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1 ジェネレーティブAIとは

ジェネレーティブAI(Generative AI)とは、画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなど様々なコンテンツを自動的に生成することのできる人工知能のことを指します。
機械学習により大量のデータを学習した学習モデルが、人間が作成するような絵や音楽、文章などを簡単に生成することができます。
2022年頃から、MidjourneyやStable Diffuisionなど画像生成AIが急速に市場にて普及し始め、2023年初頭から、ChatGPTやBingなど自然言語処理に特化したジェネレーティブAIが急速に普及し始めています1

https://stablediffusionweb.com/ に、「A bored ape in Tokyo imperial palace with a high school girl」「Anime hero with Samurai cloth who fights with huge Indian elephant」という文言を入れて作成

ジェネレーティブAIの製品例としては例えば以下のような例があります。

ジェネレーティブAIの製品例

製品名 分野 製品説明
Midjourney,
Stable Diffusion,
DALL·Eなど
画像生成 テキストでの指示に基づき、リアル/芸術的な画像を生成するAI
Artbreeder 画像生成 アップロードした画像や複数の画像から、他の新しい画像を生成するAI
Juke deck 音楽生成 ジャンル、テンポ、ムードなどを指定すると、著作権フリーのオリジナル曲を生成するAI
Runway ML 動画生成 テキストを打つことで、動画が作成できるAI
CHAT GPT,
Bing
テキスト生成 自然言語でテキスト入力すると、それに自然言語で回答を行うAI。会話エージェント、自動作文、自動翻訳など
Catchy テキスト生成 日本語特化のAI文章作成ツール

なお、本原稿もChatGPTなどのテキスト生成AIを活用して作成しています。具体的には、ChatGPTに「金融機関とジェネレーティブAIについてBlogを書くことを考えています。骨子を教えて下さい。」等と質問したり、「ジェネレーティブAIの商品の例を表形式で教えて下さい。」等と質問した後、出力データを、①人間がチェックし、②人間が再構成し、③人間が修正し、④人間が加筆して、仕上げています。

テキスト生成AIが打ち出すデータは、まだまだ誤りも多く、現時点ではそのままでは使用できません。
AI出力データから大幅な修正加筆をしているのが現状(=まだ人間の仕事がなくなるほどではない)ものの、しかしながら、現時点でも相当程度は業務の効率化に繋がりますし、今後はますます素早く、正確になっていくものと想定されます。

2 ジェネレーティブAIと金融

ジェネレーティブAIの急速な進化を受け、多くの金融機関にてAIを利用して業務の効率化が図れないか検討が進められています。

例えば、金融機関は、一般に、対顧客でも行内でも膨大な数の書類を作成しているところ、ジェネレーティブAIにより、説明書類の作成、稟議書の作成等、対顧客業務/行内業務の効率化が可能であれば、大幅なコスト減が可能になりえます。更にAIによる投資助言サービスや自動ポートフォリオ最適化ツールなど、対顧客向けに新しいサービスを提供することや、社内での議論の壁打ち相手2、としてチャットAIからの回答を参考にしてビジネス判断の再検討や思考整理を行うことも考えられます。

金融分野におけるジェネレーティブAIの応用分野
(1)   顧客体験やマーケティングの向上
(2)   対顧客業務の効率化
(3)   行内業務の効率化
(4)   投資助言やポートフォリオ最適化
(5)   リスク評価や不正検知
(6)   議論の壁打ち相手

他方、ジェネレーティブAIの利用には、下記のような新たな倫理的・法的な問題が生じ得ます。

AIと新たな問題の登場
(1)   バイアスの問題 各種審査などに関連し、ジェネレーティブAIの学習に用いられるデータが、特定の人種や地域に偏っている場合、AIが偏った結果を出力する可能性があります。この場合、人種差別や地域差別につながる恐れがあります。
(2)   プライバシーの問題 ジェネレーティブAIを用いた金融サービスや商品において、顧客の個人情報が必要な場合、プライバシーの侵害が懸念されます。また、AIが生成した情報を利用する際にも、プライバシーの保護が求められます。
(3)   不正行為の問題 ジェネレーティブAIは、高度な詐欺手法に悪用される可能性があります。例えば、不正な取引の詐欺や、個人情報を盗むためのフィッシングなどが考えられます。
(4)   人間との関係性の問題 ジェネレーティブAIによる自動化が進むことで、人間の労働力や専門性が求められなくなる場合があります。この場合、職業の流動化や失業問題が生じる可能性があります。また、AIによる決定が人間の判断を上回る場合、人間がAIに従属することで、意思決定の権限が人間からAIに移行する可能性があります。

