールド上で使用することを避ける要因になると考えられます。

そのため、UGCについてプラットフォームがどのような権限を必要とするのかを検討したうえで、ユーザーの権利保護とプラットフォーマーの運営上の必要性の調節を志向することが望ましいと考えられます。

   (公式サイトhttps://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.htmlより引用)

5 プラットフォーマーの対応

上記のようなユーザーの表現行為や創作活動、とりわけ第三者の権利を侵害し得る行為について、サービスを提供するプラットフォーマーはどのように対応すべきかを検討します。

プラットフォーマーは、ユーザーとの合意事項として利用規約を定めているが、一般的であり、当該利用規約に基づく責任を負います。利用規定に基づいて対応を行うのが通常と考えられます。

もっとも、自由度の高いメタバースにおいては、上記で検討したような一般的なインターネットサービスでは想定されていなかった権利侵害行為が生じ得ます。そのため、利用規約に基づく対応をスムーズに行うためには、プラットフォーマーにおいて、予めユーザーの属性やサービスの内容を考慮して、トラブルになり得る表現行為や創作活動を洗い出しておく必要があります。ただしユーザーの自由度を過度に制約することの無いよう、専門家にも相談の上、それぞれ法的にどのように問題になるのかを検討しておくことが望ましいと考えられます。そのうえで、権利侵害行為や違法行為に該当するものについては明確に禁止・制限し、さらに該当規約に違反した場合にプラットフォーマーがどのような措置をとることができるのかについても規定することを検討する必要があります。

他方で、UGCのようなユーザーの創作活動を促進させたい場合には、利用規約で一律に権利侵害罪行為を制限するものではなく、ユーザー間で簡易な利用許諾や権利譲渡の仕組みを提供することなども考えられます。

なお利用規約でカバーしきれないトラブルが生じた場合には、プラットフォーマーは、プロバイダー責任制限法に基づく責任を負う可能性があると考えられます。プロバイダ責任制限法25では、例えば、下記の要件に基づく損害賠償や発信者情報開示などの責任があり留意が必要です。

  要件
損害賠償 (i) 情報の流通による権利侵害
(ii) 送信を防止することが技術的に可能
(iii)権利侵害を知っていたときなど
発信者情報開示 (i) 情報の流通による権利侵害が明らか
(ii)発信者情報が損害賠償のために必要その他正当な理由

同法の要件該当性の判断をスムーズに行うためにも、上述した該当プラットフォーム特有の権利侵害公の検討をしておくことがコンプライアンス上有意義であると考えられます。

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

当事務所では、現在、メタバースに関する各種のお問い合わせを頂いております。

その中には重複するご質問もあり、本連載ではメタバースで問題となる主要な法的問題をできるだけ分かりやすく、連載していく予定です。

メタバースBlog連載の予定
(1)  メタバース×法律 I – メタバースとは何か
(2)  メタバース×法律 II – ユーザーの演奏や歌唱、ユーザー作成コンテンツ(ワールドやアバター)と法律 [https://innovationlaw.jp/metaverse2/]
(3)  メタバース×法律 III – メタバース上の取引に関する法律 – 所有権、支払い、NFT規制、労働など [https://innovationlaw.jp/metaverse3/]
(4)  メタバース×法律 IV – メタバース上の嫌がらせ、不法行為、名誉棄損
その他の当事務所のメタバース関係のBlog等
(1)  都市再現型メタバースにおける知的財産権の整理(2022.05.13)
https://innovationlaw.jp/metaverse-ip/
(2)  クリプト業界のためのメタバース入門(2022.05.30)
https://www.slideshare.net/SoSaito1

