2024年5月15日に、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第32号、以下「改正法」といいます。)が成立し、同年同月22日に公布されましたが、以下の3点に係る改正について、2025年5月1日から施行されました。
①投資運用関係業務受託業に関する規定の整備
②投資運用業に関する規定の整備
③非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備
これらは、我が国資本市場の活性化に向けて資産運用の高度化・多様化を図る、具体的には、投資運用業の新規参入を促進し、またスタートアップ等が発行する非上場有価証券の仲介業務への新規参入を促進し、非上場有価証券の流通を活性化させること等を目指したもので、投資運用業登録要件を緩和する規定の整備、またスタートアップ企業等の非上場企業の株式のセカンダリー取引等を活性化するため、非上場有価証券の取引の仲介業務に特化する等一定の要件を充足する場合は、第一種金融商品取引業の登録等要件等を緩和する等、非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備が行われました。
(1)では、①投資運用関係業務受託業に関する規定の整備、②投資運用業に関する規定の整備について概説します。
(1) 総論
2でご紹介する投資運用業の登録に関する人的体制整備の要件の緩和に伴い、投資家保護を軽視する事業者が委託を受けることがないよう(「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(以下「資産運用TF報告書」といいます。)6頁)、今回の改正で、投資運用関係業務受託業の登録制度が創設されました。
「投資運用関係業務受託業」とは、金融商品取引法(昭和23年法律第25号、その後の改正を含む。以下「金商法」といいます。)の規定により投資運用業、適格機関投資家等特例業務(自己運用に限ります。)及び海外投資家等特例業務(自己運用に限ります。)(以下、総称して「投資運用業等」といいます。)を行うことができる者の委託を受けて、当該委託をした者のために以下の業務(金商法第2条第43項。以下「投資運用関係業務」といいます。)のいずれかを業として行うことをいい(金商法第2条第44項)、投資運用関係業務受託業を行う者のうち、内閣総理大臣の登録を受けた者を「投資運用関係業務受託業者」としています(金商法第2条第45項、第66条の71)。
投資運用関係業務受託業は登録を受けなくても行うことは可能ですが、2でご紹介するように、投資運用関係業務受託業者に投資運用関係業務を委託した場合に限り、投資運用業の登録要件が緩和されますので、人的体制整備に係る登録要件の緩和の適用を受けることを前提に投資運用業に参入しようとする事業者から投資運用関係業務を受託するためには、投資運用関係業務受託業の登録が必要となります。
(2) 登録
投資運用関係業務受託業者としての登録を受けようとする場合、以下の①の事項を記載した登録申請書を、以下の②の書類を添付して、提出する必要があります(金商法第66条の72、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号、その後の改正を含み、以下「業府令」といいます。)第348条から第350条)
①登録申請書記載事項
②添付書類
(i)法人・個人共通の添付書類
(ii) 法人の場合の添付書類
(iii) 個人の場合の添付書類
金商法第66条の74各号に定める登録拒否事由に該当する場合、又は登録申請書若しくはその添付書類に虚偽の記載若しくは記録があり、若しくは重要な事実の記載若しくは記録が欠けている場合には、投資運用関係業務受託業者の登録は拒否されます(金商法第66条の74)。業務の種別以外の登録申請書の記載事項(上記の①)に変更が生じた場合は、その日から2週間以内に届出が必要であり(金商法第66条の75第1項)、業務の種別を変更しようとする場合は、変更登録を受ける必要があります(同条第4項)。また、登録申請の添付書類として提出した業務方法書に記載した業務の内容又は方法に変更があった場合も、遅滞なく届出を行うことが必要となっています(同条第3項)。以下の各事由に該当する場合には30日以内に届出を行う必要があり、かつ、投資運用関係業務受託業者の登録は効力を失います(金商法第66条の83)。
(i) 法人・個人共通の届出事由
(ii) 法人の場合の届出事由
(iii) 個人の場合の届出事由
(3) 行為規制
投資家保護や業務の質の確保の観点から(資産運用TF報告書6頁)、投資運用関係業務受託業者には以下のような行為規制が課されています。
投資運用関係業務受託業を適確に遂行するための業務管理体制として、以下の事項の整備が求められています(業府令第358条)。なお、各事項に関する留意点は投資運用関係業務受託業者向けの監督指針III-2-1に定められています。
投資運用関係業務受託業者は、以下の記録を作成し、当該記録を作成日((ii)については業務終了日)から10年間保存する必要があります(業府令第360条)。
(i)当該投資運用関係業務受託業者が行った投資運用関係業務に関する以下の(a)から(c)に掲げる事項に係る記録
(ii)その委託を受ける投資運用関係業務に係る契約に関する記録
また、投資運用関係業務受託業者は、事業年度経過後3か月以内に事業報告書を提出する必要があります(金商法第66条の82)。
(1) 投資運用業の登録要件の緩和
投資運用業を行うためには、原則として「投資運用業」の登録が必要ですが、当該登録を行うためには最低資本金や人的体制の整備等の厳しい要件を満たすことが必要とされており、投資運用業への参入の障壁となっていました。そこで、我が国の経済成長と国民の資産所得の増加に繋げていく観点から、投資運用業者の参入を促進するため、以下の2点について、投資運用業の登録要件が緩和されることになりました。
(i) 人的体制の整備の緩和
従来、投資運用業の登録を行うためには、法令遵守等に関する業務を担う人材(いわゆるコンプライアンスオフィサー)を自社で採用する必要があり(適格投資家向け投資運用業を除き、外部委託は不可とされていました。)、かかる人材の確保が投資運用業の登録にあたり実務上負担となっていました。