以上のように、ジェネレーティブAIと金融分野においては、技術的な問題だけでなく、倫理的・法的な問題や人間との関係性についても十分な考慮が必要です。

3 金融関係とジェネレーティブAIによる業務効率化

現在、金融機関において、もっともAIの活用が検討されている分野は、AIによる業務効率化になります。
筆者らが聞く限り、金融機関から大手のAI会社に対し、AIの利用の相談、業務効率化について多数の相談が寄せられており、新規開発は数か月待ち、とのことです。

例えば、①対顧客の説明資料や契約書、行内の稟議書や各種記録書類、規制当局向け申請書や報告書などの膨大な文章作成をAIによって効率化する、②顧客からの問い合わせをチャットAIによって自動回答(文章回答、音声回答)し、問い合わせ内容を収集、記録し、データ化する、③顧客の不正検知のため架空の取引データを大量に作成する3、④融資先の過去の借入実績等の情報をAIにより分析して融資審査を実施する、等の行為が考えられます。

なお、金融機関のAI利用の特徴として、ChatGPTのようなオープンなデータベースではなく、このようなオープンデータベースに自社独自のデータをも追加した専用のデータベースを利用する(機械学習等させる)、という特徴があるようです。
このような専用のデータベースを利用することにより、より業務に即した回答を得られ、業務の秘密性が確保できるメリットがあります。

4 金融機関による機械学習と個人情報保護法、秘密保持義務

ジェネレーティブAIに機械学習をさせるためには、自社の各種のデータをAIに食わせる(=AIに情報を提供して分析して、学習させること)必要があります。

自社でデータを食わせる、又は、外部ベンダーに情報を提供してデータを食わせる場合の両方が考えられますが、金融機関が食わせたいデータには多くの個人情報や秘密情報が含まれており、個人情報保護法や秘密保持義務との関係が問題となります。

現時点での結論としては、以下のようになるのではないかと思われ、それぞれ検討を行います。

  自社でのデータ利用 各部ベンダーの利用
個人顧客の情報利用で、プライバシーポリシーに「データ分析等による記入商品やサービスの研究開発のため」等と利用目的を記載 利用目的の範囲内であり、可能 利用目的の範囲内であり、可能
第三者ベンダーとの間では秘密保持契約を締結する必要がある
個人顧客の情報利用で、プライバシーポリシーに単に「お客様に対するサービス向上のため」等と利用目的を記載 議論がありうるが慎重に対処。プライバシーポリシーの改訂を行うことが望ましい 同左
法人顧客の情報利用で、特別の秘密保持契約を締結していない 当然に負担する秘密保持義務との関係が問題となるが、原則として問題ないのではないかと思われる 第三者ベンダーとの間では秘密保持契約を締結すれば、問題ないのではないかと思われる
個人または法人の顧客の情報利用で、特別の秘密保持契約を締結している 明示の秘密保持契約の内容によるが、契約上は、通常、難しい 同左

個人情報保護法

(1)自社でAIに個人情報を使用させる場合

① 個人情報保護法と利用目的
自社でデータを食わせる場合、その処理が利用目的の範囲内であるかが問題となります。個人情報保護法では、個人情報を取扱うにあたり、その利用の目的をできる限り特定する必要があり(個人情報保護法17条1項)4、本人の同意を得た場合を除き、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取扱うことができません(同法18条1項)。また、個人情報を取得した場合には、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知又は公表する必要があります(同法21条1項)。