また、NFTに関する記事も多数アップしていますので、メタバース上でNFTを利用する場合、当事務所のその他の記事をご参照下さい。

1 メタバースとは何か

メタバースの定義は論者により異なりますが、多くのイメージとしてはVR(Virtual Reality)などの機材を使い、3Dの仮想現実空間で遊び、交流をする等のイメージになるものと思われます。最終的には、レディ・プレイヤー1、竜とそばかすの姫、Sword Art Onlineなどの世界感を目指すイメージです。しかし、メタバースはこのような用途に限られるのではなく、他にも産業用のメタバース、物理拡張メタバースなど様々なものが存在します。

更にVRなどを利用することは必須ではなく、Fortnite、Robotex、どうぶつの森などの3Dないし2Dのゲームもメタバースと考える論者も存在し、どのような文脈でメタバースという用語が使われるのかは留意が必要です。

             (公式ツイッターサイトhttps://twitter.com/sao_animeより)

例えば、一般社団法人Metaverse Japanでは、メタバースについて下記のように考えていると思われ、参考になります。

メタバースとは何か
①    メタバースという言葉自体は非常に広範に使われており、それぞれの業界がそれぞれの理解でメタバースを名乗っているのが現状
②    今後テクノロジーや時代の変化の中でメタバースという概念が収斂していくものと想定
③    メタバースとは「仮想現実空間を利用し、ユーザー同士のコミュニケーションや現実さながらのライフスタイルを可能にする世界であると同時に、物理世界を拡張する世界」という大きな枠組み
④   10年後には多くのアプリがVRやARにネイティブ対応可していくことを想定しているので、現時点でXRに対応しているか否かは最重要事項ではない
出典: Mogura VR編集部「「日本のメタバース関連団体は「メタバース」をどう捉えているのか?各団体に問う」から一般社団法人Metaverse Japanの回答(以下「Metaverse Japan回答」という。)を参考に記載 https://www.moguravr.com/metaverse-related-organizations-questionnaire

2 メタバースの具体例

上述したMetaverse Japan回答によると、一般社団法人Metaverse Japanではメタバースを下記の6つに分類していると考えられ、参考になります。

  分類 どういうもの? 具体的例
1 産業用メタバース 製造業や各種シュミレーション、XRミーティングを活かした共創ツールといった、産業用途のメタバース NVIDIA社の提唱するomniverseやMicrosoft社の提唱するMicrosoft Meshのように
2 物理拡張メタバース 人間とロボットの共通認識を持つデジタル空間としてのメタバースや、ARを活用したメタバース。リアル拡張までを概念として含む  
3 バーチャルSNS ユーザー同士の交流や関係性を拡張的に構築する場としてのメタバース
アバターやワールド等を一般ユーザーが製作できるようSDKが公開されているものが多く、バーチャルネイティブなカルチャーを発信するユーザーコミュニティも発展
Cluster
4 Web3メタバース Web3要素と紐づいたメタバース
NFTや仮想通貨が発行されることが多い
Sandbox、Othersid、Decentraland、Oncyber、RTFKT、HighStreet
5 IP主導メタバース(エンターテイメントメタバース) ディズニーなど強力なIPが主導するIP完結メタバース
東京ガールズコレクションなどイベント単位のメタバース
ディズニーメタバース、ガンダムメタバース、東京ゲームショウ、東京ガールズコレクションメタバース
6 ソーシャルプラットフォーム型のゲーム 事実上の次世代ソーシャルプラットフォームとして稼働しているゲーム
注:これらのゲームをメタバースに含めるかは様々な議論があるが、これらの動向を全く見ないでメタバースを語ることは、大きな時代の変化を見過ごすリスクが高いので、Metaverse JapanではWGのメイン要素ではないが取り扱う、としている。

Roblox、Fortnite、どうぶつの森

出典        上記Metaverse Japan回答を参考に弊事務所で加筆・修正

(Microsoft公式サイトhttps://docs.microsoft.com/ja-jp/mesh/overviewより)                           (Cluster公式サイトhttps://cluster.mu/より)
(The Sandbox公式サイトhttp://sandbox.game/jp/より)                             (バーチャルTGC公式サイトhttps://virtualtgc.girlswalker.com/より)
(Epic Game公式サイトhttps://www.epicgames.com/fortnite/ja/homeより) (あつまれどうぶつの森公式サイトhttps://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.htmlより)