そこで、今回の改正では、投資運用業者による当該業務等の外部委託が可能とされました。具体的には、金商法に基づき投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に対し、投資運用関係業務を委託する場合には、当該業務を担う人材を自社で確保することを要せず、当該業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保すれば足りることとして(金商法第29条の4第1項第1号の2)、人的体制整備の要件が緩和されました。
「当該業務の監督を適切に行う能力を有する者」とは、投資運用関係業務受託業者に委託する投資運用関係業務の内容を理解し把握するとともに、当該投資運用関係業務受託業者に対して適確に指示を行う能力がある者をいい、当該投資運用関係業務を直接遂行するにあたって必要な知識及び経験並びに過去に投資運用業に関する業務に従事していた経験は問わないとされています(金商業者向け監督指針VI-3-1-1(1)①ニ)。具体的にどのような経験があればこれに該当するといえるのかは明確ではなく、今後の運用が注目されます。投資運用関係業務を委託する場合、登録申請書にその旨並びに委託先の商号、名称又は氏名及び当該委託先に委託する投資運用関係業務の内容、並びに(登録を受けた投資運用関係業務受託業者に委託する場合は)投資運用関係業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保する旨及び当該役員又は使用人の氏名又は名称を記載することが必要になります(金商法第29条の2第1項第12号、金融商品取引業等に関する内閣府令第6条の6)。なお、施行の際に現に投資運用関係業務を委託している金融商品取引業者については、施行日に変更があったものとみなして、施行日から6か月以内に変更届を行う必要があります(改正法附則第8条第1項)。
なお、上述のとおり、投資運用関係業務受託業者としての登録は任意で、登録を行わなくても投資運用関係業務を行うことは可能ですが、投資運用業の登録要件が緩和されるのは、投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に投資運用関係業務を委託した場合に限定されていますので、実際には、投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に委託が行われることが多くなるのではないかと推測されます。
(ii) 最低資本金及び純財産額要件の緩和
原則として、投資運用業(適格機関投資家向け投資運用業を除きます。)の登録を行うためには、資本金額及び純財産額が5000万円以上であることが必要とされていますが、今回の改正に伴い、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者[1]にもかかる預託をさせない場合には、最低資本金及び最低純財産の額が1000万円以上に緩和されました(金商法第29条の4第1項第4号イ及び第5号ロ、金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号、その後の改正を含みます。以下「金商法施行令」といいます。)第15条の7第1項第4号及び第15条の9第1項)。また、その前提として、登録申請書に、金銭又は有価証券の預託の有無を記載することになりました(金商法第29条の2第1項第5号の2)。
顧客から金銭又は有価証券の預託を受けないこととは、投資運用業に関して現に顧客から預託を受けず、今後も預託を受ける意思がない場合が想定されています(金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(令和7年3月28日)(以下「パブコメ回答」といいます。)No.22)。
なお、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けない既存の金融商品取引業者が、かかる例外の適用を受けるためには、施行日から6か月以内に変更登録の申請を行う必要があります(改正法附則第7条)。
(2) 運用権限の全部委託の許容
従来、投資運用業者は、すべての運用財産につき、その運用に係る権限の全部を委託することが禁止されていました(改正前の金商法第42条の3第2項)。しかしながら、欧米では運用の企画・立案をする事業者がファンドの運営機能に特化し、運用(投資実行)を全部委託する形態が一般的になっています(金融庁2024年3月「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」3頁)。日本においても、かかるファンドの運営機能(企画・立案)に特化することを可能とすべく、今回の改正により、運用権限の全部委託を禁止する規定が撤廃され、運用権限の他の登録投資運用業者への全部委託が可能となりました。
運用権限の外部委託を行う場合、委託先の品質管理を適切に行うことが重要であることから(資産運用TF報告書7頁)、かかる外部委託を認める前提として、投資運用業者は、外部委託を行う場合、受託者に対し、運用の対象及び方針を示し、以下の①から③記載の、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じなければなりません(金商法第42条の3第2項、業府令第131条第2項、金商業者向け監督指針VI-2-2-1(1)④、VI-2-3-1(1)④及びVI-2-5-1(1)④)。
①委託先の選定の基準及び委託先との連絡体制の整備
②委託先の業務遂行能力及び委託契約の遵守の状況を継続的に確認するための体制の整備
③委託先が当該委託に係る業務を適正に遂行することができないと認められる場合の対応策(業務の改善の指導、委託の解消等)の整備
(3) 投資助言業の規制との比較
今回の改正により、投資運用業の規制が一部緩和されたことから、投資助言業の登録を行わず、又は投資助言業とあわせて投資運用業の登録を行うことを検討される事業者もいると推測されます。そこで、今回の改正により規制が一部緩和された事項が、投資助言業の規制と比較して、より緩和されたのかについて検討します。
(i)投資運用業の方が規制が緩和された点
今回の改正で投資運用業の規制が投資助言業の規制に比べて緩和された点は、投資運用関係業務を委託することができる点です。