仮に、AIでの利用があらかじめ設定した利用目的の範囲内ではない場合、利用目的の変更が必要となります。AIでの利用が既に設定された利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲内であれば、変更手続きは利用目的の変更を本人に通知するか公表することで足ります(同法21条3項)。他方で、変更が認められる合理的な範囲を超える場合には、改めてAIでの利用について本人の同意を得たうえで利用目的を設定する必要があります。

なお、プライバシーポリシーの改訂を行う際で上記の通り本人の同意を必要とする場合、。定型約款を一定の場合には同意なく変更できるとする民法上の定型約款の変更手続の規定(民法548条の4)は適用されないと考えられています5。そのため、インターネット取引の場合には、例えばポップアップ等でプライバシーポリシーの変更箇所を明示したうえで、クリックにて顧客の同意を取る等の手続きを行うことになると思われます。

② プライバシーポリシーの利用目的の記載の具体例
例えば、単に「お客様に対するサービス向上のため」とのみ記載されている場合で、対顧客業務の効率化のために、各種個人情報を食わせる場合を考えます。このような場合でも、「お客様に対するサービス向上のため」であり利用目的の範囲内だと考える議論もありえますが、顧客からした場合、自身に対するサービス提供のためではなく、顧客全般へのサービス向上(業務効率化)のために自身の個人情報を利用することは想定できないのではないか、もしそうだとすれば、利用目的の特定として不十分であり、利用目的の変更が必要なのではないか、等の議論になるように思われます。

次に、「市場調査やデータ分析等による金融商品やサービスの研究や開発のため」等と規定されている場合で、対顧客業務の効率化のために各種個人情報を食わせる場合を考えます。この場合、AIによる分析であることは明示はされていないものの、顧客の個人情報を大量に用いて何らかのデータ分析をし、その結果、金融商品やサービスが研究開発されることは当然予想できると思われることから、一般的にはAIでの利用もプライバシーポリシーの利用目的の範囲内であると考えて良いように思われます。

いずれにせよ個別具体的なプライバシーポリシーの文言と、使用目的を考慮の上、法務部門等とも相談の上、検討する必要があります。

(2)第三者のベンダーに個人情報を提供しAIに個人情報を使用させる場合

① 個人情報保護法と第三者提供
ベンダー等の他社に個人情報を提供してAIに食わせる場合、上記に加えて、第三者提供の範囲か否かが問題となります。
原則として、個人情報取扱事業者は、第三者に対して個人データを提供する場合、本人の同意が必要となります(同法27条1項)。

もっとも、事業者が、その利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴い、個人データが提供される場合には、そのような業務委託先は「第三者」には該当せず、本人の同意は不要となります(同法27条5項1号)。そのため、自ら提供するAIサービスの構築のために、個人情報をAIに食わせる作業をベンダー等に委託することに伴って個人データをベンダーに提供する場合には、本人の同意は不要になると考えられます。但し、委託者は、個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)。

また、特定の者との間で共同して利用される個人データをその特定の者に提供する場合にも、共同利用する旨やその個人データの項目等の個人情報保護法が定める一定の情報をあらかじめ本人に通知又は容易に知り得る状態に置いていれば、本人の同意は不要となります(同法27条5項3号)。例えば、個人データを利用したAIをグループ企業間で利用する場合等に、共同利用をすることが考えられます。

② 業務委託として個人データをベンダーに提供する際の具体例
第三者提供に該当しない業務委託を行う具体的な事例としては、例えば、プライバシーポリシーの利用目的に「市場調査やデータ分析等による金融商品やサービスの研究や開発のため」と明示されている場合には、第三者たる外部ベンダーにAIでの分析のために個人データを提供することも、「事業者が、その利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴い」と解釈することができるのではないか、と考えます。

③ 秘密保持契約の締結
個人情報保護法上、第三者提供が可能であるとしても、「委託者は、個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)」とあることから、第三者であるベンダーに秘密保持義務を負わせる等の契約は当然、必要になります。

