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メタバースは、現実世界などをモチーフとした仮想空間であることから、メタバース空間内で、各種の現実世界同様の商取引がなされることがあります。
例えば、ランド(土地)や家、アバター、その服やアクセサリー、ライブの入場チケットなどが販売され、それに対する支払いがなされます。このような売買は、運営側とユーザー側でなされるのみならず、ユーザー同士でなされる場合もあります。
デジタル空間上での取引であることから、売買の対象となるものはデジタルデータであり、デジタルデータ上に「所有権(民法206条)」等の権利があるのかが問題となります。また、デジタル上での支払いであることから、現金以外での支払い手段が求められることが多く、支払手段についての規制も問題となります。
更に、将来的には、レディ・プレイヤー1のオアシス世界のように、メタバース上での労働というものが観念できるかもしれません。このような労働は、契約当事者同士が一度も会ったことはなく、空いた時間で、兼職自由の前提でなされることが多いと思いますが、そのような場合に特有の問題について記載をします。
本書での検討内容と結論 (1) メタバース上のデータが法的な権利により保護されるか メタバース上のデータはメタバース運営者に対する一種の利用権(債権)により保護され得るが、占有権や所有権等の物権によっては保護されない。もっとも、著作権等の知的財産権により保護される可能性はある。なお、NFTについては、自らのウォレットにより管理し、メタバース内外を問わず移転可能である等といった点で排他的な支配権を観念できる余地がある。 (2) メタバース上でのデータの売買代金の支払方法にはどのようなものが考えられるか Web2型メタバースでは、主にクレジット・デビットカード、前払式支払手段の利用が想定される。いずれも支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その発行には業規制が課される。また、Web3型メタバースでは、これらに加えて、暗号資産や業規制対象外のポイントの利用が想定される。暗号資産を支払手段として利用すること自体に法規制はないが、その有償発行には暗号資産交換業の規制が適用される。なお、ポイントについてはその付与に関して景表法の景品規制に留意する必要がある。 (3) NFTや暗号資産の発行、販売にはどのような規制が課されるか NFTの販売を一律に規制する法令はない。NFTと暗号資産の区別は「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになる。暗号資産の有償発行、販売については、暗号資産交換業としての登録の他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務、取引時確認義務等の種々の規制が課される。 (4) メタバース内での労働にはどのような法規制が課されるか メタバース内で、他のプレイヤーのために仕事をする場合、多くはいわゆるギグワーカーのような形態で業務委託契約が成立することになると思われ、基本的には特段の法規制はない。例外的に、労働者性が認められて雇用契約が成立する場合、労災保険の加入や賃金の通貨払い、労働条件の書面等による明示等、種々の労働法規制が課される。 |
メタバース上では、ランド(土地)や家などの不動産類似物、服やアクセサリー、家具などの動産類似物が販売されることがあります。しかし、これらは実際上はいずれも単なるデータにすぎず、現実の不動産や動産ではありません1。
日本の民法上は、占有権や所有権等の物権は原則として有体物(=形のあるもの)にしか認められないため(民法85条、180条、206条等)、単なるデータには占有権や所有権等の物権は認められないことになります。そこで、メタバース上のデータが法的な権利によって守られないのかが問題となります。
まず、Web2型メタバースの場合、ユーザーのデータに関する権利は、ユーザーがメタバース空間上でデータを利用できる、という一種の利用権(サービス利用規約等に基づくメタバース運営者に対するユーザーの債権)であることが通常と思われます。そのため、基本的には、ユーザーは運営者以外の第三者に対して利用権を行使することは難しいことになります。
Web3型メタバースでNFT等のデータを利用する場合も一種の利用権であることは基本的には同様です。
もっとも、NFTの場合、ブロックチェーン上で自らのウォレットにより管理でき、メタバースの内外を問わず第三者に譲渡、貸与等を可能にする仕組みが実装できる、少なくともNFTに対しては排他的な支配権を持てる可能性がある等、Web2型メタバースの場合に比べ、データに対する支配権をより強く観念できる可能性があります。
ただし、当該支配権もメタバース運営者やNFT発行者の定めたルールや技術的仕様の範囲内で認められるに過ぎず、メタバースのサービス終了によって無価値化する可能性がありそうです。
運営側としてもユーザー側としても、現実空間上での用語とのアナロジーで商品説明をすることが判りやすく、「不動産」という用語を使用したり、Web3型メタバースではNFTに対して「デジタル所有権」等の用語を使用することがあり、それ自体は許容されると思われますが、運営側としては現実の所有権や不動産と同じような権利があると思われることがないよう、誤解のない表現で販売を行う必要があると思われます。
なお、メタバース上のデータについては、主に著作権等の知的財産権による保護の対象になる可能性があります。この点は、メタバースと法律Ⅱ[https://innovationlaw.jp/ metaverse2/]をご参照下さい。
メタバース上の決済方法としては、クレジットカード、デビットカード、前払式支払手段、暗号資産、ポイントなどが考えられます。
Web2型メタバースでの支払手段は、通常はクレジットカード、デビットカードまたは前払式支払手段を使うことが考えられます。ここで、前払式支払手段とは、金額等が記載または記録された証票や符号等であり、当該金額等に相当する金額を支払うことで発行され、発行者やその指定する特定の者との取引に用いることができる通貨建の決済手段をいいます(資金決済法3条1項)。例えば、Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券等がこれに当たります。
これらをメタバース上の取引で利用すること自体には規制は有りませんが、メタバース運営者が自ら前払式支払手段を発行する場合には、以下の業規制が課されます。
種類 | 特徴 | 規制 |
自家型前払式支払手段 |
前払式支払手段の発行者やその密接な関係者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り使用できる前払式支払手段 | 未使用残高が3月末または9月末において、1,000万円を超えた時は、財務(支)局長に届出が必要(同法5条、同施行令6条) ※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で届出不要(同法4条、同施行令4条) |
第三者型前払式支払手段 (同法3条5項) |
前払式支払手段の発行者やその密接な関係者以外の第三者に対しても使用できる前払式支払手段 | 財務(支)局長の登録が必要(同法7条) ※但し、有効期限を6ヵ月以内にする等で登録不要(同法4条、同施行令4条) |