投資運用関係業務は投資運用業等に関して行う業務に限定されており(金商法第2条第43項)、今回の改正により投資助言業において求められる人的構成要件に係る審査の運用が変更されるものではないとされていることから(パブコメ回答No.8)、仮に投資助言業の登録申請を行う者が、法令等を遵守させるための指導に関する業務を投資運用関係業務受託業者としての登録を受けた事業者に委託したとしても、投資助言業に係る業務につき、その執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員又は使用人を自ら確保しているとは必ずしも認められず、投資助言業の登録を受けるためには、かかる人材を自ら確保する必要があると判断される可能性があります。もっとも、パブコメ回答によれば、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託の可否について、「個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、当局や当該業者への連絡体制などが構築できる場合等には、コンプライアンス業務を外部委託することが認められる場合もあるものと考えられます。」としており(同回答No.8)、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託も必ずしも否定されていないと考えられていることから、一概に投資運用業の方が規制が緩和されたとはいえないところはありますが、法令上委託の要件が明確な点で、実務上投資運用業の方がコンプライアンス業務の外部委託を行いやすいのではないかと思われます。
(ii)投資運用業の方が規制が厳しい点
他方、今回の改正で緩和された以下の点については、改正後も投資運用業の方が、投資助言業より厳しくなっています。ただし、二点目については、外部委託を許容する以上、委託元である投資運用業者による外部委託先の投資運用業者の監督が適正になされなければならないことは自明であり、必ずしもそれ自体が重大なハードルになる可能は高くないと思われます。
・最低資本金及び純財産要件
金銭又は有価証券の預託を受けない場合、最低資本金及び純財産の額が緩和されましたが、最低資本金額及び純財産の要件自体は維持されます。これに対し、投資助言業については最低資本金及び純財産の要件はありません。
・運用権限の全部委託
今回の改正で運用権限の全部委託が可能となりましたが、委託を行う場合、委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置等を講じる等の義務が課されています。これに対し、投資助言業については外部への委託について特に制限はありません。
留保事項
[1] 有価証券等管理業務を行う金融商品取引業者、銀行、協同組織金融機関、保険会社(外国保険会社等を含みます。)、信託会社及び株式会社商工組合中央金庫以外の者で、以下に該当する者をいいます(金商法施行令第15条の4の2、業府令第6条の2)。
・当該登録申請者の役員(役員が法人の場合の職務執行を行う社員を含みます。)又は使用人
・当該登録申請者の親法人等又は子法人等
・当該登録申請者の総株主等の議決権の50%を超える議決権を保有する個人
創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。
LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことについては、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」という通知が2023年4月19日に経済産業省が出され、取扱いが整理されたところである(当事務所の以前のArticle「LPS法とトークン投資に関する2023年4月19日付経産省通知について」(2023年4月25日)参照)。
しかしながら、暗号資産(資金決済法第2条第14項)市場が引き続き拡大し、いわゆるWeb3.0系スタートアップを含め暗号資産による資金調達を目指すスタートアップ企業も増えている中、暗号資産への投資を促進すべきであるとの意見が多く唱えられてきた。[1]また、経済産業省も、LPSによる暗号資産への投資については、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、取扱いについて検討を行うとしていたところである。今般、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」(2024年5月31日成立、同年6月7日公布)により、LPS法が改正され、主として、①一定の条件を満たす外国法人への投資は上限を設けることなく認められることとなり、②合同会社への出資が認められることとなり、また③事業者のために発行される暗号資産への投資が可能となったことから、本稿では、かかる改正内容について概説する。
LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号及び新設された第2項の規定及びその解釈による。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。また、特に断りが無い限り、本稿では、改正後のLPS法の内容及び条文番号を記載している。
第3条第1項 ・ 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の持分の取得及び保有企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有(第1号) ・ 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有(第2号) ・ 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[2]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有(第3号) ・ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有(第4号) ・ 事業者に対する金銭の新たな貸付け(第5号) ・ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有(第6号) ・ 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有(第6号の2) ・ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)(第7号) ・ 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業(第8号) ・ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資(第9号) ・ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの(第10号)[3] ・ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの(第11号)[4 ] ・ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用(第12号) [5] 第3条第2項 前項第一号から第三号まで、第六号又は第八号に掲げる事業に係る株式、持分、新株予約権又は指定有価証券には、前条第一項の政令で定める者については、これらに類似するものであって外国の法令に準拠するものを含むものとする。 |
