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I. 初めに

暗号資産の価格上昇に伴い、ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。
南米やアフリカでは金融インフラが不十分な地域を中心に、ビットコインやステーブルコインが日常決済で急速に普及しています。例えば、エルサルバドルではビットコインが法定通貨として採用され、納税や個人間送金にも活用されています。先進国アメリカでも、オンラインショッピングやサブスクリプションサービスでCrypto決済を導入する企業が増えています。

一方、日本では2017年にビックカメラがビットコイン決済を導入したことが大きなニュースになったものの、その後のCrypto決済の普及は限定的だと思われます。その主な原因として、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きな課題です。ただし、値動きが少ないステーブルコインが普及すれば、日本でもCrypto決済が広がる可能性があります。

本稿では、Crypto決済の仕組みを解説し、日本で導入する際の法律上の論点について述べます。
本稿の「Crypto決済」とは、暗号資産決済やステーブルコイン決済を含む幅広い概念として扱いますが、法律議論は主に暗号資産を中心として議論します。ステーブルコインの売買や管理に関する規制は概ね暗号資産規制と同様であり、適宜、読み替えてお読み下さい。

II. 世界のCrypto決済の例

Cypto決済の例は、大きく分けて二つのカテゴリーに分けられます。一つはCryptoを直接決済に使用する例、もう一つはクレジットカードやデビットカードを使用した例です。下記では、海外で行われている例の一部を紹介します。

1. Cryptoを直接決済に用いる例

〇アメリカ

〇エルサルバドル

〇シンガポールや韓国

〇スイス

2. Crypto決済にカードを用いる例

〇クレジットカード1/デビットカード型

〇デビットカード型

〇プリペイドカード型

III. Crypto決済と日本法

1. 法律のまとめ

  暗号資産法 割賦法、貸金業法、前払式支払手段規制 外為法
自社店舗によるCrypto決済の受入れ なし なし 非居住者との3000万円以上の決済の場合には外為法の報告
決済代行業者を利用したCrypto決済 決済代行業者に売買規制の適用可能性 なし 同上
クレジットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 割賦法(ショッピング)及び貸金業法(キャッシング)の適用可能性 同上
デビットカード型 保管規制、売買規制の適用可能性 なし 同上
プリペイドカード型 なし 自家型又は第三者型として前払式支払手段規制の適用 同上

2. 自社店舗によるCrypto決済

自社の実店舗やオンライン店舗でCryptoを決済に収受する場合の規制を解説します。
日本では、暗号資産の売買、その媒介や他人のためにする管理は、暗号資産交換業として規制されています。しかし、自社の店舗でCryptoを決済として受け取ること自体については規制が存在しません。
また、受け取ったCryptoを自社で保有したり、暗号資産交換業者を利用して金銭に交換することにも規制はありません。
ただし、非居住者との間で、3000万円以上の決済を行う場合は、原則として外為法上の報告義務が発生します(外為法55条)。この報告義務は、3000万円相当のCryptoでの決済場合も同様であり、居住者による報告が必要となります。この外為法上の報告義務は、2以下の場合でも同様に当てはまります。

3. 決済代行業者を利用したCrypto決済

日本の会社の中には、自社で暗号資産を保有したり管理したりすることに抗拒感を持つ会社が存在します。これは、価格変動やハッキングなどのセキュリティリスク、会計や税務上の問題などが原因として挙げられます。
このような会社は、第三者である決済代行業者(以下「決済代行者」といいます。)を利用し、決済代行者が暗号資産を収受し、これを日本円に変換して店舗などの会社に渡すスキームが取られることがあります。

このスキームは、下記の行為の組み合わせとなります。
①暗号資産を他人のために収受する。
②収受した暗号資産を他人のために日本円に変換する。
③変換した日本円を会社に渡す。

しかし、この中の「②暗号資産を日本円に変換する」行為は、決済代行者が暗号資産交換業を営んでいるとみなされ、原則として暗号資産交換業の登録が必要と考えられます。
この点について、日本ではコンビニエンスストアや宅配便業者による収納代行が特に規制なく行われていることとの比較が問題となります。決済代行者が行う行為も収納代行であり規制は存在しないと考えられないか、以下のような整理ができないか問題となります。

①店舗から決済代行者が収納代行の権限を与えられる。
②決済代行者は暗号資産を自分のものとして収受する。
③その委任事務の処理の一環として日本円を渡す。
④これは変換行為ではなく、委任事務の処理上の支払い方法にすぎない。

このような考え方は理論上は可能かもしれませんが、筆者の経験では、実際の運用では当局との議論が厳しくなる可能性が高いと考えられます。そのため、実務上は暗号資産交換業の登録が必要な可能性が高いと考えておくのが安全でしょう。
ただし、他の業務や委任された事務に付随する形で行われる場合、その具体的な内容によっては許容される可能性もあります。この点については、ケースごとに慎重な検討が必要です。

4. クレジットカードタイプ

(1)仕組み

クレジットカードタイプのCrypto決済として考えられる典型的な例は、次のような仕組みになります2

①暗号資産交換業者またはその連携会社がクレジットカードを発行。
②ユーザーが円立てやドル立てで商品を購入。
③通常のクレジットカードとは違い、決済はユーザーの暗号資産交換業者のアカウントからビットコインなどが引き落とされる。

(2)割賦販売法

日本において、クレジットカードの発行には、「2ヶ月を超える分割支払い」「リボルビング支払い」「ボーナス一括支払い」などの機能を提供する場合に割賦販売法が適用されます。
一方、「翌月1回払い」のみのカードは割賦販売法の対象外であり、規制を受けずに発行可能です(割賦販売法2条の定義参照)。ただし、このようなカードは便利性が限られるため、実際にはほとんど発行されていません。
暗号資産にリンクするクレジットカードでも、この規制が適用されます。

(3)貸金業法

クレジットカードのキャッシング機能は、商品やサービスの購入ではなく、借入であるため、割賦販売法ではなく貸金業法の規制対象となります。
暗号資産にリンクするクレジットカードであっても、キャッシングを円や外貨で行える場合には貸金業が適用されます。ただし、暗号資産でキャッシングできる場合は、暗号資産レンディングには貸金業法が適用されないため規制対象外です(貸金業法2条の定義参照)。

(4)暗号資産法

暗号資産にリンクしたクレジットカードの場合、この暗号資産の保管には暗号資産交換業が適用されます。
さらに、決済の過程で暗号資産の売買行為に該当することがあります。

この場合、上記行為は暗号資産の売買であり、暗号資産交換業の登録が必要になると思われます。
なお、クレジットカードの決済は原則として金銭で行うが、ユーザーが事後的に暗号資産での代物弁済を選択できる、といったスキームである場合、これは代物弁済にすぎず、暗号資産交換業は適用されないと思われます。

5. デビットカードタイプ

(1)仕組み

デビットカードタイプのCrypto決済の典型的な例は次のような仕組みです。
①暗号資産交換業者またはその連携会社がデビットカードを発行。
②ユーザーが暗号資産交換業者にビットコインなどを預託。
③ユーザーは預託した暗号資産の範囲で、円立てやドル立てで商品を購入可能。
④商品購入時に、ビットコインが自動的に円転される。

(2)デビットカード発行に関する規制

日本では、デビットカードの発行自体には特別な規制はありません。しかし、例えば普通のデビットカードは預金を組み合わせて発行されるため、銀行法の適用対象となります。
一方、暗号資産を連携したデビットカードの発行には銀行法は適用されず、以下の論点が生じる可能性があります。

(3)暗号資産法

他人の暗号資産を業として管理する場合は、暗号資産交換業者としての登録が必要となります。また、売買規制が適用される可能性もあります。

6. プリペイドカードタイプ

(1)仕組み

前払式支払手段とは、図書券やAppleギフトカード、Amazonギフトカードのように、事前に対価を支払い、その対価に応じた、残高などが付与され、残高で決済ができる仕組みをいいます

前払式支払手段型のCrypto決済は、次のような流れになります。
①発行会社がプリペイドカードを発行。
②ユーザーが発行会社にビットコインなどを送付。
③送付されたビットコインの時価に従ったチャージが行われる。例:0.001BTCであれば1.5万円相当。
④ユーザーがカードを使用した際に、チャージ残高から減額される。

(2)前払式支払手段の発行規制

日本における前払式支払手段の発行は、「自家型」と「第三者型」に分けられます。

自家型の場合には届出、第三者型の場合には登録が必要となり、いずれの場合も未使用残高の半分の供託などの規制がかかります。

ただし、次の場合は規制が適用されません。

(3)暗号資産法の適用

プリペイドカードは、クレジットカードやデビットカードと異なり、原則として暗号資産交換業の規制は適用されないと考えられます。この理由は下記のとおりです。
①発行会社は暗号資産を保管しているわけではない。
②チャージで、暗号資産の金額に応じたチャージがなされるが、これは金銭と暗号資産の交換ではない。あくまで前払式支払手段の発行行為にすぎない。
③暗号資産同士の交換にも該当しない。

ただし、チャージした暗号資産を、再度暗号資産に戻すこと(払い戻し)が可能なスキームの場合、実質的には暗号資産の預託とみなされ、暗号資産交換業におけるカストディ規制が適用される可能性があります。

IV. 法律以外の問題

1. Crypto決済と税務

(1)Crypto決済時の利益確定について

Crypto決済は、決済を行った時点で利益が確定したとされ、この利益に税が課されます。たとえば、1万円で取得した暗号資産が5万円に値上がりし、その暗号資産を使用して決済を行った場合、4万円の利益が発生します。この利益は、個人の場合「雑所得」に分類され、他の所得と合算した総合課税にて、最大55%の税率が適用されます。

(2)少額決済の記録と確定申告の手間

Crypto決済を行った場合には、上記のような課税がなされるため、原則として確定申告が必要になります。雑所得が20万円以下であり、かつ1か所から給与を受け取らない給与所得者である等の場合には確定申告の義務がありません。
しかし、雑所得が20万円を超える場合や、雑所得が20万円以下でも自営業者、フリーランス、副業がある等でそもそも確定申告の義務がある場合、Crypto決済での利益についても1円単位で申告する必要があります。
たとえば、日常的な買い物で暗号資産を使用した場合、各取引時点の暗号資産の時価を記録し、その利益を合算して申告することが求められます。この記録と計算の手間は非常に煩雑であり、特に少額決済を頻繁に行う場合、実務上大きな負担となります。
なお、この問題は、本来は、海外旅行で余った外貨を後日使用した場合にも適用されます。例えば1ドル120円の時に入手した10ドルを、何年後かの海外旅行で1ドル150円で使用した場合には、差額の30円×10ドル=300円について雑所得として課税され、確定申告が必要となります。

(3)Crypto決済への海外での課税

海外では暗号資産に関するキャピタルゲイン課税がない国や、ある場合にも少額の場合や長期保有の場合に課税対象外とする、という国があります。

(各国の税制=Chat GPT等調べ)

1 個人の暗号資産取引についてキャピタルゲイン課税がない国 シンガポール、ポルトガル、スイス、マレーシア、UAE、エルサルバドル
2 個人が長期で保有した場合、キャピタルゲイン課税がない国 ドイツ(1年以上保有した場合には非課税)
3 一定の限度額の範囲でキャピタルゲイン課税がない国 イギリス(年間6000ポンド=約120万円まで)
イタリア(年間2000ユーロ=約32万円まで)
韓国(年間2500万ウォン=約250万円まで)
ブラジル(月額35,000ブラジルレアル=約90万円まで)
4 少額決済には非課税の国 オーストラリア(1取引が10,000豪ドル=約90万円以下の「個人的利用目的(Personal Use Asset)と見なされる場合、非課税)
5 少額決済への非課税化を現在議論中の国 アメリカ(現在は短期保有か1年以上保有の長期保有かに分けて課税。1回あたり200ドルまで利益の少額決済については課税しない議論が進行中)
6 少額決済でも基本的に課税される国 日本(但し、確定申告義務ない人の場合には20万円までの雑所得は非課税)、フランス、カナダ、アルゼンチン

日本で暗号資産のキャピタルゲインを課税しない議論は極めて難しいと思われます。また、G7でも米国、フランス、カナダが課税の現状下、少額決済に課税しないとの議論を当局に説得的に要望することは難しいかもしれません。
しかしながら、各国がWeb3の進展を図る中、特に米国で少額決済の非課税化が通った場合には、日本でも競争政策上少額決済の利益には課税しない等の制度を導入することが必要なのではと思われます。

2. カード発行と国際ブランドとの接続

暗号資産リンク型のカードを発行する際には、多くの場合、国際ブランド(VISA、MasterCard、Amex、JCB、Dinersなど)と契約し、その決済ネットワークを利用します。この際、国際ブランドは、自身が規制を受けているため、カード発行体に対して以下のような審査を行うことが通例です:

さらに、国際ブランドと直接契約する代わりに、既に国際ブランドと強固な関係を持つ日本のクレジットカード会社を通じて提携カードとして発行する方法もあります。この場合、カード発行プロセスの一部が簡素化される可能性がありますが、それでも一定の規制対応やコストが発生する点には注意が必要です。

V. 今後の発展の可能性、課題

本邦ではCrypto決済は必ずしも普及していないと思われます。これは規制というよりも、Crypto決済時に利益が確定し個人の場合には最大55%の課税が発生すること、少額決済の記録や確定申告の手間が大きいのではと思われます。
ステーブルコインが普及した場合、相当程度の問題は解決される可能性があるものの、現時点では日本でステーブルコインがどの程度普及するかは未知数です。
今後、Web3分野での国際競争の観点からも、Crypto決済の税務面が改善されることが期待されます。

留保事項

創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

1初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。
LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことについては、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」という通知が2023年4月19日に経済産業省が出され、取扱いが整理されたところである(当事務所の以前のArticle「LPS法とトークン投資に関する2023年4月19日付経産省通知について」(2023年4月25日)参照)。

しかしながら、暗号資産(資金決済法第2条第14項)市場が引き続き拡大し、いわゆるWeb3.0系スタートアップを含め暗号資産による資金調達を目指すスタートアップ企業も増えている中、暗号資産への投資を促進すべきであるとの意見が多く唱えられてきた。[1]また、経済産業省も、LPSによる暗号資産への投資については、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、取扱いについて検討を行うとしていたところである。今般、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」(2024年5月31日成立、同年6月7日公布)により、LPS法が改正され、主として、①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められることとなり、②合同会社への出資が認められることとなり、また③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったことから、本稿では、かかる改正内容について概説する。

2.LPSが投資できる資産

LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号及び新設された第2項の規定及びその解釈による。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。また、特に断りが無い限り、本稿では、改正後のLPS法の内容及び条文番号を記載している。

第3条第1項
・ 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の持分の取得及び保有企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有(第1号)

・ 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有(第2号)

・ 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[2]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有(第3号)

・ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有(第4号)

・ 事業者に対する金銭の新たな貸付け(第5号)

・ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有(第6号)

・ 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有(第6号の2)

・ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)(第7号)

・ 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業(第8号)

・ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資(第9号)

・ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの(第10号)[3]

・ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの(第11号)[4 ]

・ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用(第12号) [5]

第3条第2項
前項第一号から第三号まで、第六号又は第八号に掲げる事業に係る株式、持分、新株予約権又は指定有価証券には、前条第一項の政令で定める者については、これらに類似するものであって外国の法令に準拠するものを含むものとする。

3.①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められること

従来のLPS法下では、日本の会社法下で設立された株式会社であれば、その株式をLPSが取得及び保有することが上限なく可能であったのに対し、外国籍の法人であれば、日本法人の子会社であっても、「外国法人」の発行する株式の取得として、投資金額(なお、投資約束金額ではない。)の50%未満の範囲でしか、投資が認められなかった。

しかしながら、今般の改正により、「事業者」という定義が、「法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)」とされ(LPS法第2条第1項。以下、下線部の外国法人を「日本法人等が支配等する外国法人」という。)、株式会社の発行する「株式」には、これらの日本法人等が支配等する外国法人が、当該外国の法令に従って発行する、「株式」に類するものが含まれることとなった。

これにより、例えば、日本人が設立したスタートアップであって、米国証券市場での上場を目指して、米国法人をホールディングカンパニーとする法人にも、LPSが投資を行うことが可能となった。

具体的には、政令では、「本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすもの」として以下の者が定められている。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。つまり、日本人又は日本法人が議決権の過半数を有しているか(資本関係)、意思決定機関を支配しているか、又は取引等を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与えることができるか、という形式的・実質的な基準に拠っている。実際のところ、日本人が外国法人を創業し、その後株主が増えたとしても、当該株主の多くが日本法人であれば[6]、投資先となる当該外国法人は当該条件を充足し、上限無しにLPSの投資対象となりうることとなる。

第1条第1項
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「法」という。)第2条第1項の政令で定める者は、外国法人のうち、次の各号に掲げる者のいずれかに該当する者とする。


本邦法人又は本邦人(以下この条において「本邦法人等」という。)により総株主又は総出資者の議決権の過半数を保有されている者その他本邦法人等により財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(次項において「意思決定機関」という。)を支配されている者として経済産業省令で定めるもの(以下この条において「子法人等」という。)(第1号)

本邦法人等又は子法人等との間の売上高又は仕入高が売上高の総額又は仕入高の総額の100分の50以上である者その他本邦法人等又は子法人等が出資、役員その他これに準ずる役職への本邦法人等若しくは子法人等の役員若しくは使用人である者若しくはこれらであった者の就任、融資、債務の保証若しくは担保の提供、技術の提供又は営業上若しくは事業上の取引等を通じて、財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる者として経済産業省令で定めるもの(第2号)

第1条第2項
本邦法人等及び子法人等又は子法人等が他の者の意思決定機関を支配している場合における当該他の者は、その本邦法人等の子法人等とみなして、この条の規定を適用する。

4.②合同会社への投資が認められること

従前のLPS法では、LPSによる合同会社の持分(社員権)の取得は認められなかったが、機関設計の柔軟性等を鑑みて合同会社として設立されるスタートアップ企業等の事業者も少なくないことから合同会社についても、LPSの投資対象となることとあった(上述のLPS法第3条第1項第1号、2号等)。

5.③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったこと

従前のLPS法では、LPSによる暗号資産への投資が認められていませんでしたが、上述のような議論を経て改正が実現され、今後は、事業者のために、事業者自身又は暗号資産取引所に委託して暗号資産を発行する場合など、特定の条件下において、LPSによる暗号資産への投資が認められる。

なお、今般の改正はあくまで「事業者のために発行される暗号資産」の取得及び保有を認めるものであり、すべての暗号資産が投資対象となるわけではないことには引き続き注意を要する。例えば、決済用の仮想通貨として一般的な、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、LPSの投資対象となる「事業者のために」発行されたものではないことから、LPSの投資対象には含まれないと思われる。

6.施行時期

改正法の施行は、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」及び「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」と改正内容により異なっており、上述の①日本法人等が支配等する外国法人への投資に関する規定及び②合同会社への出資に関する規定は前者(即ち2024年9月7日まで)、③事業者のために発行される暗号資産への投資に関する規定は後者(即ち2025年6月7日まで)である。

留保事項
本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
本書は当事務所ウェブサイト用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

  1. 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会web3事業ルール検討タスクフォースによる「Web3.0系スタートアップ及びWeb3.0系VCについての実態調査(PDF)
    LPSによる暗号資産の取得及び保有等に関する提言↩︎
  2. 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。
    金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
    金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
    金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
    金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
    金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
    金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
    金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
    金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
    金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
    金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
    第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの ↩︎
  3. 付随事業としては、(i)LPS法に定められる事業者が発行し、又は所有する約束手形の取得及び保有を行う事業、(ii)譲渡性預金証書の取得及び保有を行う事業、及び(iii)取得し保有する、約束手形、指定有価証券に表示されるべき権利又は金銭債権に係る担保権の目的である不動産(担保権の目的が土地である場合にあっては当該土地の隣地、担保権の目的が建物である場合にあっては当該建物の所在する土地及びその隣地を含む。)及び動産の売買、交換若しくは貸借又はその代理若しくは媒介を行う事業とされている。 ↩︎
  4. 余裕金の運用方法は、(i)銀行その他の金融機関への預金、(ii)国債又は地方債の取得又は(iii)外国の政府若しくは地方公共団体、国際機関、外国の政府関係機関、外国の地方公共団体が主たる出資者となっている法人又は外国の銀行その他の金融機関が発行し、又は債務を保証する債券の取得、に限定されている。 ↩︎
  5. 外国法人の発行する株式の取得等は、その取得価額の合計が、総組合員の出資の総額の50%未満でなければならない(施行令第3条)。 ↩︎
  6. なお、LPS法及び政令には「本邦人」「本邦法人」の規定がなされており、LPSその他の法人格が無い組合は、明記はされていないものの、理論的には「本邦人」に該当すると思われる。 ↩︎

