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創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス) 弁護士 佐藤有紀

(トークンに関する監修:斎藤 創、執筆協力:砂田 有史)

1.初めに

投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号。以下「LPS法」という。)では、「事業者への円滑な資金供給を促進し、その健全な成長発展を図り、もって我が国の経済活力の向上に資する」というLPS法の目的に基づき、LPS法第3条第1項において、投資事業有限責任組合(以下「LPS」という。)が行うことのできる事業(以下「対象事業」という。)が限定的に列挙されている。これまで、LPSがいわゆるセキュリティトークンへ投資を行うことが、対象事業として許容されるかどうかが明らかでなかったところ、セキュリティトークンへの投資や、ブロックチェーンを利用した資産移転の処理が近年用いられつつあることを踏まえ、セキュリティトークンの取得や保有の対象事業への該当性等について、「投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定される事業におけるセキュリティトークン等の取扱いについて」(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417002/20230417002-1.pdf)という通知(以下「本通知」という。)が本年4月19日に経産省よりなされ、一定程度、この問題に対して取扱いが明確になった。本稿では、本通知の内容について説明する。

なお、LPSが暗号資産や一般的なNFT(注:セキュリティトークンではない)へ投資を行うことは対象事業として列挙されていなかったことから、認められないと解されている。これに対しては、以下のように問題点が指摘されてきた(本通知はこれを解決するものではない。)。

2.LPSが投資できる資産

まず、前提として、LPS法上、LPSができる事業はLPS法第3条第1項において列挙されている。具体的には以下のとおりであり、LPSがどのような事業ができるかは、LPS法第3条第1項各号の解釈によって決まってくる。この点、上述のとおり、セキュリティトークンに関して対象事業に含まれるとする明文の定めは存在しない。

(1) 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有

(2) 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有

(3) 金融商品取引法第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令[1]で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有

(4) 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有

(5) 事業者に対する金銭の新たな貸付け

(6) 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有

(7) 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)

(8) 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業

(9) 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資

(10) 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの

(11) 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの

(12) 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用

3.本通知の内容

本通知においては、主に以下の①から③の3つのことが明示されている。

まず、①LPSがセキュリティトークンを扱う事業を行う場合については、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の有価証券のうち、LPS法第3条第1項により、投資事業有限責任組合が取得及び保有が可能とされる有価証券[2]については、セキュリティトークンが、金商法上のいわゆるみなし有価証券の一つである「電子記録移転有価証券表示権利等」である以上、その取得及び保有も当然に対象事業となると整理することができるとされている。LPSが、セキュリティトークンを取得・保有することができることを改めて明確にしている。なお、本通知においては、「金融商品取引法(昭和23年法律第25号。)上の有価証券はブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合があり(いわゆるトークン化)、かかるトークン化した有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法第29条の2第1項第8号に規定する権利をいう。))を本通知ではセキュリティトークンと称する。」 と記載されており、ここで言うセキュリティトークンとは金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第1条第4項第17号、金商法第29条の2第1項第8号、業府令第6条の3)を意味している。

次に、本通知は、②LPSが、LPS法第3条第1項に掲げる事業のうち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等に投資を行う場合に、これらの資産を取得及び保有するにあたり、ブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法でこれらの資産の移転に係る事務を処理しても、LPS法第3条第1項各号に掲げる事業の範囲内で組合契約を遂行するための業務執行と解することができる(LPS法第7条第4項に規定する「第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合」には当たらない)としている。すなわち、金商法上の有価証券には該当しない金銭債権、工業所有権、著作権、約束手形及び譲渡性預金証書等がトークン化されたとしても、これを取得・保有することができることを改めて明確にしている。もっとも、例えば、NFT(Non-Fungible Token)は、主にイーサリアム(ETH)[3]のブロックチェーン上で構築できる代価不可能なトークンだが、NFTを譲渡しても著作権等が移転しない形式を利用していることも多く、NFTの取得・保有はLPS法の対象事業に該当せず、引き続きLPSがNFTに直接投資することは困難なのではないかと考えられる。