従来のLPS法下では、日本の会社法下で設立された株式会社であれば、その株式をLPSが取得及び保有することが上限なく可能であったのに対し、外国籍の法人であれば、日本法人の子会社であっても、「外国法人」の発行する株式の取得として、投資金額(なお、投資約束金額ではない。)の50%未満の範囲でしか、投資が認められなかった。
しかしながら、今般の改正により、「事業者」という定義が、「法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)」とされ(LPS法第2条第1項。以下、下線部の外国法人を「日本法人等が支配等する外国法人」という。)、株式会社の発行する「株式」には、これらの日本法人等が支配等する外国法人が、当該外国の法令に従って発行する、「株式」に類するものが含まれることとなった。
これにより、例えば、日本人が設立したスタートアップであって、米国証券市場での上場を目指して、米国法人をホールディングカンパニーとする法人にも、LPSが投資を行うことが可能となった。
具体的には、政令では、「本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすもの」として以下の者が定められている。今般の同条項の改正箇所には下線を付した。つまり、日本人又は日本法人が議決権の過半数を有しているか(資本関係)、意思決定機関を支配しているか、又は取引等を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与えることができるか、という形式的・実質的な基準に拠っている。実際のところ、日本人が外国法人を創業し、その後株主が増えたとしても、当該株主の多くが日本法人であれば[6]、投資先となる当該外国法人は当該条件を充足し、上限無しにLPSの投資対象となりうることとなる。
第1条第1項 投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「法」という。)第2条第1項の政令で定める者は、外国法人のうち、次の各号に掲げる者のいずれかに該当する者とする。 ・ 本邦法人又は本邦人(以下この条において「本邦法人等」という。)により総株主又は総出資者の議決権の過半数を保有されている者その他本邦法人等により財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(次項において「意思決定機関」という。)を支配されている者として経済産業省令で定めるもの(以下この条において「子法人等」という。)(第1号) ・ 本邦法人等又は子法人等との間の売上高又は仕入高が売上高の総額又は仕入高の総額の100分の50以上である者その他本邦法人等又は子法人等が出資、役員その他これに準ずる役職への本邦法人等若しくは子法人等の役員若しくは使用人である者若しくはこれらであった者の就任、融資、債務の保証若しくは担保の提供、技術の提供又は営業上若しくは事業上の取引等を通じて、財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる者として経済産業省令で定めるもの(第2号) 第1条第2項 ・ 本邦法人等及び子法人等又は子法人等が他の者の意思決定機関を支配している場合における当該他の者は、その本邦法人等の子法人等とみなして、この条の規定を適用する。 |
従前のLPS法では、LPSによる合同会社の持分(社員権)の取得は認められなかったが、機関設計の柔軟性等を鑑みて合同会社として設立されるスタートアップ企業等の事業者も少なくないことから合同会社についても、LPSの投資対象となることとあった(上述のLPS法第3条第1項第1号、2号等)。
従前のLPS法では、LPSによる暗号資産への投資が認められていませんでしたが、上述のような議論を経て改正が実現され、今後は、事業者のために、事業者自身又は暗号資産取引所に委託して暗号資産を発行する場合など、特定の条件下において、LPSによる暗号資産への投資が認められる。
なお、今般の改正はあくまで「事業者のために発行される暗号資産」の取得及び保有を認めるものであり、すべての暗号資産が投資対象となるわけではないことには引き続き注意を要する。例えば、決済用の仮想通貨として一般的な、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、LPSの投資対象となる「事業者のために」発行されたものではないことから、LPSの投資対象には含まれないと思われる。
改正法の施行は、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」及び「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」と改正内容により異なっており、上述の①日本法人等が支配等する外国法人への投資に関する規定及び②合同会社への出資に関する規定は前者(即ち2024年9月7日まで)、③事業者のために発行される暗号資産への投資に関する規定は後者(即ち2025年6月7日まで)である。
留保事項
本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
本書は当事務所ウェブサイト用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。
創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀
(トークンに関する監修:斎藤 創、執筆協力:砂田 有史)
