Corporate |
コーポレート |
企業法務 |
株主総会 |
従来、株主総会は、株主や取締役及び監査役等が物理的な場所に集まって開催されることが一般的でしたが、コロナ禍という状況もあり、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席又は参加(以下、インターネット等の手段を用いての出席を「バーチャル出席」、インターネット等の手段を用いての参加を「バーチャル参加」といいます。)が可能な、いわゆるバーチャル株主総会の開催も増えてきました。また、経済産業省が、2020年2月26日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」といいます。)を、2021年2月3日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(以下「実施事例集」といいます。)を、それぞれ公表し、物理的な場所での株主総会(以下「リアル株主総会」といいます。)の開催に加えてバーチャル出席又はバーチャル参加を可能とするいわゆるハイブリッド型株主総会について一定の指針が示されたことや、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号、以下「改正法」といいます。)が成立し、2021年6月16日に公布と同時に、上場企業を対象に、リアル株主総会の開催を要しない、いわゆるバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする特例に係る規定が施行されたこともあり、各種バーチャル株主総会の実例もある程度出揃ってきたことから、各種バーチャル株主総会について、まとめました。
バーチャル株主総会には、(i)リアル株主総会の開催がなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席する「バーチャルオンリー株主総会」と、(ii)リアル株主総会の開催に加えて、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席又は参加できる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」とがあり、(ii)には①株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に出席できる「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」と、②株主総会への出席とはならないが、株主がインターネット等の手段を用いてリアル株主総会の審議等を確認・傍聴することができる「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」とがあります1)。
現行の会社法(平成17年法律第86号、以下「会社法」といいます。)では、株主総会の招集の際に株主総会の場所を定める必要があることから(会社法第298条第1項第1号)、バーチャルオンリー株主総会の開催は認められないと解されていますが2)、改正法による産業競争力強化法(平成25年法律第98号、以下「産競法」といいます。)の改正により、上場会社については、会社法の特例として、一定の要件を満たす場合にはバーチャルオンリー株主総会の開催が認められることになりました。 これに対し、ハイブリッド型株主総会は現行の会社法の下でも開催が可能と解されています3)。
バーチャルオンリー株主総会を開催するための要件は、以下のi.からiv.のとおりです(産競法第66条第1項及び第2項、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令(令和3年法務省・経済産業省令第1号。以下「本省令」といいます。)第1条及び第2条)。
株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定め(以下「本規定」といいます。)があること。
具体的には以下のような規定を置くことになります 11)。本規定は、株主総会の招集決定時点及び当該総会の開催当日時点の双方の時点で定款に定められていることが必要とされています 12)。
(種類株式発行会社でない場合)
「当会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」
(種類株式発行会社の場合)
「当会社は、株主総会(種類株主総会を含みます。)を場所の定めのない株主総会(種類株主総会にあっては、場所の定めのない種類株主総会)とすることができる。」
なお、改正法の施行日から2年を経過する日までの間においては、上記ii.の確認を受けた場合には、定款変更を行わなくても、本規定があるものとみなすことができます(改正法附則第3条第1項)。但し、本規定を入れるための定款変更についてはバーチャルオンリー株主総会で行うことはできません(改正法附則第3条2項)。