また、本通知は、③資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の電子決済手段(改正資金決済法第2条第5項、いわゆるステーブルコイン)及び暗号資産(資金決済法第2条第5項(資金決済法改正後は第14項))を取得・保有することは、現行のLPS法第3条第1項に掲げる事業のいずれにも該当しないこと、すなわちLPSでは、電子決済手段及び暗号資産を取得・保有することができないことを改めて明確にしている。上述のとおり、LPSが直接暗号資産に投資することができるようになるには、法改正を待つしかないということになる[4]

4.その他

話は異なるものの、近年LPS法をめぐる分野だと、LPSを用いたセカンダリーファンドが話題となってきている。セカンダリーファンドと言えば、個別の事業者が発行した株式を既存株主から譲り受ける場合だけではなく、既存のLPSのLP持分をLPSが買い集めるという手法も話題となっている。もっとも、LPSがLP持ち分を保有できる根拠はLPS法第3条第1項第9号となると思われるものの、同号は、「出資」(いわゆるプライマリー)のみを定め、他のLPS法第3条第1項各号のように「取得及び保有」(いわゆるプライマリーとセカンダリー)と定めていないことから、LPSによる既存のLPSのLP持分の取得が明確にされることが望ましいのではないかと考える。

留保事項

  • 本書の内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上、合理的に考えられる議論を記載したものにすぎません。また、本書作成日現在の当職らの見解をまとめたものに過ぎず、当職らの見解にも変更がありえます。
  • 本書はBlog用に纏めたものに過ぎません。具体的案件の法律アドバイスが必要な場合には各人の法律顧問にご相談下さい。

[1] 投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第1条において、以下の有価証券が定められている。

  1. 金商法第2条第1項第3号に掲げる債券
  2. 金商法第2条第1項第4号に掲げる特定社債券
  3. 金商法第2条第1項第5号に掲げる社債券
  4. 金商法第2条第1項第6号に掲げる出資証券
  5. 金商法第2条第1項第7号に掲げる優先出資証券又は優先出資引受権を表示する証書
  6. 金商法第2条第1項第8号に掲げる優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
  7. 金商法第2条第1項第10号に掲げる受益証券
  8. 金商法第2条第1項第11号に掲げる投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券
  9. 金商法第2条第1項第12号に掲げる受益証券
  10. 金商法第2条第1項第13号に掲げる受益証券
  11. 金商法第2条第1項第15号に掲げる約束手形
  12. 金商法第2条第1項第9号若しくは前各号に掲げる有価証券又は次号に掲げる権利に係る同項第19号に規定するオプションを表示する証券又は証書
  13. 第1号から第11号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法第2条第2項の規定により、有価証券とみなされるもの

[2] なお、本通知によれば、「対象事業」には、①匿名組合契約の出資持分、②投資事業有限責任組合及び民法上の組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合に対する出資持分、③外国の法令に基づく権利であって②の組合に類似する団体に対する出資持分であって、金商法上有価証券とみなされないものへの出資も含まれる。ただし、これらの権利をブロックチェーン等の電子情報処理組織を用いる方法で移転したとしてもそれはセキュリティトークンにはならない。この場合は、②の金銭債権等と同様の整理となると考えられる。

[3] ブロックチェーン・プラットフォームの名称及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称である。詳しくはhttps://ethereum.org/ja/を参照。

[4] 現状のプラクティスとしては、株式、新株予約権等のエクイティ投資を行うに際し、将来的にトークンの付与を受けることが可能な場合、投資家が指定するエンティティー(例えば新設の合同会社)でトークンを受領できる等とする形が多く見られる。当初からLPSが暗号資産やNFTに投資を行いたい場合、LPSが合同会社等を保有し、当該合同会社が暗号資産やNFTに投資をするスキームが考えられる。

3月に自民党ブロックチェーン推進議連で、DAOと日本法について発表したのですが、その際の資料が役に立つかもと思ったので、掲載しておきます。
なお、その際の議論で気づいた点を踏まえて少し改訂しています。誤字を訂正、及びV番の参考表の部分を主として改訂したもの

DAO and Japanese Law from So Saito