3 メタバースとプレイヤー

メタバースには幅広いプレイヤーが参加しています。例えば、以下のようなメンバーが参加しています。

(参考) メタバースマーケットマップ

(参考) メタバースカオスマップ

           (Diarkisサイトhttps://multiplayer.diarkis.io/metaverse-caosmapより)

4 メタバースとNFTとの関係

メタバースでは、NFT(Non Fungible Token)と呼ばれるトークンが使用されることがあります。NFTを利用することにより、メタバース内での財産的価値を把握したり、移転をしたり等ができることから、メタバースとNFTは親和的と考えられます。

しかし、NFTの利用は必須ではなく、財産的価値の購入や移転の概念がないメタバースも多数存在しています。産業用メタバース等、財産的価値の購入や移転は必要ないことが多いでしょう。また財産的価値の購入や移転があっても、Web2型のメタバース、例えば企業1社が運営し、運営する1つのメタバース世界で完結する仕組みであれば、わざわざブロックチェーン技術を使ったりNFTを使ったりする必要はありません。

 上述したMetaverse Japan回答では「Web3の要素と絡んだメタバースにおいてNFTは重要ですが、Web3要素のないWeb2型の企業が運営するメタバースのほとんどでは、今後もNFTは関連づけられません。数年の間はWeb3型のメタバースとWeb2型のメタバースは各々別々の進化をたどる期間が続くと予想しております。」としています。

このようにメタバースとNFTは一致するものではありませんが、NFTが重要な要素であること自体は間違いないと思われるため、本連載では別途、メタバース上のNFTの利用の法律関係について記載する予定です。

各種のメタバースと NFT の使用の有無

  分類 事例 財産の購入の例
1 アイテムの購入、移転などがないメタバース 多くの産業用メタバース、物理拡張メタバース なし
 2 アイテムの購入、移転などがあるが、1社で完結するメタバース(Web2型メタバース) 多くのゲーム、多くのIP主導型メタバース、多くのソーシャル型メタバース 例えばFortniteではV-bucksというゲーム内通貨を購入し、スキン(コスチューム)を購入できる。
クラスターではアバターをクレジットカード、アプリ課金で購入できる。
3 他の世界との間でアイテムの移転等を考えるメタバース(Web3型メタバース) Sandbox、Decentralandなど NFT化されたランド、武器などを、ETHやDOTなどの暗号資産で購入できる

留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。

2021年6月18日に公表された金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次報告(以下「審議会報告」といいます。)において、個人の特定投資家の要件の弾力化等について提言(審議会報告3-5頁)が行われたことを受けて、2022年6月29日に、個人の特定投資家への移行の要件等を見直す、金融商品取引業等に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(内閣府令第42号、以下「改正府令」といいます。)(かかる府令による改正後の、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)を「改正後業府令」といい、改正前のものを「改正前業府令」といいます。)が公布され、同年7月1日から施行されました。改正府令による改正後は、特定投資家に移行できる個人投資家の範囲が拡大されることになります。また、時期を同じくして施行される、日本証券業協会の「店頭有価証券等の特定投資家に関する投資勧誘等に関する規則」により、特定投資家向け非上場株式等の私募・私売り出しが可能となることから、ベンチャー企業の株式等非上場株式のセカンダリーマーケットが創出・拡大されることが一定期待されているところです。

以下、特定投資家の範囲に関する改正後業府令の内容等を紹介します。

1. 特定投資家に移行可能な個人投資家の要件に関する改正

特定投資家に移行可能な個人投資家の要件を定めるにあたり、一定の金融リテラシーやリスク耐久力を有することが推定される要素を勘案することが必要と考えられますが、改正前業府令では、一定の金融リテラシーやリスク耐久力を有することを推定する要素として、純資産額、投資性金融資産額及び取引経験しか掲げられていません。しかしながら、審議会報告によれば、金融リテラシーを推定しうる要素は、上記のほか、年収、職業経験、保有資格、取引頻度といった要素もあります(審議会報告4頁)。そこで、改正後業府令では、これらの要素も取り入れて、特定投資家に移行可能な個人投資家の範囲を以下の通りに拡大しています(改正後業府令第62条第1項各号)。

