米バーモント州のブロックチェーン法案について

2016.06.17

旧聞に属しますが米国バーモント州でブロックチェーンに証拠能力を認める法律案が成立まじか、という報道があります。

「ブロックチェーン『証拠能力あり』と認める法律が可決間際に=米バーモント州」
Vermont is Close to Passing a Law That Would Make Blockchain Records Admissible in Court (http://btcnews.jp/vermont-approve-blockchain-as-admissible/)

上記についてどういうものなのかを何人かに聞かれ、かつ個人的にも興味があったのでこういうものではないかというものを書いておきます。

[前提知識]

  1. アメリカでは日本と違って陪審制であることもあり、法廷に証拠として提出できるものが非常に細かく証拠法のルールで決まっています。
  2. 証拠法は連邦や各州レベルで異なります。ただ、例えば Extrinsic Evidence(外因性の証拠)については Authenticity(真偽)を明らかにしてからではないと提出できません。連邦証拠法では知識ある証人によってそれが Authentic であることを証明しろ等とあるようです。
  3. これに対して日本では少なくとも民事訴訟では証拠は何でも提出できます。証拠としては提出できるが偽造である/信頼できない等は提出した後に争うということになります。

[今回の Bill の内容]

  1. ブロックチェーンの定義として、a mathematically secured, chronological, and decentralized consensus ledger or database, whether maintained via Internet interaction, peer-to-peer network, or otherwise と定義
(仮約) インターネットの相互作用、ピア・ツー・ピアネットワークまたは他の方法により維持される、数学的に保護され、時系列に従い、かつ分散型であるコンセンサスレッジャーまたはデータベース
  1. 以下の「推定」を行う。
    ① 有効なブロックチェーン技術の適用により検証された事実又は記録は真正 (authentic)である
    ② 当該ブロックチェーン上の事実や記録に付された日時については当該事実又は記録がブロックチェーンに加えられた日時である
    ③ 当該記録を作成した者とブロックチェーンに記録された者は、当該記録の作成者である
  2. 「推定」は事実や記録の「内容」の真実性、有効性、法的性質には及ばない
  3. 上記2の推定を打ち破るための証拠を提出する負担は、当該推定に反対する者が負う
  4. 本章で適用される「推定」は以下のような点にも及ぶがこれらに限られない
    ① 契約者、契約条項、契約の締結、契約締結日、状態
    ② 金銭、動産、契約、証書及び他の法的権利及び義務の、所有権、譲渡(assignment negotiation)、移転
    ③ 如何なる者についての本人性、参加、組織の状況、マネージメント、記録の保存、ガバナンス
    ④ 私的取引又は政府との取引についての本人性、参加、相互作用の状況、参加
    ⑤ 公的なものであれ私的なものであれ、記録の完全性
    ⑥ コミュニケーションについての記録の完全性
  5. 本章の規定は、以下のようなものを作成又は否定するものではない
    ① 本章に規定する如何なる目的のためにせよ、ブロックチェーン技術を使用する義務
    ② その実行や情報がブロックチェーン技術を使用して認証されている特定の活動についての法的有効性や官公庁による許認可

[感想]

  1. 証拠法的には、日本だと民事訴訟ですと証拠としては何でも提出できますので、今回のような条文は必要ありません。その意味では米国特有であるとは思います。
  2. しかしながら、本案ではブロックチェーンの定義がされ、また、どのような推定が及ぶかが詳細に規定されており、かつスマートコントラクトや権利の移転などについても目配せされており、非常に先進的な法案だと思います。もしこれが通れば世界でも一番早くブロックチェーンについて触れた法律になるのかもしれません。
  3. 日本でも刑事事件でブロックチェーンを証拠として使用したい場合(があるかはともかく)、少し考える必要があります。
  4. 本法案はあくまで証拠法のルールですが、日本でも契約、権利の移転(債権、不動産、動産、仮想通貨)、公的認証、私的認証(本人確認)、その他にブロックチェーンを利用した場合、または利用したい場合に法的に考えなければならない点は多数あります。
    ブロックチェーンは実証実験段階のものが多いですが、今後の実証実験の際には、その内容によってはこれらの点も考えていかないといけません。