Web3型メタバースでも、前払式支払手段を使うことも考えられますが、ビットコインやイーサリアムなどの既存の暗号資産、または独自発行の暗号資産を決済手段とすることも考えられます。
暗号資産とは、物品・役務提供の代価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークンで、法定通貨や通貨建資産に該当しないものを意味します。また、そのような暗号資産と相互に交換を行うことができるトークンも暗号資産に含まれることがあります(資金決済法2条5項)。
暗号資産をメタバース上の取引で利用すること自体に規制は有りません。しかし、自ら暗号資産を有償で発行する場合には、財務(支)局長の登録(同法63条の2)を受けることが必要になる等、暗号資産交換業者として種々の規制が適用されます。
また、前払式支払手段や暗号資産に該当しないポイント、例えば、メタバース利用者に一律に配られたり、メタバース内での買い物の金額に応じて無償で付与され、メタバース内での買い物の際に代価の弁済の一部に充当することができるようなものは、その利用や発行について一律に規制する法令がありません。なお、このようなポイントの付与については、景表法の景品規制に留意する必要がありますが、次回の買い物時の値引きであると評価できるポイントの付与については、景表法の規制も課せられません。
発行についての規制
支払手段 | 特徴 | 業規制 |
クレジットカード | カードを提示またはその情報を通知することで、特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価をカード事業者が支払い、利用者が定められた時期までに対価に相当する額をカード事業者に支払う。例 Visa、Mastercard、JCB、American Express | 包括信用購入あっせん業(割賦販売法) |
デビットカード | カードを提示またはその情報を通知することで特定の販売業者から購入した商品やサービスの対価を利用者の口座から販売業者の口座に送金する。例 三菱UFJデビット、SMBCデビット、みずほJCBデビット | 銀行業(銀行法)や資金移動業(資金決済法) |
前払式支払手段 | 利用者が、金額等が記録された証票等をあらかじめ対価を払って取得し、特定の販売業者に対して当該証票等を使用して、記録された金額等に相当する商品やサービスの提供を受ける。例 Edy、Suica、nanaco、Amazonギフト券 | 前払式支払手段発行業(資金決済法) |
暗号資産 | 物品・役務提供の対価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で取引できるブロックチェーン上のトークン。例 BTC、ETH、XRP | 暗号資産交換業(資金決済法) |
上記以外のポイント | 利用者に一律に配られたり、買い物の際におまけとして無償で付与され、次回以降の買い物の際に対価の弁済の一部に充当することができるようなもの。 | 特になし ※景表法の景品規制については留意が必要。 |
Web3型メタバースではしばしばNFTや暗号資産が利用されるところ、ここではNFTや暗号資産について触れます。
NFTの販売を一律に規制する法令はありませんが、NFTと称していてもそれが暗号資産に該当する場合には上記のとおり登録が必要になる等、資金決済法上の暗号資産交換業に関する規制が課されることになります。
そして、NFTと暗号資産とを区別する明確な基準は定かではないものの、「決済手段等の経済的機能の有無」が重要なファクターになると考えられ2、例えば、①店舗でサービスの対価として利用できる、②同一のトークンが多数存在している、③個々のトークンの個性が捨象されている、等といった事情があれば、暗号資産として認められ易くなるものと思われます。
暗号資産の発行については、それを有償で行う場合、暗号資産の売買等(資金決済法2条7項1号)に該当するため、上記で説明したとおり暗号資産交換業としての登録を要する他、ユーザーの金銭や暗号資産の分別管理義務(同法63条の11)、取引時確認義務(犯収法4条)等、発行者に種々の規制が課せられます。
他方で、利用者に無料で暗号資産をエアドロップする場合のように、暗号資産を無償で発行する場合には、暗号資産交換業の規制は課せられません。
メタバース内では、いわゆるギグワーカーのような形態で、他のプレイヤーのためにアバターを用いて仕事を行い、メタバース内通貨やアイテム等の対価を取得するといった取引の出現が考えられます。このようなプレイヤー間において、どのような法律関係が生じるかを検討します。
メタバース内で想定される仕事としては、例えば、他のプレイヤーが使用するための家や服を作成する等、他のプレイヤーのためにアイテムを生成することが考えられます。また、メタバース内のイベント主催者から依頼を受けて演奏や歌唱を行うといったアーティスト活動や、メタバース内の会議室でのコンサルティングサービスの実施も考えられます。こうした、メタバース外の世界と同様の仕事も考えられる一方で、例えば、保有する希少なアイテムを他のプレイヤーのために利用することで対価を得る等、メタバース内ならではの仕事も考えられます。
メタバース内で仕事ができる環境が出現すれば、プレイヤーは、メタバースで獲得したリソースをマネタイズすることができたり、人々が柔軟で自由な働き方を実現することができる等、様々なメリットが創出されるのではないかと思われます。
メタバース内での仕事は、アバターにより事務処理を行う点に大きな特徴があります。もっとも、実際の作業としては、人がコンピューターでアバターを操作することが仕事の内容になるため、メタバース外でコンピューター作業を受発注することと基本的には同じ法的分析ができると思われます。
そして、多くの場合、空いた時間で、兼職自由の前提で作業がなされることが多いと思われ、いわゆるギグワーカーとして、個人事業主の立場で他のプレイヤーと業務委託契約(請負契約(民法632条)や準委任契約(同法656条))を締結し、仕事を行うことになるのではないかと思われます。 業務委託契約に基づく取引については、特に法規制はなされていないため、主としてプレイヤー間での合意に従うことが重要になってきます。なお、メタバース内でアバターにより仕事を行うという点において、以下の注意点があることを考慮したうえで、取引を行うことが望ましいと考えます。
・作業はメタバースのプラットフォームを前提とし、当該メタバースがサービス終了することで履行できなくなる。 ・対価がメタバース内通貨で支払われる場合には、当該メタバースがサービス終了することでメタバース内通貨が無価値化する可能性がある。 ・取引相手の素性が分からず、個人情報等が一切隠されたまま取引がなされること等で、義務不履行に対する法的手続きが講じ難く、未成年者か否か等のアバターを操作している者の属性が分かり難い。 |
また、契約成立に際しては、捺印やサインを付した書面や電子署名を付したファイルは作成されず、メッセージ記録のログ等が契約成立の証拠になることも多いのではないかと思われます。
仕事を行うプレイヤーが、労働基準法9条に定める「労働者」に該当する場合、プレイヤー間の契約形態は、業務委託ではなく、雇用(民法623条)となり、労働法制による種々の規制が適用されることになります。
そして、労働者の有無の判断には、以下の基準が用いられると考えられています3。
