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当職らは、別途「暗号資産規制の 2019 年改正について」というタイトルの論考を記述したが、セキュリティトークンオファリング(以下「STO」という。)に関して、今後、どのような方法での STO が認められるか等のご質問が多かったことから、今後の STO 規制について、以下のとおり検討する。改正の経緯、今後の想定スケジュールその他、暗号資産規制 2019年改正の全体像については前記書をご参照頂きたい。

Ⅰ 本稿の結論

現行の金融商品取引法(以下「金商法」という。)や金商法改正案の内容を考えると、電子記録移転権利たるセキュリティトークン(以下「ST」という。)に対する規制は、以下のようになるものと推察される。

なお、Ⅰに関する検討の詳細は、ⅡからⅤに記載する。

1. 業規制

(1) プライマリー

  募集・私募等の主体 募集・私募等の相手方 必要な登録・届出等
a ST 発行者 適格機関投資家

49名未満の富裕層に限定(*)
発行者において適格機関投資家等特例業務の届出が必要
b ST 発行者 a 以外の場合 発行者において第二種金商業の登録が必要
c ST 発行者以外の第三者 当該第三者において第一種金商業の登録が必要

(*) 認められない可能性もあるが、この方式が認められる可能性は高いと思われる

(2) セカンダリー

2. 開示規制

  募集・私募の区分 募集・私募等の相手方 開示義務
a 私募 適格機関投資家私募* 適格機関投資家に限定 通常無し
b 少人数私募* 49 名以下に限定
c 特定投資家私募 特定投資家に限定
d 募集 多数 有価証券届出書**
(その他、四半期報告書、臨時報告書等の継続開示についても留意する)

*   限定の方法については要検討
** 発行価格の総額が 1 億円未満の募集の場合、有価証券届出書(金商法第 4 条第 1 項第 5 号)の届出義務が免除される

3. 当職らの考え

上記は、あくまで現状の金商法改正案を前提した当職らの予想に過ぎないが、今後は、まず、規制が緩やかな方式から、具体的には、①発行者自らが、少人数(但し、適格機関投資家を 1 名以上入れる)に限定して募集を行う方法(1(1)a‐2b方式)、又は②発行者が第三者に対し適格機関投資家私募を委託する方式(1(1)c‐2a方式)から、ST の取引が進展するのではないか、と思われる。

その後、徐々に、発行者が第三者に委託して ST の募集を多数の者に対し行う方式(1(1)c‐2d 方式)による取引についても行われることになろう。

Ⅱ セキュリティトークンと電子記録移転権利

1. 電子記録移転権利の該当性

<電子記録移転権利の定義>

下記の①~③を満たし、④を除く権利
① 金商法第 2 条第 2 項各号に掲げる権利(ファンド、信託受益権、合名合資合同会社の社員権など)
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合
③ 電子機器その他の者に電子的方法により記録される場合
④ 流通性その他の事情を勘案して内閣府令に定める場合

電子記録移転権利に該当する場合には「第 1 項有価証券」となる。
他方、非該当の場合には従前どおり「第 2 項有価証券」となる。

なお、現行の金商法上、株券、社債券、投信の受益証券等の第 1 有価証券に表示される権利は、券面が発行されない場合(ペーパーレスの場合)においても有価証券とみなされ(金商法第 2 条第 2 項前段)、かつ第 1 項有価証券として整理される(同条第 3 項柱書)。
→ 株券等の有価証券トークン化した場合、現行の金商法下においても、上述のとおり第 1 項有価証券として整理されるため、電子記録移転権利の定義には含まれないと思われる。

また、ブロックチェーンの利用方法によっては、そもそも上記②「財産的価値に表示される場合」に該当しないという考えもありうる。
→ 例えば、単に、ファンドの権利者が誰であるかをブロックチェーン上で管理するが、権利者は秘密鍵を管理せず、ブロックチェーンの書換えはファンド運営者が行う場合、上記②の「表示される」に該当しないのでは、と思われる。

どのようなトークンであれば除外規定に該当するのかは、金商法改正案上、不明である。
→ トークンの流通性が技術的に制限されている場合、上記④の除外事由に該当する可能性がありうるが、そもそも内閣府令でどのような考え方がなされるか今のところ不明である。