(3)匿名加工情報・仮名加工情報

仮に取得した個人情報の利用目的にAIでの分析が含まれていないとしても、AIに食わせる個人情報を匿名加工情報に加工することで、本人の同意なしに目的外利用や第三者提供が行えることになります。

ここで匿名加工情報とは、一定の方法により「特定の個人を識別できないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元できないようにしたもの」を意味します(同法2条6項)。もっとも、個人情報を匿名加工情報に加工する場合、個人情報に含まれる特定の個人を識別することができる記述等の全部又は一部の削除、個人識別符号の全部の削除、個人情報と加工後の個人情報とを連結する符号の削除、特異な記述の削除等、個人情報保護委員会規則で定める基準(同法43条1項、個人情報保護法施行規則34条)による加工を行わなければならず、加工が困難であることも多いものと思われます。

そこで、匿名加工情報に比べて高度な加工技術を要しない仮名加工情報を利用することも考えられます。仮名加工情報とは、一定の方法により「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報」を意味します(個人情報保護法2条5項)。匿名加工情報に比べて抽象化の程度が低いため、個人情報の利用価値が維持される点などにメリットがあります。また、未加工の個人情報と異なり、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えた利用目的の変更が可能です(同法41条9項)。もっとも、匿名加工情報等と異なり、原則として第三者への提供が禁止されています(同法41条6項)。

  未加工の個人情報 仮名加工情報 匿名加工情報
加工 加工なし 他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように加工 特定の個人を識別できず、個人情報を復元できないように加工
目的外利用 特定された利用目的の範囲内で利用が可能。
また、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が不可
特定された利用目的の範囲内で利用が可能。
もっとも、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が可能
目的外利用が可能
第三者提供 原則、本人の同意が必要 法令に定める場合を除き不可(仮名加工情報を作成する前に本人の同意を得ていた場合であっても不可)。なお委託業務の場合には第三者に該当しない旨の規定(法28条5項)は適用される。 原則、本人の同意は不要

秘密保持義務

金融機関は、情報の提供者である顧客等との間で当然に秘密保持義務を負い、また、M&Aアドバイスや有価証券の引受など特別な取引を行う際には特別な秘密保持義務を定める秘密保持契約を締結することがあります。AIで情報分析を行う際には、個人情報保護法との関係のみならず、このような秘密保持義務との関係も検討する必要があります。

(1)特別の秘密保持契約がない個人の情報

特別の秘密保持条項を含む契約を締結することなく取得した個人の情報に関しては、個人情報保護法以上の保護を当然の秘密保持義務として負う、という議論は通常は存在しないことから、自社利用、第三者提供とも、概ね、上記で検討した個人情報保護法の議論の範囲で実施するのであれば問題ないのではないか、と考えます。

(2)特別の秘密保持契約がない法人の情報

特別の秘密保持条項を含む契約を締結することなく取得した法人(例えば、通常の銀行取引約定書に基づく取引を行う法人)の情報についても、法人に対する秘密保持義務が、個人に対する秘密保持義務よりも重い等の議論が通常はないことから、個人と同様の範囲で自社利用や第三者提供を行う場合には問題ないのではないか、と思われます。

(3)特別の秘密保持契約がある個人または法人の情報

M&AやIPOアドバイス、有価証券の引受、その他特殊な契約で、金融機関が特別の秘密保持義務を負う契約を締結している場合、このような契約には、例えば、①IPOの目的以外には使用しない、②IPOに関連しない第三者には開示しない、等の条項が多く含まれています。そのような秘密保持契約がある場合、今後のIPO案件での資料作成をジェネレーティブAIで簡易化する等の目的でAIにデータを食わせたり、第三者のベンダーにデータを提供することは難しいのではないか、と思われます。

この点、例えば、リーガルテックに関して、「リスク分析のために契約書ファイルをリーガルテックサービスにアップロードするのは契約書の第三者に対する開示に当たり、その契約書に秘密保持義務が規定されていた場合、契約違反にならないのか」との議論があります。これには、実質的に契約相手方の黙示の同意があると考えられないか、実際の損害がないのでビジネスジャッジの問題になるのではないか、等という議論もあるものの6、本項で議論する状況はリーガルテックの場合に比べても、実際の案件との関係が遠く、黙示の同意についてはより慎重に考慮する必要があります。また実際の損害がないとの議論については、金融機関の場合、一般の事業会社に比してもコンプライアンスリスクに慎重にならざるを得ないことから、より慎重に判断する必要があると思われます。