労働者性の有無に関する判断基準 ①使用者の指揮監督下で労働しているかを、主に以下(a)~(d)等により判断。 (a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 -諾否の自由が無ければ指揮監督関係を推認。 (b)業務遂行上の指揮監督の有無 -業務内容・遂行方法について具体的な指揮命令を受けていれば指揮監督関係が肯定されやすい。 (c)勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無 -当該拘束が業務の性質上当然に生ずるものか、使用者の指揮命令によって生ずるものかを考慮。 (d)代替性の有無 -本人に替わって他の者が労務を提供してよい、あるいは補助者を使ってよい場合、指揮監督関係を否定する要素となる。 ②労務対償性のある報酬を受け取る者といえるかを、主に以下の(a)や(b)等により判断。これらが肯定される場合、報酬が一定時間の労務を提供していることへの対価と判断され、使用従属性が補強される。 (a)報酬が時間給を基礎に計算される等、労働の結果による較差が少ない。 (b)欠勤した場合には報酬が控除され、残業した場合には手当が支給される。 ③上記①、②の観点のみでは判断できない場合の補強要素として、(a)事業者性の有無に関わる事項(機械・器具の負担の関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)、(b)専属性の程度等を検討する。 |
メタバース内での仕事は、業務委託契約等の労働者性が認められない形式により行われることが多いと思われますが、労働者性が認められる場合には、プレイヤー間の法律関係は労働基準法をはじめとする種々の労働法制により規制されます。
メタバースで単発の仕事を発注する場合に留意すべき法規制としては、労働者の労働規約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する合意をすることができず(労働基準法16条)、使用者による労災保険料の支払の必要が生じる等の他(労災保険法3条)、労働組合と使用者との間の労働協約で合意しない限り、賃金を通貨(日本円)で支払う必要があります(労働基準法24条1項)。そのため、メタバース内の独自トークンはもちろん、BTC等の暗号資産、前払式支払手段、アイテム等で支払うことは、原則として禁止されます。
また、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面、ファクシミリ又は電子メールで明示しなければなりません(労働基準法15条1項。労働契約法4条1項、労働基準法施行規則5条4項)。そのため、労働契約の締結はメタバース内では完結しずらいケースも多いのではないかと思われます。
留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。
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メタバース、特にバーチャルSNS型のメタバース(SNS型のメタバースの概要についてはメタバースと法律(1)の記述をご参照下さい)では、ユーザーのアバターによる表現が自由に許されることが多く、下記①のような事象が問題となります。
また、一般ユーザーがアバター(キャラクター)やワールド等を製作できるようにSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されているものが多く存在します。このようなSNS型メタバースでは、下記②、③のような事例がしばしば存在し、法律との関係が問題となります。
更に、SNS化型メタバースでは、このような①~③の行為を許容するプラットフォーマーの責任がどうなるか、も問題となります。
本稿で検討すること ① ユーザーによりバーチャルライブなどの、演奏、歌唱、ダンスなどの様々な表現行為がなされることと法律 ② ユーザーがアバター(キャラクター)などの顔、服、小道具などを作成し、利用し、販売することと法律 ③ ユーザーがワールドを作成し、他のユーザーに来場して貰い、遊んで貰うことと法律 ①~③のような事例に関するプラットフォーマーの対応 |
これらの問題はメタバースに特有の問題ではなく、既存の動画投稿サイト、SNS、ユーザー投稿型のゲームなどでの問題点と重複する点がありますが、異なった問題点もあり、改めて検討するものです。
メタバース上で、ユーザーがライブをし、歌うこと、演奏すること、踊ること等について、他人の作品を取り扱う場合、基本的には著作権が問題となります。
メタバース上での大規模ライブ(竜とそばかすの姫より)
すなわち、歌については、歌詞やメロディーは音楽の著作物として保護されています。また、既に演奏された音源を流す場合、例えばカラオケ音源をバックに歌う場合などは、演奏物の著作隣接権も問題となります。更に、他人の作った振り付けを踊る場合、舞踏の著作物が問題となります。
(a)自身が著作権を有する場合、(b)著作権フリーである場合、(c)著作権の一括許諾がなされている場合、を除き、理論的には使用について許可を取る必要があります。なお、メタバース上での利用は、公衆送信権との関係で、私的利用の例外は認められないのでは、と思われますが、この点も後述します。
想定される行為 | 対象となる著作権 | 例外の適用 | |
1 | (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏 | 音楽(作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 | JASRAC、NEXTONE管理曲の包括許諾 但し、現在、メタバースサイトで包括許諾を取っているサイトがあるものがあるかは不明。今後、包括許諾が取られれば問題ない。 なお、公衆送信権や演奏には私的利用の例外はないこと、「公衆」の範囲の問題となるが、完全に閉じたワールド以外は公衆になりうることに留意。 |
2 | (市販の曲を)メタバース上で自分で演奏し、自分で歌唱 | 音楽(作詞・作曲)の著作物:演奏権と公衆送信権 | 同上 |
3 | (市販の曲を、既にあるカラオケ音源をバックにして)メタバース上で歌を歌う | 音楽(作曲・作詞)の著作物:演奏権と公衆送信権
カラオケ演奏:著作隣接権 |
音楽の著作物について同上
著作隣接権についてはJASRACやNEXTONEの包括許諾の対象外であることに留意 |
4 | (市販の曲を、市販演奏をベースに、他人の振付にて)メタバース上でダンス | ダンス(舞踏)の著作物: 上映権、公衆送信権 曲及び演奏:上記3と同様 |
TikTok等で上げられているダンスの振付は、他人が振付を真似して配信することに事実上の承諾があると考えられる可能性が、(市販の音楽等に比べて)高いと考えられる。
但し、音楽については留意 |
①市販の曲のメタバース上での演奏と著作権
メタバース上で、市販の曲を演奏する場合、歌詞の著作権と、作曲の著作権が問題となります。また、市販の曲を歌唱する場合で、他の演奏家が演奏したカラオケ等をバッグに流す場合には、演奏家が有する著作隣接権という権利も問題となります。 そして、通常、インターネットでのアップロードは公衆送信権という権利の問題となり、メタバース上での利用も同様の権利の問題となると思われます。