2. 「暗号資産」の定義との関係

資金決済法改正案の暗号資産の定義から「電子記録移転権利」は除外されている。
→ 上記 1(1)④の要件により電子記録移転権利に該当しないものについては、理論上、金商法の規制に加えて資金決済法の規制が重畳的に適用されうる。他方、上記 1(1)④の要件に該当する場合には、流通性がなく、資金決済法改正案上の暗号資産の定義にもそもそも該当しない、という考え方もありうる。今後、改正が予定される内閣府令、及び暗号資産の定義の解釈次第と思われる。

以下、本稿では ST が第 1 項有価証券になる場合を前提として検討する。

Ⅲ セキュリティトークンの開示規制

1. 第 1 項有価証券の募集に係る開示規制

現行の金商法上、第 1 項有価証券の募集に該当する場合、原則、発行開示(例:有価証券届出書1、目論見書等)、継続開示(例:四半期報告書、臨時報告書等)等の公衆縦覧型の開示規制が課せられる。

電子記録移転権利たる ST の募集に該当する場合に、如何なる情報を開示するかについては、今後改正される内閣府令に規定される予定である(なお、一般的に開示書類の作成には、かなりの手間を要する。)。

他方、第 1 項有価証券の私募に該当する場合には、公衆縦覧型の開示規制は課せられていない。

2. 第 1 項有価証券の募集・私募の概念

募集(公募2)
新たに発行される有価証券の取得の申し込みの勧誘のうち
(i) 多数(50 名以上3)の者を相手方とする場合
(ii) 私募に該当しない場合

私募
(i) 適格機関投資家のみを相手方とする場合(適格機関投資家私募)
(ii) 特定投資家のみを相手方とする場合(特定投資家私募)
(iii) 少人数(50 名未満)の者を相手方とする場合(少人数私募)

3. 第 1 項有価証券の「私募」に該当するための要件(転売制限要件)

(1) 適格機関投資家私募

「取得勧誘において適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合」という要件(転売制限要件、金商法第 2 条第 3 項第 2 号イ)を満たす必要がある。転売制限要件は、有価証券の種類によって異なるが、例えば、株券等・新株予約権等以外の有価証券(以下「その他の有価証券」という。)として整理される場合(金商法施行令第 1 条の 4 第 3 号参照)、以下のような転売制限を付す必要がある(金商法施行令第 1 条の 4 第 3 号ハ、定義府令第 11条第 2 項等)

定義府令第 11 条第 2 項
2 令第一条の四第三号ハに掲げる内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げるいずれかの要件に該当すること。
イ 当該有価証券に転売制限が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
ハ 社債等振替法の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。

適格機関投資家私募の転売制限に違反して適格機関投資家以外の者に転売される場合には、「発行者」に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 2項本文参照)4

(2) 特定投資家私募

特定投資家私募の要件についても転売制限要件が存在し5、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ロ、金商法施行令第 1 条の 5 の 2 第 3 号、定義府令第 12 条)。

特定投資家私募の転売制限に違反して特定投資家等以外の者に転売される場合には、発行者に有価証券届出書の提出義務が課される(金商法第 4 条第 3 項本文参照)6

(3) 少人数私募

少人数私募についても転売制限要件が存在し、当該要件は有価証券の種類に応じて定められている(金商法第 2 条第 3 項第 2 号ハ)。

株券等についてはそもそも転売方式の制限がない

他方、新株予約権等やその他の有価証券については①一括譲渡方式(一括して他の位置の者に譲渡する場合以外の譲渡禁止)、又は②有価証券の枚数又は単位の総数が 50 未満である場合において、当該有価証券の性質によりその分割ができない旨若しくは当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限が必要となる(金商法施行令第 1 条の 7 第 2 号ハ、定義府令第 13 条第 3 項等)。

定義府令 13 条
3 令第一条の七第二号ハ(3)に規定する内閣府令で定める要件は、次の各号に掲げる要件に該当することとする。
一 次に掲げるいずれかの要件に該当すること。
イ 次に掲げるいずれかの制限(以下この号において「転売制限」という。)が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
(1) 当該有価証券を取得し、又は買い付けた者がその取得又は買付けに係る当該有価証券を一括して譲渡する場合以外に譲渡することが禁止される旨の制限
(2) 当該有価証券の枚数又は単位の総数が五十未満である場合において、当該有価証券の性質によりその分割ができない旨又は当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
ハ 社債等振替法の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。