近時、AI(人工知能)は飛躍的な革新を遂げ、新しいコンテンツを生成する生成AI技術が広まるなど、各種産業においては自動化と最適化が図られ、また人々の日常生活にも少なからぬ変化が生じてきました。他方で、AIの倫理的な問題やプライバシーへの懸念、労働市場における悪影響など、社会的な課題も指摘されています。EUでは、EU域内で一律に適用される人工知能(AI)の包括的な規制枠組み規則(AI法)が成立するなど、統一的な規制整備が進みつつあります。

本稿では、AIに関する日本の法規制について概説します。

1AIをめぐる現在の規制の紹介(法令・ガイドライン)

(1) AIに関する規制についての近時の議論

日本において、現時点ではAIを包括的に規制する法令は存在せず、拘束力のないガイドラインが定められているのみです。

2019年3月に「人間中心のAI社会原則」(注1)が策定され、またAIに関する一般的なガイドラインとして、総務省主導で「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」(2017年7月28日)(注2)及び「AI利活用ガイドライン」(2019年8月9日)(注3)が、経済産業省主導で「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン Ver. 1.1」(2022年1月28日)(注4)が公表されています。さらに、2023年5月のG7広島サミット、G7各国閣僚級会合による「広島AIプロセス包括的政策枠組み」取りまとめを経て、これらの3つのガイドラインを統合・見直し、その後に発展したAI技術の特徴及び国内外におけるAIの社会実装に係る議論を反映して、2024年4月19日に、新たに「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」(注5)(以下「新ガイドライン」といいます。)が総務省及び経済産業省より公表されました。

(2) 新ガイドラインの概要

新ガイドラインが対象としているのは、政府、自治体等の公的機関を含む、様々な事業活動においてAIの開発・提供・利用を担う全ての者、すなわち、AI開発者、AI提供者及びAI利用者です。これに対し、事業活動以外でAIを利用する者又はAIを直接事業で利用せず、AIシステム・サービスの便益を享受し若しくは損失を被る者(以下、あわせて「業務外利用者」といいます。)は対象とされていません(注6)。また、データ提供者も新ガイドラインの対象者とはされていません。データ収集は色々な方法が考えられる中で、新ガイドラインでは、データの提供を受ける者・データを入手する者にあたるAIの開発・提供・利用を担う者がデータを取り扱う際の責任負う形で記載がなされています。

新ガイドラインは、AIにより目指す社会として尊重すべき基本理念として、(i)人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)、(ii)多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity and Inclusion)及び(iii)持続可能な社会(Sustainability)の3つの価値を掲げ、かかる基本理念を実現するため、各主体が連携してバリューチェーン全体で取り組むべき共通の指針として、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ、教育・リテラシー、公正競争確保及びイノベーションの10個に整理しています。これに加えて、AI開発者、AI提供者及びAI利用者の各々にとっての重要な事項を挙げています。主なものは以下のとおりです。

AI開発者にとっての重要な事項としては、データ前処理・学習時における適切なデータの学習及びデータに含まれるバイアスへの配慮、AI開発時における人間の生命・身体・財産、精神及び環境に配慮した開発、適正利用に資する開発、AIモデルのアルゴリズム等に含まれるバイアスへの配慮、セキュリティ対策のための仕組みの導入並びに検証可能性の確保、AI開発後における最新動向への留意、関連するステークホルダーへの情報提供、AI提供者への「共通の指針」の対応状況の説明及び開発関連情報の文書化が挙げられています。

AI提供者にとっての重要な事項としては、AIシステム実装時における人間の生命・身体・財産、精神及び環境に配慮したリスク対策、適正利用に資する提供、AIシステム・サービスの構成及びデータに含まれるバイアスへの配慮、プライバシー保護のための仕組み及び対策の導入、セキュリティ対策のための仕組みの導入並びにシステムアーキテクチャ等の文書化、AIシステム・サービス提供後における適正利用に資する提供、プライバシー侵害への対策、脆弱性への対応、関連するステークホルダーへの情報提供、AI利用者への「共通の指針」の対応状況の説明及びサービス規約等の文書化が挙げられています。

AI利用者にとっての重要な事項としては、AIシステム・サービス利用時における安全を考慮した適正利用、入力データ又はプロンプトに含まれるバイアスへの配慮、個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策、セキュリティ対策の実施、関連するステークホルダーへの情報提供、関連するステークホルダーへの説明並びに提供された文書の活用及び規約の遵守が挙げられています。

各主体が連携しバリューチェーン全体で共通の指針を実践して、AIを安全安心に活用するためには、AIガバナンスの構築が重要とされていますが、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムを基盤とする社会は、複雑で変化が速く、リスクの統制が困難であることから、AIガバナンスは、事前にルールや手続が固定したものではなく、(i)環境・リスク分析、(ii)ゴール設定、(iii)システムデザイン、(iv)運用、(v)評価といったサイクルをマルチステークホルダーで継続的かつ高速に回転させていく「アジャイル・ガバナンス」の実践が重要とされています。また、(i)環境・リスク分析では便益/リスクの理解、AIの社会的な受容の理解及び自社のAI習熟度の理解、(ii)ゴール設定ではAIガバナンス・ゴールの設定、(iii)システムデザイン(AIマネジメントシステムの構築)ではゴール及び乖離の評価並びに乖離対応の必須化、AIマネジメントシステムの人材リテラシー向上、各主体間・部門間の協力によるAIマネジメント強化並びに予防・早期対応によるAI利用者及び業務外利用者のインシデント関連の負担軽減、(iv)運用ではAIマネジメントシステム運用状況の説明可能な状態の確保、個々のAIシステム運用状況の説明可能な状態の確保及びAIガバナンスの実践状況の積極的な開示検討、(v)評価ではAIマネジメントシステムの機能の検証及びステークホルダーの意見の検討を、それぞれ各主体がAIガバナンスの構築において留意する観点としての行動目標としてあげています。

新ガイドラインの別添(付属資料)では、様々な実践のポイント及び具体的な実践例が挙げられています。AIガバナンスを構築する際には、これらの実践のポイントや実践例を参照して、各主体が置かれている個別具体的な状況や、各主体が開発・提供・利用するAIシステム・サービスの目的、方法、評価の対象等も考慮して、どのようなAIガバナンスを構築するか決めていくことになるであろうと推測されます。また、複数の企業によるAIガバナンスの構築に関する実際の取組事例も紹介されており、今後AIガバナンスを構築しようとする際に参考になると思われます。

新ガイドラインでは、高度なAIシステムに関係する事業者は、広島AIプロセスを経て策定された「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」(注7)及び「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」(注8)を遵守すべきとし、高度なAIシステムを開発するAI開発者についてはこれらに加えて「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」(注9)についても遵守すべきとしています。

(3) その他のガイドライン

上記の一般的なガイドラインのほか、個別の分野に特化したガイドラインもいくつか公表されています。例えば、教育現場での生成AIの活用に関して、文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(2023年7月4日)(注10)を、佐賀県教育委員会が「生成AI利用ガイドライン【vol.1】」(2023年7月14日)(注11)を公表しており、ヘルスケア領域生成に特化したAI活用のガイドラインとして、日本デジタルヘルス・アライアンスが「ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド」(2024年1月18日)(注12)を、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会が「プライマリ・ケアにおけるAI利用ガイドライン」(2023年12月1日)(注13)を公表しています。

2AIを用いた事業に関する法規制

(1) AIを開発、提供又は利用する事業者において問題になる法規制

(i)著作権

AIと著作権の関係については、今後、裁判例を含む具体的な事例の蓄積、AIに関連する技術の発展、諸外国における検討状況等を踏まえて検討されることになりますが、現時点においても、①学習・開発段階における著作権侵害、②生成・利用段階における著作権侵害、③生成物の著作物性に関する議論が活発化しています。

まず、①主としてAI学習を実施する者が、既存の著作物に係る著作権を侵害することにならないかが問題になります。著作物を利用しようとする場合、原則として著作権者の許諾を得る必要があるところ、2018年に情報解析のための著作物の利用に関して「柔軟な(著作権者の)権利制限規定」(注14)が創設され、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」著作権者による許諾を要せず著作物を利用できることとされました。この「非享受目的」は、いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合のように、非享受目的と享受目的が併存する等、複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば否定され、そのAI学習を実施した者は、著作権侵害として、損害賠償請求、差止請求(例、学習済みモデルの廃棄請求等)を受ける可能性があります。

②生成・利用段階における著作権侵害としては、主として、AIサービスの提供者や利用者による、AI生成物の生成及びインターネットを介した送信等の利用行為が、既存の著作物の著作権侵害とならないかが問題となります。AI生成物による著作権侵害は、従来の著作権侵害の有無の判断基準と同様、既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」がある場合に認められます。「類似性」の有無は人間がAIを使わずに創作したものと同様に考えることができます。他方「依拠性」は、(i)Image to Imageのように、AIの利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合、及び(ii)既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに既存の著作物が含まれる場合で、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合に、認められる可能性が高くなります。生成・利用段階で著作権侵害が認められる場合、AIの利用者だけでなく、生成AIに関するサービス提供者が著作権侵害について責任を負う可能性が高いものと思われます。

③生成物の著作物性とは、AI生成物が著作権法による保護を受けるかどうかという議論であり、従来の「著作物」の解釈と同様、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、創作性が認められず著作物性は認められません。個々のAI生成物について、①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択、④生成後の加筆・修正等の種々の要素に鑑み、個別具体的な事例に応じて総合的に判断されることになります。

(ii)個人情報保護法

AIの開発や利用にあたっては、個人情報がしばしば利用されることから、「個人情報保護法」に違反しないよう十分注意する必要があります。具体的には、まず、①生成AIを提供する事業者(ChatGPTを提供するOpenAIなど)が、生成AIを開発するために個人情報を取り込もうとする時には、正しく利用目的を示して個人情報を入手したか、実際の利用方法が利用目的から外れていないか、人種や信条といったセンシティブな情報を取得する際のルールに違反していないか、などの問題が起こりやすいと言えます。この問題については、2023年6月にOpenAIに対して、利用目的を日本語で通知することや、センシティブな情報の取得についての注意喚起が行われました(注15)。

また、②生成AIを利用する側でも個人情報についての注意が必要です。例えば従業員の個人情報を管理している企業が、業務効率化のために生成AIを利用する時に、個人情報を入力することが考えられます。この場合、正しく利用目的を示して個人情報を入手したか、実際の利用方法が利用目的から外れていないか、注意が必要です。また、入力された個人情報が生成AI側で学習に使われてしまう場合、入力した側でも、第三者に個人情報を提供したことになる(外国の生成AIを利用した場合には、さらに外国へ個人情報を移転したことになってしまう)可能性があり、個人情報保護法に違反することになります。このように、利用する側でも個人情報保護について十分な注意が必要であり、2023年6月には個人情報保護委員会から「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(注16)が公表されています。

こうした、生成AI開発・利用における個人情報保護法上の留意点については、新ガイドラインにおいても詳細に言及されており、個人情報保護の観点が強く意識されていると言えます。

(iii)プライバシー

プライバシー権との関係では、AIだからこそ特に注意が必要となる問題が2つ存在します。一つ目は、本人は、一つ一つはそれほどセンシティブとは言えない情報だけを出したのに、AIがそれらの情報を統合して処理した結果、センシティブな情報が明らかになってしまう、という問題です。二つ目は、AIによる処理の結果、本来の自分とはかけ離れた人物像が形作られ、利用されてしまう(しかも、AIの処理が非常に複雑であるため、その正誤を検証することができない)、という問題です。

こうした問題に対し、EUではAIによる処理の中止を求める権利や、AIの判断のみに基づいて重要な決定をされない権利を認める法規制が法律によって認められています(注17)が、日本では実現していません。もっとも、上述のとおり、政府が公表する新ガイドラインでは、AIによる処理を行う場合に、個人の尊厳を尊重すること、人間の判断を介在させること、国際的な個人データ保護の原則や基準を参照したプライバシー保護などが求められており、AI特有のプライバシー侵害の問題が意識されつつあり、今後の議論の進展が待たれます。

(iv)営業秘密

近時、業務の円滑化等の目的から、生成AIに自社の情報を入力し利用する事業者が増えています。しかしながら、従業員が自社の機密情報を生成AIに入力することを許してしまうと、不正競争防止法の「営業秘密」や「限定提供データ」として、同法による保護を受けることができなくなる可能性があります。即ち、「営業秘密」として不正競争防止法によって保護されるためには、①秘密管理性(秘密として管理されていること)、②有用性(事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること)、③非公知性(公然と知られていないこと)が必要ですが、従業員が何のルールもなく生成AIに機密情報を入力できるとすると、①秘密として管理されているとは言えず、当該機密情報は「営業秘密」として認められなくなると思われます(ただし、AIサービス提供事業者との間で、営業秘密を特定した秘密保持契約(NDA)を締結するなど、自社の秘密管理意思を明らかにしているような場合は秘密管理性が失われないとも考えられます(注18)。また、同法上の「限定提供データ」は、①限定提供性(業として特定の者に提供されること)、②相当蓄積性(電磁的方法により相当量蓄積されていること)、③電磁的管理性(電磁的方法により管理されていること)が要件とされるところ、③電磁的管理性が失われると考えられます。事業者においては、自社の機密情報を生成AIに入力しない等ルール作りをすることが望まれます。

(v)競争法

公正な競争の実現が、AIの利用によって妨げられる場合、独占禁止法違反となる可能性があります。この問題について、2021年3月に、公正取引委員会が主催する研究会が取りまとめた報告書(「アルゴリズム/AIと競争政策」)(注19)が公表されています。この報告書では、価格設定・価格調査アルゴリズムにより価格競争が活発になる場合がある一方で、その利用の態様によっては競合する企業間でAIを利用した協調的な価格調整が行われたり、競合する利用者と消費者の取引の妨害(略奪的な価格設定、意図的なランキング操作(注20)など)が行われる場合など、AIが関わる問題が丁寧に分析されており、この問題について当局の関心も高いと言えそうです。

(vi)経済安全保障推進法

2022年5月の経済安全保障推進法の成立を受け、AIは「特定重要技術」(当該技術が外部に不当に利用された場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの等三類型が存在する。)に指定されました。これによって、AIの研究開発については、国による研究開発促進支援の対象とされました。同時に、海外への技術漏えい対策、営業秘密の保護、研究の健全性や公正性確保などについて十分な配慮が求められることになります(注21)。

(2) その他規制がある業界

以下では、金融、医療・介護といったいわゆる規制産業とAIの利用について紹介します。

(i)金融(銀行、資産運用、保険)

金融分野では、顧客対応(チャットボットなど)でAIが活用されているほか、銀行、資産運用、保険といった各分野の業務でもAIの利用が進められています。例えば銀行の与信審査、資産運用、保険設計など、金融分野では、昔からデータ分析がビジネスの重要な要素でした。このため、大量のデータを処理するAIと親和性があると言えます。

ただし、AIには、処理過程が人間に確認できず「ブラックボックス」となってしまう、という問題があります。このことが、顧客間で差別的にも見える取扱いが起きたり(AIによる信用スコア算定など)、顧客に対する運用方針の説明が困難となったり(AIアドバイザーを用いた顧客資産運用など)といった問題につながるほか、個人情報保護との摩擦を生じる可能性(個人のヘルスケアデータや遺伝子情報などにリンクした保険新商品など)もあります。

もちろん、登録投資運用業者には各種行為規制が課され(注22)、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」が定められていますが、金融分野でAI利用についての統一的な規制はありません。また、個別の法律やガイドラインでも、AIを意識した規制はほとんどみられません。もっとも、2020年に割賦販売法が改正され、AIによって貸付可能額を算定する場合の規制が作られるなど、重要な変化も見られています。さらに、銀行や生損保などが参加する業界団体(「金融データ活用推進協会」)が、具体的な設定事例に基づいて生成AI活用で得られる効果とリスクを整理した「金融生成AI実務ハンドブック」を公表し(2024年5月)、また夏頃を目途に、生成AI利用についての自主規制ガイドライン(「金融生成AIガイドライン」)の策定が進められています。

(ii)リーガルテック(契約書レビュー)

日本でも、近時、契約書作成・レビュー、文書管理、リサーチ、フォレンジックといった機能において、いわゆるリーガルテック・サービスが登場してきました。これらのサービスのうち、いわゆる契約書AIレビューサービスについては、弁護士でない者は、報酬を得る目的で、法律事件に関して鑑定をしたり法律事務を取り扱ったりすることを禁止する弁護士法72条との関係で問題とならないかが、論点となってきました。これについては、法務省の回答が出され(注23)「単に言語的な意味内容の類似性を超えて法的効果の類似性を表示するものと評価される場合」は鑑定と評価される可能性が否定できないこと、また弁護士が法律事務所や事業会社においてサービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法でサービスを利用するときであればれば同条項との関係で問題とならないこと等が回答されました。

また、AIを用いた他リーガルテックのサービスの利用に際しては、他社から入手した秘密情報をサービス利用に際して入力することにより、AIサービス提供会社という「第三者」に秘密情報を開示することとなり、自社が秘密保持義務に違反してしまう可能性にも留意が必要です。

注1:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinkouchinou/pdf/aigensoku.pdf

注2:https://www.soumu.go.jp/main_content/000499625.pdf

注3:https://www.soumu.go.jp/main_content/000809595.pdf

注4:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20220128_1.pdf

注5:https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004-1.pdfhttps://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004-2.pdf

注6:ただし、事業活動においてAIの開発・提供・利用を担う者から業務外利用者への必要な対応については、新ガイドラインに記載されています。

注7:https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/pdf/document03.pdf

注8:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100573469.pdf

注9:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100573472.pdf

注10:https://www.mext.go.jp/content/20230718-mtx_syoto02-000031167_011.pdf

注11:https://www.pref.saga.lg.jp/kyouiku/kiji00397834/3_97834_287223_up_4oo0tku4.pdf

注12:https://jadha.jp/news/news20240118.html

注13:https://www.primarycare-japan.com/files/news/news-625-1.pdf

注14: 著作権法(昭和45年法律第48号)第30条の4

注15: https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_AI_utilize.pdf

注16: https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf

注17:GENERAL DATA PROTECTION REGULATION (GDPR)では、プロファイリングの中止を求める権利(21条「Right to Object」)、プロファイリングのみに基づいて重要な決定を下されない権利(22条「Automated individual decision-making, including profiling」)が認められています。

注18:経済産業省「営業秘密管理指針」14頁参照

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31ts.pdf

注19:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210331_digital.html

注20 :飲食店ポータルサイトの評価アルゴリズム変更によって飲食店が損害を受けたと主張する訴訟において、独占禁止法違反が認められた裁判例があります(東京地方裁判所2022年6月16日判決、ただし、控訴審においては独占禁止法違反は否定されました(東京高等裁判所2024年1月19日判決))。

注21 :「特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針」

https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/doc/kihonshishin3.pdf

注22 :例えば、誠実義務(金融商品取引法第36条)、契約締結前交付書面の交付(同法37の3)、忠実義務・善管注意義務(同法42条)等一般的な規定が挙げられる。

注23 :2022年10月14日グレーゾーン解消制度に係る回答

https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/221014_yoshiki1.pdf)及び2023年8月付法務省大臣官房司法法制部からの回答(https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf)。また、無償であれば「報酬を得る目的」がなく同条に違反しないこと、継続的取引の基本となる契約を締結している会社間において特段の紛争なく当該基本契約に基づき従前同様の物品を調達する契約を締結する場合であって、その契約関係を明らかにするために契約書等を作成する場合に当該サービスを提供するときには「法律事件」に該当せず、同条に違反しないと考えられることが説明されています。