なお、「演奏してみた」「歌ってみた」は、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどの既存の動画サイトでも人気のカテゴリーです。これらのサイトは、JASRACやNEXTONEとの間で著作権についての包括的な許諾契約を締結し、金銭を払っていることから、JASRAC、NEXTONE管理曲であれば、ユーザーはいちいち個別の許可を取ることなく、演奏をアップロードできます。但し、既存サイトでも、著作隣接権についてはこのような包括承諾の対象となっておらず、カラオケ音源の利用には別途の問題が生じます。
これに対して、現時点では多くのメタバースサイトでは、現状、このような包括契約を締結していないと考えられ、YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどとは異なった注意が必要となります。
YouTube、ニコニコ動画、TikTok | 多くのメタバースサイト | |
他人の曲(JASRAC、NEXTONE管理曲)の自分自身による演奏、歌唱 | 包括契約の対象なので個別の同意不要 | 包括同意契約がないので、個別の同意が必要 |
他人の演奏(カラオケ音源含む)の利用 | 個別の同意が必要 | 個別の同意が必要 |
➁踊ってみた、と明示又は事実上の承諾
既存動画サイトでは「踊ってみた」も人気を博しています。これらの振り付けは多くの場合、振付の創作者が、他のユーザーが踊った上で動画サイトで共有することを望んでいると思われ、少なくともその振付師が当初アップした動画サイトでは明示の承諾があるのではないかと思われます。
他方、他の動画サイトでダンスをアップロードすることや、アバターによるメタバース空間でのダンスについてまで承諾があるかは理論上は若干の疑義があります。多くのコミュニティ発生型のコンテンツは、インターネット上では(少なくとも営利目的でなければ)自由に使用できると考える創作者も多いと思われ、事実上の承諾がある、ないしそこまでは言えなくても事実上問題がないと考えられる場合が多いと思われますが、理論的には「踊ってみた」でも著作権の処理を考える必要がある点、留意が必要です。
なお、踊ってみたでも通常、音楽が一緒に流れると思われ、音楽の著作権処理については、上記①を念頭に置く必要があります。
③メタバースでの利用が「私的利用」といえるか、「公衆」の範囲
著作権の議論をする場合、「私的使用のため」であれば問題ない等と議論されることがあります。
しかし、「私的利用」は複製についての例外、家庭内など個人的な限られた範囲内で使用する目的で、使用する本人がコピーする場合は、著作者から許諾を得なくてもよい、という規定です。
著作権法第30条 著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる |
インターネットでの利用(公衆送信)や演奏などは著作権法上、複製とは異なる概念とされており、私的利用の例外は適用ありません。
なお、公衆送信権や演奏権には「私的利用」の例外はありませんが、これらはあくまで「公衆」に対する送信、「公衆」に対する演奏を問題とするため、完全に閉じたワールドで仲間内で歌う場合等には、著作権上の問題は発生しないと思われます。
[参考:著作物の例]
著作権法第10条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。 一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 二 音楽の著作物 三 舞踊又は無言劇の著作物 四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物 五 建築の著作物 六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物 七 映画の著作物 八 写真の著作物 九 プログラムの著作物 |
【参考:著作権の内容】
区分 | 支分権 | 著作権法 | 内容 |
著作権 | 複製権 | 21条 | 複製(有形的に再製すること)する権利(2条1項15号) サーバーへのアップロードやハードディスクへのコピーといった有体物に固定することも含む |
公衆送信権 | 23条 | インターネットなどを通じて公衆に情報を送出する権利 | |
展示権 | 25条 | 美術の著作物・未発行写真の著作物の原作品を展示する権利 | |
譲渡権 | 26条の2 | 映画以外の著作物又はその複製物を譲渡する権利 | |
貸与権 | 26条の3 | 映画以外の著作物又はその複製物を貸し出す権利 | |
翻案権 | 27条 | 二次的著作物を作成する権利 | |
二次的著作物利用権 | 28条 | 二次的著作物について利用(上記の各権利に係る行為)する権利 | |
著作者 人格権 |
同一性保持権 | 20条 | 著作物又はその題号を勝手に改変されない権利 |
メタバース上では、自分のアバターを作成しそれを用いることが多く想定されます。 アバターの作成方法及び表現方法によって発生する権利等が異なるため、項目を分けて検討します。
作成方法及び表現方法 | 検討が必要な権利 | 結論 | |
1 | アニメ調のアバター | ||
(a)他者が作成した原画をモデリングする場合 | 著作権 | – 複製権、翻案権又は公衆送信権の侵害となり得る。 – イラスト制作を依頼した場合であっても、著作権は当然に移転されないことに留意が必要。 |
|
(b)著作権で保護されない独創性のないキャラクターやロゴをモデリングする場合 | 商標権 | – 企業のロゴやキャラクターのうち、独創性のないものは、著作物として認められない。 – 商標登録されている場合も多いが、一般的なメタバースでアバターとして利用することは、商標権の侵害に該当しない。 |
|
2 | リアル調のオリジナルアバター |
肖像権 |
– 撮影の許可を得た写真を元にアバター作成する場合であっても、メタバース上での使用許可を得ていない場合には、肖像権侵害となり得る。 – 他者の容ぼうを用いたアバターの使用は、なりすまし行為に該当し得る。 – なりすましのもとで第三者を誹謗中傷した場合等には、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性がある。 |
3 | 制作ツールを用いて作成するアバター | 著作権 肖像権 |
– 他者が容易に同一のアバターを作成できる制作ツールでは、著作権が発生しない場合がある。 – 上記2の作成方法と組み合わせた制作ツールもみられるため、その場合には肖像権についても検討が必要となる。 |
①アニメ調のアバター
自らアニメ調のオリジナルアバターを作成してメタバース上で利用する場合には問題ありませんが、他者のイラスト、キャラクター、ロゴ等をモデリングしてアバターを作成するような場合には、著作権や商標権の問題がないか検討する必要があります。
(a)他者が作成した原画をモデリングしたアバター
他者が作成したイラストやキャラクターは、一般的に著作物として保護され1、それを用いてアバターを作成した場合、複製権、翻案権、又は公衆送信権の侵害となり得ます。歌ってみたの議論と同様に、自らしか入れないメタバース上で利用した場合には私的利用の複製として許容されると考えられますが、翻案を加えて新たな著作物を作成した場合には翻案権の侵害、「オープン」なメタバースで利用した場合には公衆送信権の侵害になり得ます。