少人数私募の転売制限に違反して多数の者に転売された場合であっても、有価証券届出書の提出義務は課されない(金商法第 4 条第 2 項、第 3 項参照)7

(4) 電子記録移転権利たるセキュリティトークンの場合

ST が現行の金商法施行令・内閣府令等における“その他の有価証券”として整理され、当該有価証券と同様の転売制限要件を課すことは考え得る(その場合は、上記(1)乃至(3)と同様の要件となる。)。

他方、ST については、現行の転売制限要件のほか、追加で何らかの技術的制約が必要とされる可能性もあり得る。

いずれにせよ、今後改正される予定の内閣府令を確認する必要がある。

(5) 実務上の検討事項・疑問点等

ST の場合において、どのように取得勧誘の相手方を少人数、適格機関投資家等に限定するか。

①日本では適格機関投資家私募として販売、海外では海外における適格機関投資家に限定して販売することができるか(おそらく可能と思われる。)、②①について如何なる方法によるか(従前の株式発行の場合と同様の方法で可能か。)。

また、日本で適格機関投資家私募・少人数私募として販売し、その後に海外の取引所では完全に自由に転売できるとした場合、どうなるか(海外の取引所で日本居住者が売買を行うと、発行体が開示違反になるか。)。

Ⅳ セキュリティトークンの取扱いに関する業規制

1. 電子記録移転権利の募集の取扱

業として電子記録移転権利の売買、売買の媒介等、募集・私募の取扱い等を行う場合には、以下のとおり、第一種金融商品取引業(例:証券会社等と同様の資格)の登録が必要となる。

第 28 条 この章において「第一種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 有価証券(第 2 条第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項第 2 号及び第 64 条第 1 項第 1 号において同じ)を除く。)についての同条第 8項第 1 号から第 3 号まで、第 5 号、第8 号又は第 9 号に掲げる行為一の2 (以下省略)

[第 2 条第 8 項 1 号から第 3 号まで、第 5 号・第 8 号・第 9 号につき以下抜粋]
一 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、市場デリバティブ取引(金融商品(第二十四項第三号の二に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係る市場デリバティブ取引(以下「商品関連市場デリバティブ取引」という。)を除く。)又は外国市場デリバティブ取引(有価証券の売買にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
二 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)又は代理(有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理にあつては、第十号に掲げるものを除く。)
三 次に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理
イ 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引
ロ 外国金融商品市場(取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するものをいう。以下同じ。)における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引
五 有価証券等清算取次ぎ
八 有価証券の売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等
九 有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い

第一種金融商品取引業の範囲から金商法第 2 条第 2 項のみなし有価証券に係る各行為が除外されているが、当該除外規定から電子記録移転債権が除かれている除外の除外。

2. 電子記録移転権利の自己募集・私募

(1) 業規制の概要

現行の金商法上、株式や社債等の自己募集・私募業規制は存在しないが、集団投資スキーム持分の自己募集・私募については、以下のとおり業規制が存在する(金商法改正案において変更がない。)。

第 28 条 (1 項省略)
2 この章において「第二種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
一 第 2 条第 8 項第 7 号に掲げる行為
二 (以下省略)

[第 2 条 8 項第 7 号につき抜粋]
この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為・・・・のいずれかを業として行うことをいう。
七 有価証券(次に掲げるものに限る。)の募集又は私募
ヘ 第 2 項の規定により有価証券とみなされる同項第 5 号又は第 6 号に掲げる権利
ト イからヘまでに掲げるもののほか、政令で定める有価証券

[第 2 条第 2 項第 5 号・第 6 号につき抜粋]
五 民法・・・に規定する組合契約、商法・・・に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律・・・に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律・・・に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭・・・を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
(省略)
六 外国の法令に基づく権利であって、前号に掲げる権利に類するもの

→ 金商法改正案上、集団投資スキーム持分をトークン化した場合でも、金商法第 2 条第 2 項第 5 号・6 号との関係では依然として集団投資スキーム持分に該当する。したがって、集団投資スキーム持分に係る自己募集・私募の業規制、すなわち第二種金融商品取引業の規制が適用されると思われる。

(2) 実務上の検討事項・疑問点等

集団投資スキーム持分の自己募集・私募には、適格機関投資家等特例業務8が認められているが、ST についても同様に認められるか。
→ 特に変更なく認められるようにも思われるが、第 1 項有価証券としての ST に特定業務が認められるかについては今のところ不明である。