留保事項

・    本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。

・    本書は Blog 用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に注目を集めるEigenLayer(アイゲンレイヤー)の仕組み、日本法の考察を記載します。

なお、EigenLayerを理解するためには、前提知識としてProof of Stake(以下「POS」)の仕組みとリキッドステーキングについても理解することが必要なため、それらについても若干触れます。また、関連する範囲でリキッドリステーキングやポイントサービスについても触れます。

(参考) EigenLayerについて特に詳しい資料
やさしいDeFi「EigenLayerの可能性とリスクを考えよう」
DeFi Japan「EigenLayerをエイゲンレイヤーって読んでいるお前、ガチで危機感を持ったほうがいいと思う」(上記資料の解説YouTube)
・Turingum「基礎からわかるEingenLayer」(閲覧にはメアド等の入力が必要)

→    本書での仕組みの概要の解説は上記の資料に多くを拠っています。上記の資料の方が更に詳細で判りやすいので、更にご関心のある方は上記の資料もご覧になることをお勧めします。

(参考)ステーキングに関する当事務所の以前のArticle
ステーキングに関する法的論点の整理(2020.3.17)
DeFiと法律 – LIDOやリキッドステーキングの仕組みと日本法(2023.10.17)

I. 纏め

法律整理の纏め

EigenLayrerなどリステーキング
 (1) EigenLayerなどリステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼ぶ)のカストディ規制、②金商法のファンド規制、③景表法の規制、の適用の有無を考える必要がある。
(2) EigenLayerにETH等がデポジットされる行為が、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、EigenLayer、AVS、オペレーター等が技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。
(3) EigenLayerがETH等のデポジットを受け、オペレーターがAVSを選択し、その結果、AVSから報酬を受け取る、ユーザーに対して報酬の一部の分配を行う、またユーザーはスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、デポジットされたETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング等のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。
(4) EigenLayerなどリステーキングでは、利用の報酬としてポイントが付与されることがある。また、そのポイントの量に応じて将来的にAirDropがなされることがある。これらについては景表法の適用可能性の検討が必要となる。この点、ユーザーはこうしたポイントまで含めてリステーキングに伴う報酬として認識し、その利回りの高さゆえにEigenLayerでのリステーキングを行っていると考えられる。そうすると、EigenLayerポイントは取引の本来の内容であり、取引に付随して提供される「景品」ではないという見方ができると思われる。

リキッドリステーキング
(5) 外部業者であるリキッドリステーキング業者には様々な仕組みがあると思われるが、主として①暗号資産法のカストディ規制、②同法の売買規制、③金商法のファンド規制、④景表法の規制、の適用の有無を考える必要がある。
(6) リキッドリステーキングに関し、ETHをデポジットする行為がカストディではないかという点については、秘密鍵の管理の点が問題となるが、基本的には問題ないように思われる。
(7) ETHをデポジットしてLiquid Restaking Tokenを発行する行為が暗号資産の交換にならないか、という問題がある。法的にはデポジットの証拠としてトークンが出されるということであれば暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。
(8) リキッドリステーキング業者についてもファンド規制を検討する必要がある。秘密鍵の管理がどのようになっているか等、検討する必要があると思われるが、スマートコントラクトによりあくまで担保のためにしか使用できないようになっている場合、ファンドには該当しないのではないか、と思われる。他方、スマートコントラクトが適切に設定されず、業者が秘密鍵を流用できるような形で運営がなされている場合、ファンド規制に服する可能性がある。

用語の纏め
リステーキング関係の用語は非常に複雑なため、概要理解のため、当職らが理解している限りで用語の整理をします。

(1) 主としてETHステーキング関係の用語
POS Proof of Stake。暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせる仕組み
ステーキング POSのブロックチェーンに関し、自身が認証者(バリデーター)になるために、保有トークンを預託等すること。ETHの場合、32ETHをステークすることによりステーキングが可能。ステーキングや認証の対価として、ステーキング報酬を得られる
バリデーター POSにおいて認証を行う者
デリゲータ― POSバリデーターに認証を委託する一般ユーザー
EVM Ethereum Virtual Machine、イーサリアム仮想マシン。イーサリアムブロックチェーン上でスマートコントラクトを実行するソフトウェアによる仮想マシン環境であり、イーサリウムブロックチェーンによるセキュリティーが担保されている
(2) 主としてリキッドステーキング関係の用語
リキッドステーキング 自分自身が32ETHを保有しなくても業者に委託を行いETHのバリデーターに成れる仕組み。かつ、その対価としてLSTが得られ、LSTについてもDeFiで再利用できる、というもの
LIDO リド又はライド。リキッドステーキングサービスの最大手
LST Liquid Staking Token。リキッドステーキングを行ったユーザーに対して提供されるトークン。例えばLIDOではstETHというトークンが出される
(3) 主としてEigenLayerやリステーキング関係の用語
EigenLayer EVM(Ethereum Virtual Machine)以外で動作するプログラムに対してETHを使ってセキュアな実行を担保するための仕組み。ETH等をイーサリウムのみにステークするのではなく、他の無関係なサービス(後述のAVS)に対しても安全性の担保提供を行うことにより、ユーザーは二重三重の収益を得られる特徴がある
リステーキング EigenLayerや類似の仕組みを利用し、イーサリウムへのステークに加え、他のサービスにもステークすることにより、追加報酬を得る行為
ネイティブステーキング/ネイティブリステーキング 自分自身が32ETHを用意し、自分自身がイーサリウムのPOSにおいてバリデーターになるステーキング。この者がリステーキングを行うことをネイティブリステーキングという
EigenPods ユーザーがネイティブステーキングを行った場合に、EigenLayerにおいてリステーキングする際に使用されるスマートコントラクト。ネイティブステーキングの際にクルデンシャル(引出先)としてEigenPodsのアドレスを指定することにより、EigenLayerでのリステーキングが可能となる
LSTリステーキング LIDOなどで出されるLiquid Staking Token(stETHなど)をリステーキングすること
AVS Actively Validated Serviceの略。リステーキングサービス上で、安全性の担保を受けるサービスやアプリケーションのこと
オペレーター EigenLayer上にステークされたETH等を利用してAVSにセキュリティー提供を行うに際し、セキュリティー提供先となるAVSを実際に選定する者。ユーザーはオペレーターを選択し、AVS選定を委託する。ファンドで言うと一種のファンドマネージャーか
セキュリティー 有価証券という趣旨ではなく、安全性の担保、という趣旨
(4) 主としてリステーキング関係の用語
リキッドリステーキング 単独で32ETHを有していないユーザーのETHを取りまとめ、EigenLayerでのリステーキングを可能とするサービス
LRT Liquid Restaking Token。リキッドリステーキングを行ったことの証明として得られるトークン
(5) 主としてポイント関係の用語
EigenLayerポイント ユーザーがEigenLayerでリステーキングすることで得られるポイントであり、EigenLayerによる独自トークン(EIGEN)との交換が可能
Pendle トークンを元本部分のトークン(Principal Token=PT)と利回り部分のトークン(Yield Token=YT)に分割し、それぞれ取引可能とするDeFiプロトコル。Pendle経由でリキッドリステーキングをすることでポイントを何度も取れる等でEigenLayerへの流入が加速した

II. ETHステーキング、リステーキングやEigenLayerの基本概要

1 リステーキング、EigenLayerとは

EigenLayerは、EVM(Etherium Virtual Machine)以外で動作するプログラムに対し、ETHを使ったセキュアな実行を担保するための仕組みです。

例えば、イーサリウムブロックチェーンを利用したDeFiが、EVM部分とEVM以外で動作する部分をそれぞれ有する場合、EVM部分についてはイーサリウムブロックチェーンのセキュリティーが担保されています。しかし、EVM以外で動作する部分についてはイーサリウムブロックチェーンのセキュリティーの担保を受けられず、脆弱性を抱えるという問題があり、EigenLayerはこれに対する解決方法の提供を図るものです。

ユーザーとしては、単純なETHステーキングに比べて、二重三重の報酬を得られる、という点にメリットがあります。

2 リステーキングを理解するための前提知識

(1) Proof of Stakeとステーキング
Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。
ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。

(2) ETHのステーキング
イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH(2024年4月現在の価格で約1600万円)をデポジットすることで バリデーターになれる、②バリデーターがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、バリデーターが意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またバリデーターは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。

(3) リキッドステーキングとLIDO
リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン=Liquid Staking Token=LSTと呼ばれます)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。

自分自身で32ETH(約1600万円)の資産を有していなくてもLIDOに参加することにより少額からステーキング報酬を得られる、といいう特徴があり、爆発的にヒットしています。
その最大手、LIDOの仕組みについては「DeFiと法律 – LIDOやリキッドステーキングの仕組みと日本法」をご覧ください。

3 EigenLayerの提供するセキュリティー

(1) ブロックチェーン上で必要なセキュリティーと問題点
独自のL1チェーンを作成する場合や、ブロックチェーン上で何らかの認証が必要なサービスを作成する場合、その信頼性や安全性を如何に担保するのか、という問題が生じます。

例えば、定期的に多数の暗号資産取引所やDeFiプロトコルを巡回し、そこでトークンの価格情報を収集して、その平均値を出す、といったようなサービスを提供することを考えます。このような情報収集はDeFi上で暗号資産デリバティブ等を自動実行したい場合に必須となりますが、虚偽の情報を提供していないのか等をどう確保するのか問題が生じます。

そのようなセキュリティーを担保するための一つの手段として、①独自トークンを発行、②その独自トークンをロックさせ、③虚偽の情報を提供した者がロックしたトークンは没収(スラッシング)する、④他方、正確な情報を出した者には報酬を出す、というような仕組みが考えられます。情報収集のための巡回を分散化された無関係の多数の者に行わせ、外れ値を出した者のロックトークンを没収する、というような仕組みを構築した場合、情報提供者は虚偽情報を伝えるインセンティブが減少することになります。

このような独自トークンのロックの方法によるセキュリティーも一定程度の効果はありますが、(i)独自トークンの価値が低い場合には機能しにくい、(ii)独自トークンの保有者が分散していない場合(例えば当初開発者が多数のトークンを保有している場合)機能しない、(iii)情報提供者にわざわざ独自トークンを購入させる必要性があるがそのインセンティブが少なく、そうすると情報提供者が増えない、等の問題があります。

(2) EigenLayerが提供するセキュリティー
これに対し、EigenLayerでは、イーサリウムという巨大な仕組みを利用することにより、セキュリティーを確保します。

EigenLayerでは、既にイーサリウム上でステーキングされているETHを再利用してセキュリティーを提供します。上記(1)の価格提供の事例でいうと、①ETHを一定以上ステークしている者のみ価格情報を提供できる、②虚偽情報を提供した場合、ETHをスラッシュする、③正確な情報を提供した場合、何らかの報酬を付与する、という仕組みとなります。

特徴的なのは、イーサリウムの通常のPOSのためにステーキングをして報酬を得た上で、更に別の幾つものプロジェクトのためにも担保として提供可能、としている点です。

イーサリウムは2024年4月現在の時価総額で約60兆円という巨額の資金があり、かつETH保有者も大きく分散しています。また、EigenLayerに対しては2024年4月現在で約15 Bドル(約2.2兆円)もの資金がデポジットされています。

これにより、上記(1)で記載した(i)(ii)(iii)の問題につき、(i)独自トークンと異なりETHの価値は高い、(ii)ETHの保有者は分散している、(iii)情報提供者にはわざわざ独自トークンを買わせる必要はなくETH保有者であれば良い、また、通常のPOSに加えて追加で参加できるので、参加が容易、という解決策を提供する点が、特徴となります。

4 ユーザーがEigenLayerに参加するための具体的な方法

(1) EigenLayer上でのリステーキングの実際のやり方
ユーザーがEigenLayerを利用する方法としては、①ネイティブステーキングでのリステーキング、②LIDOなどリキッドステーキングで出されたLSTに関するリステーキング、③リキッドリステーキングサービスによるリステーキング、など各種方法があります。

① ネイティブステーキングとリステーキング
ネイティブステーキングとは、自分自身が32ETHを用意し、自分自身がイーサリウムのバリデーターになることを指します。

このネイティブステーキングの際にクルデンシャル(引出先)としてEigenLayerが用意するEigenPodsというアドレスを指定することにより、リステーキングが可能となります。

具体的には、イーサリウムのコンセンサスレイヤーであるBeacon Chainにおいて、バリデーターはステーキングする32ETHおよびステーキング報酬として受領するETHの引出先アドレスを指定する必要があります。EigenLayerを利用してリステーキングする場合、ユーザーはこの引出先アドレスをEigenPodsに指定します。これにより、ステーキング情報がEigenLayerに連携され、ETHによるリステーキングが可能となります。

② LSTのリステーキング
EigenLayerでは、LIDOなどで発行されるLiquid Staking Token(LST、stETHなど)をリステーキングすることも可能としています。この場合のEigenLayerでのスラッシング対象はLST (stETHなど)になります。

LIDOを例にとれば、自ら32ETHを用意してバリデーターになることができない(あるいは32ETHは用意できるが自らバリデーターになろうとはしない)ユーザーは、保有するETHをLIDOに送付し、LIDO経由でETHのステーキングを行うことが可能です。この場合、ユーザーはLIDOに送付したETHの代替資産(ステーキング証明トークン)としてstETHを受領します。

EigerLayerを利用すると、ユーザーはETHのステーキング報酬(正確にはLIDOおよびバリデーターの取り分を控除した残額)を受け取り、さらにLIDOから受領したstETHをリステーキングして報酬を獲得することが可能となります。

③ リキッドリステーキング
EigenLayerの外部サービスとしてリキッドリステーキングというサービスも存在します。
リキッドリステーキング業者に預託をすると、当該業者が32ETH集まるごとに、EigenLayerの上記①の方法を利用してリステーキングを行ってくれる、というサービスになります。すなわち、単独では32ETHを用意できないユーザー向けに、リキッドリステーキング業者がETHを取りまとめてETHのネイティブステーキングとEigenLayerでのリステーキングを行うものです。

なお、LSTのリステーキングとリキッドリステーキングとの比較ですが、(a)前者ではEigenLayerへのデポジット対象はstETHなどのLSTであり、スラッシングの対象もLSTなのに対し、後者ではETH自体がスラッシング対象、(b)EigenLayerはリステーキングの受入額に上限を設ける場合があり、LSTのリステーキングの上限額とネイティブステーキングの上限額とは別建てで設定されることがあり、後者では後者の枠を利用できる、(c)前者の場合、EigenLayerのオペレーターは自分で選ぶ(各オペレーターがどのAVSに対してセキュリティー提供しているのかを確認し、ユーザー自らオペレーターを選択)のに対し、後者では、その選択をリキッドリステーキング業者に委託する、という差異があります。

方法の比較(暫定版)

  仕組み イーサリウムでのステーキング EigenLayerでのオペレーターの選定 EigenLayerでの上限枠
ネイティブステーキングのリステーキング イーサリウムでステーク済みの自己保有32ETHをEigenLayerでリステーキング 自分で行う 自分で行う 独自の上限枠
stETHのリステーキング 少額ETHをLIDOに送付し、LIDOから受領したstETHをEigenLayerでリステーキング LIDOが選んだバリデーターが行う 自分で行う ネイティブステーキングとは別枠
リキッドリステーキング 少額ETHをリキッドリステーキング業者にデポジット。業者がEigenLayerでリステーキング リキッドリテーキング業者が選んだバリデーターが行う リキッドリステーキング業者が行う ネイティブステーキングと同枠

5 AVSとオペレーター

(1) AVS
Actively Validated Services (AVS)とは、EigenLayer上に構築され、セキュリティー提供を受ける対象となるサービスやアプリケーションのことを指します。

イーサリウムブロックチェーン上のアプリケーションでは多くの場合セキュリティーが担保されているEVM部分と、EVM以外で動作する部分(イーサリウムブロックチェーンによるセキュリティーが担保されない)で構成され、非EVM部分について脆弱性を抱えています。従来、こうしたアプリケーションが非EVM部分の脆弱性に対応するためには、例えば3(1)で述べたように自ら独自トークンを発行してPOSを行う等により対応する必要がありました。EigenLayerの利用により独自トークン発行の必要性が解消されることになります。

もっとも、セキュリティーを確保するためには、各AVSはEigenLayer経由でなるべく多くのリステーキングを集めてPOSを行う必要があります。そのため、高いリターンを提示することなどにより、セキュリティー提供先を選定するオペレーターに対してアピールを行うことが想定されます。

(2) オペレーター
EigenLayerの仕組みを利用し、どのAVSへセキュリティー提供を行うかは、ユーザーにとってリターンの高低や、スラッシング(AVSへ虚偽情報を提供した場合に、ステーキングしているETH/LSTの一部を没収するペナルティー)リスクの大小に関わる重要な判断となります。もっとも、必ずしも各AVSの内容について精通しているわけではないユーザーにとって、適切なAVSを自ら選定することは困難である可能性があります。このためEigenLayerでは、ユーザーからの委任を受けたオペレーターが、セキュリティー提供先となるAVSを選定するという仕組みが用意されています。

なお、オペレーターはユーザーから委任を受けたETH/LSTを、同時に複数のAVSへのセキュリティー提供のために利用することが可能です。例えばユーザーから100ETH分のセキュリティー提供について委任を受けていた場合に、5つのAVSに対して当該100ETH分のセキュリティー提供を行う、といったイメージです(100ETHの委託を受けながら、合計500ETH分を運用していることとなります)。各AVSからのリターンが得られるため、ユーザーにとっては、セキュリティー提供先であるAVSが増えれば増えるほど利回りは高くなることになります。もっとも、多くのAVSを対象とするほどスラッシングリスクは高まるため、積極的なリスクを取って高い利回りを狙うのか、それとも低リスクで相応の利回りを取るのか、オペレーターごとの戦略が表れる可能性があります。

6 ポイントサービス

(1) EigenLayerポイント
EigenLayerでは「ポイント」が設定されています。具体的には、ユーザーは1ETH(LSTの場合にはETHに換算)を1時間リステーキングすることで1ポイントを獲得できます。そして、1ポイント1トークン換算で、EigenLayerによる独自トークン(EIGEN3)との交換が可能です。2024年4月29日にEigen Foundationが公表4したところによれば、EIGENの総発行トークン数(約16億7364万)のうち15%がAirDropされる予定とのことであり、2024年5月10日から実際にAirDropが開始されます。

こうしたポイントをEigenLayerを用意することのメリットは、EigenLayerでのリステーキング残高を増加させることでセキュリティー提供の実効性を高めることに加え、EIGENトークンを一気に普及させることができる、ということにあると思われます。

(2) Pendle経由でのリステーキング
EigenLayerの残高の増額と大きく関係するDeFiとしてPendleがあります。
Pendleは元々は金利のつくものを分割して取引する金利売買のDeFiです。具体的にはPendleではトークンを元本部分のトークン(Principal Token=PT)と利回り部分のトークン(Yield Token=YT)に分割して取引することができます。Pendleが各LRTと提携して行う「Pendle Point Party」では、Pendle経由でLRTをStakeすると、通常より多くのポイントがLRTからもらえる、という仕組みを導入し、これにより、EigenLayerへのリステーキングが加速したようです。

例えばETHをPendle経由→LRT経由→EigenLayer、とリキッドリステーキングする場合、YTに「LRTのstake報酬 + LRTのポイント + EigenLayerのポイント」を受け取れる、という仕組みのようです。

III. リステーキングと日本法

EigenLayerのようなリステーキングを提供する場合、暗号資産法のカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。

1 EigenLayerと暗号資産のカストディ規制

EigenLayerに対するETHやLSTのデポジットがEigenLayerに対する暗号資産の寄託と考えられ、EigenLayerに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。
本邦のカストディ規制では下記のパブリックコメント等から、仕組み上、秘密鍵を利用して移転ができるシステムなのかが問題になります。

令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果59番
事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。

この点、EigenLayerが公表しているドキュメントでは、従来の金融業界における「リハイポセケーション」(顧客からの預かり資産を担保に再利用すること)の仕組みとの類似性を否定しつつ、「ステイカーはステイクされたトークンについて 完全なコントロールを有する」ことが示されています6。すなわち、EigenLayer側ではユーザーから受け入れたETH/LSTについて、(スラッシングを除き)勝手に移転できないことが前提となっているものと思われます。この理解が正しい場合、EigenLayer側では秘密鍵の管理は行っていないのでは、と考えられます。