バーチャルオンリー株主総会を招集する場合、会社法に定める事項(会社法第298条第1項、但し、株主総会の場所を除く。)に加えて、以下の事項を決定することが必要となります(産競法第66条第2項による読替後の会社法第298条第1項、本省令第3条)。
バーチャルオンリー株主総会の招集通知には、会社法に定める事項(会社法第299条第4項、但し、株主総会の場所の記載を除きます。)に加えて、以下の事項の記載が必要とされています(産競法第66条第2項による読替後の会社法第299条第4項、本省令4条)。
上記(2)の決定事項
株主総会の議事における情報の送受信のために必要な事項(例、URL、パスワード等)
招集決定時における通信障害に関する対策についての方針及びインターネット使用に支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針の内容の概要
バーチャルオンリー株主総会の議事録では、リアル株主総会の議事録の記載事項のうち、株主総会の場所の記載に代えて、株主総会を場所の定めのない株主総会とした旨及びその議事における情報の送受信に用いた通信の方法(上記省令要件のii.b.及びiii.の方針に基づく対応の概要を含みます。)の記載が必要とされています(本省令第5条第3項)。
上記1及び2(1)iのとおり、産競法に基づきバーチャルオンリー株主総会の開催が認められるのは上場会社に限られることから、現行法下で非上場会社が開催できるバーチャル株主総会は、ハイブリッド型のものに限られます。ハイブリッド型株主総会には、上記1のとおり、バーチャル出席が可能か否かにより、ハイブリッド出席型株主総会とハイブリッド参加型株主総会とに分かれます。
ハイブリッド参加型株主総会はバーチャル参加をする株主(以下「バーチャル参加株主」といいます。)は株主総会に出席したと取り扱われないことから、株主総会当日にインターネット等の手段を用いて議決権の行使をすることはできません。したがって、当該株主が議決権を行使するためには、リアル株主総会に自ら出席するか、リアル株主総会に出席することができない場合は、書面若しくは電磁的方法により事前に議決権を行使するか(会社法第311条及び第312条)14)、又は代理人を通じて議決権を行使するか(会社法第310条)のいずれかの方法によることになります。
また、ハイブリッド参加型株主総会は現行の会社法のもとで開催可能な株主総会の形態であることから、招集通知の法定の記載事項については、リアル株主総会のみを開催する場合と異なるところはありませんが、インターネット等の手段を用いての参加を認めることから、以下のような事項について、招集通知に記載する等して事前に周知することが望ましいとされています15)。
ハイブリッド出席型株主総会では、上記(1)と異なり、バーチャル出席をする株主(以下「バーチャル出席株主」といいます。)は株主総会に出席していると取り扱われ、株主総会当日にインターネット等の手段を用いて議決権を行使することが可能であることから(なお、事前に書面又は電磁的方法により議決権行使をしている場合の事前に行使した議決権の効力の取扱いについては、後記4(4)参照。)、前提として、リアル株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要と解されています18)。
また、リアル株主総会に加えてインターネット等の手段を用いての出席が可能であることや、後述するようにバーチャル出席の場合には一定の制限等を加えることが可能であること等から、以下のような事項について、招集通知に記載する等して事前に周知することが望ましいとされています19)。
以下、バーチャル株主総会に関する主な論点、留意点等について、みていきます。
出席型及びバーチャルオンリー株主総会においては、バーチャル出席を行う株主は出席として取り扱われることから、リアル株主総会と同様、本人確認が必要になります。具体的な本人確認方法としては、以下のような方法が挙げられます 26)。
会社法上、株主は代理人により議決権を行使させることが認められています(会社法第310条)。しかしながら、ハイブリッド出席型株主総会については、代理人によるバーチャル出席を認める必要性と、代理人によるバーチャル出席を認めた場合の事務処理やコスト等の負担を比較して、代理人の出席をリアル株主総会に限定することも妥当と考えられてます(但し、かかる制限を行う場合は、あらかじめその旨株主に招集通知等で通知することが必要とされています。)22)。
これに対し、上記のような事情がないバーチャルオンリー株主総会については、会社法の原則通り、代理出席を認める必要があると考えられています27。
会社法上、株主は株主総会において動議を提出し(会社法第304条等)、質問を行うこと(会社法第314条)が認められています。この点、各バーチャル株主総会において出席と取り扱われるか、リアル株主総会が開催されるか等により、取扱いが異なってくると解されています。以下、各種のバーチャル株主総会ごとに検討します。