投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。これまで、LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことが、対象事業として許容されるかどうかが明らかでなかったところ、セキュリティトークンへの投資や、ブロックチェーンを利用した資産移転の処理が近年用いられつつあることを踏まえ、セキュリティトークンの取得や保有の対象事業への該当性等について、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417002/20230417002-1.pdf)という通知(以下「本通知」という。)が本年4月19日に経産省よりなされ、一定程度、この問題に対して取扱いが明確になった。本稿では、本通知の内容について説明する。
なお、LPSが暗号資産や一般的なNFT(注:セキュリティトークンではない)へ投資を行うことは対象事業として列挙されていなかったことから、認められないと解されている。これに対しては、以下のように問題点が指摘されてきた(本通知はこれを解決するものではない。)。
まず、前提として、LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号の解釈によって決まってくる。この点、上述のとおり、セキュリティトークンに関して対象事業に含まれるとする明文の定めは存在しない。
(1) 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有
(2) 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有
(3) 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[1]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有
(4) 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有
(5) 事業者に対する金銭の新たな貸付け
(6) 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有
(7) 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)
(8) 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業
(9) 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資
(10) 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの
(11) 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの
(12) 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用
本通知においては、主に以下の①から③の3つのことが明示されている。
まず、①LPSがセキュリティトークンを扱う事業を行う場合については、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の有価証券のうち、LPS法第3条第1項により、投資事業有限責任組合が取得及び保有が可能とされる有価証券[2]については、セキュリティトークンが、金商法上のいわゆるみなし有価証券の一つである「電子記録移転有価証券表示権利等」である以上、その取得及び保有も当然に対象事業となると整理することができるとされている。LPSが、セキュリティトークンを取得・保有することができることを改めて明確にしている。なお、本通知においては、「金融商品取引法(昭和23年法律第25号。)上の有価証券はブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合があり(いわゆるトークン化)、かかるトークン化した有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法第29条の2第1項第8号に規定する権利をいう。))を本通知ではセキュリティトークンと称する。」 と記載されており、ここで言うセキュリティトークンとは金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第1条第4項第17号、金商法第29条の2第1項第8号、業府令第6条の3)を意味している。
次に、本通知は、②LPSが、LPS法第3条第1項に掲げる事業のうち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等に投資を行う場合に、これらの資産を取得及び保有するにあたり、ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法でこれらの資産の移転に係る事務を処理しても、LPS法第3条第1項各号に掲げる事業の範囲内で組合契約を遂行するための業務執行と解することができる(LPS法第7条第4項に規定する「第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合」には当たらない)としている。すなわち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等がトークン化されたとしても、これを取得・保有することができることを改めて明確にしている。もっとも、例えば、NFT(Non-Fungible Token)は、主にイーサリアム(ETH)[3]のブロックチェーン上で構築できる代価不可能なトークンだが、NFTを譲渡しても著作権等が移転しない形式を利用していることも多く、NFTの取得・保有はLPS法の対象事業に該当せず、引き続きLPSがNFTに直接投資することは困難なのではないかと考えられる。
また、本通知は、③資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の電子決済手段(改正資金決済法第2条第5項、いわゆるステーブルコイン)及び暗号資産(資金決済法第2条第5項(資金決済法改正後は第14項))を取得・保有することは、現行のLPS法第3条第1項に掲げる事業のいずれにも該当しないこと、すなわちLPSでは、電子決済手段及び暗号資産を取得・保有することができないことを改めて明確にしている。上述のとおり、LPSが直接暗号資産に投資することができるようになるには、法改正を待つしかないということになる[4]。