この点について具体的なリステーキングの場面からも確認をすると、まずEigenLayerでのネイティブステーキングでは、ETHのステーキング時の引出先(クルデンシャル)としてEigenPodsを指定することによりリステーキングが行われます。EigenLayerが公表するドキュメントでは、リステーキングの実施及びEigenPodsへの引出しはすべてユーザーの操作によって行われます7。また、EigenPodsに引出後のユーザーのETHについても、EigenLayerのスマートコントラクトにおいてあくまで担保提供目的/スラッシングにのみ利用できるようになっているのでは、と思われます。なお、スラッシングは2024年4月現在では、EigenLayerにおいてまだ実装されておらず、その詳細な仕組みについては確認できません。

次に、LSTのリステーキングの場合、LSTをEigenLayerにロックすることにより、リステーキングが行われるようです。ここでも、LSTのロックや引出しはすべてユーザーによって行われ8、セキュリティー提供のため以外にはロックされた当該LSTを利用できない(=秘密鍵を管理していない)という仕組みのように見受けられます。
このようにETHやLSTの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。

2 EigenLayerと金商法規制

ETH等のデポジットを受け、EigenLayerのオペレーターがそれを運用し、ユーザーに報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、EigenLayerがファンドに該当しないかが問題となります。

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
(B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利
(C) 次のいずれにも該当しないもの
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(以下略)
 
外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり9、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。

また、上記(C)の例外事由にも該当しません。
問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETH/LSTがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られた報酬(ETH)がユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。

しかしながら、リステーキングの場合、通常のファンドとは以下のような点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。
① 通常のファンドの場合、出資を受けた金銭等は、ファンド運営者に完全に所有権が移転し、ファンド運営者は契約上の縛りはあるものの技術的には様々に使用できるのに対し、リステーキングの場合は、ETH/LSTの拠出はスマートコントラクトに対して行われ、EigenLayerやオペレーターが自由に使えるものではない。ETH等に対するオーナーシップ(所有権類似の権利)はユーザーが常に保有していると考えられる。
② 通常のファンドの場合、受け取った金銭等は株式の購入や事業資金等に使用され形を変えるのに対し、リステーキングでは、スマートコントラクトに送付されたETH/LSTは特に他のものに変えられることはなく、そのまま維持される。
③ ETH/LSTがロックされる理由は、バリデート作業やオラクル作業にあたり不正申告をした場合のスラッシング等を担保するために過ぎない。③ ETH/LSTがロックされる理由は、バリデート作業やオラクル作業にあたり不正申告をした場合のスラッシング等を担保するために過ぎない。
④ 上記①~③を踏まえ、リステーキングの法的性質を従来からの経済行為に例えると、ユーザーは一種の債務不履行責任を担保するための物上保証としてETH等をスマートコントラクトにロックしているに過ぎず、複数の相手方に対して物上保証を提供したことに対する報酬を受け取っているに過ぎない、と考えることができる。そしてこのような物上保証の提供や報酬の受領は、ファンドにいう「出資や拠出」、「充てて行う事業」という要件を満たすものではない。

3 EigenLayerのポイントと景表法規制

前述(II 6)したように、EigenLayerではリステーキングの報酬としてポイントが付与され、そのポイントの量に応じてEIGENトークンのAirDropがなされます。こうしたリステーキングに伴うポイント配布について、日本法上は景表法の適用についての検討が必要となります。

景表法では、過大な景品類の提供が禁止されています。景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。また、経済的利益には(a)物品及び土地、建物その他の工作物、(b)金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券、(c)きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)、(d)便益、労務その他の役務、を幅広く含みます。この点、リステーキングによって得られるポイントは「景品類」に該当するかが問題となります。

EigenLayerポイントは、EigenLayerでのリステーキングへの強力な誘因効果を発揮しているとみられ、①顧客誘引性を当然満たすと思われます。また、③の経済上の利益については、上記(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されています。EigenLayerポイントはEIGENトークンのAirDropに紐づいており、ポイント自体がポイントマーケットプレイス(Whales Marketなど)において取引の対象となっています。このため、③も満たすと思われます。

これに対し、②取引付随性については該当しない可能性があると思われます。消費者庁は「正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供」(例:宝くじの当せん金、パチンコの景品、喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)について、取引付随性を否定しています10。EigenLayerにてリステーキングを行うユーザーは、リステーキングに伴う報酬を目的として取引を行っていると思われます。そして、ユーザーはリステーキングに伴ってAVSから交付されるリターンだけでなく、EigenLayerから交付されるポイントまで含めて、リステーキングに伴う報酬として認識し、その利回りの高さゆえにEigenLayerでのリステーキングを行っていると考えられます。そうだとすると、EigenLayerポイントもまさに取引の本来の内容であり、取引に付随して提供される「景品」ではないという見方ができるのでは、と思われます。

IV. リキッドリステーキングと日本法

なお、リステーキングの外部業者であるリキッドリステーキングについても法的論点を若干検討します。ただ、リキッドリステーキングの仕組みには様々なものがあると思われること、仮にスマートコントラクトを適切に設定している場合、論点としてはEigenLayerと同様になると思われること、から簡単にのみ記載します。

1 リキッドリステーキングと暗号資産の販売規制

リキッドリステーキングサービスでは、それに対してETHを拠出すると、LRTが交付され、逆にLRTをリキッドリステーキングサービスに対して送付すると、ETHが得られる、と言う仕組みがとられます。
この行為が、ETHとLRTとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。
しかしながら、LRTはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなLRTの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。

2 リキッドリステーキングとカストディ規制

リキッドリステーキングにおいても、ETHのデポジット等がカストディ規制に反しないか、という問題がありますが、秘密鍵の利用ができるシステムを検討する必要があります。
通常は秘密鍵を利用できないシステムだと思われ、その場合、暗号資産交換業規制は適用されません。

3 リキッドリステーキングと金商法規制

リキッドリステーキングについても金商法のファンド規制を検討する必要があります。
秘密鍵の管理がどのようになっているか等、検討する必要があると思われるが、スマートコントラクトによりあくまで担保のためにしか使用できないようになっている場合、EigenLayerやLIDO同様、ファンドには該当しないのではないか、と思われます。
ただ、業者が秘密鍵を流用できるような仕組みでETH等を集め、その上でEigenLayerにロックして収益を得ている、というような場合、ファンドに該当する可能性はあると思われます。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、ステーキング、リキッドステーキング、リキッドリステーキング、EigenLayer、LIDO等の利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

Ⅰ DePINとは

DePIN(ディーピン)とはDecentralized Physical Infrastructure Networkの略称で直訳すると分散型物的インフラストラクチャーネットワークとなります。DePINとは何か、という点については明確な結論がありませんが、一例として下記のように説明されます。

DePINとは、Decentralized Physical Infrastructure Network(分散型物的インフラストラクチャーネットワーク)の略称で、物理的資源が必要なネットワーク経済をトークンをはじめとしたWeb3の仕組みでブートストラップするプロジェクトを総称しています。
物理的資源が必要なネットワーク経済とは様々ですが、私達にとって身近なサービスであればUBERやAirbnbがそうです。前者は車両を運転するドライバーという物理ネットワークによって配車サービスが成り立っており、後者は不動産を短期滞在者に提供するホストという物理ネットワークによって宿泊サービスが成り立っています。

DePINとはこれらのような経済圏をトークンインセンティブで再構築したり、あるいはこれまでは単一的企業からサービス提供されていたサービスをトークンインセンティブで物理的資源を不特定多数から集めてネットワーク経済に作り変えることを指します
出典:HashHub Research平野 淳也「DePINの概要 物理ネットワークをトークンでブートストラップするWeb3プロジェクト郡」2023年12月16日より抜粋
https://hashhub-research.com/articles/2023-12-16-depin-overview

近年、DePINがWeb3業界で頻繁に話題になっており、Hivemapper、Filecoin、Heliumなどの有名プロジェクトがあるほか、日本でも東京電力がDePINの実証実験を発表した等とされます。
また、SolanaブロックチェーンがDePINに親和的とされ、多くのDePINプロジェクトがSolanaベースで作成され、そのことが暗号資産Solanaの価格高騰の一つの要因となっているとも言われます。
他方、DePINの概要は判りにくく、また、いかなる法的規制が適用されるか検討したものも見当たりません。
そこで、本書では、Web3業界の方々のために、DePINの概要と、DePINプロジェクトの組成や利用に際して、主として検討すべき日本法について記載することとしました。

Ⅱ 検討すべき法律と結論

DePINには様々なプロジェクトがありますが、現在の主要なDePINプロジェクトを日本居住者向けに導入する場合、資金決済法の暗号資産規制(以下「暗号資産法」といいます)、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます)、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます)、電波法、電気通信事業法、その他の機器の輸入や販売に関する法律、などを検討する必要があるのではと思われます。

現在の当職らの分析を纏めると以下の通りとなります。

(1) 暗号資産法
多くのプロジェクトではDePINに貢献することにより何らかのトークンを貰えます。かかるトークンが暗号資産に該当しても、貢献に対する付与であり、「売買」等ではなく、暗号資産法上の規制はありません。
トークンの付与がブロックチェーン上のユーザー保有アドレスに対してなされる場合、プロジェクトが「暗号資産の管理」をしているとは考えられず、暗号資産法上の規制はありません。他方、付与されたトークンを運営側が預かる等する場合、暗号資産交換業が必要となりえます。このため、少額報酬でも低額のガス代で送付できるブロックチェーンの利用が望ましいと思われます。
利用手数料の支払がクレジットカードで行われ、それによりトークンがBurn&Mineされることがありますが、これは暗号資産の売買には該当しないと思われます。
貢献で得られたトークンに関して売買機会を付与するために、トークンを上場することが通常と思われます。この場合、日本居住者に暗号資産を販売するためには暗号資産交換業登録が必要となります。他方、取引所の単なる利用者側には規制はありません。

(2) 景表法
DePINに貢献することにより、何らかのトークンを貰えたとしても、それは貢献に対する報酬であり、景表法の景品規制の適用はありません。

(3) 特定商取引法
DePINプロジェクトの参加のために、一定の専用機材が販売されることがあります。①販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をするもの、については、「業務提供誘引販売取引」(特定商取引法第51条)として、書面交付義務等の規制が課されます。

(4) 電波法
DePINに利用する機材の多くでは、無線通信のために電波を発していると思われます。
このデバイスの利用には、技適マーク等がない限り、電波法に基づく免許が必要となり、留意が必要となります。既に技適マークのある汎用機材を利用するか、専用機材を使用させる場合、技適マークを取得することが事実上必要となると思われます。

(5) 電気通信事業法
Heliumのようなネット等への接続用のホットスポットを設置し、報酬を得るためには電気通信事業法の届出が必要となり、日本では行いにくいと思われます。

(6) その他の機器の輸入や販売に関する法律
専用機器の輸入や販売にあたっては、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法、製造物責任法などを検討する必要があります。

Ⅲ DePINの実例

1 DePINの実例

DePINには様々なプロジェクトがあり、何をDePINと呼び、何をDePINと呼ばないかは、未整理です。
ただ、下記のようなプロジェクトはDePINと呼ばれていると思われます。このうち、下記2以下で4つのプロジェクトをより詳細に説明します。

プロジェクト名 説明 主な特徴
撮影等によるデータ提供するDePIN

Hivemapper

実世界の分散型マッピングを提供

・ユーザーはダッシュカメラを車に設置して周辺を撮影
・HONEYトークンにより報酬を付与

DIMO 車両データを収集・分析

・所有する車の走行データ等の収集、収益化(自動車メーカー、保険会社への提供)
・DIMOトークンにより報酬を付与するほか、収集されたデータに基づき、車のメンテ等の付加価値サービスを提供
・DIMOトークンにより報酬を付与

PicTrée 分散型の電柱メンテナンス貢献システム

・日本人が代表を務めるシンガポール企業DEAと東京電力グループが実証実験
・ユーザーはゲームで電柱やマンホールを撮影
・Amazonギフト券やDEPトークンにより報酬を付与

主として余剰のデバイス(新規購入デバイスも可)を他者に利用させるDePIN
Filecoin 分散型ストレージネットワーク

・ストレージを必要とするユーザーと余剰容量を持つユーザーをマッチング
・FILトークンにより報酬を付与

Arweave 分散型ストレージネットワーク

・ブロックウィーブ技術を活用し、NFTやDeFi向けに、最低200年という長期間に渡る検閲耐性のある情報保存サービスを提供する、分散型ストレージソリューション

・ARトークンにより報酬を付与

Render Network 分散型のクラウドレンダリングプラットフォーム

・GPU(Graphics Processing Unit)の余剰計算能力を持つユーザーと、GPUの計算能力を求めるユーザーをマッチング
・RENDERトークンにより報酬を付与

新規購入デバイスを他者に利用させるDePIN
Helium Hotspot IoTデバイス向けの分散型無線ネットワーク

・LoRaWAN(消費電力及び長距離通信が特長の無線通信方式)の提供
・専用機器を購入・設置したユーザーに対し、HNTトークンにより報酬を付与

Helium5G 分散型5Gネットワークを構築

・5G通信網の提供
・専用機器を購入・設置したユーザーに対し、MOBILEトークンにより報酬を付与

GEODNET

GPSの精度を改善するために分散型ネットワーク技術を使用

・リアルタイムキネマティック(RTK)技術を活用し、正確な位置情報を安価かつ大規模に提供
・専用機器を購入・設置したユーザーに対し、GEODトークンにより報酬を付与

その他のDePIN

Internet Computer11

Webサービス提供に特化するクラウドコンピューティング基盤

・データセンターを世界各国に分散しWeb3.0(分散型Web)の基盤としてクラウドコンピュー ティング環境の提供を目的とするブロックチェーン
・取引データの蓄積・保存やスマートコントラクトの実行といった、従来のブロックチェーンがもつ機能に加え、大容量データの 保存やアプリケーションのホスト機能をもち、総合的にウェブサービスを提供

The Graph ブロックチェーン上にあるデータをインデックスおよび検索するための分散型プロトコル

・「ブロックチェーン界のGoogle」とも呼ばれ、分散的なチーム運営形式で2018年から運営
・役割(インデクサー、キュレーター、デリゲーター)に応じた貢献を行ったユーザーに対し、GRTトークンにより報酬を付与

出典:インターネット上の記事等を参考に、当職らが作成。分類は便宜的なもの

DePIN Landscape

出典:Andrew Law “Mapping the Landscape of Decentralized Physical Infrastructure Networks” 2023年12月8日 https://iotex.io/blog/depin-landscape-map/

2 Hivemapper

Hivemapperは、分散型リアルワールドマッピングを目指すDePINプロジェクトです。Hivemapperは、Google MapやGoogle Street Viewのようなサービスを再現することを目的としています。
主な特徴及び仕組は以下となります

①ユーザーはDashCamと言われるHivemapper用の専用カメラを購入し、車に設置します。
②ユーザーが明るい時間帯(日の出1時間後~日の入り1時間前)にドライブすると、カメラが撮影したデータとGPS位置情報がネットワークにアップロードされます。
③データを提供したユーザーは、SolanaベースのHONEYトークンで報酬を受け取ります。
④また、マップの改善のためにAI Trainersとして貢献し、HONEYトークンを獲得する方法もあります。ユーザーは幾つかのコンテンツに分かれたクイズ(道路標識に関するクイズやマッピングされた画像が適切かに関するチェック)に答えることにより、HONEYトークンを得られます。
⑤なお、Hivemapperで作成されたマップを商業用に利用したい者は、HONEYトークンでの支払いによりマップを利用できます。
出典:https://bee.hivemapper.com/(公式画像を参考に、当職らが作成。)

3 Filecoin

Filecoinは、分散型ストレージネットワークで、余剰なストレージスペース(ハードディスクなど)を持つユーザーとデータ保存が必要なユーザーを結びつけます。Filecoinは2017年にICOを行い、2020年から正式運用を開始、それらの当時はDePINという言葉は存在しませんでしたが、現在ではDePINの有力な実例と考えられています。
FilecoinはDropBoxやGoogle Driveのようにデータを外部に保存するサービスです。主な違いは、データを保存する先が、一社が提供するデータセンターではなく、分散化された個人や法人が提供するストレージである点です。

①ストレージ提供者はFilecoinネットワークに接続することにより余剰なストレージスペースを提供でき、その対価としてFilecoin(FIL)トークンで報酬を受け取れます。この際に、自分は幾らでストレージスペースを提供するかを設定でき、それにより価格競争がなされます。このようなストレージ提供者は「マイナー」と呼ばれます。
②ストレージを利用したいユーザーはFilecoinネットワークに接続し、少額のFILトークンを支払うことによりストレージを利用できます。
③ユーザーがアップロードしたデータは、無数の断片に分解され、暗号化された上で、複数のストレージに分散されて保存されます。そのため一つのストレージをハッキングしてもデータは判らず、セキュリティーとプライバシーが確保されます。
④上記の断片にアクセスするには、ファイルをアップロードした人物の持つ秘密鍵が必要になります。

4 Helium (Helium Hotspot、Helium5G)

Heliumは分散型のネットワークの構築を目指すプロジェクトです。
Helium Hotspotでは、低消費電力のワイドエリアネットワーク(LoRaWAN)を構築し、IoTデバイス間の接続を可能にすることを目的としています。ユーザーはホットスポットを購入して、家に設置することによりネットワークに参加し、周辺エリアのIoTデバイス等にインターネット接続を提供、その報酬としてHelliumトークン(ティッカ―はHNT)を得られます。
また、Helium5Gでは、分散型5Gネットワークを構築することを目的としています。この取り組みでは、5G対応のホットスポットが展開され、これによりネットワークの機能がIoTから高速モバイルインターネットアクセスに拡張されます。Helium 5Gは、中央集権的な通信プロバイダーに代わる代替案を提供し、より広範囲な地域での高速通信サービスを実現することを目指しています。ユーザーはHelium 5G対応の機材を購入してネットワークに参加することで、5G通信の提供に貢献し、その報酬としてHelium Mobile トークン(ティッカーはMOBILE)を得られます。

出典:https://www.helium.com/

5 PicTrée (DEAと東京電力グループとの実証実験)

シンガポール拠点のGameFiの会社であるDigital Entertainment Asset(DEA)と、東京電力パワーグリッド株式会社と組んだ上で、ゲームユーザーが電柱やマンホールを撮影して報酬を受け取るGameFiの実証実験を予定しています(2024年4月13日ローンチ予定)。
電柱やマンホールなどは、継続的に保守点検が必要ですが、ゲームプレイヤーが最新状況を撮影することにより、電力会社による実際の点検修理が必要かを判断、それにより安全性を保ったままコスト削減できないか、という実証実験のようであり、最初は前橋市の一部で4月13日~6月29日の期間で行われます。
上記2で記載したHivemapper同様、撮影により社会に貢献し、報酬を受け取れる、というDePINですが、自身のスマホと無料アプリで参加可能であり、より参加しやすいDePINと言えると思われます。

ゲーム説明
◼️「PicTrée(ピクトレ)~ぼくとわたしの電柱合戦~」の概要
「ピクトレ」はチームに分かれて、電柱やマンホールなど皆さまの身近にある電力アセットの撮影を行い、撮影した電力アセットの量や距離を競う「チームバトルゲーム」です。
 
プレイヤーは「アンペア」「ボルト」「ワット」の3チームから所属したい1チームを選択し、そのチームの一員としてゲームに参加します。ゲームでは電柱などの電力アセットに「チェックイン」や「撮影」というアクションを行い、さらに撮影した電柱同士を「コネクト(繋ぐ)」することによってポイントを獲得することができます。所属するチームの合計点によって3チームのランキングが決まります。
 
プレイヤーはゲーム内での活躍に応じて、Amazonギフト券やDEAPcoin(DEP)などの報酬が獲得できる他、一定期間行われる各シーズンの終了時にはチームランキングに基づくチーム報酬の獲得チャンスもあります。
(公式サイト)https://pictree.greenwaygrid.global/