イラストレーター等に原画の作成を依頼して、それを元にしたアバターを使用する場合でも、あくまでイラストの依頼であってアバター利用の許諾までは得ていない場合、問題が生じ得ます。著作権は、制作発注や代金支払いに伴って当然に移転するものではなく、著作権の譲渡か利用許諾を得る必要があり、かつ、その譲渡や利用許諾の範囲を明確化する必要があります。
著作権の譲渡を行うと著作権そのものが譲受人へ移転します。したがって、たとえ著作者であっても譲渡後は著作物を原則として利用することができなくなります。著作権は、全部譲渡のほか、支分権や期限を区切り一部譲渡することが可能であるため、譲渡する著作権の範囲を明確化しておくことが求められます。なお全部譲渡の場合であっても二次的著作物に関する権利(著作権法27条、28条)に限っては、明記されていなければ移転しないと推定されるため注意が必要です。
著作権の利用許諾は、契約の相手方に使用を認めるに過ぎないため、著作権は相手方に移転しません。許諾を受けた者は、その契約の範囲内で著作物を使用することはできますが、他者に対して著作物を譲渡することや利用許諾をする(特約があれば利用許諾は可能)ことはできません。
したがって、他者が描いたイラストを用いてアバターを作成する場合、権利者との間で、いかなる権利の譲渡または利用許諾がなされるのか明確にしておく必要があります。
(b)独創性のないキャラクターやロゴをモデリングしたアバター
[参考: 著作物の要件] ① 思想または感情の表現であること ② 創作性があること ③ 表現されたものであること ④ 文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの |
企業のキャラクターやロゴマークなどで、例えば、独創性のない動物のイラストを用いたキャラクターや単純に文字や図柄を並べただけのマークでは、創作性の要件を満たさないため著作権は発生しないと考えられます。
企業が使用しているキャラクターやマークについては、著作権が認められないものであっても、商標登録がされている可能性が高く、これらをモデリングしてアバターを作成する場合、商標権を侵害することにならないか別途検討が必要です。
この点については、商標は、商品や役務を他人の商品または役務と識別し、出所の同一性を表示するために、営業上の標識を保護する目的で設けられています。商標権の発生には登録が必要ですが、色彩のみからなる商標や立体商標(ヤクルトの容器等)など広く認められています。
他方、商標登録がされているものを使用しても、それがどの業者の商品や役務であると認識できる態様により使用(商標的利用)されていない限り、商標権の侵害には該当しません(商標法26条1項6号)。
したがって、自らのアバターとしてそれらを使用した場合であっても、一般的には商標的利用があるとはいえず、商標権の侵害には該当しないと考えられます。
➁リアル調のオリジナルアバター
3Dスキャナーやカメラ等を用いて、実在する人物の外見を元にアバターを作成する方法も存在するようですが、この場合、対象人物の肖像権を侵害しないかが問題となります。
肖像権は、憲法13条の幸福追求権を根拠として認められる権利であり、「撮影されない人格的利益」と「撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」を内容とします。許可を得て他者の容ぼうを撮影した場合であっても、それを用いてアバターを作成しメタバース上で使用することの許可を得ていない場合、後者の肖像権の侵害となり得ます。
また、他者の容ぼうを用いたアバターを使用した場合、第三者からは、そのアバターを操作している人物は本人だと認識される可能性が高く、いわゆるなりすましとして問題になり得ます。なりすましのもとで第三者を誹謗中傷したような場合には、本人をそのような人だと思わせてしまう可能性があるため、名誉毀損として刑事上・民事上の責任を負う可能性があります。
③制作ツールを用いて作成するアバター
プラットフォームが提供するツールを用いて、アバターの髪型や目、輪郭、口の形を選択肢から選び、アバターを作成する方法があります。その選択肢が狭く他者が容易に同じアバターを作成できる場合には、創作性の要件を満たさないため、著作権は認められないと考えられます。選択肢が無数にあり細やかな調整をすることができる場合や、外部から購入したオブジェクトやアイテムを持ち込んで作成することができる場合には、創作性の要件は満たすとも考えられますが、思想または感情の表現であるといえるかは検討が必要です。
また、実在の人物の外見を読み込み、それを編集してアバターとする、②の方法と組み合わせたような作成ツールもみられます。この方法を用いているアバター制作ツールでは、デフォルメされた外見となる場合が多いため創作性が認められない可能性が高いものの、よりリアルな容貌に近づいた場合には②で述べた肖像権についても検討することが必要です。
④今後保護される必要があると考えられる権利
これまでは、ゲーム等にてアバターを作成した場合、当該プラットフォームにおいてのみ使用できるのが一般的で、同じアバターを他のプラットフォームで使用できる例は限定的でした。しかし、メタバースの相互運用性が重視される中で、プラットフォームをまたいで使用できるアバターの必要性が高まっています。
エストニアに拠点を置き2014年に設立されたWolf3Dが開発したアバター作成システム「Ready Player Me」では、複数のVRゲームやプラットフォームで同一のアバターを使用できる”ハブ”システムが実装されており、2021年12月末の時点で、このアバター作成システムを採用している企業は1000社以上にのぼります。
メタバースの相互運用性が高まり、現実世界と同じようにメタバース上で他社と取引を行ったり金銭を稼ぐことが当たり前になった世界においては、現実世界の外見と同じように、アバターそれ自体に肖像権等に類似する権利が必要となり得ると考えられます。
他方、アバターは外見を自由に変更することや、複数のアバターを状況により使い分けることができるため、現実の人物と同様の権利をアバターに認める場合、どのような案件でアバターを保護すべきか明確ではなく、別途検討が必要です。
従来のゲーム等では、ユーザーは予め用意されたコンテンツを利用するのが一般的でしたが、メタバースにおいてはユーザーがワールドなどのコンテンツを作成し、そのワールドに他のユーザーを来訪させる等ができるものが多くあります。以下、そのようなユーザーが作成したコンテンツ(User Generated Contents、以下「UGC」)に係る権利と取扱いについて検討します。
UGCについては、著作物の要件を満たした場合、著作権は創作者に帰属するのが原則です(著作権法17条1項)。しかし、ワールドの著作権を創作者に帰属させた場合、(i)UGCのプラットフォーマー及び他のユーザーへの公開使用、(ii)プラットフォーマー及びユーザーが必要な範囲で行うUGCの複製や二次的創作物の制作等、(iii)プラットフォーマーによるサービスの維持、宣伝など必要な範囲で行うUGCの無償利用等、プラットフォーマーがサービスの提供を行う上で必要とする行為が、ワールド作成のユーザーにより制限又は禁止することが可能となります。
他方、ワールドなどのUGCの著作権を創作者に一切帰属させない旨を利用規約として合意を求める場合には、ユーザーの創作意欲や参加意欲を減退させたり、自らの知的財産をワールド上で使用することを避ける要因になると考えられます。