話は異なるものの、近年LPS法をめぐる分野だと、LPSを用いたセカンダリーファンドが話題となってきている。セカンダリーファンドと言えば、個別の事業者が発行した株式を既存株主から譲り受ける場合だけではなく、既存のLPSのLP持分をLPSが買い集めるという手法も話題となっている。もっとも、LPSがLP持ち分を保有できる根拠はLPS法第3条第1項第9号となると思われるものの、同号は、「出資」(いわゆるプライマリー)のみを定め、他のLPS法第3条第1項各号のように「取得及び保有」(いわゆるプライマリーとセカンダリー)と定めていないことから、LPSによる既存のLPSのLP持分の取得が明確にされることが望ましいのではないかと考える。
[1] 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。
[2] なお、本通知によれば、「対象事業」には、①匿名組合契約の出資持分、②投資事業有限責任組合及び民法上の組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合に対する出資持分、③外国の法令に基づく権利であって②の組合に類似する団体に対する出資持分であって、金商法上有価証券とみなされないものへの出資も含まれる。ただし、これらの権利をブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転したとしてもそれはセキュリティトークンにはならない。この場合は、②の金銭債権等と同様の整理となると考えられる。
[3] ブロックチェーン・プラットフォームの名称及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称である。詳しくはhttps://ethereum.org/ja/を参照。
[4] 現状のプラクティスとしては、株式、新株予約権等のエクイティ投資を行うに際し、将来的にトークンの付与を受けることが可能な場合、投資家が指定するエンティティー(例えば新設の合同会社)でトークンを受領できる等とする形が多く見られる。当初からLPSが暗号資産やNFTに投資を行いたい場合、LPSが合同会社等を保有し、当該合同会社が暗号資産やNFTに投資をするスキームが考えられる。
2021年6月18日に公表された金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次報告(以下「審議会報告」といいます。)において、個人の特定投資家の要件の弾力化等について提言(審議会報告3-5頁)が行われたことを受けて、2022年6月29日に、個人の特定投資家への移行の要件等を見直す、金融商品取引業等に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(内閣府令第42号、以下「改正府令」といいます。)(かかる府令による改正後の、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)を「改正後業府令」といい、改正前のものを「改正前業府令」といいます。)が公布され、同年7月1日から施行されました。改正府令による改正後は、特定投資家に移行できる個人投資家の範囲が拡大されることになります。また、時期を同じくして施行される、日本証券業協会の「店頭有価証券等の特定投資家に関する投資勧誘等に関する規則」により、特定投資家向け非上場株式等の私募・私売り出しが可能となることから、ベンチャー企業の株式等非上場株式のセカンダリーマーケットが創出・拡大されることが一定期待されているところです。
以下、特定投資家の範囲に関する改正後業府令の内容等を紹介します。
特定投資家に移行可能な個人投資家の要件を定めるにあたり、一定の金融リテラシーやリスク耐久力を有することが推定される要素を勘案することが必要と考えられますが、改正前業府令では、一定の金融リテラシーやリスク耐久力を有することを推定する要素として、純資産額、投資性金融資産額及び取引経験しか掲げられていません。しかしながら、審議会報告によれば、金融リテラシーを推定しうる要素は、上記のほか、年収、職業経験、保有資格、取引頻度といった要素もあります(審議会報告4頁)。そこで、改正後業府令では、これらの要素も取り入れて、特定投資家に移行可能な個人投資家の範囲を以下の通りに拡大しています(改正後業府令第62条第1項各号)。
(1)の要件は、基本的に現行の移行要件(改正前業府令第62条)と同様ですが、(ハ)の点について改正がなされております。
すなわち、改正前業府令では、特定の金融商品取引業者との間の取引が基準となっていることから、たとえ他の金融商品取引業者との間で1年以上の取引経験があり、すでに当該他の金融商品取引業者との間では特定投資家に移行していたとしても、新たに取引する別の金融商品取引業者との関係では1年経過しないと特定投資家に移行できませんでした。しかしながら、取引経験については投資家ベースで評価すべきと考えられることから、他社での取引経験も勘案できるようにすべきとの審議会報告の提言(審議会報告5頁)を受けて、改正後業府令では当該申出をした金融商品取引業者等以外の金融商品取引業者等との取引経験の期間も合算することができるようになりました(なお、(2)(ロ)、(3)(ハ)及び(4)(ハ)も同様です。)。
また、(3)を充足することにより特定投資家とみなされることとなった申出者については、(3)の要件を充足しないこととなった場合でも、その知識及び経験に照らして適当である場合は、(3)に該当するものとみなすことが可能とされています(改正後業府令第62条第2項)。
上記1の改正で特定投資家への移行可能な個人投資家の範囲が拡大することにより、個人投資家による投資、とりわけ、ベンチャー企業等の非上場企業への投資は広がることになるのでしょうか。以下、資金調達が必要な企業(以下「資金調達企業」といいます。)自身が勧誘を行う場合と、証券会社が行う場合とに分けて検討します。