ゲーム説明及び図の出典:2024年3月4日付Digital Entertainment Asset Pte.Ltd社プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000200.000047612.html

Ⅳ 法律の検討

DePINには様々なプロジェクトがあり、適用のある法律は一様ではありません。下記では多くのDePINや有名DePINに適用があると思われる法律を検討します。

1 暗号資産法

(1) トークン付与と暗号資産規制

DePINでは、プロジェクトに対して貢献を行うことにより、当該プロジェクトのトークンが付与されることがあります。かかるトークンの多くは暗号資産に該当すると思われます。

参考
暗号資産の定義(資金決済法2条5項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
 
暗号資産交換業の定義(資金決済法2条7項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

暗号資産を業として売買し、交換し、又は利用者のために管理(保管)する場合には、暗号資産交換業の規制が適用されます。
しかしながら、プロジェクトに対して貢献したことにより暗号資産を付与すること自体は、売買でも交換でも管理でもなく、暗号資産規制は適用されません。

(2) 付与されたトークンの滞留と暗号資産規制

上記(1)記載のようにDePINでは、プロジェクトに対して貢献を行うことにより、当該プロジェクトのトークンが付与されることがあります。例えばHivemapperでは月曜日から日曜日までの貢献に対して、3日ほど後にHONEYトークンが付与されます。
このトークンの付与がブロックチェーン上で行われ、付与前には誰も移動等ができず、付与された後には、その付与者が有する秘密鍵でのみ移転が可能である、という場合、特段、暗号資産の「管理」に関する規制は適用ありません。
他方、付与された後のトークンが、何らかの中央集権組織で保管され、ユーザーのウォレットには移転していない(一定の引出手続きをとって初めて移転される等)場合、運営が暗号資産を管理しているとして暗号資産交換業の登録が必要となる可能性があります。
暗号資産管理の規制を避けるためにはトークン付与の際にはトークンをブロックチェーン上のユーザーのアドレスに移転することが必要と思われます。そして少額の報酬の付与でもコスト割れ等にならないよう、ガス代が安いブロックチェーンを使うことが望ましいのでは、と思われます。

(3) 決済と暗号資産規制

多くのDePINでは、機材等を設置してプロジェクトに貢献するサプライヤーサイドにはトークンを報酬として付与し、利用サイド(デマンドサイド)からは利用料としてトークン等を受け取ります。また、一定期間における支払報酬と受取報酬を同額にする等により、インフレやデフレを防ぐ等の仕組が取られることもあります。
ただ、利用料の支払をトークンのみとした場合、利用者の裾野が広がらないことから、多くのプロジェクトでは実際にはクレジットカード等での利用料の支払いを中心とし、クレジットカードで支払われた額に相当するトークンをBurnし、Burnされたトークンと同数量を鋳造(Mint)してサプライヤーサイドに渡す、というスキームを取っているようです12
このような行為が暗号資産の売買に該当し、暗号資産交換業が必要とならないか問題となりますが、①あくまでBurn & Mintであり売買ではないこと、②このような仕組みはプロトコルの提供をフィアットで行ない、サプライサイドにはトークンで行う、という仕組みを採用するための経済的合理性に基づき組成されたものであり、売買と再構成する必要もないこと、③仮にBurn & Mintではない仕組であっても、運営会社自体がプロトコルを管理しており、運営会社がサービスを提供し、トークンでの支払いは内部での処理にすぎない、という構成の場合や、運営会社はプロトコルを管理していないが運営会社がプロトコルからのサービス提供受領を代理人として行い、その代理行為の報酬をユーザーからフィアットで受領している、等の構成であっても暗号資産交換業には該当しないのではと思われること、等から暗号資産交換業という必要はないと思われる。

(4) トークンの上場

DePINプロジェクトでは、ユーザーの貢献で得られたトークン(暗号資産)に関して売買機会を付与するために、トークンを上場することが通常と思われます。
日本居住者に業として暗号資産を販売するためには暗号資産交換業規制が適用されます。海外発のプロジェクトで海外取引所に上場等を行っている場合、当該海外取引所が日本の暗号資産交換業の登録なく、日本居住者にトークンを販売することは違法となります。他方、単なるユーザー側には海外取引所を使用することに関して規制はありません。
日本発のプロジェクトの場合、海外子会社を利用して海外取引所に上場するか、日本法人の場合、いわゆるIEOとして、金融庁と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の許可を得た上で、日本の暗号資産交換業者を通じて、販売を行うことになります。

2 景表法

(1) 機材の購入とトークン付与

DePINの中には、専用機材の購入をした上で、貢献を行うと報酬が得られるものがあります。
例えば、Hivemapperでは、車載用カメラを購入し、それで撮影をすることによりHONEYトークンを得ます。HONEYトークンの付与が「景品」と考えられれば、車載カメラの販売代金に対する一定の割合までしかHONEYトークンが付与できない等の景表法の規制が課されます。
この点、景表法での景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益(トークンを含む)をいいます。
問題は「取引に対して付随する」と言えるかですが、HONEYトークンの付与は、ドライブしてマップ作製に貢献したことに対する報酬であり、車載カメラの販売に付随して行われるものではないため景品には該当せず、従って景表法の景品規制の適用はないと思われます。
同様に、HeliumのHNTトークンやMOBILEトークンの付与も、あくまでワイヤレスネットワークの提供に対する報酬であり、機材を購入したことに対するおまけではない、と整理可能だと思われます。

(2) 既にあるデバイスの利用とトークン付与

DePINの中には、FilecoinやRender Networkのように、既に手持ちのストレージやGPUの余剰部分を提供することにより報酬が得られる仕組みもあります。また、PicTréeのように手持ちのスマホを利用して撮影する場合もあります。
この場合には、特に景表法の景品規制の論点は発生しません。

3 特定商取引法

Hivemapper、HeliumやGEODNETのように専用機材を販売し、その機材を利用して貢献すると報酬を得られるという仕組みの場合、業務提供誘引販売取引の規制を検討する必要があります。
業務提供誘引販売取引(特定商取引法第51条)とは、①物品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって、②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴う取引をする取引をいいます。業務提供利益とは、業務提供誘引販売取引の相手方を勧誘する際の誘引の要素となる利益で、提供される業務に従事することにより得られる収入のことをいいます。特定負担とは、業務提供誘引販売取引に係る商品の購入若しくは役務の対価の支払い又は取引料の提供をいいます。
例えば、このミシンを買ってくれれば、仕事を発注する、という契約が業務提供誘引販売取引であり(いわゆる内職商法)、勧誘に先立つ氏名等の明示、広告規制、消費者への書面交付義務などの規制が課せられます。
Hivemapper、HeliumやGEODNETの仕組みは、日本で行うと、①機材の販売事業であり、②報酬を得られると誘引し、③機材売買契約をしている、として、業務提供誘引販売取引に該当する可能性が高いと思われます。(なお、自社と全く無関係の者が販売し、かつ販売の斡旋もしなければ規制には該当しません)
他方、Filecoinのように余剰のストレージを利用させたり、PicTréeのように手持ちのスマホを利用させる場合、同法の適用はありえません。

4 電波法

DePINに利用するデバイスの多くでは、無線通信のために電波を発していると思われます。日本では電波を発するデバイス(携帯電話、Wi-Fiルーター、多くのIoT機器)を利用する場合、個人利用のためや無償利用であっても、原則として総務大臣の免許が必要です(電波法第4条)。ただし、発する電波が著しく微弱な場合や、いわゆる技適マークが付与された機材の場合、この免許は不要です(同条第1号、第2号)。

なお、電波法の規制はデバイスの利用者に関する規制であり、デバイスの販売者に関する規制ではありません。電波を発するデバイスを購入して利用する場合、ユーザーは規制対象ではないか、技適マークが付されているか等の判断をする必要があります。 ただし、同規制は利用者に対する規制ではありますが、日本国内で広く利用して貰うためには、運営側でも技適マークを取得するなどの対応が必要と思われます13

5 電気通信事業法

日本では、インターネットや携帯電話等の通信用のサービスを他者に提供し、それで報酬を得る場合、電気通信事業の登録又は届出が必要となります。 例えば、喫茶店で無償のWi-Fiスポットを提供する等は「事業を営む」に該当しないとされます14
なお登録と届出いずれが必要かは、例えば市区町村を超えて業務を行う場合には登録、それ以下の場合、届出となります(電気通信事業法9条第1号、第16条)。
Heliumのユーザーのように無線ホットスポットを提供し、それによりトークンを得る、という行為も電気通信事業に該当し、ユーザー側に届出が必要となります。従って、現行規制を前提とすると、日本でのHeliumの運用は厳しいのでは、と思われます。 DePINではありませんが、FONという無線LANアクセスポイント事業に関し、日本では電気通信事業法の規制のため、そのうちの有償事業が提供されていなかったことについて、脚注をご参照下さい15

6 その他の機器の製造・輸入・販売に関係する法律

専用機器の購入を前提とするDePINの場合、当該機器を日本国内で製造・輸入・販売する上では、関連法による規制を受けることになります。 例えば、DePINとは直接の関係はありませんが、家電製品やIoT機器の輸入や販売にあたっては、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法などの法律の他、製造物責任法などの法律が適用されることがあるとされます16
この点、現状において専用機器購入を前提とするDePINに該当すると思われるHivemapper、Helium及びGEODNETに関して言えば、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法等については、適用対象にならないのでは、他方、製造物に関する一般的な法規制(製造物責任法)については適用があるのでは、と思われますが、実際のデバイスの輸入や販売にあたっては、各製品の仕様と法律の詳細を検討する必要があります。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、DePINの利用やDePIN機材の購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

2024年1月10日に米国で現物ビットコインETF11銘柄の承認がなされました。

暗号資産ETFの承認により、今後、大量の機関投資家の資金が入ってくる可能性等が指摘されていますが、海外の暗号資産ETFが本邦で売却された場合等、源泉分離課税20%となるのでは、等と言われることもあります(なお、海外のETFを日本の証券会社が販売している事例は多数あり、多くの場合、源泉分離課税20%の対象となっています)。

当職らは、そのような議論も受け、①暗号資産ETFに対する分離課税適用の有無、②暗号資産ETFの新NISA銘柄化の可否、③第一種金商業者による暗号資産ETF取扱いの可否、を下記及び別紙のとおり、検討しています。

結論としては、以下のようになると思われますが、法令上の解釈には幅がありえ、今後の更なる検討が必要になります。

現状、日本においては直接的なメリットは少ないかもしれませんが、とはいえ、暗号資産ETFの米国上場は大きなイベントであり、今後、日本でも議論を行う必要性があると思い、ご参考までに本稿を記載したものです。

本稿は2024年1月11日第1稿掲載。1月16日(第1.1稿)、2月8日(第1.2稿)にアップデート版掲載。

結論
I 暗号資産ETFに対する分離課税適用の有無
・暗号資産ETFは⑴投資信託型のETFの場合には、暗号資産が投信法上の「特定資産」に該当しないことから、議論はありうるものの外国投資信託には該当しないと思われ、分離課税の対象となる「上場株式等に係る譲渡所得等」(租税特別措置法37条の11)には該当せず、総合課税の対象と理解しうる。
・これに対し、⑵受益証券発行信託型のETFの場合には、「特定受益証券発行信託」(法人税法2条29号)を充たすことによって、分離課税の対象となりうる。但し、海外で発行されたETFについて、この条件を満たすことが可能か検討が必要となる。
・米国籍暗号資産ETFは、合同運用信託(法人税法第2条第26号)の要件の解釈次第ではあるものの、法人課税信託(法人税法第2条第29号の2)の対象となる可能性がある。仮に法人課税信託となった場合、受益者の課税は分離課税になる。なお、受託者段階でも日本の法人税の課税対象となるが、受託者に国内源泉所得が存在しなければ非課税という結論になると思われる。
・暗号資産ETFのメリットを述べる上で、詳細な分析をせずに、暗号資産ETFは当然に分離課税の対象という認識が示されているケースも見られる。しかし、この認識は必ずしも正しくないと思われる。
・なお、海外で発行されたETFに対して国内投資信託が投資をするスキーム(マザーファンドスキーム)や、いわゆる「ETF-JDR」として国内で上場するスキームは、いずれも現行法制上困難と思われ、かつ、税務的にも現状はメリットがないように思われる。
・現物暗号資産および暗号資産デリバティブは総合課税の対象として認識されており、現在、各種団体が分離課税の対象とするよう金融庁への要望を出している。現時点では、暗号資産ETFはここでの分離課税の議論の射程外である。今後、暗号資産現物もETFも分離課税とすることが望ましい(ETFについては国内での組成も許容する)と思われる。

II 暗号資産ETFの新NISA銘柄化の可否
・つみたて投資枠において暗号資産ETFを対象銘柄とすることは不可。
・成長投資枠において暗号資産ETFを対象銘柄とすることは、少なくとも現行法制下においては排除されていないと思われる。もっとも、現行法制下においてもレバレッジ銘柄が除外されているように、ハイリスクなものは排除するというのがNISAのスタンス。政令・告示によって暗号資産ETFは排除される可能性もあるか。

III 第一種金商業者による暗号資産ETF取扱いの可否
・第一種金商業者による暗号資産ETFの取扱いは、現行法上可能。但し、業務方法書に記載があるかのチェックは必要となる。
・暗号資産は投信法上の「特定資産」に含まれておらず、外国籍の暗号資産ETFは、現行法制上は外国投資信託には該当しないものと思われる。
・暗号資産ETFが外国籍の受益証券発行信託に該当する場合、日証協の「外国証券の取引に関する規則」の趣旨を踏まえて取扱うのではと思われる。
・募集・売出に該当する場合には有価証券届出書の提出が必要となる。委託取引の場合には通常募集にも売出にも該当せず同届出は必要ない。なお、委託取引等で保有者が500人以上に至った場合でも有価証券報告書の提出は必要ない。
それぞれの分析は、別紙1、別紙2、別紙3のとおりとなります。
※別紙1、別紙2、別紙3に関してはこちらより閲覧をお願いいたします。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・当職らは暗号資産ETFへの投資を勧めるものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律及び税務アドバイスが必要な場合には各人の弁護士や税理士にご相談下さい。

Ⅰ ブロックチェーンゲームとは

ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーンを活用したゲームであり、例えばアイテムがブロックチェーン上のNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)として発行され、当該NFTがブロックチェーンを利用して移転可能であるなど、暗号資産やトークンが活用されるゲームを指します。

通常のゲームでは、①購入したアイテムはゲーム運営会社のものでありユーザーのものではなく、②当該アイテム等の資産の自由な移転、売却、貸与はできず、③時間をかけたデータでもゲーム配信終了後は単に消滅するのみ、であるのに対し、ブロックチェーンゲームでは、①ユーザーがトークン(ゲームアセット)の保有者であり、②当該トークンを外部に移転、売却、貸与でき、③サードパーティー等もトークンを利用でき、④ブロックチェーンが存在する限りは記録されたデジタルアセットは永久に生き続ける17 、等の特徴があります。

世界では2017年11月に開始したCryptoKittiesというゲームがその嚆矢であり、日本でも2018年頃からくりぷ豚、My Crypto Heroesなど各種のゲームが発表されました。その後、2021年から2022年にかけて、暗号資産の高騰とNFTブームがあり、世界ではAxie InfinityやSTEPNなどPlay to Earnのゲームが大ブームとなりました。

NFTブームが一段落したものの、現在、日本では大手ゲーム会社のIPを利用するものも含め、多くのブロックチェーンゲームの開発、提供がなされています。

当職らはこれまでも下記のようなブロックチェーンゲームに関連する記事を執筆していますが、下記①や④以降、様々な議論があり、また、2022年10月12日に業界5団体により賭博に関するガイドライン(以下「合同ガイドライン」といいます。)が発出されたことや18 、2023年3月に金融庁においてNFT性に関するガイドラインが提出されたこと等も踏まえ、下記①及び④を改訂してブロックチェーンゲーム全般の法規制について、改めて記載するものです。

参考
ブロックチェーンゲームと日本法(2018年10月4日)
② ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討(2021年9月2日)
③ NFTスカラーシップ、Yield Guild Gamesと日本法(2021年9月16日)
④ブロックチェーンゲームと暗号資産法、賭博罪、景表法(2022年11月4日)[ (①の実質第2版]

Ⅱ 検討すべき法律と結論

ブロックチェーンゲームの組成にあたっては、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の暗号資産規制(資金決済法のうち暗号資産規制に関する部分を以下「暗号資産法」といいます。)、刑法の賭博罪、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)、資金決済法の前払式支払手段規制など、様々な法律を検討する必要があります。

現在の当職らの考えを纏めると以下の通りとなります。

(1) 暗号資産法
・ アイテムに決済手段としての機能がないと認められる場合、資金決済法上の暗号資産には該当せず、暗号資産交換業の登録は不要となる。
・ 概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると考えられている。

(2) 賭博罪
・ ガチャ、パッケージ販売、リビール販売などランダム性のある方法でNFTをユーザーに売却する場合、賭博罪のリスクの検討を要する。この点、合同ガイドラインでは、①例えば販売会社が二次流通市場での買取を約束している場合や、②販売会社が、アイテムを別途レアリティ等により単価に差異を設けて個別で販売し、ランダム型販売による販売価格が、個別で販売されるアイテムの価格のうち最も低い単価を超えているような場合19 等、例外的な場合以外は、原則としてランダム型販売であっても賭博罪は成立しない、但し、消費者保護の観点から個別のNFT の客観的価値に差異があるものと消費者に殊更意識させるような手法(例えば、特定のキャラクターの価値が高い旨を販売会社が過度に宣伝する、特定のキャラクターをゲームにおいて過度に有利に扱う等)は避けるとされており、実務的には合同ガイドラインに従うことになると思われる20 。
・ アイテム同士の合成によりランダムに新アイテムが登場し、その新アイテムが売却可能という場合、財物である旧アイテムが消滅して賭け金と見られる場合や、合成手数料が賭け金と見られる場合、賭博罪のリスクを検討する必要がある。合同ガイドラインでは合成については触れていない。合成の場合でも、理論的にはランダム型販売と同様の考え方となるとは思われるが、合同ガイドラインにないこともあり、ランダム型販売に比して慎重な検討を要する。

(3) 景表法
・ ゲームの登録、ログイン、ランキングボーナス等で、トークンやEtherを配布する場合、トークン、Etherも「景品類」に該当しうることから、景表法の景品規制を踏まえて配布する必要性がある。
・ 全員に配布のボーナス(総付景品)は取引価格が1000円未満の場合上限200円、1000円以上の場合には取引価格の10分の2まで。ランキング報酬等の場合、取引価格の20倍と10万円の低いほうが上限となり、更に懸賞に係る売上予定総額の2%の総額制限が課される。
・ 取引価格は最低課金単位で考えることがまずは妥当と思われる。
Play to Earnゲームについて、(a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができると考えた場合、報酬部分が景品規制の対象となる可能性がある。ただし、ゲームデザイン次第では、報酬はおまけ(景品類)ではなく、景表法の適用がないと考え得る場合がある。

(4) 前払式支払手段規制
・ 円やドルで購入するゲーム内通貨は通常、自家型前払式支払手段発行の届出が必要
・ これに対し、1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が暗号資産にリンクする場合、原則、前払式支払手段には該当しない
・ 100円の時価に相当するEtherで1魔法石が購入できる等の場合、原則、自家型前払式支払手段に該当と思われる。

Ⅲ 法律の検討

以下、各法的問題点の検討をします。

1 暗号資産法

(1) 問題となる仕組み

ブロックチェーンゲームでは、以下の仕組をとるケースが多く見受けられます。
① アイテム等に対応したトークン(ゲームアセット)が発行される。
② 運営会社は当該トークンをユーザーにEther等の暗号資産を対価に販売する。
③ トークンは上記のほか、運営会社から無償配布され、ゲームプレイで入手できる場合がある。
④ 入手したトークンはブロックチェーン上で自由に移転可能。
⑤ 入手したトークンを、他のプレイヤーが保有するEther等と交換できるプラットフォームが提供される。かかるプラットフォームは運営会社が提供するプラットフォームの場合もあり、また外部サイトの場合もある。