仮に特例業務が認められる場合、どのような制限により、適格機関投資家の範囲を限定すれば良いのか不明である。

Ⅴ セキュリティトークンのセカンダリー取引に関連する規制

ST のセカンダリー取引に関して、当該トークンの売買の媒介を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要となる(金商法第 2 条第 8 項第 2 号、第 28 条第1 号)。

ST のセカンダリー取引に関して、「板取引」等の取引所を設置する場合、その態様により、金融商品市場の免許(金商法第 2 条第 14 項、第 80 条第 1 項)、又は私設取引システムに該当するものとして PTS 業務の認可(同法 第 80 条第 2 項、第 2条第 8 項第 10 号、第 30 条第 1 項)を受けることが必要になると思われる。
→ 現実的にはこれらの免許・認可取得は困難であり、また、PTS 業務については、取扱銘柄や取引方式に相応の制限がある。いずれにせよ取引所形式でのセカンダリー取引は実現困難と思われる。
→ このため、当初は、いわゆる店頭取引にて、金融商品取引業者がビッドプライス・オファープライスを提示して ST を販売する「販売所形式」でのセカンダリー取引になるのではないか、と推察される。

参考 金融商品市場

[金商法第 2 条第 14 項の抜粋]
14 この法律において「金融商品市場」とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう。

参考 PTS 業務

[金商法第 2 条第 8 項第 10 号の抜粋]
十 有価証券の売買又はその媒介、取次ぎ若しくは代理であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として次に掲げる売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行うもの(取り扱う有価証券の種類等に照らして取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場(第六十七条第二項に規定する店頭売買有価証券市場をいう。)以外において行うことが投資者保護のため適当でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)
イ 競売買の方法(有価証券の売買高が政令で定める基準を超えない場合に限る。)
ロ 金融商品取引所に上場されている有価証券について、当該金融商品取引所が開設する取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を用いる方法
ハ 第六十七条の十一第一項の規定により登録を受けた有価証券(以下「店頭売買有価証券」という。)について、当該登録を行う認可金融商品取引業協会が公表する当該有価証券の売買価格を用いる方法
ニ 顧客の間の交渉に基づく価格を用いる方法
ホ イからニまでに掲げるもののほか、内閣府令で定める方法

VI その他

金商法改正に関連して以下のような質問を受けた。なお、今回の改正はあくまで業法の改正であり、ST の私法上の位置づけ、発行手続きその他関連規定に直ちに影響を及ぼす訳ではない。

1. セキュリティトークンの移転の方法と私法上の有効性

匿名組合契約その他ファンド上の地位をトークン化して、トークンの移転によって、匿名組合契約上の地位を自由に移転できるか。

日本の民法上、契約上の地位の移転には、地位の譲渡人及び譲受人の合意と契約の相手方の承諾が必要となる。この点は改正法で何らの変更はなく、トークンの移転によって権利が自動的に移転する、ということが可能かはあくまで今後の解釈による。なお、実務上は何法を準拠法にするか、私法上どのような権利を有するかについては Code is Law として明確には規定しない対応になるのでは、と思われる。

2. セキュリティトークンの会社法上の発行手続き

会社法上の ST の発行手続きはどうなるか。
ST は、株式ではなく社債でもなく9、これらに対する会社法の発行手続規制がそのまま当てはまる訳ではない。匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、株主総会の決議は必要ではなく、但し、重要な業務執行であり取締役会の決議(会社法第 362 条第 4 項柱書)を経ることが妥当とは思われるが、今後の解釈による。

3. セキュリティトークンの税務上の取扱い

匿名組合その他ファンドの権利をトークン化したものである、と考えれば、ファンドと同様の取扱いになるのでは、と思われるが、税務専門家との協議が必要である。

4. 既存株主への説明義務

会社法上、既存株主に対して特段、説明義務等が求められる訳ではない。但し、穏当な経営という観点からは既存のステークホルダーの権利を害さないトークン組成が必要であろう。

5. 上場会社の適時開示

上場会社が ST を発行する場合、金融商品取引所における適時開示についても留意が必要である。いかなる情報を開示すべきかについては、適宜、各金融商品取引所と調整する必要があるだろう。

以 上