現時点では、秘密保持契約がある相手方の書類を大量にAIに食わせたい、というニーズはあまり存在しないかもしれませんが、今後、このようなニーズが発生することを考えると、自社で用意する秘密保持契約のテンプレートの内容も考慮をする必要があるかもしれません。

5 ジェネレーティブAIによる投資助言

法令上、投資助言・代理業を行うためには金融商品取引業者としての登録が必要です(金商法28条3項、29条)
金商法2条8項11号により、金融商品に関する投資助言とは、①金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。)に関し、②口頭、文書(一定の物を除く)その他の方法により助言をすることを約し、③相手方が報酬を支払うことを約束する、という要件になります。

仮に、ジェネレーティブAIに、金融商品のこれまでの値動き、リターン、投資データ等を食わせて、その結果、投資銘柄等を推奨する文章を作成した場合、当該文章作成サービスは、投資助言業に該当する可能性があります。

投資助言に特化したAIで、かつ有償で提供されているAIサービスの場合、投資助言業の取得が必要である場合が多いのではと思われます。現在でも「投資分析サービス等のコンピュータソフトウェアの販売」については、販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、追加サポートなく誰でも使用できるようなツールは投資助言業に該当しないと解されています。他方、ツールの使用に、販売業者等から継続的に投資情報等のデータの提供、その他のサポートを受ける必要がある場合、登録が必要になる場合がある、とされています(下記「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」参照)。投資助言に特化した有償AIは、多くの場合、AI提供会社が継続的にデータを食わせる、チューニングをする、等をすることにより、価値を担保していると思われ、そのような場合、投資助言業になるのでは、と思われます。

他方、金融機関が一般的な情報提供の趣旨で、無償で投資情報を提供する場合には、「相手方が報酬を支払う」という要件に該当しないことから、投資助言業は必要ありません

問題は、現在はそこまで進化したAIはないと思われますが、例えば汎用的なジェネレーティブAIで、しかしながら当該AIが金融商品の情報も多数収集しており、その結果、投資助言的なことも行うことができる、通常は無償であるが、有償会員になるとより素早いレスポンスを得ること等ができる、等の場合、投資助言業に該当するかです。

筆者らとしては、このようなAIの有償会員になったとしても、あくまでこれは投資助言のための報酬ではなく、AI全般のスピードアップ等のメリットを得るためのものであり、投資助言業に該当しないと考えますが、今後、AIがますます進化していった場合、このように解して良いか、更に検討が必要となると思われます。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針VII-3-1(2)②c
②投資助言・代理業に該当しない行為
イ. 不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断(以下「投資情報等」という。)を提供する行為
例えば、以下aからcまでに掲げる方法により、投資情報等の提供を行う者については、投資助言・代理業の登録を要しない。
ただし、例えば、不特定多数の者を対象にする場合でも、インターネット等の情報通信技術を利用することにより個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や、会員登録等を行わないと投資情報等を購入・利用できない(単発での購入・利用を受け付けない)ような場合には登録が必要となることに十分に留意するものとする。

a. 新聞、雑誌、書籍等の販売
(注)一般の書店、売店等の店頭に陳列され、誰でも、いつでも自由に内容をみて判断して購入できる状態にある場合。一方で、直接業者等に申し込まないと購入できないレポート等の販売等に当たっては、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。

b. 投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売
(注)販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、誰でも、いつでも自由にコンピュータソフトウェアの投資分析アルゴリズム・その他機能等から判断して、当該ソフトウェアを購入できる状態にある場合。一方で、当該ソフトウェアの利用に当たり、販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合には、登録が必要となる場合があることに留意するものとする。
(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kinyushohin/07.html#07-03)