資金調達企業が株式の自己募集(自己株式の処分を含みます。)を行う場合、勧誘の相手が特定投資家のみであったとしても、50名以上となる場合には、適格機関投資家のみを相手方とする場合を除き、募集に該当してしまうため、有価証券報告書の提出が必要となります(金融商品取引法第4条第1項)。ベンチャー企業の場合、同種の株式発行の際に50名以上の投資家に勧誘を行うことはあまり想定されていないのではないかと思われますが、多数の個人投資家から資金を調達したいという場合に、50名という基準がネックの1つとなる可能性は考えられますので、選択肢を広げることにはつながるものと言えます。
なお、上記の勧誘対象者の人数は、従来は過去6か月間で通算することになっていましたが、2022年1月29日から施行された金融商品取引法施行令の一部を改正する政令により、3か月に短縮されています(改正後の金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号)第1条の6)。
日本証券業協会(以下「日証協」といいます。)は、協会員(証券会社)が非上場株式の勧誘を行うことを原則として禁止していましたが、2020年に店頭有価証券に関する規則(以下「店頭有価証券規則」といいます。)を改正して(同年12月1日施行)、自らの責任において企業価値評価等を行う能力を有することを協会員が認めた特定投資家に対する非上場株式の少人数向け勧誘等を行うことが可能となりました(店頭有価証券規則第4条の2)。ここでいう少人数向け勧誘等には、新規発行証券の取得勧誘と、既発行証券の取得勧誘、いわゆるプライマリーとセカンダリーの両方が含まれます。
しかしながら、一般投資家から移行した個人の特定投資家は、この規定により勧誘できる特定投資家には含まれませんので(店頭有価証券規則第4条の2第1項)、一般投資家から特定投資家に移行した個人投資家が企業価値評価等を行う能力を有していたとしても、証券会社は、この規定に基づいて、当該個人投資家に投資勧誘を行うことはできません。そのため、この規定は、個人投資家による投資拡大にはあまりつながらないものと思われます。
但し、日証協により、2022年4月1日に「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」(以下「特定投資家勧誘規則」といいます。)が制定され(同年7月1日施行)、特定投資家向け私募制度の整備等が行われることになりました。特定投資家勧誘規則では、特定証券情報(店頭有価証券の場合、証券情報として、新規発行有価証券等(発行数、内容等)、取得勧誘方法及び条件、手取金の使途、売付け有価証券(有価証券の種類、売付け価額の総額等)、売付の条件、事業等のリスク等、企業情報として、企業の概況、発行者の状況、経理の状況、株主の状況等。特定投資家勧誘規則第6条第3項、様式1)が投資勧誘の相手方に提供又は公表1されている場合は、特定投資家に移行した個人投資家も投資勧誘の対象となります(上述の場合と同様、プライマリーとセカンダリーの両方が含まれます。)。実際上、証券会社(第一種金融商品取引業者)が、非上場株式を取り扱うというビジネス判断をするか疑義もありますが、特定投資家勧誘規則は、前記1の改正後業府令とあいまって、個人投資家による投資の拡大につながる可能性はあるものと思われます。
2020年6月5日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し(施行日は公布の日(2020年6月12日)から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本年12月に向けて一度又は複数回に分けて施行が見込まれています。)、「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、その名称が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、新しく「金融サービス仲介業」が創設されました。これまで金融商品仲介、保険募集といったそれぞれの金融分野でサービスを提供していた事業者は、新制度のもとで、ワンストップでサービスを提供することができることとなります。このニュースレターでは、「金融サービス仲介業」創設の背景及び規制の概要について、解説します。
金融サービス仲介業は、1つの登録を受けることにより、複数の業種の金融機関(銀行、証券又は保険)が提供するさまざまな金融サービスをワンストップで提供することを可能とするものです。
想定されるビジネスモデルとしては、例えば、家計簿アプリを提供している事業者が、利用者に対して、家計簿アプリで蓄積された情報に基づいて、おすすめの投資信託、保険契約、ローン等を提案し、提携先の銀行、証券会社(第一種金融商品取引業)又は保険会社につなぐといったサービスを提供することが想定されています。また、クラウド会計ソフトを提供する事業者が、クラウド会計ソフトのユーザーである個人事業主、中小企業等に対して、クラウド会計ソフトに蓄積されたデータに基づいて、借入可能額、金利等の条件を試算した上で融資を受けることを提案し、提携先の銀行に紹介したり、福利厚生のための団体保険や事業リスク低減のための損害保険を提案したりするサービスも考えられています。2
そこで、銀行、証券会社又は保険会社が提供するさまざまな金融サービスをワンストップで提供を受ける機会を増やし、ひいては利用者が自身に適したサービスをより一層選びやすくする観点から、1つの登録を受けることにより、銀行、証券及び保険の複数の業種のサービスの仲介を行うことができる金融サービス仲介業が創設されました。
「金融サービスの提供に関する法律」(以下「改正法」といいます。)では、金融サービス仲介業とは、預金等媒介業務、保険媒介業務、有価証券等仲介業務、貸金業貸付媒介業務のいずれかを業として行うことをいうとされています(改正法11条)。それぞれの業務の内容は、概ね、以下の表1のとおりです。なお、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされています(後記3(2)参照)。また、金融サービス仲介業において想定されているビジネスモデルを踏まえると、金融サービス仲介業の業務に「代理」を認める必要性は乏しいとされたため、金融サービス仲介業においては仲介業ではあるもののその業務には「代理」は含まれないこととなりました(表1参照)3。
預金等媒介業務 | 預金等の受入れを内容とする契約の締結の媒介 |
資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介 | |
為替取引を内容とする契約の締結の媒介 | |
保険媒介業務 | 保険契約の締結の媒介 |
