2024年1月10日に米国で現物ビットコインETF11銘柄の承認がなされました。
暗号資産ETFの承認により、今後、大量の機関投資家の資金が入ってくる可能性等が指摘されていますが、海外の暗号資産ETFが本邦で売却された場合等、源泉分離課税20%となるのでは、等と言われることもあります(なお、海外のETFを日本の証券会社が販売している事例は多数あり、多くの場合、源泉分離課税20%の対象となっています)。
当職らは、そのような議論も受け、①暗号資産ETFに対する分離課税適用の有無、②暗号資産ETFの新NISA銘柄化の可否、③第一種金商業者による暗号資産ETF取扱いの可否、を下記及び別紙のとおり、検討しています。
結論としては、以下のようになると思われますが、法令上の解釈には幅がありえ、今後の更なる検討が必要になります。
現状、日本においては直接的なメリットは少ないかもしれませんが、とはいえ、暗号資産ETFの米国上場は大きなイベントであり、今後、日本でも議論を行う必要性があると思い、ご参考までに本稿を記載したものです。
本稿は2024年1月11日第1稿掲載。1月16日(第1.1稿)、2月8日(第1.2稿)にアップデート版掲載。
結論 I 暗号資産ETFに対する分離課税適用の有無 ・暗号資産ETFは⑴投資信託型のETFの場合には、暗号資産が投信法上の「特定資産」に該当しないことから、議論はありうるものの外国投資信託には該当しないと思われ、分離課税の対象となる「上場株式等に係る譲渡所得等」(租税特別措置法37条の11)には該当せず、総合課税の対象と理解しうる。 ・これに対し、⑵受益証券発行信託型のETFの場合には、「特定受益証券発行信託」(法人税法2条29号)を充たすことによって、分離課税の対象となりうる。但し、海外で発行されたETFについて、この条件を満たすことが可能か検討が必要となる。 ・米国籍暗号資産ETFは、合同運用信託(法人税法第2条第26号)の要件の解釈次第ではあるものの、法人課税信託(法人税法第2条第29号の2)の対象となる可能性がある。仮に法人課税信託となった場合、受益者の課税は分離課税になる。なお、受託者段階でも日本の法人税の課税対象となるが、受託者に国内源泉所得が存在しなければ非課税という結論になると思われる。 ・暗号資産ETFのメリットを述べる上で、詳細な分析をせずに、暗号資産ETFは当然に分離課税の対象という認識が示されているケースも見られる。しかし、この認識は必ずしも正しくないと思われる。 ・なお、海外で発行されたETFに対して国内投資信託が投資をするスキーム(マザーファンドスキーム)や、いわゆる「ETF-JDR」として国内で上場するスキームは、いずれも現行法制上困難と思われ、かつ、税務的にも現状はメリットがないように思われる。 ・現物暗号資産および暗号資産デリバティブは総合課税の対象として認識されており、現在、各種団体が分離課税の対象とするよう金融庁への要望を出している。現時点では、暗号資産ETFはここでの分離課税の議論の射程外である。今後、暗号資産現物もETFも分離課税とすることが望ましい(ETFについては国内での組成も許容する)と思われる。 II 暗号資産ETFの新NISA銘柄化の可否 ・つみたて投資枠において暗号資産ETFを対象銘柄とすることは不可。 ・成長投資枠において暗号資産ETFを対象銘柄とすることは、少なくとも現行法制下においては排除されていないと思われる。もっとも、現行法制下においてもレバレッジ銘柄が除外されているように、ハイリスクなものは排除するというのがNISAのスタンス。政令・告示によって暗号資産ETFは排除される可能性もあるか。 III 第一種金商業者による暗号資産ETF取扱いの可否 ・第一種金商業者による暗号資産ETFの取扱いは、現行法上可能。但し、業務方法書に記載があるかのチェックは必要となる。 ・暗号資産は投信法上の「特定資産」に含まれておらず、外国籍の暗号資産ETFは、現行法制上は外国投資信託には該当しないものと思われる。 ・暗号資産ETFが外国籍の受益証券発行信託に該当する場合、日証協の「外国証券の取引に関する規則」の趣旨を踏まえて取扱うのではと思われる。 ・募集・売出に該当する場合には有価証券届出書の提出が必要となる。委託取引の場合には通常募集にも売出にも該当せず同届出は必要ない。なお、委託取引等で保有者が500人以上に至った場合でも有価証券報告書の提出は必要ない。 |
留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・当職らは暗号資産ETFへの投資を勧めるものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律及び税務アドバイスが必要な場合には各人の弁護士や税理士にご相談下さい。