(1)(イ)純資産3億円以上+(ロ)投資性金融資産(以下の(i)から(vii)の資産(改正業府令第62条第1項第1号ロ(1)から(7)))3億円以上+(ハ)金融商品取引契約締結日から1年経過

  1. 有価証券((v)及び(vi)のうち特例事業者と締結したものを除きます。)
  2. デリバティブ取引に係る権利
  3. 特定貯金等及び特定預金等
  4. 特定共済契約又は特定保険契約に基づく保険金、共済金、返戻金その他の給付金に係る権利
  5. 特定信託契約に係る信託受益権
  6. 不動産特定共同事契約に基づく権利
  7. 商品市場における取引、外国商品市場取引又は店頭商品デリバティブ取引に係る権利

(2)(イ)純資産5億円以上or投資性金融資産5億円以上or 前年の収入金額1億円以上+(ロ)金融商品取引契約締結日から1年経過

(3)(イ)承諾日前1年間における以下の(i)から(vi)の契約の1月あたりの平均的な契約件数が4件以上+(ロ)純資産3億円以上or投資性金融資産3億円以上+(ハ)金融商品取引契約締結日から1年経過

  1. 有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引に係る契約((iv)及び(v)を除きます。)
  2. 特定貯金等契約及び特定預金等契約
  3. 特定共済契約及び特定保険契約
  4. 特定信託契約
  5. 不動産特定共同事業契約
  6. 商品市場における取引、外国商品市場取引又は店頭商品デリバティブ取引に係る契約

(4)(イ)特定の知識経験を有する者(以下(i)から(iv)のいずれかに該当する者(改正後業府令第62条第3項))+(ロ)純資産1億円以上or投資性金融資産1億円以上or前年の収入金額1000万円以上+(ハ)金融商品取引契約締結日から1年経過

  1. 金融商品取引業、銀行業、保険業、信託業その他の金融業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上になる者
  2. 大学の学部、専攻科又は大学院における経済学又は経営学に属する科目の教授、准教授その他の教員(専ら当該科目に関する研究を職務とする者を含む。)の職にあった期間が通算して1年以上になる者
  3. 次の(a)から(d)のいずれかに該当する者であって、その実務に従事した期間が通算して1年以上になる者
      (a)日本証券アナリスト協会認定アナリストの資格を有する者
      (b)一種外務員又は一種外務員となる資格を有する者
      (c)1級又は2級のファイナンシャル・プランニング技能検定合格者
      (d)中小企業診断士
  4. 経営コンサルタント業に係る業務に従事した期間が通算して1年以上になる者その他の者であって、上記(i)から(iii)に掲げる者と同等以上の知識及び経験を有する者

(1)の要件は、基本的に現行の移行要件(改正前業府令第62条)と同様ですが、(ハ)の点について改正がなされております。

すなわち、改正前業府令では、特定の金融商品取引業者との間の取引が基準となっていることから、たとえ他の金融商品取引業者との間で1年以上の取引経験があり、すでに当該他の金融商品取引業者との間では特定投資家に移行していたとしても、新たに取引する別の金融商品取引業者との関係では1年経過しないと特定投資家に移行できませんでした。しかしながら、取引経験については投資家ベースで評価すべきと考えられることから、他社での取引経験も勘案できるようにすべきとの審議会報告の提言(審議会報告5頁)を受けて、改正後業府令では当該申出をした金融商品取引業者等以外の金融商品取引業者等との取引経験の期間も合算することができるようになりました(なお、(2)(ロ)、(3)(ハ)及び(4)(ハ)も同様です。)。