(2) 問題の所在

仮にトークンが暗号資産法上の「暗号資産」に該当するとされた場合、上記(1)②のようにトークンを販売する場合は販売者が、上記(1)⑤のようにトークン売買のプラットフォームを運営する場合にはプラットフォーム運営者が、原則として「暗号資産交換業」の登録を受ける必要があります。

この暗号資産交換業の登録は、多額のコストと時間がかかるとされており、ゲームのためだけに登録を受けることは、通常、現実的ではありません。

暗号資産法上、「暗号資産」の定義はかなり広く定義されており、ブロックチェーンゲームのトークンも暗号資産に該当するのではないか、その場合、CryptoKittiesのようなゲームを日本で販売することは難しいのではないか、と2018年までは、考えられていました。

参考
暗号資産の定義(資金決済法2条5項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
 
暗号資産交換業の定義(資金決済法2条7項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

(3) 金融庁パブリックコメント回答及びガイドライン

この点、2018年頃の関連当局との相談、その後の2019年9月3日付金融庁のパブリックコメントにより、多くのNFTの場合、「暗号資産(当該パブコメ時には仮想通貨)」に該当しないとされています。

さらに、2023年3月に金融庁が暗号資産に関するガイドラインを改正し、かつ関連するパブリックコメント回答を出され、暗号資産とNFTの区別がより明確化しました。ここでは、概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると明確化されており、ブロックチェーンゲームでのNFT発行がやりやすくなったと考えられます。

暗号資産交換業者ガイドライン
I-1-1
① 法第2条第14項第1号に規定する暗号資産(以下「1号暗号資産」という。)の該当性に関して、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ.発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ.当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
・最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
・発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること

なお、以上のイ及びロを充足しないことをもって直ちに暗号資産に該当するものではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もあり得ることに留意する。

参考資料:金融庁2023年3月24日付パブリックコメント回答
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf
19番
トークンの価格については、基本的には当該トークンが提供されているサービスプラットフォームや二次的な流通市場において取引される価格を基準に判断することになります。また、最小取引単位当たりの価格が例えば1000円以上のトークンについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。
 
20番
一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます。

2 賭博罪

(1) 総論

刑法の賭博罪は、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うこと、により成立します。

この偶然の勝敗については、「当事者にとって主観的に確実に予見できない、あるいは自由に支配できない、主観的に不確実なこと」と広く解釈されており(大判大4年10月16日)、例えば、賭け麻雀のように偶然性と技術の両者が重要な場合に加え、賭け将棋や賭け囲碁のように、通常の意味では偶然性がないのでは、と思われるゲームについても賭博罪が成立するとされています。

また、金銭のみならず「財産上の利益」が賭博の対象となるところ、米、土地、借金の棒引きなど全て賭博罪の対象となる「財産上の利益」に該当し、暗号資産も当然に財産上の利益に該当すると考えられます。

第185条(賭博)
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

(2) ガチャ、パック販売、リビール販売などのランダム型販売と賭博罪

ブロックチェーンゲームやNFT販売では、いわゆるガチャ販売、パッケージ販売、リビール販売、ランダムジェネレーション販売など、ランダム性をもつ販売方法でゲームアイテムが販売されることがあります。

このようなランダム型販売は、Etherなどの財産を拠出し、NFTという財産をランダムで取得する、ということで、①偶然の勝敗により②財産上の利益の③得喪を争うことに該当し、賭博罪になるのではないか、と考えられてきました。 しかしながら、2022年に東京大学の刑法学者であられる橋爪隆教授が、NFTのパック販売と賭博罪との関係について、「NFT については、その生成段階においては、いかなる経済的価値が付与されるかは一義的ではないから、実際の販売行為における価格設定を離れて、客観的な価値や相当な価額を(販売時点において)明確に算定することは困難である。かりに人気のない NFT を含むパッケージを取得したとしても、そのことから直ちに、購入者は販売価格相当の NFT を取得することに失敗し、経済的な損失を被ったという評価を導くことはできないように思われる。」等のご見解を出され21 、そのようなご意見も参考にしながら業界5団体による2022年10月12日に上記の合同ガイドラインが発出されています。

当該合同ガイドラインでは、①例えば販売会社が二次流通市場での買取を約束している場合や、②販売会社が、アイテムを別途レアリティ等により単価に差異を設けて個別で販売し、ランダム型販売による販売価格が、個別で販売されるアイテムの価格のうち最も低い単価を超えているような例外的な場合以外は賭博罪が成立しない、但し、消費者保護の観点から個別のNFT の客観的価値に差異があるものと消費者に殊更意識させるような手法(例えば、特定のキャラクターの価値が高い旨を販売会社が過度に宣伝する、特定のキャラクターをゲームにおいて過度に有利に扱う等)は避けるとしています。

合同ガイドラインは、警察や裁判所等に対して拘束力等を持つものではなく、あくまで民間の団体が出したものにすぎませんが、著名な刑法学者のご意見も参考にしながら、業界団体及び弁護士等が集まって議論した結果発出されたものであり、実務的には合同ガイドラインに従ったランダム型販売を行うことは許容されるのでは、と思われます。

(3) 合成

ブロックチェーンゲームでは、合成、具体的には2つ以上のアイテムから新しい1つのアイテムがランダムに誕生する、という仕組みがとられる場合があります。

合成に何らかの賭け金がある場合、例えば、元のアイテムが消失する、合成に手数料が必要である、等の場合、賭け金を賭けて新たな財産が得られる賭博である、とされないかについてのリスクを検討する必要があります。理論的には合成の場合であっても上記(2)の議論が適用される、すなわち、出現するNFTの価額を明確には算定できない場合(例えば、販売会社が買取を約束していたり、別途の価格での販売を行っていない場合)には、財物の得喪がなく、賭博罪には該当しない、と考えられそうですが、上記合同ガイドラインは、合成の場合については対象としていないことから、ランダム型販売の場合に比べて合成はより慎重に考慮する必要があるようには思われます。

なお、合成の場合には、元のアイテムが消失しない、かつ手数料を取らない、又は手数料はガス代等コスト分のみである場合には、一定の財産を賭けていない(喪がない)という議論が可能ですので、合成に関する賭博罪リスクは低いと思われます。

3 景表法

(1) 初めに

多くのソーシャルゲームでは、新規顧客を勧誘するためにアイテムを配布し(新規ボーナス)、既存プレイヤーにゲームを継続させるためにアイテムが配布され(ログインボーナス)、各種イベントの達成度に応じてアイテムが配布されるほか(達成ボーナス)、プレイヤーを競わせるために各種ランキングを設けてランキングに応じてアイテムが配布されることがあります(ランキングボーナス)。

 ブロックチェーンゲームを開発する事業者から、このようなボーナスとしてトークンを配布したり、特にランキングボーナスの場合、上位者にEtherなどの暗号資産を付与できないか、というご相談を受けることがあります。これらの配布を行う場合、景表法との関係を考える必要があります。

(2) 景表法について

景表法では、過大な景品類の提供を禁止しています。

景品類とは、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、③物品や金銭など経済上の利益をいいます。また、経済的利益には(a)物品及び土地、建物その他の工作物、(b)金銭、金券、預金証書、当選金付証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券、(c)きょう応(映画、演劇、スポーツ旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)、(d)便益、労務その他の役務、を幅広く含みます。

「過大」性については、一般懸賞、共同懸賞、総付懸賞により異なりますが、ゲームに関連すると思われる範囲では下記の基準によります。

  説明 景品類の上限
総付景品 懸賞によらず、商品・サービスを利用したり、来店したりした人にもれなく景品類を提供すること。 購入者全員にプレゼント、来店者全員にプレゼントなど

取引価格が1000円未満 – 景品類上限は200円

取引価格が1000円以上 – 景品類上限は取引価額の10分の2
一般懸賞 商品・サービスの利用者に対 し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること。 店舗での抽選、クイズ大会、ゲーム大会

取引価額が5000円未満 – 取引価額の20倍

取引価額が5000円以上 – 10万円

いずれも総額上限として売上予定総額の2%

なお、そもそもEtherやトークンの配布が「景品類」に該当するか問題となりますが、上記(d)の「便益、労務その他の役務」は幅広く解釈されており、Etherのように財産的価値があるものは当然として、通常、ユーザーがお金を払っても良いと思うようなものは全て「景品類」に該当しうると解釈されており、原則として常に景表法の適用があると考えて良いと思います。

(3) ログイン報酬と景表法

ログインをした場合に報酬としてトークンを付与するゲームを考えた場合、当該報酬が、景品類に該当するか検討します。

そもそもログイン自体は課金には直結していないものの、一般的にログイン報酬は当該ゲームを継続してプレイしてもらい、課金を行ってもらうための誘引として提供されており、①顧客を誘引する手段として、②取引に付随して提供する、に該当すると思われます。

また、Etherやトークンは、通常、③物品や金銭などの経済的利益、に該当すると思われます。

そしてログインだけで景品が貰えることは総付懸賞であると考えられ、よってログイン報酬としてトークンを付与する場合、1日あたり200円以内など、景表法の範囲を守って付与する必要があると思われます。

(4) ランキング報酬と景表法

ランキング上位にEtherや非常に強力なトークン等を付与することが考えられます。

従来型ゲームでも、ランキング上位に強力なアイテムや無償アイテムを付与することはしばしば見受けられますが、この場合、付与するものに応じて、経済的価値がないと考える、もしくは経済的価値が余り高くないと価値を算定し、景品規制の上限金額の範囲内で付与しているものと思われます。

ブロックチェーンゲームで、付与されるEtherや外部売却可能なトークンも景品類に該当し、一般懸賞の制限に服することとなります。

懸賞の許容額は取引価額に応じて決定されるところ、取引価額が幾らかの算定は困難ですが、一応の考え方としては最低課金価格を取引価格とし、その20倍ないし10万円までの低いほうの報酬が出せる、と考えることになるのではと思います。

4 Play to Earnと景表法、賭博罪

Play to Earnゲームについて、(a)ゲームアイテムやゲーム自体を購入し、(b)プレイすることで何らかの報酬(例えばNFTやトークン)を獲得することができると考えた場合、報酬部分が景品規制の対象となる可能性があります。

ただし、理論的には、そもそもPlay to Earnゲームでの報酬は「おまけ(景品類)」ではなく、報酬の獲得がNFT購入とゲームプレイの目的そのものである、として景表法の適用がないとする考え方もあり得るとは思われます。 例えば、宝くじの賞金やパチンコの景品などは、正常な商慣習に照らして、「宝くじを買う」「パチンコをする」といった取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益であり、取引付随性がないと考えられています22

Play to EarnのNFTを購入するという取引に、購入したNFTを使ってゲームをプレイすることで報酬を獲得する、ということが正常な商慣習に照らして含まれているといえるような場合、例えば、NFTを購入するほぼすべてのユーザーが、報酬の獲得を当然の目的としてNFTを購入していると言えるような場合には、報酬の獲得が取引そのものであり取引付随性が認められない(=景表法は無関係)、と考えることもできるように思います。

実態としてはこのように考えても良いようには思われますが、他方、パチンコや宝くじと比較すると、なおNFT購入と報酬獲得の関係は遠いように思われる点や、パチンコや宝くじと同様、という景表法上の整理をすると、これらと同様に賭博罪との関係性を検討する必要性も生じるところです。すなわち、獲得できる報酬はオマケではなく、NFTを購入するという取引の目的に含まれていると整理をした場合、NFTの価額には獲得できる報酬の対価が含まれていると考えられ、獲得できた報酬の多寡によってNFTや報酬の提供者とユーザーとの間で得喪を争う関係が観念し得るように思われます。例えば、1万円のNFTを購入して、クエストのクリア状況によって最大2万円を獲得できる場合、2万円を獲得できたユーザーはトータルで1万円勝ち、4000円しか獲得できなかったユーザーは6000円の負け、という整理があり得るように思われます。この点、おまけではなく本来の目的であるとして景表法の範囲を超えてリワードを与える場合の賭博罪に関する試論としては、下記のようなものが考えられます。

  1. パチンコの玉は、パチンコのプレイがうまくいかなかった場合に失われるという意味で、(三店方式の議論を除き)まさに賭博の掛け金であるのに対し、ブロックチェーンゲームで購入したNFTは、通常、プレイによって失われるものではない。また、パチンコの玉や宝くじの紙はそれ自体に価値があるわけではないため、景品や当選金が獲得できなければ無価値であるが、NFTはブロックチェーンに記録されたデジタルデータであり、多くのケースで二次流通市場での売買が可能であるなど、仮に報酬が獲得できなかった場合であっても支払った対価に見合う価値は残っており、ユーザーに損失は生じない。
  2. eスポーツ大会における賞金の提供行為での議論であるが、(i)参加者間に財物等の「得喪を争う」関係が認められるためには、参加者のうち、試合に負けた者が失った財物等が勝者に対する賞金の原資となり、実質的に移転する関係が必要となる、(ii)そのため、大会主催者が自社のマーケティング用の経費を原資として賞金を提供する場合であり、大会参加者の支払う参加費が賞金の支払いに充当されていない場合には、賭博罪が成立しないと解することができる、とされていると思われる23。これとの比較からすると、NFTの販売代金をプールにして、そこから勝者に対する報酬が支払われるような場合には、ユーザー間で得喪を争う関係を観念できるため、賭博となる可能性が高くなると考えられるが、他方、多くのブロックチェーンゲームのNFTの販売代金は、ゲームの開発や運営等には使われ、報酬は必ずしも販売代金プールから支払われるものではない。多くの場合、報酬には別途運営者が用意したNFTや自社ゲーム通貨、自社ゲームトークンが付与される。開発費用や運営費用に使用される点に賭博罪との関係で懸念はあるものの、なお、NFT販売代金から報酬が出ている訳ではない、という議論も可能なように思われる。
  3. 以上のように考えると、プレイヤーにBTCやETHを付与するものはともかく、NFTや独自トークンを付与するものは賭博ではないと言いうる。

ただし、上記はあくまで試論であり、例えば①の議論についてはNFTに価値があるのは賭博に参加するための価値であり、賭博の参加権のようなものに過ぎないのでは、という反論や、報酬を獲得することが取引の本来の目的なのであれば、報酬を獲得できなければ損失が生じているといえるのではないかという反論、②の議論については、報酬のNFTや独自トークンは、結局、NFT販売代金が開発費用や運営費用に充てられているから価値が出るものであり、NFT販売代金から出ているものと実質的には同様では、などの反論もありうるところです。その他、Play to Earnゲームの構築に際しては、これらの論点の他にも、二次流通市場でNFTを購入したユーザーに対する景表法の上限をどのように考えるのかや、同一のNFTについて複数回の全く関係のないイベントを実施して報酬を提供する場合の上限をどのように考えるのかなど、法令上不明確な部分も数多くあり、どこまでリスクを取れるのかも含め、慎重な検討が必要とは思われます。また、例えば、購入したNFTを利用する業務を行うことで報酬が得られると告げてユーザーにNFTの販売をする場合、業務提供誘引販売取引(特商法第51条)に関する規制が適用されると考えられる余地があり、勧誘の仕方には留意が必要であると思われます。

 この他に、別途、例えばAxie Infinityに景表法が適用されると考えた場合の分析を行ったものとして、当事務所による「ブロックチェーンゲームにおける“play-to-earn”の法的検討」(2021年9月2日)もご参照下さい。

5 資金決済法(前払式支払手段)

(1) ゲーム内通貨の販売と前払式支払手段

ブロックチェーンゲームの中には、スタミナ回復やアイテム購入のために、ゲーム内通貨を販売するものがあります。円やドルで購入するゲーム内通貨は、多くの場合、自家型前払式支払手段に該当し、同手段発行の届出が必要となります(資金決済法第3条、第5条)。

(2) ゲーム内通貨の暗号資産での販売

ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内通貨がEtherなどの暗号資産で販売される場合があります。

この点、資金決済法第3条第1項の前払式支払手段の定義上「金額に応ずる対価を得て発行される」と記載され、通貨建資産ではないEtherは「金額」に該当しないと思われます。よって、仮に1ゲーム内通貨が0.01Etherのように購入価額が暗号資産にリンクする場合には、同ゲーム内通貨は原則として、前払式支払手段には該当しないと思われます。

他方、1ゲーム内通貨が、100円の時価に相当するEtherで購入できるというケースの場合、これは100円という「金額」を単にEtherで支払っているに過ぎないため、前払式支払手段の「金額」の定義に該当すると思われます。

第3条(定義)
1 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。) により記録される金額 (金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。) に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
 
4 この章において「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者(次条第五号及び第三十二条において「密接関係者」という。)を含む。以下この項において同じ。)から物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5 この章において「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

留保事項

・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、ブロックチェーンゲームの利用やNFT購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

本稿では、DeFiの中でも、近時、急速に拡大を続けるリキッドステーキングとその最大手LIDOの仕組み、日本法の考察を記載します。

I  法的整理の纏め

(1)  リキッドステーキングでは、主として①暗号資産法(資金決済法のうちの暗号資産規制部分をそのように呼びます)の売買交換規制、②同法のカストディ規制、③金商法のファンド規制、の適用の有無を考える必要がある。
(2)  仕組次第であるが、LIDOが行うETHをステークし、代わりにstETHを受領するような取引は、暗号資産法の売買でも交換でもなく、暗号資産法の売買交換規制は適用されないと思われる。
(3)  ETH等のステークが、暗号資産の預託と見られる場合、暗号資産法のカストディ規制の適用が問題となる。しかしながら、預託がスマートコントラクトに対して行われ、プロトコルやノードオペレーターが技術的にETH等を移転することができない場合には、カストディ規制は適用されない。
(4)  ETH等の拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みに関し、金商法のファンド規制が適用されないか問題となる。この点、ETH等は事業に充てるために拠出されているのではなく、あくまでスラッシング当のペナルティーに対処するための一種の物上保証としてスマートコントラクトにロックされているに過ぎない、と考えられる仕組みの場合、金商法のファンド規制は適用されないと考えられる。
(5)  上記のほか、日本法は運営者等の人や法人を対象とする規制のため、プロトコルに運営者がいない場合、当該プロトコルには規制が掛からないという議論がありうる。

II 当事務所のDeFiとステーキングのBlog(参考用)

なお、当事務所はDeFiやステーキングについて下記記載のようなBlogを執筆しています。本稿の他、下記をご参照ください。

ステーキングに関する法的論点の整理(2020.3.17)

イールドファーミング/リクイディティマイニング/Compoundと日本法(2020.7.31)

DeFiによる暗号資産デリバティブ取引/信用取引と日本法(2020.9.10)

DeFiと日本法(2020.10.21)

Uniswap/DEX/AMMと日本法(2020.10.23)

III リキッドステーキングやETHステーキング、LIDOの基本概要

1 リキッドステーキング

リキッドステーキングとは、暗号資産のステーキング報酬を受け取りながら、その代替資産(ステーキング証明トークン)を更に受領し、当該代替資産を運用できるDeFi(分散型金融)の仕組みを言います。

2 Proof of Stakeとステーキング

Proof of Stake(POS)とは、暗号資産について一定の関与(ステーク)をしている者にブロックチェーンの認証を行わせるものです。

ビットコイン等で使われてきたProof of Work(POW)という仕組みと異なり、コンピューターが膨大な計算をすることなく認証ができ、そのため電気の消費量が少なく、地球環境に優しいことがメリットとされます。

3 ETHのステーキング

イーサリウムはETH2.0から、POWではなくPOSを利用した仕組みとなっています。イーサリウムのステーキングでは、①32ETH (2023年10月現在の価格で約830万円)をデポジットすることで Validator になれる、②Validatorがイーサリウムの各トランザクションの認証を行い、それにより報酬として一定のETHを受領できる、③但し、Validator が意図的に虚偽の情報を出した場合にはデポジットしたETHの一部没収というペナルティー(スラッシング)を受ける、④またValidatorは必ず Online であることが求められ、もしダウンした場合にも一定のペナルティーを被る、という仕組みとなります。

4 LIDOの仕組み

LIDOとは世界で最大規模を誇るLiquid Stakingを行うためのプロトコルです。現時点でイーサリウムのステーキング量の3割以上をLIDO経由が占めるとされています。 LIDOの仕組みは以下のようになっていると思われます24