そのため、UGCについてプラットフォームがどのような権限を必要とするのかを検討したうえで、ユーザーの権利保護とプラットフォーマーの運営上の必要性の調節を志向することが望ましいと考えられます。
上記のようなユーザーの表現行為や創作活動、とりわけ第三者の権利を侵害し得る行為について、サービスを提供するプラットフォーマーはどのように対応すべきかを検討します。
プラットフォーマーは、ユーザーとの合意事項として利用規約を定めているが、一般的であり、当該利用規約に基づく責任を負います。利用規定に基づいて対応を行うのが通常と考えられます。
もっとも、自由度の高いメタバースにおいては、上記で検討したような一般的なインターネットサービスでは想定されていなかった権利侵害行為が生じ得ます。そのため、利用規約に基づく対応をスムーズに行うためには、プラットフォーマーにおいて、予めユーザーの属性やサービスの内容を考慮して、トラブルになり得る表現行為や創作活動を洗い出しておく必要があります。ただしユーザーの自由度を過度に制約することの無いよう、専門家にも相談の上、それぞれ法的にどのように問題になるのかを検討しておくことが望ましいと考えられます。そのうえで、権利侵害行為や違法行為に該当するものについては明確に禁止・制限し、さらに該当規約に違反した場合にプラットフォーマーがどのような措置をとることができるのかについても規定することを検討する必要があります。
他方で、UGCのようなユーザーの創作活動を促進させたい場合には、利用規約で一律に権利侵害罪行為を制限するものではなく、ユーザー間で簡易な利用許諾や権利譲渡の仕組みを提供することなども考えられます。
なお利用規約でカバーしきれないトラブルが生じた場合には、プラットフォーマーは、プロバイダー責任制限法に基づく責任を負う可能性があると考えられます。プロバイダ責任制限法4では、例えば、下記の要件に基づく損害賠償や発信者情報開示などの責任があり留意が必要です。
要件 | |
損害賠償 | (i) 情報の流通による権利侵害 (ii) 送信を防止することが技術的に可能 (iii)権利侵害を知っていたときなど |
発信者情報開示 | (i) 情報の流通による権利侵害が明らか (ii)発信者情報が損害賠償のために必要その他正当な理由 |
同法の要件該当性の判断をスムーズに行うためにも、上述した該当プラットフォーム特有の権利侵害公の検討をしておくことがコンプライアンス上有意義であると考えられます。
留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。
当事務所では、現在、メタバースに関する各種のお問い合わせを頂いております。
その中には重複するご質問もあり、本連載ではメタバースで問題となる主要な法的問題をできるだけ分かりやすく、連載していく予定です。
メタバースBlog連載の予定 (1) メタバース×法律 I – メタバースとは何か (2) メタバース×法律 II – ユーザーの演奏や歌唱、ユーザー作成コンテンツ(ワールドやアバター)と法律 [https://innovationlaw.jp/metaverse2/] (3) メタバース×法律 III – メタバース上の取引に関する法律 – 所有権、支払い、NFT規制、労働など [https://innovationlaw.jp/metaverse3/] (4) メタバース×法律 IV – メタバース上の嫌がらせ、不法行為、名誉棄損 |
その他の当事務所のメタバース関係のBlog等 (1) 都市再現型メタバースにおける知的財産権の整理(2022.05.13) https://innovationlaw.jp/metaverse-ip/ (2) クリプト業界のためのメタバース入門(2022.05.30) https://www.slideshare.net/SoSaito1 また、NFTに関する記事も多数アップしていますので、メタバース上でNFTを利用する場合、当事務所のその他の記事をご参照下さい。 |
更にVRなどを利用することは必須ではなく、Fortnite、Robotex、どうぶつの森などの3Dないし2Dのゲームもメタバースと考える論者も存在し、どのような文脈でメタバースという用語が使われるのかは留意が必要です。
例えば、一般社団法人Metaverse Japanでは、メタバースについて下記のように考えていると思われ、参考になります。
メタバースとは何か ① メタバースという言葉自体は非常に広範に使われており、それぞれの業界がそれぞれの理解でメタバースを名乗っているのが現状 ② 今後テクノロジーや時代の変化の中でメタバースという概念が収斂していくものと想定 ③ メタバースとは「仮想現実空間を利用し、ユーザー同士のコミュニケーションや現実さながらのライフスタイルを可能にする世界であると同時に、物理世界を拡張する世界」という大きな枠組み ④ 10年後には多くのアプリがVRやARにネイティブ対応可していくことを想定しているので、現時点でXRに対応しているか否かは最重要事項ではない |
上述したMetaverse Japan回答によると、一般社団法人Metaverse Japanではメタバースを下記の6つに分類していると考えられ、参考になります。
分類 | どういうもの? | 具体的例 | |
1 | 産業用メタバース | 製造業や各種シュミレーション、XRミーティングを活かした共創ツールといった、産業用途のメタバース | NVIDIA社の提唱するomniverseやMicrosoft社の提唱するMicrosoft Meshのように |
2 | 物理拡張メタバース | 人間とロボットの共通認識を持つデジタル空間としてのメタバースや、ARを活用したメタバース。リアル拡張までを概念として含む | |
3 | バーチャルSNS | ユーザー同士の交流や関係性を拡張的に構築する場としてのメタバース アバターやワールド等を一般ユーザーが製作できるようSDKが公開されているものが多く、バーチャルネイティブなカルチャーを発信するユーザーコミュニティも発展 |
Cluster |
4 | Web3メタバース | Web3要素と紐づいたメタバース NFTや仮想通貨が発行されることが多い |
Sandbox、Othersid、Decentraland、Oncyber、RTFKT、HighStreet |
5 | IP主導メタバース(エンターテイメントメタバース) | ディズニーなど強力なIPが主導するIP完結メタバース 東京ガールズコレクションなどイベント単位のメタバース |
ディズニーメタバース、ガンダムメタバース、東京ゲームショウ、東京ガールズコレクションメタバース |
6 | ソーシャルプラットフォーム型のゲーム | 事実上の次世代ソーシャルプラットフォームとして稼働しているゲーム 注:これらのゲームをメタバースに含めるかは様々な議論があるが、これらの動向を全く見ないでメタバースを語ることは、大きな時代の変化を見過ごすリスクが高いので、Metaverse JapanではWGのメイン要素ではないが取り扱う、としている。 |
Roblox、Fortnite、どうぶつの森 |
出典 上記Metaverse Japan回答を参考に弊事務所で加筆・修正
メタバースには幅広いプレイヤーが参加しています。例えば、以下のようなメンバーが参加しています。
(参考) メタバースマーケットマップ
(参考) メタバースカオスマップ
メタバースでは、NFT(Non Fungible Token)と呼ばれるトークンが使用されることがあります。NFTを利用することにより、メタバース内での財産的価値を把握したり、移転をしたり等ができることから、メタバースとNFTは親和的と考えられます。