また、(3)を充足することにより特定投資家とみなされることとなった申出者については、(3)の要件を充足しないこととなった場合でも、その知識及び経験に照らして適当である場合は、(3)に該当するものとみなすことが可能とされています(改正後業府令第62条第2項)。

 

 

2. 投資家の拡大の可能性

上記1の改正で特定投資家への移行可能な個人投資家の範囲が拡大することにより、個人投資家による投資、とりわけ、ベンチャー企業等の非上場企業への投資は広がることになるのでしょうか。以下、資金調達が必要な企業(以下「資金調達企業」といいます。)自身が勧誘を行う場合と、証券会社が行う場合とに分けて検討します。

(1)資金調達企業による勧誘

資金調達企業が株式の自己募集(自己株式の処分を含みます。)を行う場合、勧誘の相手が特定投資家のみであったとしても、50名以上となる場合には、適格機関投資家のみを相手方とする場合を除き、募集に該当してしまうため、有価証券報告書の提出が必要となります(金融商品取引法第4条第1項)。ベンチャー企業の場合、同種の株式発行の際に50名以上の投資家に勧誘を行うことはあまり想定されていないのではないかと思われますが、多数の個人投資家から資金を調達したいという場合に、50名という基準がネックの1つとなる可能性は考えられますので、選択肢を広げることにはつながるものと言えます。

なお、上記の勧誘対象者の人数は、従来は過去6か月間で通算することになっていましたが、2022年1月29日から施行された金融商品取引法施行令の一部を改正する政令により、3か月に短縮されています(改正後の金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号)第1条の6)。

(2)証券会社による勧誘

日本証券業協会(以下「日証協」といいます。)は、協会員(証券会社)が非上場株式の勧誘を行うことを原則として禁止していましたが、2020年に店頭有価証券に関する規則(以下「店頭有価証券規則」といいます。)を改正して(同年12月1日施行)、自らの責任において企業価値評価等を行う能力を有することを協会員が認めた特定投資家に対する非上場株式の少人数向け勧誘等を行うことが可能となりました(店頭有価証券規則第4条の2)。ここでいう少人数向け勧誘等には、新規発行証券の取得勧誘と、既発行証券の取得勧誘、いわゆるプライマリーとセカンダリーの両方が含まれます。

しかしながら、一般投資家から移行した個人の特定投資家は、この規定により勧誘できる特定投資家には含まれませんので(店頭有価証券規則第4条の2第1項)、一般投資家から特定投資家に移行した個人投資家が企業価値評価等を行う能力を有していたとしても、証券会社は、この規定に基づいて、当該個人投資家に投資勧誘を行うことはできません。そのため、この規定は、個人投資家による投資拡大にはあまりつながらないものと思われます。

但し、日証協により、2022年4月1日に「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」(以下「特定投資家勧誘規則」といいます。)が制定され(同年7月1日施行)、特定投資家向け私募制度の整備等が行われることになりました。特定投資家勧誘規則では、特定証券情報(店頭有価証券の場合、証券情報として、新規発行有価証券等(発行数、内容等)、取得勧誘方法及び条件、手取金の使途、売付け有価証券(有価証券の種類、売付け価額の総額等)、売付の条件、事業等のリスク等、企業情報として、企業の概況、発行者の状況、経理の状況、株主の状況等。特定投資家勧誘規則第6条第3項、様式1)が投資勧誘の相手方に提供又は公表26されている場合は、特定投資家に移行した個人投資家も投資勧誘の対象となります(上述の場合と同様、プライマリーとセカンダリーの両方が含まれます。)。実際上、証券会社(第一種金融商品取引業者)が、非上場株式を取り扱うというビジネス判断をするか疑義もありますが、特定投資家勧誘規則は、前記1の改正後業府令とあいまって、個人投資家による投資の拡大につながる可能性はあるものと思われます。