出典:公表資料から当事務所が作成

  1. LIDOを使用すると、ユーザーは資産をロックしたり、自らステーキング用のインフラを維持する等することなく、かつ他のDeFiレンディング等にも参加しながら、ETH をステーキングできる。
  2. ユーザーがLIDOを利用してステーキングする場合、ユーザーはLIDOのスマートコントラクトにETHを送付する。これに対し、ユーザーは1:1でstETH というトークンを受領できる。
  3. stETHはLIDOにステーキングのためにETHを預けたことを表章するトークンであり、 stETHをLIDOに対して送付してBurnすると、ETHを受け取ることができる。stETHは自由に売買ができるほか、stETHを受け入れる別のDeFiがある場合、当該DeFiでstETHを利用することにより、二重に報酬を得ることができる(但し、stETHを受け入れるDeFiプロトコルはまだ限定的なようである)。
  4. LIDOはスマートコントラクトで受領したETHを利用し、ステーキングを行う。ステーキングで得られた報酬のうち10%はLIDOが取得し、当該ステーキングの実務を行う者(ノードオペレーター)とLIDO DAOに分配され、残りの90%はユーザーに分配される。なお、ユーザーへの分配はstETHのアドレスにあるstETHの数字が加算される方式で行われ、LIDOが管理するETHの数が常にstETHの数と同じになる方式で行われるようである。
  5. LIDOは複数のノードオペレーターを利用する。ノードオペレーター候補は、LIDOにノードオペレーターになりたい旨、経験や技術力等を申請し、その後、LIDOのガバナンストークンであるLIDOトークンホルダーにより構成されるDAOの投票によりノードオペレーターになれるか決定される。
  6. なお、ETHにはスラッシングリスクやペナルティーがあるが、LIDOは多数のノードオペレーターを利用することにより、当該リスクをヘッジしている。また、一部のETHを別で管理し、保険的に利用することによりスラッシングリスクに備える。
  7. LIDOはオープンソース、ピアツーピアのプロトコルであり、また、その運営の決定はLIDO DAOが行うため、一つの運営者等によって運営されているものではない。

IV リキッドステーキングと日本法

LIDOのようなリキッドステーキングを提供する場合、暗号資産法の売買規制やカストディ規制の適用の有無、金商法のファンド規制の適用の有無を考える必要があります。

1 暗号資産の発行規制

LIDOに対してETHを拠出すると、stETHが交付され、逆にstETHをLIDOに対して送付すると、ETHが得られます。

この行為が、ETHとstETHとの交換となり、暗号資産交換業の規制に服さないか問題となります。

しかしながら、stETHはETHの預託を証明するために交付されるものであり、このようなstETHの発行は、民法上の売買や交換には該当せず、よって、暗号資産の交換には該当しない(逆の場合も同様)のでは、と思われます。

2 暗号資産のカストディ規制

LIDOに対するETHの拠出が、LIDOに対する暗号資産の寄託と考えられ、LIDOに暗号資産法のカストディ規制が適用されないか問題となります。

しかしながら、LIDOに対する拠出はスマートコントラクトに対する拠出であり、LIDOはスマートコントラクトの仕組上、ステーキング以外には当該ETHを利用できない(=秘密鍵を管理していない)ように見受けられます。

本邦のカストディ規制では「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、資金決済法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメント結果9番)等とされており、スマートコントラクトにより、ETHの自由な移転が行えないとされている場合、暗号資産法上のカストディ規制には服さないと考えられます。

3 金商法規制

ETHの拠出を受け、ノードオペレーターがそれを運用し、ユーザーにステーキング報酬の一部の分配を行う、また、ユーザーがスラッシングリスク等のペナルティリスクを負担する、という仕組みからは、LIDOやリキッドステーキングがファンドに該当しないかが問題となります。

日本法でのファンド(集団投資スキーム)の定義は、概ね下記となります(金商法第2条第2項第5号、第6号)。仮にファンドに該当した場合、当該ファンドの権利を表彰するトークンは、電子記録移転権利になり(同法第2条第3項柱書)、その募集の取扱いや販売には第一種金商業の登録が必要になり(同法第28条第1項第1号、第29条)、トークンの発行者自身が募集又は私募を行う場合には、第二種金商業の登録が必要となります(同法第2条第8項第7号ト、第28条第2項第1号、第29条、金商法施行令第1条の9の2第2号)。

日本法によるファンド
(A) ①組合契約、②匿名組合契約、③投資事業有限責任組合契約、④有限責任事業組合契約、⑤社団法人の社員権、⑥その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
(B) 当該権利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるもの=暗号資産を含む。)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利
(C) 次のいずれにも該当しないもの
 イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利 (以下略)
 
外国法によるファンド
(D) 外国の法令に基づく権利であって、上記の権利に類するもの

上記(A)の「その他の権利」の概念は非常に広く、法形式の如何は問わず、①~⑤は例示列挙に過ぎないとされています。法文上は「権利」とされ、完全な分散型金融で発行されたトークンは「権利」に該当しないという議論はありえますが、しかし、発行体がいないという点で同様であるビットコインに関し、現在では何らかの権利性を認める見解が有力であり25、本稿との関係では、スマートコントラクトに対しても一応は何らかの権利が成り立つ、という前提で検討することとします。 

また、上記(C)の例外事由にも該当しません。 

問題は、上記(B)のうち、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」という点の解釈です。ETHがスマートコントラクトに拠出され、それがPOSの事業に利用され、その結果、得られたETHがユーザーに配分される、という点を単純に捉えると、「出資又は拠出をした」、「充てて行う事業」、「収益の配当又は財産の分配を受ける」のいずれも満たしそうにも見えます。

しかしながら、リキッドステーキングの場合、通常のファンドとは以下のようば点で大きく異なり、金商法の適用あるファンドではない、と議論可能と思われます。

  1. 通常のファンドの場合、出資を受けた金銭等は、ファンド運営者に完全に所有権が移転し、ファンド運営者は契約上の縛りはあるものの技術的には様々に使用できるのに対し、リキッドステーキングの場合は、ETHの拠出はスマートコントラクトに対して行われ、LIDOやノードオペレーターが自由に使えるものではない。ETHに対するオーナーシップ(所有権類似の権利)はユーザーが常に保有していると考えられる、
  2. 通常のファンドの場合、受け取った金銭等は株式の購入や事業資金等に使用され形を変えるのに対し、LIDOステーキングでは、スマートコントラクトに送付されたETHは特に他のものに変えられることはなく、そのまま維持される。
  3. ETHがロックされる理由は、バリデート作業にあたり不正申告をした場合のスラッシングや、ノードがオフラインになった場合のペナルティーを担保するために過ぎない。
  4. 上記①~③を踏まえ、ステーキングの法的性質を従来からの経済行為に例えると、ユーザーは一種の債務不履行責任を担保するための物上保証としてETHをスマートコントラクトにロックしているに過ぎず、物上保証を提供したことに対する報酬を受け取っているに過ぎない、と考えることができる。そしてこのような物上保証の提供や報酬の受領は、ファンドにいう「出資や拠出」、「充てて行う事業」という要件を満たすものではない。

4 運営者が存在しないことから規制対象とならないという議論

なお、DeFiの場合、そもそも運営者が存在せず、規制対象にならない、という議論がありえます。日本法は、運営者などの人や法人を規制する法律体系であり、完全に非中央集権的なファイナンススキームの場合、規制対象とはなりません。しかしながら、DeFiについて本当に運営者がいないのかという点は慎重に検討する必要があります。一般にDeFiでは運営者が不存在なことを目指しますが、とはいえ、多くのDeFiでは本当に完全に運営者がいないかは不明確です26

また、運営者がいない場合でも、仮に運営者がいれば法令上は金融規制に服する場合、当該スキームに媒介を行う者は規制対象となりえ、例えばライセンスのない日本企業が当該DeFiに顧客を送客することが行えなくなります。

そのため、DeFiの法的論点の検討に際しては、(i)仮に運営者がいた場合に法的規制に服するか、という論点と、(ii)運営者が存在するか、という論点の2点を検討する必要があります。

LIDOについて検討するに、LIDOでは中央集権的なエンティティーがなく、スマートコントラクトとLIDO DAOにより運営がなされるとされていますが、LIDO DAOが真に分散しているのかは公表資料からは我々には不明確であったこともあり、本稿では上記(i)を中心に検討しています。

留保事項
・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、リキッドステーキングやLIDOの利用を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

I  初めに

近時、現実の資産(Real World Asset=RWA)の価値や所有権に紐づいたトークン(以下「RWAトークン」といいます。)を日本で発行し、販売することができないか、その場合の規制はどうか、ということを聞かれることがあります。

トークン化される現実資産の種類はアート作品、不動産、ウイスキーなどの酒類、ビンテージカー、国債や株式などの有価証券、ゴールド、など多岐にわたります。

RWAトークンのメリットとして、単独では購入できない資産を分割することにより低額で購入できる、所有の喜びが得られる、値上がり益等を期待できる、流動性が高くなる、などが挙げられます。

II 検討すべき法律の例と纏め

RWAトークンのスキームには様々なものがあり、そのスキームによって検討すべき法律は異なります。検討が必要となる法律の例は以下のとおりです。

1     暗号資産法(資金決済法)
 RWAトークンが暗号資産に該当する場合、その販売等には暗号資産交換業の登録が必要となります。
 概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると考えられており、RWAトークンもそのようにNFTとして組成することが考えられます。
他方、ゴールドをトークン化したジパングコインのように、暗号資産として組成することも考えられます。

2 金商法
 RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売には第1種金商業の登録が必要となります。
 例えば、RWAトークンに配当や100%以上の元本償還があるような場合、集団投資スキーム(ファンド)=有価証券に該当する可能性が高くなります。 
事業者が現実資産を利用して収益を上げ、その収益をトークンホルダーに分配する場合や、事業者が現実資産を売却し、その売却益をトークンホルダーに分配するようなスキームでは、集団投資スキーム該当性について慎重な検討が必要です。

3 預託等取引法
 RWAトークンのスキームにおいて物品や物品に関連する権利の預託を受け、それに関連して、利益の供与を約束したり、物品等の買取を約束する場合、預託等取引法の適用が問題となり、その販売等には内閣総理大臣の事前確認等が必要になることがあります。
 収益配当や元本償還を約束する場合又は類似の仕組みがある場合、金商法若しくは預託等取引法、又はその両者が適用されることがないか、検討する必要があります。

4 前払式支払手段
 現実の資産を取得したり利用したりすることができる権利のトークンを形で発行する場合、前払式支払手段として資金決済法の規制対象となる可能性があります。
 発行者やその密接関係者のみで使用できる自家型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものや、一定の基準日において未使用の残高が1,000万円以下であるものを除き、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。それ以外の第三者型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものを除き、財務局長への登録等が必要になります。

5 古物営業法
 一度使用された物品(鑑賞的美術品を含みます)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。
 但し、分割化した権利として販売している場合には、古物営業法は適用されない可能性があります。

6 その他裏付資産に関連する法律
 例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、物品に関連する法律が適用されることがあります。

7 RWAトークン移転による権利の移転と対抗要件
 RWAトークンでは、トークンの移転に伴いいかなる権利の移転がなされるのか、対抗要件はどのように備えるのか、検討を要します。トークン移転に伴い動産の所有権の移転があり、かつブロックチェーン上の記録で指図による占有移転がある、という考え方や、トークンの移転に伴い利用権や引渡請求権が旧トークンホルダーの元では消滅し新トークンホルダーの元で発生する等の考え方がありえます。

III RWAトークン化の実例とメリット

1  アート作品のRWAトークン化25

RWAトークンの例として、アート作品のトークン化があります。例えば、海外のフリーポート(Freeport)という会社は、アンディ―・ウォーホル等の作品を分割してトークン化して販売しています。

同社が当初販売したアンディ・ウォーホルの作品は4作品であり、「マリリン(Marilyn)」(1967年)、「ダブルミッキー(DoubleMickey)」(1981年)、「ミック・ジャガー(MickJagger)」(1975年)、「理由なき反抗(ジェームス・ディーン)(RebelWithoutaCause[JamesDean])」(1985年)で、各作品は10,000トークンで構成され、1人あたり10トークンから購入可能となり、コレクションのウェブサイトによるとトークン化された各ロットの販売開始価格は、250ドル(約33,271円)~860ドル(約11万4,453円)とのことです。

なお、アート作品の分割化自体は珍しいものではなく、2017年にはマスターワークス(Masterworks)という会社が設立され最低投資額は1万5000ドル(約200万円)でアート権利を販売、2021年12月に元クリスティーズの社員のフィリップ・ガウザーが、ブロックチェーン技術でアート作品の共有所有権を提供するパーティクル(Particle)を設立し、NFTの形でアートの権利をオープンシー(OpenSea)やラリブル(Rarible)で販売しています。

また、トークン化はしていないものの、日本では、ANDARTと言う会社https://and-art.jp/が、ピカソ、バンクシー、ダミアンハースト、ウォーホルなどの作品を分割して販売している例があります。

アート作品をRWAトークン化するメリットですが、著名アーティストの作品を購入したい場合、数千万円~数十億の金額が必要となり、富裕層でないと購入できません。それに対し、絵画を分割して販売することにより、より多くのアートファンが購入を行い、所有の喜び、鑑賞の機会、将来の値上がり益の期待等を得ることができます。

2  アルコールのNFT化

アルコールの樽のトークン化の事例も存在しています。日本の会社であるUniCask社は、ウイスキーの樽を分割した権利をNFT化して販売しています。 ウイスキーはワインと同様に熟成することにより価値が上がります。例えば、著名ウイスキーである山崎やシーバスリーガルの700mlボトルの参考小売価格や希望小売価格で2023年8月現在、以下となっています27

 山崎シーバスリーガル
ノンビンテージ4,500円 
12年10,000円5,126円
18年32,000円10,000円
25年160,000円31,429円

ウイスキーの価格が期間経過により上昇する理由としては、貯蔵の管理コストが必要となること(場所代、人件費、その他管理コスト)、期間中投資資金を回収できないことによるコストに加え、ウイスキーの性質として貯蔵により毎年一定程度の蒸発があること、希少性、などがあると言われます。

大手企業の場合、熟成に要する管理コストや資金コストを負担できる場合もあるものの、小さな醸造所の場合には、このようなコストに耐えられない場合があります。

UniCaskでは事前に樽の権利を分割してNFT化して販売することにより販売する醸造所にとっては早期の資金調達をしながら熟成を行う機会が、ウイスキーの愛飲家にとっては所有の喜び、熟成後まで待って飲む楽しみ、期中の定期的な一部試飲の機会、自分で飲まない場合には転売による値上がり益の期待、などが期待できるとのことです。

UniCaskのスキーム図28

3  高級宿泊施設のRWAトークン化

宿泊施設の利用権のトークン化の事例として、Not A Hotel NFTというものがあります。

NFTではないNOT A HOTELは、所有物件をアプリで手軽に、自宅や別荘、ホテルに切り替えて運用できるサービスであり、ユーザーは1棟まるごと購入するか、もしくはシェア購入(年10日・年30日)によって、物件を保有します。

NOT A HOTELのNFTは、より安い金額でNFTを購入してメンバーシップ会員になることにより、1日単位(例えば年に1泊/2泊/3泊を47年分)でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなります。

当該宿泊施設を47年間利用することができる権利のNFTは、後述のとおり、法的には前払式支払手段として組成されているため、原則払戻しができないものの、NFTとなることにより、NFTをNFTマーケットプレイスで売却したり、友人に贈ったりすることができ、メンバーシップNFTを保有している人限定のイベントに参加できます29。なお、メンバーシップNFTの内訳は宿泊券(前払式支払手段)が80%、登録料が20%との整理がされており、NFTの対価全額を前払式支払手段としていません。

4  ゴールドのトークン化

現実資産に紐づいたトークンが暗号資産として販売された例として、ゴールドのトークン化であるジパングコイン(ZPG)があります。  ZPGは、三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産です。ZPGは、インフレヘッジ機能など金(ゴールド)の特性を備え、デジタル化による利便性と小口化を実現した国内初のデジタルゴールドといえる暗号資産であり、概ね金(ゴールド)価格に連動することを目指す商品です。仕組みとしては下記のとおりとなっています。

スキーム図30

仕組みとしては、①三井物産デジタルコモディティーズ社(以下「発行者」といいます。)がZPGを発行する場合、ZPGの移転と同時に、(利用者に代わってZPGを購入した)デジタルアセットマーケッツ社のために、ZPGの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産社から購入、②当該購入した金現物は、デジタルアセットマーケッツ社へ販売すると同時に、デジタルアセットマーケット社から発行者が消費寄託を受ける、③ZPGは金現物の消費寄託に関する引渡請求権を表象するが、ユーザーはZPGを持っていても現物の金の引渡しを請求できない、④しかし、マーケットメーカーであるデジタルアセットマーケッツ社が金の市場価格に近似した価格でZPGを購入することを約束している(なお、かかる請求権には銀行保証が付される)、⑤デジタルマーケッツ社がZPGを有する場合、発行者にZPGと同数の金現物の引渡しを要求できる、という仕組みで、1ZPGが1単位の金と限りなく近い価格になるように組成されているようです。

参考:ZPGホワイトペーパー
https://www.mitsuidc.com/zpg-whitepaper
本トークンの販売時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを販売する場合、発行者は、本トークンの移転と同時に、(利用者に代わって本トークンを購入した)デジタルアセットマーケッツのために、当該移転したトークンの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産から購入の上、当該購入した金現物について、デジタルアセットマーケッツへ販売すると同時に、同社から消費寄託を受けます。
・発行者は、デジタルアセットマーケッツから消費寄託を受けた金現物を即時に三井物産に対してリースします。
・三井物産は、発行者からリースした金現物を用いて、金市場での運用を行います。

本トークンの買取時
・発行者がデジタルアセットマーケッツを通じて本トークンを買い取る場合、発行者は、本トークンの回収と同時に、デジタルアセットマーケッツから寄託された金現物のうち、発行者が回収したトークンの数量と同等の金現物を、デジタルアセットマーケッツへ返還した上で自ら買い取り、買い取った金現物を直ちに三井物産に売却します。
・発行者が三井物産に対して金現物を売却することによって、当該売却された金現物に係る発行者から三井物産へ のリースは当然 に 終了します 。・発行者は、金現物を売却して取得した資金をもって、本トークン(の数量と同等の金現物)の買取代金を支払います。

5  RWAトークン化のメリット

現実資産をトークン化するメリットとしては、スキームにより異なるものの、例えば以下のようなものがあると言われます。

①    低額での購入
単独では購入できないような高額の資産でも分割することにより、低額で購入することができる
②    所有の喜び
例えば、アート作品、ビンテージカー、競走馬、ウイスキー、などの場合、その商品の権利の一部を所有している、という精神的満足感が得られることがある。
③    鑑賞や利用の機会の提供
例えば、アート作品の場合、トークンホルダーが当該作品を鑑賞できる機会を提供したりする等の例がある。また、不動産の場合、当該不動産を利用できる、ウイスキーの場合、試飲するなどの機会が得られることがある。
④    値上がり益の期待
アート作品、ビンテージカー、ウイスキー、不動産など多くの資産では継続保有によって値上がりが起こる場合がある。
⑤    流動性
分割してNFT化することにより流動性が高くなり、転売等が容易になる。

IV RWAトークンと日本法の検討

1  暗号資産法

仮にRWAトークンが資金決済法(そのうちの暗号資産部分を、以下「暗号資産法」といいます)上の暗号資産に該当するとされた場合、RWAトークンを販売する場合、自らが暗号資産交換業の登録を受けるか、既に暗号資産交換業の登録を受けている暗号資産交換業者に販売を委託する必要があります。

暗号資産法上、暗号資産の定義はかなり広く定義されており、従前は、いかなるものが暗号資産であり、いかなるものがNFTか判然としませんでした。

2023年3月に金融庁が暗号資産に関するガイドラインを改正し、かつ関連するパブリックコメント回答を出しています。ここでは、概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであるとしており、RWAトークンでもそのようにNFTとして組成することが考えられます。

参考条文等
暗号資産の定義(資金決済法2条14項)
1号暗号資産の定義
「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
2号暗号資産の定義
「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