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

2020年6月5日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し(施行日は公布の日(2020年6月12日)から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本年12月に向けて一度又は複数回に分けて施行が見込まれています。)、「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、その名称が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、新しく「金融サービス仲介業」が創設されました。これまで金融商品仲介、保険募集といったそれぞれの金融分野でサービスを提供していた事業者は、新制度のもとで、ワンストップでサービスを提供することができることとなります。このニュースレターでは、「金融サービス仲介業」創設の背景及び規制の概要について、解説します。

1 金融サービス仲介業の創設とその背景

金融サービス仲介業は、1つの登録を受けることにより、複数の業種の金融機関(銀行、証券又は保険)が提供するさまざまな金融サービスをワンストップで提供することを可能とするものです。

想定されるビジネスモデルとしては、例えば、家計簿アプリを提供している事業者が、利用者に対して、家計簿アプリで蓄積された情報に基づいて、おすすめの投資信託、保険契約、ローン等を提案し、提携先の銀行、証券会社(第一種金融商品取引業)又は保険会社につなぐといったサービスを提供することが想定されています。また、クラウド会計ソフトを提供する事業者が、クラウド会計ソフトのユーザーである個人事業主、中小企業等に対して、クラウド会計ソフトに蓄積されたデータに基づいて、借入可能額、金利等の条件を試算した上で融資を受けることを提案し、提携先の銀行に紹介したり、福利厚生のための団体保険や事業リスク低減のための損害保険を提案したりするサービスも考えられています。1

 そこで、銀行、証券会社又は保険会社が提供するさまざまな金融サービスをワンストップで提供を受ける機会を増やし、ひいては利用者が自身に適したサービスをより一層選びやすくする観点から、1つの登録を受けることにより、銀行、証券及び保険の複数の業種のサービスの仲介を行うことができる金融サービス仲介業が創設されました。

2 金融サービス仲介業の業務範囲

「金融サービスの提供に関する法律」(以下「改正法」といいます。)では、金融サービス仲介業とは、預金等媒介業務、保険媒介業務、有価証券等仲介業務、貸金業貸付媒介業務のいずれかを業として行うことをいうとされています(改正法11条)。それぞれの業務の内容は、概ね、以下の表1のとおりです。なお、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされています(後記3(2)参照)。また、金融サービス仲介業において想定されているビジネスモデルを踏まえると、金融サービス仲介業の業務に「代理」を認める必要性は乏しいとされたため、金融サービス仲介業においては仲介業ではあるもののその業務には「代理」は含まれないこととなりました(表1参照)2

表1〈金融サービス仲介業の内容〉
預金等媒介業務 預金等の受入れを内容とする契約の締結の媒介
資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介
為替取引を内容とする契約の締結の媒介
保険媒介業務 保険契約の締結の媒介

有価証券等仲介業務

(仲介先の金融機関は、第一種金融商品取引業若しくは投資運用業を行う金融商品取引業者又は登録金融機関)

有価証券の売買の媒介
取引所金融商品市場又は外国金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引の委託の媒介
有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は有価証券の私募等の取扱い
投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介
貸金業貸付媒介業務 資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介

3 利用者保護のための規制の概要

金融サービス仲介業者は、様々なサービスを取り扱えるよう、特定の金融機関に所属することを求められていません(所属制の廃止)。そのため、利用者に損害が生じた場合に、特定の金融機関が損害賠償責任を負ってくれるわけではないことになります。そこで、利用者保護のため、取扱可能なサービスの制限、利用者財産の受入禁止、保証金の供託義務等の規制が設けられています。具体的には以下のとおりです。

(1)登録制の導入

金融サービス仲介業を行うには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があるとされ(改正法12条)、登録の申請手続及び登録拒否事由が定められました(改正法13条、15条)。

(2) 取扱可能なサービスの制限

顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされました。顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスの具体的な内容は政令で定められることになっていますが、2019年11月26日に行われた金融庁金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)においては、以下の表2のような検討がされました。