バーチャルオンリー株主総会
ⅱと異なり、バーチャルオンリー株主総会については、株主からの質問や動議を受け付けないという取扱いを許容する規定がないことから、会社法の原則通り、動議や質問権を受け付けないとすることは許されないとされています34)。
もっとも、動議や質問の文字数や回数を制限したりすること等は許される余地があると考えられます35)。
ハイブリッド出席型及びバーチャルオンリー株主総会では、株主が、事前に書面又は電磁的方法で議決権を行使しながら、バーチャル株主総会に出席するという可能性が考えられます36)。その場合、事前に行われた議決権の効力をどのように取り扱うべきかが問題となります。
この点、現行法の解釈からは、ログインした段階で事前の議決権行使の効力を失わせるとすることも、バーチャル株主総会で議決権の行使をした時点で失わせるとすることもどちらも可能と解されています37)。
上記のいずれの取扱いを採用するとしても、当該取扱を招集通知に記載する等してあらかじめ株主に通知しておくことが必要と解されています38)。
バーチャル株主総会では、インターネット等の通信手段を使用することから、通信障害(サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合)により株主が株主総会にアクセスできなくなる事態が生じることが考えられます。かかる通信障害が株主総会の決議取消事由(会社法第831条第1項)又は決議不成立事由(会社法第830条第1項)となるかが問題となります。
まず、株主側の問題に起因する不具合については、いずれのバーチャル株主総会でも、一般的に決議取消事由には該当しないと考えられます39)。
これに対し、会社側の問題に起因する不具合の場合、まず、ハイブリッド参加型株主総会に関しては、バーチャル参加は株主総会への出席と取り扱われず、コメント等が決議に影響を及ぼすとも考えにくいことから、通信障害が生じた場合でも、決議取消又は不成立となる現実的なリスクはないと考えられます40)。ハイブリッド出席型株主総会については、リアル株主総会への出席という選択肢があることから、会社が通信障害防止のために合理的な対策を取っており、通信障害のリスクについて事前に株主に告知していたような場合は決議取消事由には該当しないとの解釈も可能と考えられます21)。なお、個別の事情等に応じて検討する必要があるものの、具体的な対策としては、事前の議決権行使を促すことのほか、以下のようなものが考えられます41)。
・一般に利用可能なライブ配信サービスやウェブ会議ツールの利用、又は第三者が提供する株主総会専門ステムのサービスの利用
・インターネットの代替手段や電話会議等のバックアップ手段の確保
株主総会当日に向けた備え
・事前の通信テスト等の実施ガイド
・通信障害が発生した場合を想定した対処シナリオの準備
また、バーチャルオンリー株主総会については、リアル株主総会への出席という選択肢はないものの、通信障害の発生が常に決議取消事由や決議不存在事由に該当するとは限らず、通信障害が生じたタイミングや通信障害が議事に与える影響等に鑑みて判断されることになると考えられます(例えば、採決のタイミングで通信障害により大多数の株主の議決権行使が妨げられたような場合は決議不存在と評価される可能性があると考えられます。)42)。
バーチャル株主総会では株主総会の映像等を配信することがあることから、株主の肖像権やプライバシー権に配慮することが必要となります。この点、株主に限定した配信の場合は肖像権等の問題は生じにくいと考えられますが、肖像権やプライバシー権等に係る紛争のリスクを抑えるため、株主が映りこまないようにする等撮影方法を工夫するほか、以下のような対応を取り、あらかじめこれらの点を招集通知等で通知しておくことが考えられます43)。
バーチャル株主総会というと動画配信等映像を含むものを想定しがちですが、いずれのタイプのバーチャル株主総会も、電話会議等を通じた、音声のみによる方法で行うことも許容されていると考えられています45)。但し、バーチャルオンリー株主総会及びハイブリッド出席型については、音声のみの場合も情報伝達の双方向性及び即時性が確保されていることが必要とされています。
なお、実施ガイドでは、無効票を減らす観点から、ログイン時には失効させず、株主総会当日に実際に議決権の行使があった場合に失効させることを提案していますが(実施ガイド18頁)、Q&Aではいずれの方法も列挙しており(Q&A4-6)、ログイン時に失効させることを否定する趣旨ではないと思われます。なお、実際にバーチャルオンリー株主総会を開催した会社の招集通知によれば、3社とも実際に議決権の行使があった場合に失効させる取扱いとしたようです。また、ハイブリッド出席型の実例でも、上記の実施ガイドに沿った取扱い(実際に議決権の行使があった場合に失効)を採用したものが多いようですが、ログイン時点で失効させるとした会社もあるようです(実施事例集27頁、尾崎・三菱UFJ信託銀行法人コンサルティング部編・前掲注9)42-43頁)。