暗号資産交換業の定義(資金決済法2条15項)
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

暗号資産交換業者ガイドライン
I-1-1
① 法第2条第14項第1号に規定する暗号資産(以下「1号暗号資産」という。)の該当性に関して、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ.発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ.当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
・最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
・発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること

なお、以上のイ及びロを充足しないことをもって直ちに暗号資産に該当するものではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もあり得ることに留意する。

参考:金融庁2023年3月24日付パブリックコメント回答
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf
19番
トークンの価格については、基本的には当該トークンが提供されているサービスプラットフォームや二次的な流通市場において取引される価格を基準に判断することになります。また、最小取引単位当たりの価格が例えば1000円以上のトークンについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。
20番
一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます。

2  金商法

RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売を行うには自ら第1種金商業の登録を受けるか、第一種金商業者に販売を委託する必要があります。

RWAトークンの有価証券該当性を検討するにあたっては、主として集団投資スキーム(ファンド)への該当性が問題となります。集団投資スキームの定義の概要は下記の通りであり、概ね、配当や100%以上の元本償還がある場合には集団投資スキームに該当する可能性が高くなります。

金融商品取引法2条2項5号が定義する集団投資スキームの概要
(i) 出資者が金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下「金銭等」という)を出資すること(金銭等出資の要件)
(ii)  (i)の出資により事業が行われること(事業の要件)
(iii) 事業から生じる収益の配当又は事業に係る財産の分配を出資者が受けることができること(収益配当・財産分配可能性の要件) 

この点、単に現実資産を小口化、トークン化して販売するのみであれば有価証券になることはありません。

他方、例えば、①事業者が現実資産を販売する、②事業者や関係会社が販売代金を充てて現実資産を管理する、③事業者が現実資産の賃貸等で収益を上げ、その収益からNFTホルダーに収益を分配する、又は④事業者がトークンホルダーのために現実資産を売却し、その売却代金の利益をトークンホルダーに分配する、といったスキームの場合、集団投資スキームへの該当性が問題となります。

なお、ファンド自体は資金の出資契約を規制するものであり、物品の売買契約を規制するものではないため、上記のようなスキームの全てが集団投資スキームになるものではありません。㋐物の購入者がみずから当該物を管理・利用・処分できる可能性があるか、㋑購入者の取引の目的が物の購入だけで完結しうるか、㋒事業者がどういう勧誘内容を行っていたか、といった点を総合的に考慮して考えられると議論されています31。RWAトークンとの関係では、収益商品、金融商品として宣伝することについては慎重に対応する必要があると考えます。

なお、米国ではSecurityの基準が日本よりも厳しく、冒頭で述べたFreeportのアートRWAトークンはSecurityとして販売されています。

3  預託等取引法

RWAトークンのスキームが「預託等取引」に該当する場合、預託等取引法の規制により、契約締結時書面を交付したり、内閣総理大臣の事前の確認が必要になる可能性があります。

3.1 預託等取引の定義

預託等取引には、物品等の販売を伴うものと伴わないものがあります。預託等取引の基本的な類型は下記の4つとなります。

預託等取引の4つの類型
①    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、その預託に関して、財産上の利益供与を約束すること(物品+利益約束型)
②    当事者の一方が、相手方に対し、3か月以上の期間にわたり物品の預託を受け、期間経過後の物品買取を約束すること(物品+買取約束型)
③    当事者の一方が、相手方から、物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利(特定権利)の管理の委託を受け、それに伴って、財産上の利益供与を約束すること(特定権利+利益約束型)
④    当事者の一方が、相手方から、特定権利の管理の委託を受け、期間経過後の権利買取を約束すること(特定権利+買取約束型)

このような預託等取引は財産上の利益の供与や買取りが約された投資取引として消費者を誘引する性質を有する一方で、約束された財産上の利益の消費者に対する支払いや買取りが困難になるリスクがあるものと位置づけられ32、消費者保護のために、書面の交付義務や不当勧誘等の禁止義務が課されます。

さらに、このような預託等取引に関連し、自ら又は密接関係者が行う物品等の売買契約がある場合(販売預託)、更に消費者保護の必要性がある33ため、内閣総理大臣の確認を得る必要があります。なお、本稿執筆時点において、内閣総理大臣の確認を受けた事業者は存在しません。

なお、同法は消費者保護のための法律であるため、営業者が預託を行う取引には同法の保護は適用されません34

参考条文:預託等取引の定義等
(定義)
第二条 この法律において「預託等取引」とは、次に掲げる取引をいう。
一 当事者の一方が相手方に対して、内閣府令で定める期間(筆者注: 3か月(預託等取引に関する法律施行規則1条))以上の期間にわたり物品の預託・・・を受けること・・・及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、又は物品の預託を受けること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該物品を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該物品を預託することを約する取引
二 当事者の一方が相手方に対して、次に掲げる権利(以下「特定権利」という。)を前号の内閣府令で定める期間以上の期間管理すること・・・及び当該管理に関し財産上の利益を供与することを約し、又は特定権利を管理すること・・・及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格・・・により当該特定権利を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該特定権利を管理させることを約する取引
イ 施設の利用に関する権利であって政令で定めるもの
ロ 物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利

第一節 預託等取引に関する規制
(書面の交付)
第三条 預託等取引業者は、預託等取引契約を締結しようとするときは、顧客に対し、当該預託等取引契約を締結するまでに、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
(省略)

(不当な勧誘等の禁止)
第四条 預託等取引業者又は勧誘者(以下「預託等取引業者等」という。)は、預託等取引契約の締結若しくは更新について勧誘をするに際し、又は預託等取引契約の解除を妨げるため、預託等取引契約に関する事項及び当該預託等取引契約の対象とする物品又は特定権利の販売に関する事項であって、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
(省略)

(契約の締結等の禁止)
第十四条 預託等取引業者は、第九条第一項の確認及び次項の確認を受けていない種類の物品又は特定権利については、自ら売主となる売買契約の締結及び自己又は密接関係者が販売しようとする当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新についても、同様とする。

(適用除外)
第二十七条 前三章の規定は、預託等取引契約で預託者が営業のために又は営業として締結するものについては、適用しない。

3.2 RWAトークンと預託等取引法

RWAトークンのスキームでは、現実資産や関連する権利がトークン化されることがありますが、その場合でも、現物資産そのものは何らかの会社等がユーザーのために保管され、ユーザーには直接引き渡されないことが通常です。

仮に財産上の利益供与を約束があったり、物品や関連権利の買取約束があった場合には、預託等取引法との関係を検討することが必要となります。

この点、日本でのRWAトークン事例を検討するに、例えばUniCaskの事例では、スキームの詳細は不明であるものの、UniCask社がウイスキーの樽の一部の権利をユーザーに販売し、ウイスキーの樽は蒸留所がユーザーのために保管していると思われます。しかし、UniCask社も蒸留所も、何らの利益供与の約束も買取等の約束をしておらず、預託等取引法の適用はないものと思われます。

また、ZPGの事例では、金の預託、ZPGの預託、ZPGの買取約束、などがあります。しかしながら、金の預託に関しては何らの利益供与の約束や買取約束はなされていません。ZPGの販売、預託、買取約束があることが論点とはなるものの、ZPGの売却が制限される期間などは設定されていないため一定期間の預託を前提としたものではない、あるいは、ZPGについてはデジタルアセットマーケッツ社と発行者との間では金の引渡請求権を表象するものの、ユーザーが保有した場合には金の引渡を請求できないことから特定権利に該当しない、と整理をしているのではないかと思われます(類似の仕組みを採用する場合、自らご判断頂くか、当局等に確認して頂く必要があります)。

他方、当職らがご相談を受ける中には、物品を販売した上で、販売者又は密接関係者が現物資産の3か月以上の預託や特定権利の管理の委託を受け、将来的に利益の分配や物品の買取をしたい等とご相談を受ける事例があります。特に販売が行われる仕組みについては、預託等取引に該当する場合、これまで内閣総理大臣の確認が得られた事例がないことに留意しながら、組成を行う必要があると思われます。

4  前払式支払手段

RWAトークンが資金決済法上の前払式支払手段に該当する場合、同法の規制が適用される可能性があります。

前払式支払手段は、記録される内容によって、金額や度数が記録される場合と、物品やサービスの数量を記録されたものに分けることができます。前者はSuicaや図書券、後者はビール券やカタログギフト券などが該当します。また、前払式支払手段は、利用できる範囲によって、発行者及びその密接関係者のみで使用することができる自家型前払式支払手段と、第三者でも使用できる第三者型前払式支払手段とに分けることができます。
自家型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になります。ただし、発行から6か月の有効期限があるものや、3月末と9月末の基準日時点において未使用の残高が1,000万円以下であるものは、規制の適用が除外されます。第三者型前払式支払手段の発行者は、原則として、財務局長への登録等が必要になりますが、発行から6か月の有効期限があるものは、規制の適用が除外されます。

現実の資産の給付を受けることができる権利や、利用することができる権利をNFT化した場合、かかるトークンは前払式支払手段に該当する可能性があります。Not A Hotelの事例では、自己又は密接関連者が管理する宿泊施設を利用することができる権利として、自家型前払式支払手段として組成されています。

参考条文:前払式支払手段の定義(資金決済法)
(定義)
第三条 
1・・・「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下・・・「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。・・・)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。・・・)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
4・・・「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者・・・を含む。・・・)から物品等の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品等の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
5・・・「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいう。

 5 古物営業法

一度使用された物品(鑑賞的美術品を含むとされている)を、営業として売買し、委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえます。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となります。

新品のウイスキーの樽等を売却するRWAトークンでは新品の売買であることから、古物営業法は無関係です。

他方、アート作品、中古の時計等の場合、小口化(トークン化)された権利の売買が古物営業法に服する可能性があります。

この点、当職らがある案件で警察に確認をしたところ、どこまで当該担当者の回答が正しいのかについては悩ましいものの、トークン化された権利の売買であれば古物営業法の届け出は必要ないと回答を受けています。但し、個別の事案に対する古物営業法の適用の有無については、各自にてご確認頂く必要があります。

6  裏付資産に関連するその他の規制法

例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、各物品に関連する法律が適用されることがあり、検討が必要となります。なお、UniCask社は酒類販売業の免許を取得しているようです。

7 RWAトークンの移転による権利の移転と対抗要件

RWAトークンは、その背後にある実物の資産を表章するデジタルトークンです。トークン自体の移転は、ブロックチェーン上のトランザクションによって行われますが、このトークンの移転が自動的に実物の資産の所有権の移転を意味するわけではありません。

トークンの移転とRWAに関する権利の移転を紐づけるためには、別途法的な手当てや契約が必要です。

7.1 当事者間における権利の移転について

日本では動産や不動産の所有権の移転、その他の権利(債権)の移転は、原則として単に当事者の合意のみで行われます(物権について民法176条)。仕組みとして、トークンに動産や不動産の所有権や何らかの権利が付随する、とした場合、トークンを移転する者同士では、当然に裏付け資産の権利を移転する合意があると思われるため、トークン移転のみにより権利が移転すると解釈することは可能と思われます。

7.2 不動産移転の対抗要件について

上記のように動産や不動産の所有権、債権の当事者間の移転自体は合意のみでできるものの、それを第三者に対抗(主張)することができるか(第三者対抗要件の具備)は問題となります。

例えば、不動産の場合、本邦での所有権移転の対抗要件は、不動産登記の変更になります(民法177条)。例えば、AがBに不動産を売却したが、不動産登記が未了の場合、Aが倒産をしたときに、BはAの破産管財人に自身が不動産所有者であることを対抗できません。また、AがCに不動産を売却し、Cが登記を備えた場合、原則としてCがBに所有者として優先することになります。

不動産の所有権をRWAトークン化したとしても、トークン移転に伴って、不動産登記の移転をすることは通常考えられず、その場合、トークンホルダーが倒産した場合等、問題が生じる可能性があります。

7.3 動産移転の対抗要件について

同様の問題は動産の場合も問題になります。本邦での動産の所有権の移転の対抗要件は、動産の占有権の移転です(民法178条)。そして、動産が第三者に寄託されている場合に占有権を移転させるためには、寄託者が受寄者に対し、「私はその動産をAさんに譲渡したから、以後、Aさんのために預かって欲しい」と通知する指図による占有移転によります(民法184条)。

不動産や債権譲渡の対抗要件の場合と異なり登記や証書による必要がないこと、かつ、動産に紐づいたトークンの移転はブロックチェーン上に記録されることから、ブロックチェーンの記録が動産の占有移転に係る指図であるとして第三者に対抗できる可能性はあります。

特に動産の価額が大きくない場合や、財産隠しではない健全な取引である場合、トークンを用いた動産の譲渡が社会的に受け入れられている場合には、ブロックチェーン上の記録による対抗要件が管財人によって争われる可能性は極めて低いのでは、とも思われますが、リスクがあることは認識しておく必要があるとは思われます。

7.4  債権の移転の対抗要件について

本邦での債権の移転の対抗要件は、確定日付のある証書による承諾です。一般には、内容証明郵便や公正証書などが該当します。トークンの移転とともに内容証明や公正証書を作成することは現実的ではなく、不動産登記の場合と同様の問題が発生します。

7.5 権利の消滅発生構成について

動産や不動産の所有権自体をトークンホルダーに引渡し、かつトークンに伴って所有権が移転する、という構成ではなく、トークンを持っている人に動産や不動産を引き渡すことを約束したり、利用権を付与する、そして、トークンが移転した場合、既存の権利は消滅し、新しい権利が新トークンホルダーの元で発生する、という構成がありえます。

銀行間の振込や電子マネーの移転は、このような考え方によっているのではと思われ、かつ、社会的にも受け入れられています35

RWAトークンと現物資産の紐づけもそのような構成で有効に移転可能であると思われ、明確ではないものの、例えば前払式支払手段であるNot A Hotel NFTの利用権の移転などもこのような考え方によるのでは、と推測されます。

しかしながら、同構成の場合、トークンホルダーにはあくまで利用権や引渡請求権しかなく、所有権移転の対抗要件は具備されていないため、発行者ないし預託者が倒産した場合にはリスクがある点、留意が必要です。

7.6 準拠法について

なお、本6の議論は、動産又は不動産の移転については動産又は不動産が日本に存在する場合、債権の権利については債権の権利の準拠法が日本法である場合を想定しています。

法の適用に関する通則法13条は「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。」と規定し、同法23条は「債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は、譲渡に係る債権について適用すべき法による。」としています。

このため、動産や不動産が海外にある場合等、別途の議論が必要になります。

留保事項

・本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、当職らの現状の考えに過ぎず、当職らの考えにも変更がありえます。
・本稿は、RWAトークンの購入を推奨するものではありません。
・本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の弁護士にご相談下さい。

2023年9月29日改訂

創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

(トークンに関する監修:斎藤 創、執筆協力:砂田 有史)

1.初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。これまで、LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことが、対象事業として許容されるかどうかが明らかでなかったところ、セキュリティトークンへの投資や、ブロックチェーンを利用した資産移転の処理が近年用いられつつあることを踏まえ、セキュリティトークンの取得や保有の対象事業への該当性等について、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417002/20230417002-1.pdf)という通知(以下「本通知」という。)が本年4月19日に経産省よりなされ、一定程度、この問題に対して取扱いが明確になった。本稿では、本通知の内容について説明する。

なお、LPSが暗号資産や一般的なNFT(注:セキュリティトークンではない)へ投資を行うことは対象事業として列挙されていなかったことから、認められないと解されている。これに対しては、以下のように問題点が指摘されてきた(本通知はこれを解決するものではない。)。

2.LPSが投資できる資産

まず、前提として、LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号の解釈によって決まってくる。この点、上述のとおり、セキュリティトークンに関して対象事業に含まれるとする明文の定めは存在しない。

(1) 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

(2) 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

(3) 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[1]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有

(4) 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有

(5) 事業者に対する金銭の新たな貸付け

(6) 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有

(7) 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)

(8) 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業

(9) 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資

(10) 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの

(11) 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの

(12) 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用

3.本通知の内容

本通知においては、主に以下の①から③の3つのことが明示されている。

まず、①LPSがセキュリティトークンを扱う事業を行う場合については、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の有価証券のうち、LPS法第3条第1項により、投資事業有限責任組合が取得及び保有が可能とされる有価証券[2]については、セキュリティトークンが、金商法上のいわゆるみなし有価証券の一つである「電子記録移転有価証券表示権利等」である以上、その取得及び保有も当然に対象事業となると整理することができるとされている。LPSが、セキュリティトークンを取得・保有することができることを改めて明確にしている。なお、本通知においては、「金融商品取引法(昭和23年法律第25号。)上の有価証券はブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合があり(いわゆるトークン化)、かかるトークン化した有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法第29条の2第1項第8号に規定する権利をいう。))を本通知ではセキュリティトークンと称する。」 と記載されており、ここで言うセキュリティトークンとは金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第1条第4項第17号、金商法第29条の2第1項第8号、業府令第6条の3)を意味している。

次に、本通知は、②LPSが、LPS法第3条第1項に掲げる事業のうち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等に投資を行う場合に、これらの資産を取得及び保有するにあたり、ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法でこれらの資産の移転に係る事務を処理しても、LPS法第3条第1項各号に掲げる事業の範囲内で組合契約を遂行するための業務執行と解することができる(LPS法第7条第4項に規定する「第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合」には当たらない)としている。すなわち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等がトークン化されたとしても、これを取得・保有することができることを改めて明確にしている。もっとも、例えば、NFT(Non-Fungible Token)は、主にイーサリアム(ETH)[3]のブロックチェーン上で構築できる代価不可能なトークンだが、NFTを譲渡しても著作権等が移転しない形式を利用していることも多く、NFTの取得・保有はLPS法の対象事業に該当せず、引き続きLPSがNFTに直接投資することは困難なのではないかと考えられる。

また、本通知は、③資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の電子決済手段(改正資金決済法第2条第5項、いわゆるステーブルコイン)及び暗号資産(資金決済法第2条第5項(資金決済法改正後は第14項))を取得・保有することは、現行のLPS法第3条第1項に掲げる事業のいずれにも該当しないこと、すなわちLPSでは、電子決済手段及び暗号資産を取得・保有することができないことを改めて明確にしている。上述のとおり、LPSが直接暗号資産に投資することができるようになるには、法改正を待つしかないということになる[4]

4.その他

話は異なるものの、近年LPS法をめぐる分野だと、LPSを用いたセカンダリーファンドが話題となってきている。セカンダリーファンドと言えば、個別の事業者が発行した株式を既存株主から譲り受ける場合だけではなく、既存のLPSのLP持分をLPSが買い集めるという手法も話題となっている。もっとも、LPSがLP持ち分を保有できる根拠はLPS法第3条第1項第9号となると思われるものの、同号は、「出資」(いわゆるプライマリー)のみを定め、他のLPS法第3条第1項各号のように「取得及び保有」(いわゆるプライマリーとセカンダリー)と定めていないことから、LPSによる既存のLPSのLP持分の取得が明確にされることが望ましいのではないかと考える。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
  • 本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

[1] 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。

  1. 金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
  2. 金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
  3. 金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
  4. 金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
  5. 金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
  6. 金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
  7. 金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
  8. 金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
  9. 金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
  10. 金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
  11. 金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
  12. 金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
  13. 第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの

[2] なお、本通知によれば、「対象事業」には、①匿名組合契約の出資持分、②投資事業有限責任組合及び民法上の組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合に対する出資持分、③外国の法令に基づく権利であって②の組合に類似する団体に対する出資持分であって、金商法上有価証券とみなされないものへの出資も含まれる。ただし、これらの権利をブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転したとしてもそれはセキュリティトークンにはならない。この場合は、②の金銭債権等と同様の整理となると考えられる。

[3] ブロックチェーン・プラットフォームの名称及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称である。詳しくはhttps://ethereum.org/ja/を参照。

[4] 現状のプラクティスとしては、株式、新株予約権等のエクイティ投資を行うに際し、将来的にトークンの付与を受けることが可能な場合、投資家が指定するエンティティー(例えば新設の合同会社)でトークンを受領できる等とする形が多く見られる。当初からLPSが暗号資産やNFTに投資を行いたい場合、LPSが合同会社等を保有し、当該合同会社が暗号資産やNFTに投資をするスキームが考えられる。

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