しかし、NFTの利用は必須ではなく、財産的価値の購入や移転の概念がないメタバースも多数存在しています。産業用メタバース等、財産的価値の購入や移転は必要ないことが多いでしょう。また財産的価値の購入や移転があっても、Web2型のメタバース、例えば企業1社が運営し、運営する1つのメタバース世界で完結する仕組みであれば、わざわざブロックチェーン技術を使ったりNFTを使ったりする必要はありません。
上述したMetaverse Japan回答では「Web3の要素と絡んだメタバースにおいてNFTは重要ですが、Web3要素のないWeb2型の企業が運営するメタバースのほとんどでは、今後もNFTは関連づけられません。数年の間はWeb3型のメタバースとWeb2型のメタバースは各々別々の進化をたどる期間が続くと予想しております。」としています。
このようにメタバースとNFTは一致するものではありませんが、NFTが重要な要素であること自体は間違いないと思われるため、本連載では別途、メタバース上のNFTの利用の法律関係について記載する予定です。
各種のメタバースと NFT の使用の有無
分類 | 事例 | 財産の購入の例 | |
1 | アイテムの購入、移転などがないメタバース | 多くの産業用メタバース、物理拡張メタバース | なし |
2 | アイテムの購入、移転などがあるが、1社で完結するメタバース(Web2型メタバース) | 多くのゲーム、多くのIP主導型メタバース、多くのソーシャル型メタバース | 例えばFortniteではV-bucksというゲーム内通貨を購入し、スキン(コスチューム)を購入できる。 クラスターではアバターをクレジットカード、アプリ課金で購入できる。 |
3 | 他の世界との間でアイテムの移転等を考えるメタバース(Web3型メタバース) | Sandbox、Decentralandなど | NFT化されたランド、武器などを、ETHやDOTなどの暗号資産で購入できる |
留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける法的論点について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。
メタバース(仮想空間)ビジネスの拡大・浸透に伴い、メタバース上で表現されるデジタルアートやロゴなど、知的財産の保護が問題となるケースについてご相談を受けることが増えています。
例えば、2022年以降、アメリカでは、メタバースビジネスの一環としてエルメスのバーキンというバッグに毛皮を被せたデザインのNFTシリーズ(参考図1)を販売した者に対し、エルメスがその知的財産を侵害されたとして提訴した事例などが報道されています。日本においても、2022年3月30日に公表された、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討PT「NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略) 」にてメタバースについて言及されており、コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策として、意匠法の改正を含めたメタバースにおけるデザイン保護の必要性などが提言されています。また、2022年4月22日には、KDDI、東急などで運営される「バーチャルシティコンソーシアム」が、「バーチャルシティガイドラインver1.0」を公開し、知的財産権を含むバーチャルオブジェクトの権利関係の注意点について言及しています。
知的財産権は著作権や商標権などを含む概念であり、それぞれ成立要件や保護期間などが異なります。しかし、メタバースにおける知的財産の侵害態様は様々なものが想定される一方で、「IPの盗用はよくない」という結論自体のイメージは持ちやすいためか、それぞれどの権利が問題となるのかという結論の過程に至る詳細な検討がされていないケースが少なくないように思われます。
本稿では、主に、現実の都市を再現したケースを想定して検討を行い、メタバースにおける知的財産の問題を入門的に整理することを試みます。
以下は、JCBAの2022年5月勉強会で当職らが行った「クリプト業界のためのメタバース入門」というセミナーの資料です。併せてご参照ください。 https://innovationlaw.jp/crypto-metaverse/ |
(参考図1) メタバーキンNFT
[著作権] ● 一般的な建築物は、著作権で保護されない。 ● 屋外に恒常的に設置されている美術の著作物は、原則自由に利用することができる。 ● 広告などの著作物は、景観の一部を構成するにすぎないと考えられる場合には、写り込みとして著作権侵害にならない可能性がある。 [意匠権] ● 意匠権は登録がなければ発生しない。 ● 意匠権は同一又は類似の意匠にしか効力が及ばず、メタバース上での再現はこれに該当しないと考えられる。 ● 意匠登録することができる画像は限定的であり、都市再現型のメタバースで問題になることは想定しがたい。 [商標権] ● 商標権は登録がなければ発生しない。 ● メタバース上の景観の一部として再現したに過ぎない場合には、商標権の侵害とならないと考えられる。 [商品表示(不正競争防止法)] ● メタバース上の景観の一部として再現したに過ぎない場合には、商品表示に該当しないと考えられる。 |
メタバースでは、例えば渋谷の街頭など現実の都市が取り上げられることがあります(参考図2)。このような場合に、他者に権利帰属する知的財産がデジタルやバーチャルの形で表現されることがあり得ます。近年の知的財産法の改正により、従来のイメージと異なる客体についても権利保護がなされているケースもある一方で、一定の態様であれば知的財産の侵害に該当しない場合もあり得るため、どのような事例が知的財産権侵害になるか検討をする必要があります。
以下では、各知的財産権について問題となり得る項目を想定事例をあげて検討します。
(参考図2) バーチャル渋谷
【参考:著作権、意匠権、商標権、商品表示の違い】
著作権 | 意匠権 | 商標権 | 商品表示 | |
対象 | 文芸、学術、美術、音楽、プログラム | 物品、建築物、画像のデザイン | 商品・サービスに付する標章 | 周知・著名な商品表示 |
具体例 | 小説、絵画 | 家具、部品 | ロゴマーク | 有名なロゴ |
根拠法 | 著作権法 | 意匠法 | 商標法 | 不正競争防止法 |
登録 | 不要 | 必要 | 必要 | 不要 |
要件 | (i)人の思想又は感情が表現 (ii)創作性 (iii)文芸・学術・美術・音楽の範囲 |
(i)量産性 (ii)新規性 (iii)創作非容易性 (iv)先願 など |
(i)使用意思 (ii)識別力 など |
(i)周知性又は著名性 (ii)類似性 (iii)混同のおそれ など |
期間 | 著作者の死後70年 | 出願日から最長25年 | 設定登録から10年 何度でも更新可 |
- |
救済・罰則 | 差止め 損害賠償 刑事罰 |
差止め 損害賠償 刑事罰 |
差止め 損害賠償 信用回復措置 刑事罰 |
差止め 損害賠償 刑事罰 |
現実の都市を再現したメタバースでは、実際に存在する建築物や美術品が表現されることがあります。その建築物や美術品が著作物に該当する場合には、メタバース上でこれらを表現することが著作権の侵害にならないか問題となります。