有価証券等仲介業務 (仲介先の金融機関は、第一種金融商品取引業若しくは投資運用業を行う金融商品取引業者又は登録金融機関) |
有価証券の売買の媒介 |
取引所金融商品市場又は外国金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引の委託の媒介 | |
有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は有価証券の私募等の取扱い | |
投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介 | |
貸金業貸付媒介業務 | 資金の貸付け又は手形の割引を内容とする契約の締結の媒介 |
金融サービス仲介業者は、様々なサービスを取り扱えるよう、特定の金融機関に所属することを求められていません(所属制の廃止)。そのため、利用者に損害が生じた場合に、特定の金融機関が損害賠償責任を負ってくれるわけではないことになります。そこで、利用者保護のため、取扱可能なサービスの制限、利用者財産の受入禁止、保証金の供託義務等の規制が設けられています。具体的には以下のとおりです。
(1)登録制の導入
金融サービス仲介業を行うには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があるとされ(改正法12条)、登録の申請手続及び登録拒否事由が定められました(改正法13条、15条)。
(2) 取扱可能なサービスの制限
顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスについては、金融サービス仲介業者は、取り扱うことができないこととされました。顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスの具体的な内容は政令で定められることになっていますが、2019年11月26日に行われた金融庁金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)においては、以下の表2のような検討がされました。
取扱可能(例) | 取扱不可(例) | ||
銀行 | 預金 |
普通預金 定期・積立預金 |
仕組預金 外貨預金 通貨オプション組入型預金 |
貸付 | 住宅ローン |
– |
|
送金 | 振込 |
– |
|
証券 |
国債・地方債 上場株式・上場企業社債券 投資信託・ETF(投資信託・ETFの中で商品を限定する必要はあるか) |
非上場株式・非上場企業社債券 デリバティブ取引 信用取引 |
|
保険 | 生命保険 |
終身・定期保険 個人年金保険 医療保障保険 介護保険(商品の特性に応じ、保険金額や保険期間によっても限定することを検討) |
変額保険・年金 外貨建て保険・年金 解約返戻金変動型保険・年金 |
損害保険 |
傷害保険 旅行保険 ゴルフ保険 ペット保険 (商品の特性に応じ、保険金額や保険期間によっても限定することを検討) |
(金融庁金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」(第5回)2019年11月26日付参考資料2頁参照)
(3)保証金の供託の義務付け
所属制を採用せず、仲介業者自らが賠償責任を負うことになる可能性があることを踏まえ、利用者に対する金融サービス仲介業者の損害賠償資力を確保する必要があることから、金融サービス仲介業者は、保証金を供託し、かつその旨を内閣総理大臣に届け出た後でなければ、金融サービス仲介業を行ってはならないとされました(改正法22条1項、5項)。保証金の額は、政令で定められることになっています(改正法22条2項)。もっとも、政令で定めるところにより金融サービス仲介業者が損害賠償責任保険を締結し、内閣総理大臣の承認を受けたときは、保証金の一部の供託が不要とされるようです(改正法23条)。
(4)利用者財産の受入れ禁止
金融サービス仲介業者のビジネスモデルとしては、顧客が様々な金融商品又はサービスを比較検討した上で顧客自身に適したものを選択できるサービスを顧客に提供することが想定されており、このような想定を踏まえ、金融サービス仲介業者がその事業運営上、利用者財産の預託を受ける必要性がそもそも高くないと考えられました4。そこで、利用者財産の受入れは禁止されることとなりました(改正法27条)。
(5)顧客情報の取扱い
金融サービス仲介業者は、取得した顧客の資産状況等の非公開情報を不適切に利用すると、顧客の保護に欠けるおそれがあります。そこで、その金融サービス仲介業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保することが求められます(改正法26条)。
(6)情報提供義務
顧客に適した同種の金融商品又はサービスが複数ある場合、金融サービス仲介業者は、顧客のニーズを無視して、金融機関から得られる仲介手数料の高い金融商品又はサービスを推奨する可能性や関係の深い金融機関の金融商品又はサービスを勧める可能性があります。そこで、顧客が金融サービス仲介業者の中立性を評価し、自身にあった金融サービスを適切に選択できるように、金融サービス仲介業者は、顧客から求められた場合は、顧客に対し、金融サービス仲介業者が受け取る手数料等の額を開示しなければならないとされました(改正法25条2項)。
また、金融サービス仲介業者は、その金融サービス仲介業務についての重要な事項の顧客への説明をすることが求められています(改正法26条)。顧客が自身にあった金融サービスを適切に選択できるようにする観点からは、「顧客本位の業務運営に関する原則」(平成29年3月30日金融庁)を踏まえ、金融サービス仲介業者には、仲介先の金融機関との間の委託関係又は資本関係の有無、金融商品・サービスの選定理由等についても顧客に対して情報を提供することが望ましいと考えられます。
(7) 仲介する金融サービスに応じた規制
また、金融サービス仲介業者が行う業務の種類に応じて、銀行法、保険業法及び金融商品取引法の規定が金融サービス仲介業者に準用されており(改正法29条、30条、31条)、以下のような規定が適用されることに注意が必要です。
①銀行分野の仲介 | 情実融資の媒介の禁止等 |
②証券分野の仲介 | 損失補填の禁止 インサイダー情報を利用した勧誘行為の禁止 顧客の注文の動向等を利用した自己売買の禁止等 |
③保険分野の仲介 | 顧客の意向の把握 自己契約の禁止 告知の妨害の禁止 不適切な乗換募集の禁止等 |