表2 〈金融サービス仲介業者が取り扱うサービスのイメージ〉
  取扱可能(例) 取扱不可(例)
銀行 預金

普通預金

定期・積立預金

仕組預金

外貨預金 

通貨オプション組入型預金

貸付 住宅ローン

– 

送金 振込

証券

国債・地方債

上場株式・上場企業社債券

投資信託・ETF(投資信託・ETFの中で商品を限定する必要はあるか)

非上場株式・非上場企業社債券

デリバティブ取引

信用取引

保険 生命保険

終身・定期保険 

個人年金保険

医療保障保険

介護保険(商品の特性に応じ、保険金額や保険期間によっても限定することを検討)

変額保険・年金

外貨建て保険・年金  

解約返戻金変動型保険・年金

損害保険

傷害保険  

旅行保険  

ゴルフ保険 

ペット保険 (商品の特性に応じ、保険金額や保険期間によっても限定することを検討)

金融庁金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)2019年11月26日付参考資料2頁参照

(3)保証金の供託の義務付け

所属制を採用せず、仲介業者自らが賠償責任を負うことになる可能性があることを踏まえ、利用者に対する金融サービス仲介業者の損害賠償資力を確保する必要があることから、金融サービス仲介業者は、保証金を供託し、かつその旨を内閣総理大臣に届け出た後でなければ、金融サービス仲介業を行ってはならないとされました(改正法22条1項、5項)。保証金の額は、政令で定められることになっています(改正法22条2項)。もっとも、政令で定めるところにより金融サービス仲介業者が損害賠償責任保険を締結し、内閣総理大臣の承認を受けたときは、保証金の一部の供託が不要とされるようです(改正法23条)。

(4)利用者財産の受入れ禁止

金融サービス仲介業者のビジネスモデルとしては、顧客が様々な金融商品又はサービスを比較検討した上で顧客自身に適したものを選択できるサービスを顧客に提供することが想定されており、このような想定を踏まえ、金融サービス仲介業者がその事業運営上、利用者財産の預託を受ける必要性がそもそも高くないと考えられました3。そこで、利用者財産の受入れは禁止されることとなりました(改正法27条)。

(5)顧客情報の取扱い

金融サービス仲介業者は、取得した顧客の資産状況等の非公開情報を不適切に利用すると、顧客の保護に欠けるおそれがあります。そこで、その金融サービス仲介業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保することが求められます(改正法26条)。

(6)情報提供義務

顧客に適した同種の金融商品又はサービスが複数ある場合、金融サービス仲介業者は、顧客のニーズを無視して、金融機関から得られる仲介手数料の高い金融商品又はサービスを推奨する可能性や関係の深い金融機関の金融商品又はサービスを勧める可能性があります。そこで、顧客が金融サービス仲介業者の中立性を評価し、自身にあった金融サービスを適切に選択できるように、金融サービス仲介業者は、顧客から求められた場合は、顧客に対し、金融サービス仲介業者が受け取る手数料等の額を開示しなければならないとされました(改正法25条2項)。

また、金融サービス仲介業者は、その金融サービス仲介業務についての重要な事項の顧客への説明をすることが求められています(改正法26条)。顧客が自身にあった金融サービスを適切に選択できるようにする観点からは、「顧客本位の業務運営に関する原則」(平成29年3月30日金融庁)を踏まえ、金融サービス仲介業者には、仲介先の金融機関との間の委託関係又は資本関係の有無、金融商品・サービスの選定理由等についても顧客に対して情報を提供することが望ましいと考えられます。

(7) 仲介する金融サービスに応じた規制

また、金融サービス仲介業者が行う業務の種類に応じて、銀行法、保険業法及び金融商品取引法の規定が金融サービス仲介業者に準用されており(改正法29条、30条、31条)、以下のような規定が適用されることに注意が必要です。

①銀行分野の仲介情実融資の媒介の禁止等
②証券分野の仲介損失補填の禁止
インサイダー情報を利用した勧誘行為の禁止
顧客の注文の動向等を利用した自己売買の禁止等
③保険分野の仲介顧客の意向の把握
自己契約の禁止
告知の妨害の禁止
不適切な乗換募集の禁止等