↓
想定事例1)JR渋谷駅の外観をメタバース上で再現した場合
著作権は著作物についてのみ生じ、(i)思想又は感情の表現、(ii)創作性、(iii)文芸・学術・美術・音楽の範囲に属することといった要件を満たす必要があります。一般的な建物のデザインは、居住や人の往来といった建物の機能・便益に供することを第一に採用され、原則的にこれらの要件を満たさず著作物には該当しません。
一般的な建築物として注文住宅の著作物性が問題となった裁判例として、下記が参考になります。
(大阪高決平成16年9月29日(判例秘書判例番号L05920554)) 一般住宅が著作権法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。 |
JR渋谷駅は、上記裁判例で示されたような建物としての機能や実用性と独立した美的要素が認められるような建築物ではないため、著作権の保護は及ばないと考えられます。
なお、後述するJR上野駅と異なり意匠登録もされていないため意匠権の問題は生じません。JRのロゴ等も再現する場合の商標の問題については(2)をご参照ください。
想定事例2)忠犬ハチ公の銅像をメタバース上で再現した場合
JR渋谷駅ハチ公口前に設置されている忠犬ハチ公の銅像は、創作者の思想が創作的に表現された美術の著作物に該当すると考えられます。 しかし、原作品が屋外に設置されている美術の著作物については、著作権法46条(下記参照)により、一定の例外のもと、自由に利用することができるとされており、忠犬ハチ公の銅像についてもメタバースで再現することを妨げられません。
第46条(公開の美術の著作物等の利用) 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。 一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合 二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合 三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合 四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し又はその複製物を販売する場合 |
想定事例3)建物外壁などのキャラクター広告を再現した場合
現実世界の建物の外壁や巨大看板などにおいて、著作物であるキャラクターが広告として掲げられている場合があり、これをメタバースで再現することも考えられます。この場合、原作品が恒常的に屋外に設置されているとはいえないため、著作権法46条の適用はありません。その著作物を表現したデータをアップロードした場合には、複製権・翻案権・同一性保持権の侵害になりえます(下記参照)。
この場合であっても、メタバースのごく一部を構成するにすぎないと整理することができる場合には、対象を伝達する際に写り込んだ著作物の利用について正当な範囲で著作権侵害に当たらないとする著作権法30条の2(下記参照)の適用があり得ます。
【参考:著作権の内容】
区分 | 支分権 | 著作権法 | 内容 |
著作権 | 複製権 | 21条 | 複製(有形的に再製すること)する権利(2条1項15号) サーバーへのアップロードやハードディスクへのコピーといった有体物に固定することも含む |
公衆送信権 | 23条 | インターネットなどを通じて公衆に情報を送出する権利 | |
展示権 | 25条 | 美術の著作物・未発行写真の著作物の原作品を展示する権利 | |
譲渡権 | 26条の2 | 映画以外の著作物又はその複製物を譲渡する権利 | |
貸与権 | 26条の3 | 映画以外の著作物又はその複製物を貸し出す権利 | |
翻案権 | 27条 | 二次的著作物を作成する権利 | |
二次的著作物利用権 | 28条 | 二次的著作物について利用(上記の各権利に係る行為)する権利 | |
著作者人格権 | 同一性保持権 | 20条 | 著作物又はその題号を勝手に改変されない権利 |
第30条の2(付随対象著作物の利用
|
意匠とは、物品・建築物の形状等又は画像で、視覚を通じて美感を起こさせるものをいい、登録することにより意匠権を取得することができます。登録を受けるためには、工業上利用することができること、新規性、創作非容易性などの要件を満たす必要があります。
想定事例4)JR上野駅の外観をメタバース上で再現した場合
直近の意匠法の改正により、物品に加えて建築物・画像についても意匠登録が可能となっており、JR上野駅は駅舎として意匠登録をしています(意匠登録1671774)。
しかし、意匠権は、同一又は類似する意匠にしか効力が及ばない(意匠法23条)ため、メタバース上でJR上野駅を再現したとしても、それは現実の駅舎であるJR上野駅と同一又は類似の意匠とはいえず、その効力は及ばないと考えられます。
なお、意匠登録の対象となる画像についても、機器を操作するための画像や、操作した結果を表示する画像に限られており、これらに該当し得ないデジタルアセットについては、画像として意匠権の保護対象になり得ません。この点について、自民党のNFTホワイトペーパー(案)では、意匠権による保護対象の拡大を含めた法改正による手当ての可能性について提言されています。
商標権者は、登録時に指定した商品・役務について登録した商標を使用する権利を専有します。なお立体的な形状の商品や営業を提供する建物などの立体商標についても登録が認められています(ヤクルトの容器やケンタッキーの人形、東京スカイツリーなど)。
想定事例5)JR渋谷駅のJRのロゴをメタバース上で再現した場合
商標権の効力は、指定商品・役務と同一又は類似のものについてのみ及ぶため、メタバース上のアセットの商標として登録されていない限り、その効力は及ばないと考えられます。
また、商標登録がされているロゴを使用しても、それがどの業者の商品・役務であると認識できる態様により使用(商標的使用)されていない限り、商標権の侵害には該当しません(商標法26条1項6号)。メタバース上で単なる景観の一部としてJR渋谷駅にロゴが再現されていた場合には、それはJRによる商品・役務であると混同させるものではなく、商標的使用がなされていないと考えられます。
広く認識されている商品表示(提供主体やブランドを示すサイン)については、商標登録がない場合であっても、不正競争防止法により保護される場合があります。
具体的には、周知な商品表示について、第三者が自己の商品表示として使用して商品の混同を生じさせること(混同惹起行為、2条1項1号)と、さらに広く認識されて著名といえる商品表示について、混同の恐れがない場合であっても使用することが禁止されています(著名表示冒用行為、同項2号)。
もっとも、メタバース上で周知又は著名な商品表示を再現した場合であっても、それは都市景観の一部を構成するにすぎずメタバースの提供主体を示すものではないため、商品表示として使用されたものではないと考えられます。
留保事項
本稿の内容は、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎず、関係当局の確認を経たものではありません。本稿は、メタバースにおける知的財産の問題について議論のために纏めたものにすぎません。具体的な案件における法的助言が必要な場合には、各人の弁護士